「皆本さーん。ご飯まだー?」
皆本がキッチンで夕食を作っていると、リビングの方から紫穂の急かすような声が聞こえてきた。
手を止めて皆本がリビングの方へと顔を向けると、ソファーの背から身体を乗り出すようにして紫穂がこちらを見ていた。
「もうちょっと待ってくれ。あと少しでできるから」
料理を始めてからかれこれ三度目の問いかけに、皆本は同じく三度目の返事を返す。
「はやくしてねー」
「はいはい」
言うだけ言って身体をソファーの向こうへと戻す紫穂を見て苦笑を浮かべると、皆本も再びキッチンの方へと顔を戻した。
いつもであれば三人が揃っていて、夕飯ができるまではテレビを見たりしながら騒がしくしているのだが今日は薫と葵の姿はない。
小学校が春休みに入ったいう事で、二人は今日から実家の方へと帰省している。
最初は紫穂も帰省する予定になっていたのだが、彼女は皆本の家に残ることになった。
警察庁の長官である父親が仕事の都合でしばらく家に帰ってこられなくなったため、家族が揃うことができる別の機会に予定が先延ばしとなったのである。
なので皆本が夕飯を作っている間、一人で待っている紫穂が暇をもて余してしまうのはしょうがないのかもしれない。
「そろそろいいか」
鍋の中でぐつぐつと煮える人参やジャガイモを見て、頃合と感じた皆本が市販のカレーのルウをお玉に乗せて鍋の中に投入する。
待ちわびている少女のために手早く塊を溶かしていくと、キッチンにカレー独特のなんともいえないスパイスの香りが広がっていった。
「いいにおい♪」
ルウが溶けていくにしたがい強くなっていく香りに皆本が食欲を刺激されていると、同じく食欲を刺激されたのかリビングにいた紫穂がいつのまにか皆本の側まで来ていた。
「もうできるから、テーブルの上に皿を運んでくれるか?」
「はーい」
「なあ、紫穂?」
「なぁに? どうかした、皆本さん?」
「いや、ちょっと聞きたいんだが・・・」
そう言うと、皆本はテーブルの上に視線を移す。
テーブルの真ん中にはカレーの鍋、皆本の前にはカレーが盛ってある皿と色々な野菜が盛り付けてある小皿が並んでいる。
目の前のごく普通のメニュー。スパイスの香りが食欲をそそるカレーライス、ドレッシングのかかった色とりどりの野菜のサラダと特に気になるようなことはない。そう、メニューには問題ないのだが。
「どうして紫穂が僕の隣に座ってるんだ?」
顔を隣に向けて皆本がそう尋ねる。
視線の先には、きょとんとした表情でこちらの方に顔を向けている紫穂が座っていた。彼女の前にも皆本と同じメニューの夕飯が置かれている。
「どうして、って・・・ 何か問題があるの?」
不思議そうに首をかしげる紫穂。
「問題と言うか、いつもは隣に座ったりしないだろう?」
自分とは違い、気にした様子のない紫穂に皆本が少し困ったように言う。
普段、四人のときであれば紫穂が皆本の隣に座るという事はない。全員でテーブルを囲むようにして座るのが普通だったのだが、何故か今日は別の所から持ってきた椅子を皆本の隣に並べ、その上に座っていた。
「たまにはいいじゃない。どうせ今日は私と皆本さんしかいないんだから」
「いや、二人しかいないんだし、どうせなら広く使ったほうがよくないか?」
「・・・なによ、そんなに隣に座られるのがいやなの?」
皆本の言葉に紫穂が頬をふくらませて少しむっとした表情になる。その表情からは皆本に対する不満がみてとれた。
「いや、嫌ってわけじゃないが・・・」
「じゃあ、いいじゃない?」
