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「虚仮の一心<後編>(GS)」

のりまさ (2007-09-17 20:26/2008-01-19 03:41)
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 虚仮の一心

 愚かな者がただその事だけに心を傾けてやりとげようとすること。


「魔装術、だと……」

 魔装術を展開する自分に、死神の顔色が僅かに変わる。

「最初の師匠が、俺に魔装術を教えてくれた時言ってた。」

 魔装術は、元々人間が編み出した霊術であると。
 悪魔と契約してまで何と戦おうとするのか。

「悪魔の力を借りるんだ、当然、相手は……てめえら神族だよ。
 今の神族というのは大体人間にとって友好的なもんだ。
 だけど、たった一柱だけそうでない奴がいる。
 人間にとって、唯一の天敵。
 目に見える死の予定を恐れた人間たちが抗うために作り出した、
 死神と人間と悪魔の、三者間でのルールを潜り抜けるための裏技!
 それが、てめえら死神を退けるために人間が作り出した牙だ!」

 獣のような姿となった男は、拳を握り締めるとそのまま力任せに振りぬく。
 死神を殴りつけた瞬間、以前とは違う手ごたえを感じる。

 ――やはり通じる!

 人間は死神を倒すことはできない。
 人の魂を刈る死神が、人に倒されてしまえばそれは死神という存在自体が無意味だ。
 時が未来に進む、生ある物はいつか死ぬ。
 そんな世界の当然のルールとして、だから人間は死神を倒せない。
 だがもちろん、死神は無敵ではない。
 確かに人間では倒せないが、もし死神がなんらかの暴走を起こした場合それを止める力がいる。
 それを止めるのは当然同じ神族か魔族である。
 だが神族と魔族は死神と自分の意志で戦うことができない。
 仮に神族魔族が人間に肩入れした時、想い人を助けるために死神を滅すことなどあってはならないからだ。
 だから神族や魔族は本能的に死神と戦うことはできず、できるのはあくまで死神が己の職分を逸脱した時のみである。

 人間は死神を倒せない。
 死神は人間を仕事の相手と、仕事を妨害する者以外に攻撃することができない。
 神族魔族も必要な時以外では死神を攻撃することができない。

 それは世界が自身を存続させるために作り出した、ルール。

 しかし人間のルールの抜け道を考える知恵は、時に世界すら凌駕する。

 死神を倒すために作られた抜け道こそ、魔装術。

 魔装術を展開している間の人間は、まさしく悪魔である。
 だが本当の悪魔では死神と戦うことは出来ない。
 中身は人間だからこそ、悪魔の本能に縛られず戦うことができる。
 人間の意志を持ち、悪魔の力を振るい死神を倒すことこそ、魔装術の真の目的。

 それはまさに悪魔の皮を被った羊。

 神と戦うための術だからこそ、あの師はGSに絶望していた自分をGSバスターとするためにこれを教えた。

「……」

 死神が少し後退する。

 間をおかず、男は死神に突進する。
 蹴りを繰り出し、ダメージを与えた手応えを感じそのままもう一方の足で回転しながらソバット。
 死神が鎌を取り出したのを見て横に逃げる。
 自身がコンマ数秒まで居た場所を、人間にとって絶対的な力が通り抜ける。

 鎌は基本的に武器ではない。
 対人戦には向いていないはずだ。
 それを判断すると再び死神へ距離を詰める。
 密着すれば満足に鎌は振るえない、それを見越しての超接近戦。
 今度はさっきのように大きく振りかぶらず小まめに、だが正確にパンチを繰り出していく。
 死神の攻撃も何度か行われる。
 しかし死神の攻撃は当たらない。
 戦闘経験では間違いなく男の方が上。
 死神が戦うことなんて今ではほとんどありえないのだろう、戦い方はぎこちない。
 拳を避け、前屈みになったところに、顎へとアッパーカット。
 頭が上を向いたことを確認し、得意技を放つ。


「あああっ!」

 ほとんど密着した状態で、身体の前面の傷から霊波刀を放出する。
 勢いに押された死神は吹き飛び、屋上にある貯水タンクに激突した。

「ハアっ、ハアっ、ハアっ……」

「なるほど」

 だが全く何ともないように死神は立ち上がる。
 いや、実際にそうなのだ。
 何度も殴りつけ、自身の得意技である霊波刀放出も繰り出したにも関わらず、死神はまったく傷ついていない。
 分かってはいたが、総霊力が違いすぎる。
 確かに魔装術と使うことによって、なんとか死神と同じ土俵に立つことは出来る。
 だがそれだけだ。
 幼稚園児が褌締めて土俵に立っても、横綱に勝てるわけではない。
 大地に向かって拳で殴りつけても地球は傷つかないことと同じ。

