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▽レス始

「迷い道 後編(GS)」

さみい (2005-10-17 06:40/2005-10-17 06:41)
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美神除霊事務所1階の応接室では二人の美神令子が向かい合っていた。

「あなたが元いた時間を基準にすると6年後、あなたが二十歳の時に大事件が起きます。とある魔神が現在の神魔族の秩序に逆らって世界を乗っ取ろうとした。それはアシュタロス戦とも核ジャック事件とも言われる一連の戦い。その中で私たちは何度も危機に直面したの・・・」
未来の令子は紅茶で喉を湿らせると再び話を始める
「魔神が探していたエネルギー結晶は私が持っていた。私は横島クンたちと一緒に戦った。そしてついに魔神を倒すことに成功した。その陰でとても大きな犠牲を払いながら」
「犠牲って?」
「横島クンの初めての恋人である魔族ルシオラの死。彼女は横島クンを助ける為に限界を越えて霊基を彼に与えたの。あっ、霊基って私達や神魔族にとっては血液みたいなものよ。言い換えれば大量失血で死にそうな彼を救う為に大量に輸血して亡くなったの」
「『よこちま』の初めての恋人・・・って、あなた、つまり私じゃないの?」
「う〜ん、私は内心とても横島クンが好きだったけど、横島クンにとって初めての恋人はやはりルシオラよ」


「ルシオラを喪った横島クンの涙は絶対忘れることなんて出来ない。横島クンは好き。その横島クンが己の非力を責め悔恨の涙を流している。そんな姿をあなたには見せたくないの。
 私は13年前に未来の私からこの事を教わった。ちょうど今、私があなたに教えているように。でも私は横島クンを鍛えなかった。力をつけて師匠の私を越えるのが怖かった。独立して離れてしまうのが怖かった。いつでも側に居てほしかった。彼をルシオラに取られてしまうのが怖かった。それで荷物持ちばかりさせていた。霊能知識や戦い方もロクに教えなかった。でもね、横島クンの涙を見て思ったの。私は間違っていたって」
未来の私の目には涙が浮かんでいる。
「お願いがあるの。GSになって横島クンを鍛えて欲しいの。それも6年以内に。そしてこの限りない悔恨のループを終わらせて欲しいの」
未来の私は立ち上がると私を抱き締める。そして私に縋り付くようにして泣いた。


私は混乱していた。目の前の私は恋敵を助ける為に私に頼んでいる。よこちまを鍛えれば、ルシオラがよこちまの恋人になり、ひいては自分との結婚もお腹の子もなくなるのに・・・。矛盾した行動。
反発も感じていた。GSをしていた母は除霊中の事故で死んだ。GSになんかなりたくない。私はいつの間にか声に出していた
「もし私がGSにならなかったらどうなるの?」
未来の私が答える
「そうね、エネルギー結晶を私が持っていたことは話したわよね。もしGSにならなかったら政府に暗殺されていたでしょうね。あなたは死にたくなかったらGSになって横島クンを鍛え、彼と共に魔神と戦うしかないのよ」

「そんな勝手な!」
私は未来の自分を突き飛ばしていた。突き飛ばされた未来の私は大きなお腹をかばうように床に倒れ込む。

ヤバい。目の前の未来の自分は妊婦だったっけ。私は駆け寄ると彼女の肩を支えて立ち上がらせる。どうやら彼女もお腹の赤ちゃんも無事のようだ。
「やっぱりアナタは私。運命だからと押し付けられて、そのまま受け入れるようなキャラじゃないわね」
未来の令子は苦笑いをしながらソファに座る。
「どうしてそんなにルシオラを助けたいの?」
「さっき言った通りよ。横島クンの涙を見たくないの・・・」
「でも、上手く行ったら彼はルシオラのものよ。あなたの、いや、私の結婚もお腹の子も無くなってしまう。」
「あなたはそんなヤワな女じゃないわ。だってワタシなんだから。ルシオラも居て、お腹の子もいる、そんな未来を切り開ける筈よ。」
そう言った未来の令子がポケットからテーブルに一個のビー玉のような球を置く。
「これは文珠と言って、彼の霊力を凝縮させたもの。中に字を入れて使うの。『爆』と入れれば爆発するし、『浄』と入れれば普通の悪霊くらいなら20〜30鬼を一気に浄化できるわ。使う前に入れたい文字を頭に念じるの。じゃあ、『覗』と入れてみて。あなたなら出来るわ、美神令子なんだから」
私は大きめのビー玉のような文珠と手に取ると、心の中で『覗』と念じる。間もなく中心に『覗』という漢字が入る。
「うまく出来たわね。あとは起動したいときも念じるだけ。さあ、私の心の中を『覗』きたいと念じなさい。時間がないわ」
未来の私にせかされた私は言われるまま念ずる。
明るい光を放つと、文珠が起動した。

