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▽レス始

「月と太陽 プロローグ(GS+いろいろ)」

奏 (2007-02-22 17:49)
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 横島が,唐巣の助手になってから半月が過ぎた。

 流石に助手まで干上がらせるわけにはいかないので,唐巣はちゃんと除霊に料金を取るようになり,それまで5桁を切りそうだった唐巣の銀行の預金残高は,一気に8桁にまで到達していた。唐巣本人はあまり嬉しそうではなかったが。
今回彼らは,露天風呂に出現した幽霊を除霊するため,『人骨温泉ホテル』へ向かっていたのだが,途中の山道で,横島は地縛霊に体当たりを仕掛けられた。
 余裕で回避し,反撃しようとした横島だったが,相手が美少女だと気づくとあっさり拳を引き,すぐさま幽霊の少女を口説き始めた。
 そんなバカを冷や汗混じりに(この時まで唐巣は,横島が無類の女好きだと知らなかった)引き離しつつ,唐巣が少女に事情を尋ねる。

『私はおキヌと言って,300年ほど前に火山の噴火を鎮めるために生け贄になりました』

 通常,そう言う霊は地方の神になるものだが,彼女は何故かそうなることも,成仏することも出来ないのだそうで,横島を殺して,地縛を代わって欲しかったそうだ。
 このまま放置しておけば,いつかは犠牲者が出るのは確実なので,唐巣は取り敢えずおキヌを自分の保護下に置き,今回の仕事が済んだ後に,なるべく安らかに成仏させると彼女に約束した。
 事件が思わぬ方向へ進んでいったのは,ホテルについた後,露天風呂で件の幽霊と遭遇してからである。
 明痔大学ワンダーホーゲル部員だった髭面の青年は,雪山登山中に仲間とはぐれ,雪に埋もれて死んだのだが,その遺体は発見されないままで,未だに成仏出来ないのだという。
 ここで唐巣は,ワンダーホーゲル部とおキヌの呪縛を入れ替える,という方法を思いついた。
 山の神になれる,と聞いたとき,ワンダーホーゲルは狂喜乱舞し,その提案を受け入れ,結果,おキヌは地縛が解け,ワンダーホーゲルは山の神として新たな一歩を踏み出したのだった。因みに遺体のほうは,神父に高額な危険手当を受け取ることになった横島が着の身着のまま山に分け入り,見事発見したという。
 想定外だったのは,地縛が解けてもおキヌが成仏出来なかったと言うことだ。やっていたことは危険だが,根は優しい少女のようなので,結局彼女は引き続き唐巣の保護下に置かれるとともに,月給一万円でお手伝いとして雇われることになった。

 


 神父はこの時,自分がしたことをひどく後悔し,やがてそれが原因で起きる事件の渦中に,横島と共に飛び込んでいくことになるが・・・・・それはまだ,先の話である。



                 第1話


 おキヌが教会に来てから一週間が経った。
 300年地縛されていたにも関わらず,家事が万能な彼女に,一人やもめの唐巣は非情に感謝していた。彼も料理や洗濯は一通り出来るが,決して得意ではなかった。それに,空を飛べるので,自分では難しい教会の天井掃除なども頼めるようになった。
 ついでとばかりに横島の部屋も掃除して料理まで作ってくれるからありがたい。美少女な上にこの面倒見の良さと来たら,ポイント高すぎである。
これで肉体があったら・・・・・と,横島が思ってしまうのも無理はないだろう。


そんな彼らの今日の仕事は,ビルの社長室を占拠した悪霊の除霊である。かなり強力な霊らしく,既に何人ものGSが返り討ちにあっているらしい。依頼料は五千万と,今までの唐巣からは考えられない額だ。
「でも神父・・・・あと五千万出すって向こうが持ちかけてきたのに,わざわざ断ることないでしょう」
社長室に向かうエレベーターの中で,横島が呆れたように呟く。
「いや,悪霊に襲われた人たちから無理にお金を取るのは・・・・・」
「出せるから出すって言ったんですって。まあ,俺は自分の給料を貰えればいいんスけど」 このオッサンの金銭感覚の無さは深刻である。下手に金を持たせたら,募金箱に札束を押し込むかもしれない。
 GSに興味を持ち始めた自分に,オカルト知識などを懇切丁寧教えてくれたり,飯を奢ってくれたりと感謝は尽きないが,こういう部分は流石に直した方がいいと思う。