少し慌てた様子の皆本に、表情を変えてにっこりと笑いかける紫穂。笑ってはいるが、その笑顔には何処か有無を言わせない雰囲気があった。
「・・・そうだな。まぁ、偶にはいいか」
皆本としても特に嫌がる理由があるわけでもなく、それ以上こだわる必要もないのであっさりと頷いた。
隣で食べたいと言ってくれるほどには懐かれているようなので、保護者の身としても嬉しいと言う気持ちも湧いてくる。
「あら、保護者としてだけ? こんな可愛らしい女の子が隣に座ってあげてるんだから、男としても喜んでほしいものだけど?」
「僕にそんな趣味はない! それに勝手に人の心を読むのは止めろと言ってるだろっ!?」
「そんなことより早くご飯を食べないと冷めちゃうわよ?」
「人の話を聞け!」
いつものこととはいえ、ごく自然に皆本の心を読む紫穂に皆本は声を荒げるが、当の本人である少女はどこ吹く風といった様子で。
一方、自分の言葉を軽く流された皆本は、日頃の経験からこれ以上何を言ってもダメだと言うことを悟り、深い溜め息をつく。
「はぁ・・・ あんまりあちこちで能力を使わないでくれよ?」
「大丈夫よ。こんなに心の読むのは皆本さんくらいだもの、だから安心して?」
何に安心するんだ、とか僕の心を読むのもやめてくれだとか言いたいことは、喉の奥からいくらでも湧きあがってくるが、大人な皆本はぐっと堪える。決して『何を言っても紫穂に言い負かされる』からではない、はず・・・多分。
紫穂の言う通り、目の前の夕飯が冷めてしまうという事もあるが。
「まぁ、いい・・・。 夕飯にしようか」
「は〜い♪」
どこか疲れた様子の皆本と、機嫌のよさそうな紫穂。
「「いただきます」」
二人は揃って手を合わせると、少し遅くなった二人きりでの夕飯を食べ始めた。
「それでね、薫ちゃんたら・・・」
「まったく、学校でもそうなのか・・・」
夕飯を取りながら、何気ない話をする二人。学校での自分達や友人達の事、皆本が知らない話を嬉しそうに話す紫穂に、皆本もその話の一つ一つを楽しそうに聞きながら相槌を打つ。
普段、活発な薫と一緒にいることが多い所為か、聞き役に回ることが多い紫穂。だが今日はその薫がいない所為か、いつもの彼女とは違い口数が多く、また話をしているうちに気分が少し高揚してきたのか、どこか浮かれているようにも見えた。
皆本としてもそんな紫穂の様子が新鮮に感じられ、彼女の新しい一面を見ることができた気がして自然と表情が綻ぶ。
そんな風に夕飯の時間をゆったりと過ごしていた二人だったが、ふと皆本が紫穂の手元へと視線を向けたとき、彼の口から小さな溜め息が漏れた。原因は彼女の前に置いてある夕飯。
「紫穂、野菜を残すなといつも言ってるだろう?」
「野菜は嫌いなの」
そっけなく返事をする紫穂の手元にあるサラダの皿は、皆本のほとんど空になっているそれとは違いまったく手がつけられていなかった。
カレーの方もよく見てみると、ジャガイモや人参が皿の端の方に寄せられている。
「まったく食べてないじゃないか、好き嫌いをしていると栄養が偏るんだぞ。ましてや今の君は成長期なんだから余計にちゃんとバランスよく食事を取らないと!」
「やだ」
心配する皆本の言葉を聞こうともせずに、ぷいっと顔を背ける紫穂。
「このっ・・・」
そんな紫穂にいつものように怒鳴ろうとした皆本だったが、
「・・・・・・・・・」
開きかけた口を一度閉じ、自身の気持ちを落ち着かす為に二回、三回と小さく深呼吸を繰り返した。
いつもであれば、ここで皆本が怒鳴った後、薫と葵が「もういいじゃん」とか「紫穂が嫌や言うとるんやから」などと言って紫穂をかばってしまう為、結局うやむやになってしまうことが多いのだが今日は違う。
