◆ Night Talker Road 「307.エキノコックス注意」の無氏イラストに捧ぐ。
▽▽▽
▽▽
▽
「そんなのありえないわよ!」
「いいから行ってきなさいっ!」
何かを言い淀んだ人工幽霊一号に首を傾げながら事務所へと脚を踏み入れた横島を迎えたのは、激しく言葉を交わす美神とタマモの姿だった。
これがシロとタマモであるのならば、いつもの光景と割り切ることもできるだろう。だが、生憎と美神がタマモに食って掛かるような事態にお目に掛かったことなどほとんどない。
一体、何があったのかと、横島は戸口でおろおろとしているキヌに声を潜めて問い掛けた。
「お、おキヌちゃん。この騒ぎは一体……?」
「そ、それが、その……」
チラリと動いたキヌの視線が示したのは、お昼の情報番組を映し出すテレビの姿。だが、そこに流れるニュースに取り立てて、何かがあるようには思えない。
そんな横島の疑問を感じ取ったのだろう。キヌは思い切るように顔を上げ、再び口を開いた。
「えっと……、いつものようにお昼ご飯を食べおわった後に、お茶をしながらテレビを見てたんです。
そうしたら、エキノコックスっていう狐の病気がペットの犬にも広がっているってニュースになって……それで、その……うつると酷いことになるってやってて……。
それを見た美神さんが……」
「病院に行けって言ったわけか……」
「はい……。
それで、タマモちゃんの方は、北海道の話だから自分には関係ないって……」
「あー、なるほどな。じゃ――」
大粒の汗を浮かべながら人形のような動きで後ろを振り向いた横島の袖を、いつの間にかキヌが掴んでいた。
「お、おキヌちゃん……?」
「逃げないでください、横島さん。
もう私には、どうしていいか……」
「いや、俺だって……」
決して大きいわけではないはずの横島達の会話を、しかし、状況の変化を望んでいた美神の耳が聞き逃すはずもなかった。
刺さるのではないかと思えるほどに強い殺気を伴った視線が、ギロリと細められた瞳から飛んでくる。
「横島ぁーー!
あんたが連れてけぇーー!!」
* * *
「ううぅ、痛かったぁ……」
「あー、まあ、そういうなって。
逃げなかっただけ、シロよりはマシというか何というか……」
「当たり前でしょ」
頭の上に乗せられた横島の手をそのままに、タマモは涙の残る顔を上げた。
遠くへと引っ越していってしまった真友との別れ以来、何処となく横島の温もりを心地よく感じてしまう。
以前なら払いのけるか、或いは、そもそも頭になど置かせなかったはずの横島の手を、今は受け入れてしまっている。
キヌの持つティーン向けのファッション誌を読み、髪質に気を使うようになった彼女には、無造作に頭を撫でられるのは髪を痛める迷惑行為に過ぎないはずなのに、それでも手を止めようとはしない。
それどころか、暖かくなる心をもっと感じていたくて、このままずっと撫で続けて欲しいとさえ思ってしまう。
今の彼女は、シロが嫉妬を感じるほどに横島に気を許していた。
「ねぇ、横島。
ちゃんと診察を受けたんだから、きつねうどんおごってよ」
「はぁ? 何で俺が?」
「んー、それくらいの甲斐性はあるでしょ。
それにこのまま帰ると、美神に負けたみたいで何かちょっと……」
「……はぁ、しゃぁねぇか。
たく、何処で憶えてきたんだか」
きゅうんという鳴き声が聞こえるのではないかというほどに瞳を潤ませて見上げてくるタマモに、横島は苦笑を浮かべるしかない。
少しずつ除霊の仕事を割り振られるようになって以来、懐のほうは豊かになってきている。
ここでタマモにきつねうどんを奢るくらいの余裕は確かにあるし、無碍に断るのも気が引けてしまう。
ほんの数瞬の間を置いて、横島は了承の頷きを返していた。
「ん、ありがと」
「まったく、調子のいい奴だな。
さっきまで泣いてたカラスが何とやらって奴か?」
「むぅ。何よ、そ――」
頬をプクリと膨らませ、横島へと抗議しようとした瞬間だった。
心臓がドクリと大きく鼓動を打ち、背筋が跳ね上がる。そして、次の瞬間には身体中が震えだし、タマモは堪らずしゃがみ込んでいた。
「お、おい。どうしたんだ!?
