インデックスに戻る(フレーム有り無し

▽レス始

「きっと煩悩は世界を救う(GS)」

佐藤 (2006-05-16 02:04/2006-05-16 02:09)
BACK<


「うぎゃああああ―――ッ!?……あ、アレ?」


束縛されていた体が急に解放されて横島忠夫は目を白黒とさせた。
そして、周りの景色が変わっていることに気がつく。

「なんだ!?どこだここは!?」

振り向けば出し忘れたゴミ袋らしきものがそこにある。
辺りには丸めて置かれているチリ紙や漫画などが散乱して足の踏み場もない。
テーブルの上に食い散らかしてあるカップラーメンの類。
見覚えがある、なんてものじゃなかった。
そこは小汚い部屋だった。

「俺の部屋!?」

日付が確認できるもの、と手元にあった本を取る。
勿論それは新聞なんて高尚なものを取るはずもなく週刊誌だった。
所謂ちょっとエッチな写真の載っているものである。
その日づけを見て横島は掠れた声を出した。

「もしかして過去に来ちゃった……とか……あはは、そんなこと……」

ありえない、とは言えない。
脳裏に過ぎっていくこれまでの経験。
”時空消滅内服液”や”時間移動能力”のことがありありと浮かぶ。
頬を冷汗が伝って流れ落ちていくのがわかった。


「あ、ありえる……!今までに何度時間を移動したことかっ!」


GS稼業はそれこそ何があっても不思議じゃない世界だ。


「いや、そーだとしてもどーする!?何すれば帰れるんだ!?」


いきなり過去に来ました、と言われて冷静になれるわけがない。
しかも今まではどうすれば元の時代に戻れるかわかっていたのに今回は時間移動の原因すらわかっていない。


「美神さああああんっ!!誰か助けてくれ――!!こんな所で俺は一人ぼっち――っ!?」


焦燥感にかられて泣きながら叫んで、ふと思いなおした。
――いや、問題はそんなことじゃない。


「そうだ」


大事なのは――


「これからの未来を知っている俺は――モテる!!


横島は迷いがない口調ではっきりと叫ぶ。
その瞳はキラキラと希望――という名前の妄想――を映している。
その視線の先にあるのは出し忘れたゴミ袋がたまった部屋の隅――ではなく輝かしいばかりの未来。
ヨコシマ、横島さん、横島クンと彼の名前を呼びつづける美女達が見えていた。
ギュッと拳を握り締めて立ち上がる。


「なにせ俺は全部知ってるんだからな!!この知識を上手く使えば――!!」


ぐおおお!!と勢いをつけて立ち上がる。


「絶対絶命のピンチに陥る美神さん!!そしてそこに事前からスタンバってた俺が助けに入る!!「ったく、世話が焼けるぜ」と余裕の微笑みを浮かべる俺!!「横島クン!!」と言って縋り付いてくる美神さん!!完璧だ!!完璧すぎる作戦だ!!うまく立ち回ればハーレムすらも夢じゃない!?」


げひゃひゃとまるで悪役のような笑いを浮かべる横島。
頭の中で繰り広げられる妄想ではすでに美女達の肩に手をまわす所に入ってる。
当然、服装は裸。
妙にリアルなそれら妄想の人物たちは横島を18禁という文字で括られた未知の世界へと連れ出そうとする。
ああ、こんなんでええんか――!?ヤるぞ――!?俺はヤったるぞ――!!
と思わず鼻血やら霊力やらが溢れ出しそうになるのを堪えて横島は叫ぶ。


「うおおおおおお――!!こうなったらその日のために霊能力の修行じゃああああ―――――ッ!!」


2分で飽きた。


きっと煩悩は世界を救う
第1話 目標は大きく、煩悩も大きく


「過去の俺が乗り越えてきた出来事なのに未来の俺が今更修行してもなー」

いかにもやる気なさそーに溜息を吐く。
目先に迫った危機には必死になって対処するが事前に修行するということにはやる気が出ない。
学校の授業でもそうだった。
普段から予習はしないがテストが迫ると予習しなかったことを後悔しながら必死に勉強する。
それが横島忠夫という男であった。

「とゆーか、文殊も出ないつーことはこれって高校生の時の体だよな」

霊力が著しく足りない。
というより、ほとんどない。

「だいたいなー高校生には高校生の辛さとゆーものがあって……」

いかにもな棒読みで独り言を続ける。
宿題やらテストやらがたくさんあるしーどっちにしろほとんど美神さんの所に行くバイトの毎日だしなー。
とやる気ない顔で呟いて立ち上がる。

「とりあえず、この時代の美神さんに報告するか」


いつもの道を通り、いつもの事務所へ。
行く途中に色々と街並を見てみたが実に懐かしかった。
今の事務所に変わってからというもの、今歩いているこの道を通ることも少なくなっていた。
だが、あいまいな記憶でも街並がかなり古いということはわかった。

