夏子と銀一……それとクラスの皆と別れを終えた横島。
横島の転校を知ったクラスの皆は落ち込んでいたが…………
「最後くらい笑って送ってあげようよ! みんな、横島に笑われるで!!」
夏子の言葉に聞いたクラスメイトは横島を送り出した。
その一週間後、東京での家の準備も終わり、横島は唐巣神父の教会へと向かっていた。
「いったい、なんやろな? 神父からの呼び出しって………」
内容が告げられなかったため、気になる横島。
考えても仕方ないと思った横島は教会への急いでいたが…………
「なんやこれ………??」
横島が驚くのも無理はない。
横島が歩いて来た道は公道。
つまり、アスファルトの道なのだ。
ところがその道が不自然に途切れている。
田舎ならばよくあるかもしれないが、ここは東京。
ありえない事態だ。
横島は視線をゆっくりとあげ、その先を見てみると…………
「……………………………………は?」
言葉が出ない……
まるでここに隕石が落ちたような荒野が広がっている。
道は砕かれ、端に立つ標識は折れ曲がっている。
壁も局部的に崩れており、普通では見られない光景が広がっていた。
「あれ……?あそこにいるの誰だ??」
ふと、荒野に佇む影を見つけた横島。
目を凝らしてみると、女の子のようだ。
何故かこんな所で立ち尽くしている。
「何してんねやろ……? 気になるな………………」
無性に気になった横島。
唐巣神父へと会いに行く最中だが、少しぐらい遅れても問題ないだろう。
どうして?どうしてなの〜??
荒野に佇む少女は一人悩んでいた。
私は皆と仲良くしたいだけなのに〜
皆、気味が悪いって言って逃げていくわ〜
ただ私のお友達を紹介しただけなのに〜
そのお友達が問題なのだ。
彼女の名前は六道冥子。
六道家に古くから伝わる十二神将……それが彼女のお友達。
幼き頃より共に生きてきた十二神将は彼女にとって大切な存在。
しかし、一般人からすれば強大な力を持った化け物に過ぎない。
容姿の面もあるが、原因は十二神将の暴走による被害。
彼女は精神面での発育が遅く、幼い。
ゆえにちょっとしたことで感情が触発され、十二神将の制御ができなくなるのだ。
その結果が暴走。
今の現状を作り出したのは彼女の力。
今まで仲良く遊んでいた友達が怪我をして、それを治そうと十二神将を出したときに起こった。
「うわあああぁあぁぁ!! なんだよ、その化け物は!!」
一般人の少年少女からすれば、普通の反応だろう。
だが、家族と同義である十二神将を化け物扱いされた冥子はあっけなく暴走させてしまった。
気づけば辺りは荒野になり、友達もいなくなっていた。
寒空の下、吹きすさぶ風は彼女の心を痛めていた………
「ふ、ふぇ………ぇぇぇぇぇ………」
今の自分とそれを囲む環境。
冥子は思い出せば思い出すほど、悲しくなってきた。
一人………独りぼっち。
悲しかった………泣きたくなってくる。
彼女はいつもそうだった。
新しい友達ができても、十二神将を見せれば皆離れていく。
それでも彼女は十二神将を手放すことはない。
彼女にとって十二神将は掛け替えないものだから………
切り離すことのできない大切な家族なのだから………
「こんなとこで何やってんの??」
「ふぇ……?」
泣く寸前だった冥子。
見上げると赤いバンダナが特徴的な男の子の笑みが目に入った。
近づいてみると、やはり女の子だった。
ショートカットの似合うかわいらしい女の子。
そんな彼女が目に涙を浮かべていた。
「……あなた、だあれ??」
恐る恐る尋ねてくる少女。
少しでも刺激を与えれば、彼女は泣き出してしまうだろう。
「俺は横島忠夫。 こんなところで何してんの??」
「ふぇ? え〜と、え〜と。」
目の周りが赤い。
先ほどまで泣いていたのだろう。
今でも瞳には涙が溜まっている。
泣いている女の子をほっておく横島ではない。
彼女の手を握り走り出す横島。
「……え?え〜?」
「こういうときは考えても仕方ないって!」
手を引かれている冥子も嫌がってはいない。
横島に引かれている手の温もりを心地よく感じていた。
「私はね〜六道冥子っていうの〜。」
完全に晴れきってはいないが、少し心が楽になった。
不思議だが横島には場を和ませる……
彼の行動には心を和ませる力があった。
横島と冥子は公園で一通り遊んだ後、ベンチに座っていた。
「ねぇ、どうしてあんなところにいたの?」
冥子が落ち着いたことを見計らって横島が尋ねた。
あんな荒れ果てた荒野に佇む少女……
どんなに考えてもその経緯が想像できない。
「あのね〜 そこで会った子と遊んでたんだけど〜 その時に私のお友達を紹介したの〜」
「冥子ちゃんの友達? 誰のこと?」
冥子の話は理解できる。
だが、その状況からどうやってあの状態へと移り変わるのだろうか?
