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「GS横島 因果消滅再スタート!! 〜第一話〜(GS)」

もけ (2005-12-31 01:43/2006-01-09 17:11)
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文珠
圧縮した霊気をキーワードに応じた形で解凍・発現する奇跡の霊具・・・
二十一世紀現在、人間のうちでこれを生成できる者は、ただ一人である・・・・・・


『美神令子除霊事務所』
煉瓦造りの古めかしい屋敷―――旧渋鯖男爵邸、現強欲GSの城である。

「ちぃ〜っす・・・・・・って、だれもいないでやんの」

気の抜けた挨拶とともにメインオフィスに入ってきた青年、くたびれたスーツ姿の彼こそが、三界でただ一人の人間の『文珠使い』横島忠夫である。
神界、魔界にも人脈(?)を持ち、その希少な才能ゆえに人間界、神界、魔界の三界から常に注目を集めている人物である。

「う゛〜、辛い。どうなっとるんだ今年の風邪は? 普通の風邪薬なんてまるで効かんぞ」

当然である。ウィルス性の風邪に特効薬は無い。
口元のマスクをもごもご言わせながら、オフィス内をうろうろと薬品棚に取り付き、勝手にいくつかの小瓶を取り出す。
『解毒』『解呪』などのラベルの貼られた、毒々しい色の液体入りの小瓶ばかりである。
次に自分で買ってきた、厄珍印の紙袋入りの小瓶やら錠剤を取り出す。

「厄珍の薬は怪しいが、風邪治すのに文珠使うのもな〜 文珠の無駄使いは美神さんに禁止されてるし。なんかあったら直ぐに解毒薬飲めば大丈夫だろう・・・・・・たぶん」

そう、厄珍印の紙袋の中身は、主に魔術を応用した風邪薬である。
いくつか関係のないラベルも混じっている。『惚れ薬』とか。
以前、厄珍の惚れ薬で酷い目に遭ったはずだが、まったく学習していない。

「年の瀬に風邪っぴきは辛いよな〜 魔鈴さんの店も休みだし、事務所の皆も里帰りしてるし。厄珍堂が開いてただけでもまだマシか」

ぶつぶつもごもご言いながら、厄珍印の危険物をごちゃごちゃに混ぜていく。
風邪薬に限らず、薬を混ぜるのは危険極まりないのだが、特に気にした様子もないのは迂闊とか考え無しを通り越して、ある種のカッコ良さすら感じる。
風邪っぴきゆえの蛮行だと信じたいところである。

「ん〜、出来た。いただきま〜す・・・」

厄珍絡みの薬を全部混ぜて作られた七色の不気味な液体を躊躇無く喉に流し込む。
『惚れ薬』などの危険物も当然混入済みである。
面白い結果しか想像できないが、残念ながら今ここにいるのは横島だけである。
事務所にとり憑いているはずの人工幽霊一号も、今年は結界だけ残して美神親子と地中海にクルージングに連れて行かれてしまった。

従って、止める者も見物してニヤニヤする者もいない中、横島忠夫は無駄に命懸けのネタを仕込んでいるわけだ。

「ん〜・・・・・? なんか、効いてきたのかな? 体調が良くなってきた様な気がする。妙にぽかぽかするし」

『惚れ薬』の薬効であろうか。

「なんだ、魔法薬の調合なんて簡単なモンじゃねーか! ウハハハハ!」

そんな筈がない。

「ウハハハハヒギィッ!! な、なんかキタ!!!

馬鹿笑いしていた横島は妙な具合に身を仰け反らせ、椅子から転げ落ちながら痙攣をしだした。
適当に混ぜた薬が様々な化学反応と魔術連鎖を引き起こし、横島の体内で愉快な新薬を発生させたのかもしれない。
とにかく人類の至宝『文珠使い』横島忠夫は、自分で作った謎の薬で今まさに人生最大のピンチを迎えつつあるようだ。

