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「想い託す可能性へ 〜 にじゅうはち 〜(GS)」

月夜 (2008-02-23 23:43/2008-02-24 16:53)
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 ※大変申し訳ありません。前回投稿した時のパスワードがいつものと違ったらしく、続編投稿が出来ませんでした。
 ですので新規投稿となる事ご了承下さい。


    想い託す可能性へ 〜にじゅうはち〜


 令子がシロに最初の攻撃命令を出す少し前、シロとパピリオは御手洗(みたらい)橋の陰で身を潜めていた。

 シロは気を抜くと暴れそうになる黒く輝くエクスプロージョン・ダーツを、軽く右手の甲を下にしながら両手で包みこんで抑える。

 彼女の額やコメカミからは冷や汗がとめどなく流れ、その制御がいかに難しいかを如実に表していた。

 「シロちゃん、もう少し肩の力を抜くですよ。こっちは、ヨコシマの様に美神の盾を利用できないんですから」

 「そ、そうでござるな。
 ……パピリオ殿。拙者、ちと思い上がっていたようでござるよ」

 「何がです?」

 「戦は最初が肝心って事がでござる。拙者、この言葉の本当の意味を、まだ掴んではおらなかったでござる」

 「シロちゃんが何を言いたいかなんとなく解るですけど、まだ攻撃はダメです。ちゃんと用意が整わずに戦を始めると、必ず後で要らない犠牲が出るです」

 パピリオはシロが焦れてきたのかと思って、彼女の右手に添えていた左手の制御を注意深く意識しながら、まだ攻撃準備が整っていないとシロを諭す。

 しかし、焦れて攻撃を急ぎたいというのは本当だったけれど、シロが言いたいのはそういう事じゃなかった。

 「解っているでござるよ。狼の狩りでも、獲物への最初の攻撃は一番神経を使うでござる。拙者が言いたいのは、こんなギリギリの緊張感は心地良いと、いつも除霊の時は思っていたんでござる。
 けれど、今日の戦いは今までの除霊とは全然違うでござる。
 圧倒的な力量差によって、胃が締め付けられるような緊張感に陥るというのもあるんでござるな。拙者、初めて知ったでござるよ」

 「それが解れば、シロちゃんの戦人としての心構えは一段階上がったと思うです。
 私達はシロちゃんとは多少意味が違うですが、力量差を覆す経験というのが解っていなかったから、あの時の戦いで美神達に敗北したです」

 自嘲気味に遠くを見詰めるパピリオ。彼女は、姉を喪ったあの戦いを思い出しているのだろう。

 シロは、右手の中で暴れそうになる霊力塊の制御に細心の注意を払いながら、己の右側で宙に浮く女の子を見詰める。

 (パピリオ殿は、先生達が大戦と言っているあの戦いで姉上殿を亡くされ、父と呼べる方を亡くされたとおキヌ殿から教えられたでござる。
 父上の仇であるあの者の名で先生を呼んだ時は、心底頭に来た事もあったでござるが、あれは拙者の浅慮でござった)

 令子がパピリオに頼んだ、シロのストッパー兼教師とした効果がここに現れていた。

 パピリオは、シロの行動に昔の己の行動を思い起こさせられるのである。それによってあの大戦で何が悪かったのかを反芻して実感する。

 シロはそのパピリオを見て、己より豊富な対神族・魔族との戦の心構えを学んでいく。どちらも自己主張は強い性格ではあるが、認め合い協力する事はある一点で共通している。

 彼女達は“忠夫の為”に己を高めるという一点で、共通しているのだ。

 『シロっ! コイツに対して、攻撃開始!!』

 と、そこへ令子の指示がシロに来た。

 「パピリオ殿!」 「シロちゃん、思いっきり行っけぇー!!」

 パピリオに呼びかけたシロは、己の脳裏に浮かぶ敵の姿と位置を正確に把握して瞬時に狙いを定め、

 ヒュゴッ!

 パピリオの激励に、解き放った黒く輝く矢玉を敵の総大将と教えられた相手に対して、死角になる所から襲うよう仕向けた!