目の前に座る未来の私の記憶が私に飛び込んでくる。

敢えて霊能科ではなく普通科を選んだ高校生活。唐巣神父に師事してのGS修行。唐巣神父が心配するほど厳しい課題を自分に課して、どんどん強くなっていった。どんどん学んでいった。六道冥子という友人を得たGS試験。そして独立、『よこちま』との再会。

『よこちま』は最初はただのスケベな煩悩小僧。今の私が出会ったら思いっきり股間を蹴りあげて二度と太陽を拝めないようにするところだ。それを神通棍で殴ったりシバきあげる程度で切り上げている。それでも彼は血まみれなのだが。
そんなよこちまも未来の私やおキヌちゃんと一緒に戦う内に徐々にその実力を見せ始める。霊波刀や霊波の盾を使いこなし、ついには文珠という究極の武器を手に入れる。それもすべて常に彼を生命の危険に曝し生存本能を刺激したから。そして彼自身が未来の私を支えたいと思ったから。

やがてルシオラたち3姉妹の登場。末っ子パピリオのペットとして攫われたよこちまとルシオラと魅かれ合って、ついには彼女の為に魔神アシュタロスを倒す宣言までする。私は南極でヨコチマやルシオラと一緒に戦い、ついには一旦はアシュタロスに勝利する。美神除霊事務所預かりとなったルシオラ・パピリオ、よこちま、私・おキヌちゃんの短いけど充実した生活。みんな一緒の楽しい暮らし。それがアシュタロスの再蜂起で私は捕らわれた挙句にエネルギー結晶を奪われ、ベスパとの東京タワーの戦いではルシオラがよこちまを助けて亡くなった。地下道でのよこちまの絶叫。言葉では言い表せない程悲しい叫び。過去のどんな戦いでも歯を食いしばって一緒に戦った男の子が泣きわめく姿。未来の令子はこの叫びを私に伝えたくて、でも上手く言葉で表現できずに、文珠を渡したのだろう。
ルシオラの弔い合戦ではよこちまと私の合体技でどうにか勝利したが、ルシオラは復活できなかった。将来、よこちまの子供として転生する可能性を残して。
その後、よこちまは見た目は今迄通りの元気を装いながら、心の底では恋人を捨てて世界を取った己を責め続けた。私はそんな彼の姿を見たくなかった。魔鈴や厄珍に頼んで召喚キャンドルを入手、おキヌちゃんと3人で魔法料理店魔鈴での夕食に誘った。そしてルシオラを召喚、4人で会食をした。ルシオラは一切よこちまを責めず、彼を蝕ばむ自責の念を取り去ってくれた。ルシオラも元気な彼が一番好きなのだろう。彼は今迄通りの彼になった。

数年後、事務所の忘年会の後で私はよこちまと結ばれた。おキヌちゃんには自分から言った。彼女はとても大事な家族だから。彼女もよこちまが好き。それでも千年越しの恋だからと祝福してくれた。そして泣きながら言った。「私も横島さんが好きです。油断すると奪っちゃいますよ」と。
シロやタマモには当初黙っていたが、獣の勘で薄々感づいていたようだ。「先生が結婚されてからもサンポは私のものでござる」「時々お稲荷さん奢ってもらうのはいいわよね」とクギをさされたが。

そして結婚と妊娠。お腹の子は女の子で、ルシオラの転生体である可能性が90%だそうだ。よこちまは心から妊娠を喜んでいる。未来の自分も廻りの女性陣も皆喜んでくれている。ルシオラを単なる『恋敵』ではなく、『家族』だと思っているから。

文珠の光が消えて行く。まだ知りたいことが沢山あるのに。ママのこと、パパとの和解・・・。まだ見たりないのに・・・。


未来の令子が言う
「さあ、そろそろ時間よ。これから夕立が降るの。あなたは公園で落雷に遭って時間移動して元の時間に戻るの。公園にあるちびっ子広場北側の大きな樫の木の側に立ってるだけでいいわ。裏にハイヤーを待機させているから、それに乗って公園へ急いで!」
未来の令子はソファに掴まるようにして立ち上がる。玄関までの間、私は彼女から言われた。
「お腹大きくなかったら私がコブラで送ってあげるんだけどね。
あと、文珠を1個あなたに渡しておくわ。今日の事を忘れたければ『忘』を、彼に会いたければ『逢』を入れて頂戴。どの字を入れるかはあなたに任せるわ。それと、精霊石のネックレスとイヤリングも渡しておくわ。修業中は唐巣神父が一緒だから、まず使うことはないと思うけど。
今日はあなたに会えて良かったわ」
そう言った彼女の笑顔はとても素敵だった。私は彼女に見送られて美神除霊事務所を後にした。

ハイヤーで広大な記念公園に降り立った私はちびっこ広場にそびえ立つ樫の木の側に立つと、間もなく空の色が怪しくなった。
ゴロゴロゴロ・・・
雷が鳴り雨が降り始めると、広場に居た親子連れが次々帰宅していく。廻りにだれも居なくなり、雷が樫の木に落ちる。木の幹から光が私に伸びると、次の瞬間、私は変電所の変圧器の側に倒れていた。


