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▽レス始

「きっと煩悩は世界を救う(GS)」

佐藤 (2006-05-08 04:10)
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横島忠夫は目の前の光景を他人事のように見ていた。


自分の目前まで迫っていた長い爪。
それが胸を切り裂いた。
ズバァッ、と。
それはもう見事に血飛沫が飛んでいく。
それを見ただけで傷が致命傷だとわかるくらいに。
本当にこれは見事――って、

「あだだだだだだ――ッ!!痛い痛い痛い――!!」

痛みに転げまわりながら『癒』の文珠で傷を癒す。
痛い、死ぬほど痛い。

「痛いわー!!」

切りつけた当人に叫ぶ。

「そりゃー、殺そうとしてるんだからな」

そう、堂々と宣言した敵の姿は異様だった。
易々と人を切り裂くことができるであろう長い爪。
空を縦横無尽に駆け回れるだろうコウモリのような翼
闇に紛れる暗色系の肌。


そして、今にも体から溢れ出さんばかりの小物オーラ。


それはどこからどう見ても下級魔族だった。

「嫌だー!!こんな所でザコAにやられるのは嫌だ――ッ!!」

「誰がザコAだーッ!?」

「お前以外の誰がいるんじゃー!!」


プチッという音が鳴った。


「デタント崩壊のために死ねぇ――――!!」


「死ねと言われて誰が死ぬかぁ――――!!」


ザコA(仮名)の腕から発射される閃光。
横島はそれが届く前に咄嗟に見切って――そう、まるでゴキブリの様に――避ける。
目標を見失った閃光はそのまま地面に直撃。
強い妖気と共に砂煙が飛ぶ。

「うははは!!これのみを頼りに長年、丁稚として生き残ってきたんじゃ!!」

胸を張って横島は笑った。
自分で言ってて少し悲しいけれど気にはしない。
気にしたら負けだ。

「あははは、はは、ハ――」

しかし、砂煙がはれると共にその笑みが凍りつく。

「――だが、この力相手にその大口を叩けるかな」

土煙が晴れたそこにいるのは圧倒的な妖気を放った”化物”
下級魔族とはいえ、様々な魔族がいる。
それこそ中堅所のGSなら倒せるような魔族から一流のGSでも倒せないような魔族まで。
今、横島の目の前にいる魔族は明らかに後者だった。


「フッ、俺は……」


圧倒的に不利になった横島は考える。
先程は”避け”だけで生き残ってきたと言ったが、それだけじゃない。
今まで死にそーで死ななかったのは咄嗟の機転がよかったからだ。
文殊のストックも残り少ない。
そう、今の状況で生き残ろうとするにはそれを生かすしか方法はなかった。

「なんだ」

どーする!?
一発ギャグで油断させて不意打ちするか!?
それともサイキック猫騙しで戦略的撤退を――そーだ…!死んだフリ……!!
死んだフリで逃げるほうが確実か!?
いや、やっぱり……いや……!?


「実を言うと俺は……」


横島の頬を汗の雫が伝う。


「デタントとか反デタントとかはどーでもいいんだあああ!!だから助けてくれええええ!!」


格好つけた表情から一転、涙やら鼻水やら色々と噴出してのマジ泣き。
欲しいおもちゃを買って貰えなかった子供でもここまでは泣くまいという泣き方。
プライドやら世間体やら色々と大事なものを金繰り捨てたそれを見た敵が地面にずっこける。
勿論、その隙に横島忠夫は逃げ出した。


きっと煩悩は世界を救う
プロローグ:全ては煩悩から


「はぁ……はぁ……なんて……しつこいんだ……」

このよくわからない場所に連れ込まれてから数時間。
『煙』や『閃』の文殊、サイキック猫騙しからサイキックソーサーにハンズオブグローリー。
果ては泣き脅しや言葉責めまで思いつく限りのありとあらゆる攻撃をした。
おかげでとっくに文珠のストックはなくなっている。
それなのに――

「ふはははははっ、逃げられると思ったかっ!!」

目の前で高笑いしている下級魔族は無傷だった。

「く、くそー!!納得いかーんっ!!死ぬ時は綺麗なねーちゃんの胸の上と決めてたのにー!!」

「俺たちがそんなこと知るか!」

「どこかに死にかけている俺に胸を貸してくれる綺麗なねーちゃーんはいないんかーッ!?」

「いるわけないだろッ!!」

綺麗なねーちゃんという単語によって連想される女性たち。
今は亡き恋人のルシオラから始まり、美神さんやおキヌちゃん。
小竜姫様、愛子、マリア、小鳩ちゃん、エミさん、冥子ちゃん、ワルキューレ、ヒャクメ、ベスパ――。
例を挙げていけばきりがない。
だけど彼女たちは誰一人としてこの場にいない。

