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「理由 後編(GS)」

八之一 (2005-11-12 00:24/2005-11-12 14:39)
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『理由』後編


ようやく必要な検査を終えた美神と横島。
検査の結果と過去の実績から、
美神は文句なしに甲種に、横島は丙種にそれぞれランクされた。
能力的には横島は乙種でも充分やっていけそうだったが、
やはりここでもルーキーという事でとりあえず丙種、となったのだ。
ピートや雪之丞もそれで落ち着いたらしい。
その説明を聞いて美神が感情的になり、更に一悶着あったのだが、
横島が必死で止めたために事無きを得ていた。

「まった…ウチ…島ク……同等…冗…じゃない…」

いまだに憤懣さめやらず、といった表情で
ブツブツ言いながら肩を怒らせて歩いて行く。
案外親馬鹿というか身内びいきの強い美神であった。
そんな美神の様子が後からついていく横島からすると、
何やら好ましく思えてしまうあたり、この男の病も膏肓に入っている。
止めに入った際に殴られた顎をさすりながら美神の後をついていく横島という図は
何やらやんちゃな小学生の姉弟のようだった。


「ん、ここね」

申請するランクごとに受付が違うため横島と別れた美神は、
甲種の受付にやって来た。
そこで所持している書類を提出すれば終わり、というところだったのだが。

「…なんであんたがここにいるのよ、エミ」

「…そう言うあんたこそ。
 ここは甲種の免許を交付される人間がいるところなワケ」

知った顔に出会ってしまったのだ。
同期のライバルで商売敵、世界でも屈指の呪術師、小笠原エミに。
二人が顔をつき合わせた途端に周囲の空気がギスギスとしだした。

「だからあんたがいるところじゃないって言ってるのよ。
 資格試験で3位だったくせに」

「いつまでも古い事を…。それに今の対戦成績は8勝8敗で五分よ。
 ここのところは私が連勝してるんだから今の力の差は歴然としてるワケ!」

「こ、こら!あの地獄組の時は組長が勝手に自首したんだから、
 9勝7敗で私の勝ち越しだって何度言ったらわかるのよ!」

どんどん強くなる二人の語勢。ギスギスがゴリゴリにランクアップする。
そしてついにエミがNGワードを口にした。

「フン!あの時だって横島の横槍がなかったら私の完全勝利だったじゃないの!
 いつも助けられておいて自分の手柄みたいに言うのは良くないワケ!」

真っ赤になった美神が頭の血管をまとめて2、3本ぶち切りながら
売り言葉に買い言葉で叫ぶ。

「そっちこそ!
 タイガーたちの壁がなければ何にも出来ないくせに吠えるんじゃないわよ!」

エミの額あたりからもブチブチと何かが切れる音を確かに聞いた、と
後にその場に居合わせた現役GSのAさんは語った。
美神のその言葉に二人の間の雰囲気は一触即発の状態にまで張り詰める。

「…そう思うの?だったら今ここで証明してあげるわよ」

「…あんたが私の足元にも及ばない事を?それは手間が省けるわね」

そう言って物凄い笑みを浮かべた2人はそれぞれの獲物を取り出た。
美神の神通棍は持った途端に変形して暴れだし、
エミのブーメランはものすごい勢いで放電し出す。

「今日と言う今日は決着をつけてやるわよ、エミ!!」

「望むところなワケ!!」

美神とエミが同時に一歩踏み出そうとしたその時。

「あ〜、令子ちゃん〜、エミちゃん〜。
 久しぶり〜、冥子、乙種の免許をもらったの〜。2人は〜?」

およそ場にそぐわない声が響き渡る。
二人の剣幕に完全に呑まれていた周囲が、
あまりの空気の読めなさにギョッとして発言者の方を振りかえると
そこにはおかっぱ頭でどこか幼い感じのする女性が立っていた。
彼女を知っていたものは全ての崩壊を予見して、後も見ずに逃げ出しにかかるが、
お互いしか見えなくなっていた美神とエミは気付かなかった。

「うるさいわね!今それどころじゃないの!」

「こっちはこのクソ女を乙種に叩き落すのに忙しいんだから
 黙ってて欲しいワケ!」

それが地獄の釜の蓋を開ける言葉とも知らず。

「ええ〜、そんな〜!2人とも冥子と一緒なのが嫌なの〜?」

よろ、よろり、とふらついた六道家次期当主、六道冥子の言葉に
ようやく美神とエミが事態に気が付く。

「決まってるで…?!って、め、冥子?!」

「冥子?!こ、これは違う…!」

慌ててフォローしようとする二人だったが。

「…2人とも、ひどい〜!!」

ボビュビュビュウンッ!!

