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「ジャングルで見る夢は悪夢(GS+ジャングルの王者ターちゃん)」

犬雀 (2006-10-07 19:04)
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『ジャングルで見る夢は悪夢』


右舷に広がる大草原。
左舷に広がる大平原。

まあぶっちゃけて言えばサバンナの中心を流れる川の中を行くエンジン付ゴムボートが一艘いるってだけの話である。

乗っているのはおなじみの美神令子除霊事務所の面々ともう一人、アフリカにマッチした褐色の肌の美女、世界でも有数の呪術師である小笠原エミだった。
操舵手兼リーダーでもある美神令子はいつもの派手な服装ではなく、無骨な迷彩服を着ている。
もっともおキヌもシロもタマモも、それに横島までもが迷彩服を身にまとっているのだから不思議なことではない。
一番先頭で不機嫌な顔をしながら行く手を見ているエミが時折溜め息を漏らす。
彼女が犬猿の仲の令子と一緒に行動するのはかなり珍しい。
過去にも何度かそういうことがあったが、なにかにつけて張り合うこの二人が今は特に言い争うでもなく濁った水の上を進むボートに乗っている。
その不自然なまでに穏やかな様子が彼らの旅の目的が観光などではないと端的に物語っていた。


美神除霊事務所に一人の黒人の巨漢が訪ねてきたのは数日前のことだった。

黒い鉄を思わせる容貌。
仕立てのいい高級な服の上からでもわかる鋼の筋肉、隙の無い目の光など彼が単なる金持ちなどではなく相応の戦士であった、いやもしかしたら未だに現役であるのかもしれないと思わせる。
高そうな指輪をつけた拳にあるタコからすれば、なんらかの徒手格闘のチャンピオンと言うあたりが正解なのかも知れない。

黒人の偉丈夫はドンと重そうなアタッシュケースをテーブルに置くと令子に向けて依頼の内容を語り出す。
その内容は間違いなくGSである令子の守備範囲だった。


「えーと…つまり、そのアフリカのサバンナに出る妖怪を退治して欲しいってことね?」

「うむ…」と頷く偉丈夫。低い声量ながら威圧感がある。
やはりそれなりの修羅場を潜った人物であろうと令子は密かに首肯した。
この人物を一言で表現するなら「戦士」と言うのが一番妥当かも知れないと、彼に敬意を示すべく組みかけていた足を元に戻す。

瞬間、偉丈夫の目が鷹のような光を発し鼻の下が5センチほど伸びた。
その視線が正確に自分の股間に飛んだことを察知して殴ろうかと思ったが、身なりからして上客の可能性は高いと一瞬で自制する令子である。
無論、彼に対する評価は「戦士」から「助平」へと格下げしたのは言うまでもない。

「それで報酬だが…必要経費込みでキャッシュで100万ドル。今ここに手付けとして20万ドルある」

偉丈夫はテーブルに置かれたアタッシュケースを無造作に開く。
確かに中はびっしりとドル紙幣が詰まっていた。
しかし妙な違和感がある。
ドル紙幣はどれもが使い古されていたかのように薄汚れていて、アタッシュケースの豪華さとつりあわないこと夥しい。

「本物なのかしら?」

「無論だ」

目の前の偉丈夫には見えないように人工幽霊に合図すると、彼は心得たとばかりに隣室に待機する横島に文珠の発動を依頼した。
横島が「模」の文珠で偉丈夫の思考をスキャンするが、詐欺を働こうなどという悪意は感じられなかった。

ラップ音を二回ほど響かせて人工幽霊は問題なしの旨を令子に伝える。
それを受けて令子は偉丈夫に向けて了承の意をこめて頷くと、アタッシュケースを閉じ、そのまま彼に返す。
偉丈夫の鉄の表情がほんのわずか不審に歪むのを片手で制して令子は完璧な営業スマイルを浮かべた。

「手付けは確かに受け取ったわ。それで今度は私からの依頼よ。このお金で現地で必要な装備を整えておいてくれないかしら? 出来る? アナベベさん」

「了解した」

偉丈夫は納得したのかアタッシュケースを受け取るとソファーから立ち上がり手を差し出す。
握手かと思って立ち上がった令子が手を差し出すと、拳ダコに覆われた手にいきなりがっちりと腕をとられそのまま偉丈夫の胸へと抱き寄せられた。

「ちょっと! なにを!!」

「これは我々ウポポ族が感謝を示す行為なのだ!」

やはり鋼鉄の筋肉を持つのか、その膂力に逃げることも出来ず慌てる令子を抱きすくめ真剣な目で彼らの部族の習慣をかたるアナベベ氏。
その顔には先ほど感じた戦士の風格など微塵も無い。
そんなものは伸びた鼻の下と一緒にどっかに流れてしまった。
抱きすくめた手と反対の手はなにやらサワサワと令子の尻の辺りで不穏な動きをしているし。
当然、いかに彼が強くても美神令子にこんなことをしてただで済むわけはないのである。

「どこの世界に女の尻を撫で回しながら感謝する部族があるかぁぁぁぁぁぁ!!!」

何事かと飛び込んできた横島たちが見たものは、額に角を生やして荒れ狂う令子と、やはりそこだけは鍛えられなかったか、股間を押さえて末期の痙攣をしているアナベベの姿であった。


