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▽レス始

「ダブルフォールト2(GS)」

こーめい (2006-01-23 01:54)
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 注意!
 この作品は「蛇足」である可能性が高いものです。
 前作を楽しまれた方には、読後感を台無しにしてしまうかもしれません。
 もし続くとしたらこんな感じかもしれない、という可能性の一つとしてお読みください。


 ここは白井総合病院の一室。一時間ほど前に運び込まれた、伊達雪之丞および弓かおりの病室である。
 そして、つい先ほど魔族の三人娘が侵入した部屋でもある。

 強大な霊圧に身を硬くする雪之丞とおキヌ。かおりは失神中だ。
 また、一般人の医者のおっさんは、ひたすら壁と同化しようとしていた。

 そして、なにやら複雑な表情で魔族……特にルシオラを見つめる美神。
 口を開けて何か言おうとして口をつぐむという動作を繰り返して、まるで金魚のようである。

 さらに変なのは、同じくルシオラを見ているうちに何故か細かく震えだし、脂汗を流し、妙な踊りを始めた横島。
 恐怖で混乱した……にしては少しおかしい。その目が美神とルシオラを行き来しているのだ。

 三姉妹からしても、その反応は予想外だったらしい。いぶかしむ様子が伝わってくる。

 一触即発のはずの緊張感は、なにやら別種の雰囲気を放つ二人によって侵食されかかっていた。




 ――少し時間は戻って、美神たちが逆行してきて、勢いでやっちゃった翌朝。

 褥で異性と共に迎える初めての朝という状況。早朝ではないが、朝日のカーテンに撫でられて覚醒する二人。
 先に目覚めたのはどっちだったか。少なくとも、二人が顔を合わせた際に交わした挨拶は同時だった。

「あ、お、おはよう……」
「お、おはようございます……」

 そう言うなりうつむく二人。照れたのだが、しかしそれだけではない。

 二人とも昨晩のうちに、今の自分の状況を相手に説明しようかどうしようか、結構悩んだのだが……

(元の時代の横島クンをほっぽって、何も知らない横島クンを篭絡した、っていう嫌な女だと思われるかも)
(この時代の俺の振りして襲ったことになるから、いくらなんでも傷つけちまうよな……ていうか殺される?)

 などと考えてしまい、結局二人ともそのことは、当面の間秘密にすることに決めてしまったのだ。

 つまり秘密を抱えたままであるという後ろめたさのせいでもあり、うつむいた表情は晴れなかった。
 だが、このまま黙ってて、相手に疑われるわけにいかない。ならばと意を決して何かを口に出そうとするが、

「えっと、その、昨日は、あの、えーと……」
「あ、あのね、私、その、うーん、つまり……」

 ……普通も何も、そもそもこんな慣れない状況でどう振舞えばいいのか分からなかった。
 勢いでやっちゃった男女なんてこんなものかもしれない。

「「あ、あはははは……」」

 結局、顔を赤くしながらも、やたら白々しい笑いが寝室に広がった。


 自分のことで手一杯で、相手の様子がおかしいことに気が付いてない二人は、その後も当たり障りのない会話をして朝食を摂る。
 それでもお互いの顔を見れば微笑が自然に浮かぶし、そんな自分に赤面する。そして、その相手を騙している自責に顔を曇らせる。
 そんなこんなで幸せと不安が入り混じり、他の事に気が回せないまま、朝食は終わった。

「………」
「「あ」」

 その時点までおキヌのじとっとした視線に気付かなかったのは、幸か不幸か。

 だが、おキヌとてこのまま黙っているわけにはいかない。
 昨日この二人が美神の部屋に篭もったのは分かっていた。中で何をやったかなど、朝の様子を見ても疑う余地はない。

 ただ、そのまま丸一日もぶっ通しという事実に、怒りや哀しみ、嫉妬よりも、呆れが先に立っていた。
 横島の方は、まあ猿並みの性欲を持っているだろうと思っていたが、美神もそれに応えるとは予想できなかった。
 色んな意味で聞きたいことが山ほどあるので、朝食を終えて落ち着いたタイミングで、おキヌは口を開く。
 問い詰められて余計なことを口走るのを恐れ、固唾をのんでおキヌの口元に注目する二人。

「あのですね――」


 ところが、その口から言葉の続きが飛び出すより早く、電話が鳴った。
 しかも、その内容が驚きだ。繁華街で弓かおりと伊達雪之丞が何者かに襲われた、との連絡が入ったのである。

 友人である弓の負傷に驚愕するおキヌよりも、この事件はあと数日先だと思っていた二人の方が驚きが大きかった。

(予定より早い! バタフライ効果って奴!?)
(平行世界だからか? それとも、あの日とは別の日にもデートしてたのか、あんにゃろう!?)