注射が悪かったのか。おい、タマモ!
くっ、病院。いや、文珠――それとも天狗の所かっ!?」
「ん、く。は、はぁ……だ、だいじょ……」
「大丈夫なわけあるか!」
東京タワーでの出来事がフラッシュバックのように思い出され、タマモの姿に重なってしまう。
「いいから、いくぞ!
大丈夫だからな。
絶対に治してやるからな!」
焦りとともに吐き出された横島の荒々しい言葉は、ぐるぐると回り始めたタマモの脳裏に大きく響きながらも、決して耳障りなものではなかった。
そして、そのことが自らの身に起こった何かを理解したタマモに、促しを与えていた。
「ほ……んとにだいじょ……ぶだから……。
でも……お願い……横島の部屋にはや……くふぅぅ。
ここじゃ……はやく……お願い……。
ておくれ……ならないうち……はやく……」
「な……わ、わかった。
俺のとこでいいんだな!?」
ぎゅっと自分の服の裾を掴むタマモの熱い身体を抱きしめながら、横島は取り出した二つの文珠にとありったけの想いを篭めて転移の二文字を浮かび上がらせる。
一瞬の後、二人の姿は掻き消えていた。
▼▼▼
▼▼
▼
「んぁ、横島ぁ……はやくぅ……」
一月ほど前に除霊報酬の一部として受け取った真新しいマンションへと帰ってきた横島の耳朶を、艶に塗れた甘い咽き声が刺激した。
フローリングの床の上で身を起こし、煙とともに狐から人へと変じたのは、大妖『金毛白面九尾狐』の転生体であるタマモだ。
だが、彼女は本当に彼女なのだろうか。
トロンとした瞳は秋波に溢れ、上気したきめ細かい肌からは男を誘う濃密なフェロモンが湯気のように立ち昇っているかの如く思えてしまう。そして、彼女の細い首に巻きつけられた首輪から伸びる銀色の鎖が、桜色の薄いキャミソール一枚に豊満な肢体を包みこんだ彼女を更に彩っている。
ほんの数日前まで硬質ながらも幼さを残す容姿だったはずのタマモは、あの日一瞬にして傾国の美女と称されるに相応しい成長を遂げ、男なら誰でもが理性を失うであろう程の妖艶さを身に纏っていた。
「はやくぅ……ほしいの……。
横島のおチ○チン……ほしいのぉ……」
あどけなく開いた唇をねっとりとした舌が舐め上げた。
たったそれだけの僅かな動作でさえ、蟲惑的な男を誘う仕種となっている。
「まだ治らないのか、タマモ?」
「うん、まだなの……。
だから、横島のおチ○チンちょうだい。
私のアソコにはやくぅ……」
優しくも硬質さを纏わせた横島の言葉に、タマモは歓喜の震えを感じた。前世において歴代の権力者達を傅かせたはずの彼女は、自分が横島の掌(たなごころ)にあることに途方もない安堵を感じてしまう。
自分の確固たる居場所を感じさせてくれるが故に、横島に溺れずにはいられない。
初めての交わりでさえ、ぎこちないながらも自分の全てを掴み取ろうとするかのような横島のやや乱暴な手付きに信じられないほどの快楽をタマモは感じ取っていた。
「ねぇ、横島ってばぁ。はやくぅ……」
だからこそなのだろう。彼女自身がこのまま自分を捕まえていて欲しいと、何処にも行けぬように横島の手で縛りつけ止めおいて欲しいと口にしたのだ。
心は横島の温もりを求めていても、まかり間違って外に出てしまえば、発情し欲情に塗れた身体は間断なく男を求めてしまうに違いない。
だが、そんな事態が現実に起こることをタマモは万が一にも考えたくはなかった。
誰が好き好んで、見もしらぬ胡乱な輩に身を任せなければいけないのというのか。
タマモの口にした言の葉は、それ故の言葉だった。
そんなタマモの告白を前に、横島もまた彼女を誰彼の手に委ねることをよしとしなかった。
勿論、抵抗はあったが、元々が煩悩の化身とさえ称された横島だ。
普段はお姉さま系のアダルトビデオをメインに見てはいるものの、それ系の物を見たことがないわけでもない。
また、好奇心に溢れ、暴走しやすい多感な年頃でもある。
成長したタマモに手を出した時点でひび割れていた理性は、心の内で膨れ上がった欲望に完膚なきまでに突き崩され、何時しかご主人様を演じ始めていた。
参考にしたビデオのために些かならずカリカチュアライズされたものではあったが……。
「なら、ちゃんとおねだりしないとな。
俺はタマモのご主人様なんだろ?
