バタン!
「う〜〜、寒寒〜」
北風ビュービューふく寒空の下
私はやっとのこと目的の場所、いえ目的の物がある場所へと辿りつきその物の中へと足を入れる
長かった道のりで冷え切った体を温めてくれる人間の発明品第2位(1位はカップうどん)が、私の冷え切った体を足からジワジワと暖めて…
くれない♯
「…ちょっとなんで電源入ってないのよヨコシマ♯」
「じゃかましい!!何我が物顔で勝手に部屋ん中入ってコタツを陣どってんのじゃタマモ!!」
「いいじゃない今更、今日に始った事じゃないんだし」
「たく、お前が毎日コタツに入りにくるおかげで光熱費がどんだけ…」
いちをこの部屋の主であるヨコシマが滝の涙を出しながらも電源を入れてくれる
ん、良い奴良い奴♪
「…強めて」
「だーもう、我侭狐がぁーー!!」
だって寒いんだもん
ヨコシマは言われるがままコタツに頭から入り込んで、熱を強めた
「……今日は黒か」
「何見てんのよ!!」
コタツの上に乗ってたみかんの皮(多分ヨコシマが食べたものね)をヨコシマの顔に投げつける
ヨコシマは顔に張り付いた皮を取ってゴミ箱へ投げ入れ、私とは反対側へ入る
「あ〜此処ってろくな物無いけど、これだけは最高だわ〜」
「犬なら犬らしく駆け足回れやタマモ」
「……寒そうねヨコシマ?あっと言う間に暖めてあげよっか?♯」
「ごめんなさい、もう言いません、好きなだけ暖まってってくださいタマモ様、だからその狐火しまってください」
そう言われて狐火を消す私
そして不服そうなヨコシマ
ここ数日で見られる日常
最近ヨコシマと日課となってるやり取り
コタツが暖かいから、私は此処に来る
狐はコタツで丸くなる
事の始まりはテレビ
去年の正月番組を振り返っている映像で、お笑い芸人の出っ歯(名前忘れたわ、なんか怪獣とか呼ばれてたけど)がコタツに入って何やら騒いでいたのを見た事
「あれ何?」
「ん、お主コタツを知らないんでござるか?」
隣で一緒にテレビを見ていたシロが馬鹿を見る目で…いや、これは珍しい生き物を見る目ね
こっちを見た
シロにこんな目で見られるなんて不名誉以外なんでも無いわ
でも知らないモノは知らないんだし、私が殺生石から蘇ったのが去年の始まり
で、その数週間後から此処に住むようになって、今の冬が此処に来てから初めての冬
それまでは石の中で眠ってたんだし、知らなくて当然よ
でもどっかで見た事あるような気が…
「あー!初めてヨコシマに会った時、アイツん家にあったわねそういえば…」
「なぬ!?お主初めてで先生の家に行ったでござるか!?」
羨ましがるシロにちょっと優越感
あ、また思い出したけど、あの後おキヌちゃんってアイツん家に泊まったのかしら?
