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「少女は両親を語る?(GS)」

いりあす (2006-07-16 01:37/2006-07-26 22:18)
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 ここはとある金曜日の某小学校の3年2組の教室です。
 普段は騒ぎたい盛りの子供達は、今日はいつになく緊張していました。

 どうして緊張しているのかって? そのわけは、教室の後ろや廊下にズラリと並んだお父さんやお母さん達。そう、今日は授業参観の日だったのです。
 それに、授業は国語で作文の発表をすることになっています。テーマは“家族について”です。子供達は、お友達やそのパパやママの前で自分の家族の話をしなければいけないのです。

「それではみんな、作文は書いてきてくれましたか〜?」
「「「は〜〜〜〜い!!」」」
 小鳩先生の質問に、子供達はそれでも元気に答えました。
「はい、よくできました〜。それじゃあ、誰かに発表してもらいましょうか」
 小鳩先生がみんなの顔を見渡し始めました。みんな緊張してツバを飲み込んだりしています。
「じゃあ横島さん、読んであげてね」
「は〜い!」
 横島と呼ばれた一人の女の子が元気よく席を立って、手に持った原稿用紙を読み上げはじめました。なお、教室の後ろでは女の子のパパとママらしい人が、やたら熱心に拍手しています。

「“お父さんとお母さん” 3年2組 横島 光(よこしま ひかる)」


   『少女は両親を語る?』 Written by いりあす


 私のお友だちのパパやママは、お父さんとお母さんの事を『すごくなかが悪いんだね』って言っています。だけど、私はそうじゃないと思います。
 お父さんとお母さんは、たしかにすぐケンカをします。お父さんはお母さんがたいどが悪いお客さんをすぐどなったりするって言って怒るし、お母さんはお父さんが女の人のお客さんにデレデレすると言って怒ります。それで、すぐに“うり言葉にかい言葉”で大ゲンカになって、お母さんがお父さんをフライパンでなぐったりお父さんがお母さんをハリセンでひっぱたいたりしています。ちなみに、ゆうべはお父さんの仕事がおそくなったのに、その事を前もってでんわしてくれなかったと言われてお母さんにビンタされていました。

(こら〜ひかる〜、そんな昨日のことまでバラしちゃダメだ〜)

 こんなだから、お友達のパパやママも“そのうちリコンするんじゃないか”って心配してるみたいです。

(だぁ〜! 誰のママよ、そんな事言ったのは!)

 でも、そんなことはないと思います。だってお父さんもお母さんも、ケンカばっかりしているけどふだんはいつも笑いながらおしゃべりばっかりしています。おキヌおばさんは『本当になかの悪いお父さんとお母さんだったら、口ゲンカもしたくないって思うのよ』って言ってくれます。


 私の家はお父さんとお母さんと、私と弟の蛍斗(けいと)と妹のあかりの5人かぞくです。お父さんは28才でお母さんは一つ年上の29才で、蛍斗は6才であかりは3才です。でも、近所に住んでるおキヌおばさんやシロお姉ちゃんやタマモお姉ちゃんはいつもお父さんやお母さんに会いに来たり、ご飯を食べに来たりあそびに来たりするので、時々8人かぞくなんじゃないかって思います。


 私のお父さんは、ゴーストスイーパーをしています。ゴーストスイーパーは、てんごくへ行けなくてつらい思いをしているかわいそうなゆうれいを助けてあげたり、じごくに行くのがイヤで悪さをしているオバケをやっつけたり、みんなとお友達になれなくて困っているようかいさんのめんどうを見たりするのが仕事です。
 お父さんは家の向かいのビルにあるじむしょで仕事をしています。むかしは令子おばさんのところではたらいていましたが、お母さんとけっこんした時にお母さんにお尻を引っぱたかれて独立したそうです。同じじむしょではたらいている愛子おばさんによると、お父さんは『仕事もしょうばいも上手だけど世わたりはメチャメチャ下手』だそうです。

(あ、愛子のヤツ〜、ウチの娘に何吹き込んでるんや〜)

