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「竜神様行状記 その一(GS)」

八之一 (2005-12-15 01:23/2005-12-15 01:47)
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『竜神様行状記』


「はい、美神除霊事務所です。どういったご用件で…え?け、警察ですか?!」

大型連休も終わり、そろそろおキヌの三度目の臨海学校が近づいてきたある日。
夜から予定されている除霊作業のための準備をしていた美神所霊事務所に
その電話はかかってきた。
いつものように何気なく受話器を取ったおキヌだったが、
耳朶に響いた『警察』の一語に驚いて裏返った声を上げてしまったのだ。
特にやましいところがあるわけではないのだが、三百年前の人間であるためか、
お上というものにやや過剰な圧迫感を覚えてしまうらしい。
警察と聞いて慌てて電話の前で姿勢を正し、見えない相手に向かって頭を下げる。

一方、おキヌのその裏返った声を聞いた美神と横島の犯罪者予備軍二人は
あからさまに動揺する。
美神は慌てていつの間にか作りつけられた隠し金庫から書類の束を取り出すと、
ザンス国王暗殺未遂事件の後に事務所に導入した、
再生不可能という謳い文句のついた最新式のシュレッダーにかけ始めた。
横島は横島で深刻な顔をしてここのところの行動をブツブツと思い返している。
だいじょうぶ、見られているはずがない、いや、まさかあれか?などと
次々に心当たりを思い出し続けているあたり、
煩悩魔人の面目躍如と言ったところだろうか。
そんな二人の様子を横目で見ながら、
おキヌは冷や汗をかきつつも電話に応対していく。

「え、ええと。その、どう行ったご用件でしょうか。その…はい、はい。…え?」

何事かと皆の注意が集まる中、おキヌは素っ頓狂な声を上げた。

「ま、迷子ですか?」


「まったく…、ウチは託児所じゃないっての。どこのどいつよ、この忙しい時に」

そう文句を言いつつも、美神は安心した顔で椅子に座り、安堵の溜息をついた。

「名乗らないんだって?」

そう聞いてきたのはすっかり美神の頭の上が定位置になってしまった小狐である。
髪が痛むからやめなさい、と何度も注意したのだが、
一向にやめようとしないので美神も諦めてしまったようだ。
帽子が喋っているような妙な絵だったが、今更驚くような面々でもない。
おキヌも特に気にも止めずに答える。

「そうらしいの。中学生くらいの女の子だって事なんだけど…心当たりはない?」

「私やシロくらいって事?私はないわね」

「拙者もないでござるな」

「お、俺の守備範囲はもう少し上だよ、おキヌちゃん。ホントだよ?」

「中学生に知り合いはいないわねー。
 冥子はさすがに中学生には見えないだろうし」

口々に思い当たる人物がいない事を告げていく事務所の面々。

「そうですよねえ。私もちょっと心当たりがないんですけど…。
 でも美神さん、その子、唐巣神父の教会とウチの名前を出してるらしいんです」

「唐巣先生の?となると悪戯って訳でもなさそうね…。
 ん?だったら先生のほうにお願いすればいいじゃない」

渡りに船とばかりに恩師に面倒を押しつけようとする美神だったが、
その言葉を聞いておキヌが困ったような顔をする。

「そ、その、唐巣神父の教会にも電話をかけたそうなんですが…、
 電話が止められてるらしくて連絡がつかないらしいんです」

「…」

思わず黙り込む一同。
相変わらず現代の聖人は清貧のどん底にいるようだ。
無論携帯電話などという贅沢品は持ち合わせていないだろう。

「と、とにかく、そういう訳でウチの所員に来て欲しいって事らしいんですよ」

気を取り直しておキヌが言うと、

「さ、左様でござるか。
 しかし随分失礼な話でござるな。名前も名乗らずに呼び出すなんて」

仕事の前に散歩に行く機会を虎視眈々と狙っていたシロが不機嫌な顔をして言う。
夜からの仕事とはいえ、これからそちらに寄るとなると
どう考えても散歩の時間は捻出できなくなるからだ。
それどころか、