ほら、見せてやったビデオみたいにおねだりするんだ」
「うん。私は横島のペットだからぁ。
いやらしいペットだからぁ……んぁ……。
だからぁ、横島のおチ○チンがほしいのぉ。
熱くて固いおチ○チンをペロペロしたいのぉ。
ねぇ、舐めさせてぇ。ちゃんとできたらでいいからぁ。
ご褒美におチ○チンでアソコを突いてぇ。
ねぇ、横島ぁ……」
高く突き出した腰を横島に向け、ゆらゆらと揺らめかせるタマモの秘唇から滴り落ちた淫蜜が飛沫を上げて床で砕けた。
「はやくぅ……エッチなペットにおチ○チン舐めさせてぇ。
横島のおチ○チンほしいの。はやく食べたいのぉ。
上の口と下の口で……横島の熱いおチ○チンが食べたいのぉ……」
ゆっくりと伸びた手がニチュリと音を立てて秘唇を押し開き、うねうねと蠢く蜜襞の淫乱な様を見せつける。
「ん……見えるでしょ?
こんなにエッチになってるの。
横島に見られてるだけでぇ……私のココ、こんなにエッチなお汁が溢れてくるの。
だからお願い……横島のおチ○チン食べさせてぇ……」
「おねだりが上手くなったな。
ちゃんとできた時のご褒美ってことでいいんだな?」
「うん……」
コクリと頷いたタマモの眼前に、へそまで反り返るほどに猛々しい肉棒が突き出された。ビクビクと脈打つ血管の動きが自分を待ちわびている証のように思え、秘唇の奥がジュンと音を立てる。
「横島ぁ……ん、チュ、んん、ん……」
肉棒の先端を軽くキスをしてから口に含み、ほんの少し吸い上げるようにしつつ、亀頭を万遍なく舐め回す。
「ん、ふぅ。ん、んぅ……」
顔を前後に動かし、ゆっくりと肉棒全体に唾液を塗していく。
小さな口から零れ出た肉棒が外気に晒され、ひんやりとした快感が肉棒を駆け抜けた。それが更なる脈動を、横島に重ねさせる。
「また、おっきく……ん、私で感じてくれてるんだ……。
ん、もっと気持ちよくしてあげるね……」
たっぷりと白濁液の詰まった袋を揉み解し、その中にある二つの感触を楽しみながらタマモは笑みを浮かべていた。
キャミソールから零れ落ちた豊かな双丘へと唾液を零し、左手でゆっくりと肌に馴染ませていく。
柔らかな間接照明の光の中、タマモの火照った肌が煌めいた。
「あっ、んん。私の胸で横島が埋もれてる……。
胸のところに、横島の尖ったところが当たって、んん……」
ぐにゅりと両脇から寄せた乳肉がやんわりと、それでいて押し潰さんばかりにねっとりと肉棒を包みこむ。
肉棒がニュクリと乳肉を掻き分けるたびに肌の纏う艶と塗された唾液が絡み合い、混ざり合って、芳しい香が立ち昇っていく。
「ん、あん、あんん。はぁ、はぁぁ……んぁ、はぁぁ……。
ねぇ……気持ちいい? 私の胸、気持ちいい?」
「ああ、すげぇ気持ちいいぞ。
ぐにゅぐにゅに柔らかくて、俺のを全部包みこんでくる。
コリコリした乳首が掠るのが、アクセントだな」
「んふ、うれしい。
んぅ、ふぅん、ん……」
豊かな双丘ですら隠しきれない肉棒の先端を、タマモは美味しそうに口に含んだ。ふっくらとした敏感な唇を刺激する肉棒の感触が、彼女の背筋をゾクゾクと震わせる。
その感触をもっと味わいたくて、タマモは肉棒を更に奥へと誘っていく。
「んふぅ、ん、んん。んふぅ、ん、うぅっ!
ん、ぐぅ、んんん……」
咽喉奥に達しても飲み込むことを止めない、ただただ奥へ奥へと肉棒を導くタマモ。目尻には、苦しさから涙すら溜まり始めていた。
だが、タマモは苦しみを感じてさえ肉棒を放すことを考えず、それどころか咽喉を更に締め上げて、横島へと奉仕し続ける。
「んぅぅ、ん、ぐ……んぐぅ、ふぅ、んぐぅぅ……ん、んっ……」
「くぅぅ、出すぞ。いいな、タマモ?」
「んふぅ、んぐ!
