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「理由 前編(GS)」

八之一 (2005-11-11 23:28/2005-11-12 16:32)
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『理由』前編


桜の季節も終わり、大型連休に向けて世間がそわそわしだした頃。
連載の終了によりまんがの中の時間から解放されて、
ようやく2年生に進級できたおキヌが街を歩いていた。
手には鞄のほかに商店街で購入した旬の野菜や魚などの入った
ビニール袋をぶら下げている。

(今日は横島さんの来る日だし)

そう考えて学校からの帰り道を行く彼女の足取りは軽い。
今にもスキップしだしそうな浮かれようである。

7年に渡って高校2年生をやっていたために、
出席率は3割を割り込みながらも出席日数が足りているという、
訳のわからない理由で進級出来た横島だったが、
連載の終わった今、同じ手口は使えない。
また、高校生という事でそれほど非常識でない程度にではあるが、
給料が引き上げられたという事もあって、
3年に進級してからというもの、
横島が美神除霊事務所にいる時間は激減していたのだ。
江戸時代生まれで食べ物にはいつも感謝の心、のおキヌとしては
来るかどうかわからない横島の分を作ることは出来なかった。
下手に作って残したりすると、
どこぞの野生を無くした狼がこっそり夜中に食べ散らかしたりもするので余計に。

(えへへ。今日は奮発しちゃいますよー)

久しぶりに横島のために腕を振るえる、という事で
おキヌは浮かれまくっていたのである。
笑み崩れた顔で下宿先である事務所に帰って来た。

「やあ、おキヌちゃん、ご機嫌だね」

そこに丁度やってきたのはビジネスバイクに跨った郵便配達の小父さんだった。
顔見知りであるその初老の男性に気付いたおキヌはぺこりと頭を下げる。

「あ、こんにちわ」

「丁度良かった。ちょっと待ってね…はい、これ」

そういってバイクの後のボックスから封筒の束を取り出す。
美神除霊事務所宛の郵便物だった。

「あ、どうもご苦労様です」

「それじゃ」

そう言ってビジネスバイクは去っていった。
オフィス街とは思えないアットホームさである。

「ただいま〜。人工幽霊一号、皆は?」

玄関の前に立つとひとりでにドアが開く。
天井の方からおキヌの問いに答える声が響いてきた。

『お帰りなさい、おキヌさん。オーナーはまだいらっしゃっておりません。
 横島さんとシロさん、タマモさんは執務室で待機中です』

「そう、ありがとう人工幽霊一号」

そう言っておキヌは靴を脱ぎ、スリッパに履きかえて台所に向かった。
買ってきた食材を冷蔵庫などに収めると鞄と上着を自室に放り込み、
郵便物の束に目を通しつつ弾むような足取りで執務室に向かう。

「ん〜、お仕事に関係ありそうなのは…」

そう言って重要でなさそうなものをより分けていく。

「あ、これ、GS協会からね。
 ええとこっちの封書が美神さんで、こっちの葉書が横島さん宛…と」

なにかしら、と考えているところで執務室の前についた。
ドアの前で一呼吸おくとドアをあけて中に入る。

「こんにちわ〜、横島さ…ん?」

「あ…おキヌちゃ〜ん…タスケテ〜」

小声で助けを求める声が聞こえてきた。
見るとそこにはソファに横になった横島と、
彼の上に獣状態に戻って眠っているシロとタマモの姿があった。
どうやら事務所に来たは良いが、
誰もいないので暇を持て余した横島がソファで昼寝をしているうちに、
外出から帰ってきた二人がその上で眠ってしまったらしい。
目を覚ましたものの上に乗って熟睡している二人を起こすのも忍びなく。
身動きも取れずにそのままの姿勢でいた横島だった。
確かに待機していると言えない事もない。

「仕方ないですね〜」

苦笑しつつおキヌはシロとタマモをそっと他のソファに移す。
二人ともまるで目を覚まさないのは安心しているからなのか、
それとも野生の血がなくなってしまっているからなのか。

