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「哀れな子供に捧げる為の戯曲 ANOTHER〜手のひらの楽園(GS)」

灯月 (2005-11-26 22:13/2005-11-26 22:22)
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※このSSは以前投稿した「哀れな子供に捧げる為の戯曲」の続編となっております。そちらの設定で書かれておりますので、ご注意ください。


女が一人、険しい山を登っている。
切り立った崖の上、人一人がギリギリで通れる道とも呼べない幅。一瞬でも気を抜けば、足を踏み外せば霧が渦巻き底の見えない奈落へと真っ逆さま。
そんな危険な場所を、それでも女は平然と歩いている。
その歩調に迷いは無く、恐怖も無い。
慣れた散歩道を行くが如く。
キリリとした顔立ちの彼女は、頂上をひょいと眺めてどこか憂鬱に息を吐いた。

見事なまでに赤い髪を風に遊ばせて進めばやがて土と小石、落ち葉や小枝からなる自然の道は終わり、代わりに現れた明らかに人工物である石の階段がこの山の頂まで来訪者を導く。
ここを昇りきれば目的地に着く。
女は、もう一度息を吐いた。
カツカツと、リズムよく石を打つ踵。わざとらしいほど周囲に響く。
ここは彼女以外の命は感じられず、小鳥の羽ばたきも小さな虫の気配も無い。
あると言えば周りに茂った木々のざわめき。
その茂る木々たちも、この石段辺りからの少しばかり様相が違ってきている。
奇妙に捻じ曲がった枝。紫や黒で彩られた葉。本来なら人界にあるはずのない種。
それは魔界に満ちる大気を吸って成長するはずのもの。
何故そんなものがこの人界の山に生育可能なのか?
簡単だ。
この山の頂上付近の大気は魔界のそれに近いのだから。
ゆえに小鳥も虫も本能的にこの場から逃れる。
おそらく並の人間も、この場所では五分と持たずに逃げ出すだろう。
だがそれなりの霊能力をもったGS、もしくはそれに近しい修行者ならば逆にこの大気の中で己の感覚を研ぎ澄まし、鍛えることも出来る。
そう、ここは修行場として名高い霊峰――妙神山。

数えることさえ馬鹿らしい石段を登りきって、終点。視界に入るのは古めかしいデザインの重厚な木の門。
その門の前小さい何かが数体、己より大きい箒を持ってちょこまかしている。
小さいソレは女に気付くと、掃除の手を止め片手を挙げた。

「ポー」
「ポポー」
「ポー!」

どこか嬉しそうな鳴き声に、女も意外と柔らかな声で応える。

「久しぶりだね、あんたたち。
あの二人は元気かい?」

問いかけに、ハニワ兵たちは「ポー」「ポー」と鳴きながら、門を開けた。
門の中。岩と半端な緑とそしてこれまた古いデザインの建物、二棟。
修行に来たものの気を抜くためとしか思えない銭湯のような、だが強固な結界の張られた修行場。
その奥にこの妙神山の管理人たちが暮らす、シンプルではあるが使いやすく設計された母屋。
さて、目的の人物はどちらにいるのか?
ちょこちょこと後ろをついて来たハニワ兵に尋ねようと口を開きかけ――

「あら? 久しぶりじゃない、ベスパ」

「おお、ホントだ。相変わらずいい乳して(べぎっ!)…なんでもないです」

横手から声を掛けられた。
ゆっくりとそちらを振り向けば、見知った顔が立っている。
妙神山の管理人。魔族メフィスト・フェレス。
そして彼女と同じく管理人の高島。
メフィストは相変わらず露出の激しい格好をして、傍らの男の腕に自らの両手を絡ませ立っている。
高島もそれを当然と受け止め、ベスパに柔らかい笑みを向けていた。
その頬が盛大に腫れていたが、理由は聞かなくてもわかるので何も言わない。

