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▽レス始

「遠き旅路の、一歩目に(2)(GS)」

マスクド誰か (2005-11-25 10:45)
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 ――――ども。生存報告一発目、中国の横島です。

 いやー、こっち、奥地にいくとまさに深山幽谷ですね。霊穴がそこら中にあるし、妖怪も多いし。

 ようやっと一ヶ月ですけど、なんかもう年単位でいるような気分です。…………雪之丞に経験なかったらフツーに死んでますね俺。山篭りってつらいんだなあ…………

 さて、今回は仙女さんのことを書こうかと思います。

 というのも、二週間ほど前、日本で満載した最後の食材で味噌煮を作って食べてたら、匂いにつられて仙女さんが現れました。…………あー、えっとですね、信じられないかもしれないけど、全部マジなんです。

 その人……四代目“天穣悠越元君”、字は虎落と名乗りました。ああ、振り仮名を振ると“てんじょうゆうえつげんくん”と“こらく”です。後の方はあだ名みたいなもんだそうです。つーか代替わりとかあるんですね、仙人。

 まあ、その時いた場所が山菜の多く取れる場所だったんで、特に気にせずご馳走したわけですが、雪之丞が「鶏肉とか入ってるがいいのか? 仙人って魚とか肉とかダメなんだろ?」と聞いたところ、「儂、邪仙じゃしの」だそうで。そういうもんなんスか?

 関係ないけど、雪之丞が広東語と北京語できるのが激しく意外。俺「通/訳」の文殊なのに。そう文句言ったら、「…………じゃあお前、中国でどうする気だったんだ? いちいち文殊使うつもりだったのか?」と返されて閉口しましたよ。ツッコむなよな、そういうこと!

 さて、仙女なんてオモシロ属性、あのバトルジャンキーが見逃すはずもなく、飯の後で手合わせを希望。結果は引き分けでした。や、マジな話、クロスレンジの格闘戦でああまで雪之丞と渡り合える人っているんすね。世界って広いな…………

 なんか虎落さん、雪之丞と似たような性質の人で、そりゃあもう楽しそうに殴り合いしてます。勢い余って顔面に拳がモロ入っても、血と奥歯ふり飛ばしながら哄笑してました。ちょっと泣きそうです俺。

 で、今日こそ決着つけてやるって感じで、今も俺の後ろでガチンコやってます。つーかうるせえよお前ら。俺は明日、この手紙出すのに山下りるから明日はやいんだぞ?

 ええと、なんだっけ…………ああそうそう、結局その人に師事するようなしないような感じで、俺ら頑張ってます。雪之丞はドツキ合いしながら、魔装術の理論とかと交換で格闘用の仙術教えてもらってるし、俺はというと、道教に基づく符術なんかを習ってます。

 それなんですけど…………なんか、前世の記憶が部分的に蘇って来てるんですよね。霊穴にいるせいか、それとも符術が陰陽術に通じてるせいなのかも。美神さん、俺、ある程度の呪符作れますから、帰ったら経費浮きますよ。時給上げてくださいねー。


 こっちの近況はこんなとこです。そっちはどうですか?