「ああああああ・・・・・・お腹痛いような切ないような頭キリキリしながらもなんだかとっても恋しい感じがするぅぅうぅ〜〜〜〜〜っ!!!!」

風邪っぴきの呆けた頭で作った劇薬の効果は凄まじく、横島はエビみたいに体勢でフローリングを跳ね回る。
作業をしていたテーブルにぶつかりひっくり返し、解毒薬やら解呪薬やらをぶちまける。
もう目も当てられない暴れっぷりである。

「だ、駄目だコリャ。 も、文珠で急いで解毒せな・・・・!」

恐ろしくくだらない理由で文珠を無駄使いすることになりそうだが、このままでは本当に洒落にならない状態になりそうだ。
横島は、頭のどこか冷静な部分で我がコトながら情けないなぁ・・・などと思いつつ、ストックしてあった文珠を呼び出し『解』『毒』の文珠を作り出そうとした。

――――ドクンッ!!

「へ? な、なんかいつか味わった嫌な感覚が・・・・・・」


ビュウウゥゥウウウゥウゥウウゥ・・・・・

「こ、これはまさか・・・・・・!?」

横島はなんだか面白い方向に跳ね回る全身を無理矢理押さえ込み、ひっくり返した厄珍絡みの薬を大急ぎで拾い集める。
――――と、あった。適当に混ぜた風邪薬の中に、以前飲んで酷い目にあったアレが。

『時空消滅内服液』
飲んだ者とこの世との縁を断ち切り、この世に生まれてこなかったことにする薬。
劇薬というか、成功したらバッチリ歴史改変のはずだが、何故だか神界魔界から放置されている薬。
まぁ、飲んだ者が存在するはずがないのだから、薬効の有無の判断もつかない怪しい薬であるわけだが。

しかし、横島はかつてこの劇薬を服用し、危うくこの世から消滅しかかったことがあったのだ。
生き延びたのも奇跡なら、同じ薬をもう一度服用するのもある意味奇跡である。

「イ・・・・・イヤァァアアアァーーーーッッ!!!!こ、このままでは俺、消えてまうーーーーーーっ!!!?」

プロのGSとしての経験も積んだいい大人が失禁寸前である。
そんなことをしている間にも現世との縁が薄れ、足元から薄くなっているというのに。

「文珠ーーー!文珠ーーーーーーーー!! 死ぬのイヤァァァアアーーーーーーーー!!?」

プシューーーーーーーーー

文珠『解』『毒』を生成。飲み込もうとした瞬間、『解』『毒』の文珠が気抜けた音を立てて消滅した。

「な゛ーーーーーーーーっ!!? なんでやーーーーーーっ!!!?」

時空消滅内服液ほどの強力な呪いを、『解』『毒』のような曖昧な効果ではフォローしきれなかったのか、それ以外の理由か。
文珠が消滅して大騒ぎする横島だが、そんなことしてる間に次を生成すべきである。

――――ドクンッ!!

「う゛っ!? ヤバイ・・・・・い、意識が・・・・・・!!」

――――ドクンッ!!

「死にたくねーーーーーーーーー!! イヤァァアーーーーーみ゛か゛み゛さ゛ん゛ーーーーーーーーーっっ!!!?」

残念、時間切れである。
オフィスには横島のいた跡、散らばった薬品類がごろごろしているが、仕事始めにやってきた美神らが彼のことを思い出すことはないだろう。
元々いなかった人間になってしまったのだから。


『ぎゃーーーーーー!!終わりだーーーーーーー!!俺はもうおしまいだーーーーー!!!』

どことも知れぬ真っ暗闇の中を落下の感覚とともに移動していく横島忠夫。
前回は中和剤の効果もあり、『時空消滅内服液』を服用する前、24時間以内に最も印象に残った出来事を再現することで現世との縁を強化して助かったが、今回はそもそも中和剤など飲んでいない。

「ア、アカーーーン!! 風邪で朦朧としてたから何があったかなんて思いだせんーーーーーーっっ!!」

そういうわけである。
三界唯一の貴重な才能である『文珠』使いは、自分で作った冗談のような薬で消滅の危機を現在進行中である。

『思えば幸薄い人生やった・・・・・連載終了からこっち、いいことなんて全然思い出せんぞ!?』

早くも諦めモードである。
巡る走馬灯。連載終了後の彼の人生がダイジェストで流れているが、気の毒すぎて述懐できません。

『・・・・チ、チクショーーーー! こんなアホな終わりは認めんぞーーーーーー!! 絶対に生き延びて幸せになってやるぅぅーーーーーー!!』

意識下にストックされていた文珠を生成、残り七つ。
『解』『毒』は効き目無し。
身体でも霊能でもなく、因果に作用する猛毒である。
生き延びるには現世との縁を強めるしかない。