「よく分かった。もう止めたらどうだ?」

 こちらを哀れむように言う死神に、男は激昂する。

「私が手を下すこともなく、貴様は自滅する」

 ――見破られていた

 ちっと舌打ち。

「魔装術、私は初めて見るが、確か最終的には人間の意志で使いこなすか、もしくは完全に悪魔となるかしかないはずだ。
 人間として悪魔の力を使いこなせば、その時点でそれは人間の力となり私に攻撃は通じなくなる。
 完全に悪魔となってしまえば、悪魔の本能としてそもそも私と戦おうとする意志すらなくなる。
 貴様が戦っているうちに魔装術を使いこなすか、悪魔になってしまうか。
 どちらかは分からないが、どちらにしても貴様はあと数十分で私の邪魔すらすることができなくなる」

 哀れむような目が、男を苛立たせる。

「貴様が自滅するそれまで私は耐えて、その後ゆっくりあの少女の魂を刈らせて貰う。
 貴様の攻撃は私には通用しない。
 だが私の攻撃は貴様にとってほとんどが一撃必殺。
 当たれば終わりだ
 人間である以上、貴様はいつか疲れる。
 疲弊して私の攻撃が当たるか、貴様が自ら自滅するか、どちらが先か」

 少しずつ距離を取る死神を、だが男は逃がさない。

「ハッ! 舐めんな!」

 魔装術により大幅に強化された脚力は、それのみにおいてなら逃げる死神を上回る。 
 元より、死神を力で倒そうとなど思ってない。
 現実的な問題として、GSとして才能のない男には死神を倒すだけの火力がない。

 いや、そもそも倒す必要などない。
 自分の勝利条件は、自分がよく分かっている。
 勝利条件は死神を倒すことではない。
 あの少女が生きることだ。
 正午からすでに三十分がたとうとしている。
 戦い慣れてない死神の攻撃は、速いことは速いが、避けれないものではない。
 あと約九十分、この死神をここに繋いでおくだけでいい。
 手術さえ終われば少女は少なくとも生きる確率が大幅に上がる。

 自分を、良い人だと初めて言ってくれたあの少女。
 ただ、あの少女を守るために、残り九十分を耐えれば――

「気を抜いたな?」

 声は横から。
 感じるスリルそのままに横っ飛びするが、間に合わない。
 死神の比べるのも馬鹿馬鹿しいほどの霊力を纏った拳が、男の脇腹に突き刺さる。

「ガっ、ハァッ!」

 吹っ飛び、ゴム鞠のように跳ねて、フェンスに激突する。
 自分は何十発と拳をぶち込んで、やっと相手は蚊に刺された程度。
 だが死神の攻撃は当たるだけで、男の体力を根こそぎ奪っていく。

 なんて理不尽な存在だ、死神というのは。

「終わったか。自滅を待つまでもなかったか。
 案外と呆気ないものだな」

 痛い。脇腹を擦ると、熱を帯びて腫れようとしていた。
 骨が何本か折られたのが分かる。

「ぅっぅぐぅ……」

 立とうと手で身体を支えようとしても、痛みで上手くできない。
 それでも何とか力を入れて、立ち上がる。
 同時に張り裂けそうな頭痛を感じるが、それも耐える。

「まだ立つか……」

 もはや死神は男を敵とみなしていないのか、面倒くさそうにこちらに歩み寄る。
 まだ、戦える。両手は動くし、足もまだ感覚がある。
 痛い、それはつまり生きているということ。
 生きる力があること。
 そして生きることは戦いだ。
 痛みを感じる男には、まだ戦う力がある。
 ならば男は戦わなければならない。
 なんとか構えを取り、すぐに来るであろう死神の攻撃に備える。

 だがすぐに止めを刺しに来るという考えとは裏腹に、死神は首をかしげた。

「おかしいな。私はてっきりそろそろ魔族化するとふんでいたのだが……」

 男に魔装術を使いこなすほどの才能も力量もないということを理解したのか、そちらの考えは頭にないようだ。

「俺には、才能がないらしいぜ」

「?」

「師が言ってたよ。お前には才能がないって」

 だから魔装術を使っても暴走することはあっても、そのまま悪魔に取り込まれてしまうことはない。
 それだけの才能がない。
 同時にやはり魔装術を使いこなすだけの才能もないから、悪魔の力を人の力に変換することもない。

「あいつは、お前は才能がないのが才能だって言ってたな。
 あの時は単なる皮肉でしかないと思ってたけど、
 あいつは俺がいつかこうやって死神と対峙することも考えていたのかもな」

