「タヌキさんだーっ♪」
むぎゅる。
そんな効果音が鳴りそうな感じで、子ダヌキ――改め、『ヨコシマ』は口を引っ張られた。
たしたしとその童女の手を叩くが、所詮は子ダヌキなわけである。
全然全くさらさら効果は無く、童女――『三神ひのめ』にいいようにされちゃっているわけであった。
ヨコダヌキの冒険/3
三神家に引き取られてはや三ヶ月。
首輪(横縞と書いてある)が縄を架け橋に杭とつながり、拘束をヨコシマに科している。
勘弁してくれ、と、ヨコシマはそう思うほか無かった。
確かに、前世――というしか無い――の知り合いと出会えた時は嬉しく思った。そのことは全くの事実にして唯一の真実。
が、往々にして理想と現実は落差が大きいものだ。
寝る時は基本的に外。
現在の季節は夏であり、子ダヌキとはいえ凍死するような状況でもない。
だが。
「ぐるるる…」
この同居人(の様な関係)が、問題だった。
隣で唸るのは、茶色の犬である。
額の辺りに十字の傷、たてがみのように長い首回りの毛、右前足だけが白いのが特徴のこの犬は、『西白』――と書いて、『ニシジロ』と読む。
この家における最古参である彼は、黎子の忠実な家来とでも表現するのが正しい立ち居振る舞いを見せていた。
なにしろ、12年を共に過ごしているのだ。
犬の言語は全く分らない(人の言語は分るし、自分の言葉も勝手に人語っぽく脳内変換はしているが)為、その内容は想像するしかない。
でも、今だけはきっちり解った。
即ち、『気に食わないんだよお前』。
「12歳の癖にこの野郎」
うるる、と唸ったようにしか向こうには聞こえないだろうが、別にいい。敵意は伝わる。
…ヨコシマとニシジロはしばらく睨みあっていたが、ふん、とニシジロが目を逸らしたことで終わりを告げた。
ヨコシマは、それが見逃されたのだと分る。
子ダヌキでは、成熟した大型犬に勝ち様は無い。
前世――『横島忠夫』の武器であった霊能力は使えないのだ。
正確には、最初出会った頃のシロのように口から霊波刀を出すことはできる。ただし、最高でも数秒程度。文珠など夢のまた夢だ。
使い方は忘れていないが、霊力の絶対量が無い。
「霊力さえきっちり使えれば、こんな奴…」
そう言って、じろり、とニシジロを見る。
家の方向を見る彼は、先程までの不機嫌さは無い。まるで門番――いや、姫君を守る騎士のようだ。
そういう所だけは、ヨコシマはこの犬を嫌いではなかった。
……前世、なんとなく似たよーな奴がいた気もするし。
そんな時、頭上から声が聞こえてきた。
「にゃー」
いや、猫の声だが。
たしっ、と無駄に宙返りして塀から降りてきたのは、真っ白い猫だ。
「にゃふー」
…やれやれ、といった感じで首を振るこの猫。
彼の名は、『ユッキー』。
半野良猫だが、一応この家の飼い猫だ。
「何の用だ、ユッキー」
そんな風に聞こえてくれることを祈って、鳴く。
ユッキーは納得したように頷き、器用に後ろ足だけで立ち上がり、虚空に向けて猫パンチ。
その様はまるでボクサーの様。やたら微笑ましいのは気のせいだと信じる。
…………暫く考えて、思い至った。
戦え、と言っているのだ。多分。
ヨコシマは、ふん、と家の方向を見る。
…後日。この猫が原因の事件が起ころうとは思いも寄らなかった――。
続く!
レスでキータッチが加速するふおんせすかです。ネタは少し停滞気味(3話で…)ですが。
今回はじめて前世をはっきり文章にしたような気がします。遅い。
次回辺りからストーリーが動きます。行き当たりばったりですが。
弧紺様からのレスでタヌキの鳴き方がおぼろげながらも分りましたが、犬と言葉が通じるか滅茶苦茶悩みました。
悩みばっかりですが、とにかくレス返し。
>ヒロヒロ様
時間軸は2199年とだけ考えているので+200年。京都が首都だった時間とほぼ同じです。確か。
待遇は基本的に犬と一緒。たまにひのめちゃんと一緒に寝たりしますが。(だから恨まれる)
>CC様
シロタマやピートなど長寿組はもしかしたら登場するかもしれませんが、他は殆ど動物です。
展開は非常に適当なので、因果が絡まりあって色々と変わるかもしれません(お茶濁し)
>弧紺様
タヌキに関する情報、ありがとうございました。
…やっぱり言葉は通じるようにするべきなのでしょうか。そのほうが楽なのですが…。
『ニシジロ』の名前の由来は、『西白』→『西城』→『西条』と言うわけです。
本編の中での『ニシジロ』という名前の由来については、いつか外伝でも書きたいところ。
こんな思いつきのような文章にレスをつけていただいた皆様、読んでもらった皆様、ありがとうございます。
続きます。