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「ケモノの王子とムシの姫 ぷろろーぐぅ(GS+オリジナル要素含む)」

センター (2008-03-03 06:39/2008-03-03 19:52)
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 忠夫は長年家族と一緒に暮らした家を忘れまいと、青い屋根の家を、隅々まで見渡した。
 広い敷地、大きな庭、立派な玄関、父と母、自分と妹とで暮らすには、少々大きすぎる建物。
 でも、忠夫にとってはそれが広すぎるだとか、そういう感覚はあまりなかった。
 何故なら此処は、彼の家なのだから。始めから恵まれていた彼は、少々感覚がずれているようだ。

「銀ちゃんはこの家のこと、すごい大きいて言ってたけど……」

 確かに忠夫の眼で見ても、周りの家と比べて随分と差があるのは良く解る。
 それこそ今ではすっかり値上がりしてしまった土地だ。この家が建てられた当時はそれほどでなかったにしろ、時がすぎるごとに目立つようになったと、母親の百合子は言っていた。
 けれども忠夫は、そんな自分の住む豪邸など足元にも及ばないほどの広大な土地にでかでかとそびえる、真の豪邸の姿を知っている。
 それは彼の従姉妹に当たる少女が住む家で、今日、彼が訪れる地でもあった。

(本当に大きいもんなぁ……冥ちゃんの家は)

 丁度半年ほど前、夏休みの間の一週間ほどを、忠夫は従姉妹の冥子が住む豪邸で過ごした。
 祖母こそもうずっと前に亡くなってしまったものの、それでも由緒ある六道の血を引く忠夫にとっては、年に一度や二度、出向かなければならない場所だ。

 行き交う人の活力に美のあるここ浪速とは大分離れた関東に、彼の従姉妹の家、六道家本宅は位置している。
 首都圏内にでかでかと広大な土地を占めるそれは、正に国内一企業の偉大さを見せ付けてくれるもの。東京ドームも敵ではない。

(これから……あんな家で暮らすんやなぁ)

 根本は永きにわたる霊能力としての血筋から。それがいつの間にやら広い世界に手が伸びるようになり、今では世界有数の大企業。
 そんなスケールのでかすぎる六道家本宅から忠夫に、その後の運命をあらかた決めてしまうような通達が届いたのは、一週間前のことだった。


「ちょっと角度を、斜めにしてな」

 彼、横島忠夫少年は、一言で言えば恵まれていた。

「かるぅく、薄っすらと凹ませてやるねん」

 偉大な祖母や両親から多岐にわたって才を受け継いでおり、加えて家は裕福。
 母の姉は国内一の大富豪で、自分の両親もその富に関わっており、その手の権力もある。
 そんな、どこぞの”横島くん”に対するあてつけかと思えるほどに勝ち組な彼は今、十二歳の小学六年生だ。

「これでいいの……兄ちゃん?」

「あぁ、バッチシや。うまいでぇ、小百合」

 忠夫には妹がいる。二歳年下の妹だ。平均的な体重で生まれてきた百合子に対して、少し不安になってしまうほど軽かったから、小百合と名づけたとか、彼の両親は言っている。
 軽かったこと自体は事実なのだが、初めからそう名づけるつもりだったのではとも、今では思うようになった。
 少し安直かもしれないネーミングに両親は、ただ理由をつけたかっただけなのかもしれない。
 それから十歳になった小百合は、ある種予想通り、とても小柄な少女に成長した。
 小柄なせいか、母親に似ず気も弱くなり、十歳となった今でも、家の中でしか普段の自分を出すことが出来ない。そしてその普段の自分さえ、そう自己主張の強い子供ではない。
 だけど忠夫は、そんな妹が大切に思えて仕方なかった。小百合は可憐であったし、何より、笑顔を良く見せてくれるのが、忠夫は嬉しかった。

 今もそう。褒めてあげると、小百合は少し顔を赤くして、笑顔になるのだ。

「出来たら、ちょっと見せてや。……うぅん、うん、ええで、最高や! これで次の大会はツートップ間違いなしやで!」

「……本当?」

「当たり前やないか。前はダテのせいで小百合が三位になってもうたけど、次は勝たせへん。ワンツーフィニッシュで華々しく引退飾るんや」

「……うん」

 ミニ四駆の大会は中学生までなら参加出来るのだが、忠夫は小学六年生で引退するつもりだった。
 彼は将来に向けて人一倍勉強しなければならなかったし、それ以上に、霊能力者としての技を磨かなければならないのだ。
 才を受け継いだ忠夫に寄せられた期待は大きく、また、彼自身が胸に抱いている夢も大きく、そのために彼は、努力を惜しまない。

 それと同時に小百合も、ミニ四駆は次で引退する事に決めている。
 元々ミニ四駆は、忠夫が小百合と一緒に遊ぶために教えたもので、忠夫がやめると言うと、彼女も、一緒にやめると言った。
 気の弱い小百合にとって、仕事であまり家にいない両親の変わりにいつも一緒にいてくれる兄は、他の誰より絶対的な存在だった。