 そう。彼女に与えられた任務は、敵を殺すことが目的では無い。指揮が出来ない状態にすれば良いだけである。

 だから忠夫のように、射出後の制御が出来なくなるまで霊力を篭める事はしなかったのだ。

 一瞬後、盛大な爆音が上空に轟き、一柱の神族が墜落していった。


 「教えられた総大将と違うでござる!」

 「(まさか身代わりに?) シロちゃん、今はとにかくあいつの墜落地点に向かうです!」

 墜落していく神族を追う敵の仲間がいない事を確認したパピリオは、攻撃結果に首を傾げるも、敵が襲って来ないうちに口惜しがるシロを促した。

 「わ、分かったでござる」

 シロは自分を取り戻すと、令子の指示通りに落ちていった神族の下へと全速力で走り出す。

 二十メートルほど走ったところで、再び上空で盛大な爆音が轟いた。

 「先生の攻撃でござるか?」

 「そのようです。まずは最初に落ちた奴の処置が先です。急ぐですよ」

 「了解でござる」

 十秒後。シロとパピリオは、地面に頭からめり込んで犬神家になっている神族を見つけた。

 ピクピクと脚が痙攣しているので、どうやら生きてはいるようだ。

 「えっと……敵とはいえ、こ…このような姿は不憫でござるな」

 「漫画みたいです。まさか現実でこれが見れるなんて、カンドーです」

 シロは頭から埋まった相手を気遣い、パピリオは感動的な面持ちで、それぞれ慎重に神族に近づいていく。

 シロは霊波刀を多少細くし、その分だけ長く伸ばしてツンツンと頭から埋まっている敵のどこかをつつく。

 つつかれるたびに、天に突き出た脚がビクッビクッと激しく反応した。

 「どうやら意識はあるようでござるよ?」

 「んじゃ、とっとと縛って放置しておくです」

 「らじゃ」

 シロはおどけた様に敬礼すると、意外に慣れた感じで地面から突き出た下半身を注連縄でグルグル巻きにした。

 腰から下を一つに纏めるように縛られた神族は、地面から突き出た一本の槍のようにも見えた。

 「窒息なんてことは、ないでござるよな?」

 「その気になれば、神族・魔族は宇宙空間でも活動できるです。これくらい大丈夫ですよ」

 シロの疑問にパピリオは軽く答える。

 サクヤヒメの注連縄で神通力を抑えられた神族が、地面の中で呼吸が確保できるのか甚だ疑問だが、パピリオには知った事ではなかった。

 「とりあえず、シロちゃんの攻撃で受けた傷を治すように平癒符を貼って、先を急ぐです」

 「了解でござる」

 シロはペタリと神族の腰辺りに平癒符を貼り、パピリオは自分達の周りに鱗粉を集めると、周りの風景に溶け込ませるようにした。

 「じゃ、次に行くです」

 パピリオの促しにシロはコクリと頷くと、忠夫が撃墜した神族が落ちた地点へと走りだした。


 小竜姫が令子の指示で転移を終えた矢先、いきなり背後から霊波砲のようなエネルギー弾が、数発迫ってきた。

 彼女は神剣を抜きながら一発目を紙一重で躱すと、残る光条を己の神剣で斬り払う!

 最初に躱したエネルギー弾は背後の結界に当たり爆発し、切り払われたエネルギー弾も軌道を逸らされた先で結界に当って、小規模の爆発を起こした。

 (背後からの攻撃……。やはり綺麗事では戦場を渡れませんね。
 ……いえこれは、横島さんの足止めを狙った所に私が割って入った?)

 小竜姫は神剣を正眼に構えて、油断無くエネルギー弾が飛んできた方を睨む。

 そこにはフィルレオを始めとした神族の過激派四柱が、扇状に広がって宙に浮いていた。

 そこへ、一頭の極彩色の蝶が小竜姫の後頭部に止まって羽を広げ、飾りのようになる。

 (手荒い歓迎を受けたですか?)

 (大丈夫。横島さんを狙った所に、私が割って入っただけのようです。支援お願いしますね)

 (了解です)

 パピリオの眷属を介して、小竜姫は彼女と念話を行いながらも牽制を忘れない。

 「やってくれますね。貴方がたにはもう大儀などありはしないというのに、何ゆえ横島さんの身柄を求めますか!」

 小竜姫の感覚を持ってしても本物としか思えない、地上の木立を楯にした横島の偽者を背後に庇う様にしながら、彼女はフィルレオを見据えて問い質す。

 どうやらタマモは、結界内に薄く広がったパピリオの鱗粉を操って光術催眠を相手に対して行い、忠夫の幻像に存在感を持たせているようだ。

 春霞のように淡く光を反射させるパピリオの鱗粉は、気にならない程度の光だというのに光術による催眠を容易くさせるらしい。

 チラッと見ただけの小竜姫にさえ実体だと思わせる程の存在感なのだから、その催眠強度はかなり高い。さすがは九尾の狐といったところだろうか。


 フィルレオは、小竜姫の問いかけに薄笑いを浮かべるようにして答えようとはしなかった。しかし、二柱の神族が小竜姫を大きく迂回するように動き出す。

 どうやらフィルレオは、目配せによって部下に指示を出したようだ。

 (私との問答はしないということですか……。ならばっ)

 数の不利を削る為に、小竜姫は右手の神族に向かって極短い超加速を行い、神兵の懐で術を解く。

 驚愕に彩られた神兵の表情を無視し、小竜姫は彼の右側頭部を狙って神剣の腹で張っ倒した。

 ゾクッ

 突如、小竜姫の背筋に悪寒が走る。彼女は剣を振りぬく方向を無理矢理下方にし、回転しながら降下!

 直後、小竜姫の背後から直前まで彼女の腰があった場所を目掛けて、レオルアによる斬撃が物凄い速さで通り抜けていった!

 その時、彼の剣圧に威力があり過ぎたのか、小竜姫の防御神気を突破した剣気が回転中の彼女のズボンを数箇所切り裂き、うち二箇所から血が滲み始めた。

 (なんという威力っ。ヒャクメの言う通り、侮れない!)

 クルクルと二回転ほどしてから、小竜姫はレオルアから離れて再び正眼の構えを取った。

 (さて…どうしましょうか?)

 (小竜姫、次のポイントに移ります。適当にあしらって下さい)

 (適当にですか……解りました)

 攻め手を考えていた小竜姫にパピリオの念話が届くが、その指示に彼女は苦笑する。

 不意に、香港でのメドーサとの戦いが思い浮かんだからだ。あの時のメドーサの戦い方が、パピリオが言った適当そのものの戦い方だったと小竜姫は思った。

 (あのような戦い方、私にできるでしょうか?)

 それと同時に、後ろに感じていた横島(偽)の気配が消え始めたのを感じる。

 「逃がすなっ」

 フィルレオの焦った命令が飛ぶ。彼も、横島が逃げだしたと思ったのだろう。

 その命令に従い、小竜姫から見て左手に居た名も判らぬ神兵が、彼女を避けるようにして横島(偽)を追い始めた。

 (それにしても見事な幻術ですねー)

 小竜姫は、背後のタマモが操る横島(偽)の気配が消えてから動こうと考え、とりあえず迎撃する為に追っ手の神兵へと迫ろうとした。

 だが、途中でレオルアに割って入られて、袈裟懸けに斬りつけられた。

 (嫌な位置取りをなされますね)

 レオルアの剣撃を己の神剣で左に受け流すようにして彼の背後を取ろうとするが、横島を追っていたはずの神兵が突然方向を変えて、小竜姫に向かって槍で突撃してきた!

 小竜姫は冷静にレオルアの剣を弾いて彼から距離をおき、向かってきた槍を上に撥ね上げるようにして逸らした。

 突撃してきた神兵は、上へと突きの軌道を逸らされ勢いあまって小竜姫の頭上を飛び越えていく。

 続けざま小竜姫は、背後から迫ってきたレオルアの剣撃を背中に神剣を向ける事で合わせて支点にし、右踵を後ろへ蹴りだす様にして彼の右頬を狙う!

