GS(Ghost Sweeper)……悪霊、妖怪退治を生業とする者達の総称であり、その中でも、強力な神・魔族と(外道で卑怯な手段を用いて)対等に戦い、伝説となったGSが存在した。
その名は美神 令子…………日本史上、最高のGSである。
「てゆーよーな、特集組もうと思うんだけど、どうよ!?」
「いや、どうよって言われても……」
賑やかな商店街を2人の少女が歩く。1人は、桃色の短い髪に薄い紫の切れ長の瞳をした気の強そうな少女。そして、その横で興奮気味に話しているは、黒髪を背中まで伸ばした眼鏡をかけた少女で、共に同じ制服を着ている。
「それって、まるでお姉ちゃんが死んでるようじゃない?」
「でもでも〜! 美神 令子さんって言ったら、私達、GSを目指す女の憧れでしょ!? しかも、今では引退して、伝説の名を欲しいままにしてる。その美神 令子さんの特集を組んで欲しいって、要望が殺到してんのよ」
「う〜ん……とは言っても、お姉ちゃん、お義兄さんの仕事に付いて行っちゃって海外だからな〜」
「え!? 美神さん、また仕事再開するの!?」
「違うわよ。お義兄さんが浮気しないか見張りよ。まぁ、帰って来る頃には、骨の2,3本は折れてるんじゃない、お義兄さん」
それを聞いて、眼鏡の少女は、ぽかんと口を大袈裟に広げる。
「浮気……見張り……?」
「うん。あ、そうそう。お姉ちゃん、今は美神じゃなくて横島……」
「いやぁあああああ!!!!!!! それ以上、言わないでぇーーーっ!!!」
突然、涙を流して絶叫する眼鏡の少女に、タメ息を吐くもう一人の少女。
「嫌よ! 嫌よ! あの伝説のGSが普通に主婦やってるなんて、六道の生徒は認めてないわよ!」
「ってか結婚したの、もう10年近く前……」
「シャラァップ!! 認めない! 認めないわよーーーっ!!」
段々とテンションが上がっていく眼鏡の少女。すると、彼女の体から淡い光が漏れ出す。
「げ……ちょ、ちょっと冥南(めいな)、落ち着き……」
「おねぇさまーーーーーっ!!!!!!!」
冥南と呼ばれた少女が叫んだ瞬間、彼女の影から12匹の動物のような形をした生き物らしきものが飛び出して来た。巨大なものから小さなもの、空を飛ぶものもいれば、二足歩行するものまでと様々なモノ。
式神……彼女、六道 冥南の影に潜む12匹の鬼で、彼女を守護するのが役目だが、こうして感情が昂ぶると、勝手に出てきて暴れ出してしまう。
式神達は、商店街を荒らして暴れ回り、住民は悲鳴を上げている。
「冥南! 落ち着きなさい、冥南!!」
「あぅ〜……おねえしゃま〜」
「くっ……どうすりゃイイってのよ……」
自分は姉ほど、暴走した式神を取り抑える(正確には、パニック状態の術者)術を知らないので、悔しそうな表情になる。
どうやって友人を落ち着かせようかと考えていると、突然、彼女の携帯が鳴った。こんな時に、と怒りを隠そうともせず、画面を見ると、そこに表示されていた名前を見て驚く。と、同時に何か思いついたような笑みを浮かべて、携帯に出た。
「もしもし。お久し振りです。え? 爆音? ああ、冥南の式神が暴走しちゃって……そこでお願いがあります。可愛い妹分の頼みを断る訳ないですよね? え? 無茶言うな? ふ〜ん……じゃあ、あの秘密を…………あは♪ 優しいお兄ちゃん、大好き♪」
笑顔を浮かべて、少女は何度か頷いて通話を終える。そして暴走している親友を見て、パンと手を合わせて目を閉じる。
「南無阿弥陀仏、冥南。警察で、たっぷりと絞られなさい」
少女――美神 ヒノメは、そのまま親友を置き去りにして去って行った。
美神除霊事務所。美神 令子が経営していた旧式の洋館だが、彼女が引退してからは、ヒノメが使うようになっていた。
『この土地あげるわ』
とか言って、旦那と新居に移動した姉の奔放な性格に、ヒノメは当初、困り果てたが、光熱費や水道代などは、何故か姉が払ってくれている。
『美神さんが自分の住居以外の生活費を払う!?』
『天変地異の前触れだ!』
『世界の終わりだ〜!』
と、彼女を良く知る人達の意見は、今でもヒノメも良く覚えている。ヒノメ自身、あの金の亡者を存在そのもので体現していると言っても過言ではない姉が、何でそんな事をしてくれるのか意味不明だったが姉曰く。