 たしかに、学校がえりにじむしょによると、しょるいの山とにらめっこして頭かかえてるもんね。ちなみに、愛子おばさんはお父さんの昔のクラスメートで、お父さんがゴーストスイーパーになる前に友だちになったようかいだそうです。
 お父さんは女の人とおしゃべりするのが大好きで、お客さんの女の人に“色目”をつかってはお母さんにはりたおされています。あれじゃたしかに、リコンまぎわだって言われてもしょうがないよね。でも、仕事からかえってきたお父さんは、何だかんだ言ってお母さんとバカ話をしていっしょに笑っています。

(娘にああ言われたら、あんたおしまいでない?)
(しかもフォローがフォローになってないぞ、ひかる〜〜……)


 お母さんは、むかしはお母さんのおじいちゃんの神社に住んでいたそうです。お母さんのおじいちゃんの神社はオロチ村というところにあります。おんせんがあって空気も水もおいしいけど、けっこういなかです。だから、お母さんはむかしはいなかの“なまり”が丸出しだったそうです。今でも怒ったりあわてたりすると、人前でもむかしのしゃべり方になっちゃいます。“なになにだべ”とか“わたす”とか。

(あああ〜! ひかる〜、そだら事言うたらダメだべ〜!)
(お〜い、お前さっそく訛ってるぞ〜)

 お母さんはゴーストスイーパーの仕事をたまに手伝ったりしています。お母さんはれいかんがすごくつよいので、ゆうれいやオバケのことにすぐ気がつくんだそうです。お父さんがオバケをたいじする時に使うお札は、お母さんが手作りで作っています。
 お母さんはいつも元気です。怒るとすぐに手や口が出るし、おかしいことがあると笑いころげます。お母さんの作るごはんはおキヌおばさんのごはんにくらべるとすごく大ざっぱだけど、これはこれでとってもおいしいのです。

(お、大ざっぱ……)
(いや、お前鍋物とかごった煮とかカレーとか作るの好きだし)


 おキヌおばさんはお母さんのぎりの妹で、やっぱりゴーストスイーパーです。令子おばさんのじむしょではたらいているけど、よく私の家に来てくれます。とってもきれいな人で、私はむかし“おキヌママ”って呼んでいたけど、おキヌおばさんは『私はお母さんの妹だから、ちゃんと叔母さんって呼んでね』って言ってます。
 お母さんは学生けっこんで、大学生の時に私が生まれたそうで、お母さんが大学にかよっている間はおキヌおばさんが私のめんどうを見てくれてました。蛍斗が生まれた時もあかりが生まれた時も、おキヌおばさんはそのつど子守りを手伝ってくれていました。だから蛍斗もあかりもおキヌおばさんをママって呼んでたけど、そのたびに『叔母さんって呼ばなくっちゃダメよ』ってしかられてました。

(もう、おキヌちゃんったら遠慮しなくてもいいのに……)
(だって、おキヌちゃんをママって呼ばせてたら、そのうちお前がオバサン呼ばわりされかねないし)
(やかましい!)
ドゲシ!


 シロお姉ちゃんとタマモお姉ちゃんも、これまた令子おばさんのじむしょのゴーストスイーパーです。お姉ちゃんたちはじつはようかいで、シロお姉ちゃんは犬さんでタマモお姉ちゃんはキツネさんです。二人ともよくお父さんの手伝いのついでにあそびに来て、私や蛍斗やあかりをハイキングやゆうえんちにつれて行ってくれます。ちなみにシロお姉ちゃんの口ぐせは『せっしゃはオオカミでござる〜』です。でも、オオカミって何だろう?

(……あんたがシロちゃんをいつも犬って呼んでるから、ひかるまで間違って覚えたんでねえの?)
(……いや、子供に狼の説明をするの面倒だし……)

