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「洗いグマ  タスカル?  前編(GS)」

犬雀 (2005-11-28 21:22)
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『洗いグマ タスカル?』


バイトが終わって部屋に戻ったら茶の間にクマが座っていた。

「すみません!間違えました!!」

慌ててドアを閉める。
古びた木製ドアに背中を預け、俺は大きく深呼吸をした。
すでに冬の気配を感じさせる夜の空気が鼻腔から入って、少し前まで泥のように疲れていた俺の灰色の脳細胞を活性化させる。

「よし!」

軽く気合を入れてドアを見る。
表札なんか出してないが間違いなく見慣れた俺の部屋だ。
念のためにと隣の部屋の表札を見てみれば、粗末なかまぼこ板に丸まっちい字で「花戸」と書いてある。
うん。間違いない隣は小鳩ちゃんの部屋だ。
明かりがついてないところを見ると小鳩ちゃん一家はもう寝ているらしい。
単に節約しているだけかみ知れないけど余計な詮索はしないのがマナーというものだろう。

「間違いないよな…。」

もう一度深呼吸して覚悟を決めると俺はドアを開けた。

「おかえりなさいクマー」

見間違いじゃなかった…。
ゴトンと自分の顎が床につく音がする。
きっと今の俺は傍から見ればかなり間抜けな顔をしているのだろう。
だけど家に帰ったら遊園地で風船を配っているようなモコモコの可愛いクマが居たら、誰だって間抜けな顔になると思う。
むしろ叫んで小鳩ちゃんを起こすようなことが無かった自分を誉めたい気分だ。

「そんなことろに立っていると冷えますクマー。今、温かいお茶を煎れるから入ってくるクマー。」

五月蝿い黙れ。ここは俺の部屋だ。
叫びたい気持ちを必死で抑える。うーん。俺って大人だ。

「どうしましたクマ?遠慮はいらないですクマ?」

ブチンと頭の中で何かが切れた音がした。
俺は物も言わずに一気にモコモコのクマに近づくとその顔面にヤクザキックを叩き込む。
うむ。手ごたえって言うか足ごたえはバッチリだ。

モコモコのクマは不意をつかれたのか俺の顔面キックにもんどりうって奥の部屋まで転がっていく。

あ、頭が取れた。
お?なんか慌てて頭を探している。

俺が中身を確認する前にモコモコのクマは再び頭を装着するとヨロヨロと立ち上がった。

「ひ、酷いですクマー!」

「やかましい黙れ不審者」

ピシリと右手に出した霊波刀を向けるとクマは慌てて両手を上げて降伏の意思表示をする。
どうやらクマの分際で弱いらしい。

「よーし。いい心がけだ。そのまま後ろを向いて壁に手をつけ。」

「あ、怪しいものじゃないですクマー!」

「見るからに怪しいわいっ!!」

大人しく壁に手をつきながら必死に言い訳をするクマだが、これが怪しくないってなら俺が着ぐるみ着て女湯に入っても怪しくないと言い張れるだろう。
うん。その手があったか。機会があったら試してみよう。

「ご、誤解ですクマー!私は通りすがりの洗いグマですクマー!」

「人の部屋を通りすがるなっ!!お前、俺を馬鹿にしとるだろ!」

「そ、それこそ誤解ですクマー!お願いだから話を聞いて欲しいですクマー!!」

壁に手をついたまま必死に訴えるクマ。
モコモコしたお尻についているフワフワの尻尾が可愛いといえば可愛いかも知れないが、あいにく俺は男だ。
縫いぐるみを愛でる趣味はない。

「お前の選択肢は二つだ。とっととこの部屋から出て行くか、その着ぐるみを脱いで謝るか。さあどっちか選べ。」

「これは着ぐるみじゃないですクマー。自前の毛皮なのですクマー!」

「背中にファスナーのあるクマなどいない!」

「………最近の流行ですクマ……」

「嘘をつけいっ!いや!つくな!!」

「…どっちなんですか?クマー」

あー。やばいそろそろ色んな意味で限界が近い気がする。
落ち着け俺。心頭滅却すれば火もまた涼しと言うではないか。
とりあえず深呼吸だ俺。
スーハースーハー。

「落ち着きましたかクマ?」

「元凶が何を言うかっ!」

「グマ゛ッ?!!」

思わず振り上げた足が足を開いて壁に手をついてたクマの股間を直撃する。
たちまち蹲るクマ。
おお。なんかプルプルと震えているし、ちょっと罪悪感。

「い、痛いです…クマ…」

「正直すまんかった…」

結局、クマに対してなんだか男として罪悪感が芽生えた俺は微妙に内股で震えるクマを横目で見ながら床に座る。
ちゃぶ台の上には先ほどクマが煎れたのか、ちょっと温くなったお茶が置いてあった。
口につけてみるといつも俺が飲んでいるお茶より上等な気がした。