「は〜、やれやれ。助かったよ、おキヌちゃん」

そう言って起きあがり、コキコキと首を鳴らす横島。
かなり無理な体勢だったらしい。

「ふふ、ご苦労様ですね。あ、これ横島さん宛ですよ。GS協会から」

「ん、GS協会から?…ああ、もうそんな季節なんだな」

おキヌに手渡された葉書の接着面をぺりぺりと剥がし、
中身を確認した横島はそう呟く。

「? なんの季節なんですか?」

美神宛の郵便物をデスクに置きながらおキヌが訊ねる。
その問いに横島が顔を上げて答えた。

「GSの動向調査だよ。今年も現役でやるのかってこと。
 大体毎年この時期に連絡が来るんだよな〜」

「へえ、そんな事するんですね。
 あれ、でも免許の更新って6年ごとって言ってませんでしたか?」

以前見せてもらった免許証には
6年後の誕生日まで有効、となっていたことを思い出しておキヌが首を傾げる。

「ん―?免許の更新はね。これはあくまで調査。こっちは毎年やってるんだよ」

これで何度目やったかな〜、と遠い目をする横島。

「なんでそんな事するんです?」

「GSの人口と居所を正確に把握するためって言ってたな。
 何かあった時のために動かせる人数と
 居場所を常に把握しておきたいってことだろうね」

そんな事を話していると執務室のドアが開いて美神が入ってきた。

「おはよ〜。お、皆揃ってるわね、感心感心」

それに対して横島たちも挨拶を返す。

「あ、おはようございます。美神さん」

「おはようございます」

その声にシロは目を覚ますが、タマモは目を閉じたままだった。

「む、美神殿?…もう時間でござる…かはぁ〜ぁぁあぁっ…ふうぅ」

「むうぅん…あと…五分…」

「ホラ、シャキッとしなさい、タマモ!
 今日は久しぶりの大物なんだから気合入れないと怪我するわよ!」

「うぅん…仕事は夜から…でしょ…ジョンのヒゲは…長い…ぐぅ」

寝ぼけてフラフラしているタマモに雷が落ちてはかなわない、という事で
横島が慌てて話を逸らす。

「あ、美神さん、GS協会から郵便が来てますよ。動向調査のお知らせっす」

「ん?ああ、例の調査ね。もうそんな時期かあ…ってあれ?」

デスクに置かれた封筒を見て美神が訝しげな声をあげた。

「? どうかしましたか?」

「ん、いや、いつもはこのお知らせ、葉書1枚送られてくるだけなんだけど…」

送られてきたのはA4サイズの封筒で、かなりの重さがあったのだ。
それを胡散臭そうにひっくり返したり、すかしてみたりする美神。
しかし、そうしていても埒があかないと思いなおして
ペーパーナイフを取り出すと封をあける。

「まあ見れば解るわよね…って何これ?」

封筒の中からは1cmほどの厚さの紙の束が出てきた。
一番上の紙の真ん中にはGSランク制度導入のお知らせ、と書かれている。

「GSランク制度…?」

その紙の束をめくるとなかにはビッシリと文字が詰め込まれている。
美神はげんなりとしつつも美神はそれに目を通し始めた。


「…つまり、一般人にもわかりやすいようにGSをランク付けしようって事ね。
 それと動向調査を兼ねた試験を来週行う、と」

かなりの時間をかけてお知らせの内容を把握した美神が確認する。
目が疲れたのかしきりに目頭を押さえている。

「で、ランクごとにある程度の料金の相場を設定するって訳っすか」

「確かにトラブルとかは減るかもしれないですね」

一般人との間でよく起こるトラブルの一つに
大した能力のないGSがちょっとした霊障をさも重大な事に見せかけて
多額の報酬を騙し取るという詐欺まがいの行為があげられる。
そういった行為を防ぐために一般人でもわかる明確な相場を示そうという訳だ。
ただでさえ胡散臭い目で見られがちな職業であるGSの社会的立場を
これ以上悪くさせないために、と言うのがお題目らしい。

「だけど、事件との相性の問題とか、まるで考えてないっすね」

横島が困ったような顔をして呟く。

例えば個人的な戦闘能力では日本でも屈指の美神や伊達雪之丞を雇っても
かつて美神たちが巻き込まれた霊団のような事件の解決は難しい。
その場合、GSとしての能力でいえば、
多少落ちるおキヌの方が解決には遥かに適任だ。
逆に一体の非常に強力な悪霊が相手だと
おキヌの能力では祓えない場合の方が多いだろう。
ケースバイケースであり、能力が高いイコール優秀なGSではないのだ。
それを一律の基準で決めると言うのはいささか乱暴な話ではあるだろう。