文字入力――――『復』『縁』。

現世との『縁』を回『復』させる

キィィィィーーーーーーーーン・・・・・

文珠の効果が発揮され、現世から遠ざかる速度が目に見えて遅くなる。

『や、やった! イケる! 戻れるぞ!!』

喝采を上げて、じりじりと来た道を戻り始める横島。
因果に作用する『時空消滅内服液』もそれに対抗できる文珠も、つくづく霊能の範疇ではない。

キィィィィーーーーーーーーン・・・・・

ビーダマほどの大きさの、圧縮された霊気の塊である文珠。
明らかに込められた霊力以上の奇跡を引き起こすことすらある霊具―――果たして世に伝えられているようなモノなのであろうか・・・?

『ウハハハハハ!帰れる!帰れるぞぉ〜〜!! 帰ったら今度こそ幸せになってやる!きっと幸せになってやるからなぁ〜〜!!』

キィィィィーーーーーーーーン・・・・・ッパキ!

ッパキ!?

横島の手の中で、『復』『縁』の能力を発揮していた一対の文珠が音を立てて崩れる。
当然のことながら、文珠の『復』『縁』が切れた以上、『時空消滅内服液』の効果が発揮される。

『いやぁああああぁあううぁーーーーーーっっ!!!?』

文珠の効果で無理矢理和らげられていた反動か、引き伸ばされたゴムのような勢いで引き込まれていく横島。

『文珠ーーー!文珠ーーーーーーーー!! 死ぬのイヤァァァアアーーーーーーーー!!?・・・・・・・・・っ! い、意識が・・・・・・!?』

風邪のせいか無茶苦茶に混ぜた薬のせいか、それとも霊力の限界以上の行使のせいか。
横島の意識は突然遠くなる。

――――予感がする。ここで意識を失えば、本当になにもかも消えてしまうという予感。

暗く冷たい死の予感。
その手触りを、粟立つ思いとともに思い出す。
昼と夜の境目。背中の痛み。星空。東京タワー――――そして、蛍の少女。

『・・・・・・嫌だ、消えたくない!! まだ死ねない!まだ終われない!! だって、折角・・・・・!』

彼女を犠牲にしてまで生き延びたのに。

『――――――――っ!!』

声も上げずに絶叫する。
死にたくないと、誰を犠牲にしても生きていたいと。
白む意識は狂する寸前、それでも「彼女」に会いたいと騒ぎ立てる。

残り五つの文珠に、わけもわからず念を込める。
意味を拾えず文珠は砕ける砕ける砕ける砕ける・・・・・効果を発揮。

横島忠夫は現世に復帰した。


GS横島 因果消滅再スタート!!〜第一話〜


「起きんか横島ーーーーーッ!」

衝撃、小さな痛み。
過剰な反応を引き起こし跳ね起き飛び掛り掴み掛り腕をとり捻り上げ体重をかけて一気に・・・・・・・・・おや?