泣き出した冥子に反応して影から飛び出した彼女の12体の式神が、
当たるを幸いと暴れ始めた。
たちまち阿鼻叫喚の地獄絵図が展開される。
首都圏から集められた現役GSたちがなす術もなく巻き込まれていく。
球場もものすごい勢いで破壊され始めた。

「「「「「うわあああああああぁッ?!」」」」」


「あれ、隊長さん。今日の選定試験、行かなくて良いんですか?」

事務所で留守番をしていたおキヌたちがお茶を飲みながらテレビを見ていると、
美神の母、美智恵が次女のひのめを連れて部屋に入ってきた。
オカルトGメン所属ではあるが、彼女も現役のGSの資格を有しており、
当然今日は試験に言っているものと思っていたのだ。

「おキヌちゃん、隊長は止めてっていつもいってるでしょ?
 もう上司でも上官でもないんだから。
 そうね、そろそろ駄目だったって連絡が入ると思うわよ」

「どういう事?」

思わせぶりな事を言う美智恵にタマモが顔を上げる。

「ランク制度って話はね、何年かに1度出てくるのよ。
 そういう教条主義的で現実より理屈を優先してしまうような人がね。
 それでね、それを推進しようとする人に力がある場合が何度かに1度あるの。
 そうね、15年から20年に1度ってところかしら」

私が資格を取ったか取らないかの時にも1度あったわね、と
ソファに座りつつ言う美智恵。

「え、じゃあ以前にも導入の話があったのでござるか?」

「そう。でも、今まで1度も成立した事がないのよ。なんでかわかるかしら?」

シロの問いに悪戯っぽくこたえる。
その時事務所の電話が鳴った。
おキヌが受話器を取る。

「はい、美神除霊…あ、横島さん…え?…美神さんと…エミさんが…乱闘?」

それを聞いた美智恵が8時20分の眉でホラね、という顔をする。

「…冥子さんも?球場が?…吹っ飛んだぁ?!」

おキヌの顔から血の気が盛大にひいていく。
シロとタマモがギョッとして美智恵の顔を見る。

「ま、そう言う事ね。GSってのは基本的に独立自営の技術職でしょ?
 人によって多少はあるけど、皆、本質的には唯我独尊の気質を持ってるのよね。
 だから無理にこんな制度を導入しようとすると
 大騒ぎを起こすのが必ず何人か出てくるのよ」

「わ、わかってて黙ってたんでござるか?」

青い顔をしているシロに美智恵はにこやかに答える。

「ま、良いじゃないの。こってり油を絞られれば令子にも良い薬よ」

「…それだけじゃないわね?」

軽い感じで韜晦する美智恵をジト目で見つつタマモが呟く。

「んふふ。な〜んのことかしら、タマモちゃ〜ん?」

「こんな大騒ぎを起こせば協会の権威が地に落ちるわよね。
 GS協会の力を削ごうって事?
 ついでに対抗勢力としてのオカルトGメンが…ってイタイイタイッ!」

美智恵はタマモに皆まで言わせずに
拳で側頭部を挟み込むとグリグリと締め上げた。
タマモは涙目になってジタバタしている。

「ほほほ、タマモちゃん、そう言う事はわかってても口に出しちゃいけないわよ?
 口は災いのもとってね?」

ポンッ、と音をたてて狐に戻ったタマモがおキヌの後に逃げ込んでしまう。
おキヌの後から威嚇するように美智恵を睨みつけるタマモ。

(賢いのにどこか抜けてるのよね、この娘)