 才能が無いという才能。
 それを恨んだことも憎んだこともある。
 輝かしい才能を妬み悔しがり理不尽に憤ったこともある。

「今はその才能の無さに感謝するぜ。 
 そのお陰で俺はまだ、戦うことが出来る。
 あいつを守ることができるんだからな!」

 使役化も悪魔化も行われないとはいえ、自身の力量に合わない魔装術の行使は、男の精神と肉体に凄まじい負担をかける。
 今も絶え間なく続く頭痛と、理性を失いそうになるノイズから必死に自己を守り続ける。

 負けるな、耐えろ。
 自分が負ければ少女は死ぬ。
 あの少女がいなくなる。
 それを想像して、その怒りを原動力に変えろ!
 動け。動け。動け。動け。動け。

 死神が鎌を振りかぶって襲い掛かってくる。
 鈍くなった足でも戦いの経験と勘による先読みでなんとか避けることができる。

 だが鋭く突き出した拳はそうもいかなかった。
 みぞおちに突き刺さり、胃液が逆流して喉に苦いものを感じる。
 だが、必殺の一撃でない。

「っあああああああああ!」

 耐える。魔装術を纏っていなければ内臓破裂を起こしていただろうその一撃を、気合だけで耐える。
 次倒れたら、自分はもう立ち上がれないだろう。
 倒れるな踏ん張れ跳ね返せ!

「っらぁあああ!」

 カウンターでこちらも拳を死神の顔面に叩き込む。
 ほとんどダメージにはなってないかもしれない。
 だがそれでも殴り続ける。

「……しつこいな」

 死神は戦いの時は口数が少なくなるのかと、頭の片隅で思う。
 つまりこの前ほどの余裕はないということ。

 死神の鎌をショートモーションで繰り出す。
 先ほどの一撃で足に感覚がなく、避けれない。
 ならば逸らすのみ。
 全傷口から霊波刀を出し僅かずつ鎌の軌道を変えることで避ける。
 今度は死神の腹に拳。
 やはりダメージにならない。
 それでも何度も何度も殴り続ける。
 死神の素手による攻撃は、もはや避けるのを諦めた。
 人の命を絶つ力を持つ鎌の一撃は喰らえば人である以上、必ず死ぬ。
 だが素手の攻撃ならばなんとか、本当にぎりぎりだけれども心の糸が切られない限り耐えられる。

 素手の攻撃には素手で殴り返す。
 鎌による攻撃は全て霊波刀で逸らす。

 殴り殴られ殴り殴られ殴り殴られ殴り殴られ殴り殴られ殴り殴られる。
 間を与えるな、考える暇を奴に与えるな。
 もしも奴がもはや足を動かせないことに気付けば奴は動けない俺をおいて少女の居る手術室へと向かうだろう。
 そうなれば全てが終わる。少女の夢も命も何もかも。

 間を取らせるな、考えさせるな。


 戦え戦え戦え戦え戦え戦え戦え戦え戦え戦え戦え戦え戦え戦え戦え戦え戦え戦え戦え戦え戦え戦え!


 自分の戦意に相手を巻き込め!
 野獣のような咆哮で相手の戦意を奮い立たせろ!

 今度は横からのフックを受けて、男の顔面が弾き飛ぶ。
 一瞬、頭が真っ白になる。
 このまま倒れた気持ちいいだろうという囁きが聞こえる。
 実際、意識が飛びかけた。

 だが、少女の顔が浮かぶ。

 少女の言葉が、忘れかけていた自分の夢を、願いを思い出させた。
 少女の言葉が、自身の在り方に絶望していた自分に、救いをくれた。
 少女は、本当はどうしようもない人間であるはずの自分に、良い人だと言ってくれた。

 それだけで、戦える。
 それだけで、男が戦うには充分すぎる理由だ。

 痛みなど知るか!
 怪我など気にするな!
 傷つくことより失うことを恐れろ!
 恐怖は恐怖で塗りつぶせ!

