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「りんぐぅ3 (GS)」

犬雀 (2005-10-24 21:06)
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『Ringu3』


とある古いアパートの台所で一人の少女が鼻歌を歌いながら朝食の仕度をしている。
窓の外でさえずる雀の声にあわせるかのように歌う少女のせいで、薄暗い安アパートのキッチンはいつもに比べて華やいで感じられた。
例え鼻歌の歌詞が「この子の七つのお祝いに〜」であったとしても、少女が楽しげに歌っていれば華やかである。そういうもんだと理解いただきたい。


休日とあってか家主──横島忠夫はまだ夢の中。
てきぱきとは言えぬながらもなんとか朝食の準備を済ませ、料理を前に一人ではにかむように笑うのは、最近彼の部屋に住み着くようになった少女──名をりんぐぅと言う。
子供丸出しの体型に、腰まである黒髪を頭の後ろで一本にまとめ、ペンギンのプリントのTシャツと赤いミニスカートにやはりペンギン柄のエプロンをつけている様は傍から見てても愛らしい。
しかしこんななりでもこの少女は人外の存在である。
元はビデオに込められた呪いが具現化した存在だったりするのだ。
クリクリと動く大きな目とどこかペンギンチックな動きを見れば、その愛らしさゆえに誰も少女が人外とは信じないだろう。
実際、知っているはずの同居人も無警戒に薄手のタオルケット一枚でまだ寝ている。まあ呪いといってもかなりへっぽこだから警戒する必要はないと言うのが本当のところだが。

準備も済ませてりんぐぅは時計を見る。
休日とは言えそろそろ8時。横島を起こさなければならない時間だ。
今日は二人で街まで出かける約束している。
当座の服と下着だけは横島の同僚のおキヌという少女が用意してくれたが、その他にも生活必需品が欲しいところだった。
横島はわざわざ学校を休んで買い物に付き合ってくれたが、それでも二日も生活してみれば必要なものがまだまだ出てくる。
一人で買い物へ行こうにもどういう理屈かは知らないが、自分は横島から遠くに離れられない。
彼から遠く離れると不幸な目に会うのは実証済みだ。
もっとも一緒に居ても結構不幸な目に会っているのだが他に理由は考えられない。

「つまり、りんぐぅとお兄ちゃんは一心同体なんだお。」

思わず出た言葉に一人頬を染める。
それでも彼に甘えっぱなしというわけにはいかないのだと、ブルブルと頭を振って気合を入れなおす。

横島は「仕方ない」と笑いながら買い物に付き合ってくれたけど、いつまでも学校が休みというわけではない。
場合によっては横島の学校に一緒に行かなくてはならないかも知れない。
そのためにも靴とか余所行きの服とかを買い足しておかなければならなかったりする。

そこまで考えて兎に角買い物に行けばすむことだと納得し、さあ今日はどうやって起こそうかと小首を傾げて本日のビックリドッキリ技を考え始めた。
一昨日は押入れからダイビングボディプレスを敢行しようとして、押入れの天井に頭をぶつけて横島を巻き添えに自爆した。

昨日はといえば「ダイビングの仕方が悪かったんだお!」と勝手に解釈してムーンサルトプレスを試して再び横島を巻き添えに自爆した。
さすがに警戒したか今日の横島は押入れから離れたところに布団を敷いている。

トップロープ(押入れ)からの技は危険。ならば助走をつけたランニング系の技で攻めようとりんぐぅは大きく息を吸い込んだ。
目測で助走距離をとるとダッシュしながら元気な朝のご挨拶。

「お兄ちゃん起きるんだお!」

「うーん…後、5分…」

寝ぼけているのか暢気なことを言う横島だったが突然警報を発した危険察知能力に従ってくわっと目を見開けば、りんぐぅが自分に向けてダッシュしてくるところだった。
咄嗟に文珠を精製して発動させる。
案の定りんぐぅは勢いよく突っ込んでこようとして、敷居にけっつまずくと頭からダイビングをかましてきた。今日の技はダイビングヘッドで決まりらしい。
だが勿論のこと当人の目測は狂いまくっているわけで、何かの呪い──元々呪いだが──にでもかかっているかのように横島の股間、しかも朝の一本立ちしているテントの支柱に顔から倒れこんだ。

「だおっ!目がっ!目がぁぁぁぁぁぁぁ!!」

顔面を押さえてのた打ち回るりんぐぅに対して横島は平然としている。
いや、勝ち誇っていると言ってもいいだろう。
昨日までなら股間を押さえて泡を吹いていたのに、辛い経験は彼を一回り成長させたらしい。
間一髪間に合った文珠『硬』の効果でテントの支柱は体重とスピードの乗った顔面アタックにも負けず、今や割り箸を袋ごとまとめて叩き折らんばかりにそそり立ったままである。
その様はまさに凶器といって差し支えない。


