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▽レス始

「竜ノ妹 その3(GS)」

桜華 (2005-09-13 00:39)
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 ライカとパピリオ。二人を追った先は闘技場だった。いつか、美神が修行をした、横島が斉天大聖と戦った場所である。
 そこで、二人は対峙していた。

「パピリオ、ライカ! すぐにそこから降りなさい!」

 小竜姫が叫ぶ。だが、二人は師の言葉には従わない。
 互いに、静かに構える。

「二人とも!」
「なぜ止めなければなりませんか、師父?」

 構えは崩さず。ライカが問うた。

「これはし合いです。我々はただ、初見の相手の技量を比べているに過ぎない。そうだよな、パピリオ?」
「そうでちゅねぇ。素敵な素敵なし合いでちゅ」

 ぎらりと光るライカの笑み。同じく危険な笑みを持って、パピリオは彼女の言葉に追従する。

「そういうことです、師父。別にやましいことはしていない。止められる理由はありません。それとも、腕比べすら禁じると言うのですか? 修行場の名が泣きますね」
「そ、それは―――」

 意外な結託に、小竜姫は二の句が告げなかった。
 代わりに背後、横島が口を開く。

「―――試合なんだな。二人とも?」
「そうだ、横島忠夫。だから、邪魔はするな」
「来ちゃだめでちゅよ、ヨコシマ。邪魔したら許しまちぇんからね」
「別に邪魔はしない。試合ならな。ただ、それはあくまで試合に限りだ。決着がつけばそれで終わり。禍根はなし。それ以上は許さない。いいな?」
「お前に許可されるいわれもないが――まぁ、いいだろう。それで邪魔しないなら、約束しよう」
「ヨコシマ、そこで見といてくだちゃいね。アタシが、こいつをぎゃふんと言わせてみせまちゅから」

 そして―――竜と蝶の戦いが始まる。


  竜ノ妹
  その3


「―――ふん!」

 先に動いたのはライカだった。神速を持って踏み込み、神剣を一文字になぎ払う。
 屈むことで避けるパピリオ。両手の平には霊波。それを放射し、勢いを利用してバックステップ。攻撃と同時に距離を取る。
 霊波砲を避けるべく、ライカは跳んだ。飛翔は高く。不必要なほどに高く。格好の的。
 パピリオの頭上。ライカが迫る。霊波砲で迎え撃つパピリオ。

「甘いわ!」

 それを神剣にて弾き、ライカは逆に霊波を放った。

「そっちこそぉ!」

 一撃では弾かれる。ゆえにパピリオは連続して霊波を放った。
 それはライカの一撃を打ち砕き、さらに向こうの女へと―――

「いない!?」
「馬鹿が! 単純なフェイントに引っかかりおって!」

 霊波の嵐の中、しかしライカの姿はなく、そして背後よりの声。
 パピリオは、咄嗟に前に跳んだ。その頭上を薙ぐ一閃。

「くっ!」
「逃がさん!」

 下がるパピリオ。追うライカ。

「止めだ!」

 神剣を振りかぶるライカ。パピリオの顔に、笑みが浮かぶ。
 ライカの頭上。先ほどパピリオが放った無数の霊波砲が、今になって彼女に降り注いだ。

「なに!?」
「間抜け! こんなことも見抜けなかったんでちゅか!?」

 霊波砲にて足止めされるライカ。パピリオは距離を縮める。接近戦で勝負をつける!

「くらえ!」

 霊力をまとった右拳。それを振るう。
 霊波砲を回避しきった直後の硬直。ライカは剣の腹で受け止めるのが精一杯だった。
 怒涛の責めがライカを襲う。かろうじて凌ぎ続けるライカ。だが時間の問題だ。
 パピリオが接近戦を選んだ理由は間合いにある。剣の間合いは無手より広い。それを掻い潜って懐に忍び込むことがどれほど困難か。伊達に剣道三倍段などと呼ばれるわけではない。
 だが、懐に忍び込めれば? 確かに鍔を使った攻防は、剣術に存在する。だがそれは、あくまで緊急回避用だ。鍔迫り合いの技術、攻め込んだ相手を押し下げる技術だ。剣術の本領を発揮するには程遠い。対して拳は、その間合いでこそ本領を発揮する。
 無手の間合いならば。向こうよりも己に分があるのは自明!

