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▽レス始

「がんばれ、横島君!!(GS)」

灯月 (2006-02-07 23:52/2006-02-08 23:17)
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「ああ! パピリオちゃん、飛んじゃだめだって!! …窓、窓を閉め……!!」

「ベスパちゃん? 何、どうしたのかなぁ〜? おなかすいた? それともオムツ??」

「ルシオラちゃん、それは分解しちゃだめ〜!! ほら、危ないからドライバー貸して…!!」

今日和、皆さん。
俺は横島忠夫。ピッチピッチの高校一年生。青春真っ只中の好青年!
そんな俺が今、何をしているのかというと――ベビーシッターやってます。


がんばれ、横島君!!〜横島君とアルバイト〜


「……あのくそ親父ども、息子が餓えてもいいんかい?」

とぼとぼ歩きながら、愚痴をこぼす。
俺の高校入学直後、親父の海外赴任が決定。
なんでも上司の陰謀らしく、親父は切れた笑顔で実績を立てて帰ってくるぞと宣言した。
お袋は――浮気を見張るために――親父について行くという。
俺は、断った。
当然だろう。
たとえぎりぎりでも高校に受かったのにいきなり言葉もわからない、TVでも滅多に映ることの無い国に行くなんて。
第一、日本にいる美人のネーチャンたちと知り合う機会がなくなってしまう。
いや、俺の順応能力の高さなら案外馴染むかも知れんが…。
それでも、俺は日本に残る!
そしてまだ見ぬネーチャンたちと必ず酒池肉林を!!

……は!?

気付ば道行く人たちが俺をさめた目で見る、もしくは目を逸らして
そそくさと去っていく。
ああ、いつの間にか妄想に従って体がポーズを決めていたらしい。
声に出していない分ましだが、流石にいたたまれない。
俺は早足でその場を去った。
まあ、そういう訳できっぱりはっきり断ったのだが。
そしたら親父ども……仰いましたよ。

「じゃ、仕送りはぎりぎりまで切り詰めるから。自分で何とかしろよ」

――ホントに洒落にならない額でした。
一応、その仕送りで何とか賄える時代錯誤な、ドラマに登場しそうなオンボロアパートも探してくれたけどな。
実の親ではあるが容赦なさすぎだぞ、オイ。
一人暮らしを満喫しよう!とか、女の子連れ込み放題だ!!とかの野望はさくっと挫折。
掃除や洗濯はまだ何とかなります。どれだけ汚しても何も言う人がいないからな。
問題は……食事。
ここまでひもじいとは、ちょっと忠ちゃん予想外☆
いや、本気で。
コンビニとかの出来合いモノは意外と高いし、パンだけでは力がでない。
ええ、成長期ですからね。
自炊をすればもう少しはましになるかも知れんが。
いかんせん、俺の料理レベルは家庭科の授業並。お袋の手伝いで、野菜くらいは切ったし米も研げる。カレー程度なら作れる。
だが、所詮はその程度。
それ以上は無理だ!
ああ、世の中のお母さんたちって偉いなぁ…。
って、そうじゃなくて!!
このままだったらいくら若くて体が丈夫でも、正直ヤバイ。
もうどうしようもないので、バイトすることに決めました。

学校からの帰り道、無料の情報誌を眺めているがやはりいい金になるのは辛いのばっか。
ああ、どこかに美人のネーチャンと一緒に働けるトコは無いもんか?
希望としては、美人のオネーサマや、可愛い女の子がいて食事付きで楽して儲かるような!
そんな夢のような場所!!
……あるわけないか。
肩を落として歩いていると、ふと壁の張り紙が目に付いた。
よく見かける犬の糞の注意とか怪しげな商品や店の案内じゃない、
何かの募集だ。
黒い紙に白い字で…

「ええと。求む、ベビーシッター。
資格の有無は問いません、て、何だそんなのか」

まじめに読んで、また肩を落とした。
資格は問わないというのはいいかもしれないが、俺には向かないだろう。
そりゃあ、子供は嫌いじゃない。
中学生時代、社会勉強みたいなもんで近くの幼稚園に手伝いに行ったら、なぜかやたらと園児たちに懐かれたこともある。
小さい体が目の前をちょろちょろしていたら、かまいたいと思う程度には好きだ。
だが、だからと言ってそれを仕事にできるかどうかは別の話。
子供の面倒を見るということは、下手すりゃ命に関わること。
そんな責任重大な仕事、たとえバイトでも俺には到底向いていない。
俺は自分にそう言い聞かせ、その場から去ろうとした。
……二、三歩進んで足を止める。
なんでだろう?
黒字に白で何の飾り気も無いソレが、ひどく気になる。
我ながらおかしいとは思うが、もう一度戻ってそのポスターを見返した。
要点だけが簡潔に書かれたソレ。
時間と給料は相談で…。
あれ? この連絡先の住所。

