ブォォォー
車に二人の男が乗っている。運転しているほうはしっかりとスーツを着こなし銀縁の眼鏡をかけている。
もう一人はスーツをラフに着ている。公の場ではないので着崩しているのか、元々こういう着こなしなのかは定かではないが、二人の性格を現しているように受け取れる。
「なぁ、旦那」
スーツを着崩した、元から鋭い目をした男が言った。
「何だい？」
銀縁の眼鏡をかけている落ち着いた雰囲気の男が答えた。
「煙草吸っていいか？」
「・・・やれやれ、僕の車の中は本来禁煙なんだけどね。いいよ、今日くらいはね」
「めずらしいな。いつも頼んでも許可してくれたことなんてないのによ」
そう言いつつ煙草を胸のポケットから出す。
「何度駄目だと言っても同じことを聞くなんて、君くらいのもんだよ。あっ、僕にも一本」
片手を助手席のほうに伸ばす。
「俺よりしつこいやつがいるだろ？あいつよりはあっさりしてるぜ」
煙草の箱を振って取りやすくしてから運転席のほうに差し出しながら言う。
「僕からしたら彼も君もかわらないんだけどね。彼は変わってないのかい？」
煙草を受け取り口に咥える。
「報告書、旦那のとこにもいってるだろ。あれを見りゃわかる」
若干、口調に険が篭る。ライターをすこし強めに男に向かって投げる。
「まあ、そうなんだけどね」
苦笑しつつライターを受け取る。そして、煙草に火をつけるため会話が途切れた。
「でも、実際に自分の目で見なくちゃわからないこともあるしね」
車の窓を少しあける。
「なら自分で確かめろよ。今から向かってるのはそのため」
鋭い目が更に鋭くなった。
「おいおい、目的は新たに設立するオカルト新勢力のパーティーに出席するためで、彼に会うのが目的じゃないよ」
「逢いたくないって言えば嘘だけど、正直このパーティーでは会いたくないよ。彼にはこちら側にいてほしいと思わせる力が有ったからね」
「お前がそれを言うのかよ西条！お前たちオカＧが・・・協会が・・・あいつを売ったんだぞ！！」
鋭い目の男からは殺気が漏れてきた。
「今は君もオカＧだよ。雪之丞」
殺気をまるで感じていないかの様に振舞いながら話す。
「っち、今は話す気になれねぇ。さっさと飛ばせ」
殺気を西条に向けても無駄と判断したのか、気を静める。
「了解。急ぐよ」
アクセルを踏み込み車は加速を始めた。
ブォォーーーー
車は進む。
西条は、大嫌いな男と会う為に、確かめるために、そして準備のために。
雪之丞は、親友に会う為に、確かめるために、そして準備のために。
たとえ、二人の手段と目的は同じであっても最後の結末は互いに違うものを見ている。
似ているだけに、些細な分岐が終わりを大きく変える。二人はそれを知っていた。
雪之丞が捨てた煙草は車に引かれ火は消えた。
西条の吸っていた煙草は灰皿に押し付けられて火が消えた。
オカルト新時代。
アシュタロス戦役後、オカルト業界は混乱を極めた。
それ以前は民間のＧＳ協会。国際的な組織のオカルトＧメン（通称オカＧ）。その二大勢力によって
日本のオカルト関係者の多くは属していた。そのため秩序は保たれ、しっかりとした基盤がありシステムが
出来上がっていた。
だが、戦役後、オカルト業界、特に日本のオカルト関係はズタズタになった。
民間のＧＳ協会は上層部が政府から責任を被せられた為に多くの首が飛んだ。
そのため協会のシステムが機能しなくなり、自然と崩壊していった。
オカＧは国際的な機関ということもあり、比較的被害の軽かった国から人員が回ってきた。
しかし、日本にいる一流の力を持つ霊能力者はオカＧに組み込まれることを良しとしなかった。
というのもオカＧは基本的には公務員であるために、、あまり儲けることは出来なかったからである。
個人で稼いでいた時の何十分の一では、やる気もおきない。
そのため、多くの霊能力者はオカＧに属さなかった。