「まあ話だけなら聞くからお前も座れ…」

「助かりますクマー…」

「その「クマー」ってのは何だ?」

「クマ語ですクマー。」

「鬱陶しいから止めろ。」

「わかりました。」

あっさり普通の言葉になるクマ。やっぱなんかむかつく。
もう一口お茶を啜った俺はふとあることに気がついた。
見ればお茶の入った湯飲みはもう一個ある。
これを勧めれば中の人の顔を拝むことが出来るではないか。

「とりあえずお前が煎れてくれたお茶だろ。まあお前も飲め。」

「わかりまし…」

頷こうとしてクマはピシリと硬直した。
さすがにクマのままでお茶を飲むのは無理だろう。
湯飲みを持てるかどうかも怪しいものだ。

しばし悩んでいたクマだったが、意を決したのか湯飲みに手を伸ばす。
まさか…そのまま行くのか?
チャレンジャーだな中の人。

クマは器用に肉球のついた手で湯飲みを掴むとその大きな口に持って行く。
固唾を飲んで見守る俺の前でクマはごく自然な動作で湯飲みを傾けた。

「ぶはぐほげほっ!」

おお。やっぱりむせたか。大丈夫か中の人?
クマの中の人はしばらくゲホガホとむせていたが、なんとか呼吸が整ったらしい。
さりげない動作で湯飲みを置くと軽く頭を下げた。

「結構なお手前でしたクマー」

なかなか根性があるな中の人。
けど言葉が戻っているぞ。

まああんまりからかっても話が進まないので、とりあえず水をむけてやることにしよう。話だけ聞いたらたたき出せば済むことだ。
生憎文珠は先ほどのバイトで使い切ったがこのクマは弱そうだから何とかなるだろう。

「んで話ってのは何なんだ?中の人。」

「な、中の人など居ないですクマー!」

「あー。はいはい。」

どうやら中の人は無視の方向でいくらしい。
このままでは話が進まないから突っ込みたいのを我慢して先を促す。
クマは俺の態度に安心したのかボソボソと話し始めた。

「実は横島さんにお願いがあるのですクマー」

「ほほう。俺にお願いとな。」

「はい。横島さんしか頼れる人がいないのですクマー」

「俺にメリットはあるのか?」

モジモジといいづらそうにするクマだけど、これがナイスバディのネーちゃんならともかく、モコモコしたクマに頼まれたところでおいそれとは頷けないのが人として正しいあり方だと思う。

「そう思いまして洗いグマは洗いグマらしく掃除と洗濯、それに台所の片付けも済ませておきましたクマー」

「なに?」

言われて見れば確かに部屋は俺の部屋とも思えないほど片付いていた。
床に散らかしていた洗濯物は綺麗に洗われ、しかもアイロンまでかけられて部屋の隅に畳まれている。
台所に目をやればカップ麺のカラとかインスタントラーメンを作った後の鍋とかもきちんと片付いており、ゴミも分別されて袋に詰められている。

クマの掃除能力に感心した俺は素直に彼を賞賛しようとして気がついた。
確か…俺の霊力の源がゴミにまみれてあちこちに散らかっていたはずだが…。

「な、なあ…」

「なんですかクマー?」

「いや…あのな。この部屋にあった本はどうなった?」

するとクマは何となく居心地悪そうに部屋の片隅を指差した。
そこに目を向ければ俺のお宝が綺麗に整頓されて積み重なっていた。

「な、な…」

「一応ビデオともどもジャンル別に分類してありますクマー」

「そ、そうか…ありがと…」

大きなお世話という奴だがここでキレたら負けっぽいので無理矢理笑顔を浮かべる。
多少どころではなく引きつっているという自覚があるんだけど、なんと言うか遊びに来た友達にベッドの下を漁られたぐらいに居心地が悪い。

どこか気まずい空気が流れ、俺はすっかり冷めたお茶に口をつけた。
クマはモジモジと畳のケバを毟ろうとしているがモコモコの手のために上手く行かないようだった。

やたらと居心地の悪い空気が部屋に満ち、耐えられなくなった俺はクマに話しかける。

「ところでお願いってなんだ?」

俺の質問にクマは目に見えてうろたえ出す。
しばらくガラス球で出来た目をあちこちにうろうろと彷徨わせていたが、それでも意を決したのだろうか?大きく深呼吸をするといきなり立ち上がる。

「ど、どうした?」

「恥ずかしいから歌で伝えますクマー!」

意味不明なことを言い出すのは錯乱していると見ていいのだろうか?
やっぱり追い出せばよかったと臍を噛む俺などすでに眼中に無いのか、クマは身をよじりながら、それでもここは譲れないとばかりに歌い出す。