「ああーーーーー!! 校内暴力っ!? やっぱり田舎で野菜でもつくっとれば良かったーーーーーー!!?」

何年か前まで見飽きていた・・・・わけでもない教室。うん、あんまり学校行ってなかったから。

『ちょっと横島くん!? 居眠り注意されたくらいで先生を締め上げるなんてある意味青春っぽいわよ!! ああっ、止めるべきなのかしら見守るべきなのかしらっ!!?』

切り揃えられた長く艶やかな黒髪、教室の中で一人だけ古ぼけた机を使っている。

「愛子か・・・・・?」

寝ぼけているのだろうか。
それとも死ぬ前に見る走馬灯か。
いや、何故死ぬなんて思ったのか。

ここは教室だ。
俺が高校二年の頃の教室だ。
授業中に居眠りして、長めの悪夢でも見たらしい。
つまり全部勘違い。ただの夢。

「だから先生、勘弁してください」

横島は、自分に腕を捻り上げられへっぴり腰になっている担任教師にお願いしてみた。

「タイガー!生活指導室に連行しろ!」

駄目でした。


「で、どーなんだ? おまえ将来のことなんか考えてるのか?」

連行先の生活指導室にて。
パイプ椅子に適当に腰掛けた担任に尋問中の横島。

「将来っスかあ・・・・?」

『――――・・・見捨てるのかね?』
白む意識。不意に思い出す忘れていた選択の瞬間。
見捨てるのか? 誰を?

「おい?・・・・・・横島?」

助かった、引き戻された。

「え・・・? あ〜・・・・美人の嫁さん手に入れて退廃的な生活したいと思ってます!」

思ってない。
心に体が付随しない。
まさに心にも無いことが、勝手に体を操っている。

「ちっとも考えとらんじゃないかっ!!」

既視感――――酷く萎えた。


「・・・・・・・・・現状を整理してみよう。」

昼休みの屋上、横島は現状の再認識を図る。
何かがおかしいのだ。
一度見た映画をもう一度見せられているような違和感。

「何でそんなことを思うんだ?」

わからない・・・・・・・わけでもない?
実際に一度体験している気がする。
試してみよう。
本当に先のことを一度体験しているのならば、今日この後に起こることもわかるはずだ。
思い出せ、何か結構なイベントがあったじゃないか? 何年も前のことだから忘れたか?

「なんだよ、何年も前って?」

病院に行った方が良くないか?
それとも美神さんに相談するか?
なんて相談する?

「八年先くらいまでのことを思い出せる気がするんですが俺は大丈夫でしょうか?」

病気です、病院で精神鑑定を受けましょう。――――駄目じゃん?
うまく立ち回れば他の結果になりそうだが、自分を把握しきる前にそんな博打染みた真似をすれば台無しになるだけだろう。

「――――そうだ、小竜姫さまが来るんだよ!」

今日、美神令子除霊事務所に向かえば、小竜姫に会えるはずなのだ。
少なくとも『八年先』の感覚はそう囁く。

「もし本当に小竜姫さまが事務所に来てたら俺は予知能力者かっ!?」

そこで横島はもっと重大なことに気付いた。

「じゃあこんなところで考え事してる場合じゃないじゃねーか!小竜姫さまぁ〜〜〜〜〜!!!」

土煙とともに屋上から駆け去る横島。
残りの授業のことなど、消え去っている。

横島は気付いていないが、既に自覚しているのだ。
自分が時間軸をずれて『復』『縁』したことに。


駆ける駆ける。
こと煩悩の懸かった横島の身体能力はモノノケ染みている。
学校から事務所まで、電車も使わずに走破する。
事務所前に到着、『記憶通り』人に化けた鬼門のふたりがいる。
ひとりは車を磨いている。もうひとりは車に寄りかかって煙草を吸っている。

――――なにもかも『記憶通り』だ。

「おお横「小竜姫さまああああっ!!」島・・・」

扉を開けてメインオフィスまでのかいだんを六段飛ばしで駆け上がる。
視界にチラリと映った鬼門ふたりは互いを慰めあっていた。知ったこっちゃねぇ(酷

「あら、横島さん! こんにち「小竜姫さまああああっ!!」きゃぁああああああああ〜〜っ!!?」

『記憶通り』ならば、ここで一拍おいてから飛び掛るわけだが、相手に身構える隙も与えず飛び掛ればイケルと思ったのだ。
小柄な小竜姫さまは抱き締めやすい上に、体温が人より高いのか柔っこい湯たんぽみたいでほにゃほにゃと気持ち良いのだ。
何でそんなこと知ってるんだ? もっと詳しく思い出せ俺!!

