美智恵達が倒れて4日後、その間に事態は大きく変った。一つは横島が目覚めた。目を覚ました彼は完全に何時もどおりで、心配させた事で美神にどつかれた。そして、もう一つの変化、それはアシュタロスによって、世界中の核ミサイルが奪われた事である。
「結局、アシュタロス奴の思惑に乗る事になっちゃたわね。あー、いまいましい!!」
「それで、美神さん、勝算はあるんですか?」
苛立つ美神のぼやきにピートが尋ねる。アシュタロスは美神が南極が来なければ世界中に核ミサイルを発射すると宣告したのだ。それを受けた各国は当然、美神に南極行きを強制し、美知恵の事もあるので美神は逃げる事もできない。そういう訳で彼女は仲間達を連れて彼女達は南極へ向かっていたのである。
「当然じゃない。1%の勝算もない戦いなんて、いくらママの為とはいえやってられないわよ」
ピートの言葉に美神は自信あり気に答える。ここで世界の為でないところが彼女らしい。そして、彼女は横島を見て言った。
「あなたが鍵なんだから、頼りにしてるわよ」
「うっす。任せてください!!」
目を覚ました横島から彼の習得した技を聞きだした結果、その中に一つだけアシュタロスを打倒しうるものが存在したのである。霊光波動券・攻の剣の奥儀『秘光拳』相手の肉体・霊体を透過し、霊核を直接叩く文字通りの必殺拳である。とはいえ、アシュタロスと横島では自力が違いすぎて、本来なら直撃してもダメージを与える事はできない。“煩悩全開”や“単独霊波共鳴”を使って力を極限まで高めてもそれが僅かなダメージに変るだけである。しかし、今回はそれで十分だった。
「アシュタロスは現在、冥界のチャンネルを防ぐ為に、常にパワーをコントロールした状態です。そして、神魔界の両方ではそのチャンネルを解放するチャンスをずっと狙っている筈。奴の本体に少しでも傷をつけて一瞬でもコントロールを崩すことができれば・・・・・・」
「その瞬間、チャンネルが解放し、神魔が一気に人界に流れ込んでくるという訳なのね。一度、開いてしまえば、アシュタロスはもうそれを閉じる事はできないのね〜」
休眠を解いて話し合いに参加していた小竜姫とヒャクメが説明する。これは、横島の技を聞いた後、それに閃くもののあった美神が神魔のメンバーと相談して見つけ出した打開策だった。
「っと、言う事は私達の仕事は横島がその攻撃を当てるための援護、もしくは成功率をあげる為に少しでもアシュタロスにダメージを与えて、力を削ぐってところかしら?」
「その通りだ。前回は失態を晒してしまった分、今回は全力を持って名誉を挽回させてもらう」
タマモの推測にワルキューレが頷き自らの意気込みを語る。ちなみに、今、ここにいるメンバーは横島、美神、おキヌ、雪之丞、ピート、タマモ小竜姫、ヒャクメ、怪我の治ったワルキューレとジーク、その他神魔の精鋭メンバーである。残りのメンバーは美智恵達の治療の為にオカルトGメンに残っていた。
「横島さん、私、頑張って横島さんを援護しますから」
「腕がなるぜ。俺の新技が魔神相手にどこまで通用するか試してやる!!」
横島を守る事を誓うおキヌといつもどおりバトルジャンキーな雪之丞。そして、彼等は決戦の地、南極へとたどり着いたのである。
「バベルの塔!!」
「異界空間にこんな巨大な建造物を・・・・・」
南極のその中の到達不能極にたどりついた横島達はその瞬間、異界空間に飲み込まれ、そしれそこで彼等が見たのは伝説にある天にまで伸びるバベルの塔だった。そして、そこには待ち構えていた二人の姿があった。
「やっと来たようだな」
「あんたはベスパにパピリオ!?」
その姿を見て戦闘態勢をとろうとする美神達。しかし、ベスパはそれを制止する。そして、彼女は美神一人についてくるように言った。
「おっと、私達は単なる案内人だよ。こっから先は美神令子一人を通すように言われている」
「そんな要求に私達が乗ると思う? 無理やりそんな事をさせようっていうのなら、世界が滅びるってんでもこの場であんたを倒すわよ」
それに対し、美神は馬鹿にするように返す。どの道、彼女の魂の中にある結晶がアシュタロスに奪われれば世界は終わりなのだ。この要求をのむメリットなど彼女には欠片もなかった。しかし、その答えを聞いたベスパは意外にも平静で溜息をつく。
