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「陰界第十五話 前(GS+??)」

ルナ (2006-01-17 08:59)
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 けたたましい音を出しながら、救急車が住宅地を走り抜ける。
 近くの住民達は一体何事だろう?と不安げな表情を浮かべている。
 それは救急車の中の者達も同様。


「令子ちゃん!令子ちゃん!令子ちゃん!!!!!」


 冥子は泣き叫び、美神に抱きついている。
「だからどうしたのよ!泣いてちゃ分からないのでしょ!?」
『そうですよ、誰かの身に何かあったんですか?』
「お腹痛いんですか!?」
 美神、キヌ、横島の言葉に冥子は首を振る。
「違うの〜……
 ややこしい仕事頼まれたから手伝って欲しいの〜一人で心細かったわ〜」
 ようやく聞けた冥子の言葉に、美神は車内で思いっきりこけた。
「そ……それだけの事で、いきなり人をサイレン鳴らしてる救急車に押し込んで泣き喚いてたの?」
 額の血管が浮き出、美神は顔全体を痙攣させる。
 かなり怖い。
「怒らないで〜実は、原因不明の昏睡で〜入院してる人が居るのよ〜
 それで〜何かの霊障じゃないかっ〜て事で私が呼ばれたの〜」
 呼ばれた冥子が調べてみれば、原因は悪魔だった。

 悪魔の名は『ナイトメア』

 人間の夢に寄生し、精神エネルギーを喰らう悪魔。
 一度取り付かれれば祓うのは至難の業。
 冥子が美神の元へ来たのも、無理は無いだろう。


「全く……私より、あんたの方が確実に戦える能力を持ってるんだから……
 いい加減私を頼りにしないでよね?」
「だから令子ちゃん好き〜」
 話がまとまったと同時に、救急車は病院へと到着した。
 一行は患者が入院している部屋へと急いだ。


 邪魔が入らぬよう寄生された少女を手術室へと運び、除霊は開始された。
 部屋に雑菌を入れぬ為、一同(キヌ以外)は白衣に着替える。
 美神は意識を患者へ集中し、言葉を放つ。


『天と地の間隙、生と死の間。
 人の夢に巣食う悪魔よ!!

 正義と世の理に従い、その者を解放せよ!!』


 力持つ言葉に反応し、部屋中に閃光が走り抜けた。
 次の瞬間、光から馬面の悪魔が出現する。
 汗を拭いつつ、美神は神通棍を握り締める。
『ふふふん?なかなかやるじゃない?お譲ちゃん?
 でもそれ以上やるとこの娘は死んじゃうンだよ。それでも良いの?』
 横たわっている少女の頬を軽く突付き、ナイトメアは笑う。
 だが、美神は怯まない。
「はっ!それで脅してるつもり?どうせほっとけばこの子は殺されるわ。
 今すぐその汚い図体をそこからどければ、魔界追放ですませてあげる。

 さぁ!どうする?馬面野郎!!」

 他人の命を盾にし、交渉する美神に横島やキヌは汗を流す。
 冥子はそんな姿に瞳を輝かせ、こうすれば良いのか!と勉強していた。
 美神の迫力に驚き、ナイトメアは姿を消した。
『除霊に成功したんでしょうか……?』
「さぁ……分かんない、けどもう限界……疲れたわ」
 患者が死なない程度に力を叩き込み、相手をいぶりだすのはかなりキツイ。
 美神の力が全体的に攻撃的に出来ているのが原因だろう。
 呼吸も乱れ、汗は止めどなく流れている。
「うぅ……?ここは何処?お母さんは?」
 今までナイトメアに寄生され、眠り続けていた少女の意識が戻った。
 眠っていた間の記憶は無く、見知らぬ相手に怯えている。
「お姉ちゃん達誰……私……どうして」
「大丈夫よ、何も心配はいらないわ」
 混乱する少女へ笑顔を浮かべ、美神が近付く。
 だが。
「っ!!?」
 少女の目は、まだ正気に戻っていなかった。
 まだ意識はナイトメアに奪われたままだったのだ。
 口からどす黒い闇が放出され、美神へ襲い掛かる。


「危ない!」
 疲労しきった美神の身体を横島が押しのける。
 間一髪、美神は闇に襲われなかった。


 だが。
「横島君!?」
『横島さん!!』
「きゃ〜!」
 手術室に倒れこむ横島と少女。


 一時的に少女の意識が戻ったように見せたのは、別の人間へ寄生する為の罠だったのだ。
 いつも邪を祓う小太刀も……先程着替えた時、置いてきてしまった。
「まずいわ……こうなったら目を覚まさない……」
「ど、ど〜しましょう〜……」
 眠り続ける横島を見つめる乙女達の表情は暗い。