兎にも角にもそんな経緯で令子たちの一向はサバンナの中の川を進んでいた。
アフリカの妖怪と言えば呪術的な要素が強い可能性もあるとして、令子がイヤイヤながらもエミに声をかけたのはGSとしては当然の判断であろう。
地の利や情報と言うものは戦況を左右することが多い。
エミの能力や知識が役に立つと踏めば日頃のいさかいを引き摺る彼女ではない。
それでも仲が悪いのはどうしようもないのか、ここに向かう短くも無い道中でエミと令子はまともに口を利いていなかった。

ちなみにシロタマは周囲に満ちる野生の空気を肌で感じているのか、居心地がよさげで令子とエミの間にわだかまる気配など意にも介していなかった。
おキヌはと言えば物珍しいのか盛んにあたりを見回している。
時折、現れる野生動物を見つけてどこで調達したのか大型望遠レンズつきのカメラで激写しまくっていた。

「横島さん! ほらほらあそこにピンク色の鶴が!」

「あはは…フラミンゴね」

「こっちからは細長い亀が! なんか鶴と亀ってお目出度いですねー。 ほら〜おいで〜おいで〜」

「あはは…それはワニだから呼ばないようにね…」

乾いた声で笑いながら横島は無事に日本に帰ったら、この天然少女を動物園に連れて行ってあげようと決意した。
どうやら彼女は自分が知らないところで横島とのデートをゲットしたようである。


やがてゴムボートはジャングルとサバンナの境界のあたりについた。
機械の扱いは得意な令子の操舵でボートは危なげもなく川岸に上陸する。
たちまち飛び出すシロタマはサバンナに吹く風を胸いっぱいに吸い込んで満足そうだ。
おキヌは大事そうに望遠レンズつきカメラを胸に抱き次の被写体を探している。
幸いこの辺りには野生の動物も多く被写体には不自由しない。
不機嫌そうだったエミも、こんなサバンナの真ん中では女っ気がないことに気がついて意気消沈していた横島も、今はそれなりに安心したのか笑顔を見せている。
やはり狭いボートでの長時間の移動というのはストレスが溜まるのだろう。

やがて思い思いの方法で疲れを癒す一行の前に大型の車が砂塵を巻き上げてやってきた。
横島などにはその車名は不明だが、幅広いタイヤや高い車高などから荒地の走破に適した車であることは素人なりに見て取れる。
後部にあるカーゴスペースには荷物が満載されており、上にテント地のシートがかけられている。
シートの隙間から見えた荷物は木箱がほとんどで、その中に黄色と黒のストライプに赤で大きく『DANGER』と書かれたものまであった。

不審そうな顔をする一同を置いて令子が進み出ると運転してきた男に片手をあげて応えた。
運転していたのは依頼人のアナベベである。
前のようなスーツではなく、今は上半身裸で運転席のドアから身を乗り出している。
やはり上腕や首の筋肉の隆起は素晴らしく、車という文明の利器の中によりもこのサバンナの中で戦士として仁王立ちしているのが彼には似合うように感じて納得する令子。

令子の姿を認めて、ドアを開け車から降りようとしたアナベベがいきなり顔を青ざめさせて固まった。
不思議に思った令子が近づき車を覗き込むなり顔を真っ赤にして車から飛び下がる。

「な、なにやってんのよ! あんたは!!」

「むう…チンコケースがハンドルに引っかかって…」

「そんなもんつけて運転するなっ!」

「しかしコレはウポポ族の正装だし」

「なんでも部族のせいにすればいいってもんじゃない!」

怒髪天を突くとはまさにこのことだろう。
そりゃあ、GS業界でやり手とは言っても嫁入り前の令子にとってチンコケースは衝撃的だ。
しかも彼女はそういう方面に関してはとてつもなく奥手であるからダメージはでかい。
彼女の母親曰く、「恋愛感は中学生どまり」と言うのも間違えていないだろう。
エミなどはその専門が呪術とあってこのような格好に慣れているのか少し嫌そうな顔をするだけで流しているが、あるいは恋愛や男女の機微というものに関しては令子を10馬身ぐらい引き離しているという可能性もある。
ピートの前では借りてきた猫娘みたい態度をとるのも駆け引きでやっているのかも知れない。
確かにピートみたいな真面目なタイプを落そうとするなら有効な手段だろう。
まあぶっちゃけて言えば恋愛に関して令子がネンネであるということに尽きる。

「とにかく頼まれたものは車にすべて積んである。無論この車も好きに使ってくれていい。ただアレだけは用意できなかった」

「あ、それはいいわ。こっちで用意したから」

「そうか。ならばガイドの所まで案内しよう。乗ってくれ」

「あ、あんたが運転するの?!」

「そうだが?」

「……だったらそのチ…ケースを取りなさい!」

「とってもいいのか!!」

「あー! 駄目! やっぱり駄目えぇぇ!!」

バタバタと涙目で手をふる令子の様子に先行きが不安になる一行だった。


チンコケースをつけたまま器用にもアナベベの運転する車はジャングルを迂回するように進み、途中でシロとタマモが車に酔ったのか不機嫌そうに黙りこくると言う場面はあったものの、特に事件もなく密林の入り口の少し開けた場所についた。

そこには粗末な掘っ立て小屋がいくつか建っており、小屋の横にある木の下では大きなゴリラが昼寝をしている。
小屋の手前には半裸の男がタライを使って一心不乱に洗濯をしていたが、車が自分たちの小屋の前に止まるのを見て立ち上がった。

日には焼けていたがどうみても白人系のその男はアナベベと同じような、いや、彼をも上回るような筋肉を持っている。
しかしビルダーのような暑苦しさを感じさせないのは、それが作られたものではなく自然と鍛え上げられたものであるからだろう。
美しい金髪の下にはどこか草食動物を思わせる優しい目があり、その目が美神令子たち一行の乗る車を不思議そうに見つめていた。

それにしても腰には粗末な腰ミノのような皮パンツ一つというのはどうだろうか?とおキヌなどは思う。

(あれって…もしかしたら見えちゃうじゃないかしら?)