んぐぅぅぅ、ふぅ、んふぅぅぅぅ!」
九つに纏められた金色の房を掴むようにしてタマモの頭を固定し、限界を迎えた横島が熱い念隗を解き放った。
ドクドクと音を立てて咽喉奥の性感帯に白濁液がぶつかり、肉棒は自らが受けた快楽をタマモへと返していく。
細められたタマモの瞳は欲情の頂を確かに映し、胃の腑へとゆっくりと落ちていく火傷しそうな熱さに身を任せていた。
「んぅ、あ……ん……」
後ろ髪を引かれながらもゆっくりと離した肉棒と唇の間に白い橋が作られ、そして落ちた。
「タマモ?」
「横島ぁ……お願い……」
シャラシャラと鎖を鳴らしながら秘所を向けてくるタマモの腰を、横島の手が掴み取る。
「ああ。ご褒美だ」
「ん……きてぇ横島ぁ。ああん、んあぁぁぁぁっ!」
グチュッという水音とともに、飛沫が散った。
「あっ、ん、はぁぁ……すごいのぉ……。
奥まで、奥までとどいてる。
横島の硬くて太いのが、私の奥までぇ……」
花開かされた蜜壷の深奥へと一息に到達した肉棒の脈打つ鼓動が、熱い疼きに沸く子宮に伝わってくる。
ビクリビクリと蠢く振動が全身へと広まり、タマモの心の鼓動とハーモニーを重ねた。
「んぁ、ふぁぁ……横島ぁ、動いてぇ……。
お願い。もっと気持ちよくなりたいのぉ……」
「わかってる」
「はんんっ! あん、あん、あんんっ! あんっ!」
ヌクリと淫襞が蠢き、ざわめくように肉棒を撫であげ、キュウキュウと吸い上げる。きつい吸い上げの中で、横島の肉棒が動いた。
「んはぁぁぁっ、すごい、すごいのぉ!
おチ○チンが、横島のおチ○チンがぁ……。
私のアソコを広げてるぅ、ん、んぁぁ。
あはぁぁっ……はぁ、はぁぁ……」
抜け落ちそうなほどに後退した肉棒の先端が膣口近くを刺激し、横に揺れた腰の動きが淫唇をニチュリと割った。
「あっ、や……奥にぃ。奥にほしいのぉ……。
おチ○チンの先で突き上げてぇ。
ん、ん、んんっ……んぁぁっ!」
三度軽く膣口近くを再び前後した肉棒が深奥へと突き進み、大量に溢れ出た蜜がヌルリと滑りをよくしていく。
深奥へと達した肉棒の先端が子宮の底を突き上げ、クプヌプと擦りあげていた。
「きてる、きてるぅ!
横島のが私の子宮にとどいてるぅ!
んぁ、んぁぁ。
お願いグリグリってしてぇ。
あんん、あん……イイ、イイよぉ。
横島、イイのぉ! お願い、もっとぉぉっ!」
横島の腰が『の』の字を描き、子宮を直接突き上げられていると思うほどに刺激する。
「あん、はぁ、あはぁぁぁ……すごい、すごいよぉ。
横島のおチ○チンが、私の子宮をこねてるぅ!
グリグリ……グリグリってぇ!
んぁ、あぁぁっ、すごい、すごいのぉ!
イクぅ、イクの。私、イクぅぅぅ!」
横島のモノを欲しがったタマモの淫襞が何度も収縮し、背筋が反り返っては幾度も幾度も意識が白く染まる。
全身からは力が抜けきり、まるで吊り下げられているかのようにタマモは腰だけを高く突き出したまま、ぐったりとフローリングの床に身を任せていた。
「ん、あっ……あ、あ、あぁ、あ……」
だが、グチュグチュと淫猥な水音は休むことなく響き渡る。
フローリングの上で押し潰された乳房がグニュグニュと変形し、汗ばんだ肌の奏でる微かな擦過音が淡い吐息と共に水音と相まっていく。
「あっ、ふぅ……あ、あぁ、あふぅ、あっ、あっ……」
どれだけの時間が過ぎたのか。白い海の中で揺蕩うタマモの意識に新たな漣(さざなみ)が届いた。
そこだけは力の抜けることない熱い密壷の中、一個の輪となり肉棒を締め上げた蜜襞のうねりが引き起こしたそれ。
「あ、あぁ……くる。横島がきちゃぅぅ……」
ビクンと大きく震えたことで、その肉棒の変化を感じ取ったタマモの瞳に一際淫靡な輝きが灯った。
そして……
「あぁぁぁぁ!
