「魔族には生まれ変わりは別れじゃないのよ」
「今回は千年も待ってたひとに譲ってあげる、パパ」
………………
…………
……
「って、譲れるかああーーーーーッッ!!」
私は咆哮した。ええ、断末魔砲も軽く吹き消せそうな勢いで。
ヨコシマの娘、というのも悪くはない。でもパパがいればママがいるわけで、今の所それは美神さんになる可能性が高いわ。今の私ならともかく、人間に転生して記憶も無くなる私があの美神さんの娘としてやっていけるかしら? 集めた情報によると私の転生体である『蛍ちゃん』はおとなしいタイプみたいだし(意味不明)。美智恵さんは美神さん以上の女傑だし、ヨコシマのご両親も話を聞く限りとってもすごい方々らしい。どんな家庭環境になるのかしらね。
…………。
私は自分の想像に恐怖した。
これは罰なの?
確かに私は自分から死に急ぐような行動をしたわ。よく考えればもっと良い方法もあったかも知れない。例えば私とパピリオがヨコシマの文珠で『合』『体』すればアシュ様どころかコスモプロセッサを破壊することも容易だわ。究極の魔体が出て来ても急所は分かってるから怖くはない。
………………
…………
……
って、今になっていきなり簡単かつ確実な解決策が思い浮かぶってどういうこと!?
まさか宇宙意思? 世界の理が私とヨコシマが結ばれることを拒否していたって言うの?
納得できないわ! 私は美神さんより、ううん世界中の誰よりもヨコシマのことを想ってるっていうのに!!
私は再び咆哮した。
「やり直しを要求するーーーーーー!!!」
直後、世界が暗転した。
「も……燃えてきましたっ! やっぱ無心より熱血っスよねっ!?」
――――はっ!?
ヨコシマの声?
それで気がついた私は、とりあえず周囲を観察してみた。どうやら平成5年度のGS試験の会場らしい。1年前……ヨコシマが資格を取った年ね。で、ここにヨコシマがいるということは……。
って、1年前!?
思わず叫びそうになったのを慌てて抑える。
というか、今の私はどうなってるの?
視線は動かせるけど体が動かせない、というか体がない。意識だけになって何かに憑依、いや宿っているみたいな感じね。で、今ヨコシマの声が真下から聞こえたということは……。
これはヨコシマのバンダナ!?
その瞬間、私は状況を理解した。
ここは過去、あるいは平行世界というやつで、あのとき私は何らかの作用でここに来て、かって小竜姫さんがつくった(?)心眼として転生(?)したのだ。多分私の最後の叫びを誰かが聞いてくれたんでしょうけどこれはちょっと戻りすぎ、というか何でこんなもの(?)に……。
「試合開始!」
「横島いきまーす!」
その声で私が我に返ったとき、ヨコシマは目の前の忍者風の娘に飛び掛ろうとしていた。
――相変わらずね(汗)。
それはともかく、確かこの娘は霊刀を持っていたはず。
『待ってヨコシマ! この娘刀を持っているわ!!』
とっさに念を送る。するとヨコシマはびくっと動きを止め、あわてて数歩下がって距離を取った。ヨコシマのことが知りたくて昔の事とかいろいろ聞いてたけど、まさかこんなことで役立つなんてね。言わなくてもかわせた筈だけどいらない危険を犯す必要はないわ。
「そ、それホントかバンダナ……!? ってゆーかお前喋れたのか?」
ヨコシマがやや錯乱気味な声で聞いてくる。
バンダナって呼ばれるのはちょっと面白くない。ちゃんとルシオラって呼んで欲しいけど、今の彼は私のことを知らないから仕方ないわね。その辺りは後で考えるとして、
『ホントよ。まあ私のことは勝ってからね。とりあえず今は戦いに集中しないと』
「……勝てるのか?」
不安そうなヨコシマ。大丈夫、おまえは私が守ってみせるわ、何度でも。
と言っても今の私にできるのは心眼としてヨコシマ自身の霊力をコントロールすることだけなんだけど。
で、今のヨコシマには文珠も霊波刀も無いのよね。この試験で霊気の盾を出せるようになったって聞いたけど、それでいくしかないかしら。『前の』心眼みたいにHなことささやいて煩悩上げさせるわけにもいかないし。
『大丈夫よ、私のヨコシマがあんな娘に負けるわけないわ』
それでもこれには確信がある。そう、かってアシュ様さえ出し抜いた彼がこんな所で終わる筈がないのだ。
「私の、って……(汗)」
ヨコシマが困惑顔をしている。いけない、今の私はバンダナになってたんだったわね。
『――って、来るわ! 避けて!』
「をぅっ!?」
合図のあと一向に動こうとしないヨコシマにしびれを切らしたのか、対戦相手の九能市さんが飛び掛ってきた。けっこう素早い動きだけど、これはヨコシマならかわせる!
