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「指輪ものがたり 第一話(GS)」

六条一馬+豪 (2005-06-30 04:27)
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梅雨のある日、美神オーナーは悩んでおりました。
急ぎの仕事の無い本日、他には誰も部屋には居られません。
移動の叶わぬこの私、人工幽霊壱号を除いては。


「なんとかして、横島くんの給料を上げてやりたいけど・・・・・・・・今更、ねぇ」


悩みの対象は、従業員である彼の昇給について。でも、彼女のお金好きな性格が邪魔をします。


「とはいえ、いくらなんでも今の収入じゃ・・・・・・う〜〜〜ん」


腕を組んで、更に首を傾げます。眉根は寄せられ、思考の海に沈んでいるご様子。
『昇給なんかしたらあのエロエロスットコドッコイを認めてるみたいで複雑』
といった所でしょうか、オーナー?


「認めてないわけじゃない、そうじゃないけど、でも、その・・・・・・」


彼女にしては珍しく、どうにも煮え切らない態度です。
前にも一度、オーナーは横島さんの時給を上げてあげた事がありました。
だったらまたあげてやりゃいいじゃん、そうお思いでしょ?
ですが、ほら、こういっては何ですが、皆様ご存知の『あの』美神さんですから。


「あーもー、なんであたしがアイツの事で悩まなきゃいけないのよ!!」


前触れなく、オーナーは怒り出しました。
それは突然降り出す、真夏の夕立が如し。


「そうよ! アイツがもっと役に立ってくれればいーのよ!
 そしたらアイツも来年卒業だし、ちゃんと正社員として雇用出来るし!!
 歩合でもなんでもいいから、それなりの給料払ってあげられるんだから!!!」


理不尽です。あれだけ使い勝手のあるアシスタントを顎で使っておきながら、理不尽この上ないです。


「それなのに全くアイツと来たら!
 全然セクハラは直らないわなーんも考えてないくせに妄想力だけは人一倍だわ
 いいかげん場数踏んで性根座っても良さそうなもんなのにちょーっとピンチになったくらいでぴーぴー喚くわ
 そのくせすこしいい女みれば上から下まで見境ないわ!!
 あーーーーーーーーーもーーーーーーーーーーー!!!!!」


・・・・・・・・すみません、そんなに理不尽でもなかったですね。訂正してお詫び致します。


「この前だってあの馬鹿ときたら・・・・・・・・あー、思い出したらまた腹が立ってきた!!」


オーナーはソファーからすっくと立ち上がると、脇にあったクッションを引っ掴んで
ああ、とうとうクッションに当たりはじめました。可哀相にクッション。いやむしろ私


「えーい、くのくのくのくのくのくのくのくのくのくのくの!!」


ぼすぼすぼすぼすぼすぼすぼすぼす、ぼすぼすのぼす

流石はオーナーです。テンションは上がっても奇麗なパンチで。
おお、左を散らしておいて死角からのレバーブロー。すごいすごい。


「あたしがどんっっっだけしばき倒しても、ぜんっっっぜん懲りないで!!」


ぼすぼすぼすぼす


「いっつもへらへらへらへらしたまんまずっと!!」


ぼすぼす、ぼす・・・・・


「ずっと・・・・・・」


ぼす、ぼす・・・・・ぼす・・・・・・・・


「ずっと、側から離れないし・・・・・・・・」


ぽふ


オーナーはソファーになだれ込むと、クッションに抱きついて顔を埋めました。


カッチコッチカッチコッチ


時計の針が無機質に時を刻み、梅雨の晴れ間の日差しがオフィスの空気をじわり、じわりと蒸していきます。
今年ももう、夏が近いんですね――――――――


「あーあ、もうぼろぼろじゃない」


クッションを抱いたまま、美神さんがつぶやきました。
あなたがぼろぼろにしたんですよ。


「ふふ、なんかアイツみたいね」


だから、いつもあなたがぼろぼろにしてるんですよ。


「ん、アイツみたい?・・・・・・・・・・そうよ!!」


突然、美神さんは何かを思いついてぱっと顔を上げました。


「アイツ根性だけはあるじゃない!!」


いや、あの、いくらなんでも根性だけっていうのは。
横島さん、結構優しい人ですし――――――――まあ、女性だけにですが。
それにほら、煩悩が絡むと時々凄い離れ業をやってのけたり、こう、いろいろ・・・・・・・・
すみません、ちょっとフォローしかねました。


