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「栗色の髪の少女 横島! 第十四話(GS+オリキャラ)TS有り」

秋なすび (2008-01-12 02:05)
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──護りたい。

私は笛を吹く。唇に、喉に、想いを込めて。

──横島さんを、美神さんを、そしてこの想いを、護りたい……。

私は笛を吹く。抱きしめる暖かな温もりを絶やさぬように。

──横島さん……、私に勇気をくれる人……。お願い、生きて……。

その時、私の身体は淡い光に包まれた。

──お願い……。

この想い、届け。


栗色の髪の少女 横島!! 第十四話


目をあけて、ヨコシマ!! 霊力を上げるのよ!!

──あぁ……、懐かしい声がする……。

魂が……霊力がなくなったら生命も消えちゃう!!

──生命が消える……。死ぬってことか……。

ヨコシマ!!

──そんな必死に呼ばなくても……。死んでも生きられるって、誰かが言ってたよな……。

…………死なせない、どんなことをしてもよ……!!

──どんなことをしても……どんなことを……。待て……待ってくれ!

生きて、ヨコシマ……!!

──待ってくれ! ルシオラ!!!

「待ってくれ!!」

目を開くと俺は誰かにもたれ掛かっていた。

「あ、横島さん! 気がついたんですね! 良かった……」
「おキヌちゃん……?」

目の前には誰かの横顔が見えた。おキヌちゃんだ。そうか、俺はおキヌちゃんの肩に顔を凭れさせて気絶したんだっけ。でも、生きてるんだな、俺。死ぬのかと思ったけど……。生きている……?

──どんなことをしてもよ……!!──

「おキヌちゃん! 身体、大丈夫か!? どこか重いとかないか!?」

はっとした俺は、まだ重たく動きが鈍い首をなんとか持ち上げ訪ねた。言うことを訊かない身体がもどかしい。

「え? いえ、そういうことはないですけど……、それよりも横島さんこそ大丈夫ですか?」

それに微笑みで応えるおキヌちゃん。しかし、沸き上がる不安は収まらない。

「あぁ、俺は身体がまだちょっと動かないけど、大丈夫みたい……。いや、俺のことはどうでもいい。それより、本当におキヌちゃんは大丈夫なのか?」
「え、えぇ、私は本当になんともありませんよ……?」

俺の再三の問いかけにおキヌちゃんは困ったような顔で応えてくる。

「そ、そうか……。それならいいんだけど……」
「さっきからどうしたんですか? おかしいですよ?」

俺の顔を見ながら首をかしげる仕草を見せるおキヌちゃん。本当に大丈夫ならいい。本当に……。俺は、安堵の息を漏らすと首の力が抜け、またおキヌちゃんの肩に顔を載せた。考えてみたらおキヌちゃんは人間だ。まさか、あいつと同じようなことができるわけがないよな……。

「いや、俺の思い過ごしだった、気にしないで。それより俺、どれくらい気絶してたんだろう。ていうか、どうして俺、無事だったんだ?」
「それが、私にも良くわからないんです。私が笛を吹いていたら光に包まれて、それでいつの間にか背中の傷が無くなってたんです」

そう言うと、おキヌちゃんは俺の背中に手を回し、傷があったのであろうあたりをなで始めた。掌の触れるちょっと冷たい感触が背中をくすぐる。どうやら服も破れてしまったようだ。

「そっか……」やっぱりおキヌちゃんはすごいな……。「あ、そういえばあの雑魚霊達はどうしたんだ?」

俺はふと浮かんだ疑問を口にする。

「えぇ、みんなあの結界の中に封じ込めておきました」
「え?」

おキヌちゃんの視線に促され、俺はそちらへと目だけを向ける。そこには、半径1m程度の狭い円陣の中に一杯に詰められた雑魚霊達が緑色の柱のような塊になっていた。

「うわぁ……、すごいなこれは」

一体どれだけ居たんだ。耳を澄ませば『ほれ見てみぃ、なんか女同士でええ雰囲気になっとるで』とか、『なぁ……ユリっちゅうのは、ユリ・ゲラーの、略か?』『ちゃうやろ……』とか、訳のわからない会話がそこから聞こえてくる。ていうか懐かしいな、おい……。

