ゴーストスイーパー
文明社会の裏側に跋扈する魑魅魍魎を霊能力という異質の才能で
人知れず闇に葬る現在に蘇った退魔師。
これは数奇な運命によってGSの道に足を踏み入れた少年の
決して世に語られる事の無い黙示録である……」
「ルシオラ殿、横島が何やらブツブツと独り言を言っているのだが……」
「そっとしておいてあげて心眼さん。ヨコシマはそういう年頃なの」
3歩後ろを歩く横島忠夫の独り言をルシオラは慈愛に満ちた心で丁重に
受け流してあげた。
「ふむ、いわゆる中二病という病か。青を蒼と書いてみたり闇や月といった
キーワードに敏感になるというあの……」
「希望と書いて「ヒカリ」と読んじゃう年頃なの。だから、ね?」
「人格に乖離を認めざるを得んが致し方ないか……」
「俺が主人公やろがー!ちょっと位カッコつけて何が悪いんじゃー!!」
主人公はルシオラです。悪しからず。
リスタート・セカンドタイム
1
都内にある屋内プール施設。
ここに現れる妖怪を退治するのが芦心霊相談事務所に舞い込んできた依頼なのだが……
「ふ、ふふふふふ……正に都会のオアシス、文明が作り出した人工の楽園っ!
素晴らしいっ!実に素晴らしいっ!初夏の少し肌寒い季節に水着姿で跋扈する
ナイスバディのねーちゃん達よっ!この博愛の伝道師・ゴーストスイーパー横島忠夫が
すぐにその持て余し気味のナイスバディを慰めに行かせて頂きますっ!」
バミューダパンツにパーカーという井出立ちで楽園に降り立った横島は
仕事という意識を遥か彼岸に忘却して青年の主張を声高に叫ぶ彼を周りの人間は
遠巻きに眺めていた。一人と一体を除いて。
「えがったーっ!GSになってホントにえがっ「そう、そんなにうれしいんだ」」
頭の直ぐ後ろから聞こえてくる声に横島の演説は中断を余儀なくされる。
振り向くと其処には……
「おおおぅっ!」
スレンダーな身体に白い大胆なビキニ。
腰に巻いた半透けのパレオが妙に艶かしいルシオラが
口だけで作った満面の笑顔でそこに居た。
但し瞳は笑っていなかったが。
「ヨコシマったら、そんなにはしゃいじゃって……
そんなに早く私の水着姿が見たかったの?」
ふにゅっ
「ぬほぁっ!?」
振り向いた横島に両手を回して抱きつくルシオラ。
本当に骨があるのかと疑いたくなるような柔らかさを
全身で堪能する。
ミシリ
「ル、ルシオラ?」
「そんなにがっつかなくてもちゃんと見せてあ・げ・る♪」
ミシリ
ぎゅっと抱きついてきたルシオラのダイレクトな柔らかさが
嬉しい。なんだかいい匂いも漂っている。しかし
「ル、ルシオラさん?ちょ、ちょっとくっつきすぎだと思うんだけどなぁ?」
「あら?そんな事気にしちゃダメよ♪私達恋人同士でしょ?」
ミシリ
耳元でそう囁くルシオラの吐息が横島の耳朶を擽る。
ゾクリとした何かが横島の背筋を奔る。
だがそれ以上に背中に回された両手でゆっくりと自分を締め上げている
ルシオラに横島の第六感が警鐘を鳴らす。
ミシリ
徐々に徐々に、万力の様に力が込められていく
「る、るしおらさん?」
「ねぇヨコシマ?私の身体、綺麗?」
ミシリ!
「も、勿論ぢゃないかっ!」
「ホント?嬉しいわ♪じゃあ……
――ナイスバディのねーちゃん"達"って、誰の事かしら?」
ミシィ!
「ぐほぁっ!?」
締め上げられた体が弓の様に反り返り横島は悶絶した。
そしてそのまま白目を剥く。
「あらヨコシマったら……気持ち良すぎてビックリしちゃったの?
