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「Step by step loiter2(GS+半オリジナル)」

カシム (2008-01-31 16:46)
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 時はゴールデンウィーク、五月の連休である。そうであるものとして考えてもらいたい。
 学生達は新生活に入って初の大型連休を楽しみにしつつ、休み明けの中間考査を考えないようにしている。
 しかし、ある学生はそれにあたらない。働かなければ食っていけない勤労学生である。
自らの学費を自らで稼ぐ感心な者もいれば、食費にも事欠くため稼がなくてはならない涙ぐましい者もいる。この区分けでいえば横島やタイガーは後者にあたる。
 彼らは働けど働けど我が暮らし楽にならざりを地で行く。給料が極端に低く、場合によっては損害賠償をしなくてはならないこともあり、所得が低い。
横島にあっては高校生という立場にありながら、レンタルビデオショップで大人の世界に足を踏み入れる大馬鹿者であるから、同情の余地はあまりないかもしれないが。
 さておき、彼らは高校生でありGSであるが、ゴールデンウィークは学生らしく過ごすよりも稼ぎ時であると予定されていた。


                        GS美神
                     Step by step loiter2
                         MAY


「それじゃ、また休み明けにこの場の全員がそろっているように。以上」
「起立、礼!」

 日直の言葉とともに歓声が響く。このクラスだけではなく、他のクラス、そして学校中が騒いでいた。
 それもそのはず。連休前日の放課後となれば心躍る時間帯である。著者にとってはもはやはるか過去のことなので曖昧であるが。

「おーい、そこの人外ズー」
「誰がじゃ! 俺はこいつらと違って純粋な人間じゃ!」
「横島サン、ワッシも純粋な人間じゃ!」
「えーっと、何です金井さん?」

 帰り支度をしていた愛子を除く横島達霊能関係者に声をかけた金井は、反論もいつものことと適当に流していた。

「お前らが連休仕事詰めなのはわかってるけどさ、今日くらいは空いてんだろ? これからどっか行かないか?」
「金がねえ」
「お誘いは嬉しいですケン、ワッシもです」
「同じく、です。申し訳ありません」

 金井の誘いを断った三人は三人とも高所得者が多数いるはずのGSの見習いである。世の風評も当てにならないと感じながらも、金井はさらに続けた。

「まあそう言うなって。女の子が三人来るんだ。メンツ合わせに「行くぞ友よ!」そーかそーか。横島はオッケー、タイガーとピートは?」
「むぅ……正直行きたいですケン、これから魔理しゃんと会う予定がありますケェ」
「よし、裏切り者は行け。ピートは?」

 ひどいですジャと、抗議の声を上げるタイガーを放置した金井はピートに向きなおる。

「お金が無いのもそうなんですが、教会に来訪者がありまして。僕に任された除霊の依頼人なんですよ」
「あー、それじゃしょうがないな」
「ええ、何でも二十歳くらいの女性だとか」
「わかった。除霊後の展開が読めたからお前も行ってよし!」

 なんのことやらと首をかしげるピートに、金井はこのイケメンがと呪詛を吐き捨て横島に向きなおる。

「よし。それじゃ行くか友(独り者)よ」
「ああ、行こうか友(独り者)よ」

 うはは、と空しい笑い声も高らかに、金井と横島は連れ立って教室を出ていく。その後ろ姿を見てピートとタイガーは呟いた。

「何でしょう、このやるせなさは」
「気にしちゃ負けですケン」

 その通りである。


 金井と連れ立って女の子との待ち合わせに向かった横島は、目標地点にいる三人の女子高生を発見し、やる気に充ち溢れていた気勢を萎ませていた。

「コラ金井。お前、女の子三人来るって行ってたじゃねえか」
「ああ、間違いないだろ?」
「間違いねえけどよ、何でこいつらだよ」
「ずいぶんね、横島」
「やっほー」
「横島クン、私たちじゃご不満?」

 腰に手を当ていかにも気の強そうな少女、ヒラヒラと手を振っているショートカットに眼鏡の少女、そして机を背負った少女。
 見間違えるわけもなく、馬尾眞子、汐戸恵、机妖怪愛子の三人であった。