「あ、美神さんは? まだ戻ってないのか?」
「えぇ……、まだ戻ってきません……」おキヌちゃんは少し影のかかった声で言う。「でも、きっと大丈夫ですよね。美神さんなら……」

俺はその言葉に顔を僅かに肯かせ応える。あの女の事だ、けろっとした顔で戻ってくる。人のこと心配させるだけさせておいて、本人は我が道を突っ走る、そんな人なんだ。地球が滅んでも、この世界が無くなっても、いや、三界全てが消失してしまっても、あの女だけは生き残る。

「おキヌちゃん、俺はもう大丈夫だから、結界の中にでも寝かせておいてくれないか? そしたら少し中にも入れるだろ?」

俺はおキヌちゃんにそう促した。しかし、おキヌちゃんは黙ったまま何も応えない。

「おキヌちゃん?」

訝しく思った俺は問いかける。すると、おキヌちゃんは頬をこちらに寄せ、その両腕で俺の頭を抱きしめた。

「お、おキヌちゃん!?」
「ごめんなさい……」おキヌちゃんは小さく呟くように言った。「ごめんなさい……、私がもっとしっかりしてたらこんな事にならなかったのに……」

その声は微かに震えている。もしかして泣いてるのか?

「そ、そんなことないって。あれはたまたまだよ。それに、今度はちゃんとやればいいだろ? ほら、今もこんなに上手くやれたし、俺だってもう大丈夫なんだからさ」

俺は今すぐにでも飛び退き、力こぶでも作って見せてやりたい気分だった。今の姿じゃ様にならないだろうけど……。

「ごめんなさい……。やっぱり私……」
「何……?」

しかし、それでもまだ震える声で呟くおキヌちゃん。そして、何かを躊躇うかのように言葉を切ると一つ間を置き、続けた。

「私、あの時思ったんです。こんな不甲斐ない私だけど、横島さんを護りたいって。あなたのことを護りたい。そのために強くなりたい。これからずっと護っていきたいって……」
「え……」

その声の震えは止まり、静かに、しかし、何かを訴えかけるように力在るものへと変わっていた。そして抱きしめる腕を解き、その手で俺の頬に触れ……

「横島さん」

その深い黒の瞳で俺を見つめ……

「好きです……」

その唇を寄せた……。


どれほど時が経っただろうか。淡いランプの光に照らされて、大きな影が二つ重なって壁に映し出されている。その影は微動だにせず、ただ、白壁に浮き上がる模様のように張り付いていた。おキヌちゃんの微かな吐息が口元に感じる。触れ合う肌の温もりが直に伝わってくる。俺は……キスを、しているのか……? 後ろではさっきまで騒がしくしていた霊達がしんと静まりかえり、時折溜め息のようなものすら聞こえてくる。お前ら空気読み過ぎだ。いや、しかしこれは……。お、おキヌちゃん……。俺は現状を理解するのに苦しんだ。身体は言うことを訊かない。おキヌちゃんは突然キスをしてきた。そして美神さんは戻ってこ……。

「お待たせ〜」
「「!!」」

と、唐突に美神さんの声が届いた。其れと同時に離される唇。しかし、姿勢はそのまま。

「あ、あら〜……?」美神さんは素っ頓狂な声を続けて上げる。「もしかして、お邪魔だったかしら?」
「ちょ、ちょっと美神さん! これは、その、深い理由が!!」

俺は首を動かしその声のする方を何とか見、そして言った。そこには眉を寄せて困ったように笑う美神さんの姿があった。

「別に、いいのよぉ? 気にしないでもぉ。どうぞ、そのまま続けちゃいなさぁい?」

その表情は徐々に黒いものに変わり、口の端が歪につり上がっていくのが見て取れた。やばい……、なんかすっごくやばい。

「み、美神さん! こ、これは、私が……」

おキヌちゃんも顔だけ後ろに向け言う。

「何よ」
「「ひっ!」」

しかし、その言葉は強烈な黒いオーラを纏い睨み付ける美神さんの一言で一蹴された。まっずい。すっごい怒ってらっしゃる!

