そこは暗いトンネルの中。美神除霊事務所の面々は、疾走する新幹線の上で九兵衛に追い詰められていた。
「俺の勝ちだ!!」
叫びと共に走り出す九兵衛。
「精霊石-!!」
美神は精霊石をぶつけようとするが、九兵衛の速さは精霊石が弾ける速度をも凌駕していた。
「しゃらくさい!!」
更なる加速に入る九兵衛の霊圧で美神の服が千切れてゆく。
「きゃ……!!」
その姿を見た横島は、美神を助ける為か、胸に目がくらんだかは定かではないが、ともかく精神を集中させる。その集中は横島の中に蓄えられていた神通力によって、超加速を生み、そのまま九兵衛の一撃を止めた横島は、振り向きざまに霊波光線を放ち、九兵衛を消滅させた。
(ありがとう、横島クン……そしてすまない……)
横島に礼を言いつつ、怪我を負った体を直しきれないことを謝る八兵衛。そのまま横島の体から抜け出そうとするが、
(む……しまった!! 最後の一撃を止めたときのダメージと不完全な回復のせいで横島クンの体が骨折程度ではすまない怪我を負ってしまっている……このままでは彼は死んでしまう……!! しかし私にはもう回復に割くような神通力は余ってないぞ……)
苦悩する八兵衛。今まで横島に掛けてきた負担と迷惑(大半は美神のせいのような気もするが)を考え、彼は決断する。
(しかたない。私が彼と融合することによって、彼自身の霊能力と肉体強度を上げ、回復させるしかない!! 私とて仏の一員、ここで彼を見捨ててなるものか!!)
そう思いつつ、八兵衛は横島と融合を始めた。
(不幸中の幸いだったのは、彼自身の潜在的な霊能力が高かったことか…… これなら力の尽きた私を受け入れても大丈夫だろう。すまない横島クン、最後まで迷惑をかける……)
そして、八兵衛は融合を完了した。
そのころ当の横島はというと……
「小錦が……小錦が~~ってあれ? 痛くないぞ?」
どうやら融合は無事副作用もなく成功したようだ。やはりこれは八兵衛の言っていた潜在的な霊能力の高さが要因であろう。原作でも彼は一気に成長したにもかかわらず、その力を受け入れていたのだから……
「あら、横島クン。あの韋駄天はどうしたの?」
と、問いかける美神。あれだけ韋駄天を弁護していた彼である。最後に礼の一言と、あわよくば何かくれてもいいだろうと思っているのだ。
……散々ヨコシマンを使って荒稼ぎしたのではなかったのだろうか?
「韋駄天っすか? ん~~もう帰っちゃったみたいですよ?」
融合したことにも気づかず答える横島。しかし気づかないのも無理はない。八兵衛は横島に出来るだけ負担をかけぬよう、まかり間違っても自我の変質などないように、静かに消えて行ったのだから。
ともかく無事除霊は終了した。その後帰還していく車の中で、
「そういえば美神さん。さっき言ってた、「便利なものは生かして使おうと……」って何のことです?」
「え!? な、なんのことかしら・・・・・・?」
などという会話があったかどうかは定かではない。
―この融合が彼の未来をどう変えていくか。それは誰にもわからない。しかし、確実に何かが変わったはずである。願わくば彼に優しい未来が来ることを……
しかしその彼が最初にやるべきことは、
「くっそ~~!! あの野郎、きっちり縫い付けてやがる!!」
Tシャツの8の字取りであろう。
あとがき。
初めまして。かっこうと申します。
今までは皆様のすばらしい作品を読ませてもらうだけだったのですが、何を思ったのか無謀にも初小説創作。実際に書いてみて、皆様の凄さがよりいっそうワカリマシタ……
産みの苦しみの吐露はこの辺にして、作品紹介のほうを。
この作品は私の処女作です。始めは心眼が生き残り・・・・・・から始まる小説にしようかと思っていたのですが、考えて見たらこの掲示板には、少し前に無事連載が完結した「心眼は眠らない」という大作があったことに気づき、路線変更。もし韋駄天があのまま横島と融合したら・・・・・を基本として、原作よりも強く、かっこよく、それでいて姑息で卑怯な彼を描けたらいいなと思っています。
考えを文章に起こすのは初めての事で、至らない点など多々あると思いますが、少しでもおもしろいと思っていただけたら、無事完結するまでお付き合いのほど、よろしくお願いしたします。