一方、冥子は悩んでいた。
どうしようかしら〜…………
あの子達を紹介したら、また逃げるのかしら〜?
私ぃ〜あんなのもう嫌だわ〜
今までは決まって十二神将を紹介すれば、皆逃げていく。
大切なお友達なのに、決まって貶されるか怖がられる。
お友達として紹介すれば、また独りぼっち…………
でも紹介しなければ、大切な家族を蔑ろにすることになる。
冥子にとってこの二つの選択肢は辛すぎる。
考えても答えがでることはない。
「冥子ちゃん、どうしたの?」
何も答えない冥子が気になる横島。
その表情が曇っていくのがよくわかる。
「あのねぇ〜「六道冥子だな?」─ふぇ?」
横島に返答しようとした冥子。
その言葉が言い終える前に誰かの声に遮られた。
後ろを見ると、黒いスーツ姿にネクタイ姿の男。
サングラスをしていて、とても友好そうには見えない。
冥子は本能的に横島の後ろに隠れていた。
「なんか用なの? おっちゃん。」
「私が用があるのは後ろにいる六道冥子だ。 貴様は関係ない。」
「だ、そうだよ? 冥子ちゃんの知り合いじゃないの?」
「わ、私ぃ〜 こんな人知らないわ〜」
「おっちゃん、こう言ってるけど??」
横島がそう伝えると大柄な男はフゥとため息をつき答えた。
「六道冥華と知り合いの者だ。 彼女に連れて来るように頼まれたのだ。」
「お母様にぃ〜?」
六道冥華。
現、六道家当主にして、GS会でその名を知らぬ者はいない。
GS会での発言力も高く、GS協会も簡単に無視することはできない。
それほど大きな権力を持ち、また独自の情報ルートを握っている。
「でも、おかしいわぁ〜。いつもなら、タエさんが迎えにくるはずよ〜?」
「彼女も今日は忙しくてね、代わりに私が来たんだよ。さ、行くぞ。」
「冥子ちゃ〜〜ん、また今度遊ぼうな〜〜!!」
男はそういうと冥子の手を握り、引っ張っていく。
横島も多少、変だな〜と感じていたが、親からの迎えということで納得した。
「ふぇ……」
知らない大柄な男。
黒で統一された服装は彼女の心に不安を生じさせる。
手を引っ張る力も強く、手が痛い。
冥子には度々こんなことがある。
よくわからないが自分を連れて行こうとするものがいる。
冥華は日頃から恨みを買うことも多い。
だからこそ彼女を狙う者も多いのだが、彼女の周りのセキュリティは完璧だ。
迂闊に近づけば、捕まる事は間違いない。
ならば、皆はどう考えるだろうか?
皆の答えは一致する。
彼女の弱みを狙えばいい。
娘の冥子を捕まえて、冥華を脅せばいい。
霊能関係のことを知らない者はそう行き着くのだ。
冥華も馬鹿ではない。
彼女ならばそんなことになるのはわかっている。
ならば何故、冥子に護衛を付けないのだろうか?