「もっと詳しく思い出せ〜・・・・・・」

「仏罰ですっ!!」

「今度やったら殺すわよ!?」

小竜姫の神剣と美神の神通棍でしこたま殴られた横島は、血塗れの虚ろな目つきで床に突っ伏してブツブツ言っていた。

『だ、大丈夫ですか? 横島さん?』

おキヌちゃんがまだ幽霊だ。
シャキシャキと音でも聞こえそうな勢いで鮮明になっていく意識下、横島は『記憶』と照合したおキヌとの違いを認める。
おキヌが幽霊――――違和感を伴う現実だ。
『記憶通り』ならば、おキヌはこのあと蘇生して人間として美神令子除霊事務所に復帰する。
その後、八年に渡って人間として横島らと共に過ごすのだ。
八年の経験が違和感をもたらす。

『そうかぁ〜、この娘は生き返るんだよなぁ〜』

『わかって』いれば、現在幽霊だろうがなんだろうが特に関係ない気がしてきた横島。

「おキヌちゃぁああああああんんっ!!」きゃぁああああああああっ!!?』


「じゃ、あとはよろしく」

「えー、まかせてくださいな!」

「・・・・え!? アレ、小竜姫さまっ!!?」

「もう帰ったわよ」

「え゛!!?」

横島が復帰した時すでに小竜姫は鬼門を伴って妙神山に帰山していた。

「え? だ、だってバンダナは? 心眼は? GS横島サクセスストーリーは?」

「なに馬鹿なこと言ってるのよ? 打ち所が悪かったのかしら・・・・・?」

『記憶通り』なら、ここで小竜姫さまのちうで心眼憑きバンダナを手に入れるはずでわ・・・?

「ああ、それとね横島クン。今度のGS資格試験にあんたも出てもらうからね」

「え゛?」

「メドーサの蛇女が、自分の弟子をGS業界に潜り込ませようと企んでるらしいのよ。で、小竜姫さまの依頼で私たちが今度の資格試験を秘密裏に調査することになったの」

うん? チョット待った。

俺+心眼=霊能力者・横島忠夫

じゃ、俺単体だったらどうなるんだ?無能力者・横島忠夫じゃねーか?

「・・・・・・・・・・・嫌じゃーーー!! ピートや美神さんみたいなのがいっぱい来るんでしょーが!? 死ぬ・・・!! 俺なんて死んでしまうっ!!」

「ほーほほっ・・・横島クンに拒否権なんて無いのよ! 諦めて死んできなさい」

「いやあうーーーーっ!?」

そもそも、なんで小竜姫さまのちうがないんだ!?
霊能力の欠片も無い俺がそんなところにノコノコ出て行ったら死んでしまう・・・・!
雪之丞とか出てくるのに、勝てるわけねーじゃねーかっ!!

「まあ、安心しなさい。 資格試験の一次試験で霊能力の無いヤツは落とされるから、二次の実技前に帰れるわよ」

「そ・・・・そうなんスか?」

そういえば、『記憶通り』ならそのはずだ。
バンダナの無い俺じゃあ、一次なんて通りっこないんだった。
アレ? でもバンダナも霊能力も無い俺なら落とされるけど、今の俺が本当に『八年後』の俺なら、多少の霊能力くらいは使えるんじゃ・・・?