 「っつぁああ!」

 跳ね飛ばされそうな頭を、もはや感覚のない足腰で留め、逆にその勢いを利用して頭突きをかます。

「くっ!?」

 ダメージ自体はほとんどないだろうが、人間に頭突きをされることなど初めてなのか少しひるむ。

 “勝つ”チャンスはここしかない。

 魔装術が突然解除され、悪魔の力は傷口から男の中へ入っていく。

「はっ、遂に限界で魔装術を解いたか。
 ならば、これで楽にしてやろう」

 能面のような顔に少しだけ笑みを浮かべた。
 防御力0の状態の今、素手の攻撃でも喰らえば即死。
 だが死神はあくまで鎌による終焉を望む。

 人間を非力と侮り、自分が絶対に負けることなどない信じている過信。
 その過信の持つ死神ならば、死神の代名詞とも言える鎌によって決着をつけるだろう。

 死神が大きく、鎌を振りかぶる。


 思った通りだった。


 纏った悪魔の力は、傷口から男の内部に入り男の自身の霊力と融合される。

 それが全身の傷口から霊波刀として放出されると螺旋状に、そして円錐の形に右手に集まっていく。

 死神がそれに気付く。
 だが振りかぶった鎌は止まらないし、大体人間の攻撃など喰らってもせいぜいが痛いと感じる程度だろう。
 だから避けようともしない。

 右手に螺旋状に集まった無数の霊波刀が、一つの形になっていく。


 貫くという意味で人類最強の力の形――ドリル――となる。


「魔・槍・突!」


 残った全ての力を結集した回転するそれを、男は力の限り前に突き出した。


 ――少女の手術が終わるまで、後十五分


「おしかったな。まあ、例え当たっていたとしても、大したダメージにはならなかっただろうがな」

 死神が、何の感慨もなく言う。
 死神の攻撃は男の魔槍突によって防がれた。
 だが同時に男の攻撃も同時に死神の鎌によって防がれたということ。

 大の字になって仰向けに倒れ伏す男。
 もう戦う力など欠片も残ってない。

「少女の手術が終わるまで後十分少し。今ならば間に合う。
 私は決して仕事を失敗しない。
 慈悲に惑わされない。
 今までも、これからも」

「くくっ」

 笑う。
 腹のそこから可笑しかった。

「お前、どうやって、魂を刈るんだ?」

「……?」

 男が何を言っているのか理解できないらしい。
 だがすぐに唐突に一つの可能性に気付く。


「……ま さ か!?」


 ばっと死神が振り返えって自身の鎌を見る。

 魂の緒を刈る死神の鎌。
 死神の仕事で絶対に必要であり、
 絶対的な強度を誇るはずのそれは、しかし――


「あ、ああああ、ああ……欠けて……い、る?」

 男の全ての力を使ったと一撃と、死神自身の力のぶつかりあいで、
 欠けて、僅か数センチではあるがヒビが入っていた。
 呆然と死神が呟く。

「さっき、の、あれは、最初から……」

 ガバっと、男の方を振り向く。

 特殊効果を持つ死神の鎌は、それだけで芸術品。 
 だがそれだけに少しでも傷つけばそれは効果を失う。


 つまり、もう、魂を、刈れない。


 死神の鎌は自然修復される。
 だがさすがに十数分では直らない。

 だから、ぎりぎりの時間帯まで粘り、そして賭けをした。

 死神の鎌が人の力で破壊できるのかは全く分からなかった。
 だから、今用いることのできる全てを一点集中。

 これで破壊できなければ、もうどうしようもなかった。

 そして男は賭けに、死神に勝った。 


 戦っている間も常に無表情だった死神の顔が、大きく歪む。
 悔しさと怒りと悲しさと憎しみ、様々な感情が見て取れた。

 それを見て、笑う。


「やった」


 笑う。

「やったぞ」


 笑う。


「はは、はははははははははは!

 見たかってんだ、この野郎!

 やったやったやった!

 見たか、俺の勝ちだ!

 人間の勝ちだ!

 さまーみろ!

 ざまーみやがれ!

 見てるか、おじさんは勝ったぞ!

