「ああ…、教育って素晴らしい……」
「ちょっと、唐巣神父~!! 今の状況分かってますか~~!!!」
家無き子の新たな道・第二話
「はて? ワシもこの学校に10年以上居るが…。
あんな机あったかのう?」
今日は葉塊(ようかい)高校入学式。
それが終わったら各クラスに分かれて恒例の自己紹介。
それが始まらないクラスが一つ、理由は横島のごく普通の質問だった。
それは何故か横島の席の机だけが何故か古いこと。
別に汚れてる訳でも表面が削られてる訳でもない。
ただ純粋に古いと感じてしまう。
完全に木製の造りだからだ。
「まあいい、他に皆と同じ机があったはずだからとってこよう。
横島も付いて来い」
「分かりました」
机交換のため教室を出た担任の中尾先生、後に続こうとする横島、変わった机を見ているその他のクラスメート達。
そして机から明らかに人の者とは思えない手が出てきて横島の腕をつかんだ。
ズリュ… ガシ!!
「へ!?」
ずぽっ!!
……………………。
………………。
…………。
……。
教室は静まり返り、ある一人のメガネをかけた少年Aによってそれは破られた。
「よ、よ、よ、妖怪だーーー!!!」
「きゃー!!」 「うわー!!」 「た、助けてーー!!」
一方その頃唐巣神父はというと…。
「ふむ、割と大きな学校だね。」
横島の入学式に参列した後まだ残っている他の保護者に混じって学校の中を歩いていた。
「さてと、そろそろ帰ろうかな。」
教会に帰る前に商店街での買い物は入学祝いに少し贅沢をしようか…、
などと考える神父の前に机を持った老先生が向かって来た。
「どうかなさいましたか?」
「おや? こんなところで神父様に会うとは。
いえ、うちのクラスの横島の机がおかしくて」
「横島君…、ですか?」
「ええ、どうにもこの学校で見た記憶が無いぐらいの古い造りで…。
それにしても横島の奴め付いて来いと言ったのにワシ一人に持たせおって」
唐巣神父は少し考え込み。
「すみませんその教室に案内してもらえますか?」
「ん? ああ、いいよ」
「ありがとうございます」
そして唐巣神父が机を持ち、中尾先生が椅子を持って教室へと急ぐのだった。
再び横島に場面は戻る。
「う…、うーん…。な、何が起こったんだ…!?」
床に倒れていた横島は目を覚まし、起き上がって周りを見渡した。
そこはもうだれも人が使った形跡が全く感じられない教室のようだった。
「!? ど、どこだここ!!?」
「ここは妖怪のお腹の中よ」
横島以外誰も居ないはずの教室に女の声が響いた。
ゆっくりと声の方に顔を向ける横島。
そこに居たのはセーラー服に黒いロングヘア、キリッとした顔つきの委員長タイプの女の子だった。
「だ、誰!? っていうか妖怪の腹の中って!!?」
「私の名は愛子。 妖怪の件は…、そこの窓を覗いて見て」
言われるままに窓から外の景色を見る横島、そして固まった。
窓の外はまごう事なき異界の景色だったからだ。
「どう? 分かったかしら?」
「う…」
「へ?」
「うわああああーーーーー!!」
半狂乱で教室を飛び出す横島。
しかし廊下にでた所で愛子の強烈なスライディングを受けてぶっ倒れた。
「『廊下は走らない!!』そんな基本ルールも守れないのあなたは!!」
「す、すんません!!」
いきなりの愛子の形相変化でつい頭を下げる横島。
それを見た愛子はため息をつき。
「まあいいわ新入生だし。でも次からはしちゃダメよ。
それじゃあ皆の所に行きましょ。」
愛子は横島の手を引っ張り廊下を進むのであった。