自分の想像に頬を染めながらも思わず手にしたカメラのバッテリー残量をチェックするおキヌ。
シャッターチャンスと言うものはどこに転がっているか知れないのだから彼女の判断は間違っていない……そう信じよう。

そんなおキヌたちを車に残したままアナベベは白人青年に近づくと気さくに手を上げた。
今度はチンコケースは引っかからなかったようだ。

「ようターちゃん。客を連れてきたぜ」

「久しぶりだなアナベベ! そっちの人たちが?」

「紹介しよう」

アナベベに手招きされて車を降りる令子たちを見て頬を染める青年。
どうやら純情な性質らしい。
その様子がこの大自然にマッチしていて令子には微笑ましかった。
警戒心など微塵も抱かせない朴訥さが彼にはある。

「私は美神令子。よろしくね」

「ワタシはターちゃんなのだ」

近寄って手を差し出すと青年は顔を真っ赤に染めながら差し出した手にはアナベベと同じような拳ダコがある。
彼も何らかの格闘技をたしなむのだろう。
だとすればこの筋肉からして相当の使い手だろうと、握手しながらさり気無く青年を観察してみる令子。
しかしそれもつかの間、突然、顔から音を立てて血の気が引いたかと思うと大潮のように揺り返してきた血潮は彼女の顔から噴煙の如く湯気を吹き上げさせた。
なんだか後ろで車から降りてきた横島たちの騒ぐ声が、血が上りすぎて思考が纏まらない頭を素通りしていく。
ちょっぴり涙が出ちゃいそう。女の子だもん。

「うわっ! おっさん! 何をおったてているかっ!!」

「え? 横島さん何のことです? え? え?」

「おキヌちゃん…カメラを構えながら何言っているワケ?」

カシャコーンカシャコーンと響くシャッター音が令子の意識をかろうじて現実に引きもどした。
ターちゃんの手を振りほどいて慌てて横島の後ろに隠れる令子をエミが呆れた顔で見ている。
とは言うエミの顔もかすかに朱を帯びているのだが、やはり令子ほどにはネンネではない。

「ちょ! ちょっと! なんてもんをレディーに向けるのよ! しかもなんか天辺が濡れているしーーーー!!」

「すまない。君が美人なのでつい!」

無論、それだけではない。
車中に入って安心したか、令子たちは迷彩ジャケットを脱いでいて、今はカーキー色のノースリーブシャツ一枚である。
元々スタイルのいい令子やエミの豊かな乳房が汗に濡れたシャツの胸元を盛り上げる様はターちゃんでなくてもビンビンものだろう。
もっともそれをダイレクトに体で表現されて喜ぶ女性はほとんどいない。
嘘だと思うなら試してみるがいい。
良くて官憲の世話、悪ければその場で叩き落されて悶絶すること請け合いだ。

それでも男の生理とは度し難いもので、意識すれば意識するほど海綿は水分を補給する。
故に萎えない。
それを見て令子たちが頬を染めてキャーキャー言う。
それがまた海綿に水分を補給する。
まさに血のスパイラル。
このままでは収拾がつかないかと思われた時、彼等を助ける女神の声がサバンナに響きわたった。

「五月蝿いわね! 眠れないじゃない!!」

「なんすか! なんでアフリカに相撲取りが 「どすこい!!」 うげえっ?!」

反射的に反応した横島が吐いた余計な一言を張り手一発で打ち砕く女性。
年齢的にはターちゃんと同年代だろうが、まあ、端的に言えば太っている。
横島が間違うのも無理は無いぐらいに。

「妻のジェーンなのだ」

ターちゃんの言葉に驚く一同。
張り手で沈んだはずの横島でさえ驚きのあまり復活している。
何しろ変態チックとはいえどちらかと言えばターちゃんは美男の部類だ。
どうにもこの健康的なマッチョマン(変態っぽいけど)と対照的に太った女性が夫婦であるというイメージが結びつかないのだ。

それでも女性陣は良識があるからそれを表に出したりはしない。
だがここにターちゃんなみに素直な男がいたりするのである。

「おっさん! マジか?!」

「本当なのだ」

ターちゃんは横島の台詞にいきり立つジェーンを制すると、パンツに手を突っ込んで一枚の写真を彼に見せた。
意外と収納スペースはあるらしい。
そこには横島好みの金髪ナイスバディの美女が写っている。
粗末な毛皮のビキニを身に纏いながら、それでも洗練された容姿や知性溢れる瞳の輝きはトップモデルと言ってもいいだろう。

「結婚したときのジェーンなのだ…」

「なんとっ! こんな美女があんな関取にっ! つーことは美神さんやエミさんもいずれは関取になるのかっ?!!」

「「「誰が関取じゃい!」」」

三人の合体キックを受けてアフリカの空を舞う横島をターちゃんは気の毒そうに見上げていた。


天空から螺旋を描きつつ落ちてきて土に埋まった横島を「フン」と鼻息一つで一蹴し、ジェーンは令子たちとガッチリ握手を交わすとわざわざ一歩引いてペコリとお辞儀してみせた。
令子たちが日本から来た客であり、日本の習俗で対応するあたりこの女性はそのみすぼらしい服装とは裏腹にやはり知性が高い。