「…ここから近いな」

そうだ。意外と近く、ここからさほどかからない。
…………う〜ん。
いい条件だったり、簡単だったり、楽だったりするバイトはまじめに探せばいくらでもあるはずで。
このベビーシッターなんて面倒なことこの上ないはずだ。
子供なんて本能で生きてるから理屈なんて通じないし、体力も使いそうでキツそうだし…。
こんなポスターのことなんか忘れて、ここから立ち去ればそれでいい。
そして、雑誌でも何でも見てバイトを探せばいい。
なのに、なんでこんなに気なるんだろう?
無視したいのになぜか頭に引っかかる。
……。
………。
………………。

「ああもう!! めんどくさい!!」

うが〜っ!!と、頭を掻き毟り空に向かって喚く。
もともと俺は何かを深く考えるなんて向いていない。
よし!
とりあえず、訪ねてみよう。もちろん、ベビーシッターの件で。
向こうだって俺みたいないい加減そうな奴は、絶対雇わないだろう。
きっぱり断られれば、きっとすっきりするに違いない。
そう決めると、気持ちもだいぶ落ち着いて。
俺は足取りも軽く、募集先の家へと向かった。


「こ、ここだよ、な……?」。

目の前。
周囲の建物とは少しばかり趣の違う家。
ちょっとばかり古い洋風の家は周りから浮き、どこか暗い空気を発してはいるがソレはソレで風情があると言えなくも無い。
レンガの塀に囲まれた二階建ての建物。どうやら庭もあるらしい。
表札を確かめる。
門柱に大理石だろうか、はめ込まれた表札にはあのポスターに書かれていたのと同じ苗字『芦原』が彫られている。
重そうな鉄の門。
その前でごくりとつばを飲み込んだ。
ここまで来てみたが、いざとなるとやはり緊張する。
雇い主が見目麗しいくて若々しいご婦人ならば何の文句も無いが、婆さんだったりおっさんだったりしたらどうしようもない。
やる気とかヤる気とか色々萎えるなぁ〜。
まぁ、せっかく来たんだ。
うじうじしていても仕方が無い。
俺は、震える手でインターホンを押した。

ピンポーン♪

場違いなほど軽快なリズム。
思わずこけかける。

『どちら様かね?』

インターホンから聞こえた声に、あわてて姿勢を正した。
その後つっかえつつもベビーシッター募集のポスターを見て来たのだと告げれば、あっけないほど簡単に門が開かれた。
……あの鉄の門、自動で開いたところを見ると見かけは古くても中の設備とかはいいんだろうなぁ。
そして、家の中。
迎え入れたのは二十歳半ばの男。
彫りの深い顔立ちに、緩く波打つ長い髪をひとつにまとめ。ぱりっとした、素人の俺でも一目で高級品だとわかるスーツを着こなしている。
顔が良くって背も高くて金もある。女にモテそうな要素満載。
――直感した!
こいつは敵だ。しかも俺だけの敵じゃない。
この世に生きる男大多数の敵だ。
畜生!! 神も仏も無いのか、今の世の中は!?

「……あ、どうかしたかね?」

「え!? いやいやいや! なんでもないっす!!」

声をかけられ、慌ててごまかす。
やばかった。今、意識が妄想モードに入りかけてたぞ。
あ〜。確かに気に食わんが、どうせきっと今日だけだろうし。
適当に話して、大人しくしとこう。

