唐突だが、俺はすでに三時間近く道なき道を歩いている。
周りは鬱蒼とした木々が立ち並び、奇妙な鳥の鳴き声が響いている。
「何で日本にこんなとこあんだよ……」
俺は一人つぶやく。
俺の名前は横島忠夫。
美人で、若くて、ナイスバディで(この三つ重要!)日本屈指のゴーストスイーパーといわれる美神令子さんの助手をしている。
それがなぜこんなとこにいるかというと、話は三時間前にさかのぼる
今日も美神さんと幽霊のおキヌちゃんと俺という三人で除霊の仕事に来ていた。
今回は山奥に建つ古びた洋館で、様々な怪現象を起こしている幽霊の退治だった。
国道からわき道に入って2時間、車一台が通れるような道を進んだ先に目的の洋館は建っていた。
「全く!こんな砂利道を延々と!!おかげで車に傷ついちゃったじゃない!!」
美神さんは、はねた砂利で所々傷ついている愛車を撫でる。
「にしても、こんなサスペンスドラマに出てきそうな屋敷って本当にあるんスねぇ」
俺は屋敷を見ながらつぶやく。
こんな山奥で、しかも屋敷の裏側は断崖絶壁。こんな屋敷はドラマに出てくる以外に見たことない。
『本当に殺人事件とか起こってたりして』
おキヌが冗談交じりにいうが……
「あったわよ」
「『え?』」
マジですか……?
「ここで悪さしてる幽霊ってのが、数年前にこの屋敷で殺された被害者なのよ。しかも、その殺人事件ってのが、名探偵のお孫さんでも、頭脳が大人な小学生でも解決できなかったらしくてね、まだ犯人は捕まっていないわ」
美神さんが神通棍を取り出す。
「話を聞く限り、人格崩壊が起こってるみたいだから、手当たりしだいに攻撃をしてくるわ。注意してね!」
美神さんが笑顔でいうが、俺とおキヌちゃんの顔は真っ青でした。
「卑しき怨霊よ!この世は汝の場所にあらず!黄泉の国こそ相応しい!吸印!!」
『ギャァァァ!!!』
美神さんの手にした吸魔護符に、悪霊が吸い込まれる。
ここまで来るのに、シャンデリアが落ちてきたり、刃物類が飛んできたり、割れた食器が飛んできたりしましたがね……。無論、俺が美神さんに盾にされました……。
「ふぅ、これで終わりよ。今から帰ると、夜中になるわねぇ……。そうだ!この近くに温泉があるから、今日はそこで泊まっていきましょ」
『いいですねぇ』
美神さんの言葉に、おキヌちゃんがうれしそうな声を上げる。
……ひなびた温泉宿に美女と幽霊とはいえ美少女が……。
……疲れを癒す温泉は次第に彼女たちの心を解き放ち大胆に……。
……そしてその夜は……。
「美神さぁぁぁぁぁん!!僕は、僕はもう辛抱たまりませぇぇぇぇぇん!!!」
煩悩リミッターが解除された俺は、美神さんに飛び掛る!
が、美神さんは俺のGジャンの袖と奥襟を掴んで、勢いを利用してそのまま窓へ投げ、ガラスを破る。
んで、その窓は屋敷の裏側に位置しているわけですよ……。
さて、確か裏側は断崖絶壁でしたよね?
地球には重力があるんですよね?
ものは重力により、下に落ちるんですよね?確か重力加速度は9.8m/ssでしたっけ?