タマモの様子を苦笑しながら見ていた美智恵はそんな事を考えていた。
何とかしておくべき案件、と心にとめる。
そして何事もなかったかのように立ち上がって、

「じゃ、悪さの過ぎた娘を叱りに行こうかしらね。
 どうやってお説教してあげようかしら。
 あ、おキヌちゃんひのめの事お願いね?」

「は、はいッ!」

そう言って事務所を出ていった。
なんだか妙に生き生きしている。

「だ、大丈夫かなあ、美神さん…」

その後姿におキヌが不安を覚えていると、
つけっぱなしだったテレビの画面に緊急の速報が流れ出した。
そこには煙を上げて崩壊しているドーム球場の惨状が映し出される。
おキヌたちの額に浮かんでいた冷や汗の量が倍増した。
3人は揃って手を合わせると球場の方向に向かって頭を下げる。
どこからかチーンという鐘の音が聞こえてきた気がした。


その後。
六道の力で球場は脅威的な早さで復旧したが、
その間ホームを使えなかったジャイアンズは
他球場での遠征を余儀なくされたため、
春先のスタートダッシュに失敗した。
結局その影響から逃れられずに、この年史上初の最下位という結果に終わる。

「な、何てことだ…!」

一人涙するロンゲの道楽公務員がいたとかいないとか。


球場再建の負債を一部背負わされてしまったエミは、
それを支払う事が出来ず。

「それでね〜あなたがウチの専属の契約をしてくれるなら〜、
 オバさん〜利子無しで〜、
 このお金用立ててあげてもいいかな〜って思うんだけど〜」

「ぐ、…お願いします…ううっ」

「失敗を分かち合える友達がいて〜冥子とっても嬉しいわ〜」

哀れ、六道家にとり込まれ、冥子のお守り役に任命されてしまった。


GS協会も大量の資金をつぎ込んでの計画の失敗と、
球場崩壊という大惨事に世間の非難が集中したため、
責任を負わされた急進派が軒並み更迭された。
その結果、ランクの導入計画は断念されたのである。


そして――

「は、放して、放して横島クン!
 このままじゃ、全部、全部持っていかれちゃうぅ!!」

「だ、駄目です、美神さん!ここでおとなしくしておかないと…!」

とある公園の中。
黄色と黒のテープで封鎖された公衆便所の前で若い男女が揉めていた。
一方がテープをくぐって公衆便所に入ろうとするのを、
もう一方が必死に押し留めているというなかなかシュールな光景。
美神と横島だった。
そうやって二人が押し問答をしていると
トイレの中からドヤドヤと何人ものオカルトGメン職員が出てくる。
それぞれとても重そうなダンボールを持っていた。
次々にトラックの荷台に積み込まれていく。

「あ…ああ…ま、待って…!!」

それを見た美神が更に錯乱して職員に掴みかかろうとする。
その手を避けようとした職員が持っていたダンボールの底が抜ける。
ゴト、ゴトンととてつもなく重そうな音をたてて転がり落ちてきたのは
かなり大振りの金の延べ棒だった。

「そ、それは―ッ!私の、私の―ッ…あたッ?!」

スパンッ、と良い音を響かせて美神の頭を引っぱたいたのは美智恵だった。

「いい加減にしなさい!
 ちゃんと球場を直すお金を支払えなければあなたは訴えられるのよ?!」

「じょ、冗談じゃないわよ!壊したのは主に冥子じゃない!
 私はそれを止めた功労者よ?!
 なんでその私が財産を没収されなきゃいけないのよ?!
 大体なんでママが私の通帳の暗証番号から
 隠し財産の保管場所まで把握してるのよ―ッ?!」

「だから何度も説明したでしょ?
 六道のお嬢さんが暴走したのは令子と小笠原さんが原因なんだから、
 球場の修理費用は6割六道持ちで残りを令子と小笠原さんで折半だって」

そう言って美神をいさめているとトラックの方から声がかかる。

「美神隊長ー、積み込み終わりましたー」

「はい、ご苦労様。手筈通り運んで頂戴!」

「あっ、あっ、あああっ!ま、待って!…待ってえぇ…」

しかし無情にもトラックは走り去ってしまった。
美智恵も後はよろしく、と言って帰ってしまう。
公園に取り残されたのは膝と手をついてガックリとうなだれる美神と
それを気の毒そうに見ている横島だけだった。

