「良い天気やな〜」
逆天号は今日も平和である。
いや、本当はアシュタロスの命令に従ってテロ活動をせねばならんのだが。
「魔理さん……ワッシは……ワッシはーーー!!」
表立って動けないので、手先になる魔族を使って色々と画策していたアシュタロスであったのだが。
手先として作った魔族はどーいうわけか、そろいも揃って役に立たずだった。
「ヨコシマー、暇ならスパー付き合え〜」
アシュタロスの代わりに他魔族へ指示を出していた腹心の兵鬼、土具羅は戦闘狂の三男、ユキノジョーがサンドバッグにして首から下が無くなったり。
それでも健気に指示を出す土具羅を、日和見主義の長男、ヨコシマが口八丁で丸め込むので計画が全く進んでいなかったり。
唯一真面目だった次男、タイガーは作戦で地上に降りた折に、人間の女に一目惚れする始末。
下っ端魔族は惚れ易いとは誰の弁だったか。
そんな訳でここ数ヶ月、アシュタロスの計画は停滞していた。
「今日こそ地上の霊的拠点を壊滅させて、神界、魔界と人間界のチャンネルを閉じるのだ!」
「りょ〜かいでッス」
「がんばりますけんノーー!!」
「いい加減飽きねぇなぁ」
なんか数えるのも馬鹿らしくなるが、これで第45回目になる妙神山陥落作戦。
二日に一回のペースでやってるので妙神山側も対応が手馴れたもの。
実は毎回、ヨコシマが密かに妙神山側に情報を流しているので相手方も迎え撃つ準備はバッチリだ。
ヨコシマ達下っ端魔族と地上に出張している神魔族の間で密かに会談も執り行われ、「大事にしない方向で」と協定も結ばれているのだ。
断末魔砲等の戦略兵器は危ないので、出陣前にヨコシマが一々故障させる。
殺傷力を極力まで控えた双方の兵鬼の応酬は……まぁビジュアル的には派手なのだが、やってる本人達はサバゲー感覚だ。
知らぬお互いの上役ばかり。
「ヨコシマ、断末魔砲の修理はまだ終わらんのか!」
「ん〜、どーやらこの前不時着した時に霊力の伝達回路が全焼しちまったみたいで、復旧の目処も立って無いッス」
修理どころか現在進行形でぶち壊しているのは兄弟だけの秘密だ。
「土具羅のじいさんよ、今回もこっちが押され気味だ。 俺も出るぜ」
「敵の援軍が来てるみたいですノー、ワッシが行って食い止めてきますノー」
「どう考えたってこの戦闘中には直らんッスねこりゃ……俺も出ます」
援軍なんて来る気配も無いのだが、タイガーは妙神山を飛び越えて六道女学院の方向へ一直線。
戦闘狂のユキノジョーは最近しきりに「強い奴がいる」と言っていたので多分そいつの所へ。どうも猿の格好した神族らしい。
ヨコシマはと言うと、妙神山の門の方へスッ飛んでいった。
勇ましく飛び立って行く三兄弟を見て、土具羅はちょっと感動。
それぞれが何処に飛び立っていったのかは知らぬが仏である。
「小竜姫さまああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ヨコシマが素っ飛んで行った先は、妙神山でのんびりお茶をすすっている小竜姫の所であった。
別に戦いを挑みに行ってるわけではない。
「今日こそ俺の愛を受け止めて――――――「仏罰っ!」ギャーーー!」
やれやれ、といった感じで腰を上げた小竜姫は、飛んできたヨコシマを神剣で打ち落とした。
並大抵の魔族ならそこで天に召されるのだが、そこは特別製の魔族であるヨコシマ。
無駄に頑丈にできてる。
それは製作者の土具羅が、設定したスペックとの差異に首を捻るほどだ!