横島の言を聞いて美神たちも頷く。

「そもそも画一的に評価できるような能力じゃないですよね、霊能って」

「自分で価値を判断できないというのは未熟の証拠でござるよ」

「大体なによ、この
 『目に見える形での他者評価の導入によって各GSの向上心を』ってのは。
 私等は寮に放り込まれた受験生かっての」

「これで他の連中と差ぁついたら立場ないじゃないっすか〜」

「甲乙丙丁に見習いっていつの時代の分類よ」

各々勝手に批判していく。
それぞれ実感に基づいた言葉だけにそれなりの説得力がある。
しかし、美神が放り出した紙の束を見ていたタマモがポツリと呟いた。

「…高いランクをとれたら良い宣伝になるんじゃないの?これ」

固まる室内。
一瞬の沈黙のあと。


「横島クン!一つでも高いランクを目指すわよ!!」


目を爛々と輝かせた美神が横島の首根っこを捕まえて高らかに宣言した。
周りの3人が複雑な表情で苦笑する。
ひとり慌てたのは横島だった。

「ひ、一つでもって、み、美神さん?俺、まだ見習いっすよ?!」

「む、そう言えば…」

かつては霊を100体除霊すれば見習い期間は終了だったのだが、
放置しても問題のない低級霊を集めて除霊するというような不正が横行したため、
現在では師匠の許可がなければ一人前と認められない。
だいたい慣例的に1年程度の研修期間というのが
最低限の目安になっているのが現状だ。
時間的には既に横島、キャリア5年の6年目、
中堅といって良いスタッフなのだが、
まんがの時間の流れの中、
免許取得から1年経っていなかったため、いまだに新人扱いだったのだ。
そのため今回も美神宛にしかお知らせが来ていない。
新人はまとめて最低ランクの見習い、という事である。

「むむぅ…、仕方ないわね。
 ママの小言もうるさいし、この際だから見習い卒業という事にしましょう」

「ええっ?ほ、本気ですか、美神さん?!」

さらりとそう言った美神に横島のほうが狼狽してしまう。
横島は典型的な能力は高くても優秀でないGSだったからだ。
自身でも当分は無理だろうと思っていた横島が面食らっていると、

「まあね、根本的に知識が足りないし、向上心に乏しいし、
 コンスタントに成果を出していく事が出来ないし。
 一人前と言うにはちょっと足りないかな」

「ううっ、そんなあからさまな」

本当の事をズバズバ言われて目の幅の涙を流す。
当たっているだけに辛いのだ。

「ま、でもこの際だからね。能力だけならかなりのものがある訳だし。
 あ、でも当分はこのままウチでちゃんと修行するのよ?
 下手に出ていかれて失敗されるとウチの看板に関わるからね」

「も、もちろんっすよ。
 今放り出されたって、俺、何して良いかわからないじゃないっすか」

美神はその横島の返事を聞いて満足そうに頷くと、
デスクの抽斗から書類を取り出す。
見習い期間終了の手続きの書類一式である。
真剣な顔になってそれを横島に手渡す美神。

「それじゃ、良いのね?これを提出するって事は、
 進路を決めてGSとしてやっていくって事よ?」

「う…、は、はい」

少し逡巡した横島の様子に美神が言う。

「…本当に良いの?一生の事なんだからもう少し考えてからでも良いのよ?」

その言葉にかえって横島は腹を括った。

「いえ、もう決めてましたから。この道でやっていくって。
 急な事だったから、ちょっと驚いただけっす」

折角美神さんが認めてくれるって言うんだし、と真顔で言う横島。
それを聞いて顔を赤くした美神は慌てて書類に視線を落とす。

「そ、そう?じゃ、ここと…ここにサインと判子を押して」

「あ、拇印で良いっすかね?」

「判子くらい買いなさいよ。これからいろいろ入用になるんだから…
 あ、こら、ちゃんと契約条項は読みなさい。
 何書かれてるかわからないでしょ?」

嬉しそうに書類に記入していく横島と、それを見て満足げに笑っている美神。
そんな二人のやり取りを見ていたおキヌたちは何やら複雑な表情をしていた。

「なんだか手際が良すぎる気がする…」

「あの書類ってインクが乾き切ってるでござるよ…」

「いかにもタイミングをはかってたって感じよね…」

「この間隊長さんに言われた時は絶対駄目とか言ってたのに…」

「独立の目もキッチリ潰してるあたり、したたかよね…」

「しかもなんだか良い雰囲気でござる…」

どろどろとした怨念渦巻く三人の呟きも耳に入らない様子で
横島が書類を書き上げた。
対してしっかり聞こえていたらしい美神は、
額に冷や汗をかきつつもポーカーフェイスを崩ずにそれを受け取る。