「と、とにかく、急いで見に行きましょう!」
「は、はいっす!」
「わ、分かりました! ……後で話を聞きますからね?」

 びくっ! と背を引きつらせる美神と横島。

 ――というわけで、十分な余裕のないままに美神らは病院に駆けつけ、そしてついさっきルシオラらとの邂逅を果たしたのだった。




 さて今。美神は思いもかけず、内なる衝動に身を焦がされていた。
 今すぐルシオラの襟首掴んで、自己犠牲なんか二度とやるんじゃないと説教したい。
 ついでに、これはもう自分の男になった、せめて側室で我慢しとけ、と突きつけてやりたい。

(うー。勝ち誇りたい。以前勝ち逃げっぽい真似された分、快感だろうに……)

 が、実際にそんなことしても無意味な上に、魂を探査されてしまう危険まである。
 もう記憶のとおりの未来にはなりそうになかったが、最善を尽くさないと人界どころか三界が滅亡するのだ。
 余計な行動に走らないように自分を戒めるが、それでも、ルシオラを見る視線が複雑なものになるのは抑えられなかった。

 一方で横島は、もう会えないと思っていた相手との再会に身を震わせていた……わけではなかった。
 確かに、彼女に言いたいことや、してやりたいことはある。が、何を話しても今の彼女には訳が分からないのだ。
 それどころか、怪しまれて逆天号に拉致されなくなり、歴史が大きく変わってしまう恐れがある。
 さらに、自分は美神と関係を結んでしまっている。下手にルシオラと恋仲になると、美神に殺されかねない。

(あかん、正解が分からん。うっかりとんでもないヘマしてしまいそうだ……。元々俺は頭脳労働に向いてないんじゃ!)

 世界の終末と両手に花計画を同レベルで悩むという、他人に知られたら憤慨物の思考をしつつも、解答は出ない。
 あまりの緊張と狼狽に横島は脂汗をかき、挙句頭を抱えるわおどおどきょときょとするわ、訳の分からない踊りを踊っていた。


 さてそんな二人を不審に思いつつも、そのままなにやら言い合い、ついでにどつき漫才も繰り広げる三人娘。
 だがようやく話がまとまり、美神を標的にするべく動き始める。

「美神さん、戦っちゃ駄目です! この人たち、ものすごく強い……!」

 おキヌの焦る声に、僅かに考える顔をして見せた後、美神は前の歴史と同じ行動で彼女らの目を欺くべく、一瞬気迫を漲らせる。

「こうなったら……!」

 そして一気に身を翻し、行く先は窓。そこから身を飛ばせるように見せかけて、幽体離脱を……


 ――ずきっ――


「脱しゅ……痛ぅっ!?」

 窓枠を踏み越えようと足を伸ばしたとたん、美神はその付け根に鈍い痛みを感じた。
 足は伸ばしきれず、とっさに両手でそこを押さえてしまう。必然的に体勢が崩れて前に倒れこむ。

「あさまし……い?」

 とっさに美神を捕獲するべく、鞭を伸ばそうとしていたルシオラの動きも止まった。


 そのまま美神は……

 ガンッ!

「ふぎゃっ!」

 顔面を窓枠に盛大にぶつけてしまった。


 室内が静まり返る。

 顔面を強打し、股間と額を抑えた間抜けな格好でうずくまる美神を前に、誰も言葉を発することが出来ない。

 ややあって、幽体離脱し損ねた美神は痛みと恥ずかしさ、そして怒りで真っ赤になった顔をゆっくり横島に向けた。
 その面は鬼の形相。これを見れば泣く子も泡を吹いて引き付けを起こし、一生もんのトラウマになること間違いなしである。

 横島は青くなっていた。
 明らかにあの美神の股間の異変は、彼が原因だ。事件の日付がずれると思っていなかったのもあるが、初めての相手に丸一日はやりすぎである。
 元からそう鍛えようもない場所を、前日に酷使したら翌日に響くのは当たり前だ。いや、酷使した責任は美神にも同じくらいあるのだが。

(せ……せめて一、二回でやめとけばよかった!?)

 横島だけの責任でもないのだが、この恥をかかされたお礼は、横島に確実に数倍して降りかかるだろう。
 関係を持ったとはいえ、美神はこういうお仕置きは絶対にやめない。むしろ身内だからこそ倍加する。その辺は理解している横島だった。

 ……とはいっても、三姉妹の前でお仕置きする余裕はさすがにない。だが、据え置きにした怒りは蓄積していく。
 ついでに、今の失敗のせいで美神が確実に脱出できる目がなくなったため、大ピンチである。その分の八つ当たりも加算されている。