「ふーん、頑張ってるみたいじゃない」

「み、美神さん美神さん!」

 あーはいはい、とお預け食らっていたおキヌに手紙を手渡し、シロに恨めしげな目で見られる美神。

「…………あるんですか? 代替わり」

「誰も彼もが不老の境地にいけるわけじゃないってことでしょ」

 しばらくして読み終わったのか、シロに手紙を渡しながらの問いに、苦笑しながら答える。

「それと、“そういうもの”じゃ絶対ないからね」

「あ、あはは…………」

「…………おお、流石は先生でござる!」

「あー、ばか犬、読み終わったら私によこしなさい」

 タマモも一応気になるようで、あまり待つこともなく渡された短い手紙をざっと読む。

「陰陽術ねえ…………」

 前世が玉藻之前であるところ彼女は、あんまりいい顔をしない。なんかヤな思い出でもあるのだろうか。

 美神は笑って、

「どうなることかと思ってたけど…………結構、期待できそうね」

「当然でござる! 拙者も精進せねば!」

 といって、飛び出していくシロ。どこ行くんだお前は。

「あっ、お鍋お鍋……!」

 続いて、おキヌも出て行く。

「慌しい連中ね」

「ホントに。――――さて、私もちょっと出掛けるから、留守番お願いね。あの二人にも伝えておいて」

「いいけど……またカオスの所? 美神も負けず嫌いね」

 そりゃそうよ、と美神は笑った。

「誰に負けるのが嫌って、あいつに負けるのだけは嫌だからね」


 ――――という事情で強くなることを目指すにあたり、美神が恃んだのはドクター・カオスだった。

 霊能者として完成の域に至った彼女は、単純に霊力を上げるという手段が使えないし、もとより“使用者”――――アイテムマスターであるところの美神は、頭のはっきりしている状態ならば、紛れもなく世界最高峰のアイテムクリエイターであるカオスに目をつけたのだ。

 実際、“やりようによっては神魔に勝てるようなアイテム”という、研究テーマとしては申し分のない依頼と、潤沢な研究資金(己への投資なので、吝嗇家の美神も惜しまなかった)を受けたカオスは、常にない覚醒状態を維持したまま、研究に没頭している。やけにマリアが嬉しそうだったのが印象的だった。


「ま、よろしくね」

「はいはい。――――どいつもこいつも子供なんだから」


「む、美神令子か。出来ておるぞ」

「き、来といてなんだけど早いわね? まだ依頼して二週間もたってないわよ?」

 マリアに通されて入ったボロアパートの一室には、床の抜けそうな量の機材に囲まれて、ヨーロッパの魔王が立っていた。

「なに、今回のは直接的な武装ではないのでな」

 そう言って、右手側にあった小さな箱を手に取り、中から小さな石のようなものを取り出した。

「それは?」

 文殊より小さい完全な球形のそれ。よく見れば、表面に複雑で緻密な方陣が描かれている。

「名前は付けておらんが――――簡単に言えば、四次元ポケットじゃ」

「はあ!?」

 カオスが詳しい説明を始める。

“それ”は地獄炉の応用系。

 魔界のどこかの地中深くをドーム上に抉り取って造ったスペースに、その球を基点に空間を繋げて物品の出し入れができるという、言ってしまえば単純な代物だった(といっても、カオス以外に作れる人間がいるかと聞かれれば疑問ではある)。

「純魔力で溢れる魔界とはいえ、スペースの内部は“清掃”済みじゃ。メンテナンスを怠らなければ、魔力の影響を受けやすい物品も置いておける。内部は結構広いが、シェルターとしてはまだ使えん。あくまでも“それ”が基点じゃから、行くことができても戻れなくなるでの。もう一つ二つ作っておくからそれまで待て」

「へえ…………便利ね」

「これに拘ったのは、とにかく速度じゃ。他の性能はなんてことのないものじゃが、空間を繋げる速度だけは最高水準じゃ。使い手たるお主さえ熟練すれば、ほぼ一瞬で道具の出し入れが出来るじゃろう」

「あ、頭のボケてないときはホントに凄いわね、カオス……!」

 くっく、とカオスは笑い、

「では、適当に名前をつけてもらおうかの。起動コードにするでな」

「そう、ねえ…………」

 美神はしばし考え込み、

「ま、変に凝ることもないか。“アイテムボックス”でいいわ」

「ふむ。起動コードそのものは“アイテム”と略したほうがいいじゃろ」

 美神の手の中の“アイテムボックス”に一瞬だけ触れて、

「登録終了。どれ、試しに起動してみるか?」

「そうね……“アイテム”!」

 ぐにゃり、と、美神の右手側の空間が蜃気楼のように揺らめく。カオスは躊躇いもなくそれに手を突っ込むと、

「成功じゃな」

 水面に波紋が出来るように、空間を揺らしながら、カオスの手が“向こう側”へ移動し、美神からは見えなくなり、その手が引かれるにつれて、ずるずると空間の波紋からカオスの右腕が出てきた。