「…そ、その…美神さん?」

「…」

美神にすれば稼いだお金は一種のアイデンティティであり、
それが失われたのは自己崩壊にも等しかったのかもしれない。

「し、仕方ないですよ。その、今回は運がなかったって事で…」

「…うぅ」

「そ、その、蓄えはなくなっちゃったけど、
 営業取り消しとかそういう事はなかったんですから、良しとしましょうよ」

「…でも」

「なくした分はまた稼ぎましょう?その、俺もお手伝いしますから、ね?」

肩を振るわせている美神があまりに痛々しくてついつい横島の言葉も甘くなる。
その言葉に美神が顔を上げる。
横島からは逆光で良く見えなかったが、目を腫らしているようにも見えた。

「…ホントに?」

「ホントですって!」

グシグシ、と目をこする美神。

「…一緒に…いてくれる?」

「任しといてくださいよ!」

とにかく立ち直らせたい一心で深く考えずにそう言ってしまう横島。

「最後まで?」

「そりゃあもう!地獄の底ま…で?!」

その横島の言葉を聞いていきなり美神が立ち直る。

「よーし!ちゃんと聞いたからね!もう撤回は無しよ!」

「って、ええっ?!なんすかそりゃあぁッ?!
 ま、まさか今のが全て演技だと…?!」

どこまでが現実で、どこからが虚構なんだ―っ!と錯乱する横島を尻目に
美神は夕日に向かって拳を突き上げる。

「よしッ!廉価な労働力を完全に確保したし!
 これからは今にもまして稼ぐわよ、横島クン!!
 そして、いつかはGS協会を乗っ取って…
 ふっふっふ、首を洗って待ってなさいよ、エミ!!」

廉価な労働力って俺の事っすか〜、と美神の後で目の幅の涙を流す横島は、
立ち直った美神を見て、まあいいか、と安堵していた。
どうせ今までと何が変わるわけでもないし、と。
だが、美神の背中しか見えないところにいた横島は、
だから、
美神の目が赤いことも、
頬に涙の跡があることも、
顔が真っ赤になっていることにも気付かなかった。


横島の左の薬指に質素な銀色の鎖がつけられたのは
それから一月とたたないうちだった。

「あれ?」


エピローグ


「ふっふっふ。20年前の借りを返す時が来たのよ!
 協会に寄付という名の買収を続けて20年…。
 長かった…。ホンっと〜に長かった!でもこれでおしまいよ!
 エミは去年引退、その息子はウチの娘に頭が上がらないし、
 冥子は財閥経営の方にシフトしてる!あそこの娘はまだ資格を持ってないし!
 くっくっく、万全よ!これでウチだけがAランクの家系という事に…!」

と、GS協会役員にしてランク制度導入推進派の大物、美神令子は
選定試験の会場に設置された役員席で一人凱歌を上げていた。
さすがに甲乙はないだろうと言う事で
今回はAからEのランクという事に変更されている。
隣では夫がもう少し声を押さえるように懇願しているがまったく聞いてくれない。

「エミのヤツはGS協会の役員にならなかったからAランクは交付されない!
 冥子には元々Aランクって話はないし!
 このためにどれだけ使わなくて良いお金と時間を浪費した事か…!
 でも、それも報われる!私の勝ちよ、エミ、冥子!ほ――っほほほほほっ!」

どんどん声が大きくなっていく。目つきもちょっと尋常でない。
20年前の失敗がかなりのトラウマになっているらしい。
夫がこれはちょっと無理にでも黙らせないといけないか、と考えはじめた時。


「冗談じゃないわ!なんで私がBランクなのに叔母さんがAランクなのよ!」


騒がしいはずの会場に高い声が響き渡り、会場が水を打ったように静まり返った。
美神がそちらを振り向くとおかっぱ頭の少女と、
淡い亜麻色のオールバックの女性が睨み合って火花を散らしている。

「あ、あれは…!」

そう言って絶句する美神。
立ち上がり、そちらに向かおうとするが人が多すぎてうまく近付けずにいると。


「私とお前ではキャリアが違う。当然の事だ」


ふふん、と挑発するような、
亜麻色の髪の女性の低いが良く通る声が聞こえてきた。
うわ、ヤバイぞあれ、と言う夫の声を聞いて、
更に美神に焦りが募るが、思うように前に進めない。
そうしているうちに聞こえてくる声がどんどん熱を帯びてくる。