「だあぁぁあぁあありゃあぁぁあぁあぁあぁあぁぁぁ!!」
「くっ! ―――が!」

 猛攻に継ぐ猛攻の末、ついにパピリオの蹴りがライカの顔面を打ち据えた。
 吹き飛ぶライカ。それを見て、しかしパピリオは舌打ちする。
 今の一撃は軽かった。まともに入っていない。あの女は自分で飛んだのだ。
 再び、間合いを広げるために。
 させない!

「食らえ!」

 わずかなためで最大の霊波砲を放つ。まともに受ければただではすまない一撃。躊躇はない。こいつを倒すと決めた。するわけがない。

「ぢ!」

 しかしライカはあろうことか空中で身をひねり、その一撃を避けた。
 パピリオ渾身の霊波砲は、ライカの腹の布を焼き裂いただけに終わる。
 ライカが地に立つ。間合いが開く。
 二人は、再び対峙した。


  ***


「をを! 下乳!!」
「どこを見てるんですか、どこを!?」

 試合の行く末を見守っていた横島と小竜姫。
 ゆっくりと試合を見物している横島に比べて、小竜姫はおろおろと落ち着かない。

「小竜姫さま、もう少し落ち着いたらどうです? 試合ってんだから、こっちが慌てたって始まらないでしょ」
「で、ですが、二人の殺気は試合のそれではありませんよ。このままじゃ、試合に留まらないかもしれません。いえ、元よりあの娘たちは試合のつもりなんかないのかも」
「そんときゃそんときです。こっちで乱入して止めればいい」
「そう簡単にいきますか!?」
「いきますって。なんたってこっちには、小竜姫さまがいるんだから。大丈夫ですよ」
「よ、横島さん………」

 自分をそこまで信頼してくれている。横島が事も無げに放った言葉に、小竜姫は赤面した。
 そんな外野の二人をよそに、試合場の二人は再びヒートアップしていく。


  ***


「しぶといでちゅね。いい加減くたばればいいものを」
「馬鹿を言え。様子見程度でくたばっては洒落にならないだろうが」
「へぇ。じゃ、さっさと本気を出しなちゃい。もっとも、結果は同じでちゅけどね」
「確かに同じだな。このままでも、ガキに仕置きをするくらい訳がない。が、まぁ、お前が思ったよりやるんでね。実力の差というものを、お見せしようかと」

 言って。ライカは、剣を収めた。

「なんのつもりでちゅか? 戦意喪失?」
「なに。武器を持ち変えるだけだ」
「は! 自分が弱いのは武器のせい? ほとほと呆れた奴でちゅねぇ」
「ふん。なんとでも言うがいい。私は元々―――こちらのほうが、性に合っているのでな」

 ライカが虚空から取り出した武器。それは斧。身の丈よりもはるかに長大な戦斧だった。

「ふぅん。それがお前の、敵を倒すための全力と言うわけでちゅか」
「そうだ。技術の比べあいなら、あるいは剣でもよかろう。だが、ただ倒すためならば、私はこれでこそ全力を発揮できる」
「いいでちゅよ。なにやっても通じないって思い知ればいいでちゅ」
「ふん。天狗になった糞ガキには、痛い目見て目を覚ませてもらおうか」