「もしかするとまだ美神さんと会っていない時かもしれないな」

そうなると細心の注意を払わなければならない。
初対面だった場合はしっかりとした対応を取らないと信じて貰えないかもしれん。
なにしろあの美神さんだ。第一印象を大事にしないと何言われるかわかったものじゃないな、と呟きながら歩く。
すると、その目の前にバイト募集のポスターを張っている女性が見えた。


乳。


尻。


太股。


横島の理性は吹き飛んだ。


「生まれる前から好きでしたああああ――ッ!!」


「わああッ!?」


横島は迷いのないフォームでガバァッ!と抱きつく。
抱きつかれた方は当然の反応として悲鳴をあげて――横島を張り飛ばした。


「なにすんのよ、変質者ッ!!」


肩を怒らせて声を荒げる女性。
聞き覚えのある声に横島は恐る恐る顔をあげると――そこにいたのはどこからどう見ても美神令子だった。

「あ…、し、しまったッ!?近づいたらあまりのフェロモンに我を忘れて……!」

「どーゆう自我の構造をしてんのよっ!?」

「いや、その!!実は自分は未来から、というか!その、なんと言えばいいのやら!?」

最悪の出会いというかまるで変わらない出会い。
この状態でまさか未来から来ましたなどとは言えるわけがない。
話も聞いて貰えずに終わるのがオチだ。
横島はしどろもどろになりながらなんとか話を繋げようとするがその姿は怪しいことこの上ない。
どうすればいいんや――!?俺のアホ――ッ!?
と過去の自分を呪いながら心の中で叫ぶしかない。

「…………今は忙しいから」

案の定、見切られた。

「ああっ!?待ってください!!実はここで自分を雇って貰いたくて…!」

「いきなりセクハラかますよーな奴、不採用に決まってんでしょ!?帰れ!!」

「いや、待ってください!!今ちょーどバイト探してたんです!?少しなら霊能力も使えるんで!!」

「……ふーん、じゃ、ちょっと霊力出してみて」

「え!?あ!ハイ!!」

うおりゃ――!!と力む横島

「…………」

だが、思ったよりも霊力が上がらない。
高校生の体に馴れていないからか緊張しているのかどうも体が言う事をきかない。
ヤバイ!!霊力の出が悪い!?
ああ!?やっぱり修行しとけばよかった――ッ!?
全然、霊力が上がろうとしない!!美神さんが見てるとゆーのに!?
視線が!?美神さんの視線が痛いーっ!


その時、風が吹いた。


「キャ!?」


道路を挟んだ向こうの通りで声があがった。
思わず振り向くと、翻るスカートを押し付けようとする通りすがりの美女がいた。
露になっているのは隠されし禁断の布地。
勿論、鍛えぬかれた横島アイはそれを見逃さない。


「レースの白ッ!!」


「なにを見とるかアンタは――ッ!!――え!?」


思わず突っ込んだ美神が目を見張る。
先程までの様子とは一転して目の前の少年がかなり強いといえる霊力を放出している。

(へぇ、これは案外掘り出し物かも――)

「どーですかっ!?」

「……結構キツイ仕事なんだけど?」

「どんなキツイ仕事でもかまいませんっ!!悪霊も平気っ!!」

「時給は?」

「いくらでもかまいません!!」

「…………」

「…………」


「時給250円!!」


「やりますっ!!うっしゃああああ―――っ!!」


空は既に橙色に染まっていた。
いくら都会といえど全面がビルで覆われているはずもなく、ビルとビルの隙間から夕日が射しているのが見えた。
ちょうど、バイトの詳細事項の確認などを終えた横島が事務所から出てくる。
そして一仕事やり遂げたようなとてもいい顔で呟いた。

「ああ、いい夕日だな……」

思わず遠い目をして呟いちゃったりしていた。


「ってアホかーッ!?結局、事態はなに一つ変わってないやないかああ――っ!!」


思わず絶叫した。
向かいの通りで親子連れが「ねぇママあれなにー?」「しっ、見ちゃいけません!」と言っているのが聞こえる。
こんなはずじゃなかったんや……こんなはずじゃ……!!
と血涙を流しながら”の”の字を書く。


「納得いかーんっ!!霊能力まで見せたのに時給が以前と同じってどーゆーことや――っ!!」


当初の目的のハーレムというのが既に真実味をなくしていた。
さようならーと美女が手を振って別れを告げていく幻想まで横島には見えていた。


「チクショー!!チクショー!!ドチクショ――!!」


横島の未来は暗い。

BACK<

△記事頭

▲記事頭

e[NECir Yahoo yV LINEf[^[z500~`I
z[y[W NWbgJ[h COiq@COsI COze