「ん、これで横島クンも正式に同業者って事ね。これからもよろしく、横島クン」

「は、はい!よろしくお願いします!」

にっこり笑う美神と直立不動の横島。
横では三人揃ってハンカチをかみ締めている。
犬神二人はそのままかみ切ってしまいそうな勢いだ。

「じゃ、ちょっとGS協会に申請してくるわね。
 皆は仕事の準備をしておいて。
 ふっふっふ、これで能力だけは高い横島クンだから
 高いランクを得られるわよ!」

一転して明らかに少年まんがのヒロイン像からは逸脱した笑いを浮かべる美神に、
多少腰のひけたおキヌが聞いた。

「で、でも今からで間に合うんですか?試験、来週なんでしょう?」

「おキヌちゃん?
 人間の社会ではお金とコネを使って出来ない事はほとんどないのよ?
 特にこういった事ではね。後は使いどころを間違えない事。
 なんのために稼いでいると思ってるの?」

美神はそう言ってニヤリと笑い、執務室を出ていった。
ちょっと耳の先が黒くなっていたような気がしないでもない。


2時間後、仕事前にと少し早めの夕飯の用意をしていた
一同の前に帰って来た美神は、
手に横島宛に発行されたランク制度導入のお知らせを持っていた。


数日後。
美神と横島はランク選定の試験会場である
都内某所の屋根つきの野球場にやってきていた。
周りは現役のGSと協会職員ばかりである。
観客席はガランとしているが、
グラウンドに集合したGSたちは活気に溢れていた。

「しかし…、何もわざわざこんなところを借り切ってまで
 やらんでもいい気がするんですけどね〜…」

某在京球団のホームグラウンドに降り立った関西育ちの練馬区出身が呟く。
これが兵庫の球場だったら大騒ぎしていたであろう事は想像にかたくない。

「まあ、首都圏のGS全部集めてって事だしね。
 それに実技の方もあるからある程度広い場所が必要なのよ」

見習いレベルの殴り合いと違って、
こちらは現役バリバリの一線級たちの力試しである。
いつもの資格試験の会場である武道館では少々手狭だったのだろう。
天候による順延が出来ない事を考えれば屋内でやらざるを得ず、
それ故に屋根つきの野球場が会場として選ばれていた。

「それより…解ってるんでしょうね?
 あんたもウチで働くからには最低でも丙種、もし丁種なんてことになったら…」

そう言う美神の顔には、
『いくらかかったかわかってんだろうな、あぁん?』とはっきり書いてあった。
背中に背負った暗い炎がものすごい勢いで燃え盛っている。

「は、ハイ!不肖横島、誠心誠意頑張らせていただきますっ!」

「よろしい。じゃあ行こうかしらね」

その迫力に怖気づいた横島がコクコクと首を縦に振ると、
一転してにこやかになる美神。
そのまま二人で受付に赴いた。


最初の検査は身体測定だった。

「動きやすい格好で、ってこういう事だったんすね―」

「まあ、どれだけ動けるかってのはGSとしては物凄く重要な事だからね」

そう言って列に並ぶ。
結構な人数が前にいて、かなりな時間を待たされる。
手持ち無沙汰になった横島は前に並んだ美神を見ていた。
二人ともジャージの上下なのだが、
美神の出ているところは
その厚手の素材の上からでもはっきりと自己主張している。
ついついそこに目がいってしまい、
呼吸を荒くしていた横島だったが、ふと気付く。

(ん?まてよ、身体測定と言う事は…
 まさかこのパワフルなボディのサイズも測るのかっ?!
 あんな爺どもが?!なんともったいない!
 しかもランクをたてに取られてとなると…
 『さあ、恥ずかしがらずに上着を脱ぎ給え。
  正確なサイズがわからないじゃないか』
 『あ、はい…』
 『そのシャツもだよ、これは検査なのだからね』
 『え、そんな…』
 『良いのかね?しっかり測らないとランクの査定に…』
 うひょひょひょ、た、堪ら…ブヘェッ?!」

「公衆の面前で何をトチ狂っとるか、この馬鹿タレが!!
 身体測定ったって測るのは運動能力の方だけよ!!」

相も変わらず脳内の妄想を口に出して垂れ流してしまった横島が
真っ赤になった美神の鉄拳で黙らされる。
鼻血を噴き出して倒れ込む横島。
単なる年中行事だったのだが、ただ、今回は場所が悪かった。
周囲の馴染みのないGSたちが騒ぎ始めたのだ。
知っている人にはいつものことだが、
知らない人にすれば二人ともただの危ない人である。
周囲の通報で横島はセクハラ、美神は暴行傷害でそれぞれ協会役員に連行され、
散々油を絞られてしまったのだった。
そのため折角並んだ時間がパーになってしまい、
列の一番後に並びなおす羽目になった。