 会話はそこで終わる。それ以上は必要ない。
 後は力が語ってくれる。
 パピリオの強さと、ライカの強さ。
 果たして、上回るのはどちらの力か。

「「―――――――おああああありゃあああぁぁあぁ!!!」」

 二頭の獣が、吼えた。


   ***


「斧か。珍しいな。あれは小竜姫さまが勧めたんスか? ―――小竜姫さま?」

 横島が隣を見ると、小竜姫は険しい顔でたたずんでいた。

「止めないと」

 一言。決定事項かの様にそれを言う。

「どうして? まだ勝負はついてないっスよ?」
「ついたも同然です。アレを手にしたライカに、パピリオは勝てません。剣のときでさえ勝ち目は薄かったのに、斧となればもうお手上げですよ。怪我する前に止めたほうがいいです」
「でも、パピリオも意外とやりますよ? 子供だからって甘く見るのは――」
「二人の師は私なんです。どちらが上かは、私がよく知っています」

 小竜姫の視線の向こう。二人の距離が接近し――ライカが、戦斧を振り落とした。
 豪快な破砕音。闘技場の床が、衝撃と共に砕け割れる。

「んな!?」
「斧の利点は、その大きさと重量です。己の重みをもってして、全力で敵めがけて振り落とす。その破壊力たるや、剣の比ではありません」

 土煙が納まった向こう。衝撃波に身体を打たれたパピリオは、跳ね飛ばされた先で顔面を蒼白にしていた。

「で、でも、重いから軌道も制限されますよね? さっきみたいに間を縫って間合いを詰めりゃ――」
「あの破壊力を目の前にして? 彼女の一撃は、振るう間にも衝撃を空間に発させます。それは込めた霊力をインパクトの瞬間まで抑えきれないライカの未熟さゆえですが、それが返って、近づきがたい状況を生みます。パピリオには近づけないでしょう。そして一撃でも食らったら、パピリオもただではすみません。止めましょう。今ならまだ、無傷ですみます」

 小竜姫の進言に、横島は闘技場を見つめる。
 霊波砲を放つパピリオ。その顔を見て、彼は首を振る。

「………駄目っスよ、小竜姫さま。パピリオの目はまだ、諦めちゃいない」

 ならばまだ、決着はついていない。
 決着がつくまで手出しはしないと、自分はそう言ったではないか。
 なら、今はまだ見守るときだった。


  ***


 パピリオの放った霊波砲を、ライカの斧は難なく断ち切った。
 霊力の伝わりが、剣よりもスムーズに行われている。彼女は生まれついての戦斧使いだった。
 だが、アシュタロスが決戦用にと創り出した三体の魔族。その末女パピリオ。まだまだ、負けたつもりはない!

「でぇやぁ!!」
「ぬ!?」

 再び放たれた霊波砲をライカは斧で受け止める。その衝撃は、先ほどよりも重かった。
 なるほど。まだ上がるか? ―――面白い!

「やるじゃないか、ガキ!」

 お返しにと、ライカは斧を振るう。そこから派生した衝撃波一閃。パピリオに飛来する。
 高く跳躍するパピリオ。小さな回避では、余波の餌食になる。それは最初の一撃で理解している。
 ライカの頭上。そこから彼女めがけて渾身の一撃を振り抜く!
 戦斧を振り上げるライカ。振り落としと異なり、そこに重力の助けはない。全力なれど、最大の一撃ではない!

「ぬぐ!!」
「くっうう!!」

 拳と斧が打ち付け合う。互いに込めた霊力が火花を散らす。
 結果は互角。パピリオは吹き飛ばされ、ライカは体勢を崩して膝をついた。

「っつう〜。手がひりひりしまちゅ」
「こっちだって痺れた。どんどん出力が上がってる。お前、一体どれだけのパワーを秘めてるんだ」
「ふん。そっちこそ。さっきの一撃は最初の一撃と同じくらい、いや、それ以上の力でちたよ。全力を出すとか言っときながら、まだまだ隠してるみたいでちゅね」
「そうだな。それじゃぁ、本当の全力でいかせてもらう。覚悟はいいな?」
「んじゃ、こっちも本気の本気でやりまちゅからね。死んでも怨まないでくだちゃいね」
「ほざきな、パピリオぉ!」
「くるでちゅよ、ライカぁ!」