 お姉ちゃんたちはとってもごはんの好ききらいが多いです。シロお姉ちゃんはごはんにお肉が入ってないとすぐお父さんに『せんせ〜せっしゃは肉が食べたいでござる〜』と文句を言ってはお母さんに『文句さあるなら食いに来るでねえ!』と引っぱたかれています。タマモお姉ちゃんもお父さんやシロお姉ちゃんのお皿からあぶらあげばっかりチョロまかして食べてます。お父さんやシロお姉ちゃんは気付かないけど、私やお母さんがすぐに見やぶってしまうので、そのたびにお母さんにしかられています。でもそのあとすぐ、
『そもそもあんたがこの二人さ甘やかしてたから、悪い癖が抜けないんだべ! 蛍斗やあかりがマネをしたらどうするだか!?』
『何でも俺のせいにしないでくれっ! 大体こいつらを世話してたのは美神さんとおキヌちゃんだろうが!』
『言い訳するでねえ! 美神さんは放任主義だしおキヌちゃんは過保護だから、あんたが注意しなきゃならなかったんだ! 今からでも遅くねえから、ちゃんとしつけさしろ!』
 ……ってぐあいで、すぐにお父さんまでしかられる事になります。でも、もし蛍斗やあかりが好ききらいがふえたり人のごはんをヒョイパクしだしたら、それはお姉ちゃんたちのせいにはちがいないよね。

(いんや、そもそもはコイツのせいだ)
(しつこいな、お前も!)


 おキヌおばさんたちがはたらいているじむしょは美神じょれいじむしょといって、しょちょうの令子おばさんはすごくうでのいいゴーストスイーパーだそうです。どんなすごいオバケもあっというまにたいじしちゃうそうだけど、その分お金をたくさん取るそうです。お父さんが令子おばさんのじむしょではたらいていた時は、すごくおきゅうりょうが安かったそうです。

(そう言えばお前、完全にいつものしゃべり方に戻ってるな)
(もういいだ……正直言って、標準語の使い通しは疲れるんだべ)

 ちなみに、令子おばさんは私がおばさんと呼ぶと『私のことは令子おねえちゃんって呼びなさい』って引きつった笑いがおで言います。そしてそのあと、かならずお父さんをものかげに引っぱりこんでじんつうこんでなぐりたおします。でもお母さんやおキヌおばさんより年上なのに、お姉さんと呼ぶのはやっぱりむりがあると思うよ。30すぎてみえっぱりなんだから、もう。あ、そうそう。ここだけの話、令子おばさんはオカルトGメンの西条おじさんと3年まえにけっこんしたけど、半年でりこんしました。

(あ゛あ゛あ゛〜〜! いかん、このくだりは絶対美神さんの耳に入る〜っ!! 半殺しのフルコースに遭わされる〜〜〜っ!!!)
(こうなったら諦めてシバかれて来い……わたすとおキヌちゃんでヒーリングしてやっから)


 ………さて、本当ならこのあたりでかぞくの事をまとめるところなのですが、お父さんとお母さんのなかが悪いとごかいされっぱなしなのはシャクなので、お父さんとお母さんがいかになかがいいかをせつ明したいと思います。つごうのいい事に、この前おキヌおばさんがお父さんとお母さんの“なれそめ”をおしえてくれたので、その話をしたいと思います。

((え゛……?))

 すいませんが、お父さんとお母さんのそばにいる人は、二人をとりおさえていて下さい。やかましいようなら、口もふさいじゃって下さい。


 お父さんとお母さんは、おキヌおばさんがまだゆうれいだったころに知り合ったそうです。お父さんと令子おばさんが神社のうら山にいるのをお母さんが見つけた時、こおりついたおキヌおばさんがそこにいたものだから、お母さんはお父さんのことを“とおりまの人ごろし”とかんちがいして、思いっきりなぐりとばしたそうです。お母さんはその時のことを『さいあくのだい一いんしょうだった』と言ってました。

(幽霊……?)(凍ってたって、どういう事……?)(どういう人なのかしら、おキヌさんって?)ザワザワ…
(あ〜、そっか……普通は幽霊が生き返ったなんてあり得ないことやからな〜……)
(ひかるにとっちゃ、幽霊なんてまんず珍しいもんでもねえもんな)

 そのころオロチ村にはわるいようかいが住んでいて、オバケに人をおそわせたり地しんで家をこわしたりしていたそうです。自分のいのちと引きかえにようかいをやっつけようとしたおキヌおばさんを助けるために、お父さんとお母さんと令子おばさんは力を合わせてようかいとたたかったそうです。お母さんによると、スケベでなさけなくてたよりなかったけど、おキヌおばさんやお母さんを助けようとひっしでがんばるお父さんは、ほんのちょっとだけかっこ良かったそうです。

(ほんのちょっとだけ、ねえ……)
(物凄く格好悪かったって教えるよりはマシだべ?)

