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「もう1つの自分自身・中編(GS)」

yafun (2006-03-30 21:53/2006-03-30 22:48)
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「俺自身を反映しているかどうかは分からないっスけど、1台気になるクルマがあるんです。フォルクスワーゲン・ビートルなんスけどね」


『こっちからじゃ夕日は見れるわけないのに』
『下っ端の魔族は惚れっぽいのよ』
『一緒に逃げよう!』
『お前、……優しすぎるよ』

……美神たちは知らない。
このクルマが今は亡き彼の恋人の愛車であったことを。
2人きりでこのクルマの中で心を通わせたことを。

 もっとも、彼がこのクルマを選んだのは未練などではない。
 皆で笑えているのは、彼女のおかげだということを自分だけは忘れないため。無理に避けるのではなく、別れを受け入れて前に進むために、敢えてこのクルマを愛車にしたかった。

 何より、きっかけは彼女との思い出だとしても、ひと目見れば印象に残るその丸いデザインと助手席に座ったときの優しさが気に入っていた。愛した彼女のクルマだというのは自分だけの心にしまって、横島は素直にビートルの名前を挙げたのだった。


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もう1つの自分自身(中編)
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「へぇ。ヒトラーとポルシェ博士の生んだ名車中の名車ね。まだ国産車の信頼度が低かった70年代初めごろには日本でも大人気で、小学生が『下校中にワーゲンを20台見たらいいことある』とか占いに使うほどたくさん走ってたみたいよ」
「何でそんな中途半端で現実的なウンチクもどきを知ってるんでござるか?」
「作者に当時の思い出を聞いたのよ」
「……」


「ま、でも旧ビートル、横島クンらしい選択じゃない。ぱっと見、個性的なんだけど、何か頼りないところも見えてくる。かと思うとレースに出るような瞬発力も隠し持ってて、ボディは頑丈だし……」
と、横島の選択に感心する美神。

(それに……自動車史に残る心地よさというか、一生一緒にいたいという気にさせるクルマよね。貴方にピッタリだわ……)
 声に出さず、自分の想いを改めて認識する。想い人とほかの女性との絆を知らずに。

「へぇ。横島さんにぴったりなんですね。どんな形のくるまなんですか?」
 おキヌの質問に、タマモが起用にPCを操作してインターネットに繋いでビートルの画像を見つけてきた。

「なんか丸っこいクルマねぇ……。アタシならもっとジャリ道も走れそうなのにするけど」
と、画面を見ながら話すタマモの横から、首を突っ込んだシロが
「もっとカッコイイ車にするでござる。除霊にも使うんでござるなら、背の低くて追跡に向いている、ふっとわーくの軽そうなのがいいでござるよ」と自分のクルマでもないのに、勝手な意見を言う。
 おキヌといえば「でも何か優しい感じがしていいですね」と、
三人娘は感想もまちまちで、横島も美神も苦笑いするしかなかった。


 ちなみに、この後おキヌが選んだのは“ゆりかご”シトロエン2CVで、数年後にシロが美神に買ってもらうことになるのは“狼”旧ロータス・ヨーロッパ、タマモは“変幻自在”ランチア・ストラトスHFとなる。
「自分を映す」という美神の言葉を覚えていた彼女たちが、これらの愛車を選ぶまでに美神ではなく横島にそろって相談したり、予想を上回る高価な車のリクエストに怒り心頭となるその所長様とお値段の折衝など、それぞれひと悶着あるわけだが、それは別のお話。


「じゃ、1カ月以内に探して、納車するから楽しみに待っててね」
「え、俺も一緒に愛車探しさせてくれるんじゃないんですか?」
「プレゼントなんだから貴方は待ってればいいの。色や形式の要望は聞いてあげるわよ? 後、車庫証明とかはその都度こっちから連絡するからね」
「車探しまでやってくれるんスか? 嬉しいっス!! えっと、確か前のタイヤカバーの上にウィンカーが付いている形式で、左ハンドル、色は……」
「えーと。その形だと70年代に入ってからね。相場は……」

 何か新婚さんみたいに、2人で盛り上がる美神と横島の姿に、ほかの三人は悔しそうに唸るしかなかった。
「やっぱり、車でせんせーの気を引いたでござるな……」
「じゃ、じゃ、じゃぁ、美神さんと『最後までイク』こともあるんでしょうか? あんなことや、こんなことや。でっ、でも後部座席は狭そうだし、だけど「たいい」次第ででき…」
「……おキヌちゃん……」


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 それから数日後、美神とおキヌは横島のリクエストにピッタリのワーゲンを見つけたとの連絡を受け、千葉県まで来ていた。
 ただし、そのワーゲンを見つけてきたのは中古自動車屋ではなく、オカルト方面の人物だった。

「これかしら、連絡をもらったワーゲンは?」
「そうです。何かエンジンは乗っていたんですが、どうも悪霊か何かが能力で動かしていたみたいで、通常に動かせるよう修理しているところです」
リアにあるエンジンを覗き込みながら、オカルトに精通しているというメカマンが答える。

「除霊はしてあるの?」
「いや、例のコスモプロセッサの崩壊とともに、この車に取り付いていた霊だか妖怪だかも消えちまったようです。どうも下っ端の魔族か何かがアシに使ってたみたいですね。元手もかかってないし、簡単な修理だけで済みますから数万円だけでお譲りできますよ」