皆本にとって二人がいない今、これは滅多にないチャンスなのだ。保護者として紫穂の野菜嫌いを改善させる為の。
「薫も葵もいないし、今日こそはちゃんと野菜を最後まで食べてもらうからな」
ぴくり
気持ちを落ち着かせ、決意も固く、はっきりとそう告げる皆本。
だが、『薫と葵がいない』と言ったとき、紫穂がわずかに反応したことに彼は気づいていない。
「皆本さん、そんなに私に野菜を食べさせたいの?」
「? あ、あぁ、そうだ。野菜は身体に「いいわよ? 別に野菜を食べても」・・・へ?」
自分の言っていることを遮った紫穂の言葉に呆気に取られたようになる皆本。そんな彼を見て、紫穂はくすっと笑みを漏らした。
「どうしたの、そんな不思議そうな顔して?」
「あ、いや・・・ 本当に食べるのか?」
「えぇ、もちろん」
「・・・・・・・・・」
満面の笑みで答える紫穂に皆本が何も言えずにいると、突然すっと紫穂の目が細められた。
「ふ〜〜ん、『何か企んでいるんじゃないか?』だなんて随分ね、皆本さん?」
「なっ! また、心を読んだのか!?」
少し冷たく低くなった声で思っていたことを言われ、慌てる皆本だったが。
「やっぱり食べるのやめようかなぁー」
思いっきり棒読みで紫穂にそう言われ、皆本はばつが悪そうに謝った。
「・・・いや、あ〜 すまない、今のは僕が悪かった。だから食べないだなんて言わないでくれ」
心を読まれたことを気にせず、反対に謝るのは皆本の人柄なのか、それとも慣れなのか。両方かもしれないが後者の方が占める割合が大きいのは確かだと思われる。
「ふふ、それじゃあ。はい♪」
そう言って、皆本の方にあ〜んと小さな口をひらく紫穂。
「・・・・・・は?」
だが、その仕草がなんなのかがわからずに皆本が固まっていると、焦れたのか紫穂はひらいていた口を閉じた。
「は? じゃないでしょ、もう。早く食べさせて?」
「やっぱりいらん事を企んでるじゃないか!?」
「あら、そんなことを言われるなんて心外だわ。私がひとりでは嫌いなものを食べられないのなら、傍にいる皆本さんが私に食べさせるっていうのは当然のことじゃない?」
「そんな事は当然でも当たり前でもない! 」
「でも、私が自分だけでこのサラダを食べないといけないのなら、いつ食べ終わるかわからないわよ?」
「ぐ・・・ それは・・・」
片方は声を大きく、もう片方は平然とした態度で言い合いをしていたが、紫穂の最後の言葉に皆本が次の言葉に詰まる。そんな皆本を見て紫穂は止めとばかりに追い討ちをかけた。
「困るでしょう? だから皆本さんが食べさせてくれるのなら、私も頑張って野菜を食べようかなって言ってるのだけれど・・・」
どうしたものかしら、と人差し指を頬に当てて首をかしげ、困ったように言う紫穂。
「わかったよ・・・」
大きく溜め息をついて皆本は頷く。方法はまったく違うが、本来の目的を達成することができるのだ。それにこれ以上言い合って機嫌を損ねられると「食べない」と言われかねない。
「言っておくが、二人には内緒だからな」
「もちろん」
今からのことが二人にばれると、どうなるかわかったものではない。いや、大体察しはつくのだが。紫穂ばっかりずるいと脳内で暴れる二人を意識の隅に追いやりながら、皆本は紫穂にしっかりとくぎをさしておく。
幸い、自分が食べさせると言うことにそれほど抵抗があるわけではない。多少の照れはあるが、それで紫穂が野菜を食べてくれるというのなら安いものである。
「あーん♪」