まぁ、重力加速度はどうでもいいんです。
問題は十メートル以上の高さから落ちて、俺が生きていられるかということです。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!!」
「あんたはそっから歩いて来い!!!」
俺の目に、小さくなっていく美神さんの鬼のような表情と、心配そうなおキヌちゃんの表情が見えた。
そして、現在に至ると……。
「仕方ないやんか~!健全な性少年なんやぞ!!それにいつもこき使っとるやん!!ちぃっとばっかしチチやシリやフトモモ触ったって罰当たらんやろ!!!!てか、ここどこだ!!どっちに行けば国道に出られるんだ!!!」
俺は天に向かって叫ぶ。
……空しいだけだな……。ついでに迷ったし。
俺はとぼとぼと歩き出した。
そんな俺の頬に、冷たいものが当たる。
「ん?雨か……」
最悪だなぁ……。
次第に雨が強くなってくる。
「どっか雨宿りできるところは……」
辺りを見回すと、ぼろぼろの神社みたいのが目に入る。
「あそこで雨宿りするか」
俺は一目散に神社に駆け込む。
「はぁ~ひでぇ雨だなぁ。俺、宿にいけんのか……」
土砂降りの空を見ながらつぶやく。
そのとき、後ろで物音がした。
振り返ると、そこには八歳か九歳位の着物を着た可愛らしい女の子が気持ちよさそうに寝ていた。
薄い紫色の髪を肩位で切りそろえ、触覚のような癖毛が生えている。
うむ、将来が楽しみだ。
「気持ちよさそうに寝てるなぁ。でも、もう暗くなってくるし、起こしてやるか」
俺は女の子に近付くと、揺り動かす。
「お~いおきろ~。早く帰らんと親が心配するぞ~」
「う~ん……」
女の子がむくりと起き上がり、ごしごしと目を擦ってぼーっと俺を見る。
……何か可愛いな……。
はっ!お、俺はロリコンじゃないからな!!ほ、ほら!小動物の何気ない仕草に可愛いと感じる瞬間があるだろ!それと同じ感情だからな!!勘違いするなよ!?
「……眠い……」
女の子はそういうと、またこてっと床に転がる。
「おいおい!早く起きろ!!」
女の子はまたボーっと俺を見つめ、辺りを見回す。
「お~い、しっかりしろ~。はよ帰らんと親が心配するぞ」
俺は女の子と同じ視線になり、そういった。
その途端、女の子ははっとした表情になる。
「お、おぬしワシが見えるのか!?」
「はぁ?何言ってるんだ?見えるどころか、触れるぞ?」
そういって俺は、女の子の頭をなでる。
「や、やめろ!」
女の子はそういうが、何となく嬉しそうな表情を浮かべる。
……やっぱり可愛いな……。
……はっ!
「ち、違うんやぁぁぁ!!俺はロリコンじゃない!ロリコンじゃない!!小動物を可愛いと思うのと同じ感情なんやぁぁぁぁ!!不覚にもドキッとなんかしてないぞぉぉぉぉ!!!」
俺は近くの柱に頭を打ち付けて冷静さを取り戻す。
「ハァハァ……」
「だ、大丈夫か?お主額から血が出とるぞ……。どば~っと……」
女の子はちょっと引き気味だ。
そりゃそうだろうな……。
「大丈夫だ。それより、外暗くなってくるから家に帰ったほうがいいぞ。できれば、温泉か国道までの道を教えてくれると助かるけど」
「家?ワシの家はここじゃ?」
そういって女の子がこのぼろぼろの神社を指差す。
「お前何言ってるんだ?そんなつまらん冗談いってないで、家どこだよ。送るから」
「冗談でもなんでもない!ワシの家はここじゃ!!」
女の子が声を荒げる。
何だ、家に帰りたくない理由でも……まさか!!
「お前、家出か何かか?家に帰りたくないって……」
「ち、ちが……、本当に……ここ……」
女の子が目に涙をためながらつぶやく。しかも上目遣いで……。
そ、そんな目で見るなぁぁぁ!!か、可愛いじゃないかぁぁぁぁ!!!!ヤメロォ!俺をそっちの道に進めるなぁ!!
