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「迷い道 前編(GS)」

さみい (2005-10-17 06:38)
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「勘合貿易というのは・・・」
いつもと変わらぬ中学の授業。社会の授業は中年のクラス担任が受け持っているが、退屈で欠伸がでる。方言もひどいし、何より工夫が見られない。きっと十年以上同じ内容で授業しているに違いない。

私は美神令子。父は東都大学助教授で今アマゾンの奥地に居る。GSをしていたママは昨年除霊中の事故で死んで、母方のおじいちゃん・おばあちゃんに世話になっている。かつてGSをしていたおばあちゃんは優しい。同じくGSだったおじいちゃんと夫婦でGSをしていたが、ママに取憑いたチューブラベルを除霊しようとして失敗、田舎に戻って小さな喫茶店を開いていた。ママが若くして結婚・私を産んだので二人とも未だ十分若いけど。二人とも私を実の娘のように可愛がってくれる。娘が除霊で死んだのが余程悲しいのだろう、おじいちゃんは「令子はGSにならなくてもいい」と繰り返し言う。「高給だけど危険な仕事だから令子にはさせたくない」と言って、その都度おばあちゃんに怒られている。「令子には桁外れの霊能力がある。美智恵並、いやそれ以上の霊能力を使わなくっては美神家の女が廃る。」とはおばあちゃんの意見だ。そういうわけで日頃から夫婦ゲンカばかりしている。

私はこの退屈な授業をエスケープすることにした。そ〜っと教室の後ろのドアから退出する。私は学校をサボってゲームセンターで時間を潰した。

夜。ゲームセンターの側に放置してあった原チャリを”借りて”海辺の道を走る。走っている時が一番。ポッカリ穴の空いた私の心に風が沁みる。ママを喪なった悲しみも、父とうまく行かない苛立ちも、私のことで祖父母がケンカする悲しみも、すべて風が埋めてくれる。ショートカットの髪が風に靡く。


ピ〜ポ〜ピ〜ポ〜ピ〜ポ〜
「そこのバイク、停止しなさい!オイ!停止しろ!!」
(ヤバッ、パトカー)
いつの間にか私はパトカーに追いかけられていた。ノーヘルに中学の制服姿。このド田舎では中坊ってことが一目瞭然。ムキになって追いかけるわけだわ。
パトカーは事故を恐れてか、私を市街から郊外に向けて追いかける。仕方なく私は変電所の敷地内に入り込んだ。地元の悪ガキがフェンスを何カ所も破ったままになってて簡単に侵入でき、敷地も広いので逃げやすい。パトカーは正門からしか入れないから時間を稼げる。私は変電所に逃げ込んだ。

変電所の中は改造工事中らしく、工事車両があちこちにおかれている。三角ポールを器用に避けながら走る私。
ピ〜ポ〜ピ〜ポ〜ピ〜ポ〜
「停止しなさい!停止なさい!!」
えっ?ポリ公、まだ居るの?ヤバッ いつの間にかパトカーだけでなく、白バイにも追尾されている。
原チャリと白バイでは本来だったら勝負にならないだろう。でもここは工事中の変電所敷地内。あちこちに工事車両が停まり、小回りのきく原チャリの方が有利だ。逃げ切ることもできそうだ。
私は巨大な碍子が並ぶ変圧器のそばを走る。白バイはなぜか追尾をやめる。変圧器からはブーンという低い音が絶えず鳴っている。これって通電してるの?!
「今すぐそこから離れなさい!危ない!」
白バイの警官ががなりたてる。次の瞬間、私は変圧器の端子に接触していた。


気が付くと私は東京の自宅マンションの玄関前に座っていた。コンクリートのひんやりした感触、見慣れた光景。所々、マンションの管理業者がメンテしているガーデニングのプランターが並んでいる。ここに入居を決めたのも内覧会で「お花がいっぱいあるここがいい〜」って私が駄々をこねたからだったし。
咲いている花は・・、あれ?
今は9月下旬だった筈なのに、初夏の花が咲いている。
重たい腰を上げ、自宅の玄関の呼び鈴を押す。今は昼間だから、ママが出てきて私を迎えてくれる筈だ。
「は〜い」
出てきたのは知らないオバサンだった。