「ほう、一人暮らしかい。それは大変だろう?」

「ええ、まぁ。でも、お袋に小さい頃から自分のことは自分でやれって躾けられてきましたから」

「だが、それでも偉いものだ」

「そっすか? ははは」

自己紹介を兼ねた当たり障りの無い会話。
目の前の男のついてわかったことは、どうやらこの人が雇い主。名前は芦原優太郎。とある小さな企業の社長さん。
本人も技術者として高い腕を持っているので割りと忙しいらしく、子供の傍についていてやれないとのこと。
子供は三人。みんな女の子でとても可愛い…らしい。
言葉の端々から感じたが。
この人、親バカだ。絶対。
俺たちは家の中を進んでいる。
直接、子供のところへ行くらしい。
芦原さん曰く、こういう仕事は相性が大切!
まぁ、子供はいいヒトと嫌な人を見分けるからな。
それにしても、意外なのが芦原さんの反応。
普通俺みたいな若造が来たら、断らないか?
自分の大切な子供を預けるのに、おかしいだろう。俺はまたてっきりその場で断られるものと…。
しかも学生制服着たままなのに。
この人、ちょっと驚いた顔して、でもすぐに普通に笑って入れてくれたからなぁ。
俺が一人首を傾げている間にも、足はどんどん進んでいく。
子供部屋は階段から落ちたりしないよう、安全を考慮して一階にあるらしいが。
しかし……やっぱり内装も金がかかっている。
さりげなく掛けられた風景画も、並ぶ家具も壁や床に溶け込むようで。落ち着いた雰囲気を生み出している。
いかにも金持ち!という感じではなく、あくまでさりげなくセンスの良さを醸し出しているというか。
――なんかムカツクなぁ。
胸のうちでそんなことを呟いていると、一歩前を行く芦原さんの足が止まった。

「着いた。ここが私の娘たちの部屋だよ」

「ここっすか」

「ああ。今はお昼寝中だから静かにね、横島君」

「あ、はい」

そう忠告して、芦原さんはゆっくりとドアを開ける。
昼寝の最中ってことは、もしかして顔合わせのために起きるまで待ってなきゃならないんじゃ?
俺の不安も気付かずに、芦原さんはさっさと部屋に入ってしまう。
慌てて部屋に入れば、そこはまさしく『子供部屋』。
外国の映画なんかによく出てきそうな感じだった。
壁紙は青空や虹が描かれカラフルで。天井からぶら下がったオモチャが揺れている。床に敷かれたカーペットはふかふかで、転んでも何の危険もなさそうだ。
部屋の隅にはオモチャ箱。かわいらしいぬいぐるみや人形、ままごとの道具。散らばったたくさんの絵本。
ドアの正面の壁は一面の窓。そこから庭に出入りできるらしい。
そして部屋の真ん中にはでかいベビーベッド。
その傍らに立った芦原さんは、ベッドの中にとても優しい目を向けている。
俺も中を覗き込んでみた。
そこにいたのは女の子…と言うより、赤ん坊。
まだまだ歩けそうにない、小さな子供。
三人仲良く並んで小さな寝息を立てていた。
それぞれパンダ、キリン、猫をかたどったベビー服を着せられ、ご丁寧にフードかぶっている。
きゅうと握った人形みたいな手に、見るからに柔らかそうな体。
ぷっくりとした頬はまるで桃みたいで。
思わずつついてやりたくなってしまう。

「うわぁ、かわいいっすね」

「ふっふっふっ、そうだろう」

俺の呟きに芦原さんは満足そうに頷いた。
確かにこんなに可愛いんじゃ、親バカになるかもしれない。
あれ? 今気付いたが、この子達の髪の色。
全員違う。ハーフか何かだろうか? そういや、芦原さんもそれっぽい顔立ちだよなぁ。
そんなことをぼんやり考えているとベッドの中、黒髪の子がぱちりと目を開けた。
一瞬泣かれるかと思ったがそんなことはなく、大きな目にじぃっと俺を映す。
そして、なぜか楽しそうに笑いながら言葉にならない声を発しながら、俺に向かってに手を伸ばしてきた。

「あ〜、うや! あう〜!!」

あまりに懸命に手を伸ばしてくるので、俺もつい自分の手を差し出す。
その子は俺の指を小さな手でしっかり握ると、微笑った。

うわぁ……。

なんか、生命の神秘に触れたような。
純粋な感動というか…。
子供の高い体温が気持ちいいな、なんて。

「ふむ、どうやらルシオラは君が気に入ったようだね」

横からそれを眺めていた芦原さんは、どこか嬉しそうだ。
そうか、この子はルシオラちゃんて言うのか。
う〜ん、ベビーシッターやってみてもいいかも。
実に単純だが、俺はそう思い始めている。
ルシオラちゃんはいまだ俺の手を握り、機嫌のよさそうな声を上げている。
芦原さんにすすめられて抱っこしてみると、その手がぎゅうと俺の服を握って。
やわらかくて暖かい体が気持ちいい。
いやいや! ろりこんとかそっちの気があるわけじゃない!!
でも、ただこーゆう風に誰かに触るなんて、小さい頃以来だと…。
俺が小さな幸せに浸っていると、かすかな声が聞こえた。
見ると、ベッドの一番端。
緑の髪の子供が目に涙を浮かべて、いやいやをするように体をよじっていた。

「おや、パピリオ。どうしたかね?」

首を傾げながら、芦原さんは慣れた手つきでその子――パピリオちゃんを抱き上げる。
パピリオちゃんは自分を宥める腕の中でじたばたと暴れ、そして……

キュドッ!!