不敵な笑みを浮かべつつ顔面を押さえてのた打ち回るりんぐぅに近づく横島。
その気配を感じたか七転八倒していたりんぐぅはピタリと動きを止めて恐る恐る顔を上げた。
たちまちりんぐぅの顔に怯えの色が浮かぶ。
横島は無言のままダクダクと脂汗を流しながら跪くりんぐぅの前に立つといきなり噴き出した。

「ぷっ!」

「な、なにが可笑しいんだお!」

「だってなぁ…」

ゲラゲラと笑い転げる横島に言われてちゃぶ台の上にあった手鏡をとり、自分の顔を見てみれば、右目の周りにはパンダもビックリという黒くて丸い痣が出来ている。
元々美少女なのに片方だけ黒いからそのアンバランスさはかなり破壊力を持っていた。

「だおぉぉぉぉぉ!ヒドイお!ヒドイお!」

「どっちがヒドイかっ!」

文珠が間に合わなければ彼の子息は即死していてもおかしくない勢いだったのだから横島も容赦がない。
さすがに三日連続で痛撃を食らえば将来的にかなり困った事態になりそうだったのだ。
二度の失神経験は伊達ではない。
それでも乙女の顔面にアホみたいな青痣を作られたとあってはりんぐぅだって黙っていない。

「なんてことをするんだお!」

「それはこっちの台詞や!」

「わざわざ固くするなんて酷いお!避ければよかったんだお!」

「お前の場合は避けたところでホーミングしてくるだろうが!!」

確かに二日続けて同じ場所に落ちてくるとなればホーミング魚雷なみの精度を持っている可能性も否定できない。
何しろりんぐぅは呪いなのだから。

そのままの体勢で二人がギャーギャーと言い合いを始めた時、安普請の玄関ドアが開き、令子が入ってくるなり二人を見てピシリと硬直した。
しばし口を開けて「あうあう」と言葉にならない様子だったが、それもつかの間、わなわなと震えだすと喉も裂けよと大絶叫。

「貴様は何をやっとるかぁぁぁぁ!!!」

令子の怒声に「「へ?」」と首を傾げる二人。
もう一度客観的に自分たちの姿を見てみれば、りんぐぅは仁王立ちする横島の前に跪いている。
それだけなら問題はなかったかも知れないが、文珠の効果が残っている横島の股間の支柱はテントを支えたまま悠然とそそり立ったままで、しかもその指し示す先には目から涙を飛ばしながら跪くりんぐぅの顔面があるわけで。
その様子はどうみたって危険度Aの性犯罪者の犯行現場である。

「い、いや…これは…」

「ううっ…痛いんだお…」

「死ね…」

うろたえまくった横島には令子の渾身の一撃を回避するのは無理だった。


部屋の外で横島を呼びに行った令子を待っていた事務所のメンバーが突然の怒声と断末魔に慌てて横島の部屋に飛び込んで見たものは、怒りの余波でまだ息が荒いが表情だけは温和にして怯えるりんぐぅに近寄る令子と、シロクマの前で震える小ペンギンのようなりんぐぅ、そして片隅に転がる赤いボロだった。
何が起こったのかもわからないまま見ていれば令子がりんぐぅに憐憫の眼差しを向けたまま近寄っていく。

一歩近寄るごとにりんぐぅが「ひっ!」と怯えて後退さるのが気になるが、何かとんでもないことがあったのは間違いないようだ。

「ごめんね…怖かったでしょ」

令子の台詞に震えながらもカクカクと壊れかけた人形のように首をふるりんぐぅ。
その有様が令子の中にある罪悪感を刺激する。

「やっばりあんなケダモノと同居なんてさせるべきじゃなかったわ…ごめん。これは完全に私のミスね。謝ってすむとは思えないけど野良犬に齧られたと思って…」

「ち、違うお!怖かったのはおばちゃんだお!!」

「誰がおばちゃんかっ!!」

「だおっ!」

差し伸べた手はストレートに変化して震えるりんぐぅの顔面に吸い込まれた。
思わず目を閉じるシロタマとおキヌ。
りんぐぅの蛮勇に呆れるべきか、条件反射で少女の顔面に拳を叩きこんだ令子に呆れるべきか難しいところだ。
令子も自分がさすがに児童虐待に近いことをしでかしたと気がついたのだろう、大慌てでKOされたりんぐぅを介抱しようと抱きかかえて吹き出した。

