ザーザーと雨が降る。真っ黒な雲は空を覆い、大地に日の光は届かない。
私は天候というのは人の心を表すもの、また左右するものと思っている。だからこんなにも雨の日が続くと、心の中までどんよりとした厚い雲で覆われた気分になってしまう。
「6月に入り日本全土が梅雨入りしました。上空には発達した低気圧の雲が、しばらく留まり強い雨が関東を中心に3日間は続くでしょう。ここで注意報……ブチン……」
私はため息を一つ吐きテレビの電源を消す。この雨はまだ三日も続くのか……窓の方へ歩いていき空を見上げる。相変わらず雨がザーザーと音をたてて降っている。止む気配すらない、これでは洗濯物もできない。
「困ったわね」
今日でもうすでに雨が降り始めて四日だ。さすがに洗濯物も多くなっており部屋干しでなんとか済ましてはいるが、そろそろ太陽の日を浴びさせて洗濯物を干したい。やはり部屋干しと天日干しでは大きな差があり、どんなに頑張っても部屋干しは少し匂う。
「だから嫌いなのよ……雨って……」
ポツリとつぶやく。雨は嫌いだ。外には出にくいし、今みたいに洗濯物も干せない、気分だって憂鬱になるし、そしてなにより………
「どうした……?」
なにより雨の日は私の大切な人がいなくなる。
「……なんでもないよ。」
ゆっくりと優しく微笑む。布団に寝込んで、もうほとんど動かない…、いや動けない私の最愛の人へ向けて………
託された思い 前編
「……なんでもないことあるかよ。そんな今にも泣きそうな顔して」
彼が、夫が私に心配そうな顔をして言う。まったくこいつは昔からこんな所だけ鋭いんだから……彼の優しさに触れ、少しだけ私の心に光が射す。
「大丈夫よ、安心しなさい。余りにも雨が長く降り続けているから洗濯物が干せなくて困っていただけ。」
「そうか……ならいいんだ。」
彼はそう言うと、目を瞑り一度だけ大きく息を吸い込みそしてゆっくりと肺に溜まった空気を吐き出した。しかしその呼吸はどこか弱弱しく、頼りなかった。私の第六感が告げている。彼はもう長くはないと……。
「何か食べたいものある。」
優しく訊ねる。
「いや……今はあまり食欲がないな〜」
「でも、何か食べなきゃ。元気にならないわよ」
「う〜む、どうしようか」
彼が眉をひそめ、考える。昨日もこんな感じで、結局水しか飲まなかった。一度は病院にも連れて行こうと思ったがやんわりと断られてしまった。
「この家にいたい。もう少し、お前と二人っきりで……。」
そんな風に言われたら、連れて行くわけにも行かず。私たちは二人で家にいる。そして結局今日も……
「やっぱり、何も食いたくないわ……」
「そう……わかったわ。何か欲しくなったらいってね」
「ああ、ごめんな」
彼が心底申し訳なさそうな顔をする。私は別にかまわないと言うと、彼に少し寝るようにいい洗濯機を回しにその場を後にした。心なしか外の雨の音が先ほどよりも強く感じた。
「悲しませてしまったな……」
自分の最愛の女性を悲しませた。そんな自分に腹が立つが、もう体がまともに動くことすらままならない状態であり彼女を追いかけて慰めてあげることも出来ない。わかっている。わかりすぎている。自分はもう長くない、後数日の間には死んでしまうだろう。長年GSとして戦い続けた経験、とそれからなる自己分析、それらが全て自分の死は確定だといっている。
「ごめんな……」
そう呟くとゆっくりと目を瞑る。彼女はここにはいないけれど精一杯心から謝ろう。
「俺のためなんかに悲しませてごめんな……令子」
ゆっくりと彼の意識が闇に染まっていく……
