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「せかいはまわるよどこまでも〜27〜(GS)」

拓坊 (2005-12-20 17:16/2005-12-22 17:17)
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〜横島視点〜


「ん、むぅ…」


今俺がいるのはボロアパートの自分の部屋。昨日はちょっと遅くまで除霊があったから眠るのが遅くなっちゃったんだよな。
今何時だ…ああ、もう六時じゃねぇか。くそっ、早く起きて朝のトレーニングしないといけないんだけど…


ふんっ! はぁっ!! おりやぁぁぁぁぁ!!?


くっ、駄目か…布団の中が気持ちよすぎて外にでられないぜ。
いや、布団ってのは良いもんだな。まさに古くから伝わる日本人の文化の集大成だな。

俺は布団の中で寝返りをした。手になにやら柔らかいものが当たったので俺はそれを両手で抱き寄せた。

ん〜、毛布も良いよな〜。この柔らかい感触。さらさらな手触りもいいし、匂いの方も甘い香りがして良い気分だ。そして何よりこの凍えるような冷たさが冬の季節を乗り切らして…


って、待てよオイ! 何故毛布が冷たい! って、おわっ!? 毛布が体に絡み付いてくる! つーかよく考えたら俺の部屋に毛布はねぇぞ!?


俺はすぐさま体を起こして布団の中を確認した。
すると其処には当たり前だが毛布なんてものは無く、俺の背中に手を回して胸の辺りに顔をうずめている白い着物姿の女の子がいた。


「な、なんじゃこりゃーー!!」


朝早くから俺は某ジーパン刑事風に腕を広げて大声で叫んだ。

な、何をしたんだ俺? こんな中学生みたいなお子様に俺は興味は無いぞ? 後二、三年したらど真ん中ストレートだろうがな!

って、そうじゃなくて! まず考えなければならないのは何故この女の子が俺の部屋の俺の布団の中で寝ているかってことだ!
昨日朝出るときは何も異常なかったし、鍵もちゃんと閉めてたな。んじゃ、帰ってきたときはどうだ?
ん〜、疲れてて曖昧だがまず部屋の中には誰もいなかったな。んで、俺は疲れてたからちゃっちゃと眠っちゃって…
あれ? じゃあどうやってこの女の子はマイ・布団の中に入ってきたんだ?


「そういや…キイ兄がこの部屋に結界張ったって言ってたよな」


何でも悪意を持つものを問答無用で排除して、内側の情報は象が百頭一斉に鳴いても聞こえないって言ってたな。
そういやその時、ナニをするときに必要だよねってキイ兄が言ってたなぁ〜キイ兄微妙にストレートすぎるぜ。それに…分かってんだろう……


「俺にはナニ依然に彼女すらいないんじゃーー!!」


くそうっ! 俺だって…俺だってぇ……

俺は頭をうな垂れせて肩を落とした。と、そこに可愛い顔ですやすやと眠る女の子の顔が視界一杯に広がる。
はぁ〜、肌も雪みたいに真っ白いし、顔もめちゃくちゃ整ってるし、髪の毛も煌く純白で綺麗やなぁ。
うっ、今更気付いたが何かお腹の辺りに柔らかいものが…こ、これはまさか…?


「はっ!? 駄目や! 違うんや!! こんな少女に欲情しちゃあかん! 俺はロリコンやないんやーー!!」


俺は手近にあった机を引き寄せてその上に頭をぶつける。

煩悩退散! 煩悩退散! 煩悩退散!

煩悩退散んんっ!!!


ふっ…これでもう大丈夫だ。煩悩は完全に俺のハートの中にあるコスモに押し込んだぞ。ちょっと漏れ出しそうになったが早朝の満員電車の如く詰め込んでやったぜ。


「ん、むぅ…もう朝?」


おおっっと! 流石に騒ぎすぎたか。起こしちまったようだ。
女の子は目を覚ますと俺の背中に回していた腕を解いて、布団の中央にちょこんと座る。
むぅ、なんだか柔らかいものがなくなってちょっと残ね…って、はぅぁっ!?


「だから違うんやーー! 静まれ俺の漢の浪漫よーー!!」


俺はこうなりゃ最終手段と霊波を手の平に集中させて、それで思いっきり自分の額を叩く。


「サイキックインパクト・弱!」


自分の霊波が衝撃となって俺の頭を揺さぶった。
ぐおぅ…自分の技ながら効くぜぇ……ちょっと意識が飛ぶかと思ったぞ。

俺は自分の煩悩をほぼ物理的に退散させて、平常心を保ってから少女の方に振り向いた。
少女の方は眠そうに眼を擦って口を押さえて小さく欠伸をしている。
暢気だなぁ、おい。知らん男の部屋で一緒の布団に寝てたってのにその反応は無いだろう。何かされてたらどうするんだよ。まあ何もやってないけどさ。

とりあえず、この子が誰なのか確認しないとな。


「えっと…どちら様かな? おっとその前に自分から名乗らなきゃな。俺の名前は…」


「知ってるわよ。横島忠夫よね?」


ありゃ? あっちは俺のこと知ってんのか? どっかで顔合わせたことあったっけなぁ…
母さんや親父の親戚とは会ったことないし…こんな中学生みたいな女の子との出会いなんて記憶に無いぞ?


「あら? 私のこと覚えてないの?」


うっ、どうやら完全にあったことがあるようだぞ。いったい何時だ? 何処で会ったんだ? こんな可愛い子なら守備範囲外でも覚えていそうなんだが…

俺は腕を組んで首を捻って思い出してみる。


「なかなか薄情ものねぇ、人間」


「ちょ、ちょっと待って! 今思い出すか……人間?」


あれ? 何かその呼ばれかたつい最近されてたような…

俺の頭の中に、雪山の中で煌く粉雪が空へと登っていく光景が映し出された。

えっ? あっ、いや…でも……へぇ!?