 美神の背後にかつてないほどの怒りのオーラが見える。横島は埴輪と化して硬直していた。


 その埴輪へ、つかつかと足音が歩み寄った。

 がしっ

 胸倉が掴まれる。体が浮き上がり、衣服に引っ張られて横島の首が絞まる。

「ヨ〜コ〜シ〜マ〜!?」
「ふひぇっ?」

 片手で横島を吊り上げているのは、誰あろうルシオラであった。

「あれは何? 美神さんがあんたを睨んであんなとこ痛そうにしてるって……もうヤっちゃったってこと!?」
「へ? え、何? なんで名前を……」
「だいたい逆行した次の日に即、しかも私との再会を目の前にして美神さんに手を出すなんて……当て付けのつもり!?」
「んな!? ちょっと待て、お前も逆行して……?」

 こちらも鬼の形相で横島を問い詰めるルシオラ。その姿に、さっきまで見せていたクールな印象は欠片もない。唖然とする一同。
 ルシオラの強大な霊圧に別種のプレッシャーが加算されて、横島を押し潰さんと襲い掛かる。

「るるるるる、ルシオラちゃん?」
「あ、あんた、そ、そいつと知り合いなのかい?」

 ルシオラの後ろで面白いほど狼狽する妹二人。
 無理もない。生まれてからほとんどの時を一緒に過ごした長姉が、いきなり訳の分からない事を口走り始めたのだ。
 目の前の光景が信じられないのか、パピリオは盛んにまぶたを擦り、べスパは目と口を大きく開いたまま放心しかけていた。


 そう。実は、ルシオラも未来の記憶を持っていたのだ。
 とは言ってもルシオラ自身は時間移動したわけではない。

 簡単に言えば、横島の体内にある、元ルシオラの霊基構造。これが一緒に逆行してきたのだ。
 これに残っていた残留思念の記憶が本体に戻り、ルシオラは未来の記憶を受け継ぐことになったのである。
 ついでに、自分がいなくなってからしばらくの間の記憶もある。表に現れないだけで、思念自体はすぐには消えなかったのだ。
 もっとも、その時点ではもう意識はない。外界の刺激をかすかに記録していただけである。

 聡明な彼女は、流れ込んできた記憶や記録から状況を把握し、横島と一緒に逆行してきたことを確信した。
 そしてそういうことならと、これから横島と二人で幸せに暮らすためのプランも検討していたのである。

 文珠使いの横島と、逆天号メインエンジニアの彼女が協力するなら、今の眠っているアシュタロスなど色んな方法で倒せる。
 その後で究極の魔体や宇宙処理装置の資料を神魔界に提出すれば、同じ存在に蘇生させられることもないだろう。

 そうと決まれば善は急げと、神魔界の拠点の破壊を後回しにして、ルシオラは逸る心のまま逆天号を日本に飛ばすことにした。
 理由は適当にでっち上げた。一番重要で面倒な日本の拠点を、最初に破壊してしまおうとかなんとか。
 日本に来てからは、適当に美神らの知り合いを捜して襲うつもりだった。雪之丞たちがいたのは本当に偶然だ。

 あとは病院で出会い、逆天号に連れ帰るところまではあの未来どおりに進める。
 で、適当に二人っきりになってから、自分にも未来の記憶があることを告げれば、ドラマティックな恋人の再会の出来上がりである。

(運命に引き裂かれた二人が、異なる時間の流れで再会する……。これはもう結ばれるっきゃないって流れよね!)

 などとどこかの青春妖怪のように色々計算して、記憶を苦労して掘り出して、初めて会ったときの様子や仕草まで完璧に再現して見せて……

 ――そこでいきなり「横島が美神とヤっちゃった」結果を突きつけられたのである。怒り心頭になるのも無理はない。


「ってこと。分かったかしら?」
「わ、わがっだがらぐびを……」

 そこまで説明したルシオラにまだ吊り上げられている横島。首が絞められているので、そろそろ意識を手放しそうだ。
 そこに、起き上がった美神から唖然とした声がかかった。

「ちょっと。あんたたちも逆行してたわけ!? このあとどうなるのよ!」
「……え゛? “も”ってまさか、美神さんも!?」
「あら? ヨコシマだけじゃなかったんだ……」

 お互いに顔を見合わせる。話についていけないその他の面々は、呆然とするばかりだ。
 ここに、このたびのトラブルに巻き込まれた当事者三人は、ようやくお互いを認識した。


 ――しかし。それは事態の解決とはイコールではない。それどころか、この場にはさらに強い緊張感が生まれた。

 横島から手を離し、美神をじーっと見つめるルシオラ。
 その視線を真っ向から受け止め、負けじと睨み返す美神。

「ふうん?」
「ほほう?」

 床に落ちてすぐ、二人の気迫に飲まれて壁際まで高速移動した横島は、頭を抱えるしかできない。

「……あわわわわ」

 リターンマッチの行く末は。そして、この過去はどういう歴史を刻むのか。
 もはやこの場の誰も、先の展開が読めないのだった……。


END?

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