「あなた誰?何で私の家にいるの?」
私はわたしの家に居る知らないオバサンに尋ねた。
「坂本ですけど・・・。あなたこそ誰?私は12年も前からここに住んでいるのよ。半年前引っ越したくらいだったら前に住んでいた人が間違ってきてしまうことも、ひょっとしたらあるかも知れないけど」
私は急に目眩がしてその場に倒れ込んだ。

どれほど寝ていたのだろう。目が明けると見覚えのある天井が見える。
間違いない、私の家の6畳間。だけど雰囲気が違う。家具も全然違う。
となると他所の家?!そばにさっきのオバサンが座っていた。ブルーのサマーセータを着た40くらいのふっくらした女性。
「起きた?ビックリしちゃったわ、見知らぬお嬢さんが『私の家』って怒鳴り込んできたんだもの。しかも玄関で気を失っちゃうし。あっ、私は坂本っていうの」
そのオバサン、坂本さんは悪い人でもなさそうだ。自分の家に怒鳴り込んできた見知らぬ娘を介抱してくれた。
「・・・すみません」
「あなた、ここに以前住んでいた美神さんの親戚かなにか?美神さんはGSをしていた奥さんが亡くなってからここを引き払ったって聞いているけど。私はその後に入居したのよ。かれこれ12、3年前ね。」
オバサンは続ける。
「でも「私の家」っていうのが変ね〜。中学生の娘さんがいたらしいけど、赤ちゃんが居たとは聞いてないわ。」
推理を始める坂本さんをよそに、私は私で、現状を把握をしようと懸命だった。結論はひとつ。『時間移動』。ママの能力だった筈だけど、私にも出来たなんて!
そういえば私は3歳のときママと一緒に時間移動したことがあったらしい。全然覚えていないケド。魔族に狙われてとても危ない目に遭ったらしいが、私が覚えているのは頭にバンダナを巻いた男の人の笑顔だけ。それもぼんやりとしか覚えていない。
頭の中で何か引っ掛かって出てこない、そんなもどかしさを感じながら思い出そうとしていると、不意に坂本さんが尋ねた。
「そういえば名前聞いていなかったわね」
「美神・・・令子です」
「そう、やっぱり前ここに居た美神さんのご親戚ね。なんで引越したのを知らずにここに来たの? あなたが赤ちゃんの頃に引越したのよ」
その時私は壁にかけられたカレンダーを見る。その2005年7月。私は急にここを逃げ出したい衝動にかられた。
「介抱してくれて、ありがとうございました」
坂本さんにそれだけ言うと私は逃げるようにこの家を後にした。

5歳からついこの間まで私が育った町なのに私には外国のように感じられた。町を行き交う人々はとても小さい携帯電話を使っているし(ママの携帯電話はいかにも無線機って大きさだった)、高校生なら茶髪や金髪の子も沢山いる。私の亜麻色の髪が学校で問題にされて行きつけの美容師さんに証明書を出してもらったのが嘘のようだ。
私は友達の家に行った。私は自分が美神令子である証明がほしかったんだと思う。昼間で皆留守だったが、最後に廻った家で友達のお母さんが玄関に出て来て言った。
「あら、昔の令子ちゃんにそっくりね。懐かしいわね〜」
私はこの世界では美神令子と認められなかった。この世界には13年後の美神令子が居る。私は昔の美神令子のソックリさんでしかない。
「令子ちゃん、元気に活躍されているそうね。ウチの子なんて何もせずゴロゴロしているのに、若いのにGSとして大成して凄いわよね」
友達のお母さんに、この世界の美神令子の住所を聞くと、いぶかしがりながらも教えてくれた。
(令子ちゃんの親戚かしらね〜。でも何でウチに来たのかしら)