 しかし、レオルアは僅かに頭を左に傾けることで小竜姫の蹴りをやり過ごし、続く彼女の左踵が迫って来るのを自らの剣を下に振り抜く事で彼女が支点としている位置を変え、蹴りの軌道を変えてやり過ごした!

 小竜姫は連撃が失敗した勢いを利用して、そのまま上空へ逆さまの状態で逃げて距離を稼ぎ、一旦結界のところまで下がるしかなかった。

 (老師に比べればまだマシですけど……気を抜けませんね)

 老師の実戦稽古に比べれば余裕はあるが、一連の攻防に油断せず・熱くならずに気を引き締める小竜姫。

 先ほどの交戦で、彼女の背中から左袖にかけて、かなりの切り裂き痕と切り傷が出来てしまった。

 (なかなか放してはくれませんねー。さて、どうしましょう?)

 撤退をしたいのだが、レオルアに背を向けて逃げる事に危険を感じる小竜姫は考えあぐねる。

 小竜姫の注意が一瞬逸れたのを隙と見たのか、再びレオルアが切りかかってきた! それと同時に、下から最初に張っ倒した神兵がエネルギー弾を撃ってくる!

 (やってくれます……ねっ!)

 キュインッ!  ヒュアッ!

 小竜姫は、真正面からの唐竹割りを右下にいなす様にして神剣で受け流し、その力を利用して右側転を行って下からのエネルギー弾を回避する。

 側転中もレオルアの剣を抑えていて、刃を返して切り上げが出来ないようにしているのはさすがだ。

 エネルギー弾は、彼女の耳元を掠めるようにして虚空へと消えていく。空中戦で見事なアクロバットを披露する小竜姫だった。

 (小竜姫! 結界に向かって飛ぶです!)

 その時、頭に留まっていた極彩色の蝶からパピリオの念話が来た! 反射的に小竜姫は、後ろも見ずに結界に向かって全力で翔ける。

 いきなり逃げを打った小竜姫に、一瞬呆気に取られたレオルアは、彼女を追うのに一歩遅れてしまった。その横を、かなりの速度で昇ってきた神兵が追い越し、もう一柱の神兵も後を追うように飛ぶ。

 不意に小竜姫の頭に乗っていた蝶がフワリと彼女から離れ、レオルア達の前に舞うように立ちはだかった。

 「(何をするつもりだ?   まさかっ!) 追うな! ワ…」

 カッ!!!!

 いきなり激しい閃光を発して、レオルア達の目の前で蝶が消滅した!

 「「ぐぁぁぁあああっ 目がっ  目が見えねぇ!」」 「ぐぅぅ……してやられた」

 レオルアは嫌な予感がして仲間に制止をかけるが間に合わず、他の二柱と共に視力を奪われてしまった。

 その間に小竜姫は結界の中に入って、フッと瞬間移動して消える。

 「くそっ、あと一歩のところでっ!!」

 一連の攻防を離れて見ていたフィルレオは、苦々しげに顔を歪めて口惜しがる。また、文珠使いを見つける事から始めなければならない事に、歯噛みする思いだ。


 フィルレオ達の居る場所から百メートルほど北の木立の陰に、小竜姫は出現するとすぐに竜気を抑えた。

 彼女の頭にまた極彩色の蝶がどこからともなく現れて、羽を休める。

 「ありがとう、パピリオ。助かりました」

 (どういたしまして。けど、適当にあしらえば良かったのに、なぜ留まったです?)

 「すぐに逃げを打てば、怪しまれるからですよ。それに、なるべく偽者の横島さんを、敵の視界に入れない様にもしていたんですよ?
 まぁ、あのレオルアという者の技量が傑出していて、逃げる機会が無かったのもありますが……」

 (そうですか。小竜姫ならすぐに離脱できると思ってたです。こっちもシロちゃんを逃がすのに大変でした)

 「そう……」

 パピリオの口調に、シロの負傷を匂わせるものがない事を感じた小竜姫は、安堵とともに一言で返した。

 (じゃ、次のポイントであいつらをからかうですよ)

 「ふぅ……わかりました」

 ニシシッといった感じで念話を送ってきたパピリオに、困ったものですという風に苦笑して、小竜姫は次の場所に向かった。

 そこで彼女は、令子から敵に向かって小馬鹿にするようにと言われたのだが、どういう風にやったのかはまたの機会に語ろうと思う。


 小竜姫やシロの囮チームと、パピリオやタマモの幻術チームによって偶然にも分断されていた敵が、最後の仕上げとばかりに一つに纏められようとしている。

 それぞれに、嫌というほどからかわれたのだろう。敵の神族達は、かなり頭に血が上っている様子だった。


 囮として文珠で忠夫に化けたシロが、令子達の横を結界の北端へ向けて駆け抜けていく。

 それを追うように、上空の結界に激しい爆発が伴っていく。どうやらアルウェイド達は、美神達に気付くことはなかったようだ。

 『シロ、指示した場所に着いたら、相手の目晦まし用の技を準備しておいて』

 令子達の傍を通った時、シロはコクンと頷き、パピリオはニコヤカに令子達へと手を振ってきた。

 シロの表情は固いものの、口元が軽くつり上がって笑みのようなもの浮かんでいた。

 その様子は一瞬だったが、令子達はシロの表情とパピリオの横顔に流れる一筋の汗を見逃してはいなかった。

 (パピリオにちょっと余裕が無くなってきた? まだ固いけど、シロの様子からしてとりあえず大丈夫そうだし、樹海じゃパピリオを少し休ませた方が良いかな?)

 (パピリオ……まさか限界を見誤ってないでしょうね? 彼女の様子からして、このような力の使い方など初めてのはず。万一の為に備えておきましょうか)

 (パピリオ? まさか無理をしているんじゃ? けど、くっそ! 今は何もできねぇっ。あいつの負担を減らす為にも、これの用意を急がなきゃな(それでよい) え……? 今、何か聞こえたような……?)