「まあ、そういうだろうと予想はついてたよ。仕方ないね、全員ついてきな」
「いやにあっさりしてるのね?」
「別に、たいしたことじゃないさ。実際、力押しで来られたら、悔しいけどあたし達じゃ勝てないしね」
あまりの素直さに美神は逆に罠を伺うが、ベスパの苛立ちをおさえた答え方に、逆に信憑性が高いと思い直した。そして、一向は誘導する彼女達についていこうとする。すると、門に手をかけたところで、ベスパの動きが一瞬止まった。
「一つ聞く、ルシオラは無事なのかい?」
「!?・・・・・・あ、ああ。大丈夫だ。あいつはちゃんと生きてる」
その言葉には殺気が僅かにこもっており、全員の動きが一瞬とまるが、他者よりも早く拘束が解けた横島がそう答えた。それに対し、パピリオが真偽を追及してきたがベスパが制止し門を開けた。
そして、そこには・・・・・・・・・・・・・アシュタロス、魔界の魔神の姿があった。
「神は自分の創ったものすべてを愛するというが――――低級魔族として最初に君の魂を作ったのは私だ」
アシュタロスは静かに言葉をつむぐ。ただそれだけで、皆、圧倒的なプレッシャーを感じていた。特に、魔族として霊的な影響をうけやすいワルキューレ達はただ目の前に居られるだけで跪きそうになるのを必死に堪えていた。
「よく戻ってきてくれた、我が娘よ・・・!! 信じないかもしれないが、愛しているよ」
そして、その言葉を聞くと共に、美神の体が激しく震え始めた。
「ち、力が抜けていく。なんで・・・・今まで、どんな強敵と向かいあってもこんなこと・・・・!!」
「お前は俺の作品だ。私は道具を作ってきたつもりだったが、お前は『作品』なのだよ。この違いがわかるか?」
「美神さん!!」
「美神さん、しっかり!!」
「おい、美神!!」
ますます、震えの激しくなる美神に皆が必死に声をかけるしかし、震えは止まらない。
「霊気――――!! 奴の波動で私に何か影響がでている!?」
「道具はある目的の為に必要な機能を備えているだけの存在だ。しかし、『作品』には作者の心が反映される。意図していようがいまいがね。お前は私が意図せずに作った『作品』なのだよ」
言葉をつむぎながらアシュタロスはゆっくりと美神に近づいてくる。
「千年前、お前に裏切られた時は屈辱だったが、後でそれに気付いた時、私は嬉しかったよ。私も造物主に反旗をひるがえすもの。お前は私の子供、分身なのだ。戻ってこい、メフィスト、私の愛が理解できるな!?」
そして、直ぐ近くまでよってきた所でアシュタロスは手を伸ばす。その瞬間、美神の中で前世であるメフィストの記憶が戻り、そしてふらふらとした足取りでアシュタロスに近づく。
「美神さん!!」
「くっ、美神!! それ以上近づけばお前を射殺するぞ!!」
制止する横島と銃を向けようとするワルキューレ。しかし、美神は足取りをとめない。
「アシュ様・・・・・・」
「メフィスト・・・・・!!」
そして美神の方も手を伸ばす。それを見てワルキューレは銃を構えた。
「くっ、やむおえん!!」
「駄目!!」
それを体を張って止めようとするおキヌ。しかし、それよりも早く動くものがあった。
「ざけんな糞親父!!」
美神がアシュタロスにヘッドバッドをかましたのだ。そして素早く飛び引く。
「冗談じゃないわよ!! 例え前世を思いだしたってねえ、私はゴーストスィーパー美神令子。神も悪魔も恐れる私じゃないのよ!!」
「「美神さん!!」」
「横島君、おキヌちゃん、いくわよ!!」
喝采をあげる横島とおキヌ。そして、美神の掛け声にあわせ、全員が戦闘態勢を取り、そしてエネルギー節約の為に、いままで休眠状態だった神族達が実体化する。
「神族!!」
「どうしてでちゅ!?」
「ほお。どうやったのか知らないが消滅を逃れていたようだね」
それを見て驚きの声をあげるベスパとパピリオ。逆にアシュタロスは感嘆の声をあげた。
「どうやら、私を倒す為に、色々と策を用意してきたようじゃないか。おもしろい。ベスパ、パピリオ、お前達は下がっていろ。私は、自分を試してみたい」
「はっ?」