「ふふふ、どうやら私邪魔みたいだから、二人でよろしくやってなさい。じゃあね」
「ちょ、ちょっとそんな! 美神さ〜ん!!」

美神さんはその真っ黒な笑顔で明るく、しかし棘の成分がたっぷりと詰まった言葉を言い放つとぷいっと振り返り、また奥の方へと戻っていこうとしてしまった。後ろでは霊達の声が聞こえる。『お! 修羅場や修羅場!』『あらまぁ、女三人で痴話喧嘩かいな。こりゃ犬も食わへんで、ほんま』云々。

「うっさい!!」

それに反応した美神さんがまた此方へ振り向いて怒鳴る。と、その時美神さんの後ろで何かの気配が沸き上がった。

「み、美神さん! 後ろ! 後ろ!!」

コントではない。あれは悪霊! まだいるのか!

「ちっ、どいつもこいつも……うっさいわねぇ!!」

美神さんはそれを振り向きざまに繰り出す神通鞭で跡形もなく薙ぎ払った。

「二人とも! 来るわよ!!」
「「え?」」

急に顔を引き締めた美神さんが一喝する。すると再び壁の向こうに大量の霊の気配が沸き上がる。まだこんなにいるのか!

「横島クン! 結界の中に入ってろって言ったじゃない! なんで出たのよ!」
「い、いや、これにはちょっとした訳が……」

俺は言い訳をしようと口を開く、しかし、それを遮りおキヌちゃんが口を開いた。

「今は動けないんです! 横島さんは私が護ります!」
「おキヌちゃん……?」

きっ、と美神さんを睨み付けるようなおキヌちゃんの横顔、そしてこちらに顔を向け、そっと微笑みかける口元。俺はその凜とした表情に、不覚にも……見とれてしまった……。え? ち、違う! いや、違わないけど、違う? あれ? えぇ!?

「横島さん? 顔、赤いですけど、大丈夫ですか?」

不思議そうに見つめてくるおキヌちゃんのその言葉に俺は慌てて肩に顔を埋めた。違う! やっぱり違うんだ!!

「い、今はそれどころじゃないだろ! あ、悪霊が!」
「そうですね……、美神さん、結界は一杯です! 動きを止めることしかできませんよ!?」
「ふん、十分よ。来るわよ!」

『ぐるあああぁぁああああぁぁぁぁぁあああああ!!』

再び辺り一面に無数の霊の影が姿を現す。そして聞こえてくるのは耳朶をくすぐる美しく、優しい笛の旋律。そして、風を切る鞭の音。埋めていた顔を少し横に向ける。そこには目を伏せ、一心に笛を吹くおキヌちゃんの横顔。おキヌちゃん……。その真剣な横顔に胸がうずき、またすぐに顔を肩に埋める。だ、だめだ! 見ていられない……。どうしちまったんだ、俺!? 昼間のあいつのことは、単に夢の影響だと思ってたけど、これは、違う……? で、でも、それじゃこれは一体。相手は女の子だぞ……!?
笛の音と鞭の音が不思議な旋律を紡ぐ中、しかし、霊の気配は徐々に増していく。或いはさっきよりも数が増えているのではないか、そう思う程、宙を舞う霊気の圧力は俺に強いプレッシャーを与える。いや、これももしかすると遮霊環のせいなのかもしれない。さっきの雑魚霊の一撃で、普通ならばあんなダメージを受けるはずがないのだ。普通なら……。
ふと嫌な予感に襲われた俺は顔を上げる。辺り一面に緑に輝く悪霊が奇妙に鮮やかな尾を引き舞い踊っている。それらは笛のリズムに乗り、まるで何かに陶酔しているかのようにさえ見えた。しかし、その中から一体の霊がその群れを外れ、それは此方側へと一直線に向かってきた!

「あ、危ない! おキヌちゃん!!」

俺は叫んだ。しかし、次の瞬間、俺は何かによって下に押し込まれ、視界が遮られた。

「つっ……」

誰かのうめき声が聞こえる。そして、一瞬途切れる笛の音。

「おキヌちゃん! 大丈夫か!?」

俺は慌てて身体に力を入れ顔を上げようとする。しかし、それは上から押しつけられるように遮られた。俺はおキヌちゃんの胸に抱かれていたのだ。はは、女の子に護られてるのか。情けねぇな……俺……。
しばらく霊の気配は増え続け、それはとどまることを知らないかのように思われた。しかし、突然、その気配が止み、そして次には今までとは違う一体の巨大な気配が現れた。肌が泡立ち、嫌な汗が一気に噴き出す。ボスか……!