皆本の返事に満足したのか、嬉しそうに口をあける紫穂。
サラダの皿を手に取ると、皆本は反対の手に持っていたフォークで小さく千切られたレタスを一枚刺し、じっと待っている紫穂の口へと放り込んだ。
「・・・・・・」
口の中に入ってきた野菜を紫穂はゆっくりと噛んで、のどを小さく動かして飲み込むと、
「・・・うん、おいしい」
そう呟き、皆本に向かって微笑む。
彼女の視線の先では皆本が自分と向かい合うようにして座っている。皆本は次はどの野菜にしようかと迷っていて、手に持った大きいフォークがサラダの上を右往左往していた。
皆本の様子を見ていた紫穂だったがふとテーブルの方に視線をずらした。そこにはまだ少し残っているカレーとそれを食べるために使うスプーン、そしてさっきまでサラダが置かれていた場所の辺りには皆本が持っているものより小さなフォークが置いてある。
皆本は気がついていないのか特に気にした様子はないが、紫穂はそれがどういうことかに気づいて、自分の頬が自然と熱くなるのを感じた。
「次はそのアスパラがいいわ」
「わかった」
フォークで注文のアスパラを刺すとドレッシングを絡めて、頬を赤く染めて待っている紫穂の口に放り込む。
紫穂は放り込まれたアスパラをよく噛んで飲み込むと、また別の野菜を催促し、皆本は注文どおりの野菜を紫穂の口へと運んでいく。
そんなことを繰り返すうちに、野菜の量はどんどんと減っていき、やがて皿の中のサラダの残りがレタス一枚だけとなった。
野菜が端にどけられていたカレーは、サラダの合間に紫穂の口に運ばれて、すでに空になっている。もちろん皆本の手によって。
「これで最後だな、ほら」
「あーん・・・」
口の中に入ってきたレタスを何度か噛み、飲み込む。
「ふぅ・・・ ご馳走様♪」
「お粗末様」
ご満悦な様子の紫穂とどこか疲れたような様子の皆本。
「しかし、野菜が嫌いと言っていた割には時間がかからなかったな?」
「野菜が嫌いだといっても食べられないわけじゃないもの」
「ならいつもこんな風に食べてくれると助かるんだが・・・」
「いやよ、嫌いなものを我慢して食べるだなんて。我慢は身体に悪いんだから」
今日は特別なのよ、とそう続ける。それを聞いた皆本の口から溜め息が一つ漏れた。皆本としては好き嫌いも身体に悪いと言いたいのだが。
「あ、でも・・・」
何かを思いついたか、紫穂がぱんっと手を合わせる。
「明日からも薫ちゃんたちが帰ってくるまでは、野菜を多めに使ったご飯にしようと思ってたんでしょ? 今日みたいにこうやって食べさせてくれるなら、ちゃんと食べるけどどうする?」
そう言って、口の端を少しだけ動かして笑う。その笑みは皆本にちょっかいをだすためのいたずらを思いついたときのいつものもの。
紫穂には皆本がどう返事を返すかわかっていた。自分の野菜嫌いを改善させることができるかもしれない機会、多少の我慢が必要とはいえそんなチャンスを皆本が逃してしまうとは思えない。
(私にもちょっとしたチャンスだから絶対に逃がさないけど)
「ねぇ、どうするの?」
「・・・・・・・・・・・・」
突然出された提案に、眉間にしわを寄せ考え込む皆本と、その様子を楽しそうに笑って眺める紫穂。
「皆本さーん?」
「・・・わかった」
こうして薫と葵が帰省を終えて皆本宅に戻ってくるまでの四日間、皆本は同居人の野菜嫌いを改善させるために、紫穂は邪魔の入らないうちに少しでも抜け駆けするために、二人きりの時間を過ごすのであった。
「こいつ前にも浮気したっていってじゃん、お盛んな奴だな」
「嫁さんがおるのに信じられへんな」