「もう、この際シロやタマモでも構わんっ!!」

「シロやタマモってお前、まさかロリk「違うわ――ッ!!」

「断っておくが決して俺はロリコンじゃないッ!!だが!!だが!!しかし!!最近になってシロとタマモは随分と大人っぽくなってきた!!たまに見せる”女”を感じさせる仕草は俺をドキッとさせるほどだ!!そう、あと、少し、もう少し成長すれば――必ずいい女になるのがわかっている!!それなのに、それなのにー!!俺は目の前のこんなやつにやられてしまうんかーッ!?」

「五月蝿いッ!!こんなやつで悪かったなー!!」

「本当に悪いわーッ!!綺麗なおねーさんだったらまだ救いようがあったのに!!」

「殺されようとしているくせに我侭だな、オイィ!!」

「大体なんでお前がシロやタマモの年齢知ってるんだよ!!」

「ふん、こちらで入手した美神除霊事務所のデータは完璧なものだ」

「事務所のデータ!?」

「これがどういう意味かわかるか?貴様の仲間の方にも別働隊が向かっているということだ!!助けは来んぞ!!」


「……マ、マジ?」


「嘘を言ってどうする」

「うわあああー!!ドチクショー!!俺はここで死んでまうんか――ッ!!?」

目を閉じなくとも脳裏に浮かんでくる数々の思い出。
それは常日頃の観察眼によって隅々まで観察し尽くされた胸、腰、尻、太股。
年齢、人種、人外を問わずにインプットされているそれは驚異的なまでの再現性と現実味を持って脳内に浮かびあがる。
頭の中をまるで走馬灯のように駆け巡っていく女体たち。
ああ……なんて魅力的なんだろうか……!
だが死んでしまえばもうこれを見ることすらできない。
いや、それどころか自分が死ねば魅力的な女体の数々もいずれ誰か別の野郎の物になってしまうだろう。
誰か別の野郎の物に――……。


「――いやだ」


「あ?何か言ったか――なっ!?」

横島の握り締めた拳に力が戻っていた。
傷口から血が流れて息をするのも苦しいはずの体を無理矢理に動かす。

「貴様に……まだそんな力が残っているとは……」

「許せるはずがないんだよ」

「……何……?」

下級妖魔は目の前にいる男への畏怖に声が震えるのを自覚した。
この男、ただ者じゃない。
妖魔として戦ってきた数々の経験が目の前の男に対して警鐘を鳴らしている。
侮ってはいけない。
こいつは自分の想像の範疇を超えた男だと。
そして来るであろう男の攻撃に備えて下級妖魔は妖気を放出し――、


「ちちしりふとももぉ――!!あれはみんな俺のもんじゃあああ――――!!」


思わず地面にヘッドスライディングした。


「乳――ッ!!尻――ッ!!太股――ッ!!」


体から湧き上がる衝動に任せて最後の力を振り絞って渾身の叫びをあげる横島。
そう、それは最後の力の無駄使い。


「アホか――っ!?」


「あれは全部俺んだ――!!誰にもやら――んッ!!」


横島の興奮は頂点に達する。
もし、彼の脳を観察することができたのならドバドバと化学物質が氾濫しているのがはっきりとわかるだろう。
その結果として体から発せられる霊力が途轍もなく大きく膨れ上がった。
そう、煩悩を霊力源としていたそれ。
それは無意識にかけていたリミッターすらを外して暴走を始めていた。


「やらんッ!!あの乳と尻と太股を他のヤローなんかにやるか――ッ!!あれは俺んだああああ――――!!」


実にアホらしすぎるその叫び。
あまりに邪すぎてもはや純粋とも言えるその想いが溢れ出す霊力を凝縮させる。
漢の結晶とも、魂の叫びとも言えるその叫び。
それは叫んだ当人が思っていたより大きく反響し、余韻を残して――


――そして、時を歪ませた。


「え?」


とんでもない量に膨れ上がった霊力を無理に凝縮。
そのことにより時空が乱れた。歪みの中心にいて歪みを生んだ当人には逃れる暇もない。
まるで金縛りにでもあったように体が動かず――


「な……、なにぃいいい―――!!うぎゃああああ―――ッ!?」


為す術もなく時空の歪みに飲み込まれていった。

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