「……冥子、横島君の中に寄生したあの野郎をぶっ倒しに行くわ。
 道を開けなさい」


 有無を言わさぬ迫力に、冥子とキヌは「ひっ!」と怯えた声を上げる。
「聞こえなかった?
 夢の世界へい・く・わ・よ?
「うわ〜ん!令子ちゃん、笑ってるのにこわーい!」
 泣きつつも、冥子の影からは一匹の式神が飛び出す。
 全身毛だらけの式神、ハイラ。
 疲労しきっている美神は少しダルそうに出てきたハイラを頭に乗せ、眠りの世界へと旅立った。
「おキヌちゃんは私の霊波とシンクロしてついてきてね〜」
『はい!』
 意識を失っている横島の頭を自分の膝に置き、冥子は手術台に身体を預けた。


 二度。
 横島は過去、二度冥子の心を落ち着けた。
 言葉は荒々しかったが優しく抱きしめてくれた。
 今回、彼を助ける事が出来るのは……自分。


「待っててね〜……冥子、頑張るから」
 横島の頬を優しく撫でつつ、冥子はゆっくりと瞳を閉じた。


 三人の乙女が立っていたのは、巨大なコンクリートの塊前だった。
 キヌは目の前に存在するコンクリート城に目を丸くさせる。
『ここが……横島さんの夢の中ですか?』
「えぇ……けど、まだ入り口にすぎないわ」
「あのお城が〜横島君の精神構造がイメージ化したものなの〜」


 目の前のコンクリート城は数多のビルが集合し合っている、まるでその姿は互いを支えあっているかの様。
 一番高い物は十五階程度の高さ。
 屋上には数多のアンテナが立っているのが下から見ても分かった。
 入り口と思われる場所は……とても暗い、美神ですら入るのを戸惑ってしまう程に。
 中からは時たま、呻き声が聞こえてくる。


「「『…………』」」


 一体ここは『誰』の精神構造が元になっているのだろう?
 普段の黒髪ならば花畑の一つや二つ位ありそうだ。
 赤髪ならば……少し不純なモノがありそうな。
 この城はその全てが重なり合い、出来上がったものなのか……
 それとも?


『意外に早く来たなぁ』
「っ!?誰!!」
 城の前で立ち尽くしていた一同へかけられた声。
 美神が反射的に前に出、他の二人を背で隠した。
 聞こえてきた声は入り口の中から聞こえた。


 入り口を睨みつけていると、出て来たのは……道化の様なメイクを施した横島の影法師。
 妙神山にて出会った存在だった。


「あっ!!アンタは!!?」
 まさかこんな所で再会するとは思っていなかった相手がそこには立っていた。
 美神とキヌは驚きで目を丸くさせる。
「だ〜れ〜??」
 知らぬ冥子は頭上に疑問符を浮かべるしか出来なかった。
『横島さんの影法師です、けどどうしてここに……?』
『害虫退治にかりだされた……って所かな?』
 微笑みを浮かべつつ、影法師は赤い球を握り締めた。
 前出て来た時に比べると、その赤みは濃かった。
「害虫……?もしかして、ナイトメア?」
 他に思い浮かぶ存在が居なかった、美神の問いに影法師は『ご名答』と楽しげに答える。
 握り締めている球も嬉しそうに光を発していた。
 影法師は薄暗い入り口へと戻って行く。
「あ〜!待って〜」
『来るならさっさと来な、害虫は核の夢を支配してる……他の奴らの夢を奪われない内にぶっとばすぜ』
 その言葉に反応したのは美神。
 再び抑えていた怒りが蘇って来たのだ。
 米神の辺りを痙攣させつつ、ズンズン中へと入っていった。
『待ってくださ〜い!!』
「令子ちゃ〜ん!追いてっちゃや〜」
 慌てて二人も暗闇の中へと消えて行った。


 一般的な人間の記憶や思考は扉によって管理されている。
 扉を開けなければ記憶も思考も表へ出る事は無い。
 必要な時じゃなければ開ける必要が無いからだ。

 しかし、ここは違っていた。


「なっ……何よ……これ」
 美神は辺りを見回し、口元を押さえた。
 あまりにも強烈な匂いが周囲を支配していたから。
 これは植物が腐り、発酵した匂いだろうか?