目が覚めたのは病院だった。白バイ警官が呼んだ救急車で病院に運ばれた私は、何の外傷も無かったが念のため一晩入院することになった。目が覚めるとすぐにおばあちゃんや警官・先生や変電所職員から説教をくらう。延々3時間に渡る説教を受けながら、これから自分が歩むべき道を考えた。

私は立派なGSになれるだろうか。よこちまを鍛え上げることが出来るだろうか。魔神に勝利することが出来るだろうか。そして、ルシオラやおキヌちゃんを抑えて無事よこちまをゲット出来るのだろうか。
未来は分からない。未来の私が「過去の」事実を私に教えた段階で狂い始めている。文珠で『覗』いたことすべてが事実になるとは限らない。臨機応変に戦うことが重要になるだろう。

そして私は未来の私の幸せそうな姿を思いおこす。
「妊娠すると髪に栄養が行かなくなってショートカットにせざるを得ないのよ。髪を洗いにくいのもあるけど。中学の頃以来だわ、こんな髪。」
ブツブツ言いながらもその原因に彼女は幸せそうだった。母というのはそんなものなのだろうか。

私はまず学校に復帰してGSになることに決めた。そして一人前のGSになって事務所を開いた日に文珠を使おうと思った。勿論『逢』の字を込めて。まだ見ぬ家族に会う為に・・・。


〜未来の令子サイド〜
(未来は少しずつ違ってきている。私がかつて未来の私から聞いた話と実際に自分で経験した現実は少し異なっていた。未来は変えられる、そう確信したわ。私の番では無理だったけど、彼女の番ではルシオラも含め全員を救えるかもしれない)
事務所1階の給湯室でティーカップを洗いながら未来の令子は考える。かつて彼女が『覗』いた未来ではパピリオもアシュタロス戦で戦死していた。
(あっ、封印を解除しなきゃ・・・)
未来の令子はマタニティドレスのポケットから『封』の文珠を取り出すと、頭の中で念じてその字を消す。
(いつママのことがバレるんじゃないかとヒヤヒヤだったわ。せっかくアシュタロス戦準備の為に「死んだ」ことにしたのに、私がバラしたら水の泡だわ。一応『封』の文珠でママやひのめ、説明に不要な戦闘の記憶は封印したけど・・・)
食器カゴのマイセンのカップを布巾で拭いて食器棚に仕舞うと、未来の令子は給湯室の電気を消した。


「ただいま〜」「只今帰りました」
2階へ上がろうとしていたらヤドロクとおキヌちゃんが除霊から帰ってきた。
「お疲れさま」
「誰か来てたんですか?」
おキヌちゃんが尋ねる。
「私だけよ。 ところでおキヌちゃん聞いて聞いて!今日はこの子すごい蹴るのよ」
「さすが横島さんと美神さんの子だけに元気いっぱいですね〜」
ヤドロクは除霊道具を地下倉庫に仕舞いに行っている。
「それとおキヌちゃん、今日の夕食はじっくり煮込んだビーフシチューよ。いろいろ工夫したんだから。期待しててね」
(残る大仕事はこの子の出産だけね)
来月には臨月になる。そして家族が増える。美神除霊事務所という私の大事な家に可愛い天使(小悪魔?)がやってくる。シロタマも留学から帰ったら育児にコキ使ってあげるからね。そして現役復帰よ。ママだって出産後わずか3カ月で復職したんだから。

(あの頃の私は目標にしていた母が「死んで」、突然自分の進むべき道が判らなくなってイライラしていただけ。迷い道から抜け出せれば自分で歩けるわ。何てったって私なんだから)
ヤドロクが倉庫から上がって来た。
「令子〜っ、仕事で疲れた亭主に愛のキスを〜!」
私に飛びかかるヤドロクをマタニティドレスのポケットに常備している神通棍で撃墜する。
「お腹が大きい間はダメって、いつになったら判るのよ!」
そばではおキヌちゃんが笑っている。
「出産したらいいんですか〜、美神さん?」
「そ、そんなこと、あ、あるわけなくないわよ」
支離滅裂になりながらも否定はしない私。急にお腹の子がお腹を蹴る。生まれる前から反抗期かしら?
私はお腹に宿る娘に確かな意思を感じながら、夕食の準備に取り掛かるのだった。

(完結)
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さみいです。今回は時間移動ネタでございます。

原作の『夢の中へ!』で中学生の令子が原付を乗回していたことから思いつきました。いわゆるタイムパラドックス話です。美神令子が将来自分が臨むすべての戦闘の記憶を持っていたら話がおかしくなりますが、帰ってきた美智恵やその後産まれたひのめの記憶と共に『封』の文珠で封印した上で『覗』かせたということでご勘弁ください。

それではまた。

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