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「忠雄の世界4(GS)」

テイル (2005-10-06 00:49)
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 久しぶりに訪れた温泉宿は、以前と同じように古くさく、そしてどこか懐かしい雰囲気を漂わせていた。俺は父方も母方も、祖父母って奴と会ったことがない。俺がまだ小さい頃に死んでしまったらしい。もし爺ちゃん達が生きていたのなら、田舎ってのはここと同じような雰囲気の場所なのかもしれない。……何となくそう思う。
 俺達が赤い絨毯が敷かれた屋内に足を踏み入れると、すぐさま宿の女将さんが声を掛けてきた。
「いらっしゃいませお客様!! 当宿によくお越しくださいました! お泊まりですか? お泊まりですよね!! 今一番いい部屋が空いてますよぉ!!」
 にこにこと笑いながら、怒濤のように営業トークを始める女将。
「あー、すいませんが」
「はい!! なんでしょう!! ……あら、あなたは」
 美神さんの顔を見た女将さんは、営業スマイル引っ込めると驚いたような表情を浮かべた。
「あなた、結構前に私たちが依頼したイケメンGSじゃないか。あらま、嬉しいじゃないかい。お客としてきてくれたのかい?」
「いえ、依頼なんですよ。ここに花椿さんという方がいると思うんですが……?」
 女将さんの勢いに苦笑しつつ、美神さんはそう言った。
「あれ、あのお客さんの……。ああ、そういうこと。そういえば話は聞いてたわ」
 納得したように頷くと、女将さんはある方向を指さした。
「この廊下を真っ直ぐ行って、突き当たりを右に行った部屋にいるよ。桐の間って所。後でお茶持って行くからね」
「いえいえお構いなく」
 軽く頭を下げると、美神さんは歩き出した。慌てて追いかける俺。
「美神さん、どういうことっすか? あの依頼、この宿の人達からじゃないんすか?」
 俺の疑問に、美神さんは呆れたような目を向けた。
「おまえな、もちっと依頼書はよく見ろよ。依頼人はこの宿に泊まってる人からだよ」
「なんでまた……」
 その言葉に俺は驚く。
 確かに俺は依頼人をしっかりとは見ていなかった。依頼場所がこの宿になっていたから、そう思い込んでしまった。
 しかし大体の所、依頼ってのは霊障に悩む人がするもんだ。この宿で霊障が起きているのなら、その対処に困った宿の人達が依頼をするのが極自然な話の筈である。
 その俺の疑問に、美神さんは苦笑して応えた。
「例の幽霊ってのが、若い女の幽霊だからさ。最初そのお客も宿の人に言ったらしいんだけど……客寄せになるって、取り合ってもらえなかったそうだ」
 俺の脳裏に先ほどの女将さんの姿が浮かんだ。
 ……言いそうだ。そういやおキヌちゃんの事件の時も、似たようなことを言っていた仲居がいたような……。
「まあ俺もそれ以上の詳しい話は知らないから、後は実際に話を聞いてからだな」
 そうこうしている内に目的の部屋に着いたらしい。美神さんが足を止めた。
 引き戸を拳で二三度軽く叩く。
「はい」
 返事はすぐに返ってきた。
 涼やかな声だった。むう、なんだか俺の本能が刺激されるぞ。……うむ、間違いない。若いねーちゃんだ。
 とんとんと、軽い足音が近づいてくるのが聞こえた。その足音から体重及び身長を推測。……体重四十六キロ、身長百五十二センチと見た!
「どちら様でしょう?」
 扉一枚隔てた向こうに、若々しい気配を感じる。どうやら思っていたよりも若い。十代だろう。しかも俺の本能が盛んに叫んでいる。
 このねーちゃんは美人だ……と。
「東京から来たGSです。依頼の件で参りました」
「まあ。少々お待ちになって。すぐに開けます」
 がちゃりと鍵がはずされると、扉がゆっくりと開いた。隙間から見えたたおやかな指先と、その肌の白さに唾を飲む。
 そして扉が開き、依頼人のねーちゃんがその姿を現した。
「………」
 俺はそのねーちゃんを見た瞬間、息を飲んだ。一瞬呆然とした。
 整った小さな顔に、透き通るような黒い瞳がこちらを見ていた。その目を見た瞬間、心臓を鷲掴みにされたかと思った。また色白な肌と対比するように、さらさらとした漆黒の髪が艶やかに胸元まで伸びている。昨今の日本女性の中、ここまで綺麗で潤っている髪を持っている人はまれだろう。また彼女のスレンダーで均整のとれた身体は薄手の白いワンピースで覆われていて、ただでさえ綺麗な黒髪がさらに映えていた。……ちょっと透けそうだったのがさらにグッド。
 まるで日本人形のような純和製の美少女だった。ワンピースを纏っているけど、雰囲気が日本人形純和製だ。間違いない。
 そう、特筆すべきはその雰囲気なのだ。今にも倒れそうな、それでいて芯が通っていそうな、しかしなんだか護ってあげなくちゃならないか……いや、むしろ俺を抱きしめてくれ???
 儚さと包容力を兼ね備えている……そんな雰囲気を少女が持っていることを、肌で実感できた。そう、彼女は究極の癒し系美少女なのである。そのスーパー可愛い極上美少女が、目の前にいる。
 迷うことなど、何もなかった。
「生まれる前から愛してましたーーーっっ!!」
 ……むしろ気づいたときには、脊髄反射で行動に移っていた。
 え、それでどうなったって?
 うーん。……直後に気絶したからよく覚えてないや。
 覚えているのは、すくい上げるようにして放たれたのであろう、美神さんの拳が腹にめり込む“音”だけ。
 後はなんか、川が見えたかもしれない……。