『だってお金稼ぐのは趣味だし、今でも大好きだけど、妹も大好きだから、妹孝行しなくちゃ』
確かに、姉は金に汚いが、家族は大事にしている。が、金と比べられても困る、のがヒノメの素直な考えだった。
しかし、母親は父親のいるアマゾンに入り浸りなので、こうして一人暮らし出来る家があるのは有難かった。
「ただいま、人工幽霊壱号」
【お帰りなさい、ヒノメさん】
誰もいないのに「ただいま」と言うと、家そのものが返事をした。何でも、この事務所には渋鯖 人工幽霊壱号(しぶさば じんこうゆうれいいちごう)という、戦前のオカルト研究家である渋鯖博士によって作られた人工霊魂で、強力な霊能力者のエネルギーを受けていないといけないそうだ。
恐らく美神 令子が、ヒノメにこの事務所を与えたのは、人工幽霊壱号の為かもしれないと彼女が考える。人工の霊魂とはいえ、自分がいなくなって消えるのは可哀想なのだろう。本人は、恥ずかしいのか否定するが。
「例のお客さん、来てる?」
【はい。既に応接間で待っています】
「ありがと。さ〜て、今日はどんな厄介ごと持って来てるんだか」
ヒノメは、面倒そうな言いぶりながらも、何処か楽しそうに応接間に入る。
「ヒノメちゃん!」
「は〜い、久し振り」
応接間に入ると、黒髪にスーツを着た顎鬚を生やした、結構な年の男性がソファに座っていた。ヒノメは軽く手を上げ、挨拶する。
「ロリコン西条さん」
ズシャアアアアアアアア!!!!!
男性――西条 輝彦(さいじょう てるひこ)は派手に床に転がる。
「ヒ、ヒノメちゃん、その呼び方は……」
「え〜? だって私が10歳の時、お姉ちゃんの子供の頃と間違えて泣きながら抱きついて来た……」
「わーわー!! それ以上言わないでくれ! 頼むから!」
「お姉ちゃんがお義兄さんと結婚したのが悔しくて悲しくて、自暴自棄になってたものね、西条さん」
「うぅ……あの時は酔ってたんだ……自棄酒だけど……」
「西条さん、私、チャネルの新作欲しいんだけど?」
「き、君、まだ僕を強請る気かい? さっきも警察に手を回して、冥南くんの件をもみ消して欲しいとか言ってきたくせに……」
表情を引き攣らせ、テーブルを支えにして起き上がろうとした西条に、ヒノメは輝かしい笑顔を振り向ける。
「利用出来るものは、出来る内にしなくちゃ」
「…………君、段々、令子ちゃんに似て来たね」
「褒め言葉として受け取っておきます。で? 今日は何のご用件で?」
「ああ……と、そういえばヒノメちゃん。またバベルに誘われたんだって?」
「え? ああ……」
西条に、そう質問され、ヒノメはデスクに置いてある新聞を取る。新聞には『バベル、高層ビルの火事から無事、社員救出!』という見出しの記事があった。
「最近、超能力も話題になって来てるわね。念力、瞬間移動、透視……私の発火能力もその部類に入るそうだけど」
そう言い、ヒノメは指先に火の玉を作り出す。彼女は、生まれつき美神家特有の強力な霊能力と同時に、自然発火能力という超能力を併せ持っていた。
「何でも最高のレベル7だそうだけど、生憎、組織なんかに縛られるのは好きじゃないのよね」
「はは。でもまぁ、君の場合は、ちゃんと能力が制御出来るから良いじゃないか」
「まぁね……で、西条さん」
「ん?」
「今、明らかに話題逸らしたでしょ?」
ズイッと青筋を浮かべたヒノメに迫られ、西条は「うっ」と言葉を詰まらせる。
「いや、その……」
「今回の件、そんなにヤバいの?」
「いや……ヤバいというか、君に頼むのは非常に好ましくないと言うか……」
「いいから、資料見せなさいよ!!」
イライラさせる西条の態度に、ヒノメは一瞬で彼の鞄を奪い取り、中から資料を漁る。
「あ〜! ちょっとヒノメちゃん! それ一応、オカルトGメンの……」
「え〜何々……裏帳簿? こんなん違う」
「どわ〜!! 子供がそんなん見ちゃいけません!」
「今時、裏金の無いお役所なんてないから気にしないわよ」
「言っとくが、僕は無実だぞ! 無能な上が駄目なんだ!」
「はいはい。西条さんみたいにクソ真面目な人は、大抵、煙たがられて辺境勤務か責任押し付けられるパターンだもんね」