  ***


 拳が舞う。斧が舞う。二つの武器が、競演し共演する。
 二人とも、すでに全力だ。それなのに、一撃一撃、威力がどんどん高くなっている。
 二人とも、打ち合いながら成長している。
 その光景に、横島たちは目を奪われていた。

「………パピリオは」

 二人の弟子が成長する様を見ながら、小竜姫はポツリと呟いた。

「パピリオは、こんなにも強かったのですね」
「……そうっスね。俺たちが思ってる以上に、ずっとしっかりしてた」

 彼女の強さを見誤っていた自分を恥じる。己の弟子がここまで成長していることに、強い感慨を得た。

「ライカも。あんなにも強くなって。いえ、それ以上に、あんなに楽しそうに。いつも独りだったあの子が、あんなに楽しそうに笑ってる」

 小竜姫が鼻をすする。目元が、わずかに潤んでいた。

「―――横島さん、ライカの名前の由来、ご存知ですか?」
「いえ。なんなんスか?」
「竜が司るは雷と火。ゆえに雷火。あの子の父は、あの子が強く育つようにとそう名付けました。
 そして彼女がより美しく咲き誇るように。蕾が美しい華となるように。ゆえに蕾華。あの子の母親はそう名付けた。
 二つの意味を持ち、ゆえにライカ。竜神に最も愛された、忌み子の名前」
「忌み子?」
「………彼女は、竜神王の不義の娘です」
「な―――」
「誰にも言わないでください。ライカにも。知らぬまま一生を過ごさせる。それが竜神王の御意志ですから」
「………………わかりました。でも、なんで?」
「――――あなたはさっき、私がいるから大丈夫と。私を信じてくださいました。だから、私もあなたなら大丈夫と。あなたを信じてますから」

 にこりと笑う小竜姫に、横島は鼻を掻く。

「まいったな。過大評価っすよ」
「いいえ、妥当です。あなたが自分を過小評価してるだけです」
「そうスかねぇ?」
「そうっスよ。うふふ」

 横島の口調を真似て、小竜姫は笑った。
 しばし二人で笑いあい、闘技場を見る。

「―――楽しそうですね」
「ええ。とても、楽しそうです」

 二人が微笑みで見守る中。
 舞台は、最後の幕を迎えようとしていた。


  ***


 拳を食らい、斧を振るい、ライカは感じていた。
 ああ。なんて楽しい。
 ずっと続けばいい。終わりが来なければいい。
 そんなことは決してありえないのに、そう願ってしまう。できればずっと続けたい。永遠に。

「―――は」

 一人遊びは得意だった。遊んでくれる相手がいないのだ。独りで遊ぶしかないじゃないか。
 でも今、ここには相手がいる。こんなにも楽しい相手がいる。
 ああ。なんてなんて、楽しいんだ。

「―――はは」

 ずっと続けばいいのに。そうなればいいのに。
 終わることの、なんて悲しい。
 続けられないことの、なんて不甲斐ない。

「ははははははははははははは!!」

 だけどまだ、終わりじゃない。
 まだ続けられる。まだ終わらない。
 ならば続けよう。戦いの舞踏(ロンド)を。
 さぁ、舞おう。踊ろう。共に今を遊び尽くそうじゃないか!


  ***


 斧を避け、拳を放ち、パピリオは感じていた。
 なんて面白い。
 こんな楽しいこと、今までなかった。
 こんな面白いこと、今までなかった!