ヒュンッ!
私の予想通り、ヨコシマは後ろに飛び退いて彼女の居合い斬りをかわした。ヨコシマは実際体力もあるし、反射神経と反応速度は超人的と言っていい。このくらいの相手なら何とかあしらえそうね。
「おや……? 私の居合いをおかわしになりましたね……」
「銃刀法違反ーーー!!」
ヨコシマが九能市さんの刀を指差して叫ぶ。しかし彼女は全く動じず、
「これは霊刀ヒトキリマル。ちゃんと使用許可が下りてましてよ」
「しっ、審判!?」
「それは刃ではなく霊力で斬る武器だ、違反ではない。安心して戦いたまえ」
「無茶言うなーーーー!!!」
ヨコシマが審判に向かってわめいているが、その間に九能市さんが刀を構え直し、危ない笑みを浮かべながら近づいて来ていた。
「実を申しますと私、生きた人間を斬るのは初めてですの。ああ、楽しみですわ……!!」
「あ……アブないやつ……」
ヨコシマは完全に及び腰になっている。うーん、これじゃ勝てるものも勝てないわね。
『大丈夫って言ったでしょ! 私……を生み出した小竜姫さんを信じられないって言うの!? とにかく次の攻撃をかわして、そしたらこれをぶち込むのよ!!』
本当は私を信じてって言いたいんだけどここは仕方ない。私は少々強い口調で念話を送ると同時に、ヨコシマの霊力を集めて彼の右手に霊気の盾を作り出した。直径20cm厚さ2mmくらいの六角形の板みたいなものだ。さすがヨコシマの煩悩霊力だけあって硬度は(人間の技としては)相当なものだし、ぶつけて爆発させればかなりのダメージを与えることができそうね。
「おっ……おう!」
私の言葉で覚悟を決めたのか、ヨコシマがようやくきちんと構えて戦う姿勢をとった。
「やっと真面目に戦う気になりましたのね……では行きますわよ!」
ヨコシマの手に浮かぶ盾を見て少し認識を改めたらしい九能市さんが、今度は真剣な表情で刀を振り上げて飛び込んで来る。
『正面から来る……横に避けて!』
私が言い終わる前に、ヨコシマは右に跳んでいた。そのまま体をひねって盾を投げつける。
ずがーん!
「ぐっ!」
ヨコシマはさすがに顔は狙わず脇腹にぶつけたのだけど威力はそれでも十分で、九能市さんはもんどりうって床に倒れこんだ。
………………
…………
……
九能市さんは大怪我というわけではないが、そのまま立ち上がってはこれなかった。
審判がヨコシマの手を上げる。
「勝者、横島!」
あとがき
はじめまして。ご多分にもれず、いろんなSSを読んでいるうちに自分でも書きたくなったクチです。一応試験中に身体復活(創造?)の見込みはつく予定です。方法はかなりアレですが。
……ええと、このくらいなら壊れ指定いらないですよね?
では。