「うぅ……あのハゲ、いつも僕を目の仇に……」
何だか、すっかり三枚目に落ち着いてしまっている西条に、ヒノメは苦笑いを浮かべて、資料を見つける。
「何々……『痴漢する霊団のいる電車』? 何コレ?」
「見ての通りだよ。女性専用車両が出来て、痴漢出来なくて女性経験どころか恋愛経験すらない霊達が、毎日、通勤時間を狙って痴漢するんだ」
「うわ……」
資料には、見るからにスケベな顔をして女性の胸や尻を触りまくる霊団の写真が載っていた。
元々、痴漢を防ぐ為に女性専用車両が作られたのに、それが皮肉にも、こんな迷惑な霊団を作ってしまったのだから笑うに笑えない。
「しかも、『何で俺らが毎朝、ラッシュで苦しんでるのに、女どもは広々とスペース使えるんじゃ〜!』とか『しかも、あんな痴漢に絶対に狙われないオバハンが乗るんじゃねー!』とかいう悲哀なサラリーマンの霊まで……」
「最悪ね……で? オカルトGメンはどうしたのよ?」
「全滅……僕を含めて」
「西条さんも焼きが回ったわね〜。アマチュアの私に頼るなんて」
「しょうがないだろう! 令子ちゃんを始め、優秀なGSは引退か海外に流出! 現在、オカルトGメン日本癸韻離圈璽箸歪拘任務が殆どだし、こんな事に海外からの助っ人や上から増援を頼むなんて出来ないんだ! ちくしょーーーっ!!」
「若手を育てなかったツケが回って来たわけね」
やれやれとタメ息を吐いて、ヒノメは資料をいきなり燃やした。
「ヒ、ヒノメちゃん?」
「西条さん、今回の件、いつもより報酬多めでお願いね」
「い、いいのかい? 頼んどいてアレだけど、君をそんな電車に……」
「ふふん。西条さん、私を誰だと思ってんの? 人類最強のGS、美神 令子の妹、美神 ヒノメよ」
凛とした表情で、不敵な笑みを浮かべるその姿を見て、西条はつい表情を綻ばせた。それは、間違いなく彼女の姉と瓜二つだった。
朝のプラットホームで、ヒノメは問題の電車が来るのを待っていた。すっかり痴漢する霊団が有名になり、女性客は皆、他の車両に乗ろうとしている。
「ん?」
ふとヒノメは、隣に三編に大きな眼鏡をかけ、セーラー服を着た地味な少女が立っているのに気づく。
「(霊も、あんな地味な娘は、痴漢しないのかしら?)」
かなり失礼な事を考えているヒノメ。すると、問題の電車が到着した。
「うげ……」
電車が目の前で止まり、ヒノメは顔を引き攣らせる。
【触らせろ〜〜!!!!】
【尻〜〜〜!!!】
【胸〜〜〜!!!】
【わはははは!!! この席は俺のもんだ!! 誰が譲るもんか〜!!!】
その車両には、霊団が隙間無く詰まっており、中にはヒノメを見て、ベターっと顔を窓に張り付かせている。プシュー、と音を立てて扉が開き、ヒノメは中に入る。
【ゲヘヘ〜、女〜】
【触らせろ〜】
【俺の股間に触れ〜】
「(何だかお義兄さん見てるみたい……)」
額に指を当てて、体に触れてこようとする悪霊の手をパァンと払い除ける。
【あの……】
「へ?」
その時だった。先程、ヒノメの隣にいた、三つ編に眼鏡をかけた少女が話し掛けて来た。
【すいませんが、出て行って貰えないでしょうか?】
「は? えぇ〜と……貴女は?」
【山田 華と申します。幽霊です】
ペコッと頭を下げる少女――山田 華(やまだ はな)に、ヒノメも「あ、美神 ヒノメです」と頭を下げた。
「って、そうじゃなくて! 幽霊って!?」
【はい。私、10年前、この電車に乗って通学していたのですが……】
どごっ!
【病弱で、心臓麻痺でこの電車のこの車両で病死したのです】
ばきっ!
「また唐突な……」
ぐしゃっ!
【ですが、私……生まれてこの方、父親以外の男性の方とお付き合いどころか、お話した事が無いんです。病気で高校も2年留年して……存在感薄過ぎて、修学旅行でも班を決める時は、いつも余りもの……】
めきっ!
「キツいわね……」
【私、少女漫画が大好きでして、それで、いつかアキラくんとシズホちゃんみたいな電車の中で手を繋いで楽しく登校するような通学を夢見ていて……】
どぐしゃっ!
「誰よ、アキラくんとシズホちゃんって?」
【それで、こうして死んでから毎日、この車両に乗ってるんですが……誰にも気づいて貰えないんです〜〜〜!!!!】
ごっ!