「またですか……」
「小竜姫様……ぼかぁ、ぼかぁもーーーーーーー!!!」
頭を抱える小竜姫に、「もう辛抱たまりません!」とばかりに飛び掛るヨコシマ。
まぁ、当然の如く撃退されるのだが。
「いいですかヨコシマさん、もうちょっと襲撃を抑えてくれないと……流石に隠し通せませんよ?」
「そんときゃそん時です。俺だって「計画がちっとも進んでおらんではないか!」っていっつも土具羅にどやされてるんスから。ポーズでも闘っとかないと、俺達廃棄処分ッスよ」
ヨコシマがチョンと首を刎ねるジェスチャーをする。
小竜姫の立場からしても「魔族が妙神山に攻め入ってる」なんて事がバレたら、デタント反対派の神族の良い口実になってしまうので、できれば隠し通したい所。
それに、来なくなったら来なくなったで少々寂しいような気もする。
小竜姫が少し考える素振りを見せたとき、ヨコシマの目が妖しく光った。
「こんな儚い俺を抱きしめてくだs「ヨコチマーーーーーーーーー!!!」」
隙ありとばかりに飛び掛ったが、別ベクトルの衝撃受けた彼は目標から思いっきり逸れた。
「久しぶりでチねー! 元気してまちたか?」
「お前……パピリオ?」
自分の上に乗っかっているその衝撃の原因。
彼女はちょっと前に人間への威嚇行動をしていた時相手取ったGSの一味だが、何故か懐かれたのだ。
幼い彼女の目には、彼は悪党では無く弱っちい怪獣を連れてくる愉快なお兄さんに見えたのかもしれない。
いや、概ね間違いではないのだが。
人間の彼女がここにいるって事は、修行目的だろう。
しかし彼女がいるという事は――――
「ヨコシマーーーーーッ!!」
「ル、ルシオラ!?」
そう、彼女の姉であるルシオラ嬢が一緒に来ていてもなんの不思議も無いということで―――
「なんで小竜姫なんか口説いてるのよーーーー!! ずっと前から愛してたって言ったのにいぃぃぃ!!」
「堪忍やぁぁあ!! 下っ端は魔族は惚れやすいんやぁぁぁあ!!」
なんか呼ばわりされた小竜姫から、ちょっと黒っぽい何かが漏れた。
そんな事はお構いなし、とばかりに神通棍を振り回してヨコシマを追い掛けるルシオラ。
一目惚れってわけでは無いが、ヨコシマにナンパされたり、度々どこかに現れて騒ぎを起こす彼を追いかけたり、事故から命を助けられたりしてる内に段々好きになったようで。
ヨコシマもヨコシマで彼女が好きなのだが、下っ端魔族の悲しさというかなんというか。
浮気性というか、惚れっぽいというか。見境が無いというか。
ようするに彼は相思相愛の相手がいても、他の女性ついちょっかい出してしまうわけで。
ルシオラが嫉妬深くなるのも無理からぬ話。
そんな時のルシオラに捕まると、頑丈さに定評のあるヨコシマが半死半生に陥るほどの折檻を受けるのだ。
ここの所妙神山に付きっ切りで人間への威嚇行動が無かった為暫く会えなかった分、募った恋慕の情はそのまま嫉妬の念に転じるわけで。
「い、嫌じゃーーーー!! こんな死に方は嫌じゃーーーーー!!!」
「待ちなさいぃぃいい! 今度こそしっかり教育してやるぅううう!!」
小竜姫に助けを求めかけて、ヨコシマは固まった。
なんと言おうか、彼女の回りを竜気が嵐のように渦巻いている。
「しょ、小竜姫……様? 怒ってます?」
「い〜え、全然怒ってませんよ?」
ニッコリ笑ってそう言うと、小竜姫はそっと背中に手を伸ばす。
「ちょっと背中がむず痒くなっただけです」
と言って彼女が触れた所は、竜族が持つと言われる逆鱗。
触ったら最後、辺り一面焼け野原になるまで止まらないというアレである。
「せ、戦術的撤退ぃぃ!!」
「ヨ、ヨコシマ?」
ヨコシマは踵を返すと、背中にパピリオを背負い、腕にルシオラを抱えて遁走。
突然の行動に怒りを忘れて、頬を赤らめるルシオラ。
かつて無い速度で走るヨコシマにしがみ付き、無邪気に笑うパピリオ。
後ろから聞こえる破壊音が恐ろしくて、後ろを振り向けないヨコシマ。
その日、妙神山は炎に包まれた……
小竜姫はサバゲ感覚で戦っていた神魔を薙ぎ払い、破壊の限りをつくしたそうだ。