 忠夫は、己の右手に作っていたエクスプロージョン・ダーツに更に霊力を篭めだした時、小さく聞き取り難かったのに、どこか懐かしい声を聞いた気がした。

 しかし、その事を確かめる前に令子から指示が飛んできた。

 「忠夫、パピリオに余裕が無くなってきたみたい。向こうじゃ少し休ませるから、そのつもりでいて」

 「分かった。あいつらばっかりに頼ってちゃ、情けないしな」

 彼は自身の焦燥から、令子の指示を履き違えた。彼女は、パピリオを忠夫の傍に置くつもりで言ったのだ。

 「アホ…「忠夫…ううん、あえて今は横島と呼ぶわ。横島、シロもパピリオもアンタの為に動くのは少しも苦じゃないの。だから動くな」」

 令子の言葉を遮って、タマモがいきなり抑揚の無い声で告げる。彼女達を案じてくれるのは良いが、彼が動き回っては本末転倒なのだ。

 「なっ! ……う、分かったよ」

 反論しようとした忠夫だったが、タマモに無表情に見詰められて折れた。彼女は彼の様子に興味を失ったのか、また幻術の制御に集中しだす。

 (美神の男だろうと、忠夫は忠夫ということ? 悪くは無いけど……)

 術の制御をしながらタマモは、忠夫を冷静に値踏みする。けれどほんの少し、口元を緩める程度の笑みを浮かべていたのを、彼女は自覚していなかった。

 (む……まぁいいわ)

 忠夫に言いたい事をタマモに言われて、令子は彼女を睨む。けれど、タマモの表情の変化を見つけた彼女は、タマモの中で忠夫に対する感情に変化が起こった事を感じ取って流す事にした。

 「さて、これであいつらを九割がた騙しきったかな?(でも、本当の戦いは樹海に行ってからなのよね)」

 「おそらく。それに剣を交えた感触から、彼らは何か焦っているようにも思えました」

 「そうなの?」

 「ええ。ただし、気をつけないと。焦った彼らがどんな強硬手段を取ってくるか解りません」

 「そう…ね。
 小竜姫、ヒャクメに伝えて。合図をしたら、あいつらを吹っ飛ばすって」

 「分かりました(ヒャクメ、もうそろそろです。合図をしたらやって下さい)」

 (了解なのね〜)

 「美神さん、いつでも良いですよ」

 「分かった。向こうも、ようやく合流したようね。よし、仕掛けるわ(ここまでは順調にいったけど……)」

 予想以上に自分の霊力の消費が多い事。

 パピリオの限界が近い事。

 タマモやシロにしたって、サクヤヒメやおキヌちゃんのヒーリングで回復しているが、それでも本当なら病み上がりな状態だ。

 自由に動かせる戦力の中で最大戦力である小竜姫は、レオルアという敵に抑えられるばかり。

 そして一番気掛かりなのが、サクヤヒメの結界を出て五柱の神族と戦わなければならないという事。

 令子は、樹海での戦闘が厳しいものになる事を予想して、心内で顔を顰める。

 「美神さん?」

 「大丈夫。  シロ、敵に目晦ましを一発放って! その後、二ノ宮に逃げるのよ!」

 小竜姫が一瞬沈黙した令子を気遣って声を掛けてくるが、令子は不敵に笑んで見せてシロに指示を出す。

 指揮官が不安になっている事を表情に出すなどという愚を犯さなくて済んだことに、彼女はそっと胸を撫で下ろした。

 令子がシロに指示した場所。

 それは、本宮の敷地北端から北へ道路を沿って五十メートル先の左側に位置する、二ノ宮浅間神社だった。

 そこだけはワザと、今回の作戦で最初からサクヤヒメの結界で覆ってはいない場所だった。


 その頃本殿では、サクヤヒメがヒャクメの中継によって令子の合図を受け、手に持った本宮のレプリカの神鏡を介して、二ノ宮の神鏡に女華姫と一緒に神気を送り込み始めていた。

 ヒャクメはサクヤヒメの神気の流れに合わせて、予め組んだ二ノ宮にある神鏡の緊急離脱用の手順を踏んでいく。

 ヒャクメが利用しようとしているこの方法は、神鏡には本来一回こっきりしか用意されていない手段だ。

 なぜならこの機能は、総撤退時に味方を安全な場所へと移し、敵が追ってこれぬように神鏡自体が自壊するのである。

 神鏡を自壊させずにその緊急離脱を実行するには、そのプログラムを呼び出して一部を書き換えてヒャクメのトランク内メモリで走らせる必要があった。

 神鏡に精通したヒャクメだからこそ出来る芸当だ。


 シロは令子の傍を通過する時に指示された事で、一つ試したい事があった。

 「パピリオ殿。美神殿から敵への目晦ましを言い渡されたでござるが、それで一つ試してみたい事があるでござる。聞いてもらえまいか?」

 「何をするんです?」

 「拙者。先生からサイキック・フラッシャーなる技を教えてもらって、こういう事ができるでござる」

 そう言ってシロがパピリオにやってみせたのは、昨夜にヒャクメと女華姫を震え上がらせたシロモノだった。

 「妙に見え難いですね? これでどうするつもりです?」

 目を細めながらシロの手元に近付いて見るパピリオ。

 二人とも、起伏の激しい地面を走り、宙を飛びながら木立を避けてこのやり取りをやっているのだから、凄いものである。

 「コレは、基本的には遠隔操作できるサイキック猫騙しでござる。
 見え難いこれらを敵の周囲に放ち、敵の目の前で接触させると、敵の視界を奪い誘爆した他の弾によって霊力磁場を乱してこちらを感知出来なくするんでござるよ」