「そりゃ幽霊だもんね。一般人は気付かないわよ」
【それどころか、この車両の痴漢の幽霊さん達にすら気付かれないんです〜〜!! 私しか乗ってない時でも!!】
「それは悲惨過ぎる!!」
存在感薄過ぎるにしても限度と言うものがある。華の悲しみも、もっともだと思うヒノメ。
【あの、ところで先程から鈍器で人を殴るような音が聞こえてるようですが、何なんですか?】
「ああ、しつこく触ろうとしてくる悪霊どもぶん殴ってたの」
パンパン、と手を叩きながらヒノメが言うと、床には悪霊がズダボロになって倒れていた。
【ぐおおおおおおおおお!!! 女〜〜!!!】
【触らせろ〜〜〜〜!!!!】
【俺の席を奪うんじゃねぇ〜〜〜!!!】
【お願い! 私とお付き合いしてください!】
「って、邪魔すんじゃないわよ! っつーか、悪霊相手に交際申し込むな!」
霊団が突如、叫び出し、一つに集中し、巨大な悪霊になった。ヒノメは、不敵に笑うとお札を取り出した。
「吸引!!」
するとお札の模様が光り、中心に向かって霊を引き寄せる。
【ぐおおおおおおおおおお!!!!!!!】
【きゃあああああああああ!!!!!!!】
「あ、ヤバ!」
悪霊を吸い込もうとしたヒノメだったが、同時に華までも吸引してしまいかけ、慌ててお札を閉じた。
【ぐるぁあああああああああ!!!!!】
「くっ!」
大きな手を振り下ろしてくる悪霊。ヒノメは、華を抱えて避ける、と振動が電車全体に響く。他の車両からは振動で悲鳴が聞こえ、ヒノメは唇を噛み締め、悪霊を睨み付ける。
すると彼女はバッグの中から、何か柄のようなものを取り出し、それを振るうと、棒が延び、警棒のようになる。
「痴漢だけでも犯罪だってーのに、死んでまで女に迷惑かけんじゃないわよ!」
棒を構えると、先端から光り、梵字が浮かび上がる。
「このアマチュアGS、美神 ヒノメが極楽へ……逝かせてあげるわ!」
華を守るようにして光る棒――神通根を構えるヒノメ。その後姿を見て、華は、ドクン、と何か胸が高鳴り、ある女性の姿と重なった。
ヒノメは床を蹴り、悪霊に向かって神通根を突き出す。悪霊がカウンターで手を伸ばしてきたが、紙一重で避けて胸に突き刺した。
【ぎゃああああああああああああ!!!!!!!】
「今度生まれ変わる時は、堂々と女性と付き合える男に生まれて来なさい!」
そのまま神通根を振り上げ、悪霊を真っ二つにする。悪霊は悲鳴を上げ、光と共に消えて行った。
「ふぅ……除霊完了」
大きく息を吐き、ヒノメは椅子に座る。
【ふ、ふえええええええぇぇぇん!】
「!?」
いきなり泣き出す華に、ヒノメはギョッとなる。
【幽霊にまで無視されて……私……私、もう駄目です〜〜!! お付き合いどころか、お話出来ず、人生終わっちゃうんだ〜!】
「アンタ、もう人生終わってるでしょ?」
【ふええぇぇぇーーーん!!!】
泣き喚く華に、ヒノメはハァとタメ息を零し、肩を落とす。
「華ちゃん……だっけ?」
【ふぁい?】
「家に来る? このまま未練がましく悪霊になられても困るし……男のお友達が出来たら、成仏させてあげるってのは?」
【ほ、本当ですか!?】
「無論、人間じゃなくて幽霊のお友達にしてね。その場合、取り憑く事になるから」
【ふぁ、ふぁい! ありがとうごじゃいましゅ!!】
鼻水と涙を垂れ流してヒノメに抱きついて来る華。ヒノメは苦笑し、彼女の頭を撫でた。
「(ま、人工幽霊壱号も話し相手が出来て嬉しいかな)」
後書き
初めまして、アキスです。GS次世代モノで、ヒノメが主人公です。とりあえずGS美神のノリのように行きます。微妙に絶対可憐チルドレンとリンクしてたりします。
キャラ紹介
名前 美神 ヒノメ
年齢 18歳
身長 172cm
体重 秘密
3サイズ 88・57・86
好きなもの お金とブランド品、母親と姉
嫌いなもの ダメ人間 西条 組織
母親と姉に負けず劣らずの素質を持っている。将来はプロのGSとして働きたいが、オカルトGメンには入らず、民間として働きたがっている。六道女学院の3年生で、成績はトップ。自然発火能力も兼ね備え、悪霊退治に関しては、プロ顔負け。