答えは……………………
「ふぇ、ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!!」
この通りだった。
護衛を付ける必要がない。
彼女の鳴き声と共に十二神将が周囲のすべてを破壊する。
冥子の手を引いていた男など一瞬で気絶していた。
「な、なんじゃこりゃああぁぁぁ!!」
冥子から少し離れた場所にいる横島が叫んでいた。
目の前には強大な力をもった十二匹の式神が暴走している。
即座に逃げることを判断した横島だったが、時すでに遅し…………
「ぬぉ! サイキックソーサー!!」
目の前にはアジラが火を噴き、横島に迫っていた。
反射的にサイキックソーサーを展開した横島だったが…………
「反則やーー! あんなん反則やーー!!」
アジラの炎をサイキックソーサーで防いだが、そのまま石化し崩れ落ちた……
「どないせいっちゅうねん!!」
霊力を循環し、身体能力を向上させてなおギリギリの状態。
アンチラが飛び込んできて、その耳が鋭く光る。
反射的に屈んでかわしたが……
「…………まじっすか?」
アンチラの鋭い耳はコンクリートの壁、電柱、そして鉄製のポストまで切り裂いた。
冷や汗がでる横島。
あんなもの自分がうけたら…………
「死んでまう!! マジで死んでまうって!!」
戦略的撤退を決意する横島。
自分の能力を駆使すればなんとかなるはずなのだが…………
目の前の式神達を見て、そんな風には考えなかった。
「おっしゃ! 今や!!」
マコラの攻撃をかわし、隙が出来た瞬間に後退する横島。
このまま行けば逃げれると思った矢先に…………
目の前にメキラが現れた。
「なんでやーーー!!」
メキラは瞬間移動の能力を有している。
非常に短距離ではあるが、近接戦闘になれば、恐ろしいほどの能力だろう。
そもそもインダラ(高速移動)、シンダラ(飛行能力)、メキラ(瞬間移動)から逃げ切れるはずがない。
十二神将───それは人在らざる六道家に仕えし式神。
六道家を敵を打ち滅ぼす者なり。
その強さは人の想像を遥かに超えている。
「ぐわっ!!」
メキラの突進を食らった後にサンチラの電撃によって、気絶した横島だった。
「……めん……さい…………ごめ……さい。……ごめんなさい〜。」
「んあ?」
誰かの声を聞いた横島が目覚めた。
気づけば頬に柔らかい何かが触れている。
「なんじゃ…………?」
目を開けて最初に目に入ったのは…………
大きなショウトラの姿だった。
「のわっ!!」
跳ね起きた横島。
「び、ビックリしたーー! いきなり目の前に犬がいるとは……」
先ほどから触れていたのはショウトラの舌だったようだ。
冥子が横島にヒーリングを施していたのだろう。
「って、あれ?俺は…………」
「横島くん……ごめんなさ〜い。」
「冥子ちゃん?」
ショウトラの近くには申し訳なさそうな表情をしている冥子。
謝りながら、また泣きそうになっている。
「な、泣かないで!冥子ちゃん。俺ならこの通りだいじょ……ぶ?って、何で無傷なんだ?」
「ショウトラちゃんに直してもらったの〜」
「そっか、それで俺は怪我が治ってると。 ショウトラありがとうな。」
そういいながら、ショウトラの頭を撫でる横島。
ショウトラも鳴きながら、気持ちよさそうに受け入れていた。
「……横島君は〜怖くないの〜?」
「何が?」
一般人からすれば、恐怖の対象である十二神将。
先ほどの破壊活動を見たものは大抵逃げ出すだろう。
横島は自分を治療してくれたショウトラに純粋にお礼をいっただけなのだが……
「……皆、この子達を怖がって逃げていくわ〜 横島君は怖くないの〜?」
ブワっと冥子の周りに出現する十二神将。
だが、先ほどと違いおとなしく冥子に甘えている。
「た、確かに……その子達の能力は怖いけど、今はおとなしいし、別に大丈夫やけど……?」
先ほどの戦闘を思い起こしているのだろう。
横島の頬に一筋の汗が流れ落ちる。
「だけど、私のせいで横島君は〜怪我をしてしまったのよ〜?」
「……そもそもなんで攻撃してきたの?? 俺には冥子ちゃん、泣いてただけに見えたんだけど…………」
「私ぃ〜嬉しかったり、泣いたりしたときにこの子達を制御できなくなって〜暴走させてしまうの〜」
「あぁ……なるほど…………でも人は誰でも失敗するし…仕方ないんじゃ?」
「これが初めてじゃないの〜、今までお母様に注意されてたんだけど…………」
言葉に詰まる冥子。
直せない。
直そうと試みたが直せない。
冥子自身、こんなことを望んでいるはずもない。
周りからみれば彼女の努力が足らないと言うのだろう。
しかし、それは感覚の違い。
彼女は彼女なりに考え、努力はしていた。
だが、周りから『どうしようもない、あの子は何を言っても駄目だ』と決め付けられる。
皆はそんな経験はないだろうか?