「あははははは! 楽しいなぁ、パピリオ!」
「ええ! 楽しいでちゅねぇ、ライカ!」

 本当に楽しい。
 アレを一撃でも受けたら死ぬのに、そんなことどうでもよくて。

「ほらほら、どうしたどうしたぁ? 動きが鈍くなってきたじゃないか。もうバテたのかぁ?」
「そういうライカこそ、斧のスピードが落ちてまちゅよ。重いの無理やり振るってるからでちゅ」
「無理なもんかぁ。まだまだいけるさぁ」
「そう願いまちゅけどね。ほぉら、足元がお留守でちゅよ!」
「っとぉ! はは、甘い甘い。隙を突くってのはこうやるんだよ、と!」
「なんのなんのぉ! こんなの隙のうちに入りまちぇんよ!」

 ただ憎くて始めた戦いなのに、そんなこともうどうでもよくて。

「お前さぁ、パピリオ。右に避ける癖どうにかしたほうがいいぞ。じゃないと先を読まれて斬りつけられる、ってね!」
「あっははははは! それは誘いって言うんでちゅよぉ! ほぉら、蛸が壷に入ってきまちたぁ!」
「壷ごと割れば問題ないさぁ!」
「そう簡単には割れまちぇんよぉ!」

 ただひたすらに、今が続くことを望んでいる。

「あっははははははは!! 楽しい! 楽しいよ、パピリオ! もっとだ! もっとだ!! もっとやろう! もっと続けよう!! いつまでもやろうじゃないか、パピリオぉ! あっははははははははは!!!」
「いいでちゅよ! もっとやりまちょう! まだまだまだまだ、終わらない! ずっとやろうじゃないでちゅか!! あはははははははははは!!!」

「「ああ〜っははははははははははははは!!!」」

 ただひたすらに。楽しかった。


  ***


 しかし、この世に永遠は存在しない。どれだけ望もうとも、終わりのときは来る。来てしまう。

「楽しかったなぁ、パピリオ」
「楽しかったでちゅねぇ、ライカ」

 やがて二人の体力は限界に達し。

「なぁ。最後にちょっと、賭けをしないか?」
「いいでちゅねぇ。なにを賭けまちゅか?」
「そうだな……負けたほうが、勝ったほうの言う事をひとつだけ聞くってのは?」
「なんかありきたりでちゅねぇ。でも、いいでちゅよ。それでいきまちょう」

 ライカは斧を振り上げ、

「じゃ―――いくぞ」

 パピリオは、拳を溜める。

「ええ―――いきまちゅよ」

 そして―――交錯。
 中空を、一本の斧が舞った。


  ***


「――――ん……」

 目が覚めると、見慣れぬ天井が見えた。

「ここ、は――――」

 ここはどこだ。あれからどうなった?
 最後の一瞬は混濁していて、結果がわからない。
 襖ひとつ挟んだ向こうの部屋。横島忠夫と師父の声が響く。

『いや、ごめんよ雨音。忘れてたわけじゃないんだ。ただ、ちょっと手が離せなくてな。ああ、そんな泣くなよ、な?
 馬鹿言うな、雨音が要らない子だなんて、そんなことあるもんかよ。あああ、俺が悪かったからさ、泣き止んでくれよ』
『あははは。雨音さんにかかっては、横島さんも形無しですね』

 師父の声は、とても楽しそうだった。
 それより、試合は? 決着はどうなった?
 疲労か傷か。身体が動かないことを疎ましく思いながら、なんとか首を回してあたりを見回した。
 隣にある布団。パピリオが、そこで眠っていた。

「あ―――――」
「あら? 目覚めましたか、ライカ」

 襖が開き、向こうから小竜姫が入ってきた。そのまま、ライカの隣に腰を下ろす。

「師父……」
「身体は大丈夫ですか? あれだけの戦いをしたのです。しばらくは安静にしておきなさいな」
「師父。試合は、どうなったのです? 勝敗は?」
「引き分けです。一撃を繰り出した後、二人とも気絶してしまったのです。ですから、勝敗はありません」
「……そう、ですか…………」
「………どうでした?」
「え?」

 意味のわからない質問に、ライカは振り向いた。
 向き直った先。小竜姫の優しい微笑があった。

「どうでしたか、試合。……楽しかった?」
「……最高でした」
「そうですか」
「……すみませんでした、師父。言う事を聞かずに」
「いいんですよ。私は、あなたとパピリオの成長ぶりが見れて、とても嬉しかったのですから」