 お父さんとお母さんはこのころはあまりなかが良くなくて、むしろおキヌおばさんがお父さんのことを大好きだったそうです。ちなみに、その時はお母さんはクラスメートの山田って人とつきあってたそうです。

 おキヌおばさんがゆうれいをやめてからしばらくして、お父さんは大しつれんをしたそうです。何でもしょうらいをちかい合ったこい人をお父さんが死なせてしまって、お父さんはものすごくきずついたそうです。おキヌおばさんや令子おばさんやシロお姉ちゃんはお父さんが大好きだったらしいけど、お父さんが時々その人の事を思い出しちゃったりするので何も言えなかったそうです。
 そんな時に、大学をじゅけんしにお母さんがひょっこりやって来たそうです。お父さんがおちこんでるのに困っていたおキヌおばさんは、お母さんに何の気なしに相だんしたそうです。そしたらお母さんは、『あのバカタレ、おキヌちゃんに心配させるなんて何事だ! いっちょ私がハッパさかけたる!』と怒ってお父さんの家におしかけたそうです。ちなみにお母さんは、ちょうどクラスメートの山田さんにフラレて気が立っていたそうです。

(うわっ、そんな裏話があったんかい)
(いいでねえか、そんな事は!)

 ここからのやりとりは、お母さんをお父さんの家にあんないしたおキヌおばさんがわざわざ声色まで使ってさいげんしてくれたので、それをそのまま書きます。

(お、おキヌちゃ〜〜ん! ひかるに何を吹き込んでるだ〜〜!?)
(ひ、ひかる、ダメだ〜〜! そんな話をこんな所でしちゃダメ〜〜!)


『うわっ、きったねえ部屋だな〜! 一人暮らしだからって、こんなだらしない生活でええんか?』
『る、るせ〜な! ンなの俺の勝手やろ!』
『いんや、こだら小汚い部屋をおキヌちゃんに掃除させてるってのが気にいらねえだ! うわ、何だべかこのエロ本とエロビデオの山は!』
『こ、コラ〜! 手にとってパラパラとめくるんじゃね〜!』

(ああっ、みんなそんなジト目で見ないで! 11年も前の事やないか〜!)
(ひかる、きっと父っちゃのスケベ虫を懲らしめるつもりなんだべ?)

『で? 失恋したショックで、いじけて二次元に逆戻りしたってワケだべか?』
『待てい! いつ俺がいじけたってんだ!』
『い〜や、前に会った時のあんたはバカでスケベだったけど、女と見れば何も考えずに飛びかかったり風呂を覗くような、行動力のあるスケベバカだっただ! なのに何だべか? 表面だけ今まで通りを装っても、目が曇っとるでねえか!』
『何だよ、その目が曇ってるって!』
『乙女の直感を甘く見るでねえ』
『お前が乙女ってガラか!?』
『悪かっただな〜、わたすが乙女とは程遠い山出しの田舎モンのドブスで!』
『そこまでは言ってねえ! お前は確かに乙女ってガラやないし、山出しの田舎モンかも知れんが、ドブスはねーだろ! 大体お前がブスなら、そこら辺のたいがいの女はブスだぞ!?』
『そ、そう? ……って、心にもないお世辞はいいんだお世辞は!』
『心にもないお世辞を言えるほど俺は器用にできてねーよ!』
『あ、あの〜……お姉ちゃん、論点がずれてきてる……』