今日の眠りはやけにスムーズに入れた。いつもは息苦しさやなんやらで、なかなか寝付けないのにどうしてだろうか?それにこの浮遊感は……?もしかして俺死んじまったか?しかしそれにしては……
「おっちゃん、大丈夫か?」
突然声をかけられたので目を開けると、そこにはあどけない表情の少年が一人心配そうに自分の顔を覗き込んでいた。初対面だが俺はこいつを知っている。そうこいつは俺だ、少年の頃の横島忠夫だ。
「なあ、どっか悪いのか?」
俺が何も反応を示さないので再度少年が聞いてきた。
「いや、大丈夫だ。悪いな、坊主心配かけて」
「ホンマや。びっくりしたで森の中がピカッて光ったらおっちゃんが寝取るもん」
「ははは、すまん。すまん」
「あーあー、寝取るのが、美人なねーちゃんやったらな〜。俺も嬉しかったのに……」
「悪かったな、このくそガキ」
あからさまに残念がる少年に苦笑しながら答える横島、そういえばこのとき(10歳ぐらい)には女性に興味を持ち始めていた。さすがにセクハラはしてはいないが、まあ良くて憧れるぐらいの認識だ。
「ところで、坊主」
「ん?」
「俺はいったい何歳に見える?」
「は?」
横島少年がポカンとした表情で横島を見る。その表情からは何言ってんだ、こいつ?としっかりと書いている。
「いいから、言ってみろ」
「う〜〜〜ん、25歳くらい?」
「ふむ。」
(やはりそうか、先ほどから感じているこの体の違和感。それは俺の体がやけに軽いこと、また、あんなによぼよぼだった手が昔のように生気に満ち溢れていることだ。)
「なんか癇に障ったんか?」
突然思考の海にダイブしたおかげで適当な反応しか出来なかったせいか、焦って少年が問いただしてきた。
「いや」
また適当な反応を返す。横島少年の方は本気で焦っており、なんか癇に障った?傷ついた?などなど聞いてはくるが、横島は今自分の現状を確認しておりそれ所ではないので、罪悪感を多少感じながらもスルーを決め込んでいる。
「堪忍な……」
ついには謝ってきた。さすがにこれ以上はスルー出来ないと判断し、一度思考の海から戻ってくる。しかし俺ってここまで、いい子だったか?
「ああ、気にするな。別にお前のさっきの発言であれこれ考えていたわけじゃない。」
「なら、何を考えてたんや?」
「う〜〜む、それはな……」
(さてどう説明しようか……僕は未来から来た君だよ!なんて言ったら確実に痛い人に見られるな。しかし、現状では情報が少なすぎる。ここは適当にごまかしてさっさとこの場を離れたほうがいいかな?さてどう誤魔化そうか……)
「おっちゃん……」
「なんだ?」
また思考の海にダイブしていた横島に向かって横島少年がポカンとした表情で声をかけてきた。
「おっちゃん………幽霊やったんか。」
「なんですと?」
思考の海から帰ってきた横島は自分の下の方にいる少年に顔を向けた。
「下の方?」
もう一度確認するかのように下を見る横島、そこには相変わらずポカンとした少年が自分を見上げている。そう横島の体が浮いているのだ。さすがに焦った横島は再度自分を自己分析。その結果、この体には肉体は無く霊気だけで構成されていることが判明、そう今の彼は正真正銘の幽霊なのである。
「なぜに?」
横島の呟きに答えるものは誰もいない。そうこれからが始まりなのだ。横島とGS達の骨肉の争い!制限時間無制限!先に極楽へ逝かせたもの勝ち、究極デスマッチ一本勝負!!
「いや!まてまてまてまてまて!!!!!!」
いざ、尋常に……………勝負!!!!!