「ぷっ!」

「な、なにが可笑しいんだお…」

かろうじて意識を残していたりんぐぅがヨロヨロと立ち上がる。
その顔には両目にくっきり丸い痣。
りんぐぅ、どうやらペンギンからパンダへと完全進化したらしい。

シロもタマモも必死に笑いをこらえている。おキヌだけは平静を装っているようだが頬っぺたの筋肉が小刻みに痙攣しているところを見れば彼女も吹き出す寸前なのだろう。

りんぐぅはしばらく「むー」と唸りながら令子たちを睨んでいたが「はっ」と思い出して片隅の血の色をしたボロに駆け寄った。

「お兄ちゃん!無事なのかお?!!」

「そんな性犯罪者はほっときなさい!」

「ご、誤解だお!!そんなことよりシッカリするお!お兄ちゃ〜ん!!」

結局、横島の意識はりんぐぅが令子たちに事情を説明し終わるまで戻ることはなかった。


「それで美神さんたちは何しに来たんすか…」

相変わらず人外の回復力を見せて立ち直る横島におキヌがお茶を差し出す。
勝手知ったる横島の部屋、どこに何があるかは誰よりも知っているおキヌだから横島も特に何も言わず「ありがと」と笑って受け取った。
彼の横に座ったりんぐぅが少し不満そうな顔をしているが横島はおキヌに笑いかけるだけで気づかない。
それが癪に障るのかりんぐぅは正座したままヨジヨジと横島に近づくとピットリと身を寄せる。
苦笑を浮かべた横島に頭を撫でられてりんぐぅは「だぉぉぉ」と頬を染めて俯いた。
いかにも微笑ましい兄妹といったその様子に自分でも理解不能な苛立ちを感じた令子が目元に険を湛えたまま一口お茶を啜ると真顔にかえった。

「仕事よ。これからちょっと遠くに除霊に行くからね。」

それで迎えに来たところで犯行現場を目撃したと思い込んだのがあの惨劇である。
ヤレヤレと頭を振りつつも命があっただけめっけものだと思うから横島は何も言わない。いや言えない。
頼りない兄のかわりに叫んだのはりんぐぅだった。

「駄目だお!お兄ちゃんは今日はりんぐぅとお買い物だお!」

「そんなのいつでも行けるじゃない。こっちはお金がかかっているの!」

「だったらりんぐぅも行くお!」

ジタバタと駄々をこねるりんぐぅだが令子は認める気が無いのだろうあっさりと鼻で笑って切り捨てた。

「馬鹿言わないの。これは遊びじゃないのよ。仕事なのお・仕・事。」

「だってお兄ちゃんと離れたらりんぐぅは不幸になるお!!」

「家で大人しくしていたらそんなに不幸な目に会わないでしょ。」

「嫌だお嫌だお!どうしてもりんぐぅをおいて行くなら力づくでも止めるお!」

シバッと立ち上がると両手をクロスして戦闘態勢をとるりんぐぅ。
その目に本気の光を認めて令子の目が細く光る。
りんぐぅにあわせるように立ち上がった彼女から立ち上る闘気が令子の本気の印。
子供だからといって手を抜くタイプではない。
しかもどうやら以前にりんぐぅのへっぽこ呪いの直撃を受けて嫁入り前の乙女にはあるまじき恥ずかしい思いをしたことを根に持っているらしい。

「へー。私とやる気…」

先ほど横島をシバキ倒した神通棍を再び構える令子。
見慣れたおキヌにはそれに込められた霊力が横島をしばく時の半分程度の霊力しかないことはわかるのだがそれでも子供相手には充分。
いや、やりすぎである。
意外に大人気ない女、美神令子。
いや、結構、周囲の人間は知っているだろう。

それでも温厚なおキヌは止めなければなるまいと、苦笑いしながらまあまあと間に割って入った。
普通であればそれは蛮勇と呼ばれるその行為は天然が入っているおキヌだからこそ可能な技である。

「あの美神さん、りんぐぅちゃんはまだ小さいんですから穏便に…」

なんとか止めようとしたおキヌの言葉が令子の表情を見た途端に止まる。
さしもの彼女にはもはや令子が一歩踏み出してしまったことに気がついたのだ。
伊達に付き合いは長くない。