『とにかく、死んだ女の事を引きずったまま表面だけヘラヘラ取り繕ってたってダメだべ! あんたが陰気になってると、おキヌちゃん達にまでその陰気が伝染るでねえか!』
『じゃあどうしろって言うんだ? アイツのことをキレイさっぱり忘れちまえとでも言うのかよ!』
『ああ、忘れちまえ』
『何!?』
『ちょっと、お姉ちゃん!?』
『変にイジイジ後ろ髪引かれたままでいるのが、その子の望みだと思うのか!? もう帰って来ない女の事はスッパリ頭から追い払って、別な女でもさっさと見つけた方がよっぽどマシだべ!』
『何も知らないクセに、ンな事言うんじゃねーぞ!』
『ああ、知らないから言えるんだべ! 美神さんもおキヌちゃんもなまじ事情を知ってるから、逆にあんたの事を甘やかしてるんだ!』
『お、お姉ちゃん、それは言い過ぎなんじゃ……』

『大体だな、こんな狭い部屋の中で男一人に女二人なのに、何もしないという時点で本来のあんたでねえだろ? 以前のあんたなら、“ぼかーもー、ぼかーもー!”とか叫んで飛びかかりそうなもんだべ』
『あ、あのな……』
『きっとアレだべ、失恋のショックで現実の女相手に立たなくなっちまったんだな』
『あ、アホかい! 人を勝手に男として終わっちまったみたいに言うなっ! ンな事言ってると、ホントに押し倒してヤッちまうぞ!』
『お〜、やれやれ、やってみるといいべ。抱けるもんなら抱いてみろ。どうせイザ本番となったら、昔の女が頭をよぎってヘナヘナになるのがオチだべ』
『言ったな、こいつ! ああ、抱いてやろうやないか! 後で後悔しても、俺は責任持たんぞ!』
『ちょ、ちょっとお! お姉ちゃんも横島さんも、やめて下さい!』
『悪いけどおキヌちゃん、俺はここまでバカにされて引くわけにはいかないんや〜〜!』
『そうだべ! これは私とコイツの、プライドを賭けた戦いなんだ! 悪いけどおキヌちゃん、しばらく席を外してけろ!』
『そ、そんな〜〜〜〜!?』

((〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!))←口をふさがれ、羽交い締めにされてジタバタする両親

 ここでおキヌおばさんはお父さんとお母さんに家からつまみ出されてしまったので、この後どうなったのかよく知らないそうです。
 で、しばらくたってからお母さんをむかえに来た時、気まずそうなようすで家から出てくるお父さんとお母さんを見たそうです。その時の二人のやりとりは、こんなかんじだったそうです。

『………すまん』
『別に、謝る筋合いのことでもねえだ。私が挑発したのが悪かったんだ』
『………そっか』
『私、いっつもこうなんだべ。せっかくボーイフレンドとか作っても、そうなると今度は地を丸出しにして、遠慮なしに言いたい事をズケズケ言っちまって、最後はそういう所さイヤがられてフラレちまうんだ。やっぱりアンタも、私のことイヤな女だって思っただろ?』
『……そうでもねーよ』
『へ?』
『アレだけズバッと言われちまうと、逆になんか気が楽になったんだよな。何もかもスッパリ忘れろってのはさすがに無理だけど、いい思い出って事で整理はつきそうな気がする』
『……そっか』
『あ、それとな』
 と言って、お母さんの方に向き直り。

『自分を飾るのが下手クソで、及び腰になれなくて、すぐに自分をさらけ出して、本当に言いたい事を言わずにいられないようなところ……俺は、すごく可愛いと思うぞ』

 おキヌおばさんによると、これがお父さんの“ころしもんく”になったそうです。


((……………………))←真っ赤になって絶句している両親


 こうして、お父さんとお母さんは何となくなかよくなって、東京で一人ぐらしを始めたお母さんは、ちょくちょくお父さんに会いに行くようになったそうです。なお、おキヌおばさんによるとお母さんはお父さんにそうじやせんたくを“させ”に行くのであって、お母さんがお父さんの家のそうじやせんたくを“した”事はただの一どもなかったそうです。

(確かに、土曜の朝から『何だべこの洗濯物の山は! 休みの日ぐらい家事をしろ!』とか怒鳴り込んできたもんなあ、お前)
(やかましい! 自分の部屋ぐらい自分で何とかするのが当たり前だべ!)

