暗い暗い闇の中。
俺は一人で過去へ行く。
最高指導者達からは許可を貰えた。
壊れてしまった世界を、大切な人達を、なによりルシオラを取り戻す為に。
アシュタロスが消えてパワーバランスが崩れた所為か、あの大戦が終わった数年後ハルマゲドンが勃発した。
世界は見る影も無いほどボロボロになり、生き残ったものは極僅か。
ふと陰陽文珠を見る。
そこには『収』『納』の文字。
中には小竜姫さまの神剣とタマモの尻尾、ヒャクメの目玉にワルキューレの拳銃とハヌマンの金剛圏。
それぞれに文珠で思いと記憶を『込』めた。
然るべき、本人たちに触れれば思いと記憶が引き出される。
みんな過去の世界で俺の手助けをしてくれるとの事。
この事にどれほど感謝したことか・・・。
嬉しさの余り小竜姫さまとワルキューレに抱きついてしまい、後ろからタマモの狐火でウェルダンにされたのはちょっと苦い思い出だ。
あの時けらけら笑ってたヒャクメとハヌマンにあやうく文珠の『爆』を投げそうになったのは秘密だ。
そんな事をぼんやりと考えていると前方に薄らと淡く光りが見える。
「・・・あと少しか。」
逆行先は確か両親がナルニアに転勤して俺の一人暮らしが始まった日だったか?
その時期から鍛錬すればルシオラを失わずに済むかもしれない。
あの時とは覚悟が違うのだから。
最も、避けられる戦いなら避けたい。
痛いのは嫌だし。
光りが段々強くなる。
すべき事はたくさんある。
まずは体を鍛えねばならない。
あぁ、それからタマモの復活もしないといけない。
流石に二度も武装した自衛隊に追われたくは無いだろうし。
幸いにもタマモの尻尾にはあいつの妖力が詰まってるしすぐに復活も果たせるだろう。
今回は美神さんの所でバイトをする気は無い。
というか、あの極貧乏生活は嫌だ!
しかし・・・。
「どこに行くか・・・。」
唐巣神父の所じゃ大差は無いだろうし・・・。
エミさんの所は色々と怖いし・・・。
冥子ちゃんは論外。
唯一まともそうなのはオカルトGメンと魔鈴さんの所だけど・・・。
「・・・もう少し後だよな・・・出来たのって。」
あの仕送りだけじゃとてもやっていけないぞ?
普通にバイトしてたらタマモを保護出来ないし・・・。
もう視界には光りしか無い。
「どうするか・・・。」
そして横島の意識は闇の中に消える。
目覚めた時はあのアパートの部屋だった。
カレンダーを確認すると今日は高校の入学式が終わった次の日になっている。
微妙に座標を間違えたか?
それとも魂ごと引っ張って来た影響か?
魂ごとの逆行は不安定になりがちだがそれでもルシオラの魂の欠片があると思うと置いては来れなかった。
とりあえず逆行は成功だ。
「さてと・・・。」
目を閉じる。
過去に来た時に一番にやれと言われた事。
霊力の確認を行なう。
「霊力は80マイト程か・・・。」
美神さんが小竜姫さまの修行を終えた位の霊力値に少し驚く。
とりあえず多過ぎて困るモノでもないのでキーやんにでも感謝しといた。
「とりあえず・・・明日にしよう・・・。」
時間逆行は思いもよらず結構疲れた。
眠ってから行動を考えよう。
・・・この世界でもルシオラと恋仲になれますように・・・。