「ふふふ…だから躾って大事なのよ、おキヌちゃん…」

「確かに躾は大事だお!おばちゃんを見ていたら誰だってそう思うお!」

暗く笑う令子にりんぐぅもしたりとばかりに頷いて同意する。
もっともそんな台詞は自爆スイッチを押すのと大差はない。

「何ですってぇぇぇ!」
「やるかだお!」

バシッと空気を裂いて跳び下がり構えを取る二人。
ニヤリと一つ笑ってりんぐぅが先に動いた。

「呪いをくらうお!」

交差した両手から某光の国の超人のように発射された怪光線が令子を襲おうとするが、令子は慌てず騒がず隣で展開についていけずにぼーっとしていたシロの襟首を掴んだ。

「居候バリアー!!」

「ぐはぁ!」

必中の思いを込めて放った怪光線をシロという盾に阻まれて呆然としていたりんぐぅだがしばしの逡巡の後、状況が飲み込めたのか恐ろしいものを見る目で令子をみる。

「身内を盾にするとは!それでも人の血が通っているのかだお?!!」

「うっさいわね!!居候なら家主を庇うのは当然でしょ!」

「うっわー。まさに外道だお…」

言い切ったものの流石の令子もばつが悪いのだろう額から一筋汗が流れてくる。
それでも弱みを見せないのが美神令子という女。
もっとも居候としてはそんな理屈につきあってやる道理はない。
当然、ジト目で令子を見るタマモである。
彼女は気づいていない。自分もまた居候だということに…。

だからりんぐぅの再撃に対して反応が遅れてしまうのだ。

「だったらもう一度だお!」

「居候バリアー2!!」

「うそっ!私までっ!」

居候バリアー2は襟首を持たれて吊り下げられるタマモという形で令子の前に出現し、りんぐぅの第二撃を防ぎきった。

「おのれ〜。やっぱりおばちゃんは極悪非道だお!」

「誰が極悪非道よ!」

「あの…美神さん…今のはちょっと私もそう思うかな…なんて…ひっ!」

自覚はあるが強引に無視しようとする令子に対してのおキヌのおとなし目の忠告も途中で潰えた。
すでに色々と追い詰められた令子がいまさらそんなものに耳を貸すわけがないわけで、ジロリと圧力さえ伴った視線をおキヌに向け口をニヤリと邪笑の形に歪める。

「ふふふ…おキヌちゃんもそういうこと言うんだ…でも良いわ…これで従業員バリアーも出来たものねぇ…ふふふふ…」

瘴気すら感じさせる令子の様子に慌てて逃げようとしたおキヌの襟首がガッチリと捕まえられる。ジタバタと暴れるもののとっくの間に一線を越えた令子の力にかなうわけも無い。「ひーん」と泣きながら助けを求めて横島を見れば彼は触らぬ神に祟りなしとばかりに顔を背けるだけ。
当然その混乱を見逃すりんぐぅではなかった。

「今だお!」

三度放たれた怪光線が令子に迫る。
だが令子とて並みではない。その膂力をフルに使い、軽いおキヌを持ち上げると間一髪のタイミングで自分の前に掲げた。

「何のっ!従業員バリアー!」

「本当にやるんですかぁぁぁぁ!!」

涙を振りまきながら暴れるおキヌの体を直撃した怪光線だったが、どういうわけか一瞬躊躇うように光を弱めたかと思うと最終回で宇宙戦艦を直撃したデ〇ラー砲のように跳ね返ってりんぐぅを直撃した。
さすがに自分の放った光線が跳ね返ると思わなかったのか呆然とするりんぐぅ。

「な、なんで跳ね返ったんだお…」

「ふふふ…おキヌちゃんみたいな良い子に呪いなんか効くわけないじゃない。それにしてもどんな呪いだったのよ!」

自分で盾にしておいて良い子もないもんだが、そんなことは意に介さずついに手に入れた無敵の盾「従業員バリアー」の影に隠れながらも勝ち誇る令子である。このへっぽこの放つ呪いなど最初から大したものとは思ってないけど気になるのは気になる。命に別状は無いとは言え、人としての尊厳とか乙女の純情とかには致命的なダメージを与えかねない呪いだからたちが悪い。
りんぐぅはしばらく唇を噛んで俯いていたが大きく溜め息をつくとポツリととんでもない台詞を吐いた。

「力むとパンツのゴムが切れる呪いだお…」

「ちょっと待つでござるっ!…あう…」

抗議の声を上げた途端にジーパンの中からブツンと聞こえたやたら景気の良い音に硬直するシロ。しばし腰のあたりを触っていたが何が起きたか把握したのか情けなさそうな笑顔を浮かべて黙り込んだ。
泣き笑いの顔で動きの止まったシロに慌てて近づこうとしたタマモも何かに思いあたったらしくコメカミに脂汗を流して立ち止まる。

シロと違ってスカートのタマモだと呪いが発動したらかなり危険な事態になりそうだ。
それはミニスカのりんぐぅにとっても同じである。
呪いが跳ね返された場合その効果は術者に作用する。
一応、へっぽことはいえ呪いのプロのりんぐぅだからその辺はよくわかっているのだろう、深呼吸して落ち着きながらも疑問を口にした。