「しかし、困りましたね。
 今からM市に行くとなると…ちょっと間に合いそうにないっすよ?」

時計を見ながら横島が指摘する。
呼ばれた警察署は東京の郊外にあり、
これからそちらに行くとなるとどう考えても仕事の時間に間に合わないのだ。

「うう、夕方の都内じゃすっ飛ばしてって訳にもいかないわよね…。
 仕方ない、横島クン、おキヌちゃんと一緒に行ってきてくれる?」

「え、私たちがですか?」

「ええ、仕事のほうは事前調査で
 それほど厳しいものじゃないってわかってるんだけどね。
 お得意様だから私が行かないわけにもいかないのよ」

最近はICPO超常犯罪課、
通称オカルトGメンの活動も本格的なものになってきており、
民間のGSも随分やりにくい事が多くなってきていた。
元々それほど広い市場と言うわけでもないため、
近頃ではちょっとした仕事も奪い合いである。
そんな中で、大きな仕事を回してくれる相手に対しては
所長である美神自身が顔を出さないというわけにもいかない。
彼らは美貌と華麗な除霊テクニックという
美神除霊事務所のブランドイメージに割増の金銭を払っているからだ。
そこに高校出たてのパッと見た感じではさえない青年がやってきたら
どうなるかは火を見るより明らかだろう。
一見すれば濡れ手に粟の大名商売のように見えるGS稼業だが、
美神も見えないところで結構苦労しているのだ。

「それにその迷子がウチを指名してきたってことは
 霊能がらみのトラブルの可能性があるからね。
 そうなると有資格者が居ないと何か問題があるかもしれないし、
 横島クンに行ってもらうしかないのよ」

おキヌは六道女学院の方針でまだGSの資格を取得していなかった。
タマモとシロの見た目中学生コンビは言わずもがなである。

「と言って横島クンだけだと心許ないからねー」

そう言ってじろり、と横島をにらむ美神。
うっ、と言葉に詰まる横島。相変わらず平時の能吏にはなれないらしい。

「ま、警察にも霊能関係の人間はいるはずだから、
 そんなにおかしなことにはなってないと思うけどね」

その横島の様子に美神はプレッシャーをかけるのをやめ、
苦笑しながらそう言い足した。
すると、

「ハイハイッ!それなら拙者が先生と一緒に行くでござる!」

今度はシロが名乗りをあげる。
自転車で行けば交通費はタダでござる、と言うその顔には、
思いきり散歩ができる、とくっきり書かれていた。
激しく振られている尻尾が千切れそうだ。
しかし。

「駄目よ、アンタが行っても何にもならないじゃないの」

と、美神に一言のもとに却下されてしまった。
確かに警察という美神除霊事務所の鬼門に赴くのに、
この極楽トンボの師弟コンビだけではあまりに心許ないというものだ。
横島一人で行かせるほうがかえってマシかもしれない。
だからといって、この上おキヌかタマモまでそちらに行かせるとなると
今度は今夜の仕事の方が手薄になりすぎる。
そういった事を諭されてシロは渋々引き下がった。
横島は仕事の後に散歩に付き合う事を約束させられていたが。

「じゃあ、お願いするわね、横島クン、おキヌちゃん。
 とりあえず…電車賃と何かあった時に使いなさい。
 携帯電話も忘れないようにね」

そう言って財布から諭吉さんを数人おキヌに手渡す美神。
それを見た横島は目を血走らせた。

「そ、それだけあれば、二ヶ月は…ぶっ?!」

「そんなんだから任せられないっての!
 断腸の思いで上げてやった給料はどうしたーッ?!」

不用意に呟いたのを聞いて美神の拳が飛んだ。
この四月から正規の所員として採用された際に
給料の方もそれなりの額に引き上げられたのだが、
どうやら横島はあればあったで使ってしまう子供ハートの持ち主であるらしい。
堪忍やー、この街がワイを誘惑してくるんやー、と叫びつつ、
神通棍を振りまわす美神から逃げ回る。
そんな二人をおキヌはなんとか宥めようとするが効果がない。
シロはオロオロするばかりだし、
タマモはソファで丸くなって我関せずと傍観を決め込んでいる。
そうやっていつものお約束のようなドタバタがしばらく続いていたが、

「はッ?いけない、時間が…!じゃあ行くわよ、シロ、タマモ!
 横島クン、おキヌちゃん、大丈夫だと思うけど気をつけてね?」

美神が唐突に我に返った事で幕となった。
慌ててそう言い置くとシロとタマモを連れて事務所を出ていく。
少しするとものすごい勢いでガレージから車が飛び出していくのが見えた。
それを窓から見送った後、おキヌはちょっと困った顔で、