「私は美神令子、こっちは小笠原エミ。二人とも日本のゴーストスイーパーよ」

「よくきたわね。私はジェーン。そこのアホがターちゃん。あっちの木の下で寝ているのがゴリさん…それと…」

ジェーンは少し眉を寄せてあたりを見回す。
止まった視線を追うように令子たちが見た先ではにらみ合うシロタマと一頭のチンパンジーがいて…


「エテ公…拙者に意見するつもりでござるか?」

「キーキキキーキキキキー!!」

「なんて言ってるのよ?」

「わからんがなんかムカツクでござるな!」

今にも一触即発と言った風情でにらみ合うシロとチンパンジー。
さすがは犬猿の仲と言う言葉は伊達じゃないんだなぁとは思うが、生憎、令子にもエミにも猿の言葉はわからないから仲裁のしようがない。
シロタマは動物の言葉ならある程度は理解できるはずだが、ここは日本と違うサバンナの一角、もしかしたら動物の世界にも方言があるのか目の前のチンパンジーが言うことはわからなかった。
わからなくて幸いだっただろう。
もし気の効かない誰かがエテ吉の言葉を直訳すれば、たちまち炎と斬撃の嵐が吹き荒れたに違いない。

「あれがエテ吉って言ってコイツの育ての親よ…」

「「はあ…」」

どこか呆れた声で頷く令子とエミは、ジェーンに促されたターちゃんが慌てて仲裁に入るのを黙って見つめているしかなかった。

「あれ? そういえばおキヌちゃんは?」

「あの草叢からサルとオタクのところの従業員の喧嘩を激撮しているワケ…」

「そう…」

確かにエミが投げやりに示した草叢からカメラのレンズが突き出していて、その向こうにチラチラ見えるのは額に巻いた鉢巻に木の枝を刺したおキヌの姿。
何が彼女を駆り立てるのか、おキヌちゃん今やカメラ少女の道をまっしぐらである。

引っ掛かりが少ないせいか意外と上手に匍匐前進しつつ、シャッターを押すおキヌの前ではシロとエテ吉の喧嘩を仲裁すべくターちゃんが一人で奮闘していた。


「エテ吉。よすのだ。この人たちはお客様なんだぞ」

「キーキキーキーキキ」

「なんて言ってるのかしら?」

「うーん…「ここは俺の縄張りだ。犬は出て行け」って言っているのだ」

「「犬じゃないわよ(でござるよ)!!」」

「知っているよ。君は狼でこっちの君はキツネだね」

叫ぶ少女たちにターちゃんは優しく微笑む。
驚くシロタマだかそれも道理。
どう見ても霊能者とは思えない男が彼女たちの正体を正確に言い当てたのだから無理もない。
一瞬だけ霊能が警鐘を鳴らすが、それとは別にターちゃんから伝わってくる波動が自分の本能の部分を刺激してくるのを感じる二人である。
簡単に言葉に出来るような感覚ではなかったが、目の前のこの朴訥そうな巨漢は動物に対してはとことん優しいのだと理屈抜きに理解できるものであった。

「ほら。エテ吉も謝るのだ」

「キーキーキ」

ターちゃんに促されてエテ吉も渋々頭を下げる。
もっともその目から闘志は消えていない。
言葉が通じないのを幸いに機会があればまたやるつもりだろう。

「むう…拙者たちも大人気なかったでござる」
「そうね…とりあえず謝っておくわ」

つられて下げた二人の頭にターちゃんの手が乗せられる。
その無骨な手から伝わる優しさが猿との喧嘩で苛立っていた彼女たちの心を癒した。
シロは心中では「先生に匹敵するでござるな」と驚き、タマモも何度か冗談で撫でてきた横島以外にも初対面の男に金毛九尾の自分が素直に頭を撫でられていることに驚いていた。

「さあ。向こうにジャングルのおいしい果物を用意してあるからいこう」

ターちゃんに促され二人は素直にその場を離れる。
立ち去る二人に向けて中指を突き出したエテ吉の姿がおキヌのカメラに収められたが、それは現像されるまでシロタマに知られることは無かった。


ターちゃんやジェーンが用意したジャングルの果物が粗末な木のテーブルに並べられただけの簡素な宴。
にもかかわらず食用に品種改良を加えられていない果物はなかなかに美味で日頃の食生活でビタミンが不足している横島はこれ幸いにとばかりに貪っている。

シロタマは肉やお揚げが無いことに多少の不満は感じたが、それでも大人しく様々な果物の風味を楽しんでいる。
令子とエミはそれぞれに無言のままではあったが、彼女たちの前に並べられた果物の殻の数から言えば満足しているのだろう。

無論のこと、一番多く食べたのはジェーンだったことは言うまでも無い。

「そういえばおキヌちゃんは?」

一通り食べてから気がつくのもどうかと思うが、確かにおキヌの姿が見えない。
ターちゃんの人柄や、危機感などかけらもなさそうに太っているジェーンの姿からは想像しにくいがジャングルとは危険と隣り合わせの場所でもある。
そんな場所でおキヌを一人にしてしまったとは迂闊もいいところだ、と令子は慌てて辺りを見回すがやはり彼女の姿はどこにも見えない。
先ほどエテ吉とシロタマが喧嘩した近くの草叢にもいない。

