「うーむ、なんちゅうかあれだ…」
きょろきょろと珍しそうに見回す姿は、まるで田舎から出てきたおのぼりさんのようだ。
「隊長や唐巣神父なら懐かしいとか思うんだろうけど…」
車道を走る車はTVだけで見たことがある古い車種のみが走り、店の看板に使われているロゴも古いデザインだ。
街を歩く人々(特に女性)のファッションを見て、
「ぶっちゃけ時代遅れでださいぞ!! これではあまり(当社比0.999倍)燃えんではないかーー!!」
昭和の東京のど真ん中で、まざまざと感じたジェネレーションギャップに横島はそう魂の叫びを上げた。
『GS美神’77 極楽大作戦!!』
~昭和のGS達【その1】~
この日は仕事がなかったので、美神除霊事務所のメンバーと令子の母美智恵と年の離れた妹のひのめを加えてお茶を楽しんでいた。
一部を除き雑談に盛り上がっていた、その内容とは…
「うおおお!! 昔の隊長の学生服姿めっちゃかわいいっス!」
「除霊してるところなんて、美神さんと同じでかっこいいですね!」
「こっちの学ラン姿で応援している美智恵殿、凛々しいでござるよ!」
「ほほほ、ありがとー♪」
美智恵が持ってきた、美智恵の高校時代のアルバムだった。
実家で不要な物を整理していた時に出てきたので、娘達に自分の昔話でもしてやろうと思って持ってきた物だ。
「うーん、正直私は高校時代は良い思い出は少ないわ」
そう苦笑しながら言ったのは令子だ。
「あら、どうして?」
「成績優秀、容姿端麗、正義感バリバリのカリスマ優等生で、おまけに初の高校生でGS試験主席合格者になった卒業生の娘ってことで、期待と偏見が凄かったのよ。
おかげで何匹猫かぶりまくって周りの連中をだまくらかしてたことか…!」
「あらあら、それはご愁傷様」
優秀すぎる親を持つと大変である。
ちなみに、美智恵と令子は共に霊能関係の高校には進学しなかった。
美智恵は当時はまだ霊能科の高校はほとんどなく、六道女学院はまだ設立されていなかった。
令子の場合は六道女学院はあったのだが、中学時代は美智恵の死(偽称死ではあったのだが)で荒んでいたため、GSに進むべきか決めかねていた為、美智恵と同じ普通科の高校に進学したのだった。
「あと、「お姉さま~~♪」とか言って追っかけてくる後輩連中のうざいのなんの…!」
「それは私にも覚えがあるわね…」
額に青筋を浮かべて愚痴る娘に、苦笑で同意する母だった。
「あ、この人って、冥子さんのお母さんじゃないですか?」
そう言っておキヌが指差したのは、美智恵と六道冥子の母親、冥華が並んで写っている写真だった。
「おお、若い! やっぱり冥子ちゃんに似てかわいい!」
写真に写っている冥華は、今の冥子より少し上といったくらいの年齢だった。
横島が会った時の冥華は、のほほんとしているが何を考えているかわからない笑顔だったが、この写真に写っている冥華は心からの笑顔だと思った。
「ええ、私は冥華先生のところに弟子入りしていたのよ」
美神家と六道家は古くから付き合いのある家だった。
美智恵は両親の薦めで冥華に師事してGSになったのだった。
「この頃は私も冥華先生も色々あって大変だったわ」
美智恵は少し遠い目をしながらそう言った。
「む、この写真の美智恵殿、怪我をしておられるようですが?」
シロが取り上げて見せた写真には、大きい建物を背景に体のところどころに包帯とガーゼを貼り付けた美智恵だった。
しかし、痛々しい姿に反して表情はとても良い笑顔だった。
「これはGS試験の時の写真ね。私が受験した年の試験には強い霊能力者が多かったから、すんなりとは勝たせてくれなかったわ。
今なら、この時対戦した相手を全員瞬殺できるけどね」
最後にぼそっと物騒なことを言ってくれた。
「ところで隊長、なんで隊長の水着の写真が一枚どころか欠片もないんですか!?