今度聞いてみよう
ってそれは良いとして結局コタツて物はまだ分かってない
とは言えシロに聞くのは癪だし癇にさわるしムカつく
現物はヨコシマの所にあるし、行って直に調べてみればいっか
「ちなみに此処には無い…の…ってあれシロ?」
事務所にあるなら態々ヨコシマの所まで行く必要は無いから横にいた筈のシロに尋ねたら…既にシロは横におらず
「雪でござるーー!!」
窓の外で津々と降る雪を見ておおはしゃぎしていた
あの様子だとさっきまでの会話は既に頭の中に無いわね
「まさに犬ね…」
「先生と雪の中で散歩でござる!!ロマンチックでござろーなー!!」
私には凍死寸前なのにシロに引っ張りまわされるヨコシマが見えるわ
「行って来るでござるよーー!!」
お約束で何処から出したかは謎なソリを引っ張って、シロは事務所を出て行った
そんなシロを窓から眺めながら私は
「…ご愁傷様ヨコシマ」
合掌
ちなみにおキヌちゃんに泊まったかどうか聞いたら
「何も無かったの…せっかく2人っきりだったのに…」
凹んだ
こちらも合掌って事で
◇
「まあアイツがいようといまいと私には関係無いわけで…」
シロが出て行って数分後
雪が降る中、私はマフラーと手袋、それにモコモコした服(なんて言うのかしら?){ダウンジャケット}を着て横島邸をめざす
邸なんて付けるのは嫌味よ嫌味
まあ別に今日今すぐじゃなくても良いんだけど、気になるんだからしょうがない
他にする事も無いんだし…
「でも、ちょっと失敗ね」
空を見上げれば吸い込まれるような光景
白い雪が、遥か上空から降りてきて──
寒さは段々と私を蝕んでいく
よく覚えてないけど
殺生石で眠る前
弓で撃たれる私、追う人間達
追い詰められて、とどめを刺さんとする人間達
体が凍えて
死ぬ恐怖
記憶に無いけど、覚えてる
迫り来る死
死の間際の寒さ
とても寒く、なのに体中から汗が出て更に冷たい
嘲笑う人間の顔
冷たい顔
生まれる熱──怒り、憎しみ
生まれる冷──悲しみ、恐怖
「………」
「ねえねえ、どっか遊びいか…ひっ!?」
この寒いのにご苦労な男
でも今私に声をかけないでくれる?
今私は持っていかれかけてるから
今何かあれば、私は簡単に人を殺せる
時々だけど、そうなるの
人間を憎んでないわけじゃないから
許したくても許せない
私に染み付いた憎しみと怨みが、寒さによって表に表れているから
「行くの…止めよっかな…」
そう行って吐いた私の息は、雪の白さに混じって消えた
余程怖い顔してたのね私
さっきの男が、雪で足をとられながらも滑稽に逃げって行く
「……どうしよっかな」
口はそう言ってても、もう私の中では決まってる
事務所へ戻ろう
そして暖かくして眠ってしまおうと─
そうすれば明日にはこの心も元に戻ってる
ゴミくずのように人を殺す事になんの抵抗も無い今の私が、横島の部屋まで行くのは危険だ
できればもう、誰も声を掛けてこないで
私はそう願いながら、事務所へ戻る方向へ爪先を向けた
「ねえねえ、どっか遊びいかない?」
「………」
爪先を向けたら、目の前にニヤニヤニヤ付いた馬鹿が冗談混じりでナンパしてきた
知ってる馬鹿だけど、やっぱり私はさっきの男にしたように睨む
殺す
そんな意味を含めた目線を
だけど
「…どうしたんだタマモ?そんなに目を細めて、目でも悪くしたんか?」
「違うわよ♯」
「目にゴミでも入ったか?どれ…」
全然効かない
それどころか右手を私の左頬に、左手を私の右頬に当てて親指で下まぶたを引っ張って覗き込んでくるヨコシマ
その手は冷たくて、さっきからずーっと冷えてる私の体温を更に奪う
「ちょ、こらこの「ジッとしてろやタマモ…おー綺麗な眼〜してんなお前、ゴミなんて入ってないし…」だぁー!だからゴミなんて入ってない!!」
暴れるのを押さえようと力がこもってたヨコシマの手をやっとこさふり払い、とりあえずヨコシマの手の届かない安全圏へ避難
『綺麗な眼』
……あ、当たり前よ
私は金毛白面九尾の狐なんだし///{根拠になってない}
「大体アンタなんで此処にいるのよ?」
「シロの散歩帰りだよ、寒いんで強制終了だ。で、その途中でお前がボケーっと突っ立てるからナンパ待ちかと…」
「何処の世界に住宅街の道中ど真ん中でナンパ待ちする人がいるのよ!!」
「い、いや人はおらんだろうけど妖怪なら…」
そう言ってヨコシマは私に指を指す
「してなーーい!!」
「あ、そうなんだ…」
本当に私がナンパ待ちしてたなんて思ってたのかこの馬鹿?