 「なるほど。それは目晦ましにうってつけですね。で、シロちゃんの試したい事とは?」

 「それはでござるな。これを拙者なりに改良して、このような事が出来るようになったでござるよ」

 そう言ってシロは、空中に二桁ほど浮かべた内の一つだけの霊波ジャミングを和らげた。

 「は? (コシコシ) えっ! こ…これ、こんなに霊力が篭められていたですか!?」

 最初はシロが何をしたのか判らなかったパピリオは、次第に変化する目の前の光景が信じられなくて目を擦った。それでも目の前の驚くべき光景は、消えはしなかった。

 パピリオが驚くのも、無理はない。

 シロの眼前で浮いている弾の一つが急に存在感を増したかと思うと、そこに篭められた霊力の大きさが彼女をして驚嘆させるものだったからだ。

 よくぞ個人で、ここまで霊力をごく短時間で高圧縮するものだと、パピリオは感心した。シロは正しく、横島忠夫の弟子だったと、誰もに思わせる霊能力だ。

 言うなればこれは、忠夫のサイキック・フラッシャーとエクスプロージョン・ダーツを融合したような技だ。

 その一発の威力を例えるとするなら、令子の良人である忠夫の文珠<爆>一個分の最大威力だろうか。若しくは、直径三十センチ・純度九十五パーセント以上の精霊石一個分か。

 すなわち、国際刑事警察機構(ICPO)が持っている局地攻撃用小型ミサイルを流用した弾頭用に使われるくらいの精霊石と、同等の威力があるのだ。

 それが二十発、シロの眼前に浮いている。昨夜出した三十五発より少ないのは、これまでの戦闘で霊力を消費しているせいだろう。

 ヒャクメ達が怯える筈である。

 「これを敵に試したいんでござるよ。ダメでござろうか?」

 驚くパピリオに少し嬉しく感じるも、シロは神妙に彼女に訊いてみた。

 敵の数を減らし、なおかつ目晦ましをするならコレしかないと思うシロ。彼女なりに、作戦全体の趣旨を考えての提案だった。

 「これって、シロちゃんの全力ですか?」

 コクリとシロは頷く。

 「なら、全部はダメです。この後も樹海で戦うですよ? 六発だけ使うことにするです」

 「っ! そうでござった。まだ戦は終わってはござらぬな」

 シロは追ってくる六柱全てに全力を叩き込むつもりだったが、パピリオに諌められて六発の弾以外を霊力に戻して身体に取り込んだ。

 「では、一人に一発ずつ使うんでござる?」

 「違うですよ。一柱に四発使って、残りの二発で目晦ましですよ」

 「それだと、敵が耐えきるのではござらぬか?」

 「その為のヨコシマでしょうが」

 「あ! そうでござった。拙者だけでなく、先生も使えるんでござったな。どうにも、あの先生には違和感が拭えぬでござるよ」

 パピリオに言われて、ハタと気付くシロ。

 戦闘前に軽くエクスプロージョン・ダーツをやって見せてくれと忠夫に言われてやって見せ、彼のその驚き振りがシロの印象に強く残っていた。

 彼女は、自分の知っている先生と目の前の忠夫が違う事に気付き、無意識に考えないようにしていたようだ。

 彼女達の眼前には、結界の淡い光が見えてきた。ここから先は直接攻撃に曝される。シロは奇襲攻撃の準備を進め、衛星のように弾を自分の周りに浮かべる。

 『シロ、敵に目晦ましを一発放って! その後、二ノ宮に逃げるのよ!』

 そこへ、令子の攻撃指示が来た。この作戦で、自分にとって最も危険な時間が訪れたのだ。その事にシロは我知らずに震える。

 その震える肩に、パピリオの手が置かれた。

 「大丈夫。美神は、シロちゃんだけを危険な目に合わせるわけじゃないです。
 シロちゃんが身に付けている護りの木札は、相手の攻撃の余波なら軽く、直接攻撃でも充分に護ってくれるです」

 「……そうでござるな。ではパピリオ殿、行ってくるでござるよ」

 パピリオの励ましに、今まで行動を共にして教えてもらった事を反芻したシロは、彼女に笑顔で告げた。

 「では、あいつを狙うですっ。 いっけー!!」 「おぅ!」

 パピリオは、小竜姫が先ほどの戦闘序盤の時に神剣で張っ倒した神兵を指差して号令を掛け、それにシロが力強く応える!

 シロの右手から放たれた弾丸六発は、一旦は扇状に広がってからそれぞれ目標に向かってカッ飛んでいく!

 カッ!!!!

 内二つが鋭角に急上昇してフィルレオ達の眼前で接触、強烈な閃光を発した。

 「グゥゥ…気を……“ドゥグ・ドグ・ドゥゴ・ドガッアアァァン!!” 「レック!」」

 目を灼かれたフィルレオの命令が届く前に、残りの四発が目標とした神兵に次々とぶち当たる!

 思わずといった感じに叫ぶアルウェイド。彼だけは視線を別に向けていて、直接強烈な光を見ることが無かった。そのおかげで、完全に視力を奪われる事は無かった。

 しかし、辺りの霊的磁場を撹拌され、閃光に目を灼かれた彼らを忠夫のエクスプロージョン・ダーツが襲う!

 盛大な爆発音がして、レックと呼ばれた神兵は一つの呻き声さえ出せずに地上へと落ちていった。

 「うぉ、うぉのれー!!」

 いち早く視力が回復したアルウェイドは周囲を見渡し、眼下を北の方へと走っていく人影を見つけ、特大のエネルギー波をぶっ放した!

 そのあと、即座に彼も人影を追った。

 アルウェイドにつられるようにして、フィルレオ達も続く。が、程なくして全員が急停止した。

 なぜ、彼は急停止したのだろう?

 と、いきなり彼らの眼前で、アルウェイドが放った特大のエネルギー弾が縦に真っ二つに割れた!