 入ってすぐ、瞳に飛び込んできたのは街並だった。
 それも見慣れた日本とは違う。
 辺りは薄暗く、オレンジ色の間接照明しか存在していなかった。
 路地には誰かの荷物らしきものが無造作に置かれ、壁や地面は錆で汚れている。
 壁には中国語らしき落書きが書き込まれ、いたる所に張り紙が張り付けられてある。
 太さの違う配線のコードが絡み合い、まるで蛇の様に見える。
 古臭い円筒形の郵便ポストに似たものも設置されており、手紙を投函する場所には九龍電脳と掘り込まれている。
 肌がただれた男達がタンクトップに身を包み、日常のワンシーンで停止していた。

『これは……?』
 あまりにも凄すぎる景色に、一同は言葉を失いそうになっていた。
「なんだか〜……気持ち悪いわ〜……」
 飛び込んでくる匂いとあまりにも目の前がゴチャゴチャしすぎの為、皆吐き気を覚えている。
 その様子に苦笑しつつ、影法師は郵便ポストへと手を伸ばす。
 投函部分を人差し指で軽く突くと、ポストは蒸気を出しつつゆっくりと姿を変形させていく。
『きゃっ?』
 丁度蒸気が出た場所に浮いていた為、キヌは驚きの声を上げる。
 慌てて美神の背後へと隠れ、軽く顔のみを覗かせた。
『『ここ』では他の地区に飛ぶのにクーロネットを使う必要がある、普通に移動しても良いが……
 今のアンタ達じゃ時間がかかりそうだからな』
 それだけ言うと、影法師はポストの多数の穴へと銀色のカードを差し込んだ。
 金属の擦れるような音と機械の起動音が同時に響き渡ってきた。
 ゆっくりとポストから出現して来たキーボードをいじり出す。
 その動きは素早く、迷いが無い。
『飛ぶぜ、しばらくは吐き気が止まらないかもしれないが……特に身体に影響は無い』
 それだけ言うと、キーボードを強く押した。
「えっ……吐き気?ちょっ」
 今ここに居るだけでも吐き気がするのに、これ以上のモノが襲ってくるのか?
 そう思い、声をかけようとするのだが……すぐに白い光が周囲を支配した。
 見えない腕に持ち上げられているような不安な浮遊感。
 頭の奥まで鋭い光が差し込んでくる。

 すぐに意識は喪失した。


 冥子はふらふらとしつつも、身体を起こした。
 今まで居た場所とは違い、現在居る場所は柔らかいベッドの上だった。
 五人位が並んで寝ても窮屈に感じる事が無い位、お嬢様の冥子でも大きいと思える大きなベッド。
 周囲に漂う仄かなラベンダーと思われる匂い。
「う〜ん??」
 身体をハイラが丸い身体で支えてくれる。
 周囲に目を向けると、美神とキヌが折り重なるようにして気絶していた。
 どうやら目を覚ましたのは冥子だけの様子。
「気がついたのか?」
 聞こえてきた声は影法師とも横島のものとも違う。
 ハスキーな女性の声が冥子の耳に届けられた。

 褐色の肌。
 腰の辺りまで伸びている黒髪。

 見覚えのある女性が枕をザブドンにして座っていた。
 自分達と同じ、白衣に見を包んだ女性は自分の長い髪をいじりつつ笑う。
「貴方は〜……」
「これで、三回目……だな?逢ったのは」
 枕から腰をあげ、冥子へと手を伸ばす。
 優しく頭を撫でつつ彼女は口元を孤に描いた。
「ほわ〜……」
 心地良い感覚に冥子は身を任せ、瞳を閉じる。
 本当はこんな事をしている場合ではないのだが……
「お前は……本当に似てるな」
 聞こえてくる声は優しく響く。


「死んだ妹に……そっくりだ」
 声はゆっくりと遠ざかって行った。


お久しぶりです。
前みたいに頻繁に投稿はしないよう、忘れ去られた時期に出現する事にしました。
前の話がまだ残っている内に続きを・・・

この作品に嫌悪感を抱く場合、見ないで流しちゃって下さい。
よろしくお願いします。


混沌風呂様>少しでも楽しんでいただければこれ幸いです。

柳野雫様>お久しぶりです。
親父達は基本的に馬鹿ばっかりですよね。
彼の執着は恐ろしいです、吸血鬼の執着って凄い気がしまして……
ビー球はもうしばらく先で絡む筈です。
・・・うまくいけば。

白様>はじめまして!
他の方々の小説が出来るだけ残るよう、のんびり更新ですが……
期待を裏切らないよう、頑張りたいです。

初めまして覇邪丸といいます。
1話から読みましたが横島の人格にあと二人いたらまるで「ゲットバッカーズ」に出てくる七人の弥勒みたいですね。

覇邪丸様>はじめまして、GBはイニシャルからしてGSに似てますよね。
書いていて「あぁ〜似てるなぁ」と思わずにはいられませんです。
しかも今回無限城の元ネタである城まで出ちゃいましたから、似ているに拍車が……

神那ジン様>はじめまして、そう言って貰えると幸いです。
のんびりではありますが、物語は前へと進んでおりますので。

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