「ううっ…それにしても納得いかないお…なんでおキヌお姉ちゃんは呪いにかからないんだお…もしかしてお姉ちゃんパンツ履いてないのかお?」

「そ、そんなわけありませ!!……あれ?」

抗議しつつスカートの上から腰の辺りを押さえたおキヌがピシリと硬直した。
慌ててバタバタと腰の辺りを叩いたりまさぐったりしていたが、その顔からは嫌な感じで汗が流れ始める。

「お、おキヌちゃんもしかして…履いてないの?」

「あ、あはははは…」

令子の言葉に両手でスカートの裾を押さえつつダクダクと汗を流しながら虚ろに笑うおキヌ。ミニスカートでないのが幸いではあるが危険なのにはかわりは無い。
元々天然のスキル保持者だがどういう経緯でこんなボケをぶちかましたのか気になるところだ。
確かにパンツが無ければ「パンツのゴムを切る」という呪いも発動しようがない。
おキヌの天然と令子の非道を計算してなかったりんぐぅ痛恨のミスだった。

「と、とにかく一回事務所に帰ってパンツを履き替えてくれば問題ないわよね!」

「無理だお…この呪いは「力むと切れる」だお。今日一日はどんなパンツを履いても切れ続けるお…」

それは自分も同じだとわかっているからりんぐぅの声にも力がない。
呪いの被害を受けなかった令子とて同じことである。
ただでさえ除霊という命がけ集中力がいる仕事なのに「力むと切れるパンツのゴム」なんてものを抱えて仕事が出来るはずはない。
特に前線主力であるシロが先ほどから涙目でジーパンの腰の辺りを押さえているとなれば万全の体勢で仕事をするというのも無理だろう。
スカートのタマモも青い顔をしているし。
故に爪を噛みながら考え込んでいた令子が無念の思いをこめて吐き捨てるのも仕方ないのだ。

「くっ…こ、こうなったら今日の仕事は中止ね。」

「マジっすか?」

「シロとタマモがこんなんじゃ出来るわけないじゃない…」

確かにシロもタマモも令子の決断にコクコクと大きく首を振って同意している。
当然おキヌとてこのまま除霊に行く気ような無謀な真似はしたくないだろう。
それ以前に横島の前に無防備に近い体勢で出てきてしまったことに相当動揺しているようだ。
「今日の仕事は無理」…客観的に判断すればそう決断せざる得ない。
かくして尊い犠牲を出したものの令子vsりんぐぅはりんぐぅの勝利で終わったのである。


憤懣やるかたないと肩を怒らせる令子とどこか頼りなげな様子のシロタマ、そして虚ろな愛想笑いを貼り付けたおキヌが立ち去った部屋でほーっと息を吐く横島たち。
りんぐぅは横島との買い物の予定が潰れなかったことを素直に喜んでいるが、横島にしてみれば令子の怒りが自分に向くのは確定となったわけで…やるせない溜め息を吐くのも仕方ないのである。

「お兄ちゃんどうしたお?」

「あー。なんでもない…」

「もしかしたらりんぐぅとお出かけするのが嫌だったの?」

「そんなことはないさ…さあ飯食って出かけるぞ!」

「うん。今日はアジのサンドイッチだお!」

「まさか生アジがまるごと挟んであるとか言わないだろうな…ってなんで目を逸らす…」

「な、生は体にいいんだお…火を通すとDDTが少なくなるんだお…」

「DHAだしっ!それよりも焼けっ!頼むから!」

「い、いえっさだお!」

焼いたアジをパンに挟むという珍妙な料理でも腹に入ればそれなりに膨れるもので、横島とりんぐぅは満足の笑みを浮かべて「ご馳走様」と手を合わせる。
見れば時計はすでに10時近くになっており、そろそろ出かけた方がよさそうだ。
後片付けをして火の始末を確認し横島たちは街へと繰り出した。

初めて見る街の景色はりんぐぅにとって新鮮だったらしい。
キラキラと目を輝かせて、横島にしてみれば何の変哲もない街の光景を堪能している。
とりあえずとデパートに入り、そこでりんぐぅのために必要なものを買い足して時計を見ればすでに昼の時間。
りんぐぅのお腹が小さく「くぅ」と鳴った。

「どっかで食っていくか?」

「だお!りんぐぅはお寿司が食べたいお!!」

「まあ金はこの間美神さんにもらったのがあるからいいけど…」

「だったら行くお!」

横島の手をとって「お寿司〜お寿司♪」と歌いながら歩き出すりんぐぅ。
「回転寿司だぞ〜」、「それでいいお〜」と言い合う二人に道を行く人は仲の良い兄妹を見るかのような温かい視線を向けてくる。
それが横島にはこそばゆい。
こんな時は、普段の自分なら青い制服の人に呼び止められていたりしたもんだが、りんぐぅの放つ空気がほのぼの感を感じさせ犯罪的な要素など微塵も感じさせないのだろう。青い制服の公務員さんも笑顔で横島たちを見守っている。
それほどまでにこの呪いの少女は明るく華やいで見えるだ。