「じゃ、じゃあ私たちも行きましょうか、横島さん」

そう床に向かってうながす。
そこには血塗れになった横島がピクピクと痙攣していたのだ。
神通棍でシバキまわされたその物体は、
普通の人間なら即入院間違いなしという重傷のようだったのだが、
おキヌがそう声をかけた途端に、

「…よし、行こうか」

あっさり復活して立ち上がった。
ボロボロになった上に、真っ赤に染まっていたはずの衣服まで
新品同様に復活している。
それでも痛みは感じていたようで、

「くっ、この恨みはさっきの経費で飲み食いすることで晴らしちゃる…!」

などと悪い顔で良からぬことを呟いた。
それが俺の復讐っ、などと叫んで一人で盛り上がっている。
それを呆れた顔で見ていたおキヌ。

「もう、懲りないですねえ。また怒られちゃいますよ?」

「ふっふっふ、こういうのは役得というんだよ、おキヌちゃん。
 接待費として請求すれば…」

「はいはい。とにかく行きましょ?遅くなっちゃいますよ」

そんな事を言い合いながら事務所を出ようとする二人。
そこに天井から人工幽霊一号の声が響いた。

『いってらっしゃい、横島さん、おキヌさん』

「いってきます」

「おー、行ってく…あ」

そう声をかけられて固まる横島。
その存在をすっかり忘れていたらしい。
ダラダラと嫌な汗をかく。
オーナーには黙っておきますから、と人工幽霊一号の苦笑を含んだ声が響いた。


「うう、なんだか入り辛い…」

事務所を出て、電車に揺られること二時間弱。
横島とおキヌは連絡のあった都内のとある警察署の前に立っていた。
脛に傷を持つ横島が建物に入るのを躊躇していると、

「ま、まあ、こうしていても仕方ないですよ。
 別に悪いことしている訳じゃないんだから早く行きましょう」

埒があかないうえに周囲の視線が痛いのでおキヌがそう言って手を引いた。
横島は渋々と言った風情で自動ドアの前に立ち、
開いたドアの中に足を踏み入れる。

「…へえ」

中に入ってみるとと意外と普通だった。
一般人と思しき人々が明るく広いロビーをうろうろしている。
制服の警官もいるが、それほど威圧的な感じはしない。

「結構普通ですねー」

その様子に安心した横島とおキヌは
大勢の人が行き交うロビーを通り抜けて、受付で来意を告げる。

「あ、はい。美神所霊事務所の方ですね。少々お待ちください」

そう言って受付の婦警が内線の電話をかける。
少し待たされた後、中から出てきた私服の婦警がやってきた。

「あ、どうもご苦労様です。ご案内しますので」

私服の婦警はにこやかにそう言って二人を先導して建物の中に入っていく。
横島とおキヌは慌ててその後をついていった。

歩くこと数分。
辿りついたドアの上には『少年課』のプレートがかかっていた。
案内してきた婦警がドアを開けると、
五十路後半と思しき白髪の、
刑事というより校長先生といった感じの警官が立っている。

「あ、ヤマさん。こちら美神除…」

「よ、横島さんっ!おキヌちゃんっ!」

案内してきた婦警がその警官に声をかける暇も有らばこそ。
警官の後ろの板で間仕切りされたスペースから小柄な女性が飛び出してきた。

「ひーんっ!ありがとうございますー!
 来てくれなかったらもー、どうしようかとー!」

そう言って横島に抱き付いて泣き出したのは、

「しょ、小竜姫さま?!」

世界でも有数の霊的拠点兼修業場である妙神山の管理人にして、
音に聞こえた神剣の使い手である小竜姫だった。


「この近くの公園で行き倒れているのをウチの若いのが保護してねえ」

小竜姫が落ち着くとヤマさんと呼ばれたとぼけた感じの白髪の警官は、
三人に椅子を勧めると、お茶を出しながら事情を説明しだした。

「ほ、保護…ですか?」

あまりにも小竜姫にそぐわない単語に首をかしげるおキヌ。

「ああ。で、どう見ても未成年だし、
 下手すると中学生だからってことでこっちで預かったんだが…。
 いや何を聞いても答えてくれなくて困ってたんだ」

「ちゅ、中学生?」

そう言われて目を泣き腫らしている小竜姫をしげしげと見つめる。
背が低いことの代名詞とも言える伊達雪之丞より頭一つ低い身長。
埃まみれでいつもの清潔感が失われている服装。
常に漂わせていた凛とした雰囲気の欠落。
それらがあいまって。