「すぅ~はぁ~すぅ~はぁ~」
とりあえず落ち着け俺。
この言動からどういうことか推理しろ。
まず、この子はここを家だという。普通こんなボロ神社を家と呼ぶ奴はおらん。
んでもって、ほかに家はないみたいだ……。
……まさか……捨て子か!!
きっと育児放棄した母親が、
「あんたは今日からここに住みな!」
とかいってここに置き去り……。
虐待を恐れるあまり、家に帰れない……。
なんて親なんだ!俺の目から涙が止まらねぇ!!!
「つらい思いしてきたんだな……。安心しろ!そんな親、兄ちゃんがとっちめてやるからな!!」
「何か、お主えらい勘違いしておらんか……?ワシには親などいないぞ?」
な、なんだってぇぇぇぇ!!じゃ、生まれたときからここに住んでいたのか!!良くここまで育ったな……。辛かっただろう。
俺は女の子をぎゅーっと抱きしめた。
「こ、こらやめろ!」
女の子はじたばたともがく。
「これからは兄ちゃんが守ってやるから……ナァ!!」
俺のあごに女の子の蹴りが決まる。
君、年末の格闘技大会出てみない?ってスカウトが来そうな威力だ。
「ぜぇ……ぜぇ……!お主人の話をまず聞け!!」
女の子が俺の頭を踏みながら言う。
そんなこと、女の子がすることじゃありませんよ……。
とりあえず、俺は正座させられ、自己紹介させられた。
「ワシの名は殺姫(さつき)。齢400を超える妖刀の化身じゃ」
と女の子は腕組みをしてのたまう。
うそくせぇ……。
「むっ!その顔は信じておらぬな!!よかろう証拠を見せよう!!!」
そういうと、殺姫と名乗る女の子は、壁に向かって手刀を放つ。
次の瞬間、壁に切れ目が入る。
「おお!」
「どうじゃ!驚いたじゃろう!!」
殺姫は胸をそらせて自慢げにいう。
……可愛い…くない!可愛くないぞぉ……!!
でも、俺は頭をなでていた。
「やめろ~!」
何となくこいつも嬉しそう。
「んでもって、お前が妖刀の化身っていうなら、本体はどこだ?」
「あれじゃ」
そういって彼女の指差した方向には、一振りの刀があった。
「これかぁ」
俺はしげしげと見てみる。
「手にとって、抜いてみよ」
そういって殺姫は微笑む。
「おいおい、妖刀ってのは抜いたら刀に操られちまうもんだろ?」
俺は前に一度痛い目みてるからな……。
「ワシはお主を気に入った。じゃから、ワシを抜くことができたらお主に仕えてもよいぞ?」
「俺が気に入ったぁ?」
「うむ、今まで幾度となくワシを見たものがおったが、そやつらは皆怖がって逃げ出してしもうた。こんな森の奥の廃れた場所で、小さな女子がおれば気味悪がるじゃろ。お主だけじゃ、話しかけてくれたり頭をなでてくれたりしたのは。それに、その刀には封印の札が貼ってあっての、ワシじゃはずすことができぬし、触ることもできぬ。本体を持って移動できなかったのでの」
そういって、殺姫は寂しそうに微笑む。
こいつ寂しかったんだなぁ……。
「悪さしないだろうな……」
「する分けなかろう!それどころか、お前に仇なすものを斬ってくれよう!!」
殺姫は真剣な表情で俺を見る。
……こいつを信じるか。
俺は殺姫の本体である刀を握る。
「あっ!そ、そんなに強く握るな……。感じてしまうじゃろ……」
殺姫が頬をうっすら赤く染めながらのたまう。
おいおい!それじゃどこ握れって言うんだよ!!