まさかと青ざめる令子にターちゃんが心配するなとウインクする。

「エテ吉が一緒にいるはずだから何かあったら知らせに…」

「キーーキキキーキーキー!!」

ターちゃんの台詞が終わる前に少し離れた茂みからエテ吉の悲鳴が聞こえてきた。
見ればそちらからエテ吉が血相を変えて走ってくるところだった。

「どうしたのだ! エテ吉!!」

「キッキキキッキッキキ!」

「なんて言っているワケ?」

エテ吉の言葉とともに走り出すターちゃんの後を追う令子たち。
無論、彼女たちはサルの言葉なんてわからないけど、ターちゃんの真剣な顔とエテ吉の只ならぬ様子からおキヌの身に何か良くないことが起きたことだけは理解できる。
エミの問いかけにターちゃんは足を緩めることなく走り続けながら答えた。

「黒い髪の女の子がヘビに襲われたそうなのだ!」

「「「「なにぃぃぃい!!」」」」

武器を用意している暇はないがここには「文珠」の使い手である横島がいる。
彼なら大抵のことはなんとかできると信じて一刻も早く現場に向かった令子たちの前に現れるは牛でも絞め殺せそうな巨大なニシキヘビ。

その大きく開いた口から迷彩ズボンを履いた細い足が二本、にょっきりと突き出してパタパタともがいている。

「「「「呑まれとるぅぅぅぅぅ!!!!」」」」

哀れおキヌちゃん…どうやら撮影に夢中になっているうちにうっかりヘビに呑まれたらしい。
ヘビに捕食されるという大自然の営みをリアルに体感出来るのはなかなかに貴重な経験だ。

「ちょっとぉ!! 早く助けなさいよ!」

「わかった! あのヘビと話してみるのだ!」

令子に急かされてターちゃんはニシキヘビに近づくとクネクネと体をくねらせて珍妙な踊りを始める。
合わせるようにくねり出すニシキヘビ。
その動きにつられてブラブラ揺れるおキヌの足。
なんだかよくわからない展開を呆然と見守るしかない令子たちにターちゃんは振り向くと困ったように笑った。

「ヘビ君はわかってくれたのだが、彼女が引っかかって取れないそうなのだ」

「なんですってぇぇぇ!」

確かにヘビの構造上、呑んだものを吐き出すのには向いていない。
しかしこのままにしておけばおキヌは確実にヘビの栄養になってしまう。

「なんとかできないでござるか!」

慌てて詰め寄るシロにターちゃんもウーンと考え込むが、すぐに閃いたのかポンと大きく手を打った。

「ヘビ君に急いで彼女を呑んでもらって出口から出てもらおう!」

「まてやおっさん! あんたは年頃の娘にヘビの尻の穴から顔を出せというのか!」

「お尻から出る前に死ぬでしょ普通は!!」

「ちょっと令子! おキヌちゃんの足がピクピクしはじめたわよ!!」

「ああああああ…どうすれば良いんでござるかぁ…」

「文珠使えばいいじゃない…」

「「「「あ………」」」」

事情のわからないターちゃんを置き去りにしつつも、タマモの言葉によって訪れるしばしの沈黙。

一陣の風が枯れ草を転がし、それを合図にしたかのように再起動した一同がヘビとおキヌへと走り出す。
すでにおキヌの足は膝から下までしか見えなくなっていて…どうやらもがいている間にヘビの奥へと進んじゃったらしい。

「わーーーーーーー! おキヌちゃーーーーん!!」

それでもなんとか横島の『吐』の文珠の力でおキヌは死地から脱出することが出来た。
まだ溶けていなかったのが救いだろう。


「やれやれ」と一安心したものの、あまりにヘビーな展開に力尽きがっくりと跪く一同。
ターちゃんは「迷惑をかけたのだ」とお土産に渡された果物を持って去っていくヘビに手を振っている。
その光景がまた脱力感を産む。

それでも何とか気力を振り絞り、目を回しているおキヌを介抱していた令子だがどうやら呑まれたショックで気を失っていただけのようでおキヌはすぐに目覚めた。

「あうー。もう1回死ぬかと思いました〜」

「よ、良かったわね…助かって…」

「うぇーん…ベトベトします〜」

半べそかいて自分の体を見回すおキヌ、確かに体はヘビの粘液とか唾液で汚れていてる。
服なんかは着替えればいいが、彼女自慢の碧の黒髪までベトベトだ。
頭から丸呑みされたのだから当然ではあるが、流石に年頃の娘が粘液まみれと言うのは精神的にも肉体的にも衛生という観点から非常によろしくない。
横島なんかは「くうぅぅぅ。俺にそんな属性はないんやぁぁ!」と近くの木に頭を叩きつけている始末だ。

「だったら体を洗うといい。この先に泉があるのだ」

「危険は無いの?」

「カバしかいないから危険はないと思うが、念のためにワタシがついていこう」

「却下!」

どこの世界に乙女の水浴びを男に見張らせる奴がいると言うのだとばかりに目を剥く令子。ターちゃんとの第一種接近遭遇の印象が尾を引いているのかその顔は赤い。

「大丈夫なのだ。今のワタシはアライグマちゃんが憑いているからエッチなことはしないのだ」

「信じられるかおっさん! 俺だってまだおキヌちゃんの裸を覗くほど悪に徹してないと言うのにお前に先を越されるわけにはいかん!」

「本当なのだ!」

振り向いたターちゃんの目は先ほどの人の良い男のものから、円らで可愛い小動物っぽい目になっている。
霊能者である令子たちにわかるが確かに何かの霊がついたようだった。
しかし霊力は強いけど使い方が今いちわかっていない横島が気づくはずもなく「信じられるかいっ!」とまた声を荒げる。
それが彼の不幸の始まりだった。