「美神さん。悪霊が憑いていた激安のくるまを……グっ!!」
「い〜い、おキヌちゃん、プレゼントは心よ。リクエストをちゃんと汲んであげた中で最もお手軽価格なものを選ぶのは悪いことじゃないわ」
 そう言いながらも、さらにまけてくれないかと修理している業者に尋ねる美神。

「あ、安かったなんてことは、もちろん横島クンには内緒ね。クルマを買ってあげたことを盾にしばらくタダ働きさせるんだから! そうそう、ママや西条さんたちにも「私はケチじゃない」って見栄はったんだから内緒よ」
「せ、せこいですよ〜ぉ、美神さん……」
「物を大切に、っていうのは、おキヌちゃんの口癖じゃない」
「そーですけどぉ」

「まーまー、ボディの色もアイツのリクエスト通りだけど、さすがに錆が目立つんで同じ色に塗り替えてあげるんだから。これだけでも結構な出費よ!」
「あ、それなんですがね。全く同じ色の塗料がなくて、多少明るい色になっちゃいますがかまいませんか」
「いーわよ。そんなに細かいリクエストもらってるわけじゃないし。ただーし、同系色で一番安い色にしてね」
「……」

 そんなこんなで、実際に良くクルマを見ると、放置されていた固体にも関わらずボディの錆以外の程度は悪くないようだった。
「あれ、美神さん。このクルマ、もう「なんばー」取ったんですか?」
「ううん。これは前から付いていた奴だから、横島クンに渡すときは別のナンバーになるわよ」
「そうですよね。今付いている「なんばー」が4126(よいふろ)って面白いんですよ」
「横島のヤツに好きなナンバー付けたさせたら、そんな番号選びそうね。ウチの除霊事務所がそんなレベルと思われたくないから、アタシがきちんとした番号を付けさせておくわ」


……美神たちはやはり知らない。
 この固体が、かつて人間を恐怖に落とし入れた魔神の僕(しもべ)が使っていたクルマだということを。前のオーナーが自分たちの良く知る魔族の女性だったことも。

 美神とおキヌがそろって口を噤んだことで、横島がこのクルマを魔族が使っていたこと、かつて魔族の秘密基地だった洋館に放置されていたこと、ふざけた番号のナンバープレートをつけていたこと、元は多少違った色だったことなどが漏れることはなかった。また、このクルマを知る可能性があった洋館を散策した西条らオカルトGメンにも、このことは知られることはなかったのである。

 つまり、2150万台も生産されたVWビートルのうち、横島の「自分自身」として活躍するこの固体こそが“あの”思い出の車“そのもの”だったということを、横島が知ることは永遠になかった……。

 運命に導かれた横島の「自分自身」のエンジン音は、少し悲しい乾いた音がした。

(続く)


どうも、やっぱり文章力ゼロの車&GSオタクの「yafun」です。
稚拙ですみません。
愛車が自分自身を映すということともに、何万台もあるうちの1台がどんな経緯であれ愛車になっているということに「運命」を感じずにはおれません。
僕のポンコツの「自分自身」は、まず欧州から米国へ出荷され、15年前に神戸に上陸して、5年前に僕が購入して今東京にある……という流れになってます。果たして、愛車が僕を認めてくれたのかとか、そもそも日本の風土は嫌じゃないかとか、クルマとの出会いの運命も描いてみたかったけど…駄目駄目ですね。
次回は「代車だった」ということが判明して作者が真っ青になっているディーノGTSと美神さんのお話です。

>WEEDさん
僕も古い欧州車に乗っていますので、再始動不能、キャブの吹き返しなど、日常茶飯事です。
ビートルの頑丈さは僕も聞いたことがあります。また、エンジンに関しては有名なポルシェ914のほか、スターリンとかピューマGTEも旧ビートルのものでしたよね。

>siriusさん
一時期、最近の独車に乗っていたのですが、全く恐怖を感じないブレーキ性能に驚愕しました。某911が加速と同時に減速でも世界最高を謳うのも納得したものです。

>高沢さん
チンクやミニを名車に挙げられるところが分かってらっしゃる。今回のヨーロッパもそうですが、500もミニもビートルも「旧」を付ける必要があるほどリバイバルブームですね。2CVは僕も大好きで、ずっとおキヌちゃんの愛車にしたかったんです。

>ぬーくりあさん
>横島君が運転する…なんだか卑猥なイメージが浮かんだ
>なんだかわからないエンジンの車
あ、読まれた。すんません。浅くて〜。しかも上に書いたように246GTSは「代車」だったので、後編では無理やり愛車にしてもらいます。

>刹那さん
僕の車の修理パーツは数年経ってもイタリア本社から来ませんでした。梅雨のころ頼んだら、「もう作ってないからワンオフだ」と吹っかけられ、「夏休みは1カ月仕事しない」「サッカーが大事だ」「クリスマスだ」「ニューイヤーだ」と延び延びで、いい加減スパゲティ拒否運動でもしようかと思った頃、サイズ違いで来ました(「頼んだら」に戻る。以下繰り返し・号泣)。

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