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「父の心配事〜訂正版・後編(1)〜(GS)」

さみい (2005-09-25 01:37)
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『父の心配事〜後編〜』がアップロード時の操作ミスか尻切れトンボになり、かつ修正もできず、別文書として分割・掲示しました。訂正前の後編の掲示は管理人さんにお願いして削除していただくつもりですが、ご迷惑をおかけしました
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「美神先生、大阪府警から御電話です」
田渕研究室に来て、早や2カ月が経ったある日。私は大阪府警に勤務している学生時代の友人から呼び出しを受けた。彼は法学部・私は理学部で学部こそ異なるが、何かと気が合い良く呑みに行ったものだ。その後私は事故に遭って特異な能力を得てしまい、私の方から疎遠になっていたが、先日の「空き家侵入事件」の際には私の身元を引き受けてくれた。その後二人で昔のように何軒もハシゴして呑みまくった。
「吾妻か?この前は災難だったな。俺は久しぶりに君と呑むことができて楽しかったが・・・。ところですまないが府警本部まで来てくれないか。君の名刺をもった3人の子供たちが中之島の図書館で騒ぎを起こして補導されている」
「ひょっとして阪神の野球帽の腕白そうな少年と色白の凛々しい感じの少年、肩までの髪の気丈そうな少女、尻尾が2本に分かれている三毛猫か?」
「そうだ。知り合いなら身元引き受けてくれないか。」
私は大阪府警へと急いだ。

「坂田、子供達はどこだ?」
大阪府警本部のロビー。受付で呼び出すまでもなく、たまたまロビーでばったり会った私達は子供達の話になる。
「今、2階のウチの会議室でウチの刑事と生活安全課の婦警がおやつを食べさせながら事情聴取をしている。頑固に黙秘を通してて、まだ名前しか判らん。教育委員会に照会中だから、その内に住所や親も判ると思うが、あの子供達について知っていることを全て教えてくれ。」
私は知っている限りの情報を教える。
「で、子供達は一体何をしでかしたんだ?」
「図書館で大学生2人とケンカになったんだ。一人は左手を骨折、もう一人は前歯を折っている。現場が閲覧室ということもあり、目撃者が多かったんで詳細は判っている。ウチも皆、子供達には同情的なんだが・・・」


1時間前。荘厳なギリシャ様式の荘厳な造りが特徴の府立図書館。その閲覧室で3人と1匹が一生懸命調べ物をしていた。学徒出陣したおばあさんの息子さんを探して、毎日学校が終わると図書館で兵士の手記や戦友会名簿・戦史などを閲覧していた。難しい漢字や言葉はミーくんに聞いた。調べれば調べるほど、子供たちは50年前の戦争に詳しくなる。そして軍隊が動くことの恐ろしさを知った。ごく普通の、良き父・良き夫・良き息子であった者たちが葉書一枚で駒となり、他国を蹂躙する。その国でも、自分たちのように平和に暮らす人々がいただろうに・・・。そして駒の多くは帰らぬ人となった。子供達が探している「お兄さん」も、おそらく、その一人。彼の部隊は南方で玉砕していた。生き残ったのは捕虜になった数名だけ。その中に彼の名は無かった。

このことを知ったミーくんは気落ちしていた。
赤ん坊の頃の「お兄さん」はよく泣く子だったが、ミーくんが頬を嘗めるとすぐに機嫌が良くなる赤ん坊だった。喋るようになるとミーくんが最初の友達になった。絵本が好きで、よくミーくんが絵本を読み聞かせてあげた。長じてからも彼はミーくんを友達として遇した。彼は旧制高校に進学する前、自分の夢をミーくんに話した。彼の夢は人を救う弁護士になることだった。多くの使用人にかしずかれる華族の跡取りの立場であるが、ミーくんが居たことで彼は本当にいい子に育った。入営の前日、盛大に行われた壮行会での彼の悲しげな顔をミーくんは忘れることができない。志半ばで、人を救うためではなく殺すために出征する。勿論、彼も戦況の悪化は認識している。学徒出陣が必要な程の戦力の不足。両親やミーくん・生まれ育った家を守るために出陣するのだと再三自分に言い聞かせていた彼の悲しみがミーくんにも伝わる。彼は千人針を背嚢に大事そうにしまう。母や女性の使用人たちが街頭に立って多くの女性から一針ずつ縫ってもらったものだ。千人の女性たちが縫った布切れが弾避けになるというのは、誰が考えても単なる迷信だろう。それでも皆一針一針丁寧に縫っていた。無事帰ってきてほしい、ただそれだけの想いを込めて。
ミーくんは「お兄さん」の千人針が役立っていることを祈るしかなかった。