なんか、手のひらから出ましたよ?
ゲームとかでよく見るエネルギー波みたいなの。
あ。それが当たった天井、煙吹いて焦げてる。

「あ、芦原さん…、今のは?」

思わずルシオラちゃんを抱いたまま距離をとる。
芦原さんも固まっていた。
ぎぎぃと音がしそうなほどぎこちなく顔を俺に向け。

「疳ノ虫デスヨ。オ子様ニハヨクアルコトデス」

「うそつけぇっ!! よくあったら全国のお父さんお母さんの毎日が命懸けだ!!」

突っ込み返す間にも、パピリオちゃんはなぜか上機嫌で光弾連発。

キュドッ キュドッ キュドッ! キュッドドド〜ン!!

ひいぃ〜!!
壁やら天井やら床やら。見境無しでお構い無し。
め、めちゃくちゃあぶねぇ……。
このままでは命が危険だ。
本能が発する警鐘のまま、ベッドで寝ていた最後の女の子を片手に抱きかかえ部屋から退避しようとしたその時!

ギュドガ!!

「ぐはぁっ!!?」

あ、芦原さんに直撃。
こ、これは…幼児による殺傷事件!?
光弾の名残による煙が晴れて姿を現した、が……

「いやぁ〜〜!! 紫肌の上半身マッチョ!! サブもホモもいやだ!! ロリもペドも犯罪だ、この変質者!!!」

「ああ!? 速攻正体ばれた…てっ! 君の突っ込み所はそこかね、横島君!!??」

煙の中から現れたのは見るからに怪しい紫色の肌の人物で。裸の上半身が妙にマッチョ。
…それで、片手に幼い子供を抱えてたら――変態だよなぁ。
俺、何も間違ったこと言ってませんよー。
客観的な事実を述べたまでですよー?

「ふ、ふえ…。うぅえ〜〜〜〜ん!!」

と、先ほど抱きかかえた赤毛の子が盛大に泣き始め。
それに触発されたかルシオラちゃんも泣き出して…。


子供って凄いよねー。いったいどこから出てるんだろう、あの声。
あの後、まず泣きじゃくるルシオラちゃんと赤毛のベスパちゃんの機嫌をとって泣き止んでもらい。
光弾を連発していたパピリオちゃんは気が済んだのか、疲れたのか。一足先に眠りはじめ。
いやもうホント――大変でしたよ。必死でしたよ、俺も芦原さんも。
応接室でまだ紫なままの芦原さんと向き合い、埴輪っぽい何かが入れてくれた紅茶をすすって大きく息をつく。
埴輪っぽいやつはそのままハニワ兵というらしい。
もう何でもいい。
ええ、驚きませんよ。
ちなみにルシオラちゃんは俺の服の裾を握ったまま寝ているため、今ひざの上にいたりする。
ベスパちゃんは、芦原さんから離そうとすると目を覚まして泣き出すのでやっぱり抱っこされたまま。
怪しいことは怪しいが、親子に見えなくも無いから不思議だ。

「で、事情はわかってもらえたかね? 横島君」

優雅な仕草でティーカップをテーブルに戻し問う芦原さん――本名アシュタロスさんに、俺は一応頷きを返す。

「ええ、まあ。大体は……」

お茶を飲みながら聞いた話によると、芦原さんの正体は人間ではなく魔族であるらしい。
で、娘と言っていたルシオラちゃんたちも魔族。
証拠として、フードを取ったら虫みたいな触覚がありました。
指でつつくとピコピコ動いて、ちょっとぷりちぃ。
ま、それは置いといて。
魔族――それは人間に害をなすといわれる生き物。
神話に登場する悪魔と呼ばれる存在。
ゴーストスイーパーなる職業が公に認められているこの時代。
オカルト関係の本も出ているし、当然大きなオカルト事件になればテレビでだって取り上げる。
一応、学校の授業でも出るしな。
と言っても歴史とか社会とかそんなのでほんの少しだけ。
専門学校とかなら別だろうけど、一般ではその程度。
今、目の前にいる芦原さんが人にとって危ない生き物とは見えんしなぁ。
まあ、あの格好は危ないが。
現に俺は何もされてないし…。
あれ、もしかして正体知ったから口封じされるとか?
そんなことを考えて、冷や汗が流れる俺の様子には気付かずアシュタロスさんは話を続ける。