 勝ったぞぉぉぉ!」


 太陽の輝く空に向かって叫ぶ。
 血を混じった唾が飛んで、顔にかかった。


「お金要らないんですか?」

「要らねえよ。それよりも、もっと大切な、そう、大事な物を俺はあの子に貰ったからな」

「大事なもの?」

「……なぜGSになりたかったか。その夢を思い出させてくれた。
 忘れてしまっていた、誰かを救う意味を思い出させてくれたから」

「そう、ですか。あなたが良いというなら、お金を出すことはむしろ失礼ですね」

「一つ聞いてもいいか?」

「何でしょう?」

「どうして、俺だったんだ? 
 少女の話相手としてのGSなんて、他にもいくらでもいただろ。
 俺がこの病院に来たのは偶然だし」

「ああ、それは以前あなたとは六道家で……いえ、なんでもないです。
 そうですね、乙女の感ということにしときましょう」

「変な女だな」

「それでは、また会いましょう」

「……さよならだ。あの子にもそう言っといてくれ」


 澄子と分かれ、街を進む。
 路地裏に入り込むと、そこに座り込む。

 周りに人が誰もいないことを確かめて、「それ」に声を掛ける。

「よお、待っててくれたのか」

 そこに居たのは、死神。
 修復された死神の鎌を携えて佇んでいる。

「死の運命を捻じ曲げた以上、誰かの魂を替わりに刈らなければならない。
 そこに居たのは自分の邪魔をした死に掛けのおじさん、か」

 男の身体はすでに半分が死に掛けていた。
 いやそもそもここまで生きていたことが奇跡に等しい。

 使い切れない魔装術の代償。
 二番目の師に言われて分かっていたことだ。
 もしももう一度魔装術を使えば死に至ると。

 力で使役化する才能も悪意のままに悪魔化する才能もない者が、魔装術を使い続けた末路。

「一つだけ聞こう」

「死神はよく人間に質問するんだな」

「なぜ、私は負けたのだ?」

 酷く真面目な顔だった。
 あるいは、男に敗北して何か思うところがあったのかもしれない。

 視界が霞んでいく中、ぼんやりとする頭で、なんとか考える。

「さあな。どうしても知りたければ……もう少し人間を観察するんだな。
 才能の無い、力の無い、愚かな人間でも、それを貫けば……きっと……」

 もう、自分でも何を言っているのか分からない。
 走馬灯なのか、今まで出会った様々人の顔が思い浮かぶ。
 神族、魔族の師が思い浮かぶ。
 間違いながらも一緒に修行した男は、今は名門の霊能家の婿養子となったらしい。

 そして初めて真っ当な力で自分を打ち破った男は、世界を救い魔神を打ち破った。

 死の間際だからこそ、素直に思える。
 本当は彼に憧れていた。
 自分よりも才能も力もなかったくせに、自分よりも強い誰かのために戦った。

 そうだ、本当はあんな風に、なりたかった。

 他にも様々な顔が思い浮かび、最後に少女の顔が現われた。


 ――おじさんは、良い人だよ――


 彼みたいにはなれなかった。
 だが少女の前では、自分は最後の最後で彼みたいになれたかもしれない。


 まどろむ意識の中、最後に鎌を振り下ろす音が聞こえた。


「しゅじゅつがおわって1日目。
 しゅじゅつはだいせいこうだった。
 パパがよくがんばったねってほめてくれた。
 いつもあまりほめてくれないママも、今日はほめてくれた。
 すみこさんは泣いてよろこんでくれた。
 あといっしゅうかんでたいいんするから、少しさびしいって言ったら、
 また会えるよってぎゅっとしてくれた。

 おじさんには、あれからあってない。
 わたしがねてるあいだにどっかいっちゃったんだって。
 いっぱいは話したいことがあったのにな。
 すみこさんが言うにはわたしをすくうためにしにがみさんとたたかったんだって。
 しにがみさんはすごいつよいってパパ言ってた。
 おじさんはすごいなあ。たぶんパパのつぎにつよい。

 わたしもパパやおじさんみたいなつよくてりっぱなGSになりたいな。
 そしていっぱいいっぱい、みんなたすけるんだ。」


「おーい、蛍。そろそろ寝るんだぞー」

「あ、はーい、パパ」

 日記を書いていたら、もう寝る時間になっていた。

 父の言う通り寝るために日記を閉じようとして、ふと何か考える。
 そして少女は少し書き足すと、今度こそ日記をしまって布団に入り込んだ。


 しゅじゅつがおわって1日目。ゆめへむかって1日目。


 終


あとがき

ハートフルなストーリーを期待していた方ごめんなさい。
今回ほとんど全てバトリングです。
ということで、おっさんと幼女によるハートフル熱血シリアスバトル成長ストーリーでした。
ほとんどの方がおっさんと幼女が誰か分かってらしたようです。

ちなみにあまりはっきりしてない主人公の経緯ですが

GS試験→六道家→妙神山→脱走→落ちぶれる

みたない感じですが、あくまで筆者の脳内です。


では前編のレス返し、というか感想を書いてくれたお礼です。
基本的にレス返し苦手なので、疑問や指摘以外は纏めますがご容赦ください。

焼き鳥さん、凛さん、レンジさん、いしゅたるさん、紅白ハニワさん、にゃらさん、ベルヘェゴールさん、plozさん

ご感想ありがとうございました。

いしゅたるさんのご指摘で、

>この場合、検察官、もしくは裁判官と設定した方が自然だったのではないでしょうか?

とありました。実は私その辺詳しくなかったのですが、ご指摘を読んでみたら確かにその通りだと思います。
後ほど修正させていただきたいと思います。

次はちょっとエロ馬鹿な話を書こうかと思ってます。

ではまた次のお話で。

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