「……うん」

「にしてもホンマに綺麗に出来てんなぁ……。兄ちゃん抜かれそうやわぁ」

「……そんなこと、ない」

「絶対、一位と二位やで? どっちが一位でもええけど、もう片方もちゃんと二位になるんやで?」

「……うん」

 頷く小百合。

「……うん」

 また、今度は何も言っていないのに、頷く小百合。嬉しそうな顔で、幸せそうに。

「……うん」

 何度も、頷く小百合。

「小百合……?」

「……うん。……兄ちゃん」

「……?」

「大……好きっ!」

「うわぁ!」

 普段なら是態にいえないような事を言って、抱きついてくる小百合。
 幸せ一杯の笑顔を紅くした妹の甘えようは、六年生にもなり、女性をだいぶ意識しはじめた忠夫にとって、悲しいほどに魅力的だった。


 二人で使っている少し広い部屋。一緒でなくとも、部屋はたくさん開いているのだが、それでも二人は一緒の部屋にいる。
 二段ベット。二つ並べた机。テレビにDVD。一台のPCに二つの椅子。クリスマスに買ってもらった、お揃いの携帯ゲーム機。並ぶラクガキノート。
 一階に下りれば、ピアノもバイオリンもある。飼い猫のミイとケイがどこかで寝ている。お昼にレンジで温めて二人で食べる、美味しい冷凍食品もある。

 この家には、二人が二人でいる証が、たくさんある。だから……、


「忠夫を、六道の家に住まわせます」


 六道家現当主、普段の気の抜けた様もなく、厳しい視線の女性がそう言い放った時も小百合は、忠夫と共に行くことを願った。
 そしてそれは、当然のように肯定された。
 何故なら彼女もまた、祖先の血を色濃く引いていたから。
 当主に断る理由もなく、もともと一緒に連れて行く心算だったのだ。大好きな兄を連れて行くと言えば、彼女も着いてくると、始めからわかっていたのだ。
 けれどそれは、親から最愛の二人の子を両方奪ってしまうということで。当主の心の内は、妹から子を奪う罪悪感に苛まれていた。


「今まで、ありがとうございました」

 長年親しんだ我が家に向かって、忠夫は深く頭を下げた。
 時には帰ってくるとしても、もう此処には住めないのだと、忠夫は知っている。
 わかっていたことなのだ。いつか、それも遠くない未来に、忠夫は六道の家に住むことが決まっていた。

「兄ちゃん……?」

 心配そうに、不安そうにこちらを見上げてくる小百合。忠夫はそっと手を取って言った。

「行こう、小百合」

「……うん」

『参りましょう』

『行こう、行こう!』

 その後ろで、二匹の猫が、まるでそれが普通のことだという風に、人間の言葉で喋る。

『行ってらっしゃい』

『お元気で』

『頑張って!』

 家の庭にいる虫たちが、小さいけれど耳に響く高い声で、人間の言葉で二人に声をかける。

 それが、二人の持つ才能だった。式神だけでなく、獣や、虫たちを僕にして、世を統べることの出来る、王者の力だった。


 あとがきです

 以前によろず板で萌○○娘○んす○ぁを題材にSS書こうとして削除された阿呆ことセンターです。
 あれは確かにダメだったとしても、やっぱりケモノ娘とか書きたい! という強い願望がいつの間にやらこんなことに……。
 原作より遥かに恵まれた忠夫が主人公です。妹はヒロイン1です。異論は認めます。

 大量の誤字、修正いたしました。家を出る前に走り書きした部分があるので、粗い面が強かったことをお詫び申し上げます。妹の名前は小百合です。子供の方をつけてたのに今まで気付かなかった僕は自分でも思うほどそそっかしいやつだ……。

 ついでにちょっとした解説を。
 もうこれだけでもありありと印象が出ておりますが、パラレルワールド的作品です。むしろそのものです。
 忠夫が金持ち、小さな頃から霊能力者、妹がいる、飼い猫の名はミイとケイ、六道の血を引いている、少年時代の引越し先が六道家、原作とは異なる年代設定(九十年代ではなく、二十一世紀以降の設定)……などなど、プロローグだけでも大胆な改変っぷりです。
 特にハーレム的な話にしたいとは思っていませんが、設定の都合上、どうなるかわかりません。タイトルの通りに話が進むなら、そういう展開もあると思います。でもあまりチヤホヤされる話にはしません。”ドキドキ”よりも”ワクワク”を追い求める路線で行きたいと思っています。

 それとこれ書いてて思ったんですが、六道家現当主のあのお母さんには公式の名前があるんでしょうか……? よく冥華っていう名前を聞きますけど、wikiで調べてみても、名前が出てないんですよね。
 公式の名前がないとなると、書く上でとても困ってしまうのですが……。問題ないようでしたらもう”冥華”で決着つけてみます。

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