クスクス……ちょっと刺激が強すぎたかしら?」
糸の切れた操り人形の様に自分に身体を預ける横島にルシオラは
ブラックの効いた微笑を見せる。
そんな彼女の笑顔を周りの客達は見てはいけない物と本能で悟り、
無意識に視界から外した。
「……ふむ、悪くない」
物干し竿に掛けられてエアコンの心地良い風にその身を
たなびかせる心眼は彼なりにレジャーを満喫していた。
プールではしゃぐ子供達を瞳を細めて見守りながら主の不幸を視界の端に収めつつ、
次の瞬間には忘却の決済印を押して意識の外に追い出した。
◇
「うぅ……青年らしい若さの発露の何が悪いとゆーのか?」
「はいはい仕事終わったら、ね?ヨコシマ♪」
愛弟子へのお仕置きを済ませたルシオラが尚もブー垂れてる横島にご褒美を
ちらつかせる。この際さり気なく腕を絡ませて身体を密着させるのも忘れない。
「お、おう。期待するからなっ?後でやっぱナシとかいったら泣くからなっ?」
「期待していいわよ♪」
ご褒美の前渡しとばかりに更にサービスするルシオラ。
具体的に何をどうしたかは傍からは何も解らない。しかし横島の瞳が燃え滾っていたので
効果は覿面だったらしい。
「それにしても……さっきからどーも見られてるとゆーか監視されてるというか……
嫌な視線を感じるぞ」
先程から首筋の辺りがチクチクとするのか首の辺りをさする横島。
「あら、気付いてなかったの?周りを良く見てご覧なさい」
「周り?…………あん?」
ルシオラに促されてプールサイドを見回す。
休日とあってか人人人の大盛況。
だがその何割かの人間の視線が自分達に集中していた。
厳密に言うと横島に対して男性客の射る様な視線が。
「なんであんないい女が……」
「ガキの分際で生意気な」
「貧弱ボーヤに……何故だっ!?」
「ウホッ、いい男」
高校生位の冴えない男がAランクの美女を侍らせてプールサイドをブラブラしている。
実際には調査の真っ最中なのだが男達には見せびらかす為に
練り歩いているようにしか見えなかった。
「俺が美人とイチャついてはイカンとでも言いたいのかっ!?」
世間の不当な評価に猛然と抗議する横島だが周りの男性陣は横島の叫びに視線で以って
肯定の意を示す。
「放っておきなさいヨコシマ。(それにしても……)」
横島が世間の冷たい視線に晒されている間、ルシオラも女性客の視線に晒されていた。
ただし此方は少し事情が異なる。
ルシオラに送られる視線は嫉妬や羨望よりも主に勝ち誇る様な眼差しや哀れみを含んだ
上での勝利の視線である。
しかも殆どが自分も男性を連れたカップルの女性だった。
男連れの女性客が何故ルシオラにそのような眼差しを向けるのか?
(蓼喰う虫も……ねぇ……)
(女の価値は連れてる男で決まるってね、お嬢さん♪)
(……勝った!こっちのがいいオトコッ!)
(美人なのに……手近で済ませちゃったのね)
(……………クスッ……)
皆それなりに美人である。しかしそれが逆に仇となった。
彼女達はルシオラの容姿を見て敗北感に打ちひしがれ、次にルシオラの隣に居る
男と自分が連れている男を比較してプライドを取り戻し、かつ勝利の笑みを浮かべる。
ついでに胸に自身がある女性は彼女の胸元を見て更に勝利の快感に酔った。
それが負け犬の遠吠えとも解らずに。
目は口程に物を言う。女性陣の視線の意味を正しく理解したルシオラだが
横島と違い彼女は女性陣の不当な評価を声に出して訴える真似はしない。
ただ薄い笑みを乗せて周りを眺める。
(((((っ!!)))))
それだけで自分に纏わりつく視線を薙ぎ払った。
そしてそれが引き金になった。
「見せ付けてくれるぎゃーっ!」
突如としてプールからダミ声が上がる。しかしその声には恐怖や威圧感ではなく、
卑屈さや僻みを滲ませ、恐怖よりも不快感が先に感じる声だった。
その余りにも卑屈で捻じ曲がった声の主の姿もまた、見る者に恐怖よりも不快感、
さらには哀れみをも誘う可哀想な妖怪だった為、ルシオラは警戒より先に隣に居る
横島に視線を送ってしまう。
「えーと、あれが今回の敵……なのよね?」
疑問系で尋ねるルシオラの隣でゲンナリとした横島が答える代わりに
ぼそりと呟いた。心底疲れた声で。
「そういえばこんなのも居たな……」
「知ってるの?」
「ああ、たしかコイツは………………誰だっけ?」
「コンプレックスだぎゃーっ!!」
初対面の人間に誰だっけ扱いされた妖怪コンプレックスが濁った瞳から
滝の様な涙を迸らせてプールの水嵩を上げる。
コンプレックスが横島を親の仇の様な目で睨みつけて喚き立てた。
「おめーは俺達の仲間の筈だぎゃー!!だのに、だのになんでおめーから
コンプレックスが感じられないんだぎゃー!?オマケにそんな美人侍らせて
周りの男共のコンプレックスを煽り立てやがってーっ!!
許せんぎゃー!!皆もそう思わんのぎゃー!?」
周りの男性客に同意を求めるコンプレックス。しかし――
「いやもう周りに誰もいないし」
周りの客は何時の間にか避難していたので問題は無い。こんな妖怪の涙が
混ざったプール等誰も泳ぎたくは無いだろう。
憐憫を含めた視線をコンプレックスに送る横島。
「その目はなんだぎゃ!?余裕ぎゃ?余裕なのぎゃ!?
チクショーっ!!生まれてこの方ここまで悔しい思いは初めてだぎゃーっ!!」
さらに涙を溢れさせるコンプレックス。
うっとうしい事この上無かった。
「……ヨコシマ、なんだか疲れちゃったわ。今日はもう帰って、ね?」
なんだかどうでも良くなってきたルシオラが軽く流し目を送りつつ、
科を作って依りかかった。横島も正直相手をするのが馬鹿らしくなってきた。
さっさと片付けて帰りたい。ご褒美は家で貰おう。
「帰って何だぎゃー!?しかもその慣れ切った態度はどーゆー事だぎゃ!?