この未曾有の災害に対して、ヨコシマ達兄弟と神族、魔族は一時結託。
甚大な被害を出しながらも、これを取り押さえたのだが。
幸いにして死者は出なかったものの、地上に駐屯している神、魔族の半数が重軽傷を負い、若干名が行方知れずになるという大惨事となった。
更にこれが「反体制魔族による襲撃」という報告で神、魔界に伝えられた為、アシュタロスの行動が露呈。
ヨコシマの日和見主義で停滞していたアシュタロスの計画は急進的に進む事になる。
「俺かぁぁぁ!!! 俺が全部悪いんかああぁぁあああ!!」
「うぅぅぅ、魔理しゃああああああん!! 暫く会えなくなりそうジャァァァァア」
「うぅ……あいつは無理だ……あんな奴がいるなんて……ママァァァ!!!!」
「こら、そんな泣く奴があるか! まだ計画のとっかかりだぞ?」
その日、『妙神山陥落記念』と称して逆天号の中でささやかな祝杯をあげる者達がいた。
彼らはそれぞれの嗜好品(アルコール入り砂糖水 アルコール入り蜂蜜 アルコール入りプルトニウム)を飲み明かしていた。
三者三様の思いを込めて泣き咽ぶ三兄弟。
その涙を感涙と取り違えて、心密かに感動する土具羅。
止むに止まれず、戦う事を宿命付けられた彼等がどうなったのか。
それはまた、別のお話で。
続かない。
オマケ
「俺達には10の指令ってウィルスが組み込まれてる、女とヤるって事は、そいつに触れる……死んじまうんだぞ手前!」
激しい霊波がぶつかり合い。
ユキノジョーの喉が張り裂けるような咆哮は、確かにヨコシマに届いていた……
だが、彼の決意はそれを凌ぐもので……
「わかってる、でも、俺達の一生は短いんだ……気付いちまったら、ためらえないんだよ!!!」
「っ、バカ野郎が!!!!」
再び始まる強力な霊波の応酬。
ヨコシマの部屋へ行く途中だったルシオラは……偶然それを聞いてしまった。
(ヨコシマが……死ぬ?)
緊張と期待と、少しばかりの恐怖で熱っぽかった体が、芯から冷えるのを感じる。
(あの馬鹿……私なんかにそこまで本気で……)
受け止められない、そう思った。
でも心のどこかでこう囁く自分がいる
(彼の覚悟しているのだ、だったら戸惑う事なんて無いじゃない)と……
葛藤で胸が締め付けられるように苦しくなる。
そんな時聞いてしまった。 ……耳に飛び込んできた彼の言葉。
「男になれんまま寿命で死ぬなんて納得できるかーーーーっ!!!
どーせ死ぬんやったら気持ちいいことして死ぬんやーーー!!!」
「この大馬鹿ぁぁぁぁああ!!!」
―――プッツン―――
何かのキレル、音がシタ
「ル、ルシオラ……お前いつからそこに!?」
「手前……」
驚くヨコシマと、臨戦態勢に入るユキノジョー
私は驚いているヨコシマに向かって、マクラを全力で投擲。
固まっているヨコシマはそれを避けられず、マクラは彼に当たると爆発四散した。
そして一言
「サイッテー!!!!!」
そう言うと私は歩き始めた。
こんな格好じゃ外歩けないから、とりあえず着替えて事務所の方に帰ろう。
あ〜、動揺して損した。
「な、なんでじゃーーーー!!!!
文字通り命懸けで楽しみにしとったのにーーーーーーー!!!!!」
「ヨコシマ……お前馬鹿だろ」
ルシオラが去った後、寒空の下爆発四散した元枕を抱いて泣き崩れているヨコシマ。
それを見守るユキノジョーの目は、何か憐れな生き物を見るような視線であった。
あとがき
初投稿させて頂きました、ヤタガラスと申します。
よろしくお願いします(-人-;)(;-人-)
皆様の作品を読んでる内に妄想が暴走してついつい書いてしまいました。
理不尽な不幸に見舞われる横島が好きなんであります!
悪気は無かったんやーーーーー!!!堪忍やーーーーーーー!!!!!……と言ってみる。
これを読んで、少しでも楽しんでいただければこれ幸いの至りであります。
散文失礼しました。
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