人を、いや妖怪をなんだと思ってるのかしら?
「お前は?」
「私?私は……」
あれ?そういえば私はなんで…
え〜っと、確か…
「アンタん家にコタツを見にいこうかと…」
「はあ?」
私が言った事に「ワケが分からん」なんて顔をするヨコシマ
む、ムカツク…♯
「コタツって、あのコタツか?つーてもあのコタツ以外俺も知らんけど…冬の名物の?」
「そうよ♯事務所に無いし、生まれて間もないんだから知らなくて当然でしょ」
「赤ん坊がモノを知らんのと一緒か…」
あ、赤ん坊って…
こ、この馬鹿やろうムカツクわね!
私はちゃんと自分で食べるし、トイレも行くわよ!!自分で拭くし!!
「赤ん坊と一緒にしないでくれる?♯」
「はーいはいはい…」
イライライラ♯
「子供扱いするな、ヨコシマの癖にー!!」
「わかったわか…ってそのデッカイ狐火しまえタマモ!!すまん、俺が悪かった、だから…な?」
「うるさいこの馬鹿ぁーー!!」
ゴオオオオオオオオオオオオオ!!
「はぁ、はぁ、はぁ…あっ」
気がつけば目の前にはコンガリヨコシマ
バターでも塗ったら、シロ辺りが喜んで食べそうね…色々な意味で♪
ちょっとスッキリしたわ
「…とりあえずアンタの部屋行ってるから、じゃね♪」
「お、お前なぁ〜…ふぐっ」
雪は良いわね…
醜いものを、真っ白に染めて隠してくれる
力尽きたヨコシマの上に雪が積もっていくのを後に、私は部屋の主のいないヨコシマ邸を目指す
◇
「……ってなんでアンタの方が先にいるの!?」
ヨコシマの部屋に辿りいたら、何故か先ほど焼きあげた筈のヨコシマが既にいた
「ふっ…漢の部屋はお子様のタマモには刺激が強すぎると思ってな」
「まーだ子供扱いするか…もっぺん燃やすわよ?」
「すんません、あんまりな状態の部屋だったんで文珠で先回りして片付けてました」
先ほどの効果がまだ残ってるようね
よしよし
「で、コタツって…これよね?なんかテレビで見たのより2回りぐらい小さいんだけど…」
部屋の真ん中で陣取ってるテーブル
テレビで見たのより小さいけど布団?を挟んでるから間違いないわね
「なんのテレビ見たかは知らんがコレは1人暮らし用なんだよ、贅沢言うな」
「これに足入れるわけね、それで暖かいと…」
布団って被るから暖かいのよね?
作りからして中は空洞、なんでそれで暖かいのかしら?