「今〜。私の〜。願い事が〜かなうならば〜子種が欲しい〜「俺の青春を汚す気か貴様ぁぁぁ!!」 グマッ!!」

歌に夢中になっていたクマは俺の回し蹴りをまともにくらうと、綺麗に三回転半ほど素スピンをきめてボテッと床に落ちる。
惜しいな中の人。
着地が完璧なら世界も狙えただろうに。

クマはしばらくジタバタともがいていた。
多分、回し蹴りのショックで頭がずれたのだろう。見れば確かに顔と胴体が逆になっているし。

「目、目が…目が見えないクマーぁぁぁ!」

「あー。慌てるな中の人。首が逆向きになっているだけだ。」

「?!!」

俺の言葉にクマは慌てて頭を正位置に戻すとホッと胸を撫で下ろした。
うんうん。視覚を奪われると言うのは心細いもんだものな。わかるぞ中の人。

「なんてことをするんですかクマっ!」

「それはこっちの台詞だっ!言うに事欠いてなんちゅーことを言いやがるかっ!!」

「だからと言って理由も聞かずに蹴り飛ばすというのは失礼ですクマ!」

ぶぢぶちっと音を立てて俺の脳の毛細血管が逝く。
俺は最高レベルにまで高まった霊波刀をクマに突きつけた。
ビクッと身を震わせてバンザイするクマに俺自身驚くような低い声が出る。

「ちっとは着ぐるみに「子種をくれ」と言われた少年の気持ちってのを考えてみるか?ああーん?」

「オーケー。話し合いましょうクマ…」

「話すことなど無いっ!とっとと出て行け!」

「そんな!人助けだと思って話だけでも!」

「自分はクマだと言ったのはお前だろうが!!」

「ああっ!ああ言えばこう言う…」

再び頭を抱えるクマ。
それにてしもなんで俺の子種なんか欲しがるんだ?
もしやクマのふりをした変態か?
夜な夜なビルの屋上で「フォー」とか言っているのか?
もしかして俺の貞操かなりピンチ?

なんだか足が震えてくる。
ヤバイヤバイヤバイ…。
いっそ斬るか?クマだから斬っても殺人にはならないよな?
あ?でも密漁になるか?殺人と密漁ってどっちが罪が重いのだろう?

「どうしましたかクマ?」

黙れ。俺は今、真剣に考えているんだ邪魔するな。
考え込む俺の様子に活路を見出したのかクマはコホンと咳をすると正座してそのモコモコでちょっと先ほどからの蹴りで凹んだ頭を深々と下げる。

「本当にお願いしますクマ…一人の美少女の運命がかかっているんですクマ…」

「さあ。続きを話してくれないかクマくん。」

変わり身が早いのは俺の108の長所の一つなのだ。
日々無駄に命を散らしていく俺の分身たちが「美少女」の役に立つとあっては聞き捨てなら無い。
俺は霊波刀を引っ込めるとクマの肩に優しく手を置いた。

クマはちょっとビックリしたようだったが、それでも俺の本気が伝わったのだろう。
今度は歌わずに話し出した。

「ところで横島さんは魔鈴めぐみさんと言う美少女を知ってますねクマ?」

「あ?ああ、知っているぞ。」

「横島さんから見てどんな人ですかクマ?」

「うーん。どんなって言われてもなぁ…美人で優しいし…大人のお姉さんって感じがするし…料理も上手だろうし素敵な人だと思うけど?」

「そ、そんな照れるクマー…」

「なんでお前が照れる?」

俺の疑問にクマは目に見えてうろたえた。
むう。なんか引っかかるものを感じるな。
何がとは言えないけど。

「き、きのせいですにょ…あ、あと他には?」

「うーん…そうだなぁ…きっとスタイルとかもいいんだろうなぁ…あ、でも…」

「な、なんですかクマ?!」

「「美少女」って年じゃねーだろ?」

「なんですってぇクマっ!!」

膝立ちになって怒るクマ。
なんだコイツ?もしかして魔鈴さんの関係者か?
そういや魔鈴さんは妙な動物を飼うのが好きだったし、もしかしたら中に居るのは人じゃなくて変な生き物なんじゃあるまいな?