「くそー、新たな出会いがあると思ったのに!」
「贅沢言うんじゃないわよ。私たちが付き合ってあげるだけでも感謝しなさい」
「何でそんな上から目線だよ、お前」

 眞子といつも通りの言い合いをした横島は、どうしても気になっていた愛子に目を向けた。

「話には聞いてたけど、お前本気でそのスタイルで街をうろつく気か?」
「そうよ? おかしい?」
「突っ込みどころしかねえよ」

 愛子はいつも通りに制服を着ており、靴も校内靴ではなくローファーだ。そして、彼女自身はいつも通りであるが、明らかに普通と違っているのが背負った机である。
 本体である机と共に行動しなくてはならないというのはわかってはいるが、シュールとかそれ以前に眼を疑ってしまう。

「まあまあ、どうせ横島クンお金無いんだから商店街ぶらつくしかできないんだし、商店街の人たちはもう愛子ちゃんに慣れちゃってるから大丈夫だよ」
「……毎度思うんだけどな、ここの学校の連中といい街の連中といい、適応能力高すぎじゃねえか?」
「その筆頭は横島クンだと思うけど?」
「そうか? それとどうせとか言うな」
「あははー」

 恵もまたいつも通りに軽快に毒を吐く。
 いつも通り。新たな出会いこそなかったが、仲のいい連中と過ごす時間もそれなりに楽しいのは確かである。

「まあいいや。どこに行くか、目星は付けてんのか?」
「お前がいるからな。金のかからないところ」
「それと、愛子ちゃんが入れるところ」
「……それって条件きつくねえか?」

 いっそのこと鬼ごっこやかくれんぼでも提案してやろうかと思った横島だが、さすがに自重した。小学校低学年辺りまでならともかくとして高校生に金のかからない遊びをしろというのは無理な話であるし、そもそも疲れることはしたくなかった。

「何にせよ商店街に行こうぜ。細かいことは後で考えよう」
「行き当たりばったりね、まあ、しょうがないけど」

 五人連れ立って学校を出る。そんな中、やはりどうあっても愛子は目立っていた。


 遊んでいる人を後ろから見る。ウインドウショッピングをする。懐を痛めず繁華街で遊ぼうと思えば、やれることは極端に少なくなる。
 横島らが選択したのはウインドウショッピングだった。適当にぶらぶらと、本やアクセサリー、CDなどを見て回る。
 そして服を見に来て、横島は見知った少女と付属物を見かけた。

「あれ、小鳩ちゃん?」
「え? あ、横島さん!」
「おお、横島やないか」

 花戸小鳩は横島のアパートの隣に住む一つ年下の少女だ。努力家であり、可憐な容姿とそれにそぐわない彼女の体のとある一点により、隠れた人気者である。
 小鳩の横に浮かぶのは、ラテン系の陽気な格好をした花戸一家にとり憑いている貧乏神である。祖先の悪行により貧乏神に憑かれていた小鳩は横島と出会い、横島の活躍により貧乏神は福の神に転じたものの貧乏神時代が長かったため福の神としての力は足らず、結局花戸家はいまだ貧乏である。
 ちなみに小鳩は擬似的なものだが横島と結婚式を挙げ、横島とデートをした初めての女性であったりする。

「小鳩ちゃん買い物?」
「いえ、ウインドウショッピングです。可愛い服とか買えないけど見ていて楽しいですから」
「あー、そりゃもったいないよなぁ。絶対小鳩ちゃんに似合う可愛い服いっぱいあるだろうけど」
「い、いえっ、そんな恐れ多い……」
「貧乏神よ、もっと頑張って小鳩ちゃん楽にさせたげろや」
「わかっとるわ!」