二人が帰省から帰ってきた日の夕方。いつものように四人がテーブルを囲んで夕食を食べていた。皆本から見て右側には薫と葵が、左側には紫穂が座っていて正面の方には全員から見えるようにテレビが置いてある。
そのテレビから流れている、よくある芸能人のスキャンダルのニュースを見て薫は楽しそうに、葵は呆れたように言う。
「・・・・・・」
紫穂はというと、自分の前に置かれた夕飯をじっと見ていた。今日の献立は鯖の塩焼き、里芋の煮物にきんぴらごぼう、あとはほかほかの白いご飯と他数点。そのどれもがほとんど、というかまったく減っていない。
ちなみに薫はすでに完食しており、葵もほとんど食べ終わっている。
「紫穂、いい加減に食べたらどうだ?」
食事の手を止めた皆本が呆れたように言うが、紫穂は依然として箸を動かそうとしない。
「だって嫌いなものばっかりなんだもの」
「好き嫌いをしないで食べなさいといつも言ってるだろ!」
「いいじゃねぇか、好き嫌いをしたぐらいで死ぬわけじゃあるまいし」
「そうや、皆本はん。無理強いはあかんで」
皆本と紫穂がやり取りをしていると、それに気づいた薫と葵がテレビから目を離し紫穂を庇い始める。皆本としてはそうなる前に紫穂に自分で食べてもらいたかったのだが。
「はぁ、しょうがないな・・・ ほら」
仕方がないと溜め息をつくと、皆本は少し椅子から腰を上げて紫穂の方に身体を寄せて、持っていた箸で器の中から里芋を掴み紫穂の口の前まで持っていった。煮汁がテーブルを汚さないようにきちんと反対の手を添えて。
薫と葵が帰ってくるまでの四日間、最初の日の夕飯を含むと五日間。
その間、何度も自分と紫穂の間で繰り返されてきたやりとりは既に違和感がないほどで、あまりにも自然な動きだった。皆本としてもほとんど無意識での行動である。
だが今はそれをやるには少々、問題があった。
「なっ・・・」
「・・・へ?」
この場には薫と葵がいるのだ。二人は突然のことにわけがわからないといった表情をしていた。
「・・・・・・」
紫穂も驚いたのか、瞳を大きく開いて固まっている。
「・・・・・・・・・・・・あ」
テレビがニュースを流しているのに、妙に静かになった部屋に皆本の呟きが漏れる。
皆本までが動きを止めたなか、最初に行動を起こしたのは紫穂だった。
ぱくり
そんな音が聞こえてきそうな感じで、皆本から差し出された里芋を口に入れる。
もぐもぐと口を動かす紫穂の顔はどこか嬉しそうにしていたが、こくんと口の中の物を飲み込むと少し拗ねたような表情になった。
「もう・・・ 二人だけの内緒だって言ったのは皆本さんなのに。ばか・・・」
そう言って恥ずかしそうに笑う紫穂の目元はほんのりと赤く染まっていた。
「あ、いや、これ「ほぉ〜〜 あたしと葵がいない間にずいぶん仲良くなったんだな」か、薫っ!?」
「ほんまになぁ、あの野菜嫌いの紫穂が平気な顔して食べるんやもんなぁ。いや、大したもんやで、皆本はん」
「葵も!?」
自分が何をしたのか、ようやく理解した皆本が慌てふためいて何かを言おうとするが、それを薫の言葉がさえぎる。
その薫の髪は風もないのにざわざわと揺れ、抑え切れずに漏れだした力で少女の周囲がどこか歪んで見えた。
葵は葵で言っていることは皆本を褒めているが、表情と雰囲気はまったく違う。カチャリ、と人差し指でズレを直したメガネの奥から、皆本をじっと見る目は冷ややかだった。纏っている雰囲気もはてしなく冷たい。
怒っていらっしゃる。