おんどりゃまさか高校生の分際でそんな美人と日も高い内から家にしけ込む
つもりだぎゃ!?ゆるせんぎゃー!!天に代わって成敗するぎゃー!!」
ダミ声を上げながら突進してきたコンプレックスに横島は動じる事も無く
何時の間にか手に握っていたビー玉をコンプレックスに放り投げた。
「ほれ」
「そんなビー玉でおでに集められた世の男性諸氏の怒りと悲しみが
止められると思ってんの……ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!?」
横島の放り投げたビー玉――
文珠がコンプレックスのネトネトした胴体に触れた瞬間、閃光を放つ。
籠められた文字は "浄"
「そ、そんな……おでの……世の報われない男達の悲痛な叫びが……
こんな……こんなビー玉1個で……ふ、不条理だぎゃーー!!!」
恨み言を叫びながら負の妖怪コンプレックスは閃光の中で融けて逝った。
「お、おでは何度でも蘇るぎゃ……世の中の……報われない男達が
居る限り……何度でも……ぎゃ……」
「また来年なー」
消え往くコンプレックスに軽い調子で手をひらひらさせて別れを告げる横島とルシオラ。
言う者が違えば中々に含蓄のある捨て台詞を吐きながら
消えていくコンプレックスだったが哀しい事に彼の台詞はあっさりと流された。
◇
――心眼の独り言
仕事を終えて自宅に戻ってきた。今日は中々に有意義な一日だったと言うべきだろう。
人間の考える余暇の過ごし方というのも実に奥深い物である事が理解できた。
また機会があれば今度は別の「れじゃー」という物を体験したいものだ。
「ヨ・コ・シ・マ♪見て見て、実はもう一着水着買ってたの♪」
「ふおぉぉぉ!?な、なんというエキサイティング&チャレンジングなっ!?」
「興奮、した?」
「もー辛抱溜まらん!今日はもういい!部屋から出ない!ルシオラー!今夜は寝かさへんでー!!」
「きゃー♪」
…………横島とルシオラ殿は我には計り難い余暇の過ごし方を心得ているらしい。
まだ日も落ちていないというのに……いや、仲良き事は美しき哉。
隣の部屋から聞こえて来るくぐもった声をこれ以上拝聴するのは野暮というものだ。
少し早いが我も眠りに就かせて貰おう。
◇
――同時刻
美神除霊事務所所長・美神令子
「……アンタ誰?」
「自分は明痔大学ワンダーホーゲル部員であります!寒いであります!
助けて欲しいでありますっ!」
人骨温泉で運命の邂逅が果たされようとしていた。
続く
皆様こんばんわ
(´ω`)でございます
お待たせしました。
リスタート第二部。リスタートセカンドタイムをお送りいたします。
大分構想も練れて来ました。後は時間が欲しいです。
以下レス返しです
容量節約の為短めになっていますがご容赦願います。
パチモン様
心眼は正直どのタイミングで出すか迷っていましたが
第一部ラストのサプライズとして登場させました。
結構美味しい役かもしれません。
冥様
流石に心眼様も横島の性格をベースにしたと思われるのは業腹な訳でして……
ncro様
どピンクは少し挟んでからの予定ですので楽しみにお待ちくださいませ
wata様
アナザーの心眼は現在全くの白紙です。
何処で出すのか誰に憑かせるのか全くの白紙です。
Tシロー様
ifの結果としてルシオラが勝ち取ったのです。
そこには運命があったのかもしれません。
kame様
ありがとうございます。
お待ち頂いた皆様をがっかりさせないように頑張ります。
ぐだぐださん様
ありがとうございます。
正直栄養ドリンクは手放せませんが元気です。
チョーやん様
横島君の太陽は常に黄色いのです。
それが横島忠夫という漢の生き様なのです。
紫陽花様
ハーレムといいますか……
他の作品の様なハーレムにはならない……かも?
よしろー様
ありがとうございます
ルシオラは可能な限りいい女に書きたいと思います。
カジキマグロ様
ありがとうございます
これからぼちぼち仕上げて行きますのでもう暫くお待ち下さいませ。
ハルにゃん様
お待たせしました。
キャットファイトですか……う〜ん、二大怪獣決戦になってしまう気が……
ハルにゃん様もお怪我をなさったという事ですがくれぐれもご自愛くださいませ。
lsm様
ありがとうございます
これからも妄想の赴くままキーボードを叩きたいと思います。
ann様
ありがとうございます
ばれたら太陽が黄色い所では済まなかったでしょう。
……ミイラ?
内海一弘様
お帰りなさいませ
ネット環境の破壊というのは辛いですね(´ω`)にもその辛さは解ります。
鹿苑寺様
10カートン……
横島君とルシオラなら……1月?
アイク様
ありがとうございます
程ほどに身体を労わってキーボードを叩いて逝きます。
ご感想を下さった皆様本当にありがとうございました。
では次回のあとがきでお会いしましょう
では(´ω`)ノシ