 そっと、小竜姫がライカの髪を撫でる。
 それはまるで、仔を慈しむ母のようで。
 あまりにも暖かく、心地よかった。

「―――――認めまちぇんからね、アタシは」

 隣の布団から、声が生じた。パピリオだった。

「引き分けなんて認めまちぇん。決着は次回に持ち越しでちゅ。―――逃げるんじゃないでちゅよ?」

 蝶の言葉に、竜はくすりと笑った。
 嬉しかった。またやろうと言ってくれた。あの最高に楽しい戦いが、またできる。

「そっちこそ、背を向けるんじゃないぞ。ああ、いや。私は慈悲深い。犬小屋の隅でがたがた震えてるなら見逃してやらんでもないが」
「は。猫はコタツで尻尾巻いときゃいいんでちゅよ」

 ふん、と。憎まれ口を叩き合い、二人は顔をそむける。
 どちらの顔にも、同じ笑みが浮かんでいた。友人と交わした遊ぶ約束。それを楽しみにしているような、そんな笑み。

「あらあら」

 そのまま寝入った二人に、小竜姫は微笑する。
 それはまるで、仲の良い姉妹のようで。

『あああ。ごめんよ雨音ぇ。ほら、この通り。だからパパ大っ嫌いなんてそんな悲しいこと言うなよぉ』

 横島の情けない声が、襖の向こうから響いてきてた。


  ***


 妙神山から戻ってきた横島は、休日をリビングで雑誌を読んで過ごしていた。
 雨音の鑑定は終わった。ヒャクメが調べたところ、雨音は、神族の霊基構造を持ちながら、横島の眷属という状態らしい。
 メドーサは元竜神。転生した後は、だから魔族に堕天する以前の神族だろうと横島はあたりをつけていたのだが。転生の際に核となった霊基片が横島のものだったため、雨音は横島の眷属となって生まれてきたらしい。
 だったら意識を共有するのも無理はない、とはヒャクメの言。
 とにかくこれで、雨音がメドーサではないという実証ができた。神族としても、完全な転生体なら別人も同然。ブラックリストに入れることはないと断言してくれた。ヒャクメだけでなく小竜姫も言ってくれたので、横島としてはとても安心できている。やっぱり、ヒャクメだけじゃ不安だし。
 そうして二泊三日を、妙神山で過ごした。
 横島と、小竜姫と、雨音と、パピリオと、斉天大聖。ヒャクメ。そして――ライカ。
 とても楽しい二泊三日だった。パピリオに振り回されたり、修行だとライカに痛めつけられたりもしたけれど。楽しかったと断言できる。
 あれだけ互いを嫌っていたパピリオとライカだったが、試合の後にはすっかり仲良くなっていた。雨振って地固まるとは小竜姫の言。横島としては、むしろ夕暮れ河川敷で不良がタイマンした結果という印象を受けたが。
 ライカはこれから、妙神山に滞在すると言う。近いうちにまた行ってみるか。今度はみんな連れて。

 ぴんぽ〜ん

 そんなことを考えていると、インターフォンが鳴った。
 台所で返事をするケイに自分が出ると言い、玄関へ向かう。インターフォンを取ればいいのに、安アパートにいた頃からの習慣で、ついドアを開けてしまうのだ。
 そうして開いた玄関口の向こう。
 パピリオとライカがいた。

「―――――へ?」

 呆然としている横島に、ライカが口を開く。

「こんにちは。本日、隣に引っ越してきた者です。至らないところも多々ありますが、よろしくお願いします。あ、これ、引越し蕎麦です。皆さんでお召し上がりください。―――こんな感じでいいのかな、パピリオ?」
「いいんじゃないんでちゅか? ま、細かいことはいいでちゅよ。それよりそういうことでちゅから。これからよろしくお願いしまちゅね、ヨコシマ!」
「ま、なんだ。さすがに保護観察中のパピリオを一人で行かせるわけにもいかないのでな。私が保護者ということで着いてきた。よろしく頼む」