 閑話休題。

横島は気持ちを切り替えると,唇を尖らせ,長く,深いストロークの深呼吸を行う。
 『神威の息吹』と呼ばれるその呼吸法は、『仙術気功闘法・神威の拳』の源たる『神気』を発動させる重要なプロセスである。
 呼吸と共に体を覆っていく金と銀の光は、やがて溶け合い、白金の如き輝きを帯びる
さらに横島は、体に存在する『気』と呼ばれるエネルギーを、『神気』と共に束ね、体中に満たしていく。
 『気』も『神気』も、GSが操る『霊力』とは異なる力であるが、詳しい違いは横島にはわからない。これらも単純に優劣があると言うわけではなく、ただ性質が違うだけだ。
 因みに、唐巣が言うには、生まれつきか徐々に備わったのかは解らないが、横島にも相当な霊力を持っているという。尤も彼は、それを使うことは今のところ出来ないが。
『横島さん、とっても綺麗ですね・・・・・まるで神様みたい』
 おキヌの台詞は、聖職者である唐巣にとっては少し複雑だったが、確かに今の横島には、ある種の神々しさが備わっていた。
「しかし横島クン、済まないが資格のない君に除霊させることは出来ないから・・・」
「分かってますって。俺が動くのはいざという時だけですよ」
 臨戦態勢をとりながらも、気楽そうに言い返す横島。いくら強くても、GS資格のない横島に除霊させたら、唐巣の責任問題だ。何より唐巣は,横島に危険の伴う除霊をさせたくなかったのだ。

 
 社長室はひどい有様だった。あらゆる物が壊れ、壁が、天井が砕け、あちこちに血痕まで残っている。エレベーターも,彼らが乗ってきたもの以外はすでに破壊されている。
「あー・・・・・君がこの部屋にいるのは判っている!出来ればおとなしく成仏して欲しい!」
 当然の如く,答えはない。
『説得できるような相手なら,他のGSさんが殺される事もなかったと思いますけど・・・・』
「・・・・まあ,一応ね」
 おキヌの言うことも尤もだったが,話し合いで解決できるのなら,それに越したことはない。何より神父自身,争いごとは好きではないのだ。
「・・・・・・神父,飛んで!」
 言うやいなや横島は,おキヌを抱き寄せるとそのまま横に跳躍。ほぼ同時に神父も反対側に飛ぶ。

 彼らの背後のエレベーターが爆発したのは,その直後だった。

『?え?』
 何が起こったのか理解できないおキヌを背中にかばう形で,横島は『それ』を見据える。
 人型の悪霊である。殆ど骸骨に近い容貌だったが,何より目立つのは,その両肩に浮かぶモノ。

         苦悶の表情を浮かべ,赤い涙を流す,人間の顔だった。

 悪霊は,エレベーターの扉の破片をおもむろに掴むと,いきなり横島目掛けて投擲。
「ッ!」
 時速百キロ以上で迫る破片を,左掌で迎撃する。それだけで完全に威力を殺された破片は,ゴトリと床に落ちた。
 さらに追い打ちをかけようとする悪霊は,背後で霊力が高まるのに気づき,振り返る。
 その目の前で,聖水入りの瓶が爆発した。
『!?』
 聖水と,霊力を帯びたガラスの破片に悪霊がひるんだ隙に,3人は全速力で合流する。
「神父,結界を!おキヌちゃんを頼みます!」
「任せろ!」
 言うが速いか横島は,悪霊に突進していく。
「・・・・あ,いや,違う!」
 神父が自分のミスに気づいたときには,もう横島は渾身の右ストレートを悪霊に叩き込んでいた。
 鋼を鉄のハンマーで打ち据えたような,『神気』が物体や霊体を貫通するときに放つ甲高い音が,社長室に響いた。