「やっと来たわね、刃物野郎!」

美神さんが叫ぶ。

「行くわよ、おキヌちゃん!」

美神さんの合図と共におキヌちゃんが俺に覆い被さるようにのりかかる。

がたんっ!

何かが落ちるような音と共に視界の端から強烈な光が差し込んだ。眩しい……! そして周囲の霊の気配が一気に萎み、それらはどんどん四散していった。

「ふふふ、やっぱ効くわねこれは。電気はセイコー、電気のセイコー(聖光)!」

サングラスを掛けた美神さんが叫ぶ。
それは土間の四方に設置されたぱっと見はただの小型スポットライト。しかし、それには悪霊を退ける聖なる光を放つ仕掛けが施されていたのだ。しかし、真っ暗なところでしか使えないらしく、つまり夜くらいにしか使えない。

「は、ははは……」
「時計っしょ、それを言うなら……」
「いいじゃない別に。それにしてもさすがザンス製のレンズだわ。さぁ、お仕置きの時間よ」

そう言うと美神さんはぎゅっと神通鞭を握り、不適な微笑みに鋭い眼光を湛え、ボスらしき刃物を持つ悪霊を睨み付けた。それは聖光に当てられふらふらと漂い、既に半ば成仏しかけているように見えた。しかし、そこは美神さん、決して容赦はしない。

「さっきはよくもやってくれたわねぇ……。成仏したって許しやしないわよ。髪の毛3本の恨み、思い知るがいいわ!!」

3本は重かった。きっと彼は極楽でそう思っていることだろう。哀れな……。


結局美神さんはその悪霊を吸引せず、気が済むまでぼっこぼこにしばき倒し、それは最後には逃げるように自力で成仏してしまった。「野郎、逃がしたか……、来世でも覚悟してなさいよ……」いや、ぜんっぜん気は済んではいないようだ。
これは後で解った事なのだが、今回の雑魚霊大量発生の原因は結局解らなかったようだ。通常、雑魚霊はより大きな霊力を持つ霊の方へと集まっていき、結果的には今度のように強力なボス霊の周りを群れを成して漂っていることが多い。しかし、それは当然湧いて出てくるものではなく、もともとそこら辺に漂っているものが集まっただけのもにすぎず、通常それほど多いものではない。それを思えば、今回、こんなに大量に霊がいたということは、つまり、“元々この周辺には大量の霊が存在した”ということになる。それが普通ではないということは確かなのだが、しかし何を意味しているのかは解らない。解っていることは、これをネタに、依頼主が美神さんから巨額の違約金をふんだくられたということだけだ。哀れな……。
帰り際、俺はおキヌちゃんと二人で行きと同様に重い荷物を背負い、ふらふらとしながら下りた。しかし、そんな俺達を余所に美神さんは一人で先にとっとと下りて行ってしまった。そして、車に辿り着くと、今度は俺が助手席に乗るのを拒み、俺はおキヌちゃんと一緒に後部座席に座ることになった。おキヌちゃんが人間として事務所に戻ってくる以前は二人乗りのオープンスポーツを好んで乗っていた美神さんだったが、今ではおキヌちゃんも乗せるために4人乗りのオープンカーを仕事用に使っている。俺はその後部座席に初めて乗ることになった。そう、行きは助手席だったのだ……。
帰りの道では3人、ほとんど口をきくことはなかった。運転席の美神さんは話しかけがたいオーラを身に纏っていたし、横に座るおキヌちゃんには少し近寄りがたかった。どうしてもあの唇の感触が忘れられず、その顔を見ることもままならなかったのだ。しかし、説教はしっかりとされた。美神さんは俺が結界から出たことに随分と怒っていたようだ。