水着写真を要求するーーー!!!」
全ての写真を血走った目で見た横島が、ぐぐっと拳を固め血の涙を流すような勢いで美智恵に聞いた。
つられて横島の膝の上に座っているひのめが、横島の真似をするように「あーうー!」と手を振り回した。
美智恵の写る写真は制服を抜いてどれも露出の高い服ばかりだ。だが、どうやら横島にとっては水着はどうしてもはずせないらしい。
「生憎とこの頃は一緒に泳ぎに行く相手がいなかったのよ、残念だったわね」
令子の突っ込みを受けて机に突っ伏す横島に向かって美智恵は微笑みながら言った。
少し離れたところでタマモがあまり興味がなさそうにアルバムをパラパラと流し見ていた。
「あれ?」
ページをめくっていると、ふと違和感を覚えて手を止めた。
何ページかもどり、違和感のあったページを見つけるとじっと注意深く見た。
ページに挟まれている美智恵が写る写真自体には違和感はない、だがどこか気になった。
注意深く他のページと見比べると、そのページだけ表と裏のページを仕切る厚紙が他のページに比べてわずかだが厚いのに気がついた。
タマモは爪を少し鋭くし、厚紙に切れ目を入れてから指を突っ込んでみると、一枚の写真が出てきた。
「ねえ、この写真なに?」
そう言って見せた写真は美智恵と誰かとのツーショットの写真のようだった。
ようだ、と言うのは、一緒に写っている相手が黒の油性ペンで塗りつぶされていたからだ。
顔だけでなく全身全てを覆い隠すように塗りつぶし、さらには一緒に写っている美智恵にまではみ出しており、相手の容姿や年齢、服装はおろか性別すら判別できなかった。
だが、美智恵が相手の腕に笑顔で抱きついている、ということは判別できた。
「うわ、もしかして昔の恋人? ママもやるー」
「やっぱりそうなんだ?」
「なにい!? 他にこのちちや尻やフトモモを手にした奴がいるのか!? 許せん、許せんぞー!!!」
「ばぶばぶー!」
「でも、塗りつぶされていてこれではわからないでござるよ。
美智恵殿の昔のお相手、どんな殿方だったか見てみたかったでござる」
「シ、シロちゃん、そんなこと言っちゃダメ…!」
おキヌがそう慌ててたしなめた。
おキヌも同じく恋する乙女、この写真の美智恵の笑顔は相手に精一杯の好意を寄せているのがわかった。
そして、その相手の姿を見えないようにするということはどういうことか? おキヌの中で、ドラマで出る失恋、破局、別れという単語が渦巻いた。
美智恵は周りの反応を気にせず、その写真をじっと見ながら思案するような顔をした。
「ねえタマモちゃん、その写真どこにあったの?」
「この中に隠してあったわよ」
ひょいと、切り取ったページを見せた。
「…やっぱりこの写真を撮った覚えもないし、その中に隠した記憶もないわ」
「ママ、もしかしてあまりにきっつい別れ方したから記憶を飛ばしちゃった?」
「ぐす、隊長さんかわいそう、捨てられちゃったんですね……」
「ああ、だから今の男に走ったのね」
「やはり美智恵殿のことだから、腹いせに殺してから死体を始末した後、全ての痕跡を消しているのでござろうか?」
「失礼ねみんな!? 私は最初から最後まで公彦さん一筋です!!」
「隊長、もしかしてもうボケが始まったのでは…?」
「横島君…」
いつの間にか復活していた横島がぼそっと呟いた。
美智恵は背景に炎を纏わせとても良い笑顔を向けた。
「なにか言ったかしら?」
「ななななな、なにもなんにもこれっぽっちも欠片も言っていないっス!!!」
服従の意を精一杯出しながら横島は謝り倒した。
(でも、本当にこの写真の記憶なんてない…わよね?)
もう一度よく見て思案し、ないと結論を出そうとしたが写真を見れば見るほどないと断言できる自信がなくなってきた。
(なにかしら、なにか…とても大切なことを忘れている…?)
なにか言い知れぬ感覚を感じ、全力で思考を巡らせた。自分の霊感も思い出せと強く訴えかけてきていた。
美智恵が深い思考に入ろうとした時だった。
「ふぎゃー! ふぎゃー!」
突然、ひのめが泣き出した。
「あらあら、おしめかしら?」
「よしよし、ひのめちゃん怖がらなくても大丈夫だよー。お兄ちゃんが年増姑怪獣ママゴンから守ってあげるからねー」
と、横島がひのめをあやしながら正気を疑うことを言った。
それを聞いた美智恵を除くメンバー全員の表情が引きつった。
(…とりあえず、考える前に横島君の教育が先ね)
こめかみにでかい井桁をつけたママゴン…もとい、美智恵は年長者として徹底指導して殺るため、殺気を迸らせ拳を固めて立ち上がった。
――――そして、異変は起きた。
「ふぎゃー! ふぎゃー!」
「…!? 霊波…!?」
泣き続けるひのめから、いきなり異常なまでの霊波が放出され始めた。
「横島ーー!! あんたなにしたーー!?」
「俺なんもしてないっスよー!?」
「ひのめ!?」
突然の事態に全員が戸惑っている間も、ひのめから放出される霊波は強くなっていった。
そして、突如ひのめから…正確にはひのめを抱きかかえている横島の背後に『穴』が生まれた。
「これは…!?」
「まさか、時空震!?」
時間移動能力者である美神親子は突然発生したものが時空震と瞬時に理解した。
だが、時空震を感知できない他のメンバー、特に横島は己の背後に発生した『穴』に気づくのが一瞬…この場合致命的に遅れた。
「…美神さん!!」
回避もすることも文珠を使う暇もなく『穴』に吸い込まれると判断した横島は、近くに立つ令子に泣いているひのめ――霊波の放出がやんだ――を、できる限り優しく投げ渡した。
「横島君!?」
令子は横島に近づこうとしたが、ひのめを抱きとめるために動くことができなくなった。
おキヌとタマモは突然起きた事態に動くことができなかった。
「先生!!」
「来るな!!!!」
シロが半ば体を吸い込まれた横島に手を伸ばそうと近づこうとしたが、今までにない強い口調と視線にビクッと硬直して動きを止めてしまった。
横島の近くにいる美智恵は―――何も行動を起こさなかった。
手を差し伸べることもせず、ただ呆然と立って横島が『穴』に飲み込まれていくのを見ていた。
そして『穴』が横島の全身を飲み込み、瞬きをする間に跡形もなく…それこそ何もなかったかのように消え失せた。
―――こうして、穏やかな午後の十秒にも満たない短い時間の間に、なんの前触れもなく唐突に横島忠夫は平成の世界から影も形も残さずいなくなった。
続く
どうも初めまして、北条ヤスナリというものです。(どうでもいいことですが、北条はホクジョウと読みます)
クォリティの高い作家さん達のSSに触発されて、自分も初めてSSなるものを書いてみました。(なのにいきなり連作というのは無謀だったかなw;)
文章が読みづらかったり、設定に矛盾があったり、キャラがおかしかったりしまくるかもしれませんが、宇宙よりも広い心で読み流して頂けると幸いです( ̄▽ ̄;ゞ
非常にスローペースな更新になるかもしれませんが、なんとか完結を目指して頑張りたいと思います。
では。