「…確かに中学生に見える…」

「だ、駄目ですよ、横島さん。そんな本当の事…あっ」

失礼極まりない事をつい口走る二人だったが、
中学生の意味がわからない小竜姫はきょとん、としたままだ。
そんな三人の様子に少年課の警官が困った顔で頭を掻きながら説明を続ける。

「う〜ん、一応保護者ってことで来てもらったんだが、
 まさかアンタらの子…な訳ないよな」

そのセリフに横島もおキヌも顔を真っ赤にして派手にこける。

「あ、あったり前っすよ!大体このヒトは神…」

「よ、横島さん!!」

神さまだ、と続けようとした横島を小竜姫が慌てて遮った。
不審に思ってそちらを見る。
その拍子にふともう一つ、いつもと違うところを発見した。

「あ、あれ?小竜姫さま…その、角はどうしたんです?」

小竜姫の頭には竜神の証である角が綺麗サッパリなくなっていた。

「あっ、こっ、これはその…」

真っ赤になって角のあった辺りを手で押さえ、うつむいて口篭もる小竜姫。
横島とおキヌが絶句していると、

「…まあ、オカルト関係だしな。あんまり突っ込まんでおこう。
 知り合いみたいだし、そっちの住所もわかるしな。
 一応免許見せてくれるか?」

固まってしまった三人に、このままでは話が進まないと
警官が自分を納得させるような口調で話しかける。

「あっ、スンマセン。ええと…あ、ハイ、これです」

言われて横島は慌てて懐から
対心霊現象特殊作業免許証――通称GS免許を取り出して提示する。
警官はそれを受け取ると名前や連絡先、番号を控えていく。

「ええと、それでそちらの娘さんの名前は…」

「…」

何やら訳ありらしいので目顔で小竜姫に確認する横島だったが。

「…」

小竜姫は縋るような眼で見詰め返して微かに首を横に振る。
その様子に横島は仕方なく、

「…えっと、え〜…そ、孫…小、竜…で…」

視線を警官から逸らして微妙な偽名を口走った。
あからさまに怪しい横島の態度に警官が重ねて問いかける。

「ソン、ショウリュウ?むこうの人かね?」

「い、いや、ずっと日本在住っす」

それこそ江戸の昔から、とこれは口の中でもごもごと呟く横島。

「…まあ、いいか。その娘さんも嫌がってるようには見えないしな」

疲れたような顔で警官は追求をやめ、片仮名で名前を控える。
露骨にホッとする小竜姫。

「あ、それから…これ」

警官は懐から一枚の紙を取り出して横島に手渡した。

「なんすかこれ…請求書?
 …って、に、にんまんさんぜんにひゃくろくじゅうえん〜?!」

渡された紙に書かれた金額に横島が目をむく。
下手をすれば彼の一月の食費より多い金額だ。

「うん、その娘さんのここにいた間の経費だよ。
 主に食費。良く食べる娘さんだね」

苦笑いしながら言う警官。
小竜姫はますます顔を赤くしてうつむいてしまう。
横島は強張る舌を無理に動かした。

「な、なんでこんなに?なにか壊したとか?」

「いや、そんな事はないよ。ただ…保護したのが一昨日だったからなあ」

と、遠い目をする警官。
やっとそっちの連絡先を教えてくれたのが今日の昼過ぎだったんだよ、と言う。
どうやら小竜姫は二日に渡って『仏のヤマさん』の尋問に
黙秘を続けていたらしい。
慌てておキヌは美神から預かった諭吉さんで代金を支払う。

「ふむ、半端はまけておこうか。はいお釣り」

そう言って財布から稲造さんと漱石さんをおキヌに手渡した。

「じゃ、帰っていいよ。あんまり周りの人に迷惑をかけないようにね」

「「「お、お世話になりました」」」

苦笑いしながら見送る警官に声をそろえて挨拶した三人は
ほうほうの態で警察署を後にした。


「それで、一体どうしたんですか、小竜姫さま」

警察署を出て、最寄りの駅に向かって歩いて行く三人。
ややあってからおキヌが小竜姫に訊ねた。

「は、はい。実はですね…」

ぐ、ぐきゅるるるぅぅぅっ

申し訳なさそうに事情を説明をしようとした小竜姫だったが、
その途端におなかが盛大な音をたてたために遮られてしまった。
ボンッ、と音を立てて真っ赤になり、うろたえている。