「ぐ、くっ!叔母さんなんて物を壊すだけじゃないの!全然建設的じゃないわ!」

「ふむ、実験と称してガラクタを暴走させるのが建設的なことなのか。
 それは知らなかったな。
 それから言ったはずだぞ、姪よ。
 私の事は叔母さんと呼ぶな、お義母さんと呼べ」

亜麻色の髪の女性の言葉を聞いていたおかっぱの少女は
ますます顔を赤くして激昂していくが、最後の一言に、

「冗談じゃないわッ!まだお父さんを狙ってるのね!」

論点が簡単にずらされてしまった。
亜麻色の髪の女性はしてやったり、とニヤリと笑って胸の前で腕を組む。

「うむ、あれは良い男だ。姉にはもったいない。
 お前では絶対無理な方法で私のものに…む?ランクとはそっちの事か?
 それなら確かにお前はAランクだな。いや、AAか?」

左右から圧迫されて高々と盛り上がったそれを見せつけられて、
おかっぱの少女が涙目になる。
慌てておかっぱの少女は多少慎ましやかなその胸を腕で覆い隠すと、

「な、なによ、ちょっと大きいからって、
 なにかと言ってはお父さんを誘惑して!
 今度はランクにかこつけて良いトコ見せようっていうのね!
 今日という今日は許さないんだから!」

更に取り乱して大声をあげ始めた。かなり錯乱しているようだ。
亜麻色の髪の女性は、そんな少女の様子に余裕綽々の表情で問いかける。

「ほう。許さないと?ならばどうするつもりだ?」

「叩きのめして私の方が上だってはっきりさせてあげるのよ!お父さんの前で!」

「ふっふっふ、出来るかな?
 義兄の前で無様な姿をさらしては明日から顔が合わせ辛かろう」

その表情からは生真面目な少女を挑発して面白がっている様子が見て取れる。
誘惑云々もきっと少女の方をからかっているだけなのだろう。
しかし頭に血の登った少女は気付かない。

「ムッキ―ッ!もう許さないんだから―っ!」

真っ赤な顔をして手足をばたつかせていたおかっぱの少女は、
そう言うと仁王立ちになって右腕を突き上げた。

「出ろおおおぉぉぉッ!逆ッ、天ッ、号オオオォォォッ!!」

そう絶叫してパキンッ!と指を鳴らすおかっぱの少女。
その背後の空間が歪み異空間に通じるゲートが開かれる。
中から現れたのは巨大なカブトムシ型の巨大な兵鬼だった。
その威容に周囲のGSたちがパニックを起こし始める。
蹲った状態から昆虫らしい滑らかな動きで
ゲートから這い出してくる逆天号と呼ばれたカブトムシ。
少女が駆け寄ると口に当たる部分がバクンッと開き、階段が現れた。
少女が躊躇なくそこに駆け込むと、
カブトムシがブルリと震え、目とおぼしき部分がギラリと光る。


グルオオオオオオオォォォォォッ!!


カブトムシは途轍もない咆哮を上げて後ろ足でたちあがり、
身体を変形させて2足歩行の兵鬼に変形した。

『これぞ今日という日のために私が作り上げた対叔母用戦闘兵鬼!
 その名も逆天号!この子で私はあなたを超えるッ!!』

「「「「「なんじゃそりゃあああぁぁぁっ?!」」」」」

響き渡るおかっぱの少女の声に、
対峙している女性以外の会場内全ての人がツッコミをいれるが、
その圧倒的な質量とそこから吹きあがる霊力にかき消されてしまう。
会場内は右へ左への大混乱に陥った。
しかし薄い亜麻色の髪の女性だけは腕を組んだまま微動だにしなかった。
服や髪を突風に激しくなびかせながらも、
唇を僅かに上げると兵鬼を見上げて言い放つ。

「ふ。そんな玩具で私と戦うだと?愚かしい」

『なっ?!ま、負け惜しみを!』

「ふん、制御しきれぬ力に意味などあるものか。
 スペックの差が絶対でない事を教えてやろう!」

そう言って組んでいた腕を解くと集中し出す。
その爛々と輝く瞳には戦う事への喜びが渦巻いている。

「来い、爆炎!!」

そう叫ぶと激しい爆発音と共に、
亜麻色の髪の女性の周りに凄まじい熱量の青白い炎が燃えあがった。
炎は竜巻となって彼女を包みこみ、周囲に途轍もない熱と風を巻き起こす。
周囲には更なるパニックがもたらされる。
近くにいた者などはコロコロと吹き飛ばされていく程だった。
会場はまさに阿鼻叫喚の地獄絵図である。