『お前には無理だ。』『分相応なことだけしてればいい。』
人間、特に子供時代は周りの声に感応しやすい。
駄目だ、君は駄目なんだ。
君には才能がない。努力しても無駄だと……
人はそういわれ続けると、本当に無理なんじゃないか?
私には元々この程度の能力、才能しかないんだと思い始める。
どんな人間だろうと誰にも期待されずに努力することなどできはしない。
そんなことが出来る人間は存在しないだろう。
子供時代など親に褒められたから嬉しい。
だから頑張る。
先生に褒められた、周りの皆から賞賛の声を聞く。
だから頑張る。
非常に単純な動機ばかりだ。
冥子はいまや誰にも期待されていない。
暴走するのは当たり前。
母親の冥華でさえ、信じたいもののある程度は仕方ないと思っている。
それどころか冥子自身も無理だと諦めかけている……
「冥子ちゃんは直したいの??」
「直したいわ〜、お友達をたくさん作りたいもの〜」
「そっか、じゃあ今からでも頑張ろうよ。」
これはある意味自分のため。
十二神将のことがなければ、冥子はかわいい女の子。
暴走することがなくなれば、安心してお近づきになれるのだ。
「でも〜、今までどうやっても直らなかったわ〜」
「大丈夫! 俺も手伝うから!!」
右手で自分の胸をドンと叩く横島。
「手伝う〜?」
「そう、冥子ちゃんが式神を暴走させないように手伝うってこと。」
「本当にいいの〜?」
「だって友達だろ?」
……嬉しい、嬉しいわ〜。
誰も私を手伝ってくれる人なんていなかったもの〜
手伝ってくれるお友達がいることがこんなにも嬉しいことなのね〜
痛みを分かち合えるお友達がいるって嬉しいわ〜
「横島く〜ん、ありがと〜。」
「どわっ! 冥子ちゃん、式神!! 式神が暴れてる!!」
やはり、歓喜のあまり暴走させてしまう冥子。
横島は霊能力を駆使しながら必死に逃げ回っていた。
「冥子ちゃ〜〜ん! なんとか──ぐはっ!!」
心なしか、式神達も暴走しているだけでなく、じゃれついているようにも見えた。
「はぁはぁ……冥子ちゃんはかわいいけど、ちょっとバイオレンスやな……」
あの後、横島は唐巣神父に呼ばれていたことを思い出し、冥子とその場で別れた。
用事があると伝えて、帰ろうとすると冥子が泣きそうになったのは言うまでもない。
次に会う約束をすることでなんとかその場を凌ぎきった横島だった。
なんだかんだ言っている内にも唐巣神父の協会へと辿り着いた。
「唐巣神父〜いますか〜?」
協会の扉を開き、中へと入る横島。
「あれ? なんでおかんとおとんがおるんや?」
「やぁ、横島君。久しぶりだね。」
「忠夫、あんた何しとったんや?」
「どうせかわいい子でも見かけてついていったんやろ?」
「……あなた?」
「ゆ、百合子……冗談、冗談やから!」
「……………………」
百合子の一睨みで黙り込んだ大樹だったが、実は指摘通りだったため冷や汗を流す横島だった。
「それでなんでこんなところにきてるんや?」
ここはすでに教会ではない。
横島の眼前にあるのは大きな屋敷。
大きな門の前へやってきているが、壁伝いに視線を追うと端が遥か先だ。
「実は私の知り合いに君を紹介しておこうと思ってね。ご両親にも来て頂いたんだよ。」
「へぇ〜〜〜」
唐巣がインターホンを押し、二言ほど話したら誰かがでてきた。
「ようこそいらっしゃいました。こちらへどうぞ。」
出てきたのは着物姿の女性。
どうやら、この屋敷のお手伝いさんらしい。
四人はある部屋へと案内され、ここで待つようにと言われた。
「でっかい家やな〜、俺も一回こんなとこ住んでみたいわ。」
「そう〜?なら、とまりにきてもいいわよ〜」
横島の声に答えるものがいた。
その声は横島の両親や唐巣でもない。
あれ……?どっかで聞いたことがあるような……
とても特徴がある喋り方。
時間そのものが遅く流れているようで、どくどくの空気を作り出す。
声のしたほうを振り返ると……
「どうも〜始めまして〜〜、六道冥華といいます〜」
「…………六道?」
先ほどまで一緒に遊んでいた冥子の苗字。