「接続を切る時は念じるだけでよい」

 言うが早いが、ぱちんと小さな音がして波紋が消えた。

「で、どうする? 指輪なり何なりにしてもよいが、インプラントするならここでやってやるぞ」

「もう作れないって訳でもないんでしょ? なら適当に細工するわ」

 ふむ、とカオスは頷き、

「費用じゃが、……まあ、手数料込みでざっと5億といったところか」

「ま、特に不満はないわ。引き続きよろしくね」

「うむ。――――マリア、客人のお帰りだ!」

「イエス・ドクター・カオス」

 別に帰るとは言っていないのだが、「研究の邪魔だから出て行け」ということなのだろう。頼もしいことだと苦笑して、美神は踵を返した。


 ――――横島が手紙を出して山に戻ると、雪之丞と虎落が地べたに座り込んで何事かを話していた。

「…………なにやってんだアンタら」
「おー、戻ったか横島」
「昨晩の講義の続きじゃよ。魔装術についての話じゃな。横島殿もどうじゃ?」

 気分で変える虎落の髪形は、今日はシニョン――――カンフー映画の中国娘によく見かける、頭の左右に丸く纏めるスタイルだ。服装はいつもと同じ胡服だった。

 カオスばりのジジイ言葉とは裏腹に、虎落の外見年齢は、横島よりも1、2歳ほど年下に見えるので、そんな髪形もよく似合う。切れ長の瞳とすっきりした鼻梁、薄い唇、小柄でスレンダーな体躯と白い肌の、チャイニーズビューティーの見本のような少女だ。――――中身は戦鬼だが。

 いろんな意味で凄まじいギャップだが、横島もいい加減慣れたので、一つ頷いて、二人の隣に腰を落ち着けた。

「理屈と用法はもういいな。そうだな、一度大きく戻るが――――もともと、使い手のあんまりいない魔装術だが、そのなかでも多数派と少数派がある」

 がりがり、と手にした枝で地面に図を描いていく雪之丞。

「まず多数派だ。これはよくある悪魔契約――――“魂と引き換えに願いをかなえる”というやつの一つの形だな」

 理由は何でもいいが、悪魔に“自分を強くしてくれ”と頼み、その“強くなる”具体的な方法として提示された手段の一つが魔装術だ。

「ま、使い道の限定される魂を要求するやつなんか、滅多にいないがな。現にオレは、手駒として働くことを引き換えに術を与えられたわけだし」

 この方式の魔装術の場合、悪魔――――神魔が何をどうするかというと、自分の霊基構造の劣化複製を契約者に与え、契約者はその劣化複製、つまり霊的回路に己の霊力を通して術を行使する。神魔の霊能を譲り受ける、という言い方もできる。

 優れた魔装術の使い手は、外見がシャドウに似るが、この方式の使い手がそうであった場合、マテリアルとアストラルの優位がひっくり返るためにそうなる。本質<イデア>としての属性が霊的な方向に偏るのだ(その状態で霊力が枯渇すると、その霊基構造に侵食されて魔物化する)。

「神魔? 神族とも契約できるのか?」

「原理的には可能だ。ただ、遊び半分で契約してくれるやつも多い魔族と違って、神族はそういうのに厳格で、契約に乗ってくるやつが圧倒的少数なんだよ」

 ――――次に少数派だが、こちらは己の潜在能力を引き出す方式だ。

「…………それ、悪魔は関係ないじゃろ」

「いや、偶像(デーモン)って意味でなら合ってる」

 深層意識化の「凄い」「強い」のイメージとしての偶像(デーモン)を、霊力を媒体に引きずり出して具現する方式のこれは、早い話「最強の己」を具現するわけだから、潜在能力を引き出すことに繋がる。

 こちらの方式の、優れた使い手の外見がシャドウに似るのは、単純にそのまま、“シャドウを装甲にして纏っている”ようなものだからだ(こちらの“魔物化”は、顕在化したシャドウと表層自我が混在することを指す)。