「久しぶりだね、二人とも。相変わらず仲が良いようだね」

ベスパのセリフにメフィストは微か顔を赤らめながらも嬉しそうに頷き、高島もそんな彼女を優しく見つめる。

「ところで、今日はどうしたの? 何かあった?」

「ん、いや。仕事で近くまで来たから少し顔を見にきただけさ。
すぐ帰るよ」

「それは残念だな。もっとゆっくりしていけば良いのに…。
ああ、アシュタロス殿は元気か? このごろ会ってないからなぁ」

高島の問いにベスパは少し、二人が気付かないほど少しだけ眉を寄せて――笑った。

「ああ、元気さ。仕事が多過ぎて嬉し泣きするぐらいね」

「へぇ! 一度見てみたいわね。
あ、せっかく来たんだからお茶くらい飲んでいきないさいよ。
丁度、おいしいお茶があるのよ!」

彼女は足元で動き回っていたハニワ兵たちに先に行って用意するよう命じ、高島とともに歩き出す。
その後姿をやや複雑な顔で眺めてから、ベスパは足早に後を追った。


「ああ、本当においしいね。これ」

出された茶を一口飲んで、素直に感嘆の声を漏らす。
果実の爽やかさと甘さの入り混じった自然な風味。後味もすっきりしていてとても飲みやすい。

「そうでしょう。このお茶はね、メドーサのお土産なのよ」

年不相応な無邪気な笑み。メフィストは楽しそうに語りだす。

「ついこの間、メドーサが来たのよ。弟子三人連れて。
ほら、小竜姫を取り逃したでしょ? それが悔しかったのね、修行と言いつついびりたおしてたわ」

「ああ、あれは完璧ただの八つ当たりだったな。まあ、男がどうなろうと構わんから俺も協力したけどなぁ」

笑いあう二人に、コトンと手にしていた茶器を置きベスパはどこか眩しそうにその姿を見つめる。

「メドーサ殿もゆっくりしていけば良いのに。何も気が晴れたからって弟子引きずって帰らなくても…」

「ここはゆっくりしていく所じゃなくて修行場よ、高島殿。
……ねぇ、メドーサが高島殿に誘われたって言ってたけど――本当?」

「えっ!? い、いや違うぞメフィスト!! アレはだな…!!」

「アレは、何よ!? やっぱり声かけてたんじゃない! 浮気者!!」

一気に痴話喧嘩に発展し、辺りに霊波砲や爆炎、怒号と悲鳴が飛び交い始めるがベスパは大して気にとめない。
もう慣れた。
どうせ高島が瀕死になりながらもメフィストの機嫌を取って、なんとか納まるに決まっている。
ここに来るたびそうなのだ。
当たり前だがベスパよりも圧倒的に経験値の高いハニワ兵たちは手馴れたもので。壊れやすそうなもの、壊れては困るものを部屋の隅に退避させ。動かせないものは高島が作ったのだろう結界符を貼り付けていく。
ベスパにも部屋の奥に行くようにと、促した。
安全の場所に移動して、温くなった茶に口をつけながら思い出す。

世界が変わった日のことを。


彼女の主であるアシュタロスが世界に勝利し、そうして世界は創りかえられた。
それまでの世界は全てが意味をなくし、崩壊し。人も神族も魔族も変革の中で死んだ。
輪廻すらアシュタロスが定義するまで機能せず。
全ての魂が行き場をなくしてさ迷っている中、美神令子の魂はアシュタロスの元へと戻ってきた。
それはおそらく彼女の中で目覚めつつあったメフィストの影響。
美紙令子――いや、メフィストは泣いていた。
アシュタロスの元に還っても。
ただただか細く泣いていた。
たったひとりの男を想って。
前世で添い遂げることの出来なかった男――高島を想って。
そのとき主が何を考えたのか、ベスパにはわからない。
わかるのはアシュタロスがほんの少し、メフィストを評価していたということだけ。
その「評価」が、どういった種類のものかは知らないが。
主は死してなお素直になれない美神令子の部分を取り去って、純粋に魔族メフィス・フェレスとして復活させた。
それから同じく手の中にあった横島の魂から前世の記憶――高島の記憶と人格を取り出し、それをもとに新たに高島と言う人間を生み出した。
そして二人の記憶を造り替え、変革した世界の新しい妙神山の管理人として置くことにした。
監視のために。隔離のために。何より、二人が共に在れるように。
本来ならば横島とルシオラのために造られた宇宙の卵に、この二人の居場所も用意するはずだったのだが、それによって万が一でも本当の記憶が目覚めては都合が悪く諦めた。