「あ、あはは、仕方ないですね。急いで事務所に…」

ぐ、ぐううううぅぅうっ

慌てて言い繕おうとするおキヌだったが、
今度は横から同じような音が響いてきて遮られてしまう。
鳴ったのは横島のおなかだった。
決まりの悪そうな顔で頭を掻く横島。

「…仕方ないですねぇ。何か軽いものでも食べていきましょうか」

真っ赤になった二人を見ながらおキヌは苦笑してそう提案する。

「…ゴメン」

「…重ね重ねすみません」

そう言って二人はおキヌの後を申し訳なさそうについて行った。


とにかく、量があるほうがいいと言う横島の言葉に小竜姫が頷いたので、
三人は日本最大手のハンバーガーのチェーン店に入る。

「晩御飯もありますからあまり食べ過ぎないようにしてくださいね」

と、おキヌが言ったのを聞いていたのかいないのか、
横島は馴れた様子で一番安いハンバーガーと
腹にたまりそうなフライドポテトを大量に注文する。
その様子にしかたありませんねぇ、とおキヌが呆れた顔をしていると。

「あ、私も同じものをお願いします」

横島の後にいた小竜姫が真顔で注文した。

「「…え?」」

びっくりした顔で小竜姫を見る二人。
さすがに店員はアルバイトとはいえプロだからか、
マニュアル通りに笑顔で応対し、確認してきた。
その声に慌てたおキヌは急いで自分の分の飲み物を注文し、代金を支払った。

少し待つと出てきた二枚のトレイ一杯に積まれたハンバーガーとポテト。
それを横島とともに受け取る小竜姫だったが、
その顔には出てきた量に驚いている様子はなかった。

「ま、まあ、とにかく座ろうか」

度肝を抜かれていた横島がそう言うとおキヌも我にかえり、席を探し始める。
三人は奥のテーブル席についた。

「ま、話はとりあえず食べてからと言う事で」

そう言って横島はおもむろにハンバーガーに手をつけ始める。
小竜姫もそれに倣って包装を剥がして口をつける。
始めはオズオズと、次第に大胆に。
終いには横島やシロのように物凄い勢いで食べていった。
見る見るうちにトレイに積まれていたハンバーガーがなくなっていく。

「「…」」

その様子をポカンと見つめていた横島とおキヌだったが、
そうしている間に小竜姫は自分の注文した分を食べ終わってしまった。
おキヌなどはまだ半分も飲み終わっていない。

「…うぅ」

小竜姫は最後の一個を飲み下すと
もうハンバーガーがない事に気付いてとても悲しそうな顔をする。
どうやらまだ足りないらしい。
その表情に思わず横島が自分のトレイからハンバーガーをわけてやると、
小竜姫は目を輝かせて礼を言い、更に食べ始めた。

「…追加を頼んだ方が良さそうだなー」

「…そうですねー」

横島はトレイから自分の分のハンバーガーを小竜姫のトレイに移すと
席を立ってレジに向かった。


それから横島が二度ほどレジとテーブルを往復したところで
ようやく小竜姫は我に返った。

「ふ、ふみはへん?!」

ハンバーガーを口に咥えたまま、慌てて謝る。
言葉になっていないそれに気付くと真っ赤になって、
むぐむぐ、ごくん、と慌てて口の中のものを嚥下し、
三杯目のLサイズの烏龍茶を一気に飲み干してから、もう一度頭を下げた。

「す、すみません、横島さん、おキヌちゃん」

「い、いや、それは良いんですけど…一体どうしたんですか?
 まさか警察で何も食べてなかったとか」

「い、いえ、あそこではちゃんと三度三度いただいていたのですが…」

「そ、そうですよね」

考えてみればキッチリ請求されているのだからそんなはずはない。
六、七食で二万三千円と言えば割高な店屋物でもかなりの量になるはずだ。
しかし。

「その、ぜ、全然足らなくて…」

「…」

もじもじしながら言う小竜姫。
横島とおキヌは顔を見合わせて途方にくれる。

「…ええと、何から聞けば良いのやら…。
 と、とりあえず事情の方を話してもらえますか?」

困り果てた横島がそう言ってうながすと、
小竜姫は消え入りそうな声で話し始めた。

「は、はい。実はですね、その…、
 私、神族としての能力を斉天大聖老師に封じられてしまいまして…」

「「…はい?」」

小竜姫の言葉に二人は揃って素っ頓狂な声を上げた。


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