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▽レス始

「雪之丞と少年1(GS)」

紫水晶 (2006-07-11 02:47)
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 雪之丞は困惑していた。平日の、しかも自縛霊の居るオフィスビルだというのに、雪之丞の目の前には十歳前後の少年が立っているのだから。
 そもそも雪之丞は、除霊をしにオフィスビルに来た。自縛霊の被害を避けるために、そのビルを利用していた人間は全員退去した筈である。これが大人なら持ち出し忘れた書類を取りに来たと思えるのだが、そこに居たのは子供である。困惑しないほうがおかしい。一体、何がどうなっているのだろう。
 唐突に目の前に現れた少年に呆けていると、後ろから悪霊がやって来た。考えるのは後回しにする事にして、雪之丞は少年を抱え上げ、目の前の階段を駆け上がった。

「お前、名前は?」
 オフィスビルの最上階。防火扉を閉め、そこに破魔札を貼り、一息吐いた雪之丞は少年に尋ねた。
「・・・雪。」
「年は?」
「10歳。」
「学校は如何した?今日は学校は休みか?」
雪之丞の問いに、小さく雪は頷いた。
「何で此処に来たんだ?」
「お母さんが、此処に行って来てって。・・・お兄ちゃんは?」
「俺は、伊達雪之丞。GSだ。さっきの悪霊を倒しに来たんだ。」
「ゴースト、スイーパー・・・?」
「おう。」
「じゃあ、お兄ちゃんは、僕を退治するの?」
「は?」
思ってもみなかったことを言われて、間の抜けた声を上げる雪之丞。
「GSって、お化けをやっつけるんでしょう?僕は、化け物だから・・。」
そう言う雪を、雪之丞は霊視してみるが、人間以外の何者にも見えない。若干、霊力が高いようだが、化け物というほど霊力が高いようには見えなかった。
「皆、僕のこと化け物だって言うよ。気味が悪いって。」
その言葉に、雪之丞は、雪が自分を化け物だと言った理由も、此処にいた理由も分かった。

 一般人にとって、霊や、妖怪、霊能などというのは訳の分からない、厄介で恐ろしい物である。霊能者と違って、そういうものを身近に感じて生きていく事がないからだ。だから、時折生まれる高い霊力を持つ子供を持て余し、疎む事が間々ある。勿論、霊力が高かろうと、大事な子供、何があっても育てていくと腹を括り、育児する物もいるが、大抵の場合は捨てたり、世間体を気にして一応手元に置いているが、虐待を繰り返している。近所の人間にしても、気味悪がり、差別をする。
 雪之丞も、そんな子供だった。彼の母は、雪之丞を疎んだりはしなかったが、雪之丞の父や、親族には疎まれ、雪之丞が三歳の時に母が雪之丞を連れて家を出るまでずっと、虐待され、母と家を出た後も近所の人間に疎まれ、苛めに遭い、まともに学校に通うことも出来なかった。幼い雪之丞にとって、母だけが味方だった。
 けれど、雪には味方が誰もいないのだろう。こんな所に来させられたところから察するに。事実、子供を捨てるときに、悪霊なんかが居るところに捨てるという親は多いのだ。自分の手を汚さず、殺せるから。悪霊を祓った後にその場所を調べると子供の死体が出てきた、なんて話は多い。雪之丞は、何度もそういう場所を見てきた。そのたびに怒った、捨てる親に、こんな事になる前に悪霊を祓えなかった自分に。生まれて来てはいけない命など、生きていてはいけない命など、一つもないというのに。

「雪、お前は化け物なんかじゃねぇ。」
 不思議そうに首を傾げる雪に、雪之丞は言葉を続ける。
「お前は、ちょっと人より霊力が多いだけだ。力が強いとか、足が速いとかいうのと変わんねぇ。GSの素質があるだけだ。お前は、化け物なんかじゃねぇ。お前が化け物なら、俺も、他のGSも、全部化け物だぞ?」
「お兄ちゃんは、化け物じゃないよ。」
「なら、お前も化け物じゃねぇ。お前は、人間だ、雪。」
人間なんだ、と。雪之丞は何度も繰り返し言いながら、雪を抱きしめる。かつて、傷付いた自分に、母がしてくれたように、力強く、何度も何度も。震える体を、抱きしめて。
「お兄ちゃん、僕、化け物じゃないの?生きてていいの?」
「当たり前だろ、雪は人間だし、死ななきゃならねぇ命も、生まれちゃいけねぇ命も無いんだからな。」
「お兄ちゃん・・・。」
ぽろぽろと。涙を零し、雪之丞に縋り付く雪の背を、そっと撫でた。

