文珠使いの物語 プロローグ
詠いましょう、あなたの為に、自分の為に。
◇◇◇
願いましょう、願いましょう。
あなたの為に願いましょう。
満月の夜、人気の無い公園で一人の青年が詠う。
自らの命もかえりみず、自分の命に代えた蛍魔に。
願いましょう、願いましょう。
青年の瞳には涙が溢れる。
あなたの生まれ変わりが幸せに・・・。
叶うなら復活を・・・。
青年は嘆く。
願いましょう、願いましょう。
自分の為に願いましょう。
青年の声が震える。
どうせコレは・・・、
自分の我侭なのだから・・・。
◇
「おはよ〜〜っす。
横島忠夫、ただいま出勤いたしました〜〜!!」
ココは美神除霊事務所、日本でも随一、世界でも有数の除霊事務所だ。
「遅いわよ、横島クン!
今日は遠出するから早く来なさいって言ったでしょ!」
美神除霊事務所の所長、美神令子は長い亜麻色の髪を逆立てながら、鬼の様な形相で横島に掴みかかる。
「ヒィイ!!
す、すんませ〜〜ん。
ちょっと昨夜眠れなくて・・・。」
横島はその迫力に引きながらも言い訳を口にする。
が、それも美神の前では・・・。
「ほっほ〜〜。
そんな言い訳でわたしが引くとでも?
体調管理もGSの仕事の内よ?
て、事で折檻ね・・・。」
徒労で終わる。
最も美神の言ってる事も正しいのだが、横島が体調を崩してる真の原因は所長・美神令子による依頼のとり過ぎにある。
魔神大戦以降、横島の実力は美神令子を確実に上回っている。
未だに霊的成長期の横島は霊力も体術も美神に勝っている。
劣っているのは知識のみ。
そんな横島を美神が見逃すはずも無く、横島は丁稚の名に恥じぬ位に扱き使われている。
「そ、そんな事言ったて・・・。
もう連日の除霊でボロボロなんすから・・・。
少し依頼の量を減らしませんか?」
「何よ・・・。
つまり横島クンは全部、わたしの所為だと言いたい訳ね・・・。
よ〜く分かったわ・・・。」
危険!!危険!!危険!!危険!!危険!!
横島の頭の中にいる影法師が危険と書かれてるプラカードを持ちながら脳内を走り回っている。
何とか回避をしようと考えを巡らすが横島の貧弱な頭では回避する事など出来る訳が無い・・・。
「歯をくいしばれ〜〜〜!!!」
「堪忍や〜〜〜!!!」
結局の所、横島はこの運命からは逃れられないのだ・・・。
「いい?
これからは遅刻なんかするんじゃないわよ?」
「グフゥ・・・。
りょ、了解っす・・・。」
ボロボロになりながらも何とか返事をする辺り、なんとも丁稚根性が染み渡ってるのがうかがえる。
「み、美神さん・・・、ちょっとやり過ぎじゃないですか?」
元幽霊の少女、氷室キヌが控えめに美神に意見する。
「はぁ、おキヌちゃんも分かってないわねぇ・・・。
こいつがこの程度でくたばる訳無いじゃない。」
「いや、結構きついっすけど?」
僅か数回の会話の内に復活を果たした横島。
日々の折檻で耐久力と回復力も増しているようだ・・・。
「で?
依頼ってなんなんすか?」
今ごろになって聞いてくる横島にため息を漏らす美神。
というか昨日も説明した筈なのだが横島の頭の中にとどまらなかったらしい。
「妖怪退治よ。
対象は不明。
場所は以前、ユニコーンを捕まえたところよ。」
「ちょ、美神さん!
不明ってなんなんすか!?
そんなん受けたんですか??」
一息に説明する美神に横島が疑問の声をあげる。
「えぇ、困ってる人は見逃せないでしょう?」
「・・・で、依頼料はいくらで?」
横島が違和感を感じさせない調子でそう突っ込むと・・・。
「三億よ!!
三億!!!
なんでも政府からの援助もあったみたいであの貧しい村からは考えられないわ!
さぁ!
美神除霊事務所、出陣よ!!」
美神がそう言った瞬間、おキヌの尊敬の眼差しは消え、シロとタマモの冷たい視線が突き刺さり、横島のため息が響いた。
あとがき
はじめまして、神の涙です。
初めてこのサイトに来たときはココにある素晴らしい作品の数々に感動して思わずパソコンの前で「当たりだ〜〜〜!!」と、叫んでしましました。
そしてココの素晴らしき作品に感化され、自分もこの様な作品を作りたい!と思わずにはいられませんでした。
まだまだ拙い文章力ですが、『文珠使いの物語』を何卒よろしくお願いします。