 二つに分かれたエネルギー弾は、そのまま軌道をそれて着弾。爆風が吹き荒び、着弾地点の木々をなぎ倒していく。

 着弾した場所が、二ノ宮の敷地内だったのが幸いだった。これが道路沿いの住宅地だったらと思うと、ゾッとする威力だ。

 彼らの前に立ちはだかったのは、神剣を正眼に構えた厳しい眼差しを向けてくる小竜姫だった。

 


 ほんの少し時間を遡る。シロの攻撃が敵に着弾した時、令子達はというと。


 「なっ! シロ!!」

 「どうした!」

 令子がいきなり狼狽した事に、忠夫は嫌な予感を覚える。

 「目晦ましって言ったのに、シロが高威力の攻撃をしたのよ! パピリオっ、なぜ!?」

 『シロちゃんの持つ技が使えると思ったんです。サイキック・フラッシャーの改良版と言って……』

 「やばっ、アル何とかって奴だけダメージが浅い! (他に注意を向けさせないとっ) 忠夫っ、落ち始めたあいつをやって!」

 「わ、分かった」

 脳裏に映ったアルウェイドの様子に説明中のパピリオを遮って、令子は忠夫に対して指示を出す。

 即座に忠夫は、空から落下中の神兵へと攻撃を放つ! しかし、あまりに目標が小さく見えていて当てるのが困難だった。

 (くっ、まずい! ……なに!?)

 いきなり忠夫の視界が急速にズームアップし、落ちていく神兵をはっきりと捉える。

 (考えている暇はねぇ! いけっ!!)

 己の体の急激な変化に戸惑うも、時間を惜しんだ忠夫はE・ダーツを制御して敵にぶち当てた!

 遠くで、数本のダイナマイトを一気に爆発させたような音が轟く。

 「やった!」

 「まだよ! シロが狙われてるっ! 小竜姫!!」

 「任せて下さいっ」 フシュッ

 「パピリオ! ヒャクメの所にアンタの眷属を急いでやって!! 時間が無い!!」

 『わ…分かりました』 

 脳裏に敵が放った超特大の霊波砲が映るのを見て、矢継ぎ早に指示を出す令子。けれど安心は出来ない。霊感による警報が、鳴りっぱなしなのだ。

 「なんてことっ。早めに、パピリオの眷属をヒャクメの所にやるよう指示しておくんだった!」

 「令子、落ち着け! シロはまだやられてないんだろ!? 立て直すぞ!!」

 「……!? そう  そうね。宿六の言う通りだわ」

 盾越しに令子を強引に強く抱きしめて、忠夫は彼女を落ち着かせる。らしくない彼女の様子に、彼自身も動揺してはいるが、自分の事は二の次だ。

 『ヒャクメの所に眷属が着いたです』

 「ありがと。パピリオ、ヒャクメとわたしの間でリアルタイムの意思疎通は出来る?」

 パピリオの報告に、令子は少し確認を取った。

 小竜姫なら念話でタイムラグ無くヒャクメに指示を出せたが、パピリオの眷族経由だとチャット状態になるからだ。

 『さっき、小竜姫にこうして念話をしたですよ』

 けれど、それに関しては杞憂に過ぎなかった。

 パピリオの眷属が令子の頭の上に止まると、彼女の声が令子の脳裏に大声のように響き今まで脳裏に映っていた敵の様子がブツっと消え、視界にスパークしたような光が溢れる事がなければ。

 令子が懸念した事とは別の問題があったのだ! これこそ、令子の霊感が感じていた警報の正体だった。

 「あくっ……(嘘、これって!)」

 「だ、大丈夫か?」

 忠夫は、自分の腕の中で目をきつく閉じ、コメカミを強く押さえていきなり痛がり始めた令子を心配する。彼女の額や頬をさっきまでとは違って、大量の汗がとめどなく滴っていたからだ。

 「だ…大丈夫。(ぅく) ごめん、パピリオ。(くぁっ) と、とり…あえず 念話…は、忠夫に……」

 そこで令子は気を失ってしまった。最後の気力とばかりに、右手に持っていた<伝>の文珠を彼に渡して。

 「ちょっ、令子! どうした!?」

 自分の腕の中でくたっと気を失った令子を慌てて支えながら、忠夫は彼女に呼びかける。

 しかし、何の返事も返ってこない。荒い息遣いだけが、彼女が生きている事を知らせるだけだった。

 『どうしたですかっ!』

 令子との念話のリンクがいきなり切れた理由が判らないパピリオは、とりあえず令子が言ったように忠夫へと眷属を止まらせて、彼に念話を送った。

 「うぉ! な…なるほど。 くぁ  そういう事かっ」

 パピリオの大音量の声が、忠夫の脳裏に激しく響きわたる。

 しかも、大量のカキ氷を思いっきり早く食べた時のようなキィーーンとした頭痛がコメカミに鋭く走った事により、忠夫は令子が気絶した理由を知った。

 その激しい痛みと大声が脳に響く状態に、忠夫は思わず令子を抱きしめたまま座り込む。そして、またも彼の身体に異変は起こった。

 『ヨコシマっ。何が……』

 そう。パピリオの念話が、ボリュームを一気に落としたようにちょうど良い聞こえ具合になって、頭痛が大幅に減ったのだ。

 「(ま、また!?) いや、心配無い。パピリオ、状況を教えてくれ。タマモは、シロの「もう、やってるわ」そうか、それを続けてくれ」

 タマモは忠夫に指示されるまでも無く、シロを敵の目から隠す為に彼女の周りを鱗粉で覆って、保護色にしていた。

 『どうしたのね!?』

 「うっ…ヒャクメでも辛いんかよ。まぁいい、耐えられん事はないし。
とりあえず令子の事は心配ない。理由は後で話す。今はあいつらを追い払うぞ!」

 『わ、わかったです(のね)』

 (くぅ〜、ダブルはキクな〜)