 自身の言葉に赤面した小鳩に気づいているのかいないのか、横島は傍らの貧乏神に言葉を向けていた。
 そこへ金井ら四人が話に入ってくる。

「横島、お前がその子と知り合いなのはわかるけど、こっちにも紹介してくれよ」
「あれ、知らんかったか?」
「あのとんでもないバーガーのせいで顔は知ってるけどさ、面識はないのよ」
「たしか、花戸小鳩ちゃんだった、よね?」
「それと貧乏神」
「福の神やってば!」

 貧乏神が生活費の足しによかれと思い、『チーズあんシメサババーガー』なる単体では人気があったり健康食品であったりするものを組み合わせ、結局カオスにしてしまったそれ何の罰ゲームと聞きたくなるような食品(というのは食品に対する侮辱かもしれないが)を開発したことがある。もちろん大量に在庫を抱える羽目になってしまい、言霊を使用してまで売りさばこうとして、結局は食べれば幽体離脱できる逸品としてオカルトショップに持ち込まれた。
この事件(?)により、小鳩の顔は広く学校中に知れ渡った。可愛く真面目で心優しいが、もれなく福の神を名乗る貧乏神が付いてくる、知りあいになりたいけどなりたくない少女と。

「はい、二年生の花戸小鳩です。横島さんとはアパートでお部屋がお隣でして、よくしてもらっています」
「私、馬尾眞子、よろしく」
「汐戸恵だよ」
「俺は金井「机妖怪の愛子よ」って、被るなよ。まあいいや、俺達は横島のクラスメイトだよ」
「よろしくお願いします、先輩方」

 深々と頭を下げる小鳩は礼儀正しい後輩として好意的に迎え入れられ、服屋へ同行することになった。とはいえ、やはり見ているだけではあるが。
 店に入ってしまえば、男と女は見る場所が違うこともあり三体四の別行動をとることになる。
 横島が靴下三足980円と四足1320円のどちらが得か本気で迷っていたところ、貧乏神が脇に漂ってきた。

「なあ横島」
「んー? なんだ、俺は今計算に忙しいんだが」
「ありがとうな」
「あん?」

 急に聞こえたしんみりとした声に振り向けば、貧乏神がどこか遠い目で女子四人組を見ていた。

「小鳩があんなに楽しそうにしてるの、わい初めて見たわ」
「そうか? 小鳩ちゃんの笑顔ってよく見るけど」
「同い年の娘っ子らと遊ぶなんて、できへんかったからな」
「ああ、そういうことか」

 遠くからでも小鳩の笑顔がよくわかる。眞子や恵に服を選んでもらっていたり、愛子と一緒に小物を見たり。それは年相応の女の子が遊んでいる光景に間違いなかった。

「お前の言うとおり、わいの力が足りんで小鳩には苦労させどおしでな。友達もなかなかできんかったけど、お前と知りおうてからうまいこといきっぱなしや」
「俺なんか大したことしてねえよ。小鳩ちゃんがいい子だから今の状況があるんだろ」
「ん、そうやな」

 そう言うと貧乏神は笑顔で小鳩らを見ていたのだが、

「お前、そうしてると不審人物だな」
「せっかく浸ってるんやからいらんこと言うなや!」

 横島の一言に台無しにされた。


 姿見の前でキャイキャイと女子高生四人が服を体に当てている。誰もが容姿は整っており見ていて飽きない、こともないが限度というものがある。

「なげーなー、ホント」
「なんで女の買い物って、買いもしねえのにこんなに時間がかかるんだ?」

 横島と金井は服を見て回り、買うか買わないかはともかく目星をつけていた。一通り店内を回り、出入り口付近で連れである四人を待っているのだが、いつまで待っても戻ってくる気配はない。

「なんやお前ら、女の買い物にも付き合えん甲斐性なしか」
「……他の誰に言われてもムカつくセリフだけどな、お前に言われとーないわ!」

 貧乏神も交えて男三人で待っているのだが、退屈極まりない。女三人寄ればかしましいというが、四人ならもっとだろうか。ひょっとして男らのことを忘れているかもしれない。

「金井、便所行ってくるわ」
「おう」

 とりとめないことを考えていると、横島がトイレへ走って行き、金井と貧乏神だけが残された。

「なあ貧乏神」
「やから福の神やっちゅう、まあええわ。なんや?」
「なーんとなく、確認するのがムカつくんだけどな。小鳩ちゃんて、横島のことが?」
「あー、やっぱわかるか?」
「なんとなくな。あー、くそ。横島のくせにあんないい子に好かれるなんて! おキヌちゃんといい、何であんなやつがいいんだ!?」
「あんな奴って、お前ら友達やないんか?」
「それとこれとは話が別だ」
「さよか」