とりあえず、俺は少し力を抜いて刀を握り、鞘から抜く。
少し抵抗を感じたものの、刀を引き抜くことができた。それと同時に鞘が消える。
刀の刀身は、一転の曇りもなく美しい。
俺がその刀身を見つめていると、殺姫がまぶしいくらい輝く。
その輝きが収まると、殺姫の額には卍状の痣ができていた。
「我、修羅斬魔刀殺姫、汝横島忠夫のものとして、汝が死せるその日まで、汝を守る牙となろう」
殺姫はそういうと、三つ指をつく。
「不束者ですがよろしくお願いいたします」
「……嫁入りかよ……」
俺は刀の化身を嫁にする気はないぞ……。
そんなことより、そろそろ美神さんと合流しないと。
「なぁ、温泉どっちにあるか知ってるか?」
「温泉?……そういえば、ここから南にいったところに湯治場があったな」
恐らくそこだな。早く行かないと。
俺は刀を床において外へ出る。
「これでお前は自由だろ。んじゃな」
と、行こうとする俺の手を殺姫が握る。
「何だよ」
「聞いておらんかったか?汝が死せるその日まで、汝を守る牙となろうといっただろう?これからはワシも一緒に動くのじゃよ、主」
そういって彼女はにこやかに微笑む。
……マジか……。
「いやか……?やはり妖刀は邪魔か?」
殺姫が涙をためながら、上目遣いで俺を見る。
だぁぁぁぁぁぁ!可愛いじゃねぇか!!そんな顔されたら、ダメだっていえねぇだろうがぁ!!
「わ、わかったよ!付いてこい!!」
「よいのだな!」
殺姫がにぱっと笑う。
クソッ!可愛い!!
あかん……俺は道を踏み外しそうや……。
ふと、俺は刀を見る。
「なぁ、鞘なくなったけどどうすりゃいいんだ?このまま抜き身で持ち歩くわけにはいかんだろ?」
「そうじゃな。任せよ」
そういうと、殺姫は着物の胸の部分をはだけさせる。
ぺたっとした胸が目に入る。
うん、ドキドキしないな。俺はまだ正常だ。
おもむろに殺姫が本体の刀を握り、その胸に突き立てた。
「な、何やってるんだよ!!」
俺は慌てて止めようとてを伸ばすが、刀はすっと彼女の体に消えた。
俺は空いた口が塞がらなかった。
「驚いておるのぉ。ワシのこの体は、本体をしまう鞘でもあるんじゃ」
そういうことは早くいえよ……。
それから約3時間半。
道なき道を歩き回って、美神さんが宿泊している宿に到着した。
「み~か~み~さ~ん」
俺はふらつきながら、美神さんの部屋のふすまを開ける。
「あら、ちゃんとこれたの横島……く…ん?」
『遅かったですね横島さ……ん?』
部屋でくつろいでいた美神さんとおキヌちゃんが、俺の隣を見つめて固まってる。
「主、なんかこの者たち、ワシをみつめておるぞ?」
殺姫が小首をかしげながら、俺を見上げる。
ああ、殺姫のこと話とかないと。
「美神さん、実は……ブベラッ!!」
俺はいきなり美神さんにぶん殴られました。
そのパンチは、世界を狙えそうです。
「あ、あんた……ついに人としての道を踏み外したかぁ!そんな小さな女の子を誘拐してきて、何するつもりじゃぁ!!世間にばれる前に、私がじきじきに処理したる!!!!」
『横島さん!そんな小さな女の子は良くて、私はダメなんですかっ!!』
ああ……何か夜叉が二人います。
二人の拳がゆっくり襲ってくるのが見えます。
殺姫さん、なんで隅っこで震えてるんですか?僕を助けてくださいよ。
ドグシャッ!!
「す、すまん主。あの二人には勝てない気がする……」
気を失う前に、殺姫の謝罪が聞こえた気がした。
あとがき
初めまして。
今まで見ているだけでしたが、ふつふつと書いてみたいという思いに駆られて、投稿させていただきました。
殺姫のイメージは天上天下の「棗真夜(ちっちゃいバージョン)」でお願いします。
いたらない点などあるかもしれませんが、これからもよろしくお願いします。 m(_ _)m