 二分後。
 驚異的な回復力をみせた俺は、依頼人とテーブルを挟んで座っていた。未だ憮然とした表情を浮かべる美神さんと、さっきから無表情で俺をじっと見続けているおキヌちゃんが怖いけど、身体は結構元気です。
「懐かしい光景を見たよ」
 俺の隣に座っていた忠夫さんが、笑いながら囁いた。
「俺の若い頃は美神さんにぼろぼろにされたもんだ」
「……普段は自粛してるんすけどね。特に美神さんの前じゃ」
「その割には鮮やかなダイブだったな」
「うう、仕方なかったんや。このねーちゃんが可愛すぎるのがいけないんやぁ!」
 呻いた瞬間、頭に拳骨が落とされました。
「横島……いーからちっと黙っとれ」
 あい。すんまへん。
「えー、すいませんね……うちの馬鹿が、アホタレな所をみせまして……」
「い、いえ……面白い方ですね」
 軽く頭を下げた美神さんに依頼人……花椿華江は微笑んだ。多少ぎこちなかったが、零れるような微笑みからは、先ほど俺がした行いをそれほど気にとめていないことが伝わる。
 優しく、懐も深いらしい。襲われかけたというのに、その清楚な雰囲気は欠片も損なわれていない。……襲った本人が言う事じゃないけど。
 まるで月の下に咲く花のように綺麗なその顔を、俺はじっと見つめた。見れば見るほど綺麗な人だ。しかも身に纏う優しげな雰囲気は、その容姿の美しさをさらに高めている。
 これほど極上の女性に、俺はこれまで出会ったことはなかった。外見的な魅力と内面的な魅力の双方が、信じられないくらい高いのだ。
「これじゃ暴走しても仕方がないな、うん」
 呟いた俺の頭に、再び拳骨が落ちた。
「黙れ」
 うい、すんません。
 無言で頭を下げる俺を、華江さんはくすくすと笑った。
「本当、面白い方ですね」
「恥ずかしい奴で申し訳ない。先ほどのようなことは、普段はないんですが……」
 美神さんが俺を睨んだ。
 しょうがなかったんや。このねーちゃん、いい女過ぎる……。
「とにかく、申し訳なかった。お詫びといってはなんですが、依頼料はサービスさせていただきますので……」
「まあ。いいんですのよ、そんなこと」
 華江さんはころころと笑い、俺を見た。
 その真っ直ぐな目に、怯む俺。
「あなたが悪い人じゃないことくらい、目を見ればわかります。少し、お茶目みたいですね?」
にっこりと笑ってみせる華江さん。
「………」
「………」
「………」
「……どうした?」
 微動だにしない俺を、忠夫さんがこづいた。
「俺ぁ、汚れてるんすねえ」
「何いってんだよ? 仮にもお前は、俺の過去だろ」
 忠夫さんはそういって、その表情に苦笑いを浮かべた。
「当然じゃないか」


あとがき
 遅々として進みませんなぁ……。
 仕方ないので、ゆるゆると進めます。

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