 でもそうじやせんたくがおわると、二人でかいものに行ったりえいがを見たり、ごはんをたべに行ったりしたそうです。さいしょはおキヌおばさんもついて行ったらしいけど、しばらくしてからお父さんとお母さんを二人っきりにしてあげるようになったそうです。

『お姉ちゃんも横島さんも(ここで言う横島さんとはお父さんの事です)、お互いの前では何の遠慮も無しに、ありのままの自分で付き合っていられたのね。何だか、妬けちゃったなあ』
 と、おキヌおばさんはにが笑いしていました。その時見せてもらったしゃしんの中では、赤いバンダナをした若いころのお父さんに、白いハチマキをした若いころのお母さんが笑いながらヘッドロックをかけていました。ああ、10年たってもまるでしんぽがないな、と私は思いました。


 そうやって一年ほどたってから、お父さんとお母さんはけっこんしました。というのも、私が生まれる事が決まっちゃってたからだそうです。

((もが〜〜〜〜〜〜〜!!))←取り押さえられてジタバタする両親

 お父さんはけっこんの話が出てからというもの、令子おばさんに半ごろしにされたり、シロお姉ちゃんにれいはとうでめったぎりにされたり、愛子おばさんに机でなぐられたり、小ばと先生におうふくビンタされたり、むかしのクラスメートにふくろにされたり、ついでにタマモお姉ちゃんにキツネ火でもやされたりして、さんざんな目にあったそうです。

(ひ、ひかるちゃ〜〜ん、先生の名前まで出しちゃだめよ〜〜!)←赤面してうろたえる小鳩先生

 おキヌおばさんのところには、お父さんとお母さんは二人でそろってどげざしに行ったそうです。でもおキヌおばさんだけは怒らないで、
『二人で幸せになってね』
 って言ってくれたそうです。


 おキヌおばさんはお父さんが大好きだったのに、お母さんによこどりされて怒らなかったのかな? 私がそう聞いてみたら、

『確かに横島さんの事は大好きだったし、横島さんのお嫁さんになれたらなって思ってたけど。
 でも私ね、お姉ちゃんの事も横島さんと同じぐらい大好きだったの。
 それで、私の大好きな人同士がお互いに好き合って、それで二人が幸せになれるなら、私は二人の事を応援してあげたいなって思ったのよ。
 だから光ちゃん達のお父さんとお母さんが仲良しでいてくれる限り、私は二人の味方』

 と言ってくれました。でももしお父さんとお母さんが本当にりこんしちゃったら、おキヌおばさんはどっちのみかたになるんだろう?

((………………))←顔を見合わせて考え込む両親
(………………)←少し考え込んでしまう小鳩先生
(((………………)))←声をかけづらい保護者の皆さん


 私が生まれた時、何て名前をつけるかでお父さんとお母さんはやっぱりケンカしたそうです。何べん話し合ってもけっちゃくがつかないので、タマモお姉ちゃんのアイデアで“ジャンケンでかった方が名前を決める”ことにしたそうです。私の名前は、お母さんがつけました。蛍斗の時は、お父さんが名付けたそうです。あかりが生まれた時は、私とおキヌおばさんとシロお姉ちゃんとタマモお姉ちゃんもいっしょに、6人でジャンケン大会をしました。けっしょうでシロお姉ちゃんにかったおキヌおばさんが、“あかり”って名前をかんがえたそうです。
 ちなみに、シロお姉ちゃんは“ともえごぜん”という名前にするつもりだったそうです。お父さんとお母さんは『おキヌちゃんが勝ってくれて本当によかった……』としみじみ言ってました。

(いや、本当にあの時は冷や汗が出たよなあ)

 それから、私の名前が“ひかる”なのは、私が生まれてすぐの時、お母さんは私がボンヤリ光っているのをいちどだけ見たからだそうです。これは、シロお姉ちゃんがこないだおしえてくれました。でも、私は光ったりしないんだけどな。

(おい、今の話は初耳だぞ)
(シロちゃんったら、この話は私達だけの秘密だって言ってたのに……)


 そんなこんなで、お父さんとお母さんはケンカするほどなかがいいのです。お父さんはお母さんのつくったごはんにあ〜だこ〜だ言っておいて、それでものこさずぜんぶ食べるし、お母さんはお父さんが仕事でケガをしたりすると、大あわてでヒーリングしてあげています。口ゲンカをしたあとも、少したてば何もなかったみたいに笑いながらチュウしたりしています。
 ときどき、まよなかになってもまだケンカをしています。私がちょっと目をさますと、お父さんとお母さんのへやから言いあらそうような声がきこえてきて、家がガタガタゆれたりしています。でも、ケンカしているのにときどき“すごい”とか“もっと”とか言ってるのは一体なんなんだろう?