二人の前で紫穂におかずを食べさせてあげたのは確かにミスだったが、皆本はどうして二人がここまで怒るのかがわからない。ただわかるのは、自分が何を言ってもこれから酷い目にあうだろうということだ。だが、それでも言わずにいられないわけで。
「ま、まて、二人とも! 何をそこまで怒っているのかはわからんが、と、とりあえず落ち着くんだ!!」
「これがっ! 落ち着いていられるかぁっ!!」
「皆本はんのあほぉっ!!」
「ぐはおぅっ!!」
皆本の説得も空しく、葵の力で皆本の身体は一瞬で壁際へと移動させられ、薫の力でおもいっきり壁へと叩きつけられた。
いつもより力の強さが二割り増し程に感じられた皆本はそんなに怒っているのかと思いつつ、いつもより二割り増しの速さで意識を失っていった。
「紫穂も紫穂やでっ! 家に帰るんが延びたこと、うちらにだまっとったと思ったら!!」
「三人であれだけ約束したのに抜け駆けしやがって!」
「だから秘密にしてたかったのに・・・」
余談ではあるが次の日の朝から何故か薫と葵の食べ物の好き嫌いが激しくなり、紫穂同様に皆本の手によって食事が二人の口に運ばれることとなった。
「ねぇ、どうして私だけが自分で食べないといけないの?」
「そんなの当たり前だろうが、いやなら残したっていいんだぜ。あ、皆本、次そっちのやつな」
「そうそう、せめてうちらが遅れた分を取り戻すまでは我慢してもらわな。皆本はん、うちはそれ頂戴♪」
「二人とも昨日まで好き嫌いせずに普通に食べてただろうが・・・ あぁ、もう! 二人一緒に催促するな、順番に言え順番に!」
そんなこんなで数年後。
「と、言うわけであたしたちもこうして三人とも十六歳になったわけだ」
「何が、「と、言うわけ」だ! それと僕が今ベッドに押さえつけられているのとなんの関係があるっ!?」
「いややわぁ、皆本はん。うちらが十六になったいうことは結婚できる年齢になったちゅうことや、そんな当たり前のこと聞かんといてぇや」
「だから! それとこれがどういう関係が・・・」
「皆本さんに誰か一人を選ぶっていう器用なことできないでしょ? だからいっそのことみんな一緒でと思って」
「な、なにが・・・・・・」
「ったく、鈍い奴だな。男と女がベッドの上でって、やることなんて一つしかねぇじゃんかよ♪」
「こんな可愛い子が三人いっぺんにやなんて贅沢やなぁ、皆本はん♪」
「ほんと幸せ者よねぇ」
「何を言ってるんだ、お前達は! ふざけてないで早くどきなさい!!」
「ぴっちぴちの美少女がこうやって誘ってやってるてのに強情な奴だな〜。まぁ、これはこれで楽しいんだけどさ」
「そうやなぁ。でもな皆本はん、味わってもないのに嫌や言うんはどうかと思うで? 食わず嫌いはあかん、食わず嫌いは」
「昔はあれだけ私たちに好き嫌いするなって言ってたんだもの、皆本さんはそんなことしないわよね?」
「い、いや、そのことと今のことは、関係なくないか?」
「よしわかった! 皆本が自分で食べられないなら、あたしたちが食べさせてやるよ♪」
「んなっ! 人の話を聞けー!!」
「そら名案やな」
「ちょ、ちょっと待てっ!」
「それもいいかもね、責めるのも嫌いじゃないし。むしろ好き?」
「待て、落ち着つけ! そ、そういうことはしっかり話し合ってからだな、な?」
「だーめ♪」
「もう覚悟きめぇや、皆本はん♪」
「それじゃ♪」
「「「召し上がれ♪」」」
どうも、むぎちゃです。
こつこつ書いてようやく書きあがりました。長かったですorz
途中で書き方が変わったりしているかもしれませんが、あんまり気にしないでください。
では、またなにか話ができたら、と祈りつつ。