しかも冥子と冥華は顔がそっくりだ。
ここまでくれば誰が考えても同じ結論へと辿り着くだろう。
「あ〜〜!た〜くん。」
冥華の後ろから嬉しそうに横島に駆け寄る冥子。
横島の腕にギュッと抱きつき、嬉しそうに微笑んでいる。
「「「「た〜くん?」」」」
大樹、百合子、唐巣が同時に疑問の声を上げる。
そして、何故か横島も一緒になって驚いていた。
「あら〜、二人は仲良しなのね〜」
「そうよ〜、私とた〜くんはお友達なの〜」
「冥子ちゃん、たーくんて何?」
気になったことを恐る恐る尋ねる横島。
「え〜と、親しいお友達は愛称で呼ぶって聞いたの〜」
「誰に?」
冥子が片手である人物を指差す。
皆が指差す方向へ注目すると……
「冥子〜、しばらく横島君と遊んできなさ〜い。」
「は〜い、お母様〜。」
目を逸らし誤魔化そうとする冥華。
誰が見ても話の流れがおかしすぎる。
冥子の手に引かれ連れて行かれる横島。
手を引く力は弱々しいが断ればどうなるかぐらい容易に想像できる。
「…………はぁ、あなたが仕組んだんですね。」
「なんのことかしら〜?」
「わざわざ冥子君を横島君に合わせなくても今日会えたでしょうに……」
「……………………」
「分かったわ〜、白状するからそんなに睨まないで〜」
冥華が席に着き、ゆっくりと話始める。
「紹介が遅れました〜、私が六道家当主の六道冥華よ〜」
「いやぁ〜実にうつくし……いえ、私が忠夫の父、横島大樹です。」
何時もどおり口説こうとした大樹だったが突如止めた。
見ると、大樹の首に鉄製の鋭利な刃物が見える。
まるで鏡のように映る刃物は切れ味もよさそうだ。
「もう、あなたったらこんな所でもご冗談を。冥華さん、私が忠夫の母、横島百合子です。」
先ほどの行動がさもなかったように振舞う百合子。
その笑顔からは刃物を首筋に突きつけていたとはとても思えない。
「おもしろい人たちね〜。」
それが大樹と百合子の第一印象だった。
「……まあ、楽しい話は後にしましょう。それで忠夫君の件はどうなったんですか?」
そう、これこそが今回六道家に赴いた本当の理由。
横島の高すぎる能力は必ずGS協会、上層部に狙われる。
その前にGSで高い権限を持つ六道家。
平安京より続く六道家は非常に高い発言力があるのだ。
「忠夫君を派閥に迎え入れる件かしら〜?」
「ええ、そうです。」
「いいわよ〜、彼なら問題ないわ〜。」
「………………は? そんなに間単にいいんですか?」
「冥華さん、我々からしてもそこまで簡単にいい返事が返ってくると逆に裏があると考えてしまう。」
「そうね、こちらとしては嬉しいけれど、そちらの要望は何なのかしら?」
大樹も百合子もそう簡単にことが運ぶとは思っていない。
相手は財閥、権力ともに高い。
なればこそ代償を求められることは当然だ。
「別に何もないわよ〜、こちらとしても忠夫君が派閥に入ってくれるだけで効果があるもの〜」
「………………それだけではないでしょう?」
「事前に忠夫君のことは調べさせてもらったわ〜」
「何かでましたか?」
「そうね〜、あの霊団の事件以前は本当にただの子供だったとしか思えないわ〜。だから〜ちょっとテストをさせてもらったの〜」
テストという言葉で三人が首を傾げている。
しばらく考えた後、唐巣が何かに気づいたようだ。
「なるほど、それで冥子君を……」
「その通りよ〜」
「「??」」
冥子のことを何も知らない大樹と百合子にはわけがわからない。
唐巣だけがその本当の意味を理解していた。
「唐巣さん、どういうことですか?」
「答えはあれを見ていただければ分かると思います。」
唐巣が指差す方向は中庭。
そこには忠夫と冥子が楽しそうに走り回っていた。
ちなみに冥子はインダラに乗っている。
大樹と百合子からすれば、何の変哲もない当たり前の光景だ。
「あれがどうかされたんですか?」
「──実は…………」
大樹と百合子は冥華の話を黙って聞いていた。
それは我が娘、冥子の話。
六道家は幼い頃に、代々受け継がれる式神を継承される。
何故幼少期に行うのか?