取り締まるはずの協会がなく、組織にも属していない霊能力者達どうしのいざこざや不正が相次いだ。
そのお鉢がオカＧに回ってきたが、元の仕事は有害な霊や妖怪を取り締まるものであって人相手では
ないのだ。
オカＧの仕事量は増え、霊能力者達は好き勝手に振舞い、混乱は次第に収集が着かなくなっていった。
そこで政府はやっと重い腰を上げた。
事態の解決の為に再度ＧＳ協会を作ることを決めたのだ。
しかし、元の上層部にしたのでは、自分達は危うくなる。
かといって、オカＧから引っ張ってくるということは、他国からの干渉にあうことになる。
解決策として民間の現役ＧＳを上層部におき、事態の沈静化を図った。
様々な問題はまだ出てきたものの、結果として事は収まったのだ。
大きく膨れ上がったオカＧ、一流どころで固めたＧＳ協会。
そこに新たに加わろうとして出来た、新組織オカルト倶楽部。
まさしく新時代の幕開けであった。
パーティー会場に着いた西条たちは別行動をとった。
いかに新組織の創立パーティーだからといって、母体となったのは大企業の専属ＧＳチーム。
そこに他の企業が加わっただけである。今は恐れる必要もない。
その上このパーティーの目的は二人とも別である。
共に行動することは無意味である。
それに、このパーティーには多くの知り合いが来ている。
久しぶりに話でもするのも悪くはない。
メインディッシュはまだ出てこないのだから。
「どうですかチーフ？やはり緊張なさいますか？」
女は冗談めかして傍で鏡を見ながら、身だしなみを整えている男に向き直って言った。
「いつもみたいに呼び捨てにしろよ。アンタが気を使うなんてキモいぞ」
男は髪を整えている手をわざわざ口の前に持ってきて、舌を出し、ゲロを吐くようなふりをした。
「忠夫。あなたはおしい。実に惜しい」
女は男の動作に特に気を悪くした様子ではなかった。
どちらかといえば、気分がいいように感じる。
気安い冗談が、女と男の距離を示していると信じているからだ。
「何が惜しいんだよ」
「あなたが昔の仲間に会った時に、どういうことになるか、簡単に想像できる。
その場面を兄に見せることが出来ないのが残念だ」
「・・・お前性格わるくなったよな・・・」
「あなたと兄にもまれたおかげだ」
「あぁ、ミハイルの妹なら、あいつのドＳな性格に似ていてもおかしくないか」
「ふん、いいから行って来なさい忠夫。あなたが昔の知り合いに、しばき倒されるところを存分に目に焼き付けていよう」
「・・・しばき倒すって・・・いいや、とりあえず挨拶が先だろ。その後は・・・まぁ十年もたってるんだし美神さんも
落ち着いてるんじゃないかなぁ・・・いや、落ち着いてるだろ、普通は。・・あの人に普通なところって・・・・ねぇよな。
あ〜気が重くなるわ〜。行くたくねぇー！」
「いいから行け！」
「っち、このドＳは・・美神さんのことしらねぇから簡単に言ってくれちゃって」
男は女に聞こえない様にブツブツと小さな声でいいながら、服のスソをビッと引っ張った。
「・・横・・島・・・横島さん。もうそろそろ出番ですよ用意終わりましたか」
扉を開けたの横島を呼びにきたのは小学生くらいの女の子。
「っと、ノリアか、出来てるよ。っじゃ、行ってくるわ」
そういいながら手をヒラヒラと振る。
「・・・忠夫。今回は有名どころが多いの【怪物】伊達雪之丞や【聖剣使い】西条輝彦
いるわ。美神の所だけじゃないの」
呼びかけられた横島は立ち止まり振り返って笑いながら応えた。
「【怪物】は厄介だ手が出しにくい。【聖剣使い】は何とでもなる。世間は馬鹿ばかりだ
他人の評価より俺を信じろ。もう手はうってある。それに二つ名のタイトルホルダーは俺
だぜ。その中で【詐欺師】という名がある。間単に煙に巻いてくるよ」
横島は出て行った。扉を開けて出て行った。
会場に行ったのだ。違う場所へと行ったのだ。
優しい世界へ、汚いものをぶちまけるために。