「む? それならば」

疑われたことが心外だったのか、ターちゃんは円らな瞳のまま横島に近づくと「とう!」と一声、ズボンをパンツごと引き下ろす。
止める間もあらばこそ、呆気にとられた令子たちの前でターちゃんは横島の股間をどこからか取り出した石鹸で泡立て始めた。

「ほーらチンチンアライグマちゃん!」

「にょほおぉぉぉ! 止めてっ! 止めてえぇぇぇぇ!」

色々な意味で立ったまま身悶える横島。
あまりに謎な光景に令子もエミも、それにシロタマ、あげくに粘液に塗れたままのおキヌたちが心を凍らせて見守っているうちに、ついに横島の体がピキッと引きつると音も無く膝から崩れ落ちた。

「よ、横島君!」

「ま、まさか?! 出しちゃったんですか横島さん!! そんなの不潔です!!」

「なにを…」と頬を引きつらせつつ突っ込むエミの横ではシロとタマモが不思議そうな顔をしながら首を傾げていたりして、図らずも知識の差が垣間見えた瞬間である。

アライグマ攻撃で自分の疑いを晴らしたとスッキリした顔で振り向いたターちゃんが円らな瞳のまま、衝撃のあまり乙女にあるまじき台詞を口走ってしまったおキヌに手を差し出した。

「というわけだからワタシは心配ないのだ。ヘビに呑まれたお嬢ちゃん」

「余計に心配だわあぁぁぁぁ!!!」

令子の神通棍とエミのブーメランに吹き飛ばされ、さしものターちゃんも顔一面に影と後悔を貼りつけて気絶しながら泣き濡れている横島の上に倒れたのである。


「ううっ…もうお婿にいけない…」

もうすぐ日も翳ろうかというジャングルとサバンナの境界線。
バオバブの木の下に膝を抱えて蹲る少年が一人。
誰も彼に近寄ろうとはしない。
何しろ通りすがりのイボイノシシが少年の陰気にあてられてうっかり首を吊りそうになったぐらいの陰気が彼の周りに満ちているのだ。

今の彼に近寄るのは蛮勇といっても良いだろう。
令子にしてもどう声をかけたものか見当がつかない。
裏稼業を見てきたエミは男の闇の部分にも多少の耐性はあるのであろうが、そんな彼女の知識の中にも「屈強なマッチョの男に股間をアライグマされた少年の慰め方」なんてものは存在していなかった。
これが仮にピートだったら…と考えかけて慌てて怖い考えを中断する。
赤面しているのは想像がかなりハードな場面まで及んだからだろう。

ワイドショー好きのおキヌでもこんな場面の対処法など見たことがなかった。
当然である。
そんなものを放映したら放送免許が一撃で飛ぶ。

シロは師匠の海より深い哀しみが伝播したのか、意味がわからないなりにズーンと影を背負って不機嫌そうに小石を蹴っている。

そんな中で唯一動けたのはタマモだった。
クールを自認する彼女にとってこんなマヌケな陰気をいつまでも引き摺っていたくはないのである。
溜め息を一つ気合がわりに吐き出すと、驚く一同の視線を背に感じながらつかつかと陰気の固まりに歩み寄った。

「いい加減にシャッキリしなさいよ!」

返事は無い。
ただ虚ろな瞳だけがタマモを下からねめ上げる。
瞳の中に宿る漆黒の虚無に思わず「うっ」と怯むが、ここで引いては事態はいつまでも改善されないとタマモは歯を食いしばり己を叱咤した。

「あんなことは狐に噛まれたと思って忘れなさい!!」

「ほっといてくれ…」

明確な拒絶の言葉にタマモの中で何かがプッチンと切れた。
すーっと大きく息を吸い込んで、埴輪よりも虚ろな顔をした横島にむけてありったけの怒声を叩きつける。

「馬鹿っ! いくじなし! 『包』(パオっ)!!」

聞いていた令子たちが思わず耳を抑えるぐらいの声量で叩きつけられた怒声に横島の顔に驚愕の表情が浮かびあがった。
良かった。これで何とかなるかも。でかしたタマモ!と心の中で喝采する令子たちの前でタマモはまるで何かに憑かれたかのようにヒートアップしていった。

「そうよ! さっき見たけどあんたなんか『包』(パオ)で充分よ!!」

「見られたっ! でも『包』ってなんじゃい!!」

「なにって…包け…」

「皆まで言うなっ!! ていうか女がそんなことを男に向かって言うてはならん!!」

「……なんでよっ!!」

「なんででもじゃい! それに俺は包…げふんげふん…じゃねえぇぇぇぇ!! 見てたらわかるだろうがっ!!」

女の子から聞きたくない台詞トップ3の一撃を必死に阻止しようと立ち直る横島の顔に先ほどの陰はない。
もはや落ち込んでなどいられない。
このままでは事務所の女性陣の前で痛いレッテルが貼られてしまう。
それはふと目線の端に写る令子やエミの目がなんか憐憫を含み始めたことからも明らかだ。
腐ったままで居たら「仮」が「真」へとイメージ固着してしまう。