デパートから外に出てみると真昼の陽光が容赦なしに照りつけてくる。
冷房の効いた館内との差にたじろぐが目指す回転寿司屋はこの通りの向こうだ。
こんな少女と何のてらいもなく手をつないだまま交差点で信号待ちをしている自分に違和感を感じる。
仮にそれが小学生としか見えなくても、こんな美少女と手をつないで街を歩くなど無かったことだ。
それでいて煩悩が刺激されることもない。
かわりに彼の胸には不思議な感情が芽生えている。
それが高校に入り一人暮らしをするようになってから初めての「家族に対する想い」であると気がついて横島は微笑んだ。
まさか同居して幾日も立っていないこの少女に家族というものを感じるようになるとは…不思議なものだと首を振る。
つないでいた手を外すとりんぐぅは少し驚いたようなそれでいてどこか不安げな視線を向けてきた。
微笑んでその小さな頭を撫でててやると少女は最初は驚いたようだったが、すぐに喉を撫でられる猫のように蕩けた表情になる。
その顔が面白くて横島は声を出さずに笑った。
彼の笑顔を子ども扱いされたためと捉えたのか「むー」と頬を膨らますりんぐぅの目がふと横島の背後を横切る影を捉える。

信号待ちの交差点、広い道路を行きかう車道に向けて飛び出したのは一匹の子犬だった。
飼い主が不注意で手放したリードを引き摺ったまま子犬は車道の真ん中へと飛び出し、迫りくる大型トラックの影を認めて身を竦ませる。
それに気づいた幾人かが子犬の運命を予想して体を固くした時、一人の少女が道路に向かって飛び出していた。


りんぐぅの頭を撫でていた横島には何が起きたか見当がつかなかった。
彼の死角である背後を子犬が走りぬけたことも、そしてそれを救うべく今、頭を撫でられていた少女が道路に走り出たこともほんの一瞬の出来事だった。
振り返り状況を把握するわずかの間。
しかしその時間のロスは彼と子犬を抱き上げたりんぐぅのとの間に致命的な壁を作っていた。

タイヤの軋む音、金属が擦れる耳障りな音が世界を染める。
そして急制動をかけた大型トラックが彼の前を通り過ぎて止まった。
色も音も消えた世界が横島の前に立ちはだかった。
からからに乾いた唇がかろうじて動き始める。

「お、おい…りんぐぅ?」

「だお〜」

返事はトラックの下から聞こえてきた。
ばね仕掛けの人形のように跳ね飛んでトラックの下を覗き込んでみれば、薄暗い車体の下にクッキリハッキリと輝く白い桃。
そして手前に落ちている白い布製品、ペンギンのバックプリントつき。

「りんぐぅ!大丈夫か?!!」

わけがわからぬままに叫んでみると桃がプリプリと揺れながら返事をしてきた。

「大丈夫だお〜」

どうやら無事らしいと足を持って引きずり出してみると、子犬を抱えたりんぐぅが「だおぉぉぉぉ。すれるお〜!」と泣き声を上げる。

どうやら怪我はないらしいとホッと一息つく横島である。
犬を助けようと力んだ時にゴムが切れ、ずり下がったパンツに足を取られてコケたのが幸いしてちょうどトラックの下に潜り込む形になったらしい。

横島はそれでもショックだったかヨロヨロと立ち上がるりんぐぅを抱きしめた。

「だおっ!な、なにをするんだお!お兄ちゃん!!」

照れたのかジタバタと暴れるりんぐぅだったが、横島の胸の温もりに彼の心配と安堵を感じたのか動きを止める。

「心臓が止まるかと思ったぞ…」

「ごめんなさいだお…」

抱いていた犬を静かに放すとりんぐぅは横島の背に手を回して彼の温もりをその身に沁み込ませるかのように目を閉じる。
通行人たちが安堵の息を漏らし、微笑をもってこの奇妙な兄妹を見つめる中、二人はしばし互いの温もりを確かめ合った。

やがて横島がりんぐぅの体を優しく離すと頬を染めながら彼女に手を差し出す。
疑問符を浮かべて首を傾げるりんぐぅから顔を背けながら横島は手に持っていたものを手渡した。