「なに、どうしたの横島クン? 妙に静かになっちゃったけど、本当に打ち所が悪かったの?」

美神さんが滅多に見せない心配そうな表情で俺を気遣ってくれる。

「い、いいえ。なんでもないッスよ。俺はいつもどおり元気ハツラツです!」

「・・・・・・まあ、確かにいつもどおりの馬鹿だけどさあ・・・・・アンタ、ちゃんとおキヌちゃんに謝っておきなさいよ?」

「・・・・あ。」

何故かおキヌちゃんは台所で幸せそうに包丁研いでました。
謝らずに逃げました。


夜、自宅の安アパートにて。

「しかし、本当に霊能力があるのかどうか・・・・」

『八年後』の俺は、煩悩に頼らずとも霊波を自在に操れた・・・・・・まあ、血の滲むような修行の成果だったらしいが。

「血の滲むような修行でもせんと、まともな霊能身に付けられなかったってのも、我ながら情けないなぁ」

これで、もし霊能の欠片でも発揮できれば、確定だ。
『八年後』は俺の妄想や脳味噌にヒビが入ったわけでもない。
本当のコトってことになる。

「・・・よし、やるぞ!」

右手の平に意識を集中し、六角形の板をイメージする。
続いて、自身の霊力中枢――チャクラから霊力が右手に集中するように意識する。

ヴ・・・・・ヴ・・・ヴゥゥ・・・・ー・・・・ン

「・・・・・・! で、出た・・・・!!」

我がことながら驚いた。
出来るかもしれないと・・・・いや、半ば確信してはいたが本当に出来たとなるとやっぱり驚く。
右手の平の数センチ上に六角形の光輝く板が浮いている。

《サイキックソーサー》

俺が初めて自力で霊能力を行使した証だ。
・・・・・まあ、コツさえ掴めば結構簡単に出来ちゃうものなんだけどな。
《サイキックソーサー》を形作っていた霊力を体に戻す。
実は、一度作った《サイキックソーサー》を損なわずに体に戻す方が難しい。
『記憶通り』なら、GS資格試験の時の俺は一度作った《ソーサー》を霊力に戻して取り込めず、一枚分の霊力を無駄にしていたはずだ。

おかしな言い回しだが、明らかに『未来』よりも進歩している。

「・・・よし、次だ」

もう一度、右手に集中する。
今度は籠手に覆われた右手の姿をイメージし、《ソーサー》の時と同じく霊力中枢から右手に霊力を流し、籠手のイメージに霊力を満たす。

ヴ・・・・・ヴ・・・ヴゥゥ・・・・シュ〜

「あ、あれ?」

出来た。一応だが。
右手は霊力に覆われ、霊気の籠手、もしくは霊気の爪と表現できるモノに覆われている・・・・・・しかし、コレは。

「ショボっ!!」

籠手と言うにはいささか苦しい、手袋みたいな薄い霊気の膜が右手を覆っている。
試しに霊波刀の形にしてみたが・・・・・・

「・・・・・・・シロの鉛筆削りといい勝負だな・・・・・」

刀というには短すぎる。
せいぜい小刀、ハサミくらいの長さか?
あんまり頼りにはならなそうだった。

「ま、まあいいや。コレだけできれば上等だ」

《サイキックソーサー》《栄光の手》――――俺の使える霊能の全てだ。
コレが使えるってことは、GS試験を独力で取ることも不可能じゃないってことだ!

「GS横島サクセスストーリーはまだ死んでないぞーーーーー!!」

思わず夜空に叫ぶ。

「うるせぇーーーー!!」

近所のオッサンに怒鳴られた。


「さて、あとはコイツラをどの程度使えるのか試してみようか」

《ソーサー》をもう一度作り、意識を集中して部屋の中を舞わせてみる。
かなり辛いが、ある程度コントロールできる。
《栄光の手》は・・・・・・まぁ、無理だな。
あんまり期待できない。

「主力は《ソーサー》になりそうだなぁ〜・・・・しかし、なんでこんな半端なんだ?」

《栄光の手》は、『八年後』と比べると貧弱で、酷く頼りない。
――――そういえば、《栄光の手》が使えるようになった時、小竜姫さまは「霊波の出力が増している」って言ってたな。

「つまり、コレが今の俺の精一杯の出力ってコトか・・・?」

なんかヘコむ。
記憶や霊能はともかく、霊力中枢が元のままだから霊波出力が低いんだな。

「霊能は魂の能力、霊力や霊波は霊力中枢・・・・チャクラから発生するエネルギーだったな、たしか。」

『八年後』の俺は、妙神山で斉天大聖老師に弟子入りして、知識と霊能力を一から鍛えなおしたんだ。
そのおかげで、霊能の応用の幅も増えたし、煩悩に頼らなくてもやっていけるようになったんだったよな?
いや、それでも煩悩で加速した方が効率良かったんだけどな。

「俺の霊能は『集束と具現化』が骨子になってて、《栄光の手》がその顕著な例・・・・・・?」

――――違和感がある。
なにか、ひどく大切なことを忘れている。
自分の名前とか顔立ちとか、そんな物よりも忘れちゃいけないものを忘れてる気がする。
『横島忠夫』の集大成ともいえる何かを忘れて・・・・・