 涙目になって痛むコメカミを揉みながら、忠夫は現状をパピリオから聞きだす事に集中する。

 「パピリオ、シロと小竜姫さまの状況は!?」

 『シロちゃんは、二ノ宮の社の中に駆け込んだですっ。小竜姫は五柱の敵を相手に奮闘してるですが、劣勢です』

 悔しそうな、それでいて今にも泣きそうな口調のパピリオ。

 初めての能力フル使用で戦闘をする余裕が無く、小竜姫の加勢に行けない事がもどかしいようだ。

 「そ、そうか。ならヒャクメっ、準備は良いか!?」

 原因不明だが痛みが少なくなったとはいえ、痛みそのものは消えてはいない。それを紛らわせる為に、どうしても声が大きくなってしまうが仕方が無い。

 今は自分しか、全体を統括できる者が居ないのだ。

 『いつでも』

 ヒャクメは、忠夫達に何が起こったか理由が判ったのか、簡潔に答えてきた。

 (ありがたい。ヒャクメが居て、ホントに良かった)

 ヒャクメの答えが聞こえた時、忠夫の頭痛はほぼ無かった。

 彼女が理由を解って、念話の送信出力を意図的に弱めてくれたのだろうと思い、彼はヒャクメを抱きしめたいほどに感謝した。

 「小竜姫さま! 二ノ宮に全力で向かって下さい!
 シロっ、二ノ宮の神鏡は持って出たな? あと、さっきの奴らを攻撃した技っ、五発分用意しろ!
 パピリオっ、眷属を落ちた神族の所へ向かわせて、眠らせろ!
 タマモ。あいつらの進路上の空中に、偽の転移魔法陣を出せるか?」

 「出来るわ」

 「よしっ。 ヒャクメっ、タイミングを合わせろ!」

 令子のように脳裏に情景を映すことは出来ない忠夫だったが、その代わりをパピリオの眷属が落とす鱗粉が補っている。

 彼はその映像によって、攻撃のタイミングを計る。追われる小竜姫に敵の攻撃が掠める度に、思わず攻撃開始の声が出そうになる。

 (まだ早いっ)

 それをグッと腹に力を篭めて我慢し……。

 「シロ、各個に撃て! タマモっ、やれ! ヒャクメっ、ここに!!」

 忠夫は声を張り上げて、全員に攻撃開始を指示した。


 小竜姫が完全に逃げを打ったと勘違いをしたのか、それとも散々からかわれた為に逆上しているのか、フィルレオを始めとした神族達は、広範囲に広がらずに彼女を追った。

 アルウェイドがもう少しで、剣で斬りかかれる距離に小竜姫を捉えられると思ったところで、いきなり彼らの目の前で巨大な魔法陣が現れた!

 「(なっ、これは転移魔法陣! 我らを跳ばす気か!) 急速反転!」

 瞬時に目の前で展開された魔法陣に驚き、その役目を悟ったフィルレオは、隊列の最後尾で反転しながら号令する。

 「なにー! 後ろにもだとぉっ!!」

 しかし、本命はこっちだった。フィルレオ達が反転した直後に、直径が百メートルを越す巨大な魔法陣が淡い光を放ち待ち受けていたのだ!

 そこへシロが用意したサイキック・フラッシャー(改)が、再び彼らを襲った!

 サイキック・フラッシャー(改)の爆発による衝撃波で、次々に転移魔法陣に叩き込まれる過激派の神族達。

 彼らは感知できない攻撃から身を守ることも出来ず、また衝撃波による慣性力までも殺せなかった。

 爆煙が晴れる頃には、ただの一柱もその空域に留まっては居なかった。

 (はぁ〜、何とかなった〜)