 今だ機能回復してない横島を脇に、ずかずかと上がっていく二人。

「ふっふっふ。元祖妹がついに来たでちゅよー!」
「まったく。付き合わされるこっちの身にもなれというんだ」
「なに言ってるでちゅか。人間界に降りれるって嬉々として付いてきたくせに。ま、ライカが味方になってくれたおかげで、小竜姫を説得できたわけでちゅけど」
「お前は考えが足りないんだよ。大戦の一味の一人が、監視もない自由行動なんて無理に決まってるだろうが」
「いやまぁそこは、いわゆる舌先三寸で」
「あれは駄々をこねてただけだ」
「ライカだって所詮は屁理屈だったじゃないでちゅか。なんとか勢いで押し切ったけど」
「勢を持って事を成す。師父から教わった言葉だ」
「それに自分がやられてどうするでちゅかね、小竜姫は」
「まったくだ。我が師ながら――と、パピリオ、台所にいるあれは誰だ?」
「あ、おお〜い、ケイ。遊びに来まちたよ〜」


「―――――――なんで―――――?」

 扉開いた玄関口で。
 横島はいまだに呆けながら、ただそれだけを口にするのだった。


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 初めての方は初めまして。そうでない方はお久しぶりです。
 こんにちはこんばんはおはようございます。パソコンがワードを認識しなくなってレポート手書き、もう寿命? な桜華です。
 竜ノ妹1〜3、いかがだったでしょうか? ルシオラと瓜二つな容姿を持ったライカ、どうだったでしょうか?
 この娘は、たかすさまとのチャットで生まれた奴でして。語呂をいろいろ考えてたときに出てきました。猫、犬もとい狼、狐、蝶、蜂、―――竜。
 最初は小竜姫をちっちゃくして幼竜姫にしようかと思ったのですが、オリキャラで。ルシオラそっくりと言ってみたらたかすさまがラフ画を描いてくださって。……ようやく、作品として登場させることができました、ライカ。
 しかし今回の1〜3、すでに七転八倒してます。当初は横島が戦闘する予定だったのですが。なんか横島をキレさせるよりも先にパピリオがキレましたw でも、この展開で良かったと思ってます。
 そして最高にハイってやつだぁーーーーー!!なお二人さん。これはもう、もろゲームの影響です。「ひぐらしになく頃に解 罪滅ぼし編」。BGMにこのゲームの音楽聞きながら書いてました。
 さて、こうして仲も良くなり、隣の部屋へ越してきたパピライカ。これから、二人は横島家と交流を深めていきます。今後は、ライカが横島たちを知る過程を書ければと思っています。
 それでは、今宵はこれにて。
 桜華でした。


  今回のBGM:(ひぐらしのなく頃に解 罪滅ぼし編より)見えない何かに怯える夜、彷徨いの言葉は天に導かれ
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 おまけ 〜惜しみながらも消した個人的な迷シーン?〜

(試合にて)
パ「ライカぁ!」
ラ「『様』をつけろよデコ助ヤロォ!!」
 ―――脳内ボイスが固定されちゃうので却下w


(ライカの由来を語るとき)
小「名は体を示します。パピリオが蝶の意味を持つように。小竜姫が、竜族の女であるように」
横「なるほど。だから小隆起か」
小「………横島さん? なにか言いました?」
 ―――惨劇が発生せざるをえないのでデリートw


(試合後、ライカが負けた場合)
 ちなみに賭けの件だが、翌日実行された。任務は、『小竜姫にペチャパイと叫ぶ』こと。結果、竜魔神と化した小竜姫によりライカはおろかパピリオまでズタボロにされた。横島が文珠を使ってなんとか鎮めたのだが、そのときのライカの驚きと尊敬の眼差しが忘れられない。結構いい気分な横島だった。
 ―――引き分けになったので削除


 以上でしたぁ♪

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