「私はこう見えても魔神でね。魔族の中でもとても高位の存在なのだ。
本来ならこんな風に人界にいること自体許されないのだがね」

「えっと、じゃあどうしてここに?」

「魔族には二通りいて、はじめから魔族だった者と何らかの理由で魔族になった……堕天したものがいる。
私は後者でね、もともとは神だったのだ。
魔界というところは辛気臭く、元神の私には少々肌に合わない。
嗚呼。もちろん、いつまでも神だったころに未練があるわけでもないが。
ここまでは、いいかね?」

「はぁ、何とか…」

とりあえず頷いて、紅茶をのどに流し込む。
アシュタロスさんは穏やかなままだし、今すぐどうこうされると言うことは無いらしい。

「魔族で、特に私のように高位のものは魔界から出ることは無い。
それは神族との約束事でね。もしもばれたら大問題だ。
だが、魔界に引きこもるのも息が詰まる。それでこうしてこっそりと普通の人間を装って人界で過ごしているんだ」

あれかな、政府とかのお偉いさんがホントはだめなのに、自分の国から出て別の国に住んでるとか、そんな感じかな。
多分違うかもしれないが、そんな風に俺なりにわかりやすいよう頭の中でまとめてみる。

「なんか、大変な事情があるんですねぇ」

俺の適当な相槌に、アシュタロスさんはまったくだと言わんばかりに大きく頷いた。

「その通り。私より上の存在の取り決めで最近は余計に色々な規制が出来てやりにくくなっているし、自由などほとんど無い!
規制の弱い下級魔族がうらやましいよ」

…魔族は魔族で色々あるんだなぁ。
てか、ストレス溜まってないか? アシュタロスさん。

「で、あのう。ベビーシッターのことなんですが…」

いつまでもこうしてはいられない。
俺は恐る恐る本題を口にした。
その言葉に、アシュタロスさんはようやく俺がここにいる本当の理由を思い出したようで、ポンと軽く手を打った。

「ふむ。知られてしまったからには、やはり君にベビーシッターをやってもらうしかないな。
私は他の魔族連中と違って手荒なことは嫌いだし、避けたいのだよ」

避けたい、と言いながらアシュタロスさん。
目の光が剣呑ですよ…。

「ええ〜と、非常に聞き辛いんですがもし断ったら……?
ややや、やっぱり口封じされるんでしょうか?」

がたがた震える俺に視線を送りつつ、アシュタロスさんはにやりと笑った。
いえ、あの、怖いんですが。

「手荒なことは避けたいと言ったはずだよ。
そうだな、もし断ったら…あつまさえ、このことを誰かにバラすと言うのなら!!
そうなったら、そのときは――

二十四時間耐久サブミッションを…!!」

「ぜひともベビーシッターやらせて下さい!」

深々と、高速で頭を下げた俺の判断はきっと間違ってなんか無い!


え〜、その後の話し合いで口止めも兼ねて俺は日給五千円の高給取りになりました。
平日は学校が終わったらここに来て、ルシオラちゃんたちの世話。
夜は居られる時間までとのこと。でもルシオラちゃんたちの健康のため九時には寝かしつけて欲しいらしい。
土日祝日はプラス一万円て、凄くないか?
これって一週間で、五万五千円ってことですよ!?
いや、もしかしたらアシュタロスさんが相場を知らないだけかもしれないけどな。

ルシオラちゃんたちはベースが虫なので、食事は水とか蜂蜜でOK。
成長も早いのですぐに手がかからなくなるとのこと。
契約の証としておどろおどろしい、血判が似合いそうな羊皮紙ってのか? あれにサインしたときは流石に引いたけど…。
どうして人間の子守を雇おうと思ったのか聞いてみたところ、アシュタロスさんの部下に子守を任せて見たらことごとく失敗したらしい。
それにどうせ人界にいるんだから、人間の常識を学ばせようという考えもあって人間のベビーシッターを探していたとか。
まぁ、そんなわけで俺の子守りライフがはじまったのです。

これから先。ホントに大丈夫かなぁ、俺?


続く


後書きという名の言い訳

書いてる本人だけが楽しくて需要が一切ない話。しかも連載っぽいし…。大丈夫か、自分!!
ヤマもタニもオチもない話は大得意です♪(待て)
一応アシュ様視点の「うらめん」は予定しております。
一人称は難しい…。突っ込みどころ満載ですが、そっとしておいて下さい。
亀って意外と足が速い、なのでなめくじの歩みで頑張ります!
何はともあれここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました!!

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