 金井にとって横島は一番の友達と言っていい。霊能関係は全く分からないが、それ以外での付き合いは一番深い。だから横島が貧乏でとんでもなくスケベで馬鹿でデリカシーがないこともよく知っているが、どうしても納得のいかないことに横島は男女問わず人気がある。
 特に女性だが、普段が普段なのでみな表には出さないが、横島の動向を気にしている者は多い。横島が学校に来ることを心待ちにしている生徒もいるのだ。
 何せ小鳩が横島に好意を持っているということから、この場にいる女性はすべて横島に好意を持っていることになる。ライクかラブかはわからないが、少なくとも四人の感情は金井より横島に好意を抱いているというのは、悔しいことにわかってしまっていた。
 横島と長く付き合えば、元気なところだとか、かざらないあけすけなところだとか、何だかんだとお人よしなところだとか、そういった部分に触れるということもわかる。それにしたってマイナス方面が強く思えてならない。
 GSとして働いているとか、そういったこと以外に自分と横島の違いがあるのか。
 などなど考えていると、店内から大きなどなり声も聞こえてきた。目をやれば、店の奥で男女が揉めているようだ。

「って、あいつらじゃねえか!」
「何やと、小僧行け!」
「言われんでも行くって!」

 店の奥では、待っていた四人が二人の男たちにからまれていた。問題なのは、男たちが傍目にも明らかな不良であることだ。金や茶色の髪にピアスに腰パンと、外見だけでもわかりやすいのに無駄に巻き舌な発音とかがいかにもそれっぽい。
 金井が合流する少しの間に、状況はさらに展開していた。

「だから、謝ってるじゃないの!」
「んだと、てめえ! それが謝ってる態度かよ!」
「まあ、待てって。悪いって思ってるならちょっと付き合ってくれって言ってるだけだぜ? 二人だしいいだろ?」
「連れがいるって、言ったと思うんだけどな」
「放っておけばいいじゃん、いこうぜ」

 なんとわかりやすい展開だろうか。今どきどんな漫画でもドラマでもこんな展開はやらないだろう。読者や視聴者に喧嘩を売っているのか。
 とはいえ、現実に起きてしまっているのだからしょうがない。

「待った待った! 状況は全くわからないけどちょっと待った!」
「なんだおめえ、邪魔すんな」
「金井、遅いわよ!」

 ギロリと不良たちと、なぜか眞子に睨まれる。この状況をなんとかしようと金井の脳はフル回転を始めるが、修羅場に慣れていない一高校生では気が焦るばかりだ。

「いや、あの、俺の連れなんだよ、こいつら。なにがあったわけ?」
「ちっ、連れかよ。そこの女が背負ってる机が俺に当たったんだよ」
「そ、だからちょっと俺たちと遊ぼうって、そんだけだぜ」

 これまたわかりやすい展開だ。しかもだから、と言葉がつながっていない。
 連れを見れば、愛子が申し訳なさそうに頭を下げる。どうやら机が男に当たったというのは間違いなさそうだ。はしゃぎすぎて周囲の状況を見落としたのだろう。
 他には、眞子は気の強さのため憤っており、恵は面倒臭そうにしており、小鳩は貧乏神に心配されている。なんとかこの場を格好良く切り抜けたいところだが、テンパッている金井の脳は空回りしてうまく言葉が出てこない。

「そ、そう。そりゃ確かにこっちが悪いな、申し訳ない。だけどこれから行くところがあるんで、遊ぶってのは勘弁してくれないか」
「ああ? 何だよ、ごめんだけですむと思ってんのか!?」