 その様子を鱗粉による映像で確かめた忠夫は、座ったまま脱力する。まだ彼は令子を抱きしめたままだったが、いつの間にか彼女を背後から抱くようにしていた。

 令子の気絶と共に消えたのか、彼女の盾もいつの間にか消えていた。

 「よしっ、良くやったシロ! とりあえず、拝殿に戻って来い。
 小竜姫さまもご苦労様です。パピリオ連れて戻って来て下さい」

 『分かりました』

 忠夫は力無く座り込んで、離れた場所に居る仲間達に戻ってくるように指示を出す。小竜姫からの念話が届いた時、またコメカミが激しく痛み出したが彼は我慢した。

 「タマモ、ありがとな。フォロー助かったよ」

 隣に立つタマモにも、彼は座ったまま見上げて礼を言う。けれどタマモは、彼を一瞥だけしてそっぽを向いた。その様子に忠夫は苦笑いをして頭を掻く。

 彼がもう少し注意深かったら、彼女の耳が赤い事が判っただろう。そう、タマモは照れているだけなのだ。

 そこへヒャクメが転移してきた。

 「横島さん、美神さん、大丈夫なのね? パピリオの念話を直接受けていたようだけど?」

 「ああ、やっぱりそれが原因なんか。
 俺は何とか耐え切ったが、令子は自分の盾を制御中にくらったからな。
 ご覧の通り、脳がオーバーフローを起こしたみたいだ」

 ズキズキと痛む頭を手で押さえながら、忠夫はヒャクメの言葉から頭痛の原因を確信し、力無く令子を抱きかかえながら座ったまま彼女を見上げて応えた。

 「パピリオは、人間相手に念話をするのは慣れていませんからね。いつも通りにやっちゃったのね〜」

 忠夫の様子に、心配そうにしながらヒャクメは近くに寄るとしゃがんで、彼に目線を合わせた。

 「ヒャクメ達が俺達に念話をしない理由は、やっぱり?」

 「そ。出力が違い過ぎて、人間の脳には負担が大き過ぎるのね。もしかしてと思って、出力を弱めたんだけど」

 「ああ、助かったよ。しかし困ったな。令子がこれじゃ、樹海の敵を追うことができん」

 忠夫は、自分の腕の中で気絶したままの令子を優しく包みながら呟く。

 「ふむ……そなたが横島殿か?」

 そこへ、女華姫さまの姿をしたイワナガヒメが転移してきた。

 「え!? な…なぜおキヌちゃんの親友がここに!!
 あ、そうか。令子から教えてもらった昨夜の件か!」

 「見れば見るほどニニギにそっくりよな。特にその手」

 「え? おおぅ!」

 指摘された忠夫が自分の手に視線を向けると、その手は令子の胸をやさし〜く揉んでいた。自分の無意識の行動に驚くも、止めないのが彼らしい。

 「(はぁ〜、それでも止めぬか) まぁよい。令子殿を支えておれよ」

 「あ? ああ……」

 嘆息した女華姫は一言忠夫に言うと、右手を令子の頭へと添えた。

 「イワナガヒメの名に於いて命ずる 美神令子を苛む厄よ ひと時のあいだ 我が身へ来い!」

 イワナガヒメの右手が光ると、その光は令子の全身を巡り、再び彼女へと戻っていく。

 ところで、イワナガヒメの神威には、癒しの術は一つも含まれてはいない。

 けれど彼女は、かつての御世ではニニギノミコトやサクヤヒメに降り懸かる災いを一身に受け持つ女神だったのだ。

 一人の人間の厄など、どうってことも無かった。ただ、令子に施した神威が、時限式なのが気にはなる。

 「ん…ぁ……」

 「ふん……これで良かろう」

 令子が目を覚ましそうになったのを見て、面白く無さそうにしながらスタスタと女華姫はその場を歩き去る。

 「助かった女華姫! あんたイイ女だな!」

 その後ろ姿に忠夫は、感謝の気持ちの念を目一杯放ちながら礼を述べる。

 けれど忠夫の礼に女華姫は何も応えず、無言で姿を消した。おそらく本殿へと転移したのだろう。

 (イワナガヒメ様、照れていたのね〜) (耳が赤いのは隠し切れなかったわね)

 「俺、なんかまずい事言ったか?」

 ヒャクメとタマモだけが女華姫の様子を正確に見抜き、忠夫は彼女の様子になど全く気付いていなかった。


 どうにか敵を、富士の樹海へと吹っ飛ばす事に成功した忠夫達。
 しかし、思わぬハプニングが起こって痛み分けに終わった。
 果たして忠夫達は、無事にこの難事を乗り切ることが出来るのか?


      続く


 こんばんわ、月夜です。想い託す可能性へ〜にじゅうはち〜を、ここにお届けします。
 冒頭にもありますように、前話のパスワードを間違っていたらしく続編投稿コマンドが使えませんでした。申し訳ありません。
 今回のお話では、一度途中まで書き上げた物が消えてしまう等、不運が続いて投稿が遅くなりました(泣
 今回のお話は、予告と内容が違ってしまいました。すみません。
 誤字・脱字、表現がおかしい文章を見つけましたら、お知らせ頂けたら幸いです。その時は直ちに修正致します。
 では、レス返しです。

 〜kntさま〜
 初めてのレスをありがとうございます。こう一言だけでも感想を頂けると、読んで頂けている実感があって、嬉しくなります。また気になる事でもありましたら気軽に感想を書き込んで頂ければ幸いです。
>うお、死んだ筈の……超期待です。
 多分ご想像のあの人で合っていると思います。なんの捻りも入れてませんし(^^ゞ 今回も、あの人は夢現な状態でも忠夫を支援しています。

 〜星の影さま〜
 ご感想ありがとうございます。前話に続き、またコメントを頂けるとは嬉しい限りです。今回のお話も楽しまれて頂ければ幸いです。
>戦闘、というよりも心理戦ですね、これは。
 星の影さまの仰るとおり、令子さんは頭脳戦が似合います。でも、彼女自身は緊迫した頭脳戦より、相手をいかに扱き下ろしてシバキ倒すかに快感を覚えていますので、今回の戦いはストレス溜まりまくっている事でしょう(笑)
>二人の忠夫、その長所短所が……
 ご感想の通り、今作の忠夫達はその様に書き分けています。なので、今回もシロから逆に技術を教えて貰っていたりしています。まぁこの辺も、後々の展開の為でもありますが(^^ゞ
>そして横島がどんどんと変わっていく
 まだ中途半端に復活中のあの人も手伝いますけど、真面目一辺倒にはならないでしょうね〜(笑)今後の変化が、ご期待に沿える変化であれば良いのですが(^^ゞ
>本格的な戦闘は次回……
 とりあえず長々とした戦闘描写は避けたつもりです。スピード感を重視した方なので、彼女達が敵をどうからかったのかは入れていません。今回のギャグ担当はまぁ……クスッとして頂けたら成功でしょうか(^^ゞ
>小説書くのは好きなんです
 一からお話を組み立てになられる方が凄いと思います。私は既存のお話を脇に逸らしたようなお話しか書けません>< やっぱり原作者というのは、プロの方でもアマの方でも凄いと思います。
>GSってキャラがすごく多いんですよね……
 書きたいエピソードはいっぱいありますけど、時系列の兼ね合い上で同時進行している時などは本当に迷います。その為に、私の作品は展開が遅くなってしまっています。たった二日間のお話なのに三年もかけて書く私は、ダメダメです>< 

 〜読石さま〜
 いつも感想ありがとうございます。お届けが遅くなりました。楽しんで頂ければ幸いです。
>早く名前を呼んであげてほしい……
 まぁ、普通バレますよね(^^ゞ でも、忠夫にすぐに気付かれると面白くない。そこが四苦八苦です><
 今回も内助の功やってますよ〜♪ 
>輝く悪魔みたいな手に獣の目がぎょろり
 な…なんてものを想像させるのですかぁ〜。背筋が冷えましたよっ(^^ゞ
 やばい、栄光の手の描写をちゃんとしておかないといけない事に気付かされました。ありがとうございます。けど、実体化した時の描写はしているんで、その姿がぼやけたのが彼の栄光の手の姿でもあります。
>除くものの都合の良い様に……
 天界に居る内は干渉を受けても神族なんですけどね〜。人間界で古くから認識されていれば、その修正も掛かって……という裏設定もありますけど、まぁ、日本的な考えでいけば妖怪です^^
 でも、妖怪は日本では神様にもなれますよ♪ その逆も然りですが(苦笑)


 それでは、次話まで失礼します。次回は、3月に入ってからの投稿になる予定です。

 ※小竜姫様の戦闘描写が凄くおかしい事に気付き、修正しました(2/24)

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