「あんた、自分がどれだけ危険な状況かわかってないんじゃないの? 今のあんたは文字通り霊能0なのよ。普通の人、つまり、霊能者じゃ無い人間でも自分の周りに霊気の壁が多かれ少なかれあるの。でも、今のあんたにはそれが全くない。それがどういうことか解ってんの!?」

今回、俺は身にしみてそれを実感した。普通ならばたかが雑魚霊一匹の直撃を受けても、怪我くらいはしても致命傷なんてことにはならないはず。しかも、俺は怪我が治ってもしばらく身体が動かなかった。それはつまり……。

「只単に怪我を負うだけならまだいい。おキヌちゃんに治して貰えば助かるわよ。でもね、霊気で護られてるのは肉体だけじゃない。魂だってその恩恵を受けているのよ。それがどういうことか解る? あんた、魂を削られたのよ!?」

つまりは魂が直接ダメージを受けたということだ。それがどういうことか、頭で理解できても、やはりピンと来ない。が、しかし、嘗て俺はそうして生命の危機にさらされた……。


事務所に戻ると時計の針は昨日と同様午前0時を回っていた。荷物を応接室の一角に置くと、眠気に襲われた俺は一つ伸びをし、そしてちらりと横にいたおキヌちゃんに目をやった。おキヌちゃんは荷物の中身を探り、その中身を出し始めていた。俺は車の中でも結局会話らしい会話が出来ずにいた。俺からは話しかける事ができなかったし、話しかけられても曖昧な応えを返すだけでまともな会話にはならなかったのだ。

──好きです……──

ぼんやりと頭の中をあの言葉が蘇る。

──横島さんは私が護ります!──

その言葉に胸が高鳴るのを自覚する。一体……一体どうしたっていうんだ……。

「で、あんたどうするのよ」

ふと美神さんが俺に向かって言った。見れば美神さんは憮然とした表情でこちらを眺めている。そういえば今日は一日ずっと不機嫌なままだ……。

「どうするって、何をっスか?」

何について訊かれたのか解らなかった俺は訊き返す。

「あんた、まさかその格好で帰るつもりだったわけ?」
「え? あ……」

俺は自分の今の格好を思い出した。そういえば俺、なんでこんな格好してたんだっけ?

「この格好結構恥ずかしいんスよねぇ」
「そういうこと言ってるんじゃないの。あんたは気づいてないかもしれないけど、背中すごいわよ?」
「背中?」

あ。その言葉で思い出した。雑魚霊の攻撃で服が破れたんだった。背中がスースーするのを今更ながら感じた。

「すごいってどんくらい……?」
「もう背中剥き出し。スカートも破けてパンツ丸見え」

うわぁ……。そんな格好で俺、歩いてたんだ……。は、恥ずかし〜……。

「はぁ、ちゃんと買い物してきてたら良かったのに……。何度も言うけどうちにはあんたに貸せるような服はないわよ。またあのゴスロリ着る?」
「あれはちょっと……。じゃ、じゃあ、コートか何か羽織るものないっスか? 隠せば帰るくらいなら……」
「まぁ、それくらいならあると思うけど……」
「そんなのだめです! 横島さんに何かあったらどうするんですか!!」
「お、おキヌちゃん!?」

突然おキヌちゃんが会話に割って入り、俺の手を握った。ひっ! は、離して、お願い……!

「そそそそんなこと言ったって、ふふ服ないと、おおおお俺、どどどうすればいいんだよ!」
「それは……。ていうか、何でそんなに慌ててるんですか?」

俺の反応におキヌちゃんは訝しげに顔を近づけてくる。い、いや〜〜! やめて〜〜!!

「おおおおおキヌちゃちゃん? ち、近すぎないいい??」
「な、何がですか?」
「ななな何がって、それはその」

息が! 息がかかるぅ!!

「はいはい、ラブコメはそこまで!」

は! 神の声! ていうかラブコメって、な……に?