 男の怒鳴り声に膝が震える。金井はケンカなど中学生の頃にしたきりで、取っ組み合いのとなればそれこそ小学生のころまでさかのぼる。明らかな悪意にさらされ慣れていない高校生にできることは、なんとか声までは震えさせないようにすることだった。

「そうは言われても、こちらとしては謝るほかないんだ。本当に申し訳なかった」
「ちっ」

 深々と腰を折る。相手と揉めたのは愛子が原因で、火を注いだのは眞子だったが、本来関係のない金井が頭を下げた甲斐あってか、相手は連れていくなどの考えは引っ込めてくれたようだったが、代わりに出された謝罪の方法はとんでもないものだった。

「ふーん、謝ってはくれるようだけど、それにしては頭が高くないか?」
「へっ?」
「日本古来の謝罪の方法があるだろ? この場でやってくれよ」
「お、そりゃいいな!」

 言葉にこそしなかったが、要求するものは何なのだかすぐにわかった。
 夕方の商店街という人通りの多い道路で土下座をしろ、そう言っているのだ。
 金井にも人並みの矜持がある。人前でそんなみっともない真似ができるものではない。何より連れの四人に格好悪いところを見せたくはない。
 ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる相手を前に、それでも仕方がないのか、と覚悟を決めかけたその時、場面が展開した。

「何やってんだ、お前ら?」

 トイレに行っていた横島が戻ってきたのだ。


 トイレから戻ってみれば金井も貧乏神もいなくなっていた。まさか置いて行かれたかと見てみれば、四人の男に連れが全員囲まれていた。人数的に囲むっていうのはおかしい表現ではあるが、状況から絡まれている様子はわかる。

「置いてかれたかと思ったよ、まったく」
「バカ、それどころじゃないのよ!」

 横島の軽口に眞子の怒鳴り声が返ってくる。連れに合流し、顛末を聞いて状況を察する。

「んだ、オメエは。まだ連れがいたんか」
「確かに俺はこいつらの連れだ。でさ、いかんよ、あんたら」
「あんだと?」
「ナンパをするのは大いに結構! 俺もよくやるし。だけど、連れがいたり、断られたらすぐ引くのがマナーってもんじゃないか。そんなんじゃ楽しいナンパはできないぜ?」
「誰がんなことやってるか!」

 横島の言葉に男が声を荒げる。しかし、金井らは先ほどまでよりも怖いとは感じなかった。

「なんだ、ナンパじゃなかったのか。そんじゃナンパ失敗ってことでここはひとつ」
「だから、ナンパじゃねえっつってんだろ!」

 もはや漫才のボケとツッコミである。緊迫した場面は一気にコメディに変わりはてていた。

「はあ、もういいよ。気分が削がれた」
「おい、いいのかよ?」
「よくはないさ。せめて謝罪の気持ちを表してくれよ。誰でもいいから」
「まあ、こっちが悪かったのは確かみたいだからそりゃやるけど、どうすりゃいいんだ?」
「さっきも言ったけど、この場で日本古来の謝罪方法をやって見せてくれよ。生で見たことないんだ」

 男たちの回りくどい言い方に、横島は少し考えてから気づいた。普通の、横島と同年代の男ならプライドが傷つけられそうな方法であるが、横島にとってはよくやることであり、何より彼自身普通ではなかった。

「ここでいいのか?」
「あ?」
「いや、だからここでやればいいんかって聞いてるんだけど。ああ、そうだな、どうせなら誰の目にも分かりやすいように表でやるか?」
「何言って、っておい!」

 横島は男の返事を待たず、店の外に出て行った。男たちと金井らも後を追う。
 時刻は夕方であり、場所は商店街のど真ん中。人通りは歩けないほどではないにしろ、かなり多い。
 そんな中、ぽっかりと空間ができた。横島が道のど真ん中で急に座り込んだからだ。
 道行く人は、何だこの馬鹿はとでも言いたげな目で横島を見るが、どこ吹く風と横島は全く気にしてはいなかった。