 暫くして、雪が泣き止んだのを確認すると、雪之丞はこれからの事を考え始めた。霊はそれほど強いわけではない、雪之丞一人なら。だが、雪を庇いながら戦うのは魔装術を使っても辛い。誰かを庇いながら戦うという事があまり無いからだ。防火扉に貼った破魔札も、後五分持つかどうかだろう。雪之丞は考える。
 例えば、此処にいるのが横島なら。文珠を使って、除霊なり、雪を逃がすなり出来るだろう。ピートなら、霧になって逃げる事が出来るし、タイガーなら、その強力な幻覚で霊を惑わした隙に、逃がすことが出来るだろう。だが、自分は戦う事しか出来ない。雪を逃がす術がない。
「だからって見捨てられるかよ。」
考えていても仕方が無い。雪之丞は行動する事にした。
 雪の手を引いて、部屋を一部屋づつ見ていくと、非常脱出用の救助袋を見つけた。雪之丞は、これを使って雪を逃がすことにした。雪が逃げるまでの間の時間を稼げばいい。そう考えて雪之丞は、救助袋を設置し始めた。キャビネットの蓋と前板を外し、縄の付いた砂袋と、脱出袋を落とす。入り口の枠を引き上げ、準備は整った。
「いいか、雪。俺はこれから、此処にいる霊を倒す。その間にお前はこれを使って外に出るんだ。此処にいる霊は、このビルから出れねぇから、外に出れば安全だ。俺もすぐに行くから、中に入ってきたりするんじゃねぇぞ。」
その言葉に、雪が頷くのを見た雪之丞は、部屋を出て行った。

「やっぱ五分持たなかったな。」
 防火扉を突破してきた自縛霊を見て、雪之丞は呟いた。
「うぇえぇおぉぉうあぁうぁいぁおぉうぉえぅいぅあぅいぃえぃ!!!」
人格も何もなくなった自縛霊が奇声を上げて雪之丞に向かってくる。冷めた目で雪之丞は向かってくる霊に、霊波砲を撃った。雪之丞一人なら、魔装術は、使わない。

「お兄ちゃん・・・。」
 オフィスビルの外。雪之丞に言われた通り、救助袋を使って逃げた雪は、不安そうにオフィスビルを見上げていた。
 と、上のほうから、轟音が響いてきた。何があったのだろう。雪之丞は大丈夫だろうか。
「雪!」
「お兄ちゃん!」
泣きそうだった雪の目に、最上階の窓から顔を出す雪之丞の姿が目に入った。

 オフィスビルから出てきた雪之丞に、雪が走りよる。
「お兄ちゃん!!」
「すぐに行くって言っただろ?」
雪之丞は苦笑交じりに雪の頭を軽く叩く。雪之丞は、しかしその一方で、雪のことについて考えていた。このまま雪を親元に帰したところで、まともに育てられるとは思えない。ならば、如何すればいいのだろう。
「そういや、これってオカルトGメンの管轄じゃなかったか、確か?」
「お兄ちゃん?」
呟いた声が聞えたらしく、首を傾げながら雪が問う。
「雪、これから行くとこがあるんだが、一緒に来てくれねえか?」
「うん、いいよ。」
頷いた雪の手を取って、歩き出す。オカルトGメンに向かって。
 もし、管轄じゃなくても、オカルトGメンなら何とかなるだろう。相手は霊能のプロであると同時に法律のプロでもある。餅は餅屋。雪之丞はそんな事を考えていた。

雪之丞は紫水晶が一番好きなキャラなので、彼をメインにした話を書いてみました。まだまだ続きますが、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

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