「いいえ! あんなことで落ち込んでいるアンタなんか、あ、あそこはどうでも!」

タマモの弾劾の言葉を乗せた指がまっすぐに横島の顔へと突きつけられ、その迫力に彼は思わず知らずに一歩後退した。

「アンタは心の『包茎』よっ!! 『包』よ! パオ! これからアンタのことはパオと呼ぶわ!!」

熱くなったタマモの頭からはすでに当初の目的がぶっ飛んでいる。
立ち直らせるはずが、どう見てもアライグマ以上の痛撃を横島に与えてると言うのに誰も彼女の勢いを止められない。
ていうかついにはっきりとタマモが言い切った禁止ワードのインパクトに脳みそがうまく活動してくれなかったりする。
さすがに男にとってしかも美少女から放たれた禁止ワードの破壊力は凄まじく、横島は糸の切れた操り人形のようにコトンと軽い音を立てて地面に倒れこんだ。
その軽さからすればすでに抜け殻らしい。

膝をつき滂沱の涙を流し始めた横島の姿に当初の目的を完璧に忘れたタマモが無慈悲にも追い討ちをかけている様が哀しい。
ターちゃんにはそれがわかる。
痛切にわかる。
だが助けに入れば自分も被弾するの明らかだった。

「あははははは! パオ! やーいパオ!! パオーーーー! パオーーー!!」

雪崩れのような追い討ちに、遅まきながら令子たちもさすがにこれはやりすぎではなかろうかと思い始めた。
何しろ横島の背負う陰は最初の時より濃くなっているし、かろうじて口から漏れる言葉も力がない。

「ううっ…憎い…このキツネが憎い…」

「あははははははは! パオーーン!!」

パオォォォォォォォォン!

「へ?」

当初の目的など消し飛ばし、何かにとり憑かれたように完全に理性を失ったタマモの高笑いを妨げるのは大地の怒り、その咆哮。
ドドドドと地響きの音も凄まじく、土煙とともにやってくるのは一頭の巨大なアフリカ象。
突然の巨獣の突進に「え? え?」と固まっていたタマモをいきなり跳ね飛ばすと空中に舞ったその体を鼻でガッチリ受け止める。

「きゃああああ! 痛いっ! 痛いっ! 助けて横島あぁぁぁ!!」

怒れる巨象の鼻に振り回されるタマモの助けを求める声に呆然としていた横島の目が輝きを取り戻した。

「わははははははは! ざまみろタマモ!」

パオォォォォォォォォォォン!!

再び高らかな咆哮を上げる巨象。
ターちゃんが慌ててブンスカ振り回されるタマモを助けようとしたが、サバンナの賢者と言われているはずのアフリカ象の怒りはおさまりそうにない。
パオォォォォォォォン!!と吠えるとタマモを再び宙高く吊り上げる。

「なんて言っているの?」とオロオロしているターちゃんに令子が聞けば、言いにくそうにターちゃんは口篭った。

「草原の王たるアフリカ象の雄叫びをチンコと一緒にするとは許せんと…」

「違うの! あれはちょっと口が滑ってぇぇぇぇ!!  あきゃぁぁぁぁ!!」

言い訳も虚しくタマモは象の鼻に投げ飛ばされ地面に落ちるとあっさりと気絶した。
その姿に普段の彼からは考えられないがよほど鬱積していたのか勝ち誇る横島。

「わはははははは! 男に向かって禁止ワードを叩きつけた己の愚かさ、身をもって知ったかタマモ!! ありがとう! ありがとう象さん!  ぐえぇぇぇぇぇ!」

感謝の言葉の途中であっさりと象に踏まれる横島。
足の下の横島をご丁寧にもいんぐりもんぐりと踏みにじりながら象はまた吠える。

パォォォォォォォォォン!!

「こんどはなんて?」

呆れを含んだエミの声にターちゃんはまた言いにくそうに通訳した。

「お前もとっとと包茎を治せと…」

「誤解やぁぁぁぁぁ!! 俺のは象の鼻とは似ていないぃぃぃ!!  ぐえぇぇぇぇぇぇ!!」

こうして象が去った後、グルグルと目を回しているタマモと土にめり込んでピクピクと痙攣している横島が残されたのであった。


とにかく騒ぎが一段落して落ち着きを取り戻す一同。
元凶となった横島とタマモは仲良く喧嘩両成敗となって、首に「反省中」と書かれた札を下げたまま木に手をつけて反省ポーズをとらされている。
本物の猿の前で「反省ポーズ」をさせられるという屈辱もさることながらこのポーズ、実はやり続けるとなると中々にきつい。
体力のある横島はまだ余裕があるようだが、肉体派ではないタマモはすでに足がプルプルと震え始めていたりする。

反省中ということで声を潜めて励ましあう二人。
タマモの強烈な叱咤?の功名か横島の心からすでにアライグマの一件は過去の一ページへと塗り替えられていた。
単にダメージがダメージを上書きしたという見方も出来るが、とりあえず人の心とは時に便利に働くものなのであるとしておこう。

(大丈夫かタマモ…)

(うう…そろそろ限界かも…でもごめんね横島…)

(あー俺も大人気なかったから気にするな…だけど…だけど…三つの禁句だけは二度と口にしないでくれんか…もうホンマ頼んますから…)

(三っつて…えーと…「包」・「早」・「短」だっけ…? 前に聞いたけど意味は良くわかんないのよねー…)

(お前はろくに意味も知らない癖に俺を「パオ」と呼びやがったのか…)

(だって前に「男を怒らせるならコレが一番」って美智恵が…)

タマモの告白にがっくりと肩を落す横島。
文句を言おうにも相手は遠い日本の空の下だ。
ならば愚痴ぐらいは言っても罰は当たるまい。

(子供に何を教えているんすか隊長…………しかしまぁ考えてみればあの人って子供の教育は盛大に失敗しているよなー…)

(ぷっ! それって美神のことでしょ!)