「そんじゃ、俺の連れが迷惑かけてすんませんっしたーっ!」

 叫ぶでなく、大きな声を上げ横島は土下座した。これこそが土下座、誰がどう見ても土下座とわかる、土下座であった。
 大きな声に視線が集まり、横島だけではなくその対象になっている男たちにも向けられた。

『やだー、何あれ』
『みっともなーい』
『すげ、生土下座だ』
『何事だ、いったい?』

 視線と一緒に、周りを囲む野次馬から揶揄する声が聞こえる。それに耐えきれなかったか、男たちは居心地悪そうにしている。

「……行くよ」
「ああ、いいのか?」
「これ以上、ここにいたらただの恥さらしだ。この後に何かできるわけないだろ」
「確かにな」

 そして男たちは人ごみにまぎれていった。土下座している横島にはわからなかったか、金井に呼び起されるまでしばらく土下座をし続けていた。


 騒ぎになってしまった店の前を離れ、商店街内の公園に立ち寄る。状況だけが目につきそれを行っている人物までは目に入っていなかったのか、好奇の目を向けてくる者は誰もいなかった。

「バッカじゃないの!」
「いきなりそれかよ」

 ベンチに座ってジュースを買い、一息ついていたところ、落ち着いたためなのか眞子が横島に向けて言い放った。

「なんであんなことができるわけ? 信じらんない!」
「言うてもな、土下座すりゃ許してくれるっつーんだから、やっただけだぜ」
「あんな奴ら、やっちゃえばよかったじゃない。あんたGSなんでしょ!?」
「物騒なこと言うなよ。霊能力は一般人に使うもんじゃないし、もともと悪いのはこっちなんだからさ」
「あんたにはプライドってもんがないの!?」
「ねえ」

 まくし立てていた眞子だが、キッパリと言い切った横島の言葉に勢いが削がれる。

「人生平穏無事が一番だ。もめないに越したことはねえ」
「〜〜っ、もういい! 私帰る!」
「あ、眞子ちゃん!」

 呆れたのか、落胆したのか、眞子は飲み干した缶を勢いよくゴミ箱に投げつけ、公園から小走りに去っていく。

「私も行くね、横島クンありがと、小鳩ちゃんと貧乏神クンじゃあね」
「あ、私も帰るわ。今日はありがとうね横島クン。またね」
「……俺も行くわ。休み明けにな」
「おう、じゃあな」

 それを追って恵、愛子、金井が公園を出ていく。わき目も振らずに行った眞子とは違い、横島と小鳩らに挨拶をしていった。
 横島と小鳩、貧乏神が残される。いつもならば何かと話すことはあるのだが、眞子の勢いが良すぎたためか、どうにも言葉が出てこない。
 グイッと缶コーヒーを飲みほし、ゴミ箱に投げ入れる頃になり、ようやく言葉がまとまってきた。

「最後にケチが付いちまったけどさ、今日はどうだった小鳩ちゃん?」
「え、ええと……皆さんよくしてくれましたし、それに今度また遊んでいただける約束もしました」
「そかそか、そりゃよかった。今度は愛子によく周りを見るように言っておくよ。あいつのポカのせいで面白くないことになっちゃったらたまんねえし」
「ふふ、ひどいんだ、横島さん」

 小鳩もジュースを飲みほし、自然と足はアパートへ向かう。話す内容は様々あったが、友人たちのことに触れると横島は苦笑した。

「あいつらとの付き合いは高校入ってからだけどさ、眞子をあそこまで怒らせちまったのは初めてかもな。もう口きいてくれねえかも」
「そんなことありませんよ」
「そうかな。あいつめちゃめちゃ怒ってたし」
「まだ少ししか眞子さんとの付き合いはないですけど、頭が冷えればわかってくれると思いますよ。横島さんが、後でもめないようにあの場を収めてくれたことが」
「え、いやーそこまで考えてなかったけどね。ケンカすんのやだからああしただけだし」