ダメ、イク、イクのぉ。また、イっちゃう。
熱いのが私の中に広がってぇ、あ、あはぁぁぁ!
イクぅ! 私、イクぅぅぅっ!」
情熱の白濁に勢いよく子宮口を叩かれながら、タマモは安寧の闇に心を委ねたのだった。
▼▼▼
▼▼
▼
「ママぁ、ここがお仕事するところぉ〜?」
「パパぁ、このお姉ちゃんが犬さん?」
きゃいきゃいと騒ぎ立てる九人の幼子の嬌声が、ピキリと固まった事務所の冷たい空気を切り裂いていく。
人工幽霊一号によって完璧なまでに温度湿度ともに管理されている室内の空気が凍ったのは、二度。
一度目は、二週間振りに事務所へと足を踏み入れたタマモの妖艶なまでの成長振りを目に入れたときに。
二度目は、ようやく衝撃から目覚めようとした矢先に目に入れいたタマモそっくりの幼女達が横島をパパと呼び、タマモをママと呼んだときに。
そして今、五分という短くも永い時間をかけて、凍った刻が動き出した。
「よ、横島君……こ、これは一体、どういうことなのかしら」
「あー、そのっすね……」
カタカタとマイセンのティーカップを震わせながら、それでも普段の様子を維持しようと笑みを浮かべる美神の姿に、横島は苦笑を浮かべながらポリポリと頬を掻いた。
「何と言うか……春のせいでこうなったというか……」
「ふ、ふーん。それだけじゃあ、ちょっと分からないんだけど……もう少し具体的に言ってもらえるかしら?」
こめかみに浮かんだ太い十字が、美神の怒りを表している。
以前であれば、その灼熱地獄とも極寒地獄ともいえる一種独特の怒気に、横島は反射的に竦んでいたはずだ。
だが、そんな過去を思わせる素振りは一切ない。
どこか余裕すら持って、横島は美神の怒気を受け入れていた。
「ふふ……ここからは私が説明した方がいいようね。
ねぇ、横島?」
「そう……じゃあ、お願いしようかしら」
とはいえ、美神を宥める言葉を横島は知らない。
そんな横島へと助け舟を出したタマモと美神の間で、火花が飛び散った。
二人の周囲に発生した重圧は結界の如く一歩を踏み出そうとしたキヌとシロの足を止め、あうあうと言葉にならない声を出させるほどに動きを止めている。
「あの日、医者に連れて行かれた帰りに発情期になったのよ」
「な、なんですって!」
「ふふ……毛変わりの時と同じで体内時計は狂ってたみたいだけど、自然になるものだもの。しょうがないでしょ?
もちろん、横島とそういう関係になったのは、しょうがないってだけじゃないけわよ。
だって、単に発情しただけなら、そこいらの誰かでもいいんだもん。
でも、私は横島が好かったの。他の誰でもない横島がね」
艶然と微笑むタマモの言葉がゆっくりと浸透し、時計の針が進む毎に美神の眦(まなじり)が攣り上がっていく。
そして数秒。ティーカップといつの間にやら入れ替わっていた神通棍は煌々と光り輝き、スパークさえ撒き散らしていた。
「こ、こんの――」
「うっ……、拙者も発情期がっ……」
「おバカぁーーー!」
「はぐぅ! 刻が……刻が見えるでござる……」
横島を沈めるはずの一撃は、二匹目のドジョウを狙わんとしたシロへと標的を変え、その身を鮮やかに宙へと舞わせた。
『ママぁ?』
「ふふ、楽しいところでしょう?」
一瞬、シロの背後に浮かび上がった漆黒の中に輝く星空に子供達は首を傾げ、タマモは微笑を浮かべて美神達を見つめていた。
何のかんのと言いつつも、結局は自分達を受け入れてくれるであろうことを胸に描きながら……
― Fin ―
▽▽▽
▽▽
▽
随分と遅ればせながら、無氏のイラストに触発されての初投稿であります。
さて、お楽しみいただければ幸いですけれど。