閲覧室で大声で会話している大学生らしき2人連れ。
「この前の映画見たか?」
「真珠湾攻撃のやつだろ。バッタバッタ死んでいってスンゲエ面白かったな」
館外から持ち込んできたらしいハンバーガーを噛りながら、周囲の顰蹙を気にせず話を続ける。
「こっちにすごくグロイ本があるぞ」
ドリンクを飲んでいた方が書架から数冊の本を持ってくる。
「スンゲエ!」
「こっちなんか、こうよ!お岩よりひでえぞ!」
「じゃあ、こっちはガキのバーベキュー!」
彼らがハンバーガーを噛りながら面白がっている本は大阪の爆撃被害を記録した本と、広島の原爆の本。二人は焼夷弾による火災で焼け焦げた子供の遺体や原爆でケロイドだらけにになった女性の写真を見て、面白がっている。
「それじゃ、こっちはどうだ!」
二人は次々ページを捲りながら写真のひどさを競う。彼らの頭には犠牲者を悼む気持ちは全くない。戦争の惨禍を伝える為の本を面白がって眺める二人に対して、周りにいた人達から非難の視線が集まる。それを気にせず更に二人の競争は加速する。
「こっちもおもしれえぞ」
「ハハハ、こりゃすげえ」
二人のバカな会話が続く。

「君たち、いいかげんにしないか!」
隣の閲覧机にいた老人が堪らずに席から立って怒り出す。振動で机に立て掛けてあった杖が倒れる。老人がゆっくり杖を拾おうとした時、ハンバーガーの男がポンと老人の肩を押す。
ガシャン
老人が倒れる。
「閲覧室で本を『閲覧』してんだからいいじゃん。煩せえジジイだな」
老人は悲しい目をしながら立ち上がろうとするが、腰にいったのか上手く立てない。
「おじいさん、杖、どうぞ」
いつの間にか夏子が杖を拾って老人の側にいた。慌てて忠夫と銀ちゃんが老人の両脇について何とか老人を椅子に座らせる。
「「怪我ないですか?(ないっスか?)」」
忠夫と銀ちゃんが老人の体を心配する
「坊主・嬢ちゃん、ありがとう。」
老人は几帳面に忠夫たちに礼を言う。

一方では夏子が二人組に挑みかかる。
「おじいさん相手にひどいやないの!それに、アンタら、ホンマ人間か?!戦争で亡くなったり傷つきはった方の写真を見てゲラゲラ笑うような奴は今すぐここから出て行きなはれ!」
夏子に言われた二人組みは顔を見合わせる。ハンバーガーの男が夏子に向かって唾を吐く。ドリンクを飲んでいた男は左手に持ったままだった紙カップを閲覧机に置くと、夏子の胸ぐらをつかむ。いつの間にか忠夫と銀ちゃんが夏子の横に立ち、閲覧室が一触即発の空気に包まれる。
「煩せえガキだな。じゃあおまえたちは何で戦争の本を読んでるんだ?」
「学徒出陣したまま帰ってこないミー君の『お兄さん』を探してるの」
その時老人の顔に驚きが走る。閲覧室に居た図書館の常連たちも事情を悟り顔を曇らせる。猫又と小学生3人組が毎日図書館で戦史や戦友会名簿・出征兵士の手記を調べていたのはその為だったのか、と。どう考えてもその人は戦死されたのだろう。猫又と子供たちの懸命さを知るだけに正視できない。

「50年前だろ?!どうせどっかでのたれ死んでるよ」
先に動いたのはハンバーガーの男だった。左手で夏子の髪をひっぱり右手で夏子をひっぱたく。
即座に忠夫と銀ちゃん・ミーくんが反撃する。忠夫に飛びかかられた男が倒れ、忠夫は馬乗りになって殴り掛かる。銀ちゃんがもう一人の男の腹に蹴りをいれ、猫又のミーくんがその男の顔をその爪でひっかく。
閲覧室は騒然となった。

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