一緒に夕焼けを――――

・・・・・・よそう。
思い出せないってことは使えないってことだ。
霊能と霊力中枢のズレが意識にブレーキをかけてるのかもしれない。
そういえば、落ち着いて思い出してみると『八年後』までの記憶も部分的には鮮明だけど、曖昧だったり思い出せない所がけっこうあるな。

「いまはGS資格を取ることが第一だ!」

そう、俺は『八年後』から戻ってくる時に強く決意したことを思い出した。

「幸せになるんや! 美人のねーちゃんはべらせて、映画になるような派手な生活したるでぇ〜〜〜っ!!」

そうだ!『八年後』の美神令子除霊事務所の安月給平所員なんて、GSの姿としてどうなのか!?

霊能力は金になる!
俺の金の成る木をわざわざ美神さんの樹の日陰に入れんでもええやないかっ!!
そして『八年後』を知ってる俺は、上手く立ち回れば美神さんを俺の女にするのだって可能なハズだっ!!・・・・ハズだ!?

「――ハッ!? そういえば、『八年後』の俺はなんで小竜姫さまの抱き心地なんて知ってたんだ!!?」

――――思いだせんっ!! コレっぱかしも記憶にないっ!!?

「アホかーー!? 霊能以外に覚えてることなんて女以外どうでもえーーーんじゃーーーー!!!」

悔しすぎる・・・・・・・色々忘れてる中でも最も気になる点だ。

「思い出せるのは抱き心地だけやん・・・・・・・・・・・・・・・・・・はっ!? ぼ〜っとなってしまった」

ええ抱き心地やったなぁ・・・・・小竜姫さまの抱き心地をコレだけ身に馴染むまで堪能できる身分か・・・・・『八年後』が恋しくなってくるぜ!

「ぜったい小竜姫さまとエエことしたるっ!」

俄然燃えてきた!
霊能を身に付けた俺は、資格はなくともGS横島と名乗って差し支えないんではなかろーか!!? 駄目か!?

「うはははははははっ!! やったる・・・・!絶対にGS横島と名乗れる身分になったるっ!! GS横島・・・・なんと甘美な響きじゃあああああああっ!!」

「っせっつってだらぁ!!? こっクソガキっあ?! ぶっこっぞ!? んのぁっ? らぁっ!!?」

オッサン超怖えぇ・・・・・


「しかし、まぁコレではっきりしたよな・・・・・」

学校からはじまる俺の既視感。
『記憶通り』、それに準ずる現実。
今の俺が身に付けているはずのない霊能。


――――俺は『八年後』に適当に作った風邪薬を飲んで、その副作用で逆行することになったんだ・・・・・・


アレ、なんかすげぇカッコ悪くねぇ?


あとがき

はい、はじめまして。 もけと申します。

はじめてSS書いてみましたが、どうでしょうか?
少しは楽しいなぁ〜とか、死ぬほどつまんねぇ〜とか、読んで無ぇとか。

なにやらおかしな表現になってたりクドかったりするかもですが、バリバリの初心者ですので長い目で見てやってください。
一応続きモノのつもりですが、見切り発車ですので時間も掛かると思いますが、読んでいただければ幸いです。

話の流れですが、横島クンは時間を移動したわけではなく現状と『復縁』したために、『八年後』は横島クンの脳味噌の中だけ残して存在しません。
そして『八年後』は原作からも数年後の、横島クン二十五歳です。
中身が二十五歳にしては妙に落ち着きの無い子ですが、精神は肉体の影響から逃れられないということで。
二十五歳の横島クンは一言で言えば「エロカッコイイ」です。
十七歳横島クンは「エロ」ですが。

まあ、世間知らずの小竜姫さまなんか簡単に引っ掛かります。
肉体の影響下とはいえ、エロカッコイイ横島クンであった人ですから、根っこはエロカッコイイのですが。
今後に期待してくだされば・・・・・・たぶん。

次はGS試験です。やっとまともな話になる・・・・・・なる?
ハイ、なるはずです。
それではお楽しみに。

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