「あ、あんの馬鹿娘ども…!」

ようやく近くに辿りついた美神が止めに入ろうと駆け出すが夫に抱きとめられる。

「は、放しなさい!この宿六!このまま放っておいたらランクの導入が!
 このために使ったお金が―ッ!!」

「ば、馬鹿!あんなのに巻き込まれたらお前だってただじゃ…!」

そうこう言っている間にも人型兵鬼と炎の塊の間もヒートアップしていく。

『出来るものならやって見せてよ、叔母さん!』

「昔のように負けても泣くなよ!」

対峙していた二人は弾けるように踏み込んだ。

「ば、馬鹿ぁっ!!」

美神も夫の手を振り切って駆け出す。

『くらえええええぇぇぇっ!!』
「おおおおおおおぉぉぉっ!!」
「止めなさいいいぃぃぃッ!!」

同じ苗字の三人の女性の声が唱和され。

球場は光に包まれた。


会場からやや離れたオフィス街に構えられた事務所の庭。
うららかな春の日差しの元、
あつらえられた白いテーブルで2人の女性がお茶を飲んでいる。
多少困ったような表情をしつつも緊迫感を感じさせない喋り方で、
どこか幼さを感じさせる女性が
もう一方の健康的な小麦色の肌の女性に問いかける。

「エミちゃん〜、今日の調査〜行かなくて良いの〜?」

冥子とエミである。
2人とも20代とといっても通用しそうな若若しさだった。
GS協会からランク制度導入の連絡を受けていた2人だったが、
会場に行かなかったのだ。
心配そうな冥子に問われて、
エミが口に運ぼうとしていたカップを止めて冥子の方をみる。

「ん?大丈夫なワケ。どうせ今ごろ…」

そこまで言ったところでエミは遠くから微かな爆発音と揺れを感じる。
かつて自分たちが財布の底をはたいて再建した球場の方からだった。

「フン…やっぱり。進歩しないわね、令子」

ポツリとそう呟くと、なんのことだかわからなかったらしい冥子が聞いてきた。

「令子ちゃんがどうしたの〜?」

冥子にしてみると、あの大事故でさえもいつもの事だったので、
あまり印象に残っていないらしい。
そう考えると、その事故で人生設計を大幅に修正せざるを得なかったエミとしては
多少の不条理を感じないでもなかった。
だが、それより自分の思った通りになったであろう事に満足していた彼女は、
平静な様子を保ちつつ冥子の問いに答える。

「なんでもないワケ。ようやく決着がついたってだけの事よ」

「?」

やはりわかっていない冥子。

「戦わずに人の兵を屈するのが、善の善なるものってね。
 私の勝ちなワケ」

ニヤリ、と笑ってそう言うと、
エミは球場の方向にカップを掲げてから、満足そうに飲み干した。



後書き

どうも。仕事を前倒しにしすぎて先週末から今週頭にかけて
PCを立ち上げる事さえ出来なかった八之一でございます。
やっぱり公私の区別はつけないといけません。
顔は笑っているのに眼が笑ってないというのが、
あんなにおっかないものとは思いませんでした。

とりあえず、今回は仕事しながら現実逃避で作っていたお話です。
そのせいか、それとも自分の限界かわかりませんが、
相変わらずグダグダで、拙いものになってしまいました。
こんな物を投稿しても良いものかどうか、とは思いますが、
読んでいただければありがたく思います。

それから当方としましてはどんなに遅くとも
横島の見習い期間は28巻の時点で終わっていると考えております。
このお話がそれに準じていないのは
あくまで壊れ故の嘘が元になっているためでありますので
その点に関しましては御容赦ください。
その他何かお気づきの点などございましたらご指摘いただけると幸いです。

既に読んでいただけた方がいらっしゃいましたら感謝をさせていただきます。
ありがとうございました。

それでは。

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