私が訝ってると、ヨコシマが察したのか「入ってみろ」と自分が入ってる反対側を指差した
言われるがままに入る私
やっぱり暖かくない
「………実はコタツ自体がこんなもの、ヨコシマのコタツが壊れてる…この2つ?」
「失礼な、よっしゃそんじゃスイッチオン!!」
無駄に気合の入った声で何やら手元でカチッて音をたてるヨコシマ
するとホワッと足に温かみが当たる
「あ…暖かい…」
「そうだろそうだろ♪」
冷えた足がゆっくりと、しかし確実に暖まってそこから体全体へと温かみが上る感触
背中がゾクゾクッっとするなんとも言えない高揚感
「ふ、ふえ〜〜〜…」
「プッ!な、なんだ今の声は!温泉に浸かるおばさんみたいだぞ!!」
「だ、だって〜気持ちいいんだもん…CMでも言ってるでしょ?『子供だって美味いんだから、飲んだらこう言っちゃう』って…あ、あれと同じよ」
「…やっぱ子供なんじゃん」
「う、うるさい!!…ふえ〜〜」
あ〜駄目だわ
怒るにも、その力が抜かれてく…
ち、力が入らない
グデ〜〜〜…
あーー台の上がひんやりとして、でも体は暖かく──
「食うか?コタツに入りながらコレ食うのが美味いんだぞ」
「み、みかん?」
台に顔を落としながらグデ〜っとする私の前にチラつかせるは剥かれたみかん
口を開ける、さあ入れなさい
パクッ
「美味しい…ふえ〜〜」
「猫よりハマッてるなお前…」
外が寒かった所為か、私は速攻でコタツの魅力に取り付かれてしまったらしい
もう出たくない
このまま眠ってしまいたい
悪魔タマモも天使タマモも
『さあ寝てしまえ』
『寝ちゃ……いいわね別に』
ん、仲良しね
「ほれ、もうまるまる一個食うか?」
ヨコシマが今度は剥かれてないみかんをチラつかせる
あ〜んっと口を開けて私は剥かれたみかんを待つ
「自分で剥けやタマモ」
「めんどい、ヨコシマ剥いて」
「我侭なやっちゃな〜」
苦笑いしながら私のためにみかんを剥いて口の中に入れてくれるヨコシマ
あの時コイツが現れなかったら、私はこのコタツの暖かさもみかんの美味しさも知らぬままだったんだろうな〜
そう考えると、偶然なんだろうけどコイツに感謝ね
「あんがとヨコシマ♪」
「どういたしまして…」
きっとみかんの事だろうと勘違いしてるわね
それはそれで別に良いけど
私はちょっとずつウトウトし始めて
「ク〜〜〜…」
「あ、寝ちまいやがったコイツ」
寝た
此処には私を殺そうとする人間も、心を蝕む寒さもない
いるのは私のためにみかんを剥くヨコシマと、心を暖めるコタツだけ
安心して、私は睡魔に身を委ねた
◇
あれからと言うもの、私はヨコシマの部屋へ行くのが日課となった
時にはそのままでコタツで寝てしまい次の日を迎える事もしばしばある
ヨコシマもヨコシマで、口では嫌そうにしながらもみかんと狐うどんを用意してくれてる辺り、本心では嫌がってないと思う…うん
「なあ、コタツで寝んの止めないかタマモ?次の日に必ず美神さん達に白い目で見られるんだが…」
「嫌よ。そうだヨコシマ!アンタこのコタツ毎日事務所の屋根裏に持って来てくんない?そしたら態々此処まで来る必要もないしアンタも白い目で見られないじゃない?」
「んな事できるか!!」
「そうよね〜、はふ〜〜〜…」
まあ、もしそうなったら皆も入ってくるだろうし、ヨコシマも私だけにみかんを剥いてくれる事もなくなってしまうわね
やっぱりこのコタツは此処に、ヨコシマは私のためにみかんを剥くんじゃないと
ヨコシマとみかんとコタツ
3セットじゃないと…ね?
「ほーら、みかん剥いてよ…」
「はーいはいはい…はあ、最近みかんを剥くのが上達してるぞ俺」
「上達してどうなんの?」
「黄色い皮を剥くだけで、一緒に白い筋まで綺麗に取れる!…アホくさ」
あ〜んと口を開ける
するとヨコシマがみかんを入れてくれる
寒さに耐えた私に御褒美
コタツが暖かくて、ヨコシマがみかんを剥くから、私は此処に来る
{あとがき}
クリスマスバージョン嫉妬団話が思い浮かばず、しかもバイトは稼ぎ時で忙しく…し、死んでまう寸前義王です
そんな中書いたこの話
どうでっしゃろ?
なんかタマモがタマモっぽくない気もせんでもないんですが…
ほのぼの感が伝わればいいけど…