「だからなんでお前が怒るんだよ!」

「ま、魔鈴さんから電波が来ましたクマ…」

「は?もしかしてお前って魔鈴さんの使い魔かなんかなのか?」

「そ、そうですクマ!!」

ふーむ。つまりコイツは魔鈴さんの使い魔で、魔鈴さんの命令で俺のところに子種をとりに来たと…。

あれ?つーことは魔鈴さんが俺の…その…なんだ…種を欲しがっていると言うことか?
は、はは、ははははは…まさかなぁ…。

「何を虚ろに笑ってますかクマ?」

「やかましい!そんなことよりなんで魔鈴さんが俺の種を欲しがるんだ!」

クマは俺の問いかけにフーッと溜め息をつく。
どうやら中の人もそろそろ疲れてきたらしい。
それでも微妙に緊張しているのがモコモコごしに感じられた。
何らかの葛藤があったのだろうか、クマはもう一度中で深い溜め息をつく。
だけどその口からは思ってもいない言葉が出てきた。

「こんにゃく小僧って知ってますかクマ?」

「は?」

「こんにゃく小僧とはこんにゃくが変化した妖怪ですクマー」

「そのまんまじゃん?つーかこんにゃくっておでんに入っているアレか?」

「そうですクマー。しかしこんにゃくにはもう一つ恐ろしい使い道があったのですクマ」

「恐ろしい使い道って?」

あんなものがどうすれば危険になると言うのか?
たかがこんにゃく芋の成れの果てじゃないか。
強いて危険があるとすれば喉に詰めることぐらいだろう。
しかしそれなら餅でも同じではないか。

首を傾げる俺の考えを読んだのか、クマは先を続けようとする。
だけど何となく言いづらそうにしているように見えた。

「そ、その…男性の…その自己処理用に…」

「は?」

「で、ですから…その自家発電と言いますか…その…オナンの末裔と言いますか…」

「こんにゃくで?」

「そうですクマー」

おお。そう言えば聞いた事がある。
たしかコンビニとかで男がこんにゃくだけを買うのは一種の挑戦だと。
まあ人にはそれぞれ嗜好と言うものがあるのだから深くは追求しまい。
しかしそういう用途で使われたからといってこんにゃくが妖怪化するだろうか?
でも豆腐小僧とか食い物が妖怪化した例はかなりあるらしいからこんにゃく小僧もアリなのかも。

「こんにゃくは本来は食品ですクマ。食品として生まれたのにそういう用途に使われたこんにゃくの無念と童貞の怨念とが合体して妖怪化したんです。」

「むう…」

なんかシンパシーが湧いたぞこんにゃく小僧。
だけどお前とは絶対に友達になりたくないな。

「それで魔鈴さんがそのこんにゃく小僧の除霊を引き受けたんですが…」

「まさか!負けたのか?」

「ち、違いますクマ。逃げられたんですクマ!」

「そんなに強いのか…こんにゃく小僧…」

俺の知る限り魔鈴さんの除霊方法は一流の部類だし彼女自身もあの美神さんと互角にやりあえるほどの女傑だ。
その容姿からは想像もつかないけど彼女はかなり強い。
そんな彼女を振り切るとは、こんにゃくの分際であなどれん相手だと言うことだ。

「強いと言うか…臭くて…私ってイカ臭いのって駄目なんですよクマ…」

「は?」

「そ、その…飛ばしてくるんです…アレを…」

「アレ?」

「はい…」

クマはモジモジしながら俺の股間を見ている。
あーー。つまり種を飛ばしてくるってことか。

「むう…なんて恐ろしい攻撃なんだ…」

俺なら絶対にくらいたくない。
それはクマも同意のようだ。大きく頭を振っている。

「でしょ!でしょ!!」

「ええ…けど、だからと言ってですね…」

「なんですか?」

「そこでなんで俺の種が欲しいのかわからんのですけど…」

「ああ、それなら簡単ですクマ。こんにゃく小僧は童貞の…せ、精液を好むんですクマ。だから餌に使おうと…」

「待ってください…」

「な、なんですかクマ…」

「童貞の精液が必要と言うことわかりました…しかしだからと言って何でそこで俺をピンポイントに訪ねてきやがりましたかあなたは!」

「け、けど知っている人で童貞っぽいのは横島さんしかいないから仕方なく…」

がっくりと膝をつく俺を心配そうに覗きこむクマ。
お前には年上美人のお姉さんに「童貞」と断言された男の気持ちなどわかるまい。
確かにそうだが俺にだって見栄とかプライドとかがあるんだ!
雪之丞やタイガーにすら負けているということか?そうなのか?!
ううう…目から心の汗が…。

「大丈夫です…あと十数年守り続ければ魔法が使えるようになりますよクマ」

「そんな慰めはいりません!!」

ああ…もうなんだか今日はこのまま寝てしまいたい…。
影を背負って沈む俺をクマはガラス製のつぶらな瞳で見つめるのだった…。


つづく


後書き

ども。犬雀です。
んーと…今回は笑えるエッチに挑戦してみました。
たまにはこんなのもアリかなってことで大目に見て頂きたくorz

では次回で。

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