「この馬鹿っタレ―っ!!」

「か、堪忍や―!」

結局いつもと変わらぬ二人だった。


「ええと、次は霊力の総量の測定ですね」

そう言って霊力の測定をしているスペースに向かう二人。
かつての資格試験のときより進歩しているらしく、
電話ボックスくらいの大きさの箱型の測定機で一人づつ霊力を測っている。
箱に入って霊力を放出すると、
その上部につけられた丸いランプが点いていくのである。

「あれ、こっちは並んでないのね。じゃあお先に」

そう言って受付に書類を提出すると美神は箱の中に入っていった。
ほとんど視覚化されそうな勢いで放出される美神の霊力に、
箱のランプが一番端のほうまで点灯される。

「み、美神令子さん。95万パワー、じゃなかった95.6マイト!」

計測していた協会職員が慌てたような声をあげた。
周囲のGSたちからも感嘆の声が上がる。
実際のところ六道家の人間のような規格外を除けば、
人間の種族的な限界が大体100マイトと言われているからだ。

(さすがやな〜)

椅子に座ってその様子を見て感心していた横島だったが、

「横島さーん、横島忠夫さーん」

白衣を着た協会職員と思しき女性に自分の名前を呼ばれてそちらを向いた。

「あ、はいはい。今参りま〜す」

そう言って横島は立ちあがり、箱に向かう。
口調が軽いのは職員が美人さんだったからに他ならない。
計測を終えた美神がそれを見て
こめかみに血管を浮かせていたがそれはまた別の話。

「じゃあ、そこの測定機の中に入って、意識を集中させてください」

ウェーブのかかった黒髪が美しい
ミステリアスな雰囲気の女性職員にそう言われて、意識を集中する横島。
が。

「君!もう少し真面目にやりたまえ!」

計測していた協会の偉いさんと思われる初老の男性から叱責がとんだ。
相変わらず真面目な時には
一般人と大差がない程度の霊力しか発現できなかったらしい。
それでも自前で霊力を出せるようになっているのだから
長足の進歩といって良いのだが、
GS協会の偉いさんたちのお気には召さなかったようだ。

「いいんかなあ…ま、いいか、ああ言ってるんだしな!」

多少困ったような顔をしてその実全然困っていなかった横島は
白衣を着て色々な作業をしている協会職員の綺麗どころに嬉々として目をむける。
呼吸を荒くして眼を血走らせると口の中で叫んだ。


「煩悩全開――ッ!!」


たちまち頭の中に浮かぶ彼女たちの半裸の姿。
白衣だけは着たままなのが今回のポイントらしい。
それと同時に先の美神を上回る霊力が凄まじい勢いで放出された。
ちょっと粘度が高そうなのはご愛嬌…ではすまないかもしれない。
あまりに馬鹿馬鹿しい集中方法だが、箱の上のランプは一気に点灯していく。
急激な霊力の増大に計器類が煙を上げはじめる。
ランプが一番端まで点灯し切ったところで、

パンパンパンパンッ!

小さな破裂音を上げてランプが次々に弾けていった。
最後の一つが小さな音を上げて破裂すると、

ボンッ!

と音をたてて計測器が沈黙してしまう。

「ああ――っ?!最新式の計測器が――ッ?!」

呆然とするGS職員たち。

(ヤ、ヤバいッ!)

やりすぎた、と思った横島はいち早く書類を引っつかむと
次の検査会場に逃げ出した。
後日、横島忠夫は六道冥子と同様に
協会のブラックリストに機材破壊の犯人として名を連ねる事になり、
請求書をまわされた雇用主に散々シバかれるのだが、それもまた別の話である。


次は本日のメインイベントと言っても良い実技だった。
都庁の地下にあった霊動実験室の簡易版が幾つか設置されており、
かなり激しい戦闘が展開されている。
いってみれば一種の見せ場であり、
美神などはここで発散してやる、と息巻いていたのだが。

「申し訳ありません。
 美神さんと横島さんはご遠慮いただくように言われておりますので」

霊力検査の結果や、根も葉もあったりなかったりする噂に恐れをなした
協会の偉いさんによって阻止されてしまった。

「私らは怪獣か――ッ?!」

見せ場を奪われた美神の絶叫が球状の白い屋根に吸い込まれていった。


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