 横島が父から学んだのは,『神威の拳』ともう一つ,『九頭竜』と言う対仙術・仙術である。
 同じく『仙術』の名を持つ通常の『神威の拳』を遙に上回る力を持ったそれは,特殊な鍛錬を施し,人体に存在する『気』を用いて,異界のモノを屠るのだという。
 神も魔も滅するその拳は,並の悪霊に耐えられる威力ではない。
だが,
「・・・・!」
『あ・あ・あ・あ・あ・・・・・・・・』
 苦しみながら消え去っていくのは,悪霊の肩に浮かんでいた顔の一つ。
「・・・・・てめぇ,ずいぶん悪知恵が働くじゃねーか」
『・・・・・・・・そうでもないさ』
 横島から数メートル離れた床から,先ほどの悪霊がゆっくり顕れた。
『俺を除霊しに来たゴーストスイーパーどもを返り討ちにしたとき,おもしろいことが判った。幽霊ってのは他の霊の力を吸収したり,霊そのものを取り込んだり出来るんだよ・・・・・・最初は見境無く暴れることしかできなかったが,今ではご覧の通りだ。貴様らも殺して吸収してやろう』
 取り込んだ霊を囮にするとは非道な手段だが,知恵が回るのは確かだ。
横島は腰を深く落とすと,小指のみを曲げた手刀を作る。どうやら今の行為が気にくわなかったらしい。
「・・・その程度じゃ,俺を殺すことなんてできないぜ?」  
『出来るさ』
 そう言うと悪霊は,横島目掛けて真っ直ぐに腕を『伸ばす』。凄まじい速度で伸びる腕が,横島の体を貫いた       と,思った瞬間。

 悪霊の体は,自分の意志に反して宙を舞っていた。

『・・・・・!?』
 横島は,伸びてきた腕を回避したと同時に神速で悪霊の目前まで踏み込み,左掌を押しつけ,エネルギーの圧力で上方へ弾き飛ばしたのだが,悪霊がそれに気付くことは最後まで無かった。
 悪霊が姿勢を正す前に,彼は右手に浮かぶ白金色の光球を投げつける。
「・・・・煌龍拳!」 
バレーボール大のエネルギー弾が,悪霊の胴体部分を粉々に弾き飛ばした。


 殆どの力を失った悪霊は,唐巣神父によって取り込んだ霊たちと共に消滅し,輪廻の輪へと入っていく。
「横島君。確かに君は恐ろしく強いが・・・・・今のはちょっと,ね」
「・・・すいませんでした」
 殺気を受けて,ほぼ反射的に戦闘に突入してしまったことを,素直に詫びる横島。
 だがあの場合,おキヌを護る結界を展開できるのは唐巣だけだし,正味な話,唐巣が戦っていたら,負けはしないにしても,もっと時間がかかっていただろう。結果的には良買ったと思う。
 それでも唐巣は,今はただのバイトでしかない横島を,危険な除霊には駆り出したくなかった。
 除霊は,今回のように力押しだけで成り立つ物ばかりではない。もっと,複雑で危険を伴う物も沢山ある。
 その証拠に,今までは荷物持ちしかさせていなかった。
『横島さん,凄く強いんですね』
「ああ。単純な戦闘能力なら,私など遠く及ばないさ」 
 とんでもない超常バトルを見て,ちょっと興奮気味なおキヌに,唐巣は苦笑しながら答える。
 唐巣は,横島にはもっと多くのことを学んで欲しいと思うようになっていた。この少年はきっと,自分よりもずっと多くの人の力になれると思うから。


「ところで・・・・・俺たち,どうやって帰りましょうか?」
「・・・・・・・・・どうしようか?」
 今まで家庭の事情(横島もまだ給料が出ていない)で,携帯電話を持っていなかった貧乏人たちは顔を見合わせた。

 彼らがビルを脱出できたのは,おキヌが救助を呼んでから実に2時間以上経ってからだったという。


 


   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 この後書きを書いている横で、弟が『ひぐらしのなく頃に祭』をプレイしてますよ。僕もプレイしたい(関係ない)。

 続編を投稿させて頂きます、奏です。
 今回はなかなか調子が乗らず、うまく書けませんでした。もっと修業せねば。
 しかし、雑魚にパワーアップ処理を施してもこの程度だとは・・・・むやみに九頭竜まで加えた弊害が出てきました(汗)。まだ想定の範囲内ですけどね。
 ちなみに、今後はもう一作品クロスする予定です。設定だけですが。
 今回は、この辺りで失礼します。ああ、『祭』やりたい・・・・・。

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