――以来、メフィストと高島はこの場所で日々を穏やかに生きている。


ふと、ベスパが追想から戻れば。
いつの間にか全身ズタボロになった高島が、それでも懸命にメフィストの頭を撫でて宥めていた。
メフィストは眼を赤くしながらも高島の言葉に頷き、その胸にしがみついている。
どうやら、仲直りしたらしい。
ハニワ兵たちも安心した様子で、家具や置物を元の位置に戻すためわちゃわちゃと動き回っている。
夫婦喧嘩は犬も食わないと言うが、この二人の場合下手に介入すると命が危ない。
こうやって、自然に納まるまで放っておくのが得策だ。
結局仲睦まじいのだから。
案の定仲直りしたとたんに、ベスパがいることなどすっかり忘れてベタベタといちゃつきだしている。

「高島殿、今度デジャヴーランドに行きましょう。久しぶりにデート、ね! いいでしょう!?」

「う〜ん、でもここを空けるわけにもいかないだろ。人が来たらどうするんだ?」

「こんなとこに来る人なんて滅多にいないじゃない。それにハニワ兵もいるし。……それとも高島殿は私とデートするのが嫌なの?」

「え!? そんなことはないぞ、メフィスト!! だから泣くな!
その潤んだ目とか上目遣いは…ぐお! か、可愛いっ!!」

はぁ……。
しっかりと抱き合ってのやり取り。バカップル丸出しだ。
ため息だって出ると言うもの。
ベスパは黙って立ち上がると何も言わずに出口へ向かう。
この空気の中、平気で居座れるほどの気力は無い。

「あ、帰るのかベスパ?」

遠ざかる気配に気付いて慌てて首を巡らし声をかけた高島に、彼女は緩く唇を吊り上げ答える。

「ああ、もともと長居する気も無かったし。あんたたちの元気な顔が見られただけで充分だよ」

「ごめんね。たいしたもてなしも出来なくて」

高島の膝の上に乗ったまま、申し訳そうに言うメフィストに少し笑う。

「気にしなくていいさ。楽しかったよ。
――ああ、そうだ。一つ聞きたいことがあったんだ」

「ん? なんだ」

「あんたたち、今幸せかい?」

その問いに、二人は顔を見合わせにっこりと笑った。

「当然、幸せよ!」

「ああ、俺もだ」

本当に満足そうに笑う二人に、ベスパの顔も自然と綻ぶ。

「そうかい。それを聞いて安心したよ。
じゃあ、元気でね」

言って、二人に背を向ける。
背後から「気をつけて帰れよー」とか「またね」と、声が追いかけてくるが振り向きはしない。
かわりに、軽く片手を挙げるだけ。
主人に代わって、見送りに来たハニワ兵たちに軽く別れを告げ石段を降りてゆく。
石段の中ほどまで来た所でようやくベスパは振り返り、山頂を仰いだ。

本当に幸せそうに、満たされた表情で微笑む二人。
卵の中の二人も――姉と、義兄と呼ぶべきあの男も幸せなのだろうか?
あの二人のように、笑っているのだろうか?
何も知らずに。気付かずに。
満たされた世界の中で。与えられた幸福の中で。
妙神山と言う、小さな楽園を与えられた二人のように。
二人の姉と、そして良く似た顔立ちの二人の男を思い浮かべて。
ベスパはなぜか、泣きたくなった。
涙など、出なかったけれど。


END


後書きという名の言い訳

ええと…今更ながらに続編? 会話って、難しいですね。
本当は高メフィも卵の中にいたんです。
中身がお子様なので高島が手を出してくれなくて、焦れたメフィストがルシオラに「夜のお誘い方法」を聞くと言うような話だったんです。
横ルシ+高メフィの会話が楽しすぎてオチも収集もつかなくなり断念。
この世界、魂はリサイクルされてますので、あるいは前の世界の記憶がこびりついている人なんかもいるかもしれませんね(小竜姫様なんかはもしかしたら…)。 

幸せです。この世界は。みんな。その為には全体を見ずに個人だけを見ましょう。
さて、本当に哀れなのは誰でしょうね?

皆様、ここまで読んでいただいて本当にありがとうございました!

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