「あ、あの…もしかして雪祢さん?」


「そうよ。久しぶりね横島」


雪祢さんは薄く微笑んで俺の頬を撫でる。ひんやりとしたその手が触れて俺の背中にぞくっと、寒気とそれ以外の何かが奔っていった。


「いや、何か一杯聞きたいんだけど…まず雪祢さんどうやって入ってきたの?」


俺は最初に浮かんできた疑問を雪祢さんに尋ねてみた。


「窓の隙間からよ。ほらこうやって…」


そう言った途端に雪祢さんの体が揺らいで煌く雪と氷の霧に代わった。ああ、それなら隙間から入ってこれるわ。結界の方も害意が無いのは素通りだって言ってたしな〜

と、其処で俺はふと窓の方に視線を向けた。何故かって言うと、何か変な気配を感じたからだ。
俺のいる部屋は二階で、窓の外は足場というものは無い。それなのに、其処には確かに人影があった。
その人影は青い髪に赤いジャケット、そして両手にデジカメとビデオカメラを構えている。


「何やってるんだキイ兄ーー!!」


「うおぅっ! ばれちゃったか!?」


キイ兄は慌てて両手のブツを懐にしまってから窓を空けて部屋の中に入ってくる。


「コラ待て、キイ兄! 結界張ってるんじゃなかったのかよ!」


人の部屋を盗撮するなんて害意ありまくりだろう。


「はっはっは。そんなもの、自分には作動しないようにしてるに決まってるじゃん」


キイ兄に筒抜けならプライベートなんて在って無きに等しいじゃねぇか! 結界張ってる意味ねぇって!


「ん、君が雪祢ちゃんだね〜自分は忠っちの保護者役のキイだよ。よろしくぅ!」


「俺無視すんなよキイ兄!」


「ええ、よろしくねキイ」


「って、雪祢さんまでそっちの味方なの!?」


くそぅ…何で俺ばっかりこんな目に…
…まあいいや、兎に角今はこの事態を説明してもらおう。


「なあ、キイ兄。雪祢さんは確か氷雪の涙で転生したんじゃなかったのか?」


「ん、そうだよ」


「じゃあ何で雪祢さん此処にいるんだ? しかも若返ってるし…」


ああ…若返るにしてもあと三年、いや、二年で良いから成長してれば文句なしだったんだけど…


「だから、転生したんだよ雪祢ちゃんはさ」


「へっ? けど転生って前世の記憶とかなんて殆ど引き継がないんだろう普通?」


キイ兄の講座で習ったことによると、転生ってのは確かに前世の記憶を持ってたりするけど、それはあくまで記憶であって転生した後の人格がそっくりそのまま上書きされるようなことは無いはずなんだよな?


「ん〜、雪女の転生は特別だからなぁ。別に輪廻の輪に戻ったりするわけじゃなくて、あくまでも山の霊的構造にもどされて再構築されるってことだからさ。

それに…ん、まあこれは仮説なんだけど…」


キイ兄が握った手をあごに当てて考え込んでいる。言うべきか言わぬべきかなのだろうが、此処まで来たらさっさと教えて欲しい。


「何だ? もったいぶらずに言ってくれよ」


「…忠っちと雪祢ちゃんってキスしたよね?」


「ぶほぁっ!?」


キイ兄の質問に俺は思わず噴いてしまった。行き成り何を聞いてくるんじゃキイ兄!
俺が右手にスナップを聞かせて突っ込もうとした瞬間、


「ええ、したわよ。舌を絡めるほどに深い奴を」


雪祢さんが至極まともな顔ではっきりとそう断言した。
これが美女の姿のままの雪祢さんだったらまだいい。だが今の姿は中学生くらいの美少女なのだ。そんな雪祢さんにそんなこと言われたら俺は…俺はぁ……!


「あああああああああああ〜〜〜〜ロリコンじゃないぞーーー!?」


俺は布団の上を頭を抑えてごろごろと転がった。
消え去れー消え去れー! 今の雪祢さんとそんなシーンを想像するんじゃないマイ・ブレインーー!!


「それでね。ちょっと気になって調べてみたんだけどさ、雪女のキスって言うのは特別な意味があるんだよ」


そう言ってキイ兄が畳に頭をぶつけている俺に一枚のレポートのようなものを渡してきた。
えっと、何々? 雪女の接吻…ああ、キスのことか…は本来生涯の伴侶とするべき相手に対してのみ捧げるもので、殆どの場合がその伴侶を氷漬けにして自分の手元で愛で続ける…


「って、恐っ! 思いっきりホラーな話やん!」


「まあまあ、続きを読めば分かるって」


そ、そうだよな。雪祢さんに限ってそんなことしないか。
続き続き…あ〜、だが極稀ではあるが雪女は人と同じようにその伴侶を愛し、添い遂げるという例も少数だが確認されている…


「ほっ、な〜んだ。じゃあ雪祢さんは後者だな」


いや〜、助かった。あのとき氷漬けにされて雪山に監禁なんて流石に嫌だからな。


「うん、それでね。ここからが自分の仮説なんだけど……雪祢ちゃんの本体である雪山が忠っちを雪祢ちゃんの伴侶として認めちゃったみたいだね」


「ああ〜、つまり俺と雪祢さんは夫婦ってこ…何ーーー!?


オイオイちょっと待て! 何でまた行き成りそんなことに!?


「うん、その所為で雪祢ちゃんは記憶とか全部そのまま転生させられて、変わったのは姿だけって感じかな」


「いや、もうそんなことどうでも良いから俺が聞きたいのはその『夫婦』とか『夫婦』とか『夫婦』の部分なんだが!?」


「結局『夫婦』の部分しか聞いてないわよ?」


雪祢さん冷静な突っ込みありがとう。
しかし男には…いや漢には退いてはならないのだよ! まだ結婚も出来る年じゃないのに人生の墓場行きなんて嫌じゃーー!!


「まあ、結局は当人達の心次第なんだし。そんなに気にすること無いと思うよ?」


そうなのかもしれないけどさぁ。なんつーか男の責任って言う奴が…


「大丈夫よ。私だって別に行き成り結婚とかをしに来たわけではないしね」


「雪祢さん…やっぱりいい人やアンタ〜」


おキヌちゃんとはまた違った優しさがあるな〜


「けど…今は冬だから良いけど夏になるとまずくないか?」


「そうだね〜。多分常に霊力が十分に補充されてれば良いから…方法は二つかな。

一つは精霊石とか身につけて霊力を補充すること」


「ふむふむ、後一つは?」


「忠っちが雪祢ちゃんの御主人に…「却下ぁっ!」…そう? 結構良い案だと思ったんだけど」


人工幽霊壱号だけでも納得するのに結構掛かったのに…雪祢さんみたいな美少女に『ご主人様』とか『マスター』なんて呼ばれたら俺はもう日の当たる場所を歩けなくなっちまうわ。
いや、まあちょっとそそられるものはあるけど…って、いかんいかん。落ち着け俺、ビークールだ。


「まあ、それじゃあ雪祢ちゃんの精霊石は忠っちの給料から引いとくね」


「待てぇっ! 俺の給料から精霊石の代金引かれたら一円も残らんぞ!」


精霊石は平均でも数億円はする超高価なオカルトアイテムだ。俺の給料から引かれるとなれば向こう数年間のタダ働きしないといけなくなるぞ! どうやって生きてけって言うんだ!