「あー。パンツ落としていたぞ…」

「だおっ!」

慌ててミニスカートに手を突っ込んでみれば確かにそこには慣れ親しんだ布の感触はない。たちまち真っ赤に染まってダクダクと汗を流し始めるりんぐぅである。

「み、みみみみみ、見たお?!!」

「見てない!見てない!!」

「嘘だお!あの体勢ならパックリと見られたはずだお!!」

「パックリとか言うんじゃありません!!」

「だおっ!!」

脳天を襲う本気の突っ込みに涙目になったりんぐぅに横島は背を向けた。

「だお?」

「ほら。寿司食いに行くぞ!」

背中を向けたまま右手を差し出してぶっきらぼうに言う横島に少しだけ呆気に取られていたりんぐぅもその小さな手をそっと重ね合わせると優しく握り締める。
横島はその温もりを確かめるように握り返すと、そのまま彼女の手を握って歩き始めた。

子犬の飼い主に礼を言われたが、この場に留まるのはなんとなく居心地が悪いと横島たちは軽く会釈だけして人ごみに紛れようとする。

都会の喧騒はいつまでも止まっていることを許しはせず、他の人々も目の前で惨劇を見なかったことにホッと胸を撫で下ろしながら日常へと戻っていった。
それが今の横島にはありがたい。
基本的に彼は自分がこういう場面には向いていないと思い込んでいるのだ。
さらに先ほど心ならずも見てしまった白い桃とかなんとかの映像が拍車をかけたこともあるのだろう。
りんぐぅの手を引いたまま足早に歩き始める横島に少女も頬を染めたままついていった。

なんとも気恥ずかしくて振り返れない横島に背後からりんぐぅが遠慮がちに声をかけてくる。
その声はどこか寂しげな響きを含んでいた。

「お兄ちゃん…」

「ん?なんだ?寿司屋ならもう少し先だぞ。」

「違うお。お兄ちゃん。りんぐぅは呪いだお。」

「ああ。そうだったわな。」

「りんぐぅは呪いだから…呪いが何かを助けちゃ…それはもう呪いじゃないんだお…」

「え?」

その言葉に言い知れぬ不吉なものを感じて振り返る横島に合わせるように少女の手が離れる。
横島の目の前でりんぐぅは寂しげな笑顔を浮かべて立っていた。
その体が次第に淡い光に包まれ始める。
昼下がりの街角、煌く陽光の中で少女の身を包み始めた光は目立つこともなく、それでいてハッキリと横島の目と心を焼いた。

「呪いじゃなくなったらりんぐぅはここに居られないんだお…」

「な、なにを…」

「お兄ちゃん…短い間だったけど楽しかったお…」

「ま、待てよ…」

声が出ない。

言いたいこと。
出来ること。
それがない交ぜになって頭の中を駆け巡る。
たわいの無い日常だった…いや…そうなるはずだった。
しかし、今そこにいるのは顔を涙で濡らしながら、それでも精一杯の笑顔で小さく手を振るりんぐぅだった。

「お兄ちゃん…バイバイだお…本当に…本当に…楽しかったお…」

「嘘だろ…おい!待てってば!!」

光に包まれた少女を捕まえようと踏み出す横島の前でりんぐぅはもう一度微笑む。
横島の手が彼女を抱きしめることはなかった。

いつしか淡い光も消えたその場には何も残っていなかった。


ひたすら駆けた。

ひたすら探した。

日が落ちても走り続けた。

すでに時計は日付を変えた。

けれど…あの少女はどこにも居なくて…。

真っ暗な路地裏で横島はやっと少女が自分の前から消えたことに気がついた…。

「馬鹿野郎…」

それはどちらに言った言葉だろう…。

手の中で皺くちゃになった白い布に涙が落ちる。
バックプリントのペンギンが少女の笑顔と重なって。
二度と味わうことはない…味わいたくないと思った喪失感が体中を蝕んで。

横島は声も出せずにただ泣いた。

初めて出来た妹のために誰も来ない路地裏で一人泣く横島を野良猫が無愛想に眺めていた。


重い足を引き摺って夜道を歩く横島。
角を曲がればアパートが見えてくるはすだが、彼の足はそこで止まる。
部屋はきっと暗闇に包まれているだろう。
そこに残された少女のために用意した品々を見るのは躊躇われた。
いっそ野宿しようかとも思う。

しかし彼の心と同様に彼の体は疲れきっていた。
足と胸、二つの、いやそれ以上の痛みを引き摺りながらも角を曲がる。

見上げた自分の部屋は蛍光灯の明かりが輝いてた。
おキヌやシロ、ましてやタマモではない。
そもそもこんな時間に彼の部屋に居ることはない。

痛みを忘れ横島は一気に階段を駆け上がるとドアを開ける。

中に居たのは昼間失った妹だった。

「り、りんぐぅ…」

「お兄ちゃん…」

板の間にちょこんと正座していたりんぐぅが笑う。
けれどその目から溢れた大粒の涙が少女の膝を濡らしていた。
声を出そうとしているのだろう。
だけど少女の唇はただ震えるだけ。