「さあ来い、メフィスト!! いや、人間達よ、貴様達の力を見せてみろ!!」
たった一人で横島達を迎え撃つアシュタロス。そのアシュタロスに神魔が一斉攻撃をしかけた。
「消えろ。君達には用は無い」
しかし、そのほとんどがアシュタロスによって放たれた魔力砲の一撃に飲み込まれてしまう。だが、それを逃れたものもいた。
「喰らいなさい!!」
超加速でその一撃を回避した小竜姫がアシュタロスの後頭部に全力の一撃を叩き込む。けれどその一撃はかすり傷程度の傷を作っただけで、後はびくともしなかった。
「言っただろう。君達には用は無いと」
アシュタロスは振り返り小竜姫の首を掴む。そのまま彼女の体を持ち上げ、アシュタロスは首を引きちぎろうとした。
「小竜姫!!」
しかし、そこでアシュタロスに精霊石の銃弾が降り注ぐ。最初の一撃を盾で何とか凌いだワルキューレが精霊石銃を連射する。そして、そちらに注意がそれている間にジークが魔剣グラムを構え接近し振るう。
「なっ」
だが、その一撃はアシュタロスに片手で受け止められてしまった。その受け止めた手には手のひらに傷すら付いていない。
「・・・・無駄だ、私に竜属性は無い。それに何度も言わせるな。私はお前達に興味はないと言っているだろう。私が見たいのは存在そのものが高位なものに対し抗う姿だ」
「なら、その下等な人間様の力を見せてやるぜ!!」
「なっ!?」
そのままジークを消し去ろうとしたアシュタロス。その時に突然直ぐ近くから聞こえてきた声に戦いが始まって以来、初めて彼の顔に驚きが浮かんだ。驚いた先にあったのは伊達雪之丞の姿。
「喰らいやがれ!!」
脚部収束魔装術で一気に距離を詰めた彼はアシュタロスが驚いている間に右の拳ひとつに魔装を収束させる。そして、他の全ての部分を無防備にしたその状態で彼は二重の拳をアシュタロスの脇腹に叩き込む。
「ぐっ」
脇腹に一撃を受けたアシュタロスから苦悶の声が漏れる。けれどアシュタロスは倒れず、体勢を崩しもしなかった。そして、余裕の言葉を漏らす。
「人の身でこれだけの威力を生み出したのは見事だ。しかし、私を倒そうとするなら千発は叩き込む必要があるな」
雪之丞の体を貫こうとするアシュタロスの腕が迫る。今の状態で攻撃を受ければ雪之丞の体は貫かれるどころか砕け散る。しかし、その腕が彼の体に触れようかという瞬間、一羽の鳥が彼を加え上空に飛び上がって彼を救い出した。
「おキヌちゃんナイス!!」
それはおキヌの式神であるクマタカだった。雪之丞を助け出され、アシュタロスの腕が空振りに終わった瞬間を逃さずに美神は槍型に変化した竜の牙を投合する。
「メフィスト!! 貴様!!」
その槍は雪之丞が二重の極みを叩き込んだポイントに狙いたがわず直撃する。傷口を狙われれば弱いのは人間も魔族も同じ。雪之丞の一撃でも崩れなかったアシュタロスの体勢が僅かに崩れ、そしてそこで最強の一手が完成した。
“単”“独”“霊”“波”“共”“鳴”
「アシュタロス!! 俺が極楽におくってやるぜ!!」
霊力を最大値にまで増幅した横島がその奥義を発動させる。それを防御しようとするアシュタロス。けれど、それを妨害するものがあった。
「させません!!」
小竜姫とワルキューレ、ジーク、生き延びた神魔達が全員でアシュタロスを羽交い絞めにする。アシュタロスはそれを直ぐに振りほどこうとするが受けたダメージが一瞬だけパワーの出力をあげるのを遅らせ、隙をつくった。
「秘・光・拳!!」
時間で一瞬で十分だった。横島の拳がアシュタロスに叩き込まれる。その一撃はアシュタロスの霊核に届き、確かに小さな傷を入れた。そして、その次の瞬間・・・・・・・・・・・・
横島は胸をつらぬかれた。
(後書き)
ちょっと、皆さんにお聞きしたい事があります。
この作品、一応、私としてはGSの世界をベースに幽白の設定をあわせている形にしてるので、こちらでいいと思っているのですが、よろず板に移した方がいいのでしょうか?
移してしまうと今までの感想が消えてしまうので、できれば避けたいのですが、荒れる原因などになって管理人様やその他の方にご迷惑をかけてしまうのならば、仕方がないのでそのようにしたいと思います。ご意見お聞かせください。