「勝負じゃねーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
「ど……どうしたん?おっちゃん?」
。
「あ……………すまん、少年………」
横島の叫びに完全に怯えてしまった横島少年に対し、ばつが悪そうに頭をかきながら謝る横島。そして深呼吸を一回すると真剣な表情で少年を見つめた。
「坊主、聞いて欲しい話がある。」
「愛の告白はお断りやで?俺はノーマルや。」
「心配するな。俺もだ。てか、かなり重要な話だ。真剣に聞いて欲しい。」
あまりに真剣な横島の表情に気圧されながら、少年が真剣な顔をして横島を見る。
「お前に幽霊というのを少し説明してやる。幽霊とは自分の死後さまよっている霊魂のことを言う。そしてなぜさまよっているかというと、まあ想像つくと思うが……恨みや未練を他人に訴えるためだ。その過程で悪霊になったりして他人を襲ったりするのもいるのだが……。それはどうでもいいか。ともかく、幽霊とはこの世になんかしらの恨み、未練がある奴がなるものなんだ。ここまでいいか?」
横島少年が一回頷く。
「よし、んじゃ。ここからが本番、と言う事は逆に言ってしまえば恨み、未練が無い奴はさっさと成仏してしまうわけだ。これはなぜか?案外答えは簡単で、平たく言えば栄養不足なんだ。」
横島少年が首を傾げる。
「この世のありとあらゆる物には、霊気が混じっている。それは生きていようが生きていまいが関係ない。ただあまり意識………意思というか、心というか……まあ、そういうのがかけている、もしくは無い奴らは霊気をほぼ常に垂れ流している状態なんだ。そしてそれが幽霊の食事となる。」
「なら、おっちゃんもその霊気を食べているのか?」
横島は首を横に振る。
「いや、俺は食っていない………食えないんだ。」
「なんでや……?だって、さっきの説明で……」
「まあ、最後まで聞け、この自然の中にある霊気を食べるという行為は普通、出来ないことなんだよ。しかし幽霊は出来る。そこに関係してくるのが陰陽の考え方なんだ。まあ詳しくは説明が面倒だから省くが、そうだな磁石をイメージしろ。自然界から出る気は通常は陽気……磁石でいえばN極にしよう。そして幽霊が持つ気の特性はほとんどが陰気、いわばS極だ。ここまで説明すればなんとなくわかるだろ?N極とS極は引き合う。気も同じという訳だ。だから幽霊は、つね日ごろから霊力を補給できている。ゆえに、この世に留まることが出来る。世界の、自然の助力でな……では、なぜ俺は幽霊の癖して自然の気を食べれないのか?簡単だ、俺の気の性質が自然と同じ陽気よりだからだ。なんといっても俺はこの世に未練もクソもないからな。」
「なら、なんで幽霊なんや?」
「事故だな……理由は判らんが、少なくとも俺はまだ生きている。」
「幽体離脱ってやつ?」
「ほう、難しい言葉を知ってるな?確かにそれに近いものだろうが違う。幽体離脱なら霊体と肉体が繋がっているはずだ。しかし俺は繋がっていない。だから幽霊と言った方がいいのかも知れん。」
横島少年が腕を組み、う〜〜むと難しそうに唸り声を上げている。
「訳分らん。」
「幽霊もどきになった本人すら分らないんだ。しょうがね〜よ。」
それもそうやなと、少年が呟くとパッと難しいかを止め今度は心配そうに横島の顔を見つめる。
「じゃあ、おっちゃんは消えてしまうんか?」
この一言に横島の目が大きく見開かれる。10歳(想定)にしては、なかなかに頭の回転が速い。果たしてこの頃の自分はこんなにも頭の回転が速かったろうか?思い出すのはミニ四駆の大会で優勝し、表彰台でキャッホウと騒ぐ自分の姿………そして、調子に乗りすぎて表彰台から転落する自分……やめよう。今考えることではない。
「ああ、そうだな。」
「そうだなって……。なんとかならんのか?」
「…………一つだけ方法がある。」
横島が重々しく口を開く。
「坊主、お前が俺の依り代になってくれないか?」
あとがき
はじめまして、カジキマグロです。今回初めてGSの小説を投稿したのですが、正直間違いが無いか不安です。GS自体を見たのが自分が小学生ぐらいのときなので、あまり覚えてないですし内容の食い違いが結構出てくるかも知れません。もうすでに幽霊なんて勝手な解釈ですから……しかしちゃんと後編も近い内に掲載するので、至らないとこだらけの小説ですがどうか読んでください。