「オレはこっちの方式だな。まあ好みの問題だ」

「ふぅむ、成る程のう…………」

「…………」

 ――――っていうか、横島的にはちょっと雪之丞がインテリに見えて大分複雑。

「とはいえ、いい加減こっちの方式は限界が見えてきたからな。まだもう少しぐらいは成長するんだろうが…………実は、多数派のほうと両立できないもんかと思っててな」

「それはよいな。――――惜しむらくは、この国は妖怪が多いが、神魔はあまりおらんことじゃな。とっつかまえて実験しようにもモノがおらんのではのぅ…………」

「…………今更だけど、凄え会話してんなあ、俺たち」

 小竜姫さまが聞いたらどう思うだろう。

「さてと。横島、陰陽術のほうはどうなんだ?」

「あー、順調。式紙、方位術、五行の相克相生、霊撃符、結界符、吸魔符、一通り扱えるようになった。完全に慣れるまで、あと一週間もいらねーんじゃないかな」

「ふむ…………横島殿の前世は、よほど高位の術士だったのじゃろうなあ」

 儂が教えることもあまりないの、と虎落が嬉しそうに呟いて、横島、ちょっと冷や汗。バトルジャンキー二人に囲まれると気苦労が多い。

「よしよし、時間は有限じゃ。雪之丞、もう一手やろうか」

「望むところだ」

「…………じゃ、俺は端っこのほうで練習してるから」

 後ろを向いた途端に、ほとんど爆発音にしか聞こえない打撃音が聞こえたが、聞こえない聞こえないと念じつつ、横島はそっと、結界符を後ろに配置した。


 あとがき

 えー、ではまずレス返しから。


>ふにゃふにゃ様

 西条さんは人生の墓場に自ら入っていきました。まあ楽しくやるのでしょう。今後の展開は……どうしましょうね?(←作者

>拓坊様

 キャラの描写は結構難しいところです。時々、書いてるうちに「誰だよコイツ」みたいな別人になっちゃって。
 だもんだから、上手く出来ていれば嬉しいです。

>WEED様

 まずは誤字指摘、ありがとうございました。今後に生かせると思います。

 煩悩小僧とマザコンバトラー、彼ららしい旅立ちが描けていたでしょうか。この「らしさ」というのも重要なものではないかと思います。煩悩小僧とマザコンバトラーは、そのままで成長していってほしいものです。――――っていうか、似合いませんしね。こいつらに悲壮感とか。

>矢沢様

 物足りない。
 イマイチ物足りない。
 よし、では女傑になってもらおう!

 ということで、弓かおり嬢には、なんだかハイパーなお人になっていただきました。ゆっきーのハートは”物理的に”勝ち取らねばならない!

 レギュラーメンバーも、横島たちと平行して出す予定です。やっぱ美神が出番多くなるかな。帰国後はまだ考えてませんが。

>花翔様

 確かに、やつの不器用度といったら、筆舌に尽くしがたいものがあります。これからの話で、その辺のことも書けるといいなと。

>法師陰陽師様

 あ。
 えーと、どっちかってーと、修行終わって二人が帰ってきてからが本編とゆーか。大陸で大きな事件に巻き込まれたりはしない予定……だったんだけど、どうしよう。

>きぼー様

 なんだかんだで要領のいい西条さん。つーか、そんな暇がどこにあったんだろう。作者も不思議(マテ

>白銀様

 上手いことやったキザロン毛。すみませんねえ……脇役優遇ですから…… GSでもっとも後ろから刺されそうな男、西条さんです。しかし、過去の所業にちょっとでも自覚があれば、やつも対抗手段ぐらいは持っている筈……暗殺は計画的に。

>tomo様

 西条ぶっ殺し同盟がここに爆誕。メンバー募集中?

>柳野雫様

 まさにそーいうのが書きたいですねー。今年の初詣には文才を頼もうかな。となると弁財天……だめだ、遠い。文才だめだー(なにかが妙な推移。


 で、真・あとがきです。

 中国といえばカンフーとシニョン、そして仙人だ!
 ――――という、作者の偏見によって仙女様登場。名前についてはあまり突っ込まない方向でお願いします。

 美神さん強化プラン。セットでカオス大復活(別に死んでない)。
 魔装術についての考察――――設定マニアなのだろうか、俺。

 まあ気にせずいくと、実際アレは蛇と猿で言ってることが違うのでやや混乱した思い出が。矛盾を出さずに上手く説明しようとしてこうなりましたが……どーなんでしょうね実際。

 次回は横島と……あの人が大復活?
 こうご期待ですー。

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