「そうよそうよ! 何もアイツが自分で成長するのを待つ必要なんてないの!!
 欲しいものはどんな手を使っても手に入れるのが美神令子じゃない!
 アイツが頼りになってくれないんなら、私が頼りになる男にしてやればいいのよ!
 あんだけ酷い扱いしても平気なんだから、ハートマン軍曹並みにしごき倒しても平気に決まってるわ!!!」


酷い扱いって・・・・・・オーナーにも自覚ってあったんですね。ちょっとした新発見です。
ちなみに自分では気がついていないようですが、クッションを抱いたまま興奮してるので
ぼろぼろのクッションがさらにぐしゃぐしゃにされて、とうとう中の綿まで出てきました。
こういっては失礼ですが、ますます横島さんのようです。


「よし、そうと決まったら特訓よ!!!
 卒業まで徹底的にしごいて、勉強させて、1人前、いやさ特盛り汁だく3人前くらいのGSにしてやるんだから!!
 そしたらアイツも晴れてアシスタントから卒業、ちゃんとしたお給料を払ってあげた所であたしが気にすることもないじゃない?
 それが当たり前の事なんだから。あたしと別の仕事を任せれば取れる依頼も2倍2ばーい。
 美神霊能事務所の隆盛満月の如し、満ち足りて欠ける事なしってもんよ!!!
 おーっほっほっほっ! 完璧よ、パーフェクトなプランだわっ!! あたしってぱあったまいいー!!!」


えー、まあご意見も様々ございますでしょうが、ここはひとまずぐっとこらえて頂くと致しまして。
なにやら一人納得した美神さんは満足げに、こんどはちゃんとソファーに腰掛けました。


「そうね、あたしくらいとは言わないけど。 いや、もちろんあたし以上に稼いでもらえればもっといいんだけど」


テーブルからコーヒーを手に取ると、オーナーは何やら怪しい算段を始めました。
カップの側には一冊の雑誌が置いてあります。


「えっと・・・・・・・・アイツが3割であたしが7割として」


つい先ほどまで美神さんはその本に見入ってました。
そう―――――――――何故に美神さんが横島さんのお給料を上げる気になったか、おそらくはこの本が起因なのでしょう。
もちろん、一番大きな理由は横島さんの極貧生活を見かねてでしょうし、雇用者として将来のことも考えてるのでしょう。
ですが、先ほどからのやたらと起伏の激しいテンションをみるに、たぶんそんなに的外れな予想ではないと思われます。


「・・・・・・で・・・・・・が・・・・・・だから、そうすると3で割るから333万3千、ええい切りの悪い! 400万!!!」


飲みかけのコーヒーをぐいと飲み干した美神さんは
テーブルの上の本を手に取り、先ほどと同じページを開きました。


「そうよ、自分で月400万は稼いでもらわないと・・・・・・
 ×3の1200万・・・うーん、まあ、そんくらいなら納得してあげてもいいわね」


窓から滑り込んだ風が、亜麻色の髪を揺らしてほほをくすぐります。


「・・・・・・早く大人になってね、横島くん」


美神さんは心地良さそうに瞼を閉じると、初夏の陽気をいっぱいに吸い込みました。



「そうしたら私だって、あなたの事・・・・・・もっと・・・ちゃんと・・・・・・・・・」


ちゃんと―――――――――なんですか?美神さん?



「・・・・・・・・・」


・・・・・・・・・おや?



「すぅ・・・すぅ・・・・・・」


あらあら・・・・・・・・・
その後の言葉が、あなたの一番大事な気持ちでしょうに。
何も独り言でまで意地を張らなくても。
まあ、ずいぶんと気持ちが良さそうですから特別に許して差し上げましょう。

美神さんの膝の上で、風に煽られた雑誌のページがぱらぱらとめくれ
やがて美神さんの手が緩むと、とさり、と床に落ちました。
表紙には大きく『ジューンブライド』の文字。
はっきりと定かではありませんが、めくれていくページの中に
私は、きらきらと輝く婚約指輪の写真を見たような気がします。

美神さんは今、どんな夢を観ているのでしょうか?
ぼろぼろになった『横島くん』に頭を預けながら。


美神さんが幸せいっぱい妄想満開な午前を過ごしたその日の夕方。
横島さんに『セクハラ丁稚改造計画』を発表し、
それが元でとんでもない大げんかをすることになろうとは、
その時はまだ、誰も知る由はありませんでした。


梅雨間の日差しは、まだ、輝いています。

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