「美神さん? それ、なんスか……?」
「何って、拳銃だけど、知らないの?」

にこやかな顔でしれっと応える美神さん。いや、なんで穴がこっち向いてるんスか……?
結局おキヌちゃんの必死の説得の末、俺は事務所にお泊まりすることになった。このとき俺は、ゴスロリでもいいから着て帰るんだったと、後に後悔することになる。激しく……。


念願の……、念願の女だらけのパラダイスにお泊まり! ふ……まるで夢みたいだぜ。まさか美神さんと、そしておキヌちゃんと一つ屋根の下で寝ることになるとは思ってもみなかった。昨日も一つ屋根の下だったような気もするけど気にしない! だって、今宵の俺は自由なんだ! こうなったら女同士でも関係ないな。ここは一発美神さんの寝床を……。

「みかみさ〜〜〜ん!!」
「きゃっ! よ、横島クン!?」

俺は困惑した瞳でこちらを見る美神さんのベッドに飛び込む。そしてシーツの上からでもはっきりとその存在を誇示する双丘に顔を埋める。シーツから覗くすらりとした足、その太ももの付け根に俺はそっと触れ、すべすべとする肌にその掌を滑らせる。

「や! な、何するのよ!!」
「やあらかいなぁ! 美神さん、ぼかぁもう……ぼかぁもう!」

俺は今度は美神さんの首筋に顔を埋める。美神さんは重なり合う身体の間に手を添えている。しかし、それは拒むそれとは違う。力なく、ほとんど抵抗する様子がない。

「だ……だめよ、横島ク……ん! あっ……、やっ! はあ、はあ……わ……私達、今は女同士なのよ……っ!?」
「そんなの、関係ありません! 二人がここにいて、二人は肌を重ね合う。それ以外に今何があるっていうんスか!」

そして俺は埋めていた顔を上げ、美神さんの瞳をじっと覗き込む。それは微かに潤み、心なしか激しく何かを求めているように熱を帯びていた。

「美神さん……」

俺はそっとその名を紡ぐ。

「横島クン……」

美神さんの唇もそれに応える。
間に添えられた手がそっと離され、それは俺の背中へと回される。そして俺達は唇をそっと重ね合う。
き……きたきたきた〜〜〜!! 俺は舌を唇の上をなぞるように滑らせ、そして、その割れ目へと入り込む。すると堅い物に触れ、それをノックするように舌先で叩く。それに応えるようにうっすらと開かれた隙間に舌を滑らせると、それを出迎えるようにぬるりとした暖かいものに触れる。そしてお互いを絡め合い、徐々にお互いの口の中を陵辱していく。俺達は唇で唇を覆い、激しくむさぼりあうように求め合う。熱い吐息が舌を包み、絡み合う二つの息が荒くなっていく。重ねる肌がそれに合わせるように熱を上げていく。俺は掌でその肌をなぞり、シーツをくぐらせ、その大きな膨らみを、形を確かめるようにそっ……となで始める。

「ふ……あぁ……」

唇で塞いだ美神さんの唇から、切なげな溜め息が漏れる。

おおお! 美神さ〜〜〜〜ん!!


……だめだ……。ふ、ふははは。その通りだ、当然妄想だよどちくしょ〜! 俺は今その動きを完全に封じ込められている。しっかりと拘束され、ほとんど身動きが取れない。ふっ、やっぱりこういう運命なのか。妄想してたら解けるかと思ったが、そう甘くなかった。この拘束は厳しく俺を責め立てる。それは決して身体を締め付けるようなものではなかった。むしろ優しく、包み込むような抱擁のようだ。だが、俺にはそれからどうしても抜けることができなかった。何故このようなことになったのか、俺はその成り行きを思い起こす。

「泊まるって言ったって、部屋あるんスか?」
「無いわね」

美神さんはきっぱりと言い放つ。

「適当にそこら辺で寝れば? ソファでいいでしょ」
「だ、だめですよ、そんなの!」

投げやりな美神さんの言葉に、しかし、おキヌちゃんが異を唱える。

「そうっすね、やっぱりここは美神さんのベッドで、いえ嘘です。銃口は危険ですから」

両手を上げ俺は謝る。

「じゃあやっぱりソファででも寝ますよ」
「だめです!」
「で、でも、それじゃどこで寝りゃいいんだよ」

だ、だから、そんなに近寄らないでぇ!

「え……。それはその……」

俺の問いに目をそらし言いよどむおキヌちゃん。

「一緒に寝りゃいいじゃない……」
「え?」

美神さんが唐突に口を挟んだ。見ると美神さんはそっぽを向いていた。美神さん……?