答えは簡単だ。
まだ自我がしっかりとしていない成長期以前のほうが式神とのシンクロ率があがるのだ。
加えて人間世界の常識に囚われてしまうと人とは違う式神達を完全に受け入れることが難しくなる。
六道家が代々伝えられている式神は十二神将。
数ある式神の中でも強力な部類に属し、多種多様な属性を宿している。
それを自在に操るにはシンクロ率は必須になってくるのだ。
「でも〜、そこには問題があるのよ〜。」
幼い頃より式神と暮らすことが当たり前の生活。
彼女にとって式神は最も親しい友達であり、家族なのだ。
だが、一般人にはそうはいかない。
それゆえに冥子に友達ができることなく、その精神は成長しきっていない。
六道家の人間が幼い傾向があるのはここに原因があるのだろう。
「……なるほど、それで忠夫を試したというわけですか。」
「そうよ〜、忠夫君は冥子の力を知っても恐れずに接してくれているわ〜」
「ええ、私達の自慢の息子よ。」
大樹と百合子が自信を持って言える。
冥子と遊ぶ息子の姿がとても誇らしかった。
「だからこそ、我々大人が守ってやらねばならない。」
唐巣の言葉に他の者が頷く。
大樹と百合子は冥華が信用できると感じた。
娘、息子は違えど、守るべき心は同じ。
共感する所があったのだろう。
今更、確認する必要もない。
「そのことなんだけど〜、私が調べた限りでは横島君の情報はGS上層部に伝わってると見て、間違いないわ〜」
「そうですか……では、我々はどのような対策を?」
「しばらくは大丈夫でしょう。六道家の派閥に入ったと噂を流せば、迂闊に手がだせませんから。しかし、それでも裏から手を回し狙うものは確実にいます。我々はそこから彼を守らねばならない。」
四人はこれからについて相談を始める。
それから30分経った頃だろうか?
話がまとまり、どのような方向で行くべきか定まり始めたころ……
屋敷が騒がしくなってくる。
「……?何かあったのかしら?」
この部屋へ近づく足音が次第に大きくなってくる。
ノックの音と共に女性の声が聞こえる。
「冥華様、緊急の伝えです。」
「何かしら〜?」
「あの……この場では…………」
使用人と思われる女性が大樹と百合子に目を向ける。
どうやら二人には聞かれたくない重要なことのようだ。
「かまわないわ〜、いってごらんなさい。」
「かしこまりました。では──」
女性は一息を置くと信じられないことを口にする。
「美神美知恵様が除霊に失敗して……死亡されたとのことです。」
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久しぶりの投稿です〜^−^
話を練りに練ってたら時間が掛かりました^−^
今回は冥子との出会い編。
原作の冥子を客観的に捕らえてみました。
如何でしたでしょう?
それでは感想楽しみにしております。
第四話での感想拝見させていただきました。
たくさんの感想ありがとうございます。
私の作品を喜んでくれる方が多くて嬉しい限りです。
ではでは〜またの機会に^^