どれほど二人で見詰め合っていたか、ついにりんぐぅの唇から声がこぼれた。

「お兄ちゃん…お兄ちゃん…お兄ちゃん!!」

泣きながら立ち上がって横島に飛びつこうとして…りんぐぅはこけた。
長いこと正座していて足がしびれていたらしい。
再び頭から横島の股間に突っ込んでくる。
これはもうデフォルトになっているらしい。

「だおっ!」
「ばうっ!」

脳天と股間に痛撃を受けて蹲る二人。
仲良くプルプルと痙攣していた二人の口から同時に笑い声が漏れ出して。

「おかえり…りんぐぅ」

「ただいまだお…お兄ちゃん。」

そして出来立てホヤホヤの兄妹はしっかり抱き合った。
もう二度と離しはしない、離れないと誓いをこめて。


どれほどそうしていたのか…りんぐぅは横島から身を離すと再び正座してお辞儀する。

「またお世話になるお。」

「当然だろ。…ところで…どうやって戻ってきた?」

確かに少女は目の前で消えたはずだった。
それがここにいる…嬉しいことは嬉しいが原因は知っておかねばならない。
また何時、あんな思いをさせられるか知れないのだから。
横島の問いにりんぐぅはばつの悪そうな笑顔で目を逸す。

「実は…あの後、またビデオに戻っていたお…」

「ビデオに?」

そういえばあのビデオはそのままデッキにさしっ放しだった。
りんぐぅは目を逸らしたまま小さく頷く。

「だお。それで12時になったら…また出てこれたお。」

「そっか…」

もしかしたらりんぐぅは横島ではなくビデオに括られていたのかも知れない。
なんか不思議な気もするが、帰ってこれたのだからそれ以上は追求しない。
きっとりんぐう本人も詳しいことはわからないだろう。
言われて見れば部屋の中にはかってりんぐうが着ていたペンギンの着ぐるみが残されていた。それが彼女がまたビデオから出てきた証拠かもしれない。
しかし…

「そういやお前さ…前にテレビに引っかかっていたよな。どうやって出れたんだ?」

「だお…お兄ちゃん…りんぐぅのビデオに何を録画したか覚えているかだお?」

「ああ…確か相撲取りの水泳大会…まさか…」

蒼褪める横島にりんぐぅはコクリと頷いた。

「だお…お相撲さんに押してもらったお…」

「そ、そっか…」

それで出られたんなら良しとすべきではあるが…なにか先ほどからりんぐぅの挙動が不審だ。

「んで?」

「そ、その時に…お相撲さんも出てきちゃったお…」

「嘘っ!どこに!!」

お相撲さんが?!と言う前に横島は気づいてしまった。
押入れの戸が妙に膨らんでいることに。

「まさか…」

その言葉が引き金になったのだろう。
押入れがバカンとはじけ飛ぶと中から出てくるお相撲さんたち。

「「「「「おす!!」」」」

「おい!まて!何人入っていたんだぁぁぁぁぁ!!!!」

「二十人ぐらいだお…」

「どうやってっ!!」

あまりの不条理に錯乱しかかる横島にお相撲さんたちは声をそろえてご挨拶。

「「「「「「ごっつあんです!!!」」」」

「なにがごっつあんかぁぁぁ!!」


そして…

……

……

…横島のアパートの床が抜けた。


ガレキの中で顔を見合わせる兄妹。
妹は涙と煤で汚れた顔を笑顔に変えて、呆然とする兄の首に抱きついた。

「これからはずっと一緒だお。お兄ちゃん!まずは住むところだお♪」

「帰れ!お前はぁぁぁぁぁ!!!」

無論、それが横島君の本心で無いことは言うまでも無い。


                                   おしまい


後書き

ども。犬雀です。
えーと…お久しぶりであります(汗)
まだ覚えていてくれてましたでしょうかと平謝り。orz

さて、これで「りんぐぅ」は一応完結ということになります。
お楽しみいただけましたか?

えー。残りの宿題に関しては今、自分のサイトを考えておりまして、そちらの方に乗せようかと考えておりますです。
除霊部の方も一話目からリメイク中。
ただ、書いてて詰まったり、運転中に思いついた小ネタなんかにすぐ惑わされて横道にそれた話を書いちゃうことが…。

うむ…何とか頑張りますです。

では、またお会いいたしましょう。

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