そしてしばらく行くと一人の男が立っていた。
「おや、お帰り委員長。かれが新しい生徒かな?」
「ええ、そうよ高松君。」
「初めまして僕が副委員長の高松だ、よろしく」
「よ、横島っス。よろしく」
すっと差し出された手を握り返して横島も挨拶してしまう。
「それじゃあ仲間に紹介しよう!」
「はい、よろしくお願いします!!」
何故か元気よく挨拶する横島、教室に入ってからの自己紹介で皆に好感を持たれ。
すっかり馴染んでいくのだった。
その頃再び唐巣神父はというと。
「見えてきました。あの教室です。なにか騒がしいようですが…。」
「(やはり妙な気配を感じる。まさか横島君が!)」
中尾先生の案内で1―5に近づくにつれ唐巣神父の霊感は警鐘を鳴り続けている。
「お~い、なにを騒いどるんじゃ?」
「せ、先生!! 実は机の手から横島がパクりんちょで…!!!」
教室に入って来た担任を見た少年Aは取り乱しながらも説明した。
あんまり伝わって無い様だが…。
そして続いて教室に入ってきた唐巣が。
「その机と言うのは今どこに?」
「え!? それならそこに……。な、無い」
「いやさっきまでそこに在ったろ」
「どこに行った!?」
どうやら机は皆がちょっと目を離した隙に皆の目から消えてしまったらしい。
しかし唐巣神父は目をつぶって気配をうかがった。
そして…、
「危ない!!」
天井に張り付いていた机は中尾先生向けて舌を伸ばして来たがそれをかばい。
神父も妖怪に飲み込まれてしまうのだった。
再び妖怪の中
「では、今週の目標! 『掃除をさぼ ぱっ!! 」
「ここは?」
「し、神父!?」
「横島君! よかった無事だったんだね」
横島の無事が確認できて安心する神父にクラスの皆が集まってきた。
「先生!!」 「先生―――っ!!」
「え、先生? 私が?」
「やっと来て下さったのですね。学級委員長としてクラスを代表して歓迎します!!
ああ…、やっとこの学校にも教師が授業が………」
「よ、横島君。どうなってるんだね!?」
いきなり泣きだしたミカン生徒達に唐巣ビックリ!
…な訳で横島に問う事にし。帰って来たのは、
愛子がここの古株で32年だの。
それからどんどん来た生徒達と協力して学園生活を送ってきただの。
学生ばかりでHRしか出来なかっただの。
ずっと教師が現れるのを悲願していただの。
横島がこっちで得た情報(クラス内のお喋り)だった。
「なるほど………。よし分かった早速授業を始めよう。」
「ちょっ! 神父!! ここから出るのはどうするんっスか!」
「大丈夫だよ、私に任せたまえ」
ヒソヒソと喋って遂に授業が始まった。
教科は神父らしく道徳の授業だった。
「…であるからしてクリケットは泣きながら叫んだのだった」
「「「うっうっ」」」<泣>
「…そして三匹のゾウは死んでしまったのです」
「「「うお~ん」」」<大泣>
「さて、今回の授業はここまで」
「起立! 礼、ありがとうございました!「「「ありがとうございました!!」」」 着席」
授業が終わって教室を後にする神父を横島は追って行った。
「し、神父…」
「やあ横島君。 ああ…、教育って素晴らしい……」
「ちょっと、唐巣神父~!! 今の状況分かってますか~~~!!!」
「勿論さ!! ここには女の魅力を私の家でアピールしまくるハチャメチャな弟子も!!除霊に法外な値段をつけまくるメチャクチャな弟子もいない!!!
ここの生徒は皆、優しい私の生徒だよ」
何か溜まってると感じた横島は、
(今度酒でも飲んでた時は愚痴の一つも聞いてあげよう!!)