 ナハハと情けなく笑う横島に小鳩にも笑みが浮かぶ。
 横島は相変わらずだった。正直であけすけで、誰かを守るためなら自分が恥をかこうと気にしない。そういうところは小鳩を助けてくれた時と変わらずにいる。

「恵さんたちも一緒に行かれたようですし、フォローしてくれてると思いますよ」
「あいつらも俺に呆れてるかもな」
「いいえ。みんな横島さんのこと、す……わかっていると思います。だから大丈夫です」
「そうかね?」

 小鳩はほんの数時間しか話していない三人の女性が、それぞれ横島に好意を向けているのに気づいており、理解しているのがわかった。金井も同様だろうとわかるから、自分たちとは別行動で帰っていった面子に対して心配はしていなかった。
 ただ、小鳩が気にしていたのは、霊能事務所以外のライバルの出現であった。美神たちとはまた別の絆で結ばれた、学校生活という学生の大半を占める時間を共に過ごしてきた人たち。こちらも強敵だ。
 日没間近の太陽に向かい、小鳩頑張ります、と決意を新たにする。
 もっとも、その対象は太陽にガッツポーズを向けているような小鳩に不思議なものを見るような視線を向けていたのだが。


 金井は自らの疑問に対する答えを得ていた。すなわち、自分と横島の違いは何か、だ。
 土下座しろと言外に言われたとき、横島は徹底して場を収めることしか考えていなかった。金井も横島が来なければ最終的には土下座をしたのかもしれないが、横島のようにあの場を上手くまとめられたかというと自信はない。
 何より今日以降、あの男たちに眞子たちが出会ったとして、手を出そうとは思わないだろう。横島は大げさに言うならば今だけでなく、未来に渡ってまで守ったのだ。
だが、金井は自分のプライドや格好悪いところを見せたくないなど、保身を考えてしまった。横島にもそれはあるのだろうが、優先順位が違っているのだろう。

「あー、いらつく、腹立つ、むかつく!」
「まあまあ眞子ちゃん落ち着いて」
「ごめんね、眞子」
「え、いや愛子に怒ってるんじゃないのよ?」
「横島クンのこと?」
「そうよ。あんなことして恥ずかしくないのかっていうの!」
「私が言うのもなんだけど、恥ずかしくないんじゃない?」
「うーん、そだね。横島クンのことだから」

 そう、横島は恥ずかしがらないだろう。誇りもしないだろうし、感謝してもらおうなどと露にも思わないだろう。横島にとって、あれはそういう行為だったのだから。

「眞子ちゃんだってわかってるでしょうに」
「……そりゃ、ね。ただ、もうちょっとやりかたがあったんじゃないかと思うのよね」
「ひょっとしたらそうかもね。ただ時間がかかったり、事が大きくなると困ったことになってたと思うの」
「どういうこと?」
「私みたいな妖怪がもめごと起こしたらGSとかオカルトGメンが調査に来てたかも、ってこと。私が原因だからしょうがないんだけど」
「そんなこともあるの?」
「うーん、アイツがそこまで考えてるわけないだろうけどね」

 横島の性格からして深い考えあっての行いとは思えない。それはつまり、自然にできるということだ。横島と金井の違い、言うなれば器の大きさだろうか。それを見せつけられたような気分だった。
 とはいえ、横島にコンプレックスを感じるとか見習おうという気にはならず、付き合いを変えるなどという気が欠片も起きない。何といっても普段が普段な男であるし、距離を置くには面白すぎる友人だからだ。

(あいつはあいつで俺は俺か。なんか、今日は古いドラマみたいだな)

 自分の考えに苦笑する。さしずめ自分の役は主人公の友人Aといったところだろうか。

(ま、脇役は脇役なりにスポットライトが当たる場面があるもんだ)

 商店街から歩き続け、金井の家の方向、駅、学校と、それぞれの別れる道に差しかかる。

「そんじゃ、俺こっちだから」
「うん、金井ありがとね」
「ちゃんと金井クンが助けに来てくれたこと、知ってるからね」
「バイバイ、休み明けにね」

 手を振り別れる。彼女らからは友人としか見られていないが、それでも感謝の言葉は嬉しい。これもまたスポットライトの一つだ。
 何はなくとも、一介の高校三年生でしかない自分は、受験生らしくゴールデンウィークは遊び呆けつつ勉強をすればいいのだ。
 金井はオシッ、と気合を入れ、家路に向かった。


