失策だ。
ひのめはややもすれば惨めに震えそうになる自分を、ぎゅっと抱き締めた。
失敗の象徴である、残酷な温度がゆっくりと熱を失ってゆくのを感じながら。
数多の試練にも耐えてきた自分だが、この失敗だけは我慢ならない。
何度経験しようとも、慣れることはないだろう。
そう。私は何度もこれに失敗している。
幾度となく挑戦し、破れ続けている。
それでもなお未来の勝利を疑わないことを、最後の砦としながら。
本当にその時が来るのか? などと、弱気な考えが浮かんだことがないでもない。
だが、そのたびに私は諦念を振り払ってきた。
まだ、絶望するには早すぎるのだ。
これから先も何度も挑むことになる試練に、今から負け続けていてどうするのか。
あらゆる術を尽くし、天に祈ることさえし尽くしてからでない限り、諦めは許されない。
そして。
この失策を取り繕うべく動き出す「奴ら」により与えられる、屈辱にも。
あの、私という存在のあらゆる鎧を剥ぎ取り、人としての尊厳を嬲り捨てるようなあの儀式にも。
私はいまだ絶望をせずに、耐え続けねばならないのだ。
さあ、覚悟は出来た。
「奴ら」に、失策を隠し通すことは出来ない。必ず嗅ぎつけるだろう。
ならば、進んで知らせてやらねばなるまい。
私は敗北こそしたが、それにより心が折れてはいないということを。
「奴ら」のもたらす屈辱にも、恐れなど抱いていないということを。
それは強がりかもしれない。虚栄かもしれない。
だがしかし、押し通せばそれは実体を持つ。
その祈りにも似た自らへの信頼を足場と定め、心をしっかり持つ。
未来の勝利を掴むため、常に前を見つめ続けることを心に刻む。
そして私は高らかに敗北を知らせる声をあげるのだった。
「ほわあっ! ほわっ! ほわあぁっ!」
「おわっ!? み、美神さん、ひのめちゃん泣きだしましたよ!?」
「ああ、もうそろそろだと思ってたのよ。さっき食事したし」
「と、いうと…」
「はいはい、おむつの交換しましょうねー。よちよち」
END
BACK<