「って、一緒にって、おキヌちゃんとっスか!?」
「何よ、不満でもあんの?」
「い、いいいいいいや……、ていうか、俺はともかくおキヌちゃんが……」

睨み付けてくる美神さんに慌てて言い繕い、おキヌちゃんの方を伺い見る。

「あ、あの。私はもちろん、か、かまいませんよ……?」
「お、おキヌ……ちゃん?」

俺は、焦った。そりゃもう焦った。今でさえこうなのに、一緒の部屋で寝るなんて、あり得ない! しかし……。

「い、嫌……ですか……?」

ふ、ふふふ。そんな上目遣いで不安げに言われて断れる俺だとお思いか? 俺の方が大分身長低いのに、なんでそんな器用なことができるかな……。

「異議あり!!」

その時、突然ドアの向こうから声が上がった。続いて勢いよく開かれるドア。そして飛び込んでくる白い人影。

「横島先生は拙者と一緒に寝、ぐえぇ!」

猛烈な速度で俺の方へと迫るそれ、それはやはりシロだった。しかし、俺に飛びかかる寸前に美神さんの腕にその首を絡め捕られ動きが止まった。

「あんたは何するかわかんないからだめに決まってるでしょうが!」
「げほっげほっ……。美神殿、酷いでござる! 拙者は決して横島先生にやましいことをするつもりはないでござる! ただこの腕でぎゅっと抱きしめて、唇にこう……。ぐぇ!」

そして首を絞められ落とされるシロ。白目をむいて気絶してしまった。何やってるんだ、こいつは……。

「全くあんたら相変わらず騒がしいわねぇ」

今度はタマモの声。鬱陶しそうに顔をしかめシロに続いてドアの方から入ってきた。

「ふ〜ん、それにしてもおキヌちゃんがねぇ……」

そして何やら見定めるようにおキヌちゃんを眺め、言った。

「ま、私の知ったことじゃないけどねぇ?」

しかしそれだけ言うと、にやりと笑い部屋を出て行ってしまった。なんなんだ……?


そんなこんなで俺は今おキヌちゃんの部屋で寝ているのだ。しかし、話の流れから察してもらえると思うが俺を拘束したのは美神さんではないし、ましてやシロやタマモでもない。そうなると必然的にそれはおキヌちゃんということになるのだが……。
俺は一人用のベッドで一緒に寝るのは無理だろうと思って床にでも寝ようと考えていた。一つのベッドでおキヌちゃんと寝るなんて考えただけでも顔が真っ赤になりそうだったのだ。しかし、部屋に初めて入ってみて俺は愕然とした。そこにあったベッドはなんとダブル。実は以前はシングルだったらしいのだが、今それは屋根裏部屋でシロが使っており、ここにあるのは嘗てルシオラとパピリオが使っていたものだそうだ。
俺は退路が断たれてしまった。しかし、それでもすぐには諦めなかった。俺はこれでも元男なのだ。やっぱり年頃の男女が一つのベッドで寝るなんて、そんな不謹慎極まりないことをしてはいけない。俺はそう熱弁をふるった。我ながら白々しいこと甚だしいと思いつつも、俺は必死だった。しかし、返ってきたのは、「今は女の子なんですから、それくらい普通ですよ」という言葉だった。恐るべし女同士! その説得力満点のお言葉に押され、俺はついに一緒にベッドインという流れになってしまったのだ。え? いつ拘束されたんだって? う〜ん、それがだな……。
やむを得ず俺はベッドの端の方でぎりぎりの格好で寝ようと努力した。しかし、それがやはり容易なことではなかった。一緒の寝床におキヌちゃんがいるのだと考えただけでも心臓が激しく胸を打ち、目がどんどん冴えていったのだ。こうなったらおキヌちゃんが寝るのを確認したら俺はベッドから落ちたことにして床に寝ようと考えた。しかし、それが甘かった。おキヌちゃんは最初真ん中の方に居たのだが、何度か寝返りを打つと、その身体は俺の真横にまで来ていたのだ。俺は焦った。これはもう寝ているだろうと思い、慌ててベッドから抜けだそうとしたその時、おキヌちゃんの両腕が俺の身体ににゅっと差し延べられた。そして、俺は拘束されてしまったのだ。
あっ! だ、だめ、おキヌちゃん! み、耳に息かけないで! あぁ、身体すり寄せないでぇ! あぁ……、身体が、身体が熱い……。だめ、今、俺の顔はオリーブオイル漬けのレッドペッパー並に真っ赤になっているに違いない! やっ! ほ、ほっぺに口づけしないで、いや〜〜〜!!

