空が黄昏色に染まる。
瓦礫の山が延々と続く荒れ果てた大地。
かつて東京という、人々が栄えた場所である。
もはや草木一本生えていない土地に一つの人影があった。
その人影の名は、横島忠夫といった。
「そろそろ限界だな・・・。」
横島の体は、腰から下が無くなっていた。
「俺もそろそろそこに行くのか・・・・・。むこうでは、みんなに会えるこ とができるかな・・・・。」
そう言った横島の顔はホッとしていて、しかし、今にも泣き出しそうだった。
かつて起きた大戦からしばらくして、横島の体に異変がおきた。
小竜姫やヒャクメが調べた結果、魔族因子が覚醒していることがわかった。
さらに、あの大戦のときにアシュタロスの結晶体を『破』壊した際、その結晶体の欠片の一部が横島の体に入ったらしく、その力が魔族因子の活性化を招いただろうとヒャクメから言われた。
このままでは魔族因子に横島の魂が侵食され、半人半魔になるか、最悪死ぬ可能性があり、それをふさぐために妙神山で修行することになった。
斉天大聖も協力してくれたおかげで最悪の事態は免れたが、魔族因子を抑えきることはできずいずれ魔族化することはかわらなかった。
横島自体、魔族化することに特に文句はなく、パピリオは喜んでいた。
小竜姫はなんかむくれていたが・・・・。
しかし、神族の方はそうはいかなかった。
文珠という強力なアイテムを作り出せる者が魔族になるのだ。
それは神族にとって驚異になると一部の過激派が横島を殺そうと人界に襲いかかった。
世界最高峰のGSである美神や、ネクロマンサーであるおキヌ、人狼であるシロ、金毛白面九尾の狐の転生態であるタマモ、魔神殺しにして人界唯一の文珠使いである横島がいる美神除霊事務所であっても、中級以上の神族が複数襲ってきたら対抗しきれなかった。
異変を察知し、駆けつけてきた仲間たちも一人、また一人と命を失っていった。
仲間が皆殺しにされたとき、横島の魔族因子が完全に目覚めさらにエネルギー結晶の力も解放され、上級神魔に匹敵する力を手にいれ、襲ってきた神族を殺しつくした。
妙神山からこの件を聞き、駆けつけた小竜姫とヒャクメが駆けつけたときには血の海に一人たたずみ涙を流す横島がいた。
この事件の後、横島は完全に神界の敵とみなされ人界に神族が攻め込んでいった。
また、その行動に魔族側も触発され、人界に攻めて行き大規模な戦争、所謂ハルマゲドンが勃発した。
横島はあろうことか、かつて恋人と引き換えに救った世界を滅ぼす引き金となってしまった。
「ルシオラ。お前を犠牲にして救った世界を、俺が滅ぼしてしまった。
みんなも俺のせいで死んでしまった。
俺は確実に地獄行きだろう。
みんな、ホントにごめん・・・・・。」
横島の目から涙が流れていた。
ふと、横島はあることを思い出した。
かつて未来から自分がやって来たこと。
彼が美神と結婚していたこと、
妻である美神を助けに来たこと。
それは文珠で忘れ去ったはずの記憶。
それがなぜ今になって思い出したのかはわからない。
だが、横島の頭に一つのことが浮かび上がった。
平行世界という言葉が。
「平行世界か・・・・
だが俺の体はもう持たない。平行世界に行くことは無理だろうな・・・。
では記憶だけならどうだ・・・・・。
俺の記憶を過去に送って、未来を変える・・・か。
おもしろい。やってみようじゃないか。」
俺はもうじき死ぬ。
おそらく、この世界もそう長くないだろう。
なら、せめて別の世界だけでも幸せになってほしい。
横島は、まず『記憶』を文珠に刻み、さらに今まで学んだ『技術』や『経験』『能力』などの文珠を作り、自分の霊気構造を文珠に『模写』し、これらを『継承』させる。
残りの命を削ってまで、大量の文珠を作り出し、一つの文珠に『収』め、
これらの文珠を『過去』へ『転送』する。
文珠は一瞬輝くと、彼方へと飛んでいった。
「俺は何も救えなかった。
だから、せめて俺の記憶を受け取った俺の世界は幸せにしてくれ。
身勝手な願いだが、たのんだぞ。過去の俺よ・・・・・。」
そう言った横島の体から力が抜け、もう二度と動くことはなかった。
滅びた世界の横島の記憶は時を駆け抜ける。
かつての自分の過ちを犯さないために。
この記憶を持ったことで、未来がどう変わるかわからない。
ただ願うは、その世界が幸せでいられるように・・・・・。
あとがき?
はじめまして。シマンチュといいます。
皆さんのすばらしい作品に触発され、分不相応にもSSを書いてみたいなと思いました。
こういうのは、初めての経験なもので、ドヘタクソで見苦しい点もあるかと思いますが、広い心で読んでください。
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