 夕焼け空を見上げつつ高校生は帰路に着く。
 今日起きたことは日常の中のちょっとした特殊、劇的な何かがあったわけではない。それでも経験した者の心にわずかなりと揺れを生じさせた。
 大きく変化を起こすような事ではないが、積もり重なった揺れはいずれ心に何かを生じさせる。
 それがわかるのはまだ先のこと。


 おまけ

 後日の学校で。

「愛子、お前もっと周りに気をつけろよ。何でかお前を受け入れてる連中多いけど、そうでないのもいるんだから」
「ええ、確かにうかつだったわね」
「なあ横島。もしケンカとかになって警察ざたになってたら、どうなってたんだ?」
「ん? そうだな……下手したら愛子を除霊せにゃならんかったかも」
「そんなことさせないわよ!」
「俺だってさせたかないって。でも例外除いて妖怪の類に過敏に反応する奴って多いからな。お偉いさんなんか、その傾向があるな」
「お偉いさんっていうと、教育委員会とか?」
「学校関係ならそうかな。官房長官とかも頭固かったな。総理大臣ははっちゃけてたけど」
「か、官房長官!? 総理大臣!?」

 改めて横島の、というか美神の仕事相手が超大物であると再確認できる発言だった。普通の高校生はその方々とは面識を持つことはない。

「もっと気をつけなくちゃいけないよな」
「一番の解決法は愛子が外をうろちょろしないことだけどな」
「だめよそんなの! 愛子がかわいそうよ」
「わーってるって。まずもめごとを起こさないことと、起きてしまったあとに穏便に事を収められりゃいいんだ」
「それなら任せて! もう考えてあるから」
「ん、どんなんだ?」
「愛子ちゃんがその人たちを飲み込んで、中でじっくり話し合えばいいのよ」
「却下だ!」
「あ、その方法があったわね」
「お前も納得すんじゃねえよ、シャレにならねえ!」
「冗談じゃないよ?」
「なお悪い!」

 ボケもツッコミも両方できる横島の高校生活の明日はどっちだ!?(意味なし)


 さすがに更新速度は他の方々に比べるべくもありませんが、それでも前よりかはましかなと思いつつカシムです。「Step by step loiter2」お送りいたしました。
 今回からでアレなんですが、道草の副題については月の名称とすることにします。1は4月と思ってくだされば結構です。今回は5月です。ああ、パスワードを忘れてしまうなんて、阿呆だ(泣)

 さて、今回も横島の学友で、顔だけはよく出てくるけど名前は設定されていない(はず?)の彼らに登場願い、さらに小鳩と貧乏神の登場です。ところで、貧乏神でいいのでしょうか? 一応福の神になっていたはずだけど?
 書いていて思ったんですが、これはオリ表記をつけたほうがよさそうな感じです。外見とクラスメイトという設定だけで、性格とか完璧オリですし。

 さてさて、今回書きたかったことは
                     orz
 ではなく
                     土下座
 これにつきます。これが書きたかった。
 原作で不良に絡まれた横島は、芸をしたり、媚びへつらったふりして逃げたりと、格好いいところは欠片もありません。なら、下手に逃げることはできず、こちらに分が悪いとどうなるか? 私の答えは作中の横島の通り。
 しかし、今回は反省しなければなりません。視点の変化が多すぎました。横島の視点、金井の視点だけでは書ききれないところが出てきてしまったためですが、わかりづらくなってはないかと不安です。

 唐突にレス返し
>偽バルタン氏
 おいしいところを持っていき、しかし報われない男。それが横島忠夫。
 でも美味しいところを持っていかせ過ぎるとご都合主義になってしまうので気をつけねば。

 さて次回は5thstepの予定です。遅筆病が顔を出しませんようにと願いつつまた次回。

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