美神除霊事務所。重厚な煉瓦造の3階建ビルである。その玄関先に亜麻色の髪の少女が立っていた。
(入りにくいな〜。何て言おうか?「こんにちは〜」、「おひさ〜」、いや違うな〜)
未来の自分にどう自己紹介するか悩んでいると、急に建物から声がした。
「どうぞお入り下さい。美神令子さま」
(えっ、私が美神令子って初めて認めてもらえた)
玄関が自動で開く。どこからもモーターらしき音はしない。私は恐る恐る美神除霊事務所に入っていった。玄関を入ると廊下と幾つかのドアが見えた。
「ここでお待ち下さい。美神オーナーが降りてこられます」
再度どこからかアナウンスがある。一体どこから声がしたのか訝しがっていると、階段をマタニティドレスを着た女性が降りてくる。亜麻色の髪をショートカットにして、お腹に手を当てながらゆっくりと私に近づいてくる。
「こんにちわ。あなたが来るのをずっと待っていたのよ。お話があるの・・・」
「い、いいわよ。私もそのために来たんだし・・・」
女性はクスッと笑う。この女性が未来の私?!私と同じ顔・髪の色。どう見ても「成長前」「成長後」の胸と身長以外は同一人物。勿論、彼女の方が+13年の歳月だけ大人で、しっかりした顔付きだけど。

部屋の壁には高そうな絵画にGS資格の証明書やさまざまな表彰状が架かり、応接ソファはふかふかで紅茶をこぼさないか心配になってしまう程。
ここは美神除霊事務所の応接室。亜麻色の髪の女性がいれてくれた紅茶を飲みながら、壁のGS資格の証明書に目を移す。3通並んで額に入ったその証明書は、それぞれ美神令子・横島忠夫・氷室キヌの名前。
「2人は今除霊に出掛けているの。私はお腹大きくなって除霊に行けないし留守番で書類つけよ。ヤドロクもおキヌちゃんも今は超がつくくらい一流のGSよ。世界で唯一の文珠使いと日本随一のネクロマンサー。そして世界最強のGSである私と合わせて実力も料金も最高の除霊事務所なんだから。そして来月、私達に家族が増えるの」
彼女は大きなお腹をさすりながら言った。そんな未来の私の仕草にムッときた私はつい反抗的に話す
「私のこと聞かないの?」
「だってあなたは私なんだから、今日のことはしっかり覚えているわ」
不利なのは私か。未来の私は当然今日出会ったことも記憶しているんだから当たり前よね。
「じゃあ、私が知りたいことを教えてよ」


「あなたは変電所の変圧器に接触して時間移動したの。私達はママと同様に電気エネルギーを霊的エネルギーに転換して時間移動できる能力をもっているわ。それであなたの時間軸を基準とすれば13年後に飛んだの。私は今26。美神除霊事務所のオーナー。そしてGS横島忠夫の妻。あなたはヤドロクやおキヌちゃんのこと、覚えているかしら。あ、写真を見ないと思い出さなかったわね」
未来の私は立ち上がると写真立てを持ち出す。写真はこの事務所の前で撮ったようで、背景に煉瓦が映っている。5人の写真。真ん中に未来の私。数年前に撮ったようで目の前の私よりちょっと若い。それに髪を腰まで伸している。右には頭にバンダナを巻いたGパンGジャン姿の男の人。その隣には髪に赤いメッシュの入った中学生くらいの女の子。あれっ、しっぽがあるように見える。そして私の左には巫女の衣装を着た高校生くらいの女の子。綺麗な黒髪に色白の肌。その隣には金髪のポニーテールにした中学生くらいの女の子。
「写真左からタマモ・おキヌちゃん・私・今は私のヤドロクになった横島クン、そしてシロよ。タマモとシロはウチの事務所の居候で今はイギリスに留学しているわ。あなたは横島クンやおキヌちゃんは覚えている筈よ。3歳の時にママと一緒に時間移動して私が20歳の時点に時間移動しているから」
私は写真を見つめる。バンダナの男の人はすぐ解った。彼が『よこちま』だ。時間移動で20歳の私に預けられた私を一生懸命世話してくれた。そしてハーピーに狙われた私を助けにきてくれた。巫女さんの女の子も思い出してきた。私に子守歌を歌ってくれたっけ。歌詞はよく思い出せないけど、とても安心する歌だったのは憶えている。
「この人がおキヌちゃん、それに『よこちま』・・・」
指で写真をなぞる。徐々に思い出が鮮やかに甦ってくる。

未来の私は紅茶を口にすると、急に改まって話を始めた。
「あなたにはとてもつらいことを言わなければならないの・・・」

(続く)

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