と心の底から思った。
そして次の授業の時間が始まった。
「それでは次の授業に入る前に少しお話をしよう…。
皆はこのクラスの皆が好きかい?」
「当然です先生!」
唐巣に答えたのは愛子だった。
「そうか…。だったら皆を解放するんだ」
「えっ!?」
「この学校の主である机の九十九神、それが君の正体だろ」
「な、何を…!」
「ここは君の学校という箱庭そしてクラスの皆は人形だろう」
「に、人形だなんて!! 皆私が取り込んだちゃんとした人間よ!!」
「やはりか…」
「し、しまっ…!!」
教室は静まりかえっている。むろん横島も呆然としている。
いきなり妖怪の正体がわかったからだ。
「愛子君、君の好きは自分の物を大切にする好きだ。
このまま皆を操っていてもいつか自分の孤独を突きつけられるだけしかない。
私は君にそんな思いをして欲しくない」
「な、何故…」
「君が私の生徒だからだよ」
少し振るえ、俯きかけだった愛子がサッと顔を上げた。
「君は私の生徒だ、どから私は決して見捨てないし離れても行かない。
だから皆の洗脳は「待ってください!!」」
唐巣の声を破ったのは副委員長の高松だった。
「…愛子君が僕達に正体を隠してたのが悪いのなら僕ら皆同罪です。
だって………、僕ら皆愛子君の正体が分かってて黙ってたんですから!!」
「「「えっ!!」」」
その言葉に驚いたのは横島・唐巣・愛子の三人だった。
「そ、それじゃあアンタらなんで!?」
「それは横島君、我々が不登校者だったからだよ」
「なっ!」
「我々は皆、シカト・イジメ・体罰、その他諸々の事情のある者ばかりだ。
だがそれでも我々は学校に行きたくないわけじゃなかった!!
むしろ行きたい方だった…。そんな思いが愛子君を呼んだのだろう」
「え! じゃあ俺は?」
じゃあ何で俺はここに居るのかという横島の疑問は誰も答えず話は進む。
「だから愛子君、君は一人じゃないだって僕達の友情は本物だったんだから!!」
「み、皆…!? 皆、私を許してくれるの……!?」
「君は許されなければいけない事なんてなにもない!!
それに君が罪悪感を持っていると言うのなら皆で持とう。
だって…僕達仲間じゃないか!!!」
「あ…、あ…! ごめんなさい…!! ごめんなさい…!! 私…、私…!!」
「先生、これでいいんですよね!? 僕達間違っていませんよねっ!?」
愛子を中心に泣きだすクラスメート達、そして唐巣は…。
「君達…、君達は私の最高の生徒だよ!!」
「「「「「先生ーーー!!!」」」」」
「……………俺はどうしたらいいんでしょ?」
キーン コーン カーン コーン ♪
「これは…」
「卒業の鐘」
「そうか、皆ともお別れか…」
「そうだな、今度は生まれ変わったらどこでもいい。
このメンバーで桜の木の下に集まろう」
「ああ、そうだな。きっと…。
それじゃあ愛子君………。君の事、好きだったよ」
高松の最後のセリフと共に世界が輝き横島・唐巣・愛子は元の葉塊高校1―5の教室に帰って来た。
その夜学校から帰って今は教会である。
「しかし、ビックリしたっスね。
まさか愛子が俺のクラスメートになるなんて」
「そうだね、中尾先生が校長先生達に許可を取ってくれたらしいし。
とりあえずめでたしめでたしだ」
「けどよかったんスかね愛子の事…」
横島の言いたい事が何となく分かったのか唐巣は答えた。
「…横島君。私はこう思うんだ。
人と妖は共存できる。そしてその手助けをするのが我々ゴーストスイーパーなのだと」
「へ!?」
唐巣はコーヒーを飲み終え、笑いながら話しかけた。
「それじゃ、私はもう寝るとしよう。おやすみ横島君」
自分の部屋へ戻る男の背を見て少年は何を思ったのだろうか?
なにはともあれ波乱の入学式はその1日をとじるのであった。
なぜかシリアスが多くなってしまった。
だが次は無い! なぜならとんでもない男が教師役で出てくるからだ。
ではさようなら。
レス返し
>パチモン様 最初から読んでいただいてる様でありがとうございます。
より一層がんばりますのでよろしくお願いします。
>星の影様 今回は言われた事に気をつけて書いてみましたがどうでしょう?
また言ってもらえたら嬉しいです。
>xinn0様 今回も感想ありがとうございます。
はっきり言えば虎も伊達出ます、むしろもっと出て横島と神父に影響与えまくりになります。
特に神父の頭部に。
名前の方修正しておきました、まことに申し訳ございません。
>ZEROS様 二度目の感想ありがとうございます。
今回は神父の髪は大丈夫でした。そう、今回は…。