かたかたかた……。

俺がおキヌちゃんの攻撃にてんぱっていたまさにその時、部屋の入り口あたりで何かの音がした。な、なんだ?

ばたんっ!

そう思った次の瞬間、扉が派手な音を立てて開いた。

「こ、こら! だから動くなって言ったでしょうが!」
「そんなこと無理でござる!!」

そして姿を現したのは美神さんとシロだった。シロは床に俯せに倒れ込み、美神さんはその上に尻餅をつく格好になっていた。

「あ、あんたら、何やってんですか!?」
「わ、私は別に……「先生! 大丈夫でござるか!? おのれ、おキヌ殿! 横島先生の貞操は拙者がまも、ぐえぇ!」狙ってるのはあんたでしょうが!!」

やはり美神さんに締め落とされるシロ。だから何やってるんスか……。

「いや、それより美神さん! た、助けてください! おキヌちゃんがぁ!」
「な、何よ、見せつけるつもり?」

俺は慌てて助けを求めた。おキヌちゃんの左手が俺の身体のあちこちをなで回し、もうあれがああなってこれがこうなって、いや〜〜! な状態になりかけていたのだ。しかし、返ってきたのは無常な言葉だった。

「幸せそうで良いわね横島クン? じゃあね」
「ちょ、美神さん! 何を……!」

シロの首根っこを引っ掴むと、黒い笑みでそう言い残し、現れた時と同じように派手な音を立てドアを閉め、美神さんはあっさりと行ってしまった。そして俺はおキヌちゃんの甘くて熱い、そしてちょっぴり切ない抱擁を一晩中堪能する羽目になったのだ……。


これがその日一晩だけならばまだ良かったのだが、この生活はこれからしばらく続くことになる。誰か助けて……。


あとがき

ついに横島クンが何かに目覚めてしまったようです。
そして、こうして横島クン受難の日々は続くわけです。相手が女の子なら、ある意味普通なんですけどねぇ。哀れな……。
というわけで、今回初めて15禁相当のシーンを書いてみました。どうでしょうか。SSを書いていくのが始めてということで、何をするにしても新鮮で面白いです。
それにしても横島クンの妄想をそのまま漫画に書いたら普通に少年誌ではやばいとこまで行きますよね。かなりギリギリなキャラですホント。
さて、前回もレスを頂いたみなさん。本当にありがとうございます。おキヌちゃんもどうやら何かに吹っ切れてしまったような感がありますね。これからどうなるのやら……。
それにしても想定通りに物は運ばないものですね。プロットを書くプロ作家でも、最終的にプロットと同じになるっていう人は結構希なようですから、それはそれで当然なのかもしれませんが……。
というわけで、今回も少しでもレスあればいいな、と思いながら。
では……。


レス返し

>Februaryさん
美神さんはやっぱり美神さんでしたね。どこまで行っても美神さんは美神さんです。
ヒャクメ様は駄女神だけど、頭以外はちゃんと神様ですから。
そしてなんか、やっぱり見た目も中身も百合っぽくなってきてますよ? どうしましょう。(笑

>雲海さん
おキヌちゃんはもう横島クンにぞっこんいかれちゃってるんで、えぇ、なんかだんだんやばい方向へ行っちゃってますね(笑
これからは事務所だけじゃなく学校の連中も巻き込んで行くと思います。これからどうなっていくのやら……。

>K’さん
美神さんは原作でもそうですが、この話の中でもやはりみんなのブレイン役になってますから、そこんとこの調整は難しいですねぇ。どこまで見抜く力を与えてやればよいやら。
美神さんは横島クンにどういう感情を抱いているのか、今のところ微妙ですね。これからも絡んでいくのは確実ですが。

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