(わ゛〜〜〜! わ゛〜〜〜っ!! わ゛〜〜〜〜〜っっ!!!)
(き、聞かれていたのかあああっ!? い、いかん! すぐさまリフォーム業者に防音工事を頼まねば……はっ!?)

((((………………))))←生暖かい目線の保護者の皆さん
(………………)←ちょっとだけジト目の小鳩先生


 それから、一つニュースがあります。このまえお父さんとお母さんは、おいしゃさんに出かけていました。3年まえにあかりが生まれた時と同じおいしゃさんです。もし私のよそうが正しければ、ちかいうちに私に弟か妹がふえる事になると思います。

 パチパチパチパチ…… ←拍手する大人一同
(ああっ、バレてる! そ、そんな暖かい目で大きくなったお腹をじっと見つめないで〜〜!)
(コラコラ、まだ3ヶ月なんだからそんなに目立ってねえだぞ! 大体、わたすが今履いてるのはウエスト59のスカートだべ!)


 私は、さわがしいけど明るくてあったかいお父さんとお母さんが大好きです。そんなお父さんとお母さんを好きでいてくれるおキヌおばさんやお姉ちゃんたちも好きです。
 お父さんとお母さんには、これからもずっとなかよくしていてほしいです。でも、この前のほごしゃかいのときみたいに、私のきょういくほうしんをめぐって先生の前でケンカするのはかんべんしてほしいな。

 おわり。


 パチパチパチパチパチ………
「いいぞいいぞ〜」「ひゅ〜ひゅ〜おあついね〜」
 光ちゃんがお辞儀をして椅子に座ると、子供達も保護者も小鳩先生も、隣の教室にいた人たちまでやんやの喝采を始めました。やんちゃそうな子供に至っては、口笛まで吹いてくれます。
「うううっ、思いっきり拍手喝采されちまってるだ……」
「やっぱり俺たちの子供だから、言いたい事は遠慮なしに言ってしまうんやなあ……」
 などと言いながら、二人は手を取り合って顔を真っ赤にしていました。

 こうして、光ちゃんの両親は、PTAきっての面白夫婦として一躍有名になったそうです。


 めでたし、めでたし……かな?


 あとがき

 三たび投稿させていただきました、いりあすです。

 今回の作品は、いりあすにとって実験と言いますか、ある種の挑戦でした。「横島×おキヌ」「横島×令子」「横島×愛子」といった比較的普通のカップリングではなくて、めったに書かれないカップリングにチャレンジしようと一念発起し、本編を書かせていただきました。
 しかし、チャレンジと言うには我ながら無謀なキャラをヒロインに据えてしまったと思います。もうバト○ロビスばりの無謀っぷりです。
 彼女は横島とおキヌちゃんの障害キャラという印象がありますが、死津喪比女に致命傷を負わせたのはこのコンビだし、横島のスケベに免疫さえつけばいいコンビになるんじゃないかな〜と思った次第です。もっとも、“おキヌちゃんなら案外この二人を応援してくれるかも”と思ったのはかなり希望的観測入ってますが。
(注:彼女の実名をここで書かないのは意図的です。というか本編で一度も名前を書かなかったので、意地になってます)

 ちなみに、原作中で山田君とやらを彼女は“山田君”と呼び、おキヌちゃんは“山田先輩”と呼んでましたから、おキヌちゃんより年上なのは間違いないはずです。横島と同い年か一つ上かは悩みましたが、やはり原作の“野球部のエースで学校一ハンサムなD組の山村”なんて人名から考えて、おキヌちゃんより2歳上の3年生と解釈させていただきました。

 ちなみに、いりあすは横×キヌ派です。次の作品のプロットを考えながら失礼させていただきます。

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