(ああ…せめてひのめちゃんは正しく育って欲しいよなぁ…)

「ほほう……つまり私は失敗作と…」

「そこまでは言ってないし…でもまあどっちかと言えば成功例とは言えないと思うわね」

「金に関しては完璧に失敗したよなー」

「そうそう…それに色々と捻くれているし…私、あのままあそこに居て常識が身につくのかちょっと不安…」

「確かになぁ…」

「ふーーーーーーん…」

唐突にあたりの空気が変質する。
それまではどちらかと言えば兄弟喧嘩を親に叱られた兄妹が仲直りの最中に出すような、甘くて酸っぱくて三角な空気だったものが今は毒の沼地の上で濁るメタンガスのような禍々しさへと変わっていて、遅まきながら横島は自分が死地に落ちたことに気がついた。

「………ところでタマモさんや…俺たちは誰と会話をしているでせうか…」

「誰って…私と横島と…み…か…」

タマモの言葉が途中で途切れる。
彼女の後ろではゴリラも裸足で逃げ出すような鬼女が居た。
実際、ゴリさんはエテ吉と一緒にすでに遠くに避難していて、木の影からこっちを見ていたりする。
そんなゴリラなど眼中に無いとばかりに鬼女は、闘気を纏った拳を「我、生涯に悔い無し」とばかりに天に高く突き上げ……一切の容赦も遠慮も無く振り下ろした。


「えぐっ…えぐっ…」

「泣くなタマモ…命があっただけでもいいじゃないか…そう思え…そう思わないと…ううっ…」

頭にでっけーコブを作ったままダクダクと涙を流す少年と少女。
木に縛りつけられている二人を見て、迎えに行ったアナベベに連れてこられた真の依頼人であるウポポ族の長老が嫌な汗を流し始めたのも無理はなかった。


つづく


後書き

ども。犬雀です。
えー。今まで色々と電波な話を書いてきました。
犬が思いつく限りGSの二次創作という世界の中である程度のジャンルは一通りやってみたつもりです。(完成度とか質に関しては目をつぶってくださると嬉しいです…Orz)

しかしふと考えてみればまだ「クロス」というのをやってないことに気がつきました。
(犬の中で除霊部はパロディという位置づけです)
それで書いてみたんですがこれがまた難しい。
特に「ターちゃん」サイドに振り回されるとどうしても犬の力量では下品になってしまう。
今更ながらですが人様に楽しんでいただける文章を書くと言うのは大変なのだなぁと思います。
それでもなんとか話に整合をつけようと頑張ってはみますが…うーん…この先どうなるんでしょうと弱気なことを言いつつ次回へ続きます。

ではでは


1>とろもろ様
お久しぶりです。
次の電波はこんな感じになりました(笑)

2>キツネそば様
キツネそば様の壊れ物も犬は好きですよー(笑)

3>SS様
うーん。犬の中では虐められるキャラがローテするみたいです。
今は令子がツボ。今回はメンバーのほぼ全員がなんらかの不幸な目に会う予定です(笑)

4>k82様
雪女の時の美神さんは可愛いと思うのです(笑)

5>Yu-san様
エロですか!エロですね!! また書いて見たいと思う気持ちもなきにしもあらず(笑)

6>いりあす様
魔鈴さんの交友関係ネタはまだストックがありますが書くかどうかは未定です(笑)

7>ヴァイゼ様
結構虐めがいがあるキャラなんですよ。金銭感覚以外はスーパーレディですし(笑)

8>零式様
いえいえ。年上から見れば美神さんは可愛いのです!だから西条も!!(力説)

9>藤竜様
あはは…やっぱ後半が弱かったですねー。うむ。頑張ります。
どうも最近、壊れを書く時に無意識にセーブしてしまう癖が出てきたようです。

10>武者丸様
闇鍋劇…言いえて妙ですな。
犬は演劇経験がないので(文化祭とかでは蜘蛛とかワカメの役でした)もう少し工夫する余地があったかもと今更ながら思うです。こういう緊張感が投稿の醍醐味なのかも知れませんね(笑)

11>十六夜様
楽しんで頂けてホッしております。まあ後半はやはり弱かったですねー(笑)
幸い美神たちが劇というか異世界へと放り込まれ、ある役柄をこなすなんて
ネタがあるので(仮タイトル:宇宙戦艦ミカミ)その時にはもう少し頑張ってみます。

12>ATK51様
実は「オペラ座」のパロをやろうと思ったんですが、どうしても怪人というと「ナマコ男」とかしか思いつかなくて(笑)

13>偽バルタン様
気づかないのがおキヌちゃんクオリティということで…駄目?(笑)

14>柳野雫様
はいです。犬は清く正しい電波受信機なのです。
ただ最近はどうも感度が(苦笑)


15>aki様
魔鈴さんの交友関係って謎がありそうだと思うのです。
だって経営者なんですから。
ただ……彼女の趣味から行くとどうしても動物絡みになりそうで(笑)

16>純米酒様
イジケてだふらこいてる美神さんはとってもめんこいんでないかい?(笑)<ローカルネタ

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