「しょうがないなぁ、まあ今回は自分が出してあげるよ」


キイ兄は懐から綺麗な髪留めを取り出した。その中央には大きめの精霊石が嵌めこまれている…すっごい高価な髪留めだな。
つーか準備良すぎないかキイ兄? 何時の間にというか何のためにこんな髪留め用意してたんだよ。


「じゃあ、住む場所はここでいいよね?」


「ええ、構わないわ」


キイ兄の言葉に雪祢さんが躊躇うことも無く頷いた。
ちょっと待て。いや、待ってくださいお願いします。


「雪祢さん。俺は今一人暮らしですよ?」


「それがどうかしたのかしら?」


雪祢さんは微笑を浮かべて俺の瞳を覗き込んでくる。
こ、これは完全に理解してて言ってるな。くそうっ、そんなに俺をからかうのが楽しいかーー!


「まあ、けど今の段階でいきなり同棲って言うのは私も遠慮するわ」


さすが雪祢さん。ちょっと古風な考え方だけど今のアナタの考え方には大賛成です!


「仕方ないなぁ。それじゃあ自分のところに来るしかないかな」


こうして雪祢さんはキイ兄と一緒に相談所の方に住むことになった。これでキイ兄の相談所での人間比率は1:7か…いったい何処まで増えるんだろ?
そしてこれから人間は増えるのかな?…増えてほしいなぁ……


せかいはまわるよどこまでも
〜〜超神合体ヨコシマ○○ン? 前編〜〜


〜ナレーター視点〜


闇夜に落ちた町。静まり返った静寂な空間に、二つの影が疾走していた。
前を走るのは頭から二本の角の生えた四つ目の鬼のような姿。後ろからそれを追いかけるように走るのが能面の仮面を被ったような顔だ。


「待つんだ九兵衛!」


「ちぃっ! しつこい奴だな八兵衛!」


九兵衛は後ろからぴったりと付いてくる八兵衛を見て舌打ちをする。九兵衛は一旦足を止め、顔だけを振り向かして八兵衛のほうを見る。


「何故神界を抜け出したんだ!」


「お前には分からんさ…俺が何を求めているのか何てな!」


九兵衛はそういった瞬間近くにあった車に霊波砲を放った。車は霊波砲が直撃し爆発、炎上し始める。
八兵衛が爆風で顔を覆った瞬間に、九兵衛は空へと舞い上がり一気に加速する。


「くっ! 待つんだ!」


八兵衛は九兵衛を追おうとしたが、車を炎上させたままにはいかず直ぐに鎮火させる。その間に九兵衛は既に姿を消してしまっていた。


「九兵衛…何故…お前が……」


八兵衛は九兵衛が飛び去った方向を見やってポツリと呟いた。
そうしている間に遠くからサイレンの音が近づいてくるのに気付き、八兵衛はこの場を後にした。


翌日…蒼河霊能相談所の一行は改築前のオフィスビルの除霊に来ていた。しかも今回はこの後外で食事をするということでフルメンバーで仕事に当たっていた。


「こなくそー!」


横島は霊波を纏った拳で雑霊達を殴りつけて強制的に除霊していく。その近くにはシメサバ丸を持ったグレンが飛び回って手当たり次第に雑霊を切り裂き、弱った霊達からファスがすでに残りカスのような霊力を根こそぎ奪ってあの世へと送っていた。
その横島たちから一歩下がったところにいる新メンバーの雪祢は、その取りこぼしを氷の弾丸で狙い撃ちにしている。


「皆さん頑張ってくださ〜い」


「ファイトーー!」


『マスター頑張ってください』


そして、おキヌちゃんは頭にハチマキを巻いて黄色いポンポンを振り、その横でキイは『必勝』とかかれた旗を振って応援していた。
因みに人工幽霊壱号は今回もログハウスの模型に憑依して着いてきていた。


「ちょっとは手伝わんかーー!」


横島の叫びがフロアに響く。普通ならその隙を狙われそうなものだが、横島はそれでも体の方はちゃんと動いて雑霊達を祓っていた。


「強くなりたいなら実戦が一番だよ!」


「実戦ならもう嫌と言うほど体験済みじゃーー!」


横島は既に蒼河霊能相談所の助手になってから、キイの監督の下とはいえ百件近くの現場を任されている。実戦だけならもう数え切れないほどの実績があった。


「楽がしたいだけだろキイ兄!!」


「ナニイッテルンダヨ、タダッチ…ハハハハハハ」


「言葉が片仮名になってるぞ!」


どうやって片仮名になったなんて気付くのかというのは置いとくにしても、キイの棒読みになった台詞を聞けば誰だって疑うに決まっている。
もはやキイのサボリ癖は相談所内では周知の事実だった。


「ん、じゃあ後一時間で終わらせてね」


「無理に決まってるだろうがぁ!!」


今一行がいるのは三階、目標は八階までの除霊なのだ。プロのGSでも三時間は掛かるであろう。


「終わらせられれば夕食の豪勢度がワンランクアップするよ」


「皆本気出せー! 三十分で終わらせるぞーー!!」


「『【オオーー(みみー)!!】』」


「まあ、私は程々にやるわ」


キイの言葉に横島が咆え、人外トリオが叫び、雪祢は特に興味を示していない風だったが氷の弾丸の数がやや増えていた。


その後本気になった四人と少しだけ力を入れた雪祢の手によって28分49秒という驚異的なタイムで除霊をやり遂げたのだった。


〜横島視点〜


夕食を終えた帰り道、俺はキイ兄たちと駅で別れて一人夜道を帰路に付いていた。


「いや〜、食った食った」


キイ兄が連れて行ってくれたのは高級料理がこれでもかというほど並んでいるブッフェだった。

いや、あのマツタケは美味かったな。子羊の肉とかなんて初めて食べたが柔らかくて中々の味だった。中でも世界三大珍味を食えたのが一番良かったかな〜あれはしばらくっつーかもしかしたらもう食えんからしっかり味わったなぁ。

因みにブッフェで普通に食事したのはキイ兄と俺だけだ。グレンには家庭の三大神器(テレビ・冷蔵庫・洗濯機)を、シメサバ丸には神木らしい木の枝を、ファスには極上の精霊石、雪祢さんには霊山で取れた氷から作ったカキ氷が振舞われた。
雪祢さんは別に人間の食べ物も食べれるらしいが、温かい物はNGなのでかき氷になったわけだ。


「明日は学校だし、さっさと帰って寝るとするかな〜」


俺は軽快な足取りで自分の住処であるボロアパートへと向かう。俺は交差点に差し掛かって、横断歩道の手前で足を止めた。


「己忌々しい赤信号め…俺の歩行を妨げるとはいい度胸じゃねぇか!」


俺はアホなことを言いつつ、信号機の押しボタンを素早く連射した。
昔はこれやったら早く信号機が変わるとか思ってたよな〜
ガキのころの懐かしい思い出を思い出しながら俺は、ふと横断歩道の向こう側を見た。そこには一人の小学生くらいのガキ(男)がメモ帳みたいなのをこっちに向かって歩いてきている。
この時間までふらついってるってことは、塾か何だろうな。
俺はそれをあまり気に留めず歩行者用の信号機に目をやる…まだ赤だな。たっく早く変われよな。
俺はすぐに視線を下げた。その瞬間、俺はサーッと血の気が引く感じがした。


「おい! 何渡ってんだよ!!」


俺の視線の先にはまだ赤信号なのに余裕で道を渡ろうとしているガキの姿があった。俺も結構でかい声で叫んだんだが全然気付かない。よく見ると耳にイヤホンのようなものを付けている。多分音楽とかでも聴いてて周りの音とかが聞こえてないんだろう。


そしてけたたましく響くクラクションの音。俺がそちらを見ると猛スピードでガキに迫るワゴンがあった。結構スピードを出していたのか、全然止まりそうにも無い。このままじゃああのガキは間違いなく撥ねられる。
そう思った瞬間に俺は兎に角脚だけに霊力を集めて強化し、何の予備動作も無くガキに向かって走った。


「ガァぁぁぁぁキィぃぃぃぃぃぃ!!」


力の限り走るもんだから言語能力にまで意識をまわす余裕が無かった。とりあえず気付くようにデカイ声で叫ぶ。


「…?……!?」


するとガキの方も今の事態に気付いたのか、ちらりと横を見て、迫るワゴンを確認した瞬間に顔が青ざめていった。体がこわばって動けなくなったようだが、そのままへたり込まれるよりはマシだ。


よし! 間に合うっ!!


車の距離はギリギリだが、一歩の差で助けられる。俺はそう思って一気に飛び掛る準備をする。最後に跳躍してガキを掴み、そのまま転がって車を回避するのだ。
俺はそのための最後の一歩を踏み出そうとした瞬間、


「いくっどべはぁっ!?


突然斜め後ろから襲ってきた衝撃に吹っ飛ばされ。俺はガキの横をすり抜けて其処にあったガードレールに頭からもろに激突した。

な、何があったって言うんだよ…

ガードレールからずり落ち、道路にうつ伏せで倒れた俺。
あっ、何だか体の中から温かいものが消えていってる気がするぞ。そうか、これが『死』というものなのか…


って、嫌じゃー! 何故こんなわけの分からん死に方をせにゃならん! 分かったとしても童貞のまま死ぬのは嫌ーー!!


「…まま……が…死ん………えん…」


あ? 何か聞こえてくるけど誰かいるのか?
うぐ、もうだめ……意識…が……


目が覚めたら見知らぬ世界にいた………ってことは無かった。
なんてことは無いただ自分の家の自分の布団の中で目が覚めたのだ。


「あれ? 俺確か横断歩道で……」


後ろから来た何かに撥ねられたんだよな? んでガードレールに頭ぶつけて…そんまま気絶したんだよな。どうやって自分の部屋に戻って来たんだ?

俺は自分の体をまさぐってみる。怪我したはずの頭も、何かがぶつかったはずの背中にも傷一つ無かった。


「何がどうなってるんだ?」


首を捻るも答えがでるはずも無く。俺は別に体にも異常が無いので学校へと向かうことにした。


で、あっという間に学校に着いた。登校風景は別に何も無かったので端折らせてもらったぞ。うん、自分で何言ってるのかわからんがとりあえずまあ教室に入ろう。


「グッドモ〜ニングだ! エブリバディ!!」


俺は前回の教訓をいかしてちゃんと朝の挨拶をしながら教室に入った。
そして直ぐ様扉の直ぐ横にいる読書中の女子に目を向けた。
さあ来いボケキラーよ! 今度こそお前を打ち破ってくれる!

俺が身構えていると、女子は読んでいる本から目線を外して俺のほうを見てきた。


「横島君…」


「何だ?」


さあ来い! カマーン!! バッチコーイ!!!


「おはよう」


そう言って女子は本のほうに視線を戻してしまった。
あ、あれ? それだけですかい? もっとこう張り合いのある会話ってのはないのか?
俺が身構えたまま固まっていると、女子のほうがまた目線を向けてきて首を捻る。


「どうかしたの横島君?」


「あ、いや、何でもない…おはよう」


俺はぺこりと頭を下げた。多分俺は今マヌケな顔をしているだろう。
そしたら女子の方は行き成り本で顔を隠して肩を振るわせ始めた。
えっ? 何だ? もしかして笑ってる?


「て、テメェ謀ったなぁ!?」


「…何のことかしらね。皆目見当が付かないわ」


女子は本から顔を出して、さも自然に振舞いながらそう言った。
だけどお前口元引き攣ってるぞ! 頬もちょっと赤くなってるし絶対笑い堪えてるだろ!


「チキショー! 次は負けないからなボケキラーめ〜!!」


「勝ちたければせめて本名で呼びなさ〜い」


自分の席に泣きながら去っていく俺に、女子がそう台詞をはいた。
あ〜、名前なんだったっけ? 井上? 望月? ああ〜、今度出席簿で確認しておこう、うん。

席に着いた俺は薄っぺらいカバンを机の上においた。カバンの中には正直弁当しか入っていない。他の勉強道具は全て学校においてあるのだ! つまり家では勉強な一切してない! つーかキイ兄の助手が忙しすぎてやってる暇が無いのだ!!
因みに自炊は俺には無理なので途中のコンビニで買ってきたものである。自分で言っててなんだか淋しいな〜。


「横島君、おっはよ〜」


と、そこで俺の机から行き成り愛子が顔を出してきた。愛子は結局俺の机として使われていて、勉強なんかも教えてもらっている。愛子は流石は何十年も高校で青春やってるだけあって結構頭良いし教えるのも上手で助かる。

だが…


「甘いっ!」


「あいたっ!?」


俺は机から出てきている途中の愛子の頭にチョップを食らわした。
特にそんなに力は込めてないが、霊波をちょっと込めたので妖怪の愛子にはちょっと痛かっただろう。


「い、行き成り何するのよ横島君…」


頭を抑えながら涙目で訴えてくる愛子。
うむ、その表情も萌……って危ない危ない。不覚にも愛子の女の子らしい(?)仕草にころっといってしまう所だったぜ。


「甘いぞ、甘いぞ愛子! お前はグラニュー糖100%のワッフルより甘々だーー!! お前はそんなに甘いのが好きかーー!!」


「え、えぇっ!?」


何故か頬を紅潮させて、その頬を押さえて右斜め下に視線を逸らす愛子。なんか『どうせなら甘いほうが…』とか『でも切ないのも…』とか言ってるが…何を考えてるんだ? 俺にはさっぱりなんだが…


「いいか愛子! 笑いってのは常に何処にでも潜んでるんだ! それなのに何だお前のその姿勢は! 今の挨拶は敢えて『グーテンモールゲン』とドイツ語で挨拶するべきだろうが!!」


「えっ? あっ…あははははは、お笑いのことね。やだもう、勘違いしちゃったじゃない。

それにいきなりそんなボケろって言われても私には無理よ〜」


愛子が乾いた笑いをあげながら俺の肩を叩く。って、痛いって愛子、加減しろや。つーか何と勘違いしたんだよお前は。


「それより横島君、知ってる? 最近首都高で謎の妖怪が暴れまわってるんだって」


「話し逸らしやがったな…まあいいけど

けど首都高に出る妖怪ってやっぱ車とかバイクに乗ってたりするのか?」


「ううん、何でも生身で足で走ってるんだって」


なんだそりゃあ、ジェット婆とかそういう都市伝説的な妖怪か?


「何でも荒らしは二匹いて、追いかけっこしているらしいわよ」


「はぁ〜、お前よくそんな情報知ってるな」


「まあね。夜になると暇だからいろいろと調べてるのよ」


愛子は何でも夜になったら警備員室で警備員のおっちゃん(65)とテレビを見たり、パソコン室でいろいろと調べ物をしているらしい。
そのおかげで結構な情報通になっていて、やや耳年増になってるとかどうとか。


「おーい、全員席に着けー」


「あっ、先生が来たわね。横島君居眠りせずにしっかり事業受けるのよ?」


「うっせぇ、眠ったらどうせまたシャーペンの先で俺の脳天突き刺すんだろが!」


この前前日のバイトの疲れの所為でつい居眠りしたら思いっきりシャーペンを頭に突き刺されたのだ。アレは流石に痛かった。何たって頭から水芸の如く血が噴き出したからな。


「あ、あれは何度声かけても横島君が起きないから仕方なく…」


「だからって刺すこと無いだろが!」


「横島! ホームルーム中は静かにしろ!」


「先生! 怒るの俺だけかよ! 明らかに贔屓だろう!!」


「日ごろの行いの違いね」


そう言って肩目を閉じてウィンクしてくる愛子。ちきしょうめ、可愛いじゃねぇか…
だがこの恨みは忘れんぞ。その内絶対痛い目にあわせてやる。


「それで今日はー………」


あ〜、早く昼食時間ならねぇかな〜
連絡事項を言っている担任の言葉を聞き流して俺は早くも昼飯のことに考えが向かっていた。


「横島君、よだれ…」


「はっ…!?」


しまった! 考えすぎててつい垂れ流したか?


「嘘よ。分かり易すぎよ横島君…」


「テメェ愛子! こんにゃろーー!」


「キャー先生ー! 横島君が暴れてます〜♪」


こうして通常通りに学校生活を過ごしている俺だった。


今日は日曜日。今日は久しぶりにバイトも休みなので…


「ふっ! はぁっ! しぃっ!!」


俺は近くの公園の茂みの中で修行に励んでいた。今はキイ兄と軽く組み手をしている。
右のジャブをフェイントにして、左のストレート放つ。だがこれもフェイントだ。相手に両手でブロックさせたところで本命の右のハイキックを相手の死角から放つ。


「残念、ハズレ〜」


だがキイ兄はそれをまるで見えているかのように少し身をかがめてかわし、そのまま俺の顎を狙って左の掌底放ってくる。俺はそれを半身になってかわし、回転するような脚裁きでキイ兄の側面を取る。


「サイキックインパクト!」


技名は本当は叫ばない方がいい、技名を言えば一度見たことがある相手に攻撃を読まれてしまうからだ。だが俺の技は名前を叫ぶことで霊波を集中、圧縮、そして開放させるためのキーとしているのでこれを叫ばないと精度もスピードも下がってしまうのだ。

それにキイ兄くらいの相手には叫んでも叫ばなくてもあまり変わらない。相手の霊波の流れを読み、どういった攻撃が来るか先読みしてるから叫ぶ前に既に何をするかバレてるのだ。
それならその読みを覆すような攻撃を仕掛ければいいのだ!


「拡散!!」


圧縮した霊波がキイ兄に届く前に、俺はそれを解放して広範囲に衝撃波を放つ。広範囲って言っても俺の目の前一メートル前後にだけなのだが、接近戦ではこれだけ間合いがあれば余裕で相手に届く。


「甘いのだ!」


キイ兄は俺の放った霊波の衝撃波をいち早く見切ると、すぐさまバックステップで距離をとる。衝撃波はキイ兄の一歩手前で霧散してしまった。

俺はキイ兄を追撃しようと両手にサイキックソーサー展開して一歩足を踏む出した。瞬間、足に何かが絡み付いてくる。


「じゅ、呪縛ロープぅ!?」


俺の足に絡み付いてきたのは呪縛ロープだった。
んなアホな! 呪縛ロープは自動で相手を縛ったりはしないはずだろ!?
そう思ってる間に呪縛ロープがまるで蛇のように俺の脚に巻きつきながら這い上がってくる。
キイ兄が何か細工したな!


「こなくそっ!!」


俺は縛られかけている脚から大量の霊波を放出して呪縛ロープを吹き飛ばす。縛られきれていない状態なら呪縛ロープの効力は小さいから俺くらいの力でもどうにかなる。縛られきられたら終わりだがな。

俺が正面を向くと、丁度キイ兄が銃身の赤い小銃を俺に向けているところだった。
俺は反射的に右に飛び退く。それと同時に銃声が響き俺の居た場所の後ろの木に小さな穴が開いた。


「キイ兄俺を殺す気かーー!!」


「大丈夫、死なないよ。ただ死ぬほど痛いだけだよ!」


どっちにしろ当たれば逝っちまうんじゃねぇか!
俺は一先ず木の裏に隠れて体勢を立て直す。


「ほ〜ら、そこぉ〜」


キイ兄がそういった瞬間見当違いの場所に銃を向けて撃った。
一瞬何を考えているんだと思ったが、俺は脇腹にチリッと嫌な痛みが走った気がして、咄嗟にそこをサイキックソーサーで庇う。
その瞬間、構えたサイキックソーサに何かがぶつかり腕に衝撃が伝わった。


「反射撃ちって言うんだってさ。カッコいいよね?」


なんでも漫画を読んで実践してみたらしい。それで一発で成功させるんだから、これだから理不尽の固まりって言われるんだよ!


「ほらほらほらほら〜」


キイ兄は笑いながらあちこちに銃を乱射する。だがその弾丸は全て何かに反射して軌道を変え、全て木の裏に隠れている俺目掛けて迫ってきた。


「うおりゃりゃりゃりゃぁぁぁーーー!!」


俺はその弾丸を全てかわし、またはサイキックソーサーで受け、逸らし、叩き落す。
弾丸の雨が止んだところで俺は木の裏から飛び出しキイ兄に肉迫するため走る。キイ兄はそんな俺に向かって銃をフルオートで連射してくる。
俺は銃身の向きからその弾丸の軌道を読んで、サイキックソーサーを斜めに構えてその面を滑るようにさせて防ぎきる。
そしてさっき数えたけどキイ兄の銃の弾は十二発。そして今十二発を撃ち尽した!!
俺はサイキックソーサーをキイ兄の足元の地面に投げつけ、バランスを崩させる。


「もらったーー!!」


そして両手に集めた霊波を纏め上げてキイ兄に強烈な一撃を…


「はい、残念でした♪」


そう言ってキイ兄は懐からもう一丁の銃を取り出した。キイ兄は何の躊躇も無くその銃口を俺の眉間に合わせて、引き金を引いた。

そりゃないぜキイ兄…反則だよ……

俺の視界にはゆっくりと発射される弾丸が映っている。ああ、これが死ぬ前によくある時間がゆっくり動いて見えるって奴か…
あはは、こんなゆっくりした弾なら避けられるのにな〜。こう、すい〜っと…
俺は弾丸の軌道から逸らすように頭を移動しようとする。
ははっ、これは意識が加速してるだけで体の方は反応しないんだよな確か。


と、思っていたんだが…


「おりょ? 凄いね忠っち。今のをかわすなんて」


「へぇっ?」


キイ兄の言葉に俺は思わず首を傾げてしまった。気が付いたら俺は弾丸をかわしていた。
あれ? どうやってかわしたんだ俺? まさか死を覚悟した瞬間に眠っていたパワーが目覚めたとか?


「まあ、一応油断大敵ね」


「はっ?」


俺が意識をキイ兄に向けたとき、俺の視界の半分に真っ白なハリセンが迫っていた。今度はかわしきれずに、俺はハリセンの一撃で意識を刈り取られた。


家に帰る前に相談所に寄った俺は、修行で怪我したところをおキヌちゃんに手当てしてもらっていた。
俺が怪我をしてやってきたときおキヌちゃんが救急箱を持ってきたときには、ちょっと涙が出そうだった。ただ、顔を輝かせて出番が来たとばかりに張り切られるのは怪我をした当人としては複雑な心境だ。


「はい、大体こんな感じですね」


「ありがとうおキヌちゃん」


おキヌちゃんはどういたしましてと言って救急箱の蓋を閉じる。


「あと痣になっているところは氷か何かで冷やしてくださいね」


「氷か〜。冷凍庫に作ってたかな?」


ちょっと自信が無いが多分あるだろう。因みに痣の位置はハリセンを受けた右目の上辺りの額と、体の前と後ろを満遍なくだ。まあ後者はそんなに酷くないから冷やす必要も無いだろう。


「あら、それじゃあ私が冷やしてあげるわよ」


「あっ、そういや雪祢さんがいたんだっけ」


雪祢さんなら無料で氷を作ってくれる。患部を氷漬けにされるのは嫌だが、まあ流石にそんなことはしないだろう。


「それじゃあお願いしますね雪祢さん」


おキヌちゃんはそう言って救急箱を置きに今いる所長室から出て行った。


「それじゃあやるわよ?」


「はい、お願いします」


俺はソファーに座って髪を書き上げてたぶん赤紫にでもなっているであろう痣を見せる。雪祢さんが元の姿だったら座る必要も無いんだけど、今の姿じゃ頭が俺の肩ぐらいしかないからな。
雪祢さんはそっと俺の痣に手を当てた。触れた瞬間痛みが走って体がこわばったが、直ぐに痛みは引いて、ひんやりとした冷たさが伝わってくる。
俺はその気持ちよさに思わず目をつぶってソファーに深く腰掛けた。


「あ〜、マジで気持ち良いわ〜」


「そう? じゃあもうちょっと…」


おっ? 何だか変な感触が痣のある辺りにあるが…何だかこれも気持ち良いな。緩やかな波を打つような冷たさが痛みを和らげてくれていい気分だ。


「はぁっ…ふぅ…どう横島?」


「ああ〜いいです。もう少しお願いできますか?」


「しょうがないわね。もう少しだけよ?」


おぅっ、またひんやりした感触が〜
と、そこでおキヌちゃんが戻ってきた気配がした。目を瞑ってるから姿は見えないが…
……あ、あれ? なんか急に寒気がしだしたぞ? 冷やしすぎたかな?


「雪祢さん、横島さんに何をなされているんですか?」


「はにって…治療ふぉ…してるのよ?」


あれ? 何だかおキヌちゃんからぴりぴりと霊圧が…それに雪祢さんなんか呂律が回ってないけどどうしたんだ?

此処は目を開けて現状を確認するべきか? けど何か目を開けたら天国と地獄を味わいそうなのは気のせいかな〜?

とにかく、このままじゃあ埒があかないので俺は目を開けることにした。
そしたら視界には白い着物が飛び込んできた。これは…雪祢さんのだよな? 何ですぐ鼻先に触れるくらい目の前にいるの?
俺はそ〜っと視界を上の方に向けてみた。すると其処には当たり前だけど雪祢さんの顔があり、


「どう横島? 痛みは取れたかしら?」


そう言って微笑を浮かべながら俺の額をぺろりと舐めた。
あっはっは、なるほど。あの変わった感触と波打つような冷たさの正体はこれか〜。


って、何やってるんですか雪祢さん!!


「横島さんも何時までされるがままにされてるんですか!」


「ひゃ、ひゃい! ごめんなさい!」


おキヌちゃんの声が何かすっごい重みを感じるんだけど! 思わず声が裏返っちまったぞ。
だが、此処でまた爆弾が落とされた。


「ふふっ、これは横島がもっとしてくれって言ったのよ?」


「横島さん、本当ですか?」


雪祢さんがくすくすと、おキヌちゃんもクスクスと笑いながら俺の顔を見つめてくる。まさに白と黒の微笑み。だが出来ることならどっちも一生見ることなく人生を終えたかったな〜


俺は迫る二人の笑顔のプレッシャーに耐え切れなくて、すぐさま意識を手放してしまった。


最後に視界の端に映った、カメラを構えているキイ兄は幻だったと思いたい。


〜ナレーター視点〜


それから数日、何時ものように(騒がしい)日々を過ごす蒼河霊能事務所一行は、新たな依頼を受けてビルの除霊に来ていた。
今回の除霊はなんでも会社をたった一代で建てたけど、極悪な詐欺にあって全財産を奪い取られて自殺してしまったという悪霊の退治だった。今回はキイ、横島、おキヌの三人出来ていた。


「何処にでも悪い奴と、それに泣かされる奴っているんだなぁ」


「ホント、真面目に生きるとバカを見ちゃうなんて…世の中おかしいよね〜」


ビルに入ってエレベータに向かっているキイと横島がそう話す。


「うん、どの世界にでも悪い奴はいるんだよ。魔界は勿論神界にだって善とはいえない神様だっているしね」


「それ、神様って言っていいのか?」


まあ、神族といっても色々いるのだ。例えば北欧神話のロキなどは悪戯などを司る神でどう考えても『善』の神とはいえないだろう。
他のも日本なら大禍津日神など、穢れより生まれた神だっている。勿論『悪』とまでは言わないものもあるが、神界だって決して奇麗事だけでは済んでいないのだ。


「神だ仏だって言ってもいろいろだな〜」


『それ………さ』


「? 今なんか言ったおキヌちゃん?」


「いえ、何も言ってませんよ?」


気のせいかと横島は考え、あまり気にせずにエレベーターに乗り込んだ。


「そういや忠っち。最近何か起きなかった?」


「いや、そんな漠然とした問いにどう答えろと?」


行き成りのキイの質問に、横島は素早くそう切り返した。確かにキイの質問では要領を掴み損ねてしまう。


「ん〜、別に無いんならいいんだけどさ」


「? 変なキイ兄だな。まあ何時ものことだけど」


「何だってー!」


「きゃぁー!? 狭いエレベーターの中で暴れるないでください〜!」


横島とキイが暴れだしてエレベーターの狭い個室の中でおキヌが叫ぶ。
と、その時丁度エレベーターの扉が開いた。


「わしが一代で築いた会社じゃー! 除霊されてたまるかーー!!」


その瞬間、待ち構えてましたといわんばかりに悪霊はキイの体を掴んだ。


「あっは〜、こいつは参ったな」


全然参っているようには聞こえないが、キイは成す術もなく窓から外に放り投げられた。


「こいつは流石に痛そうだなぁ…」


キイは外に放り投げられてから直ぐに地面の方を見る。その高さは数十階はある。それでも痛そうで済ませられるのは流石はキイといった所だろうか?
だがやっぱり痛いのは嫌なキイの額には嫌な汗が浮かんでいた。


「ちぃっ! 世話が焼ける」


と、そこでキイの後を追うように一つの影が飛び出してきた。
その影はキイのジャケットの襟を掴まえて、空中にふわりと浮いた。
その姿は鼻と口元を長い布で覆い隠し、上半身はボロイ襦袢を羽織り、下半身にはこれまたぼろい白衣下を穿いた…


「忠っち…なにしてるのさ? やっぱ何かに憑かれてるの?」


横島忠夫の姿だった。


「ち、違う! 俺は横島でも横島に憑いている者でもない! 全くの別人だ!!」


と言っても何処からどう見ても横島忠夫その人だった。何年も一緒にいるキイだけではなく、おキヌでさえその正体は直ぐに分かった。


「えっと…何処からどう見ても横島さんですよね?」


「違うって言ってるだろ! いいか? 俺はだな! 俺は…えーと…」


なにやら考え込む横島(仮)。自分の名前を考えている時点で怪しさ爆発だ。
そして横島(仮)はカッと目を見開いて大声で叫ぶ。


「横島似の奴が沢山いる星からやってきた宇宙人!


ヨコシマナインだああっ!!


そう断言するヨコシマナインの背中に、『9』と言う文字がピカーっと光り輝いていた。


〜おまけ〜


そのころ、蒼河霊能相談所でお留守番な皆は…


【ではこれより、第一回蒼河霊能相談所人外会議を行う!】


「『『わぁ〜〜(みぃ〜〜)!』』」


「………」


シメサバ丸の言葉に歓声(?)をあげる人外トリオ。雪祢のほうは一応呼ばれたので出席したと言った感じだ。

壁の方には人工幽霊壱号が書いた『蒼河霊能相談所人外会議本部』と達筆に書かれていた。どうやらキイに毒されて無駄なところに力を入れることも学んでしまっているらしい。


【では早速、今日の議題はズバリ! 新入りの雪祢殿についてだ】


一同が一斉に雪祢のほうに向く。流石に全員から視線を集められた雪祢はちょっと引いてしまった。


「けど、私に付いて何を話すのかしら?」


【うむ、拙者達にはそれぞれ少なからず役割があってな。例えば我は包丁役と大きいゴミの粉砕機役だな】


千年の時を経た妖刀をそんなことに使っている場所なんてことくらいのものだろう。それでもシメサバ丸は満足しているのだから問題は無いのだが…


『私は見ての通り住居ですね。結界を張って皆さんの安全を確保します』


人工幽霊壱号はまあまともな方だろう。ただ最近はことあるごとに残りのトリオと争っては霊力を使いすぎてキイに怒られていたりする。


『僕は部屋中のお掃除かな』


ファスは掃除機としての責務をそのまま果たしているといった感じだ。最近では霊力を吸い取らないように掃除も出来るようになったが、気を抜くと吸い取ってしまい、その先によく横島がいてぶっ倒れる原因になっていたりしている。


「みみ〜ぃみみみ〜〜」


【自分は様々なゴミ処理をこなしていると言っている】


シメサバ丸の通訳の元グレンがそう宣言する。重要な誰にも見せられない書類のシュレッダー役にも一役かっていて、結構可愛がられているが、時たま我慢できなくなってあちこちを噛んでしまうのが玉に瑕といったところか。


「それじゃあ、私も何かしないといけなわね」


雪祢もただで居候するのも気が引けるので何か出来ないかと考える。料理など家事に関してはおキヌが既にやっている。というかあまり火には近づけないし、水に触ろうものなら凍らしてしまうのでどうしようもない。
となると家事以外でなにか手伝えることは無いだろうか? と考える。


「難しいわね…仕事をたまに手伝うでも良いけど、それだけじゃあちょっと足りないわよね」


【ふむ、それでは何か限定的なことを考えてみるか…】


『限定的…やっぱり個人に絞るべきですね』


『ん〜、やっぱり喜んでもらえることかなぁ?』


う〜んと首を捻って考える一同。そこでグレンが片手を挙げてみっと鳴く。


「みみみぃ〜みっ!」


【やはりここは忠夫にしたほうが良いと言っている】


『確かに、オーナーを手伝うってのは何か考えにくいですからね』


『それはまた今度皆で考えよ〜』


「そうね。それじゃあ横島限定で喜びそうなことをすればいいのよね?」


雪祢がすぅっと小さく微笑んだ。その微妙なニュアンスにぴくっと反応する一同。


『雪祢さん、何をお考えなんですか?』


人工幽霊がそう言うが、どこか微妙に棘があるように聞こえる。
だがそんなことはお構いなしに雪祢は言葉を続ける。


「そりゃあもう…ね?」


何が『…ね?』なのかは分からないが雪祢はどことなく色香を醸し出している。いまだ中学生くらいの姿だが、精神はとっくに成長しきっているのだ。そのアンバランスさが余計に雪祢の魅力を引き上げていた。


『それはつまり…こんなのだねー!』


そう言って部屋の隅の方から数冊の本を持ってくるファス。
その本のタイトルは『教えて綺麗なお姉さん』とか『禁断の関係』など多岐にわたるジャンル(けどイタイ系統は無かった)が取り揃えられていた。
もちろんこれらは、横島の魂のバイブル達である。
ファスが横島の部屋を掃除に行く度にすこしずつちょろまかしてきたものであった。


『こ、これは…凄いです。こんなことまで…』


「みみぃ〜」


【ほう、これは…現代ではこのような女体本があるのか】


『あはっ、この人ウサギさんの格好してるよ。可愛い〜』


「ふむ、着物も『萌え』とやらのジャンルに入るようね」


そして急遽始まった『第一回人外エロ本鑑賞会』、各々横島のバイブル達を興味深そうに見ている。
もしこの光景を横島が見たら、多分発狂する事であろう。もしくは現代最先端の『HIKIKOMORI』になってしまうに違いない。

こうして横島たちが帰ってくる一時間前まで開催された鑑賞会は、最後に皆で手を合わせて、


「「『『【ごちそうさまでした(みみみ〜)】』』」」


と言うことによって閉会したのだった。


今日の格言は『知らぬが仏』…以上!




あとがき


バイクで走ってたら夕立に遭いました。て、手が凍るーー! 拓坊です。


まずはレス返しをば…


>whiteangel様
>取り返しがつかなくなるよ?
ええそりゃあもう後々やっちゃいますよ? どれだけ活躍するかはまだ決まってませんけどね(汗)


>ガバメント様
人外カルテットはついにクインテットに昇格! いったい何処まで増えるのかは…自分にさえ分かりません!(核爆)
氷狼はフェンリル編には多分でますね〜、けどその前に少し出てくるかも?


>masa様
白銀狼は二十代前半くらいかな? 蒼銀狼はもうおじいちゃんっていうか長老って感じかな? けどどっちにしてもほのぼのですね〜


>水稀様
>見た瞬間 画面の前で一人『にやり』とかなり不気味な行動をしてしまいましたw
自分もたまにしますw(爆)
応援ありがとうございます。


>孤白様
Gのレオ…ア○ロリアか?
くぅっ、聖闘士星矢は呼んだこと無い…ていうか本屋さんに無い…
こんど漫画喫茶ででも探そうかな…


>なまけもの様
またまた誤字報告ありがとうございます……俺のアフォーー!!
研究員は今後キイ君に『有効利用』されます。内容はまだ秘密〜
人工幽霊壱号は女の子決定かな?(爆) ファスは…どうしようかな〜考えておきます!


>ジェミナス様
御察しのとおり何かしら関係が…これ以上はネタバレなのでシークレットです!
二人の師弟愛は強固っすよ〜。そりゃあもうオリハルコン並です!


あ、あははははははははは〜<壊れ
やっちまいましたよ雪祢さん復活!! 人外クインテッド誕生ぉぉぉ! ガフッ…<吐血
ごめんなさい、調子に乗りすぎました…

今回のお話は予想されやすかったかな? でも何事もチャレンジなのでやってやるぞ〜

次回はヨコシマナインが大活躍(?)するかもしれない!
けどそれは人知れず闇の中を駆け抜ける、影のヒーロー